竜巻となったアリスは、隙だらけのキリングバッタの首元へと上空から突撃する。

「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 それがラストアタックとなり、キリングバッタは地上に落下して消滅した。

「なかなか強力なスキル持ってるな」

 ユニークスキルだろうか?

 これまで使わず温存してきたのは、使う隙がなかった、もしくは消耗が大きいせいだろう。

 まあ若干あっけない幕引きだったが、この終わり方ならアリスも文句は言わないはず。

 自分の大技で倒したわけだからな。

「あんた、なんて戦い方してんのよ!」

 とか思ってたら、アリスに怒鳴られてしまう。

 なんてってのは、ダメージを無視して攻撃し続けたことだとは思うが……

「ん? 俺が不死身なのは知ってるだろ?」

 俺が不死身なのは、アリスももう知っているはずだ。

 それとも、岡町たちは俺のことを彼女に教えていないのだろうか?

「いや、それは聞いたから知ってたけど……齧られまくって、血みどろのあの戦い方はさすがに……」

「あの戦い方は、さすがにドン引きよねぇ。いくら不死身っていっても……」

 こっちにやってきた岡町まで、人の戦い方にケチをつけてきた。

 確かにスマートな戦いとはほど遠いが、不死身を生かした効率的な戦いだと自負している。

 まあ、第三者から見たらちょっとグロイかもしれないが……命のやり取りなんて、そういうものだろうに。

「まあ見た目はともかくとして……不死身っつっても、痛みはあるんだろ?」

「ええ、まあ」

 幸保の言う通り、もちろん痛みはある。

 さっきもくっそ痛くはあったし。

 だがまあ、慣れてしまえばどうってことはない。

「あんまり無茶な戦い方してると、体は大丈夫でも心がいかれちまうぜ。何事もほどほどにな」

「はぁ……」

 一万年間、生きるか死ぬかの生き方をしてきた俺にとって、今さらな話である。

 狂うなら、もうとっくに狂っていることだろう。

 まあそれを話すわけにもいかないので、俺は生返事をしておいた。

「その心配ならいらないぞ。悠の【不老不死】のスキルは、精神にも影響しているようだからな。要は精神の方も不滅なのさ。だから痛みや苦しみで発生するストレスで、心が壊れたりする心配はない」

「そうなのか?」

「なんだ。自分のことなのに気づいていなかったのか? いくら慣れているからといって、普通の人間が激痛に耐え続けてケロッとしてられるわけがないだろう」

「確かに言われてみれば……」

 改めて考えてみると確かにそうだ。

 今回の戦いぐらいはまあともかくとして、エターナルダンジョンの攻略はとんでもなくきつかったからな。

 いくら叶えたい願いがあったとしても、精神力の強さだけであれだけの長い時間、痛みや孤独に耐えて正気でいられるはずもない。普通に考えれば。

 なのでアングラウスの言う通り、【不老不死】には精神を不屈にする効果もあるのだろう。

「改めて強烈なスキルだな、【不老不死】ってのは。まあ取りあえず、余計なお世話だったわけか」

「まあでも、人と一緒に行動する時はあんまり無茶はしない方がいいわよ。見てるこっちの血の気が引いちゃうもの」

「気を付けます」

 実際問題、人と組んでというのはほとんどないので、気にする必要はないかな。

 アングラウスは一切気にしないだろうし、ぴよ丸もまあ大丈夫だろう。

 何はともあれ、これで俺もCランクだ。



「Cランクの登録をお願いします」

 俺はCランクダンジョン、『草むら』攻略の証である紋章を受付の女性に見せ、攻略者証を提出する。

「ランクアップ登録ですね。かしこまりました。えーっと、お名前は……あっ」

 攻略者証に書かれた俺の名を見て、営業スマイル全開だった受付の女性が表情を変える。

「しょ、少々お待ちください」

 そして内線を使い、どこかに連絡を取った。

「何か問題でも?」

「ああ、いえ。支部長が、顔様とぜひお話したいとのことでして」

「……」

 内容はまあ、考えるまでもないだろう。

 例のニュースになった、レジェンドスキルの突破方法についてだ。

 攻略者を管理する組織なのだから、関連の情報に興味を持つのは当然のことだ。

 そして権力や権限を持つ者が、それを利用してなんとか情報を得ようとするのも、至って普通のことである。

「すぐに支部長が参りますので」

「わかりました」

 そんなことで『少々お待ちください』なんてやってないでサッサ仕事しろと言ってやりたい気分ではあるが、俺が来たら支部長に連絡するのも彼女にとっては仕事なのだろうと思い、止めておく。

 上に従うしかない末端である人間に、文句を言うのは理不尽以外の何物でもないからな。

「どうも初めまして、顔様。わたくし、この支部の責任者をさせてもらっているかつらと申します」

 カウンターの奥の扉から出てきたのは、見事なバーコード状の禿げ頭をした、人の良さそうな笑顔のおっさんだった。

 まあ頼んでもないのに勝手にやってきて、自分の目的のために挨拶してくる奴が、いい人なわけもないとは思うが。

「俺に何かご用ですか?」

「実は……折り入ってお話しさせていただきたいことがございまして。もしよろしければ、少々お時間いただけないでしょうか?」

 明らかに突き放す感じで尋ねたのだが、支部長は気にした様子もなく、朗らかな笑顔で用件を伝えてくる。

 まあ支部のトップにまで上がった人間だし、ちょっと突き放した程度じゃ効かんか。

 無視して去ろうにも、まだランクアップの登録は終わっていない状態だからなぁ……

「お話というのは……例の情報をお伺いすることではございませんので、ご安心ください。どうかお話だけでも聞いていただけませんでしょうか?」

 俺が渋い顔をしていると、支部長がそう言って頭を下げた。

 レジェンドスキル突破に関して聞きたいんじゃないのなら、いったい何が話したいというのだろうか?

「わかりました。でも、手短にお願いします」

 それがちょっと気になったので、取りあえず話だけ聞くことにする。

 まあ違うと言っておいて、実はやっぱり情報のことって可能性もあるが。

「ありがとうございます。では、こちらにどうぞ」

 支部長に応接室に案内され、勧められるまま俺はソファに腰をかける。

「それで? お話というのは?」

「はい。実は、顔様にお会いしたいという方が当支部に来られまして」

 携帯の番号を変えて、俺と連絡を取れなかった奴らが、最寄りの支部に仲介役を頼んだわけか。

 結局、情報関連の話じゃねぇか。

「本来なら、当支部ではそういった案内や顔つなぎはいたしません。ですが、事情が事情のお方でしたので」

「事情?」

 事情がある? いったいどんな事情だ?

「顔様は、十文字昴様のことはご存じでしょうか?」

「もちろん知っています」

 世界ランキング二位の人物だ。当然知っている。

 そうか、彼女か……

「先日、当支部にいらっしゃいまして。どうしてもと、頭を下げられたのです。彼女はその……スキルの反動で、寿命の問題がありますので」

 他のレジェンドスキル持ちの奴らは、仮にデメリットをなくせなくとも死ぬわけではない。

 それに対して、十文字はそれが命に直結していた。

 だから支部長も気を利かしたというわけだ。

「私にも、彼女と同じぐらいの娘がおりまして。なので放っておけなかったと申しましょうか……どうか彼女と、一度話し合いの場を設けてはいただけませんでしょうか?」

 桂木が頭を下げた。

「……」

 十文字の命を救うって話は、以前アングラウスとしたことがある。

 レジェンドスキルのデメリットの突破はできないが、もし上手くいけば、俺の力で彼女を延命させることは可能だろう。

 だがここでわかりましたと答えたら、噂は本当ですと答えるようなものだ。

 協会の支部長にそう宣言するのは、さすがに戸惑われるが……俺がガンガンランク上げてる時点で、まあ今さらか。

「わかりました。ただし、今日この場であった話は他言無用でお願いします」

 一応口止めはしておく。まああんまり意味はないだろうが。

「もちろんです! ありがとうございます!」

 俺は十文字の連絡先を聞き、Cランクに登録された攻略者証を受け取ってから支部を後にした。

「速攻で向かいます!」

 十文字昴のスマホに連絡すると、近くにいるらしいので、すぐ会おうという話になった。

 先に着いた俺は、待ち合わせの場所に指定した公園のベンチに座って彼女を待つ。

「滅茶苦茶テンション高かったな」

 電話越しの十文字は、明らかにハイテンションだった。

 残り数年の寿命が延びるかもしれないわけだから、気持ちはわからなくもない。

 ちなみに、待ち合わせを外に指定したのは、アングラウスがいるためだ。

 ペット可のカフェとか、そうそうないからな。

 まあ一応こいつは姿を消せるのだが、十文字と話してみたいそうなので、こうして外で待ち合わせているというわけだ。

 あれ、でもそういや……

「お前って、確か人間の姿にもなれたよな?」

 初めてこの時代で会った時、アングラウスが黒髪の女性の姿をしていたことを思い出す。

「ああ、なれるぞ」

「じゃあ別に公園じゃなくても良かったわけか」

 最近はずっと猫のままだったので、うっかりしていた。

 まあ今さら場所を変えるのもアレだし、別に公園が駄目というわけじゃないからいいか。

「来たようだぞ」

 青髪でショートカットの女性が、公園の入り口から入ってくるのが見えた。

 十文字昴だ。

 彼女はシャツにスパッツという、いかにも活発そうな身軽な格好をしていた。

 立ち上がると十文字は俺に気づいたようで、笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる。