第五章 百億の男
「んまんまんまんまんまんま……」
ぴよ丸がマヨネーズを
その姿を見て思う。
「こいつ絶対太ったよな」
と。
元々丸かったぴよ丸は、この数日で劇的に丸味成分を増していた。
間違いなく、こいつは太ってきている。
「生まれたばかりの成長期だから、大きくなっているだけだろう」
ベッドで寝転ぶアングラウスは、タブレットを弄りながら、問いかけた俺に興味なさ気にそう答えた。
他人事だな、全く。
俺と融合することで健康被害は出ないってお前が言ったから、こいつにマヨネーズを好きなだけ食わせてるわけだが?
まあ太ってもなぜか健康な人間はいるので、ぴよ丸もその類の可能性は高いが。
「美味い! マスター、もう一杯!」
「黙れデブ」
昼食にマヨネーズ二本もすすっておいてまだ欲しいとか、完全なるデブマインドである。
「ななな! なんじゃと! ワシはぽっちゃり系女子じゃ! デブではなか!」
「はいはい、どっちにしろ打ち止めだ。買いに行かないともう家にはねーよ」
「なんじゃと! それは一大事じゃ! スーパーへ急がねば! モードチェンジ! ファイヤーバード!!」
端が炎になった羽を、ぴよ丸が羽ばたかせる。
その羽ばたきは、初めての頃とは見違えるほどに力強く彼女の体を飛翔させた。
具体的には三十センチぐらい。うん、まあ初期と大差ないな。
「ファイヤーウィング! ファイヤーウィング!」
本人は気合を入れて羽ばたいているのだろうが、全くそれ以上、浮かびもしなければ進みもしない。
綺麗なホバリング状態である。
「なんでレベルが三十個も上がってんのに、ホバリングしかできないんだよ」
ぴよ丸のレベルは、あのDランクダンジョンで三十個も上がっていた。
まあレベル一だったから劇的に上がるのは当然のことなのだが、それだけ上がったにもかかわらず、その成長の跡は全く見えない。
「そんなことはないだろう。前より浮いているし、レベルアップ前ならもう墜落してた頃だ」
「まあ確かに」
「ファイヤーウィング! ファイヤーウィング!」
初めて飛ぼうとした時は一瞬でスタミナ切れを起こしていたが、今のぴよ丸にその様子はない。
そう考えると、一応成長してはいるようだ。
「ま、浮くだけで上手く飛べないのは、バランスの問題だろう。短い羽と丸い体だからな。後、太ってるというのもある。まあ、成長すれば自然と飛べるようになるだろう」
結局、お前も太ってるって思ってるんじゃねーか。
「まあ……勝手に飛び回られても困るし、今はこれぐらいでちょうどいいのか」
こいつはフリーダムだからな。しかし……
「ファイヤーウィング! ファイヤーウィング! ファイヤーブゲッ!?」
羽ばたくのはいいのだが、雄叫びがうるさくて
なので、引っ掴んで黙らせる。
「ぴよ丸。飛ぶのはいいんだが、その叫ぶのはなんとかならないのか?」
「難しい注文じゃ! じゃが、そこまで言われたなら善処しようぞ!」
「そうしてくれ。それと、マヨネーズは後で買いに行くから夕飯まで我慢しろ」
「馬鹿な!?」
「いいから融合だ。繋ぐの手伝え」
現在は三つ目(ぴよ丸の命は含まない)を接続中である。
本当は、二つ目の命の慣らしにはもっとかかるはずだったのだが、ぴよ丸と融合したのがいい方に影響したのか、早々に次のステップへと進むことができていた。
その接続に関しても、ぴよ丸に手伝わせることでかなり期間を短縮できそうだし。
やかましい奴ではあるが、なんだかんだで役に立っているんだよなぁ。こいつ。
「やれやれ……マスターは、ワシなしじゃなんもできんのじゃな。仕方ない! この女ぴよ丸にドンと任しんしゃい!」
「ああ、感謝してるよ」
「ただ一言だけ言わせてもらう! 融合ではなくミラクルドッキングじゃい!」
「ああ、はいはい」
ぴよ丸のよくわからないこだわりに、俺は適当に返した。
「そういえば、なぜ勧誘を断ったんだ?」
命を繋いでいると、アングラウスが寝そべってタブレットを弄りながら聞いてくる。
午前中、岡町と幸保が家に訪ねてきて、俺を姫ギルドに誘ってきたのだが、俺はそれを断っている。アングラウスにはそれが不思議だったのだろう。
「手っ取り早くエリクサーを手に入れる機会だったろうに」
「まあな」
岡町たちの話じゃ、エリクサーは相当値上がりしているようだった。
相場だと、現在十五億だそうである。
回帰前も値上がりしていたこと自体は知っていたが、当時は働くのに必死すぎて値段の確認をしていなかったので、まさかそこまで上がっているとは夢にも思わなかった。
二人が勧誘に出した条件はそのエリクサーだった。
現在Dランク(証を使って協会で更新済み)である人間にとって、それを契約金代わりにもらえるのは、間違いなく破格の条件と言えるだろう。
けど、俺はそれを断った。
契約するには、少々問題があったからだ。
「ま、お前がいるからな。もしギルドに入ったら、ユニークスキルでもなんでもないのがバレちまう」
大手ギルドなら、新規メンバーの能力鑑定は間違いなく行われるはずだ。
そうなると、一発で嘘がばれてしまう。
そしてその場合、アングラウスはいったいなんなんだってことになるのが目に見えていた。
「余計なトラブルを抱えて、お前に暴れられても敵わないからな」
アングラウスは、今はおとなしくしている。
だが周囲が騒いで騒動になった時、それを我慢してくれるとは限らない。
所詮、人ならざる化け物だからな。
こいつが暴れだしたら、周囲にどれほどの被害が出ることか……
「なるほど」
「ま、十五億より値上がりしてもなんとかなるさ。ぴよ丸のおかげで時短できてるしな」
アングラウスの初回レアドロップ確定もあるので、まあ楽勝だろう。
「ん?」
アングラウスと話していると、チャイムの音が響いた。
誰かが家を訪ねてきたようだ。
「ぴよ丸は作業を続けといてくれ」
『マヨネーズイズジャスティス!』
元気よく返事が返ってくる。何言ってるのかよくわからんが、まあたぶんイエスって意味だろう。
「はい」
玄関を開けると、七三頭のスーツ姿の男性が立っていた。
「突然のご訪問、失礼いたします。わたくしこういう者でして」
男から名刺を手渡される。名刺にはカイザーギルド、エリアマネージャー
「先日は、うちの滝口が大変ご迷惑をおかけしたようで。そのお
協会での滝口の件で例の誠意、要はお金を持ってきたようだ。
しかし金を渡すだけなら、別に時間なんていらないだろうに。
ポンと渡してバイバイするだけなら、三分とかからないわけだし。
「ええ、まあ大丈夫です」
「さようですか。では立ち話もなんですので、近くにカフェがありましたのでそちらへ参りましょう」
なんでわざわざカフェ?
何かするとして、パッと思い浮かぶのはこの前の一件を口外しない旨の誓約書を書かせるとかか。
まあ大手ギルドからしたら、人の首をへし折ったなんて噂は好ましくないだろうからな。
俺の口を封じたいと思っても不思議はない。
「はぁ……」
いいから金だけ寄越せというわけにもいかないので、俺は戸締りをして、柏木と一緒に近所のカフェへと向かう。
「こちらは当ギルドからの誠意になります。どうぞお納めください」
カフェで席に着き、注文を通したところで、分厚い封筒を差し出される。
封筒の中を確認すると、帯付きの札束が二セット入っていた。二百万だ。
人様の首をへし折った慰謝料としては、激安と言える。
だが俺は不死身だ。
滝口もそれを知って暴行しているので、扱いとしては治療費や後遺症のケアがない、ただの骨折の示談ってことなのだろう。
足元を見られてる気もするが、大手ギルドに睨まれてまで騒ぐほど不当な額でもない。
まあそのあたりも考慮して算出しているのだろうな、カイザーギルド側は。
それが容易く透けて見えるあたり、誠意のせの字も感じない対応なわけだが……
「わかりました。これでお互いなかったということで」
騒いでもなんの得もないので、俺はそれを受け取って終わりにする。
「そう言っていただけると助かります。ところで……失礼ながら少し調べさせていただいたところ、顔様はまだギルドに所属されていないようで」
調べたことに関しては、文句を言うつもりはない。
そもそも調べなければ、俺の所在だってわからなかっただろうしな。
「ええ、まあ……」
しかし、何か話があるのだろうとは思ったが、まさか勧誘だったとはな。
正直、レベルの上がらない俺を、大手がスカウトするメリットがあると思えないんだが?
もちろん、俺の最終的な強さを知ってれば話は変わってくるが……
彼らがそんなことを知っているわけもない。
「もし顔様がよろしければ、我がカイザーギルドにぜひ加入していただきたいのですが?」
「俺をですか? 俺なんかを勧誘しても、カイザーギルド側にメリットがあるとは到底思えませんが?」
「ははは、ご謙遜を。うちの滝口を制圧できるほどのお方が、何をおっしゃられます。顔様なら、カイザーギルドで十分やっていけますよ」
大手ギルド所属とはいえ、滝口はまだ育成途中のDランクでしかない。
しかもその攻撃特化のユニークスキルは、不死身である俺相手だと、持ち味を発揮しづらいものだ。
その条件で滝口を制圧できた程度じゃ、どう考えても大した評価には値しないはず。
それでも勧誘するってことは、やっぱ命を使ってのパワーアップを知ってるってことか?
いや、待てよ。ひょっとしたら岡町たちのように、俺がレジェンドスキルのデメリットを突破したと考えている可能性もあるな。
冷静に考えると、その可能性の方が高い気がする。
「まさか。俺なんか、低ランクダンジョンで細々やるのが精いっぱいですよ」
「何をおっしゃいますか。不老不死の肉体を持ち、さらに……そのデメリットを無視して成長までできる貴方なら、うちの看板を背負うに足るお方と期待しておりますよ」
やっぱ、デメリットを無視できていると思っているようだな。
「契約条件も、破格のものを用意させていただきましたので。ぜひ書類に目をお通しください」
柏木が書類を出して、スッと俺の方に差し出した。
正直、ギルドに入るつもりは
内容はざっくり言うと、十年契約で契約金は十億。自己都合の脱退は、契約金の三倍の違約金を俺が支払うことになり。さらにスキルの情報などは、全て詳細に開示する必要がある。
というものだった。
「……」
書類に目を通し終えた俺は、店員さんが持ってきてくれたアイスコーヒーを口にする。
「いかがでしょうか?」
ドヤ顔でいかがと言われてもなぁ……
三大ギルドのくせに、十五億相当のエリクサーを提示した姫ギルドより契約金が少ないんだが?
しかも契約書にあるスキルの詳細を開示ってのは……要は、レジェンドスキルの突破方法を教えろってことだろ?
その上で、違約金もかなり高額ときてる。
姫ギルドの勧誘の後だからか、カイザーギルドの提示した条件が果てしなく残念に思えて仕方ない。
まあどっちにしろ断るつもりだから、どうでもいいっちゃいいことではあるんだが。
「大変いいお話なんですが」
俺は契約書を柏木の方へと返した。
「条件面が不服のようでしたら、もう少し勉強させていただきますが」
どれだけ勉強しても、レジェンドスキルの突破方法に関係する条項は消えないだろう。
カイザーギルドのトップはレジェンドスキル持ちなので、どう考えてもそっちが勧誘のメインだろうし。
なので当然答えはノーのままだ。
まあその条件がなくても、イエスとはならないが……
「いえ、条件云々ではなく。個人で細々やっていく方が性に合っているので、申し訳ありません」
「……そうですか。まあ無理強いもできませんので、仕方ありませんね」
あっさり引いたな。もっと食いついてくると思ったのだが、拍子抜けだ。
まあこちらとしては、その方が楽なのでいいが。
「では、ここからはビジネスのお話を」
「ビジネス?」
柏木の言葉に眉を顰める。
俺は別に商売をやっているわけではないので、ビジネスと言われてもピンとこない。
「はい。ぜひ情報を売っていただきたいと思いまして」
ああ、なるほど。
俺を誘えないなら、レジェンドスキルを突破した方法だけでもってことか。
「ずばり……我々が求めているのは、レジェンドスキルのデメリットを突破する方法です。その情報を、ぜひ十億で売っていただきたい」
情報に十億……丸々契約金と一緒じゃねぇか。
値段が一緒だと、情報以外の俺の価値がゼロって言ってるのと同じなんだが?
死ぬほど失礼な発言である。
本気で交渉する気があるのか疑いたくなるレベルだ。
「ふむ……柏木さんは勘違いされているようですけど、俺はデメリットを突破できていませんよ。レベルは相変わらず一のままですし」
「ははは、ご冗談を。レベル一の一般人と大差ない人間に、うちの滝口の足を折ることなんてできませんよ」
まあ確かに。レベル百近い奴が、油断していたとはいえレベル一に骨を折られるなんてことはあり得ない。
普通なら、だが。
取りあえず、理由が必要なので、サラッと概要だけでも伝えるとしよう。
師匠から教わった技術について。別に知られても困るってわけでもないからな。
それにそもそも、俺以外じゃまともに扱えない力だし。
「それは火事場の馬鹿力。そのすごい版を使ったからですよ」
「火事場の馬鹿力……ですか?」
「ええ。火事場の馬鹿力を、技術として昇華されたものを使ったんです。その出力も、普通の火事場の馬鹿力とは比べ物になりません。ああでも……その分反動が大きいんで、不死身である俺以外が使った場合は高確率で命を落とすことになりますが」
最後に死ぬと付け加えたのは、じゃあその技術を教えてくれと言わせないためだ。
一発芸の自爆技のために、わざわざカイザーギルドも大金を払ったりはしないだろう。
「というわけで……持っていない情報なので、お売りすることはできません」
これで納得してくれれば万々歳なのだが……まあそうはいかないよな。
柏木は、これでもかと
「なるほど……この額では、情報は売れないというわけですか」
どうやら彼は、俺の断りを値段の
まあ実際、情報があったとして、それをしないのかと言われればあれなので、俺の理由を端から無視するのなら、柏木の判断は妥当と言えなくもない。
「いえ、冗談抜きで情報はないってことです。なので、仮に目の前に百億積まれたとしても、こっちとしては売りようがないんですよ。残念なことに」
「百億ですか……確かに貴重な情報ではありますが、さすがにそれは欲張りすぎではありませんか?」
百億は仮の話だったんだが、柏木は百億出せと受け取ってしまったようだ。
「いや……百億ってのは、どれだけ出してもって意味で……」
「わかりました。ここは一旦引き下がりましょう」
柏木が俺の言葉を遮り、席から立ち上がる。そして──
「後日、改めて伺います。ですが……その時は恐らく、顔様はノーとは言えないでしょう。では、失礼します」
そう脅迫じみた捨て
追いかけようかとも思ったが、止めておく。
恐らく聞く耳を持たないだろうし。
「全く、勘弁してくれよ」
誤解されたまま終わってしまった。
しかも次は断れないとか言ってやがったし……あの野郎、何をするつもりだ?
雰囲気的に『百億以上ご用意しました!』じゃないのだけは確実だが。
「面倒くさいことになっちまったな」
カイザーギルドは大きな組織である。
そんな所を敵に回せば、絶対ろくなことにはならない。
「仕方ない。あんまり気は進まないが……」
荒事で俺が痛めつけられるだけなら、大した問題ではない。
痛みには慣れているので、無視して後々報復すればいいだけだ。
問題なのは、その矛先が家族に向いた場合である。
そうなった場合、今の俺じゃ阻止するのは難しい。
「あいつに頼んでみるか……」
だが俺の中で、大手ギルドが相手だろうと軽く対処できそうな奴が一人、いや、一匹だけ心当たりがあった。
そう、魔竜アングラウスだ。
「あいつは俺との再戦を望んでるからな。横槍で強くなることに集中できないって言えば、たぶん力を貸してくれるはずだ」
最悪、あいつに暴れてもらえばカイザーギルドの壊滅も難しくはないだろう。
まあもちろん、それは本当に最悪の場合の話だが。
「あいつに母さんや憂のガードについてもらえれば、命のストックもあるし、よほどのことがない限り二人は大丈夫なはず」
そう結論を出して席から立ち上がったところで、俺はあることに気づく。
「あいつ、支払いしてやがらねぇ」
柏木とのやり取りの結果に比べれば、それは極些細なことだ。
さっき受け取った二百万から、ちょろっと払えばいいだけのことでしかない。
そうは思っても、なんかイラっとする。
ひょっとして、俺って器の小さい人間なんだろうか?
いや、そんなことないよな?
◆◆◆
「ふぅ……」
三つ目の命の接続が終わり、俺は一息ついた。
回帰前に戻るにはまだまだ先は長いが、とにかく今は地道にやっていくしかない。
『マスター! 祝いのマヨネーズを所望じゃ!』
「わかったよ」
俺がマヨネーズを袋から出して封を外すと──
「アイラブマヨネーズ!」
ぴよ丸が俺の体から飛び出してきて、そのままベッドの上に転がる。
立ち上がろうとさえしないその体形は、限りなく球体に近く、語尾に『ぶひぃ』とか付きそうな感じがすごい。
……ますます太ってきたが、まあ気にしないことにしよう。
融合さえしていれば健康被害はないはずだから。
「うまうまうまうま」
片手で持ち上げ、その嘴にマヨネーズの噴出口を突っ込んでゆっくり絞ってやると、ごくごくと喉を鳴らしながら、ぴよ丸が美味そうにマヨネーズをすする。
こうやってる時はまあ、可愛らしくはある。
そう、黙っている間だけは可愛いのだ。
「悠。面白いネットニュースが載っているぞ」
「ん?」
アングラウスがタブレットの画面を肉球で叩く。
俺は何かと思い、その画面を覗き込んだ。すると──
『レジェンドスキルのデメリットに回避方法が!?』
という見出しの画面が目に飛び込んできた。
「こりゃあ……誰かが発見したってことか?」
「その誰かが問題だな。記事を見てみろ」
「なっ!?」
俺は記事に目を通し絶句する。
なぜならそこには、レジェンドスキル【不老不死】の所持者である顔悠──つまり俺が、デメリットの回避方法を発見したと書かれていたからだ。
「リーク元は……カイザーギルドか」
記事には、カイザーギルドが十億で情報の購入を試みたが袖にされ、百億請求されたと書いてある。
「吹っ掛けすぎとか、金の亡者と書かれているな」
記事には多くのコメントが寄せられていた。
貴重な情報なので、それくらいの価値はあると書かれていたりもするが、そういうのは極少数だ。
そのほとんどが批判コメントで、百億も要求するとか正気の沙汰じゃない、的なものがずらっと並んでいる。
「完全に悪者だな」
「それはまあ、どうでもいい」
有象無象の一般人になんと思われようがどうでも良かった。
面と向かって何かされるわけでもないからな。
だが、問題はデカデカとネットニュースになったことだ。
「マスター! もう一本!」
ぴよ丸が空気も読まず、お代わりを求めてきた。
無視するとぎゃーぎゃーうるさいので、仕方なくもう一本マヨネーズを与えてやる。
「はぁ……厄介なことになったな」
「何が厄介なんだ?」
「ネットニュースの一面に載ったからな。間違いなくレジェンドスキル持ち連中の耳にこのことが届いちまう」
突破方法があるなら、彼らはその情報を喉から手が出るほど欲するはず。
レジェンドスキルの持ち主ってのは、一部の俺のような例外スキル持ちを除いて皆、強力な力を有している。
そういう奴らなので、当然大きなギルドや、国の機関や組織に所属しているのが大半だ。
地位も当然高い。
そんな彼らがどう動くか……
カイザーギルドのように情報を買おうとするだけなら問題はない。
もちろん、対応は面倒くさいが、実害はそれくらいである。
問題は、強引にでも情報を手に入れようとする
無理やり力ずくでも。そう考える奴らが出てきても不思議ではない情報だからな。
特に国外のやばい組織なら、冗談抜きで、手段を選ばず仕掛けてきてもおかしくなかった。
俺はそのことをアングラウスに説明する。
「なるほど、それは厄介だな。しかし解せん。カイザーギルドは情報を欲しがっていたのだろう? こんな話を広めたら、競合が増えるだけじゃないのか? そもそも、悠が連れ去られでもしたら、奴らは情報を手に入れられなくなるだろうに」
「情報の流布が、追い風になると考えたんだろ」
「なぜだ?」
「何を仕出かすかわからないような奴らに狙われる状況。その手っ取り早い回避方法が、カイザーギルドに所属することだからだ。要は……うちに所属すれば守ってやるって名分で、俺に契約を求めるつもりなんだろう。日本三大ギルドに所属すれば、他所の組織も
そんなふざけた真似をした所ではなく、他の大手に入ってしまう点をカイザーギルドは考慮しなかったのか?
してないだろうな。
なぜなら、三大ギルドでレジェンドスキル持ちがいるのは、カイザーギルドだけだからだ。
自分の所にスキル持ちが所属してないギルドは、他所と揉めるとわかっていて俺を受け入れたりはしないだろう。
そして、三大ギルドレベルじゃないと、海外の大手組織と渡り合えるだけの力がない。
つまり、俺には選べるだけの選択肢がないのだ。
少なくともカイザーギルドはそう思っており、この状態の方が、交渉が有利に運ぶと判断したのだろう。
「日本三大ギルドの割に、随分とせこい手を使うな」
「ああ、まあ上手い手なんだとは思う。もちろん……俺以外になら、だけどな」
カイザーギルドは、大きな勘違いを二つしていた。
一つは、俺がレジェンドスキルの突破方法を知っていると勘違いしている点だ。
だがそんなものはないので、奴らがどう立ち回ろうと情報は手に入らない。
そしてもう一つは──
「というわけで、借りをもう一つ頼んでいいか?」
「家族だけではなく、自分まで守れと? 厚かましい奴だな。自分の身ぐらい守れんのか? 不死身だろうに」
俺のすぐそばに、化け物と言って差し障りのないアングラウスがいる点だ。
ちなみに、母さんや妹には、数日前からアングラウスの不可視の分身が付いている。
何かあった時、守ってもらえるよう俺が頼んだからだ。
カイザーギルドの捨て台詞があったからな。
「死なないだけで、捕縛されたらどうしようもないんだよ。せめて命が七つくらいになるまでは頼む」
七つもあれば、Sランクとだって普通に戦えるようになる。
そのレベルになれば、不死身という特性と合わせて、よほどのことがない限り襲われても逃げ切ることぐらいはできるようになるはずだ。
「安心しろ。お前のことは母親から頼まれているからな。それに……育ち切ってもらわんと話にならん」
「ありがとう。助かるよ」
「マスター! お代わり!」
「へいへい」
俺は言われるままに、三本目のマヨネーズをデブ丸にチャージする。
◆◆◆
──Sランクダンジョン『迷宮』。
その最奥にある広大なエリアには、全身を分厚いプレートアーマーですっぽりと包み込んだ巨大なミノタウロスが、ボスとして君臨していた。
フルアーマー・ミノタウロスバトラーと呼ばれる、レベル二千の魔物だ。
今その迷宮の主たるフルアーマー・ミノタウロスバトラーと、一人の女性が戦っていた。
女性はカチューシャを着けた、青のショートカットに可愛らしい顔立ちをしている。その服装は、最低限の部分以外はむき出しに近い身軽な物だった。
とてもではないが、Sランクダンジョンのボスと戦う
だが──
「ぐもおぉぉぉぉぉ!!」
ダンジョンボスの音速を軽く超える突進。大質量を伴うその攻撃は、人が喰らえば跡形もなくミンチと化すことは疑いようがない。
「よっと!」
だが彼女はそれを跳び箱でも跳ぶかのように、ミノタウロスバトラーの頭部に両手をついて軽やかに跳び越えてみせた。
さらには、そこから空中で素早く体を
完全に人間離れした、とんでもない動きである。
「ぐるがぁ!」
蹴りを受けたミノタウロスバトラーが、苦痛の雄叫びと共に前方に大きく吹き飛んだ。
女性とダンジョンボスの体格差は、重量で言うなら、軽く十倍以上はあるだろう。
しかも、相手はレベルが二千を超える化け物である。
にもかかわらず、彼女はまるでボールでも蹴り飛ばすかのように、容易くその巨体を蹴り飛ばしてしまった。
そんなとんでもない身体能力を持つ女性の名は十文字昴。
彼女はレジェンドスキル【十倍】を持つ、世界ランキング二位に位置する攻略者だ。
「ぐるるぅぅぅ……」
フルアーマー・ミノタウロスバトラーがよろよろと起き上がってくる。
よく見るとその身に着けている重装甲の鎧は凸凹にへこんでおり、さらに出血しているのか、各部から青い血がしたたり落ちていた。
その姿は、まるで
普通の攻略者では、挑戦を考えることすら
人を遥かに超えた超人のみが挑むことのできるその場所で、ボスであるフルアーマーミ・ノタウロスバトラーを十文字昴は単独で圧倒していた。
これは世界ランク二位に位置する彼女だからこそ、できる芸当と言えるだろう。
「さて、そろそろトドメといこうかな。みんな、見ててね!」
余裕の表れからか、十文字はボスから目を離し、別の場所へと視線を向け手を振る。
そこには十文字と全く同じ背格好、同じ顔をした女性が立っていた。
その女性の右手にはスマホが握られており、カメラが十文字の方に向けられている状態だ。
さらに左手には、タブレットのような物まで持っている。
とてもSランクダンジョンに挑む出で立ちに見えないその女性は、十文字がユニークスキルによって生み出した分身だった。
そしてその分身がやっているのは、生配信のための撮影である。
通常、ダンジョン内に電波は届かない。
だが、マジックアイテムである特殊なタブレットを使えば、外部の電波と繋ぐことが可能となっている。
十文字の分身はそれを利用し、自らの本体がSランクダンジョンを攻略する姿を、リアルタイム配信しているのだ。
「炎と氷より生まれし……双極の精霊よ。我が呼びかけに応え、
十文字が両掌を強く打ち合わせる。『パン』と乾いた音が響き、その隙間から強烈な光が溢れ出す。
そして彼女がその合わさった両手を離すと、その中から、