これは彼女の持つユニークスキル、【魔剣ソード精製プロデュース】によって生み出された剣だ。

 発動者の込める魔力次第で威力が増すこのスキルは、十文字のでたらめな魔力によって、とてつもない破壊力を秘めた武器を生み出す。

 ちなみに、彼女が唱えた文言に特に意味はない。

 ライブ配信を見ている視聴者に向けての、ただのパフォーマンスである。

「冷たい炎に抱かれて眠りなさい! 【クイーンズスラッシュ】!」

 十文字は、瀕死のフルアーマー・ミノタウロスバトラーに突っ込み、跳躍から強力な斬撃スキルを発動させる。

 【クイーンズスラッシュ】は、女性限定で習得できるコモンスキルだ。

 コモンスキルではあるが、Sランクダンジョンボスのレアドロップであるスキルブックでのみ手に入る入手難度の高さからか、その破壊力はユニークスキルに匹敵すると言われている。

「ぶもおおぉぉぉぉ!!

 フルアーマー・ミノタウロスバトラーは両手を頭上で交差し、その一撃を受けようとするが──

 十文字の必殺の一撃は、まるで粘土のおもちゃを引き裂くかのように、ミノタウロスの巨体を真っ二つにしてしまう。

「お……おぉ……」

 きょうじんな生命力を持つミノタウロスバトラーも、さすがに真っ二つにされたのでは助からない。

 引き裂かれたその肉体は青い炎に包まれ、凍って地面へと崩れ落ちる。

「かっちー!」

「へーい!」

 撮影していた分身が本体に駆け寄り、十文字たちはセルフハイタッチする。

 その行動になんの意味があるのかと問いたくなるが、まあ若者特有の、気分が盛り上がっての行動なのだろう。

「みんなー、Sランクダンジョンの攻略を見てくれてありがとー!」

 十文字がスマホに──その向こうにいるであろう、ライブ配信の視聴者に向かって声をかける。

 平日の昼間にもかかわらず、タブレットに表示された同時接続視聴者数は百万を軽く超えていた。とんでもない視聴者数だが、十文字の『売店』チャンネルは登録者数二千万人を超えるメガチャンネルであるため、これでも控えめな方だったりする。

「後で編集した動画も上げるから……ん?」

 タブレット上に表示された画面は、滝のようなコメントの流れで埋め尽くされていた。

 常人ではまともに読むこともできないほどの、でたらめなコメント数。だが、超人と呼んで差し障りのない十文字には、その全てが見えていた。

 そしてコメントの中にある情報に気づき、彼女は目を見開く。それは──


『レジェンドスキルのデメリットを消す方法が見つかった』というものだった。



◆◆◆



 私が覚醒したのは、十六歳の時だ。

 その際に手に入れたレジェンドスキル【十倍】は、明らかに破格の効果を持っていた。

 そして破格であったがゆえに、そのデメリットもまた、致命的なものとなっていた。


 ──寿命が十分の一。


 当時の私は、当然だが、そのデメリットに絶句した。

 何せ、自身が三十まで生きられないと宣告されたわけなのだから、当たり前の話である。

「よし! 決めた!」

 数日。両親や友人に相談できず、学校も休んで、ぼうぜんしつで過ごした私は一つの答えへと辿り着く。


 嘆いたところでどうにもならないのなら。

 長く生きられないのなら。

 それならば、激しい閃光のように生きよう、と。


 誰にも負けないほど、輝く人生を送り。

 そして世界に私を、十文字昴の名を刻みつけてやる。

 そう決めた私は、自分のことを両親や友人たちに話し、そして学校を辞める。

 短い人生を攻略者として駆け抜けると決めた私には、学校での学びはもう必要なかったからだ。

「ぜひうちに!」

「いやいや我がギルドに!」

 攻略者協会に登録すると、すごい数の勧誘があった。

 寿命が短いとはいえ、破格の効果を持つレジェンドスキル持ちは、彼らには魅力的に映ったのだろう。

 だが、私はそれらを全て断った。

 少ない人生を周りに合わせていたのでは、目指すいただきには駆け上がれないと思ったからだ。

「はぁ!」

 初めてのダンジョン探索に挑み、そこで遭遇した魔物を、私は苦もなく剣で切り捨てる。

 レジェンドスキルによる圧倒的なステータスもあったが、祖父が剣術家かぶれで、子供の頃から剣術を習わされていたのが大きかった。

 まさか、嫌々やらされていたあれが、こんな形で役に立つとは思いもしなかったことだ。

 ソロ攻略者としての活動は順調に進んでいく。

 レジェンドスキル【十倍】の効果は素晴らしい。

 ステータスの爆増。レベルアップのしやすさ。一を聞いて十を知るような学習能力。

 さらにこの【十倍】は、レベルアップ時のスキル習得率にも影響していた。

 レジェンドスキルやユニークスキルと違い、コモンスキルはレベルアップ時に取得できるようになっている。

 まあ、レアアイテムのスキルブックを使っても習得できるけど、それは置いておこう。

 一般的にスキル取得は、レベル二十から三十に一つ程度の割合と言われているが、【十倍】はそのコモンスキルの取得率も十倍にしてくれていたのだ。

 おかげで私は、数レベル上がる度にスキルを取得することができた。

 ソロだとやることが多いので、大量のスキルを取得できるのは本当にありがたい。

 何せ、スキルの数は汎用性に直結するから。

 そしてダンジョンでの狩りに慣れてきた私は、ユニークスキルの【分身】を使って自らを動画に収め、配信サイトであるヨロチューブに投稿するようになる。

 自らの生きた証を残すために。

 ちなみに、チャンネル名は私の代名詞とも言えるレジェンドスキル、【十倍】をもじって、売店にしておいた。

 親しみやすい、いい名前でしょ。



◆◆◆



 ダンジョン探索は好調。

 順調にレベルとランクが上がっていき、チャンネル登録者も、もりもり増えていった。

 さらに、Aランクダンジョンボスからレアドロップである特殊なタブレットを入手し、それ以降はライブ配信にも手を出すようになる。

 それが受けてか、登録者数はうなぎ上り状態に。

 投稿動画は数あれど、高ランクダンジョンのライブ配信というのは、ほとんどないのが大きかったようだ。


 攻略者生活四年。

 気づけばチャンネル登録者数は二千万人を超え、私は協会が発表している世界ランキングでは、二位に名が載るようになる。

 生活も充実しており、正に順風満帆だった。

 だったが……

「うぅ……はぁ……く……はっ!? 夢か……」

 だが、時折私は悪夢にうなされるようになる。自分が死ぬ夢だ。

 どれだけ順調だろうと、私の残りの人生は、恐らくもう五年も残ってはいない。

 刻一刻とタイムリミットが近づくにつれ、悪夢を見る頻度が増えていく。

 ……怖い。

 今消えても、これだけ有名になったのだから、皆は私のことをきっと暫くは覚えてくれているだろう。

 それにこのまま順調にいけば、いずれ私が最強の攻略者になることだって可能なはずだ。

 これはある程度満足できる結果と言えるし、そこに不満はない。


 ──でもやっぱり怖かった。


 死ぬのが怖くて怖くて、仕方がなかった。

「泣き言を言っても、しょうがないよね」

 私はそれまで以上に、一心不乱にダンジョン攻略に打ち込む。

 死への恐怖を振り払うように。

 もちろん、そんなものはただの誤魔化しでしかない。

 だが、それでも私は走り続けるしかなかった。

 だってどうしようもないことだから。


 ──そんな私に、一筋の光明が差す。


「みんなー、Sランクダンジョンの攻略を見てくれてありがとー! 後で編集した動画も上げるから……ん?」

 それは迷宮と呼ばれる、Sランクダンジョン攻略後の視聴者からのコメントに含まれていた。

 最初はまた、たちの悪い悪戯いたずらコメントかとも思ったけど……それを肯定するコメントが滝のように流れたことで興味を持ち、私はすぐにネットでそのことを検索する。

 すると──


『レジェンドスキルのデメリットを消す方法が見つかる!』


 というあおり文句が、ネットの検索一覧にずらりと並ぶ。

 レジェンドスキルのデメリットが消せる。

 それは正に衝撃的な情報だった。

 もしそれが本当だったなら、私の残りの寿命を延ばすこともできるはずだ。

「よし! 行くしかないよね!」

 ひょっとしたら、間違った情報の可能性だってある。

 でもここで動かないなんて選択肢はない。

 私は早速、顔悠という攻略者の情報を集めだす。



 どうやって調べたのか知らないが、あの後スマホが鳴りっぱなしで、俺は番号を変える羽目になっていた。

 もちろん、内容はギルドからの勧誘や、情報購入の問い合わせだ。

 その中には、海外ギルドからのものまであった。

「顔様、お時間の方、少しいただけませんでしょうか」

 その原因を作ったカイザーギルドのエリアマネージャー、柏木豊が、ニュースに載った翌々日に、ごつい男を連れて俺の家を訪ねてきた。しかも満面の笑顔で。

 いい面の皮だよ、全く。

「カイザーギルドからのお誘いは、お断りしたと思いますけど?」

「顔様も、もうご存じかと思われますが……どうやら当ギルドから顔様の情報が漏れてしまったようでして。そのお詫びと、そのことで発生すると思われる被害を防ぐためにも、ぜひ我がギルドに所属していただけないかと。本日はその打診に伺わせていただきました次第です」

「被害ですか?」

「日本では考えられないことですが、海外なんかですと、レジェンドスキルの突破方法を得るためなら手段を選ばない……そう、非合法な真似を平気でするような組織が存在しています。顔様は、今後そういった組織に狙われるリスクが発生するかと」

「そりゃ怖いですね」

「情報の出元は、我々カイザーギルドです。不法行為ではないとはいえ。そう、不法行為ではないとはいえ。道義的に考えた場合、我がギルドで顔様を保護するのが妥当かと思いまして」

 不法行為ではない部分を、柏木が無駄にアピールしてくる。

 まあ確かに、別に不法行為ではないな。

 名誉を棄損するようなものならともかく、スキル関係の情報を第三者に流してはいけないなんて法律はないし。

「それでカイザーギルドに入れと?」

「はい。それが現状、最もベストかと。他の国内のギルドでは、顔様を守り切ることは難しいと思われますので。情報ろうえいの失態を挽回する意味を込めて、契約金は前回の二倍用意させていただいております。どうかご再考を」

 百億じゃねぇのかよ!

 と言いたいところだが、百億払えるなら、そもそもこんな小細工はしてないわな。

 それにしても、人んの玄関先でペラペラとよく喋る奴だ。

 まさか交渉が上手くいって、そのまま家に入れてもらえるとか厚かましいことを考えてないだろうな?

「必要ありません。お引き取りください」

 俺は柏木の交渉に、ハッキリとノーを突きつける。

 何せ俺には、最強の用心棒がいるからな。

 カイザーギルドのちゃっちいなど不要である。

「へ?」

 俺の答えを聞いて、柏木の笑顔が『え? こいつ何言ってんの? 意味わかんないんですけど?』といった感じの間抜け顔に変わる。

「聞こえませんでしたか? カイザーギルドの庇護はいらないと言ったんです」

「い、いやしかし……顔様は軽く考えているかもしれませんが、海外のギルドは本当に何を仕出かすかわからない相手なんですよ。百億なんて巨額を払って、情報を円満になんてことには決してなりません。ですから……」

「結構です。お引き取りください」

 話が終わったので玄関を閉じようとしたら──

「不死身だからって、なんでも自分の力でどうにかできるって思わない方がいいぞ」

 それまで黙って柏木の横に立っていた男が、ドアに手をかけてそれを邪魔してくる。

「なんのつもりだ?」

「不死身で殺せないからって、高をくくってるみたいだが……相手を拘束して、延々拷問を続けるって手だってあるんだぜ?」

 面白い冗談だ。

 アングラウスを倒して、俺を誘拐できる奴がいるなら見てみたいものである。

「問題ないんで、扉から手を放してくれるか?」

「問題ないなら、玄関扉ぐらい自分の力で閉じれるだろ? その程度もできないんじゃ、自衛は夢のまた夢だぜ」

 男は玄関扉から手を放そうとしない。

 こちらを見下したように見ているので、そこそこランクの高い攻略者なのだろう。

 なので、今の俺が全力で引っ張っても扉を閉じるのは恐らく無理だ。

 まあ仮にできたとしても、攻略者同士が引き合いなんてしたら、家の扉がぶっ壊れてしまうからしないが。

「顔様。危険な海外のギルドや組織から身を守るためにも、ぜひご再考を」

 営業スマイルに戻った柏木が、しつこく勧誘してくる。

 やってることは完全に押し売りだ。

「やれやれ……おいアングラウス、こいつらを追い払ってくれ」

 俺の呼びかけに、アングラウスが猫の姿のままでこちらにやってくる。

 それを見て──

「ははは。おいおい、まさかその猫に言ったんじゃないだろうな? 俺たちを追い払えって」

 男が笑う。

 まあ笑ってられるのも今のうちだけだ。

 すぐに思い知ることになるだろう。

「死んだり、怪我をさせたりしない感じで頼む」

 アングラウスには加減するよう頼んでおく。

 ダンジョン内とかならともかく、玄関で殺人などしてもらっては困るからな。

 当然、大怪我させるのも駄目だ。

「やれやれ。面倒な頼みをしてくれるな」

「猫が喋った!? こいつ使い魔か!?

「悪いけど頼むよ」

 無理と返ってこなかったので、手段はあると判断する。

「仕方ない」

 アングラウスが、面倒くさげに尻尾を地面に叩きつける。すると──

「ひぃぃぃぃぃ……」

「あ、ぁぁ……」

 二人の様子が激変した。

 男はドアから手を放し、恐怖に目を見開いて、体を震わせながら後ずさりする。

 柏木に至っては、その場に尻もちをついてお漏らしした。

 ……人の家の玄関前で、漏らすなよな。

 取りあえずドアがフリーになったので、俺は閉じてからアングラウスに尋ねた。

 俺にはこいつが何をしたのかさっぱりだ。

「どうやったんだ?」

「なに、殺気を放ってやっただけだ。あの二人にピンポイントにな」

 魔竜の殺気か。そりゃ、一般人っぽい柏木じゃ耐えられないわな。

 漏らすわけだ。

「なるほど……そいつは器用だな、まあこれからもあんな感じで頼むよ」

「面倒くさい頼みだな。ゴミは始末した方が手っ取り早いだろうに」

「なんでもかんでも、殺して終わりってわけにはいかないんだよ」

 あからさまに相手が殺しにかかってきたなら、正当防衛も成り立つだろう。

 だがさっきぐらいので殺してたら、俺が刑務所にぶち込まれることになってしまう。

「まあでも……母さんや憂の場合は少し強めにやってくれて構わない。最悪、殺すことになってもいい」

 二人には、アングラウスの分身が見えないようにくっ付いている。

 本体ほどの力はないそうだが、それでもレベル五千相当だそうなので、どんな奴らが来ても問題なく対処してくれるだろう。

 とはいえ、手段を制限してしまうと万一のこともあり得た。

 なので二人の警護に関しては、制限は緩めにしておく。

 何かあってから後悔するのは、もう真っ平だからな。

「さて……それじゃあぴよ丸を叩き起こして、ダンジョンに行くとするか」


 次に向かうのはCランクダンジョンだ。