その妖艶な唇から覗く鋭い犬歯が、不思議と目についた。

「どなたか知らないが、初対面だ」

「くくく……あれほどの激闘をした仲だというのに、わからんとは寂しいものだな」

「激闘?」

 言っている意味がまるでわからない。

 相手は初めて見る顔で、当然、そんな女性と戦った記憶などない。

 そもそも、この時点での俺は死なないだけで、一般人に毛の生えた程度の力しかないのだ。

 目の前で地面を爆発させた原因である女と、その俺が激闘などと、あり得るはずもない。

「やれやれ、鈍いな。それなら……これでどうだ」

「くっ!?

 女の額にひし形に赤く光る宝玉が浮かび上がり、その背からは黒い羽のような物が生えてきた。

 と同時に、すさまじいプレッシャーが俺の全身にのし掛かる。

「この感覚……それにその羽の形状……まさか……」

 あり得ない。あり得るはずがない。だが俺の本能がこう告げている。

 この女。人外のような姿の、目の前のこの女が。


 ──魔竜であると。

「アングラウス……」

 俺の言葉を聞き、女は満足そうに目を細める。

「くくく……」

 女──いや、魔竜アングラウスが、その指先を俺に無造作に向ける。

 次の瞬間、俺の視界がブラックアウトした。

 どうやら奴に上半身を吹き飛ばされてしまったようだ。

 だが不死身の俺の肉体は瞬時に回復し、すぐに視界や音が戻ってくる。

「弱いな。一万年前のお前はこんなに弱かったのか?」

「……」

 過去に戻った今の俺と、魔竜アングラウスにはどうしようもないほど、隔絶した力の差がある。

 不死身だから死にこそしないが、現状では戦いにすらならないだろう。

「はぁ……リベンジマッチと考えていたのだが、これでは倒す意味がまるでないな」

「……なぜだ?」

 ため息をつき、つまらなさそうにするアングラウスに、俺は問いかける。

「なぜ、お前がここにいる?」

 俺の投げかけた疑問は当然のものだ。

 奴はエターナルダンジョンのボスで、崩壊型ダンジョンの魔物ではない。

 本来なら、ダンジョンの外には出られない存在なのだ。

 だが奴はこの場にいる。

 しかもその口ぶりはまるで……いや、間違いなく時間が回帰する前のことを覚えていると思われるものだ。

「なぜ回帰前のことを覚えている?」

「くくく……なぜだと思う?」

 アングラウスが黒髪をかき上げ、揶揄からかうように問い返してきた。

 その様子から、殺気は一切感じない。

 なので、少なくとも問答無用で暴れる気はないように見える。

 ……それだけが救いだな。奴に本気で暴れられたら、今の俺にそれを止める術はない。

「それがわかるなら、聞いてはいない」

「やれやれ、つまらぬ返事だな。少しは考えたらどうだ?」

 現状、全く理解不能な状態だ。

 考えたところで、答えなど出るはずもない。

「まあいい。クロノスの懐中時計は、我を倒して手に入れただろう? そのアイテムの効果が、元々所持していた我にも影響を及ぼした。だから覚えているのだ」

 確かに、時間を巻き戻すアイテムは奴からドロップした物だ。

 まさかあの時計に、落とした魔物すら回帰させる効果があったとは……

「だから言っただろう? また会おう、とな」

「……」

 確かに言っていた。

 つまり奴は、時計の効果が自分にも及ぶことを、最初っから知っていたというわけだ。

「我が外に出れた理由についてだが……それは力ずくで聞き出してみるがいい」

「……」

 アングラウスが、挑発するかのように俺に一歩近づく。

 だが殺気や敵意のようなものは感じない。

 これも揶揄っていると思って間違いないだろう。

「やれやれ、焦る素振り一つ見せんか。まあいい、安心しろ。今のお前と戦う気はない。何せ弱すぎるからな」

 弱いから相手にしない。アングラウスはそう言い放つ。

 ここは弱くて良かったと、そう素直に考えることにする。

 もし力をそのまま引き継ぎ、お互い全力でぶつかっていたらどうなっていたことか……

 家からそれほど離れていない場所でそんな戦いをしたら、きっと母さんや憂の身に危険が及んでいただろう。

 とはいえ……俺とは戦わないとは言ったが、魔物である奴が何をするかはわかったものではない。

 先ほども山を吹き飛ばしたことを考えると、無差別に暴れて、周囲をしょうに変える可能性は十分考えられる。

 できるだけ速やかに家に戻って、母さんと、それに憂をなんとかして遠くに連れていかなければ……いや駄目だ。憂は運べない。ならなんとかして、奴をここから遠く離れた場所に誘導しないと。

 暴れるのなら別の場所で暴れてもらう。

 他所よそばくだいな被害が出るだろうが、悪いが俺にとっては家族が最優先だ。

「まあそう浮足立つな。別に無差別に暴れるつもりはない」

「山を吹き飛ばしておいてか?」

 俺は吹き飛んだ山の方を見る。

 あんな真似をしておいて、暴れるつもりがないと言われても説得力は皆無だ。

「ああ、あれは事故だ。外に出たはいいが、着地に失敗してしまってな。意図してやったことではない。だいたい、今暴れていないのがその良い証拠だと思わんか? そもそも……今のお前をだましてなんの得がある?」

「まあ……確かに」

 どこまで信用していいかはわからないが、少なくとも、奴が今の俺を騙す意味はないというのには同意する。

 なので今暴れる気がないというのは、本当なのだろう。

「ふむ……まあこんな場所で立ち話もなんだ。お前の家に招待しろ」

「は?」

「何を驚いている? 我は外の世界をあまり知らんからな。しばらくはお前に厄介になるつもりだ。暴れずの対価としては、悪くない話だと思うが?」

「ふざけるなよ……」

 アングラウスのような危険な生き物を、母さんや妹の近くに寄らせるわけにはいかない。

 今暴れる気がないからといって、いつ気が変わるかわからないような相手だ。

 それならどこか知らない場所で暴れ回ってもらった方が、遥かにマシである。

「なんだ、嫌なのか? では自分で見つけるとしよう。我は鼻がいいからな。お前や、お前に近い匂いを見つけ出すのは容易いことだ。どれ……」

 アングラウスが鼻をひくひくさせる。

 そして俺の家のある方角を向き、にやりと笑う。

「この方角から、お前の血縁者の匂いがするな」

 こいつ……

「くくく、そう怖い顔でにらむな。お前の家族に手は出さんと、このアングラウスの名に懸けて誓おう。我が自らの名に懸けて誓う以上、この誓いは絶対だ」

 アングラウスの額の宝玉が輝く。

 その光には力があった。

 それは魔竜自体を縛る誓約の力であることが、俺には本能的に理解できた。

「なんでそこまでする?」

 アングラウスの行動は、完全に理解不能なものだった。

 自らに制限をかけてまで、俺を信用させる意味など奴にはまるでないはずだ。

「敬意だ。お前は我を倒した。その強者に対する尊敬の念と言っていいだろう」

 真っすぐに俺の目を見て、奴はそう言う。

「わかった」

 力の差が圧倒的にある以上、主導権は奴にある。

 その上で、ここまで誠意を見せたということは、その言葉に嘘偽りはないと考えていいだろう。

 少なくとも、誓いの縛りがある以上、家族への害はないはずだ。

 ま、それでも、絶対的に安全とは限らないが……

 保証されているのは、あくまで俺を今倒す気がないのと、家族に手を出さないということだけだからな。油断は禁物だ。

「ああ、言っておくが……お前へのリベンジはいずれさせてもらうぞ。今は弱いから戦わないだけだ。それは忘れるなよ」

「わかった」

「では、お前の家に案内してもらうとしようか」

 ここで立ち話をしていたのでは、異変に駆けつけた警察や自衛隊と遭遇することとなる。

 魔竜と一緒に目立つ気はさらさらないので、俺は素直に奴を家へと案内する。

 やれやれ……やるべきことは腐るほどあるってのに、そこにアングラウスとのことまで加わってしまうとはな。厄介な話だ。

 アングラウスを連れて家へ戻ると──

「悠! どこに行ってたの!」

 まだ日の出前だというのに、母さんはすでに起きていた。

「お母さんすごい爆発音で飛び起きて、しかも悠がいないからびっくりしたじゃないの! 何かあったんじゃないかって心配したのよ!!

 山を吹き飛ばす轟音は、この辺りまで響いていたようだ。

「心配かけてごめん、母さん。ちょっと気分転換にランニングしてたんだ。そしたらすごい音がしたから、慌てて家に帰ってきたんだよ」

「そう……まあ無事で本当に良かったわ。憂のことが心配だから、母さん今から病院に行ってくるわね」

 俺の無事を確認した母さんは、慌てて家を飛び出していく。

 引き止めようかとも思ったが、止めておいた。

「山が吹っ飛んだだけで、病院に影響はないよ」

 とは言えないからな。

 近くの山が吹き飛んでるのに安心しろとか、無理がありすぎる。

 大体なんでそんなこと知ってんだって話だし。

 まあ病院はそこまで遠くはないので、自分の目で見て安心してもらうのが一番だろう。

「ったく……お前のせいだぞ」

 俺が足元の黒猫に文句を言うと……

「アレはさいな事故だ。細かいことをいちいち気にするな」

 ふざけた返事が返ってくる。

 この黒猫は、魔竜アングラウスの変身した姿だ。

 見知らぬ女を朝っぱらから家に連れていくわけにもいかないので、猫に化けてもらっている。

「お前にとっては些細なことでも、弱い人間にとっては生き死にのかかった脅威になるんだよ」

「そうか。なら、次からは気を付けるとしよう」

 次からは気を付けると、アングラウスはあっさり口にする。

 こちらとしてはありがたいのだが、凶悪なダンジョンボスが人間に配慮して行動するというのは、なんだか違和感が半端ない。

「ところで……人間というのは皆、命が複数あるものなのか?」

やぶから棒だな。人間の命は一つだけだ。だからやみに壊さないでくれよ」

「一つか……つまり、二つの命を持つお前の母親は特別というわけだな」

「──っ!?

 こいつ、母さんの中に命が二つあることを見抜いてやがる。

 命なんてものは、通常可視化できるものではない。

 魔法で何かやっていたようにも見えなかったし、こいつはどうやって気づいたんだ?

「お前には命の数が見えるのか?」

「見えると言うよりは、感じると言った方が正しいな。ちなみに、今のお前の命の数は三つ。どうだ? 合っているだろう」

 アングラウスが俺の中の命の数を、正確に言い当てる。

 本能か。それともスキルか。いずれにせよ、奴は他人の命を感知する能力があるようだ。

「ちなみに……戦ってる最中ずっと我は思っていたぞ。なぜお前の命は減らないのか? こいつまじウゼェ、とな」

「俺はまあ……不死身だからな」

うらやましい限りだ」

「羨ましい……ね」

 不老不死と聞くと、大抵の奴は羨ましいと言う。

 まあ実際、普通に生活する分にはメリットしかないわけだから、そう思うのも無理はない。

 特にアングラウスはすでに強さを兼ね備えているので、不死身になれば正に鬼に金棒だろう。

 けど……レベル一の雑魚だった俺にとって、強くなれないってのは攻略者として致命的だった。

 だからそんな能力を羨ましいと言われても、正直微妙な気分にしかならない。

 いやまあ、結果的には強くなれたわけだし、こうして時間を巻き戻して家族を守るチャンスも手に入れたわけだが……

「あの時のお前は命が十二あった。今三つしかないことを考えると……そのあたりがお前の強さの秘訣といったところか」

 俺の強さの秘密を、アングラウスは的確に見抜いてくる。

 とんでもなく鋭い奴だ。

「まあそのあたりはどうでもいいか。で? お前はどれぐらいで、あの時の強さに戻れるのだ?」

「数年はかかる」

 命による出力アップはそう簡単ではない。

 どうしても時間がかかってしまう。

「何年もかかるのか? 長いな」

「これでもかなり短い方なんだけどな」

 すでに経験があるからその程度で済むのだ。

 もしゼロからなら、一万年近く時間がかかることになる。

 実際、一万年かけてその状態に至ってるわけだしな、俺は一度。

「やれやれ。お前へのリベンジマッチは、しばらく我慢する必要があるようだな」

 アングラウスは力を取り戻した俺に、リベンジしたいと考えているようだが……

 わかっているんだろうか? 

 俺が以前の力を取り戻したら、奴には勝ち目がないということを。

 単純な強さならアングラウスの方が上だが、こちらは不死身だ。

 それはつまり、絶対に俺が負けないことを意味している。

「仕方がない。力を取り戻すまでお前のそばにいるとしよう」

「……」

 この化け物に自由に行動されるのは大問題だ。

 だが、長々とそばにいられるのもそれはそれで……まあ家族に手を出さないと誓っているので、それだけが救いではあるが。

「そばにいるのはいいが、暴れるのは勘弁してくれよ」

「安心しろ。こう見えて分別はあるつもりだ。無意味に暴れたりはせんよ」

 山を吹っ飛ばしたことを些細であるかのように言う奴に、分別があると言われても説得力がまるでないんだが?

 まあどちらにせよ、今の俺の力ではどうしようもないので選択権はない。

 アングラウスに分別が本当に備わっていることを、祈るばかりだ。

「まあよろしくな」

 そう言うと、足元の黒猫はしょうわるそうに笑う。


◇◇◇


 妹の無事を確認した母さんが病院から帰ってきたので、俺はアングラウスのことを切り出す。

「母さん、猫を飼いたいんだけど」

 奴には基本、人前では猫で過ごしてもらう。

 竜はもちろんのこと、女性の姿で家に置いておくことはできないからな。

 俺が紹介すると、アングラウスが俺の足元から顔を覗かせた。

「あら、可愛かわいい猫ちゃんね。もちろんいいわよ」

「ありがとう、母さん」

「ふふ、でもまさか貴方が猫を拾ってくるなんてね」

「ランニング中に見つけて、なんかビビッときてさ」

 衝動的に拾ったことにしておく。

 それ以外説明のしようもないし。

「そうなのね。ところで、名前はもう決まってるの?」

「え? ああ、名前か。名前はそうだな──」

 アングラウスという名は猫の名としてはあれだなと思い、短くしたアンにしようと思ったら──

「我はアングラウスだ」

 アングラウスが自己紹介してしまう。人間の言葉で。

「は?」

「……え?」

 俺はギョッとなり、驚いた母さんが固まる。

 おいおい、何考えてんだこいつ?

 驚かさないために猫に化けてもらったのに、しゃべったら全く意味がねーじゃねーか。

「驚く必要はない。我は顔悠の使い魔だ。本来はアングラウスと言うのだが、アンと気軽に呼んでもらって結構だ」

「つ、使い魔?」

 母さんが俺の方を見る。

「あ、ああそうなんだ。攻略者としてのスキルで生み出した猫なんだ、アンは。最近スキルを覚えてさ。強くなれるって言っただろ? ただ普通に言ったら驚かせると思って、最初は普通の猫ってことで慣れてもらおうと思ってたんだけど……」

 確かにスキルの中には、魔物や動物を使い魔にするスキルがある。

 なので取りあえず、ここはアングラウスに話を合わせておく。

「そ、そうなのね。お母さん少し驚いちゃったわ」

「我は使い魔なので、通常の猫のような世話は不要だ」

「そうそう。だから世話のことなんかは気にしなくても大丈夫だよ」

「わかったわ。アンちゃん……この子は不死身で死なないけど、でも痛みや苦しみを感じないわけじゃないの。だからこの子が無茶をしそうになったら、その時は止めてもらえないかしら。ひょっとしたら無理なお願いかもしれないけど……どうかお願いします」

 母さんがアングラウスに向かって頭を下げる。

「母さん……」

 不死身とはいっても、痛みや苦しみが消えるわけではない。

 だから囮役なんて無茶な仕事をしてた俺のことを、母さんはいつも心配していた。

 俺自身、それはよくわかっていたことだったが、以前はそれ以外の選択肢がなかったのだ。

 けど、今は違う。

「心配しなくても大丈夫だって。前も言ったけど、俺はかなり強くなってるからさ。だから以前みたいな仕事はもうしないよ」

「でも、悠のことだから無茶しそうでお母さん心配なのよ」

「安心するがいい。我はこの世の誰よりも強い。ちゃんと顔悠の面倒は見てやる」

 普通、こういう時に言う最強はジョーダンだったりするものである。

 だが、アングラウスの場合はガチだ。

 こいつと一対一で戦って勝てる奴は、現在の攻略者の中にはいないと断言できる。

 それくらいでたらめに強い。

「ふふ。ありがとう、アンちゃん。あ、そうだ。今から朝ご飯を作るんだけど、アンちゃんはどういった物を食べるの?」

「我か? 我は肉食だ。肉ならなんでもいいぞ」

「じゃあ豚を焼いてあげるわね」

「おい、猫のふりしてくれるんじゃなかったのか?」

 母さんがキッチンで朝食を作りだしたところで、俺は小声でアングラウスに苦情を告げる。

「最初はそのつもりだったが……長期間飼い猫としてこの家にいるのは、いろいろと面倒くさそうだったからな。だからこの際、使い魔として自己紹介したのだ。お前だって、世話をするふりなんて、面倒くさい真似をしなくて済むだろ? 正に一石二鳥だ」

 棲み着くのが年単位と考えると、気を付けていたってそのうちボロが出る可能性は高い。

 そう考えると、最初っからこいつが特別だってバラしておいた方が、確かに楽ではある。

「上手くいったからいいけど、もし母さんが喋る猫を嫌がったらどうするつもりだったんだよ」

 使い魔と紹介してはいるが、猫型の生き物が言葉を話すことを、不気味に思う可能性は十分あり得た。

 だって喋らないからな、普通は。

「死なない不気味な息子を持っているんだ。そんな些細なことなど、いちいち気にしないだろう」

「誰が不気味だ。誰が」

 まあ確かに、冷静に考えると、ぐちゃぐちゃにされても次の瞬間回復してるのは不気味っちゃ不気味ではある。

 だが、さすがにそれを巨大な魔竜に言われる筋合いはないぞ。


◇◇◇


「さて……」

 俺は、ダンジョンへとやってきていた。

 場所は毒島たちと探索していた所だ。

「こんな低レベルダンジョンに来て、何か意味があるのか?」

 俺に付いてきたアングラウスが尋ねる。

 姿は相変わらず猫のままだ。

「ランクを上げないことには、上のダンジョンに行けないからな」

「ランク?」

「攻略者とダンジョンにはランクがあるんだよ」

 攻略者、そしてダンジョンにはランクがあった。

 FからSSSまでの九段階。

 まあダンジョンだけは例外として、攻略不能と判断されるExtraエクストラがその上にあったりするが、それは置いておく。

 基本的にダンジョンのランクは、ゲートから計測される魔力で判別され、攻略者のランクはレベルで決まる。スキルなどは考慮外だ。

「で、攻略者のランクが低いと、高ランクのダンジョンに入れない決まりになってるのさ」

 挑めるのはランクの一つ上までという制限が、攻略者を管理する協会によって設けられている。

 そのため、低ランクのままでは高ランクダンジョンには挑めない。

「俺はレベルが上がらないから、そのままだとFランクのままで上位のダンジョンには入れない」 

 レベルを上げられない俺は、このままではEランクダンジョンまでしか入れない。

 だが、レベル以外にもランクを上げる方法があった。それが──

「だからこのダンジョンをクリアして、あかしを手に入れる必要があるのさ。ランクを上げるために」

 証である。

 ダンジョンクリア時には、そのランクに見合った証が手に入る。

 それを攻略者協会に提示すれば、クリアできるだけの力があるとみなされ、ランクを上方修正してもらえるのだ。

 俺はそれを使ってランクを上げるつもりである。

 あ、ちなみに証ってのは物ではなく、手の甲に刻まれる紋章のことを言う。時間経過で消えるタイプの。

 なので、別の人間がクリアして誰かに譲渡するような真似はできないようになっていた。

 要は、金では買えないってことだ。

「制限ね……人間とは面倒な真似をするのだな」

「人間ってのは弱いからな。だから安全面を重要視するのさ」

 低レベルの人間が、無謀に高ランクダンジョンへと挑めば命を落とす危険がある。

 協会が制限をかけているのは、そういったことを防ぐための措置だ。

 何せ制限ありの現状でも、毎年結構な数の人間がダンジョンで命を落としてるわけだからな。

 それは当然の対応と言えるだろう。

「ああ、そうそう……そこ、罠があるぞ」

 アングラウスが罠を見抜いて教えてくれる。

 だがちょっと遅い。

 急に言われても、踏み出した足は止められない。

 地面を踏んだ瞬間、足元に魔法陣が現れやりが飛び出してきた。

「よっと」

 それを俺は片手でキャッチして止める。

 回帰前なら間違いなく串刺しだっただろう。

 だがすでに追加の命を繋げた俺に、この程度の罠は通用しない。

 まあ仮に喰らっても痛いだけで、全く問題ないが。

「ショボい罠だな」

「まあEランクのダンジョンだからな」

 アングラウスはショボいと言うが、こんな罠でもEランク攻略者にとっては脅威だ。

 まあ直撃して死ぬ奴はそうそういないだろうが、反応が遅れれば大怪我である。


 俺は出てくる魔物を始末し、ドロップ品を収集しながら進んでいく。