(レオ卒業おめでとうー)

(僕たち今日をとっても楽しみにしてたのー)

(二年も待ちわびたのだと思い知らせてやろうか)


 二年前にレオナルド殿下と交わした『レオナルド殿下が学園を卒業してお酒が飲めるようになったら、妖精さん達は蜂蜜で一緒に乾杯をする』という約束を、くっきー、しょこら、みんとの三人の妖精さん達はずっと楽しみに待ちわびていた。そして、その約束を覚えていてくださったレオナルド殿下は、妖精さん達と一緒にルイスと私を王宮に招いてくださった。


「くっきー、しょこら、みんと。それにルイスとマーガレット様も、今日は来てくれてありがとう」


 もうすぐ十七歳になるレオナルド殿下は、あどけなさは残したまま素敵な青年に成長して、以前よりも凛々しさを増していた。その笑顔があまりに眩しくて、私は思わずレオナルド殿下の青い瞳を見つめてしまった。


(早くレオと一緒に乾杯したいのー)


「僕もくっきーと乾杯するのが楽しみだよ」


(はちみつたくさん飲むのー)


「たくさん用意したから、しょこらの好きなだけ飲んでね」


(泥酔には注意して、楽しく嗜む大人のマナーを教えてやろうか)


「みんとがいてくれて心強いよ。ぜひ僕にお酒の飲み方のマナーを教えてくれると嬉しいな」


 レオナルド殿下と妖精さん達は、乾杯する前からとても楽しそうに会話をしていた。そんな四人の様子を、ルイスと私は微笑ましく見守った。

 レオナルド殿下は今日のためにオルタナ帝国からたくさんの蜂蜜を取り寄せて、妖精さん達が色々な味で楽しめるようにオレンジやイチゴ、桃等の色々な種類のフルーツの蜂蜜漬けを用意してくださっていた。

「ルイスとマーガレット様も、今日はたくさん飲んで楽しんでね」

 そう言って、レオナルド殿下がルイスのグラスにシャンパンを注いでくださった。

「レオナルド殿下。僕達のことは気にしないでください」

 宰相補佐として働きながらレオナルド殿下の側近にもなっているルイスは、レオナルド殿下からグラスにシャンパンを注がれてとても慌てていた。

「レオナルド殿下。私が注ぎます」

 私も慌ててレオナルド殿下に声を掛けた。乾杯の準備は事前に王宮の使用人がしてくれていたけれど、他の皆様には妖精さん達の姿が見えないから乾杯の間は誰も入らないようにレオナルド殿下が手配してくださっていた。


「気を遣わなくて大丈夫だよ。今日は妖精達の友人として楽しく飲めたらと考えているんだ」


 レオナルド殿下は、無邪気な笑顔で楽しそうに語った。


(私はレオの友だちなのー?)


「くっきーは僕の大切な友達だよ」


(でも私はレオのことが好きなのにー?)


「僕もくっきーのことが好きだよ」


(お互いに好きでも友だちなのー?)


「くっきーは僕にとって大切で特別な友達だよ」


(私はレオの特別なのー)


 くっきーはとても嬉しそうに飛び回った。


(僕もレオが好きだよー)


「もちろんしょこらも僕の大切な友達だよ」


(わっ、我のことも、とっ、特別か質問してやろうか)


「みんとのことも特別な友達だと思っているよ」


 レオナルド殿下からの『大切で特別な友達』という言葉に妖精さん達はとてもはしゃいで、蜂蜜をぐびぐびと飲んで嬉しそうにパタパタと飛び回った。



「マーガレット様と会うのは、バオンとカナン様の婚約パーティーの時以来だね」


 人間達も乾杯をした後で、レオナルド殿下が話しかけてくださった。

「はい。アリス様にもあれ以来お目にかかる機会がなかったのですが、お元気でしょうか?」

「うん。アリスも王妃教育が終わって、今は結婚式の準備に追われているよ」

 レオナルド殿下は、ほんの少しはにかんで嬉しそうに笑った。

「もうすぐご結婚ですね。おめでとうございます」

 私はレオナルド殿下に心からのお祝いの言葉を伝えた。

「ありがとう。僕も、ルイスとマーガレット様のような幸せな家庭を築けるように努力するね」

「ルイスと私のように……?」

「結婚してどんなに幸せか、ルイスからいつも聞かされているからね」

 ルイスから? その思いがけない言葉に私は思わずルイスの顔を見た。


「僕はただ、マーガレットと結婚して何年経っても愛情が減らないどころか日に日に増していることと、最近ではすっかり伯爵子息夫人として母と一緒にモーガン伯爵家を盛り立ててくれるマーガレットが愛しくてたまらないということを伝えているだけだよ」


 ルイスは、眼鏡をくいっとしながら、アルコールで赤くなった顔でドヤ顔をしていた。

「王太子殿下にそんなことを……」

 私は恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。この熱さは絶対にアルコールのせいだけではないわ。

「僕にとってマーガレットへの愛情を語ることは、呼吸をするのと同じくらいに自然なことだから」

 恋愛小説に書かれているような気の利いた言葉ではないけれど、素直な気持ちをストレートに伝えてくれるルイスに私の頬はさらに熱くなってしまった。


(レオと乾杯楽しいのらー。うぃー)

(はちみつみつみつ飲んでいるのら。うぃー)

(我、はつみつに溺るるのである)


「くっきー、しょこら、みんと。大人のマナーどころか、すでにすっかり酔っ払っているわね?」


(大人のマナー? なにそれ? 食べ物? うぃー)

(マナーで妖精は酔えないよーうぃー)

(我、不覚なり)


 レオナルド殿下も乾杯のシャンパンは飲み干していらしたけど、顔色は少しも変わっていなかった。さすがレオナルド殿下はアルコールにもお強いのね。それでもレオナルド殿下は、私と妖精さん達のやり取りを笑って見ていた。


「皆で楽しく飲むことが、きっとお酒の嗜み方のマナーなんだね」


(レオ! いいこと言ったらーうぃー)

(その通りなのー楽しいことが一番らーうぃー)

(良いことを言ったレオはレオでレオなのである)


「レオナルド殿下。さすがです。僕もいつも楽しく飲んでいますので、いつの間にかお酒の嗜み方をマスターしていたのですね」

 真っ赤な顔をしてドヤ顔で言うルイスに、私は思わず笑ってしまった。


(めがねがドヤ顔してるーうぃー)

(ドヤドヤめがねーうぃー)

(めがねは眼鏡でドヤドヤなのである)


「くっきー様。しょこら様。みんと様。僕は眼鏡に誇りを持っています。せっかくの機会なので今日は皆様に眼鏡の素晴らしさをお伝えしたいと思います。三時間ほどいただいて良いでしょうか?」


(めがねがなんか語ってるーうぃー)

(三時間あったらお昼寝したいよーうぃー)

(時間とは有限であり、貴重なものなのである)


 妖精さん達はパタパタダンスを踊り始めてしまって、ルイスの眼鏡語りはまったく聞いていなかった。だけど、ルイスはそんなことには構わずに眼鏡について語り続けていた。



「ルイスがこんなに酔っているのは初めて見るよ」

「ソフィア様のウェディングパーティーの時にバオン様に注意されて、公式な場では控えていたようですが、プライベートで飲んでいる時はいつもこんな感じです……」

「きっとマーガレット様と一緒に飲めるのが楽しくて飲みすぎてしまうんだね」

「そんなこと……。ただ、私もルイスと一緒だとつい飲みすぎてしまいます……」

「やっぱり二人は僕にとって憧れの夫婦だよ」

 レオナルド殿下の笑顔がとても眩しかった。


「ソルト王国がこんなに豊かでいられるのはマーガレット様のおかげだよ。ありがとう」


 レオナルド殿下は、その透き通った青い瞳でまっすぐに私を見つめた。


「……いいえ。きっとレオナルド殿下が王太子殿下であるからこそです。たとえ妖精の愛し子がいなくても、レオナルド殿下が治める国であれば豊かであるはずです」


 私は、ずっと思っていたことを心から伝えた。レオナルド殿下は私の言葉に驚いた顔をしたけれど、幼い頃から変わらない純粋な瞳で真剣に応えてくれた。


「ありがとう。マーガレット様にずっとそう思ってもらえるように、僕はこれからもソルト王国民全員の幸せを背負い続けるよ」


 その力強い言葉に私は、レオナルド殿下が治めるソルト王国は、どんな時代のどんな国よりもずっと豊かで国民は幸せになれると確信をした。

 そして私はルイスと、妖精の愛し子だからではなく私自身を見つめて愛してくれる人と、レオナルド殿下が治めるこの国でずっと生きていきたいと、そう願った。