特別短編 ハッピーエンドのそのあとで


「ソフィア様とてもキレイだわ!」


 ウェディングドレス姿のソフィア様を見て、私は思わず感動の声をあげてしまった。私の隣となりではルイスも嬉うれしそうに笑っていた。

「ソフィア様もアルバート様もとても幸せそうだね」

 ルイスの言う通り、私達の目の前には、とても幸せそうに微笑むお二人が、ウェディングドレスと蝶ちようネクタイのタキシード姿で並んでいた。


(今日は幸せな日なのー)

(僕たちソフィアとぽっちゃりも好きなのー)

(祝いのシャンパンはちみつタワーで一晩中躍おどらせてやろうか)


 そんなソフィア様とアルバート様の姿を見て、くっきー、しょこら、みんとの三人の妖よう精せいさん達もとても嬉しそうだった。

 ソフィア様とアルバート様の結婚式は、ホワイト男だん爵しやく家とロバーツ子爵家のご親族だけですでに行われていた。今日は、身分に関係なくお二人の親しい人間を招いたウェディングパーティーなのよね。乾かん杯ぱいの後は、招待客達は立食で自由にお酒やお食事を楽しんで、主役のお二人は順番に皆みな様さまにお声をかけてまわっていた。


「シャ、シャ、シャ、シャ、シャーロット! ひっ、久しぶり!」


 乾杯のシャンパンですでにほんのり顔を赤くしたルイスと話をしていた私の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「料理長。お久しぶりです」

 声の方に視線をやると、そこには顔を真っ赤にしたシルバー公爵家の元料理長と、笑顔のシャーロットがいた。

「シャ、シャ、シャ、シャ、シャーロット! こっ、こっ、今度、わっ私わたくしめの作ったり、り、り、り、料理を! 一いつ緒しよにたっ食べないか?」

「料理長のお料理ですか? とても楽しみです」

「……えっ? 本当に? シャーロットが私めの料理を楽しみ……?」

「料理長がソフィア様達とお菓か子しを開発されていただなんて初めて聞いた時は本当に驚おどろきました。私もぜひ仲間に入れてほしいなと思っていたんです」

「……なかま……」

「料理長はソルト王国滞たい在ざい中はシェフのお家に泊とまっているのですよね? 料理長とシェフの都合の良い日を教えてください。私はソフィア様とマーカスの予定を確かく認にんしますね」

 ……これは……。元料理長からデートに誘さそわれたことにシャーロットはまったく気付いていないわね……。元料理長が燃え尽つきた灰みたいに真っ白になっているわ。


「今夜はとことん飲みましょう」


 真っ白になった元料理長の肩かたに、一部始終を見ていたであろう少し涙なみだぐんだシェフが手を乗せて慰なぐさめていた。


「ルイス様! いつかのように今日も一緒にシャンパンを酌くみ交かわすのですわ!」


 私とルイスの前に現れたのは、すでに顔を赤くしたカナン様だった。同じくいつの間にか赤い顔になっていたルイスは、眼鏡をくいっと押し上げてドヤ顔で言った。

「カナン様。僕は、結婚記念日にマーガレットと一緒にワインを一本飲める男なのです」

 カナン様とルイスは楽しそうに二人で乾杯を始めた。以前、酔よっ払ぱらった二人の会話がとても楽しかったので、私は止めることなく思わず見守りたくなってしまった。そこにルイスと一緒にレオナルド殿でん下かの側近となったバオン様が声をかけてきた。


「ルイス。カナン様。せっかくのお祝いの席で泥でい酔すいはマナー違い反はんですよ?」


「バオン様。私は少しも酔ってなどいないのですわ!」

「大切な友人の一生に一度のウェディングパーティーの思い出を、酔っ払って忘れてしまうのは悲しいとは思いませんか?」

 バオン様にまっすぐに見つめられて、カナン様は照れくさそうに視線を逸そらして呟つぶやいた。

「……ミネラルウォーターをいただくのですわ」

「ノンアルコールのワインカクテルもあるようですよ」

 バオン様は微笑ほほえんでカナン様にノンアルコールドリンクの説明を始めた。


「……バオン様には、婚こん約やく者がいらしたわよね?」


 とてもお似合いのお二人の様子に思わず呟いてしまった私の言葉を、ルイスが優やさしく拾った。

「バオンの婚約は解消されたよ」

「……えっ?」

「詳くわしくは話せないけれど……バオンの元婚約者は、今ではオルタナ帝てい国こくのオリバー殿下の婚約者候補になっているから」

 突とつ然ぜん出てきた意外な人物の名前とあまりのことに、私は思わず絶句してしまった。

「美味おいしいのですわ!」

 だけど、バオン様から勧すすめられたノンアルコールカクテルをとても嬉しそうに飲んでいるカナン様を見ていたら、なんだかとても幸せな気持ちになった。


「マーガレット様。ルイス様。今日はお越こしくださいまして本当にありがとうございます」


「ソフィア様。アルバート様。本日は本当におめでとうございます! アルバート様は、大だい丈じよう夫ぶでしたか?」

 アルバート様は、先ほど友人達に勧められて食べたウェディングケーキを喉のどに詰つまらせていた。

「お恥はずかしいところをお見せしてしまいすみません。今日のウェディングケーキもソフィア様の手作りだったので、嬉しくてつい口に頬ほお張ばりすぎてしまいました」

 恥ずかしそうに言うアルバート様を、ソフィア様はとても愛いとしそうに見つめていた。

 私は、そんなソフィア様をそっと見守る緑色の瞳ひとみに気付いた。執しつ事じ……お父さまは、幸せそうなソフィア様を見つめて、とても幸せそうに微笑んでいた。


「大切な皆様の笑え顔がおが溢あふれている、今日は私にとってとても特別な日だわ」


 思わず溢れた私の言葉に、ルイスは笑顔で頷うなずいてくれた。


「自分ではない誰だれかの幸せを心から喜べるマーガレットだから、僕はマーガレットと一緒に生きていきたいと思ったんだ」


 私達はそっと手を繋つないだ。