それにはさまれた真ん中の首は、ひとり
「もしもあなたが竜王殿にご
と、ケルベロスと名乗る巨大な狼は茂みの中から進み出てこようとしたが、三歩と歩かぬ内にへたりこんでしまった。
「あらら、どうしたの? どこかお加減でも悪いのかな?」
「……
そのように告げるなり、三つの首はみんな力なく地面に
「ありゃー、大変だねぇ。魔力とかよくわかんないけど、好きなだけいただいちゃいなよぉ」
「しかし……竜王殿の支配下にある地で、勝手な振る舞いは許されませんので……」
「うーん、そっかぁ。じゃ、お
咲弥の申し出に、すべての首がぴくりと反応した。その中から発言したのは、右側の首である。
「お前、何か食うものを持ってやがるのか? だったら、さっさとよこしやがれ!」
「失礼な口を叩くのは、控えなさい。それが助けを
「しかし……これでもう、三日も何も口にしていないのだ……これでは肉体よりも先に、心のほうが
態度は三者三様であるが、気持ちはひとつであるようだ。咲弥は「りょうかぁい」とのんびり応じつつ、軽ワゴン車のリアゲートに手をかけた。
「とりあえず、
(なんだ、けっきょく
咲弥は内心でほくそえみつつ、まずは足もとにシートを広げて、コンテナボックスのひとつを下ろした。そこから三つの鯖缶を取り出し、メスティンと大小のコッヘルの
「はい、どうぞぉ」
それぞれの首の前に三つの蓋を並べると、右側の首はひと口でたいらげた末に
「おい! こいつは、
「んー?
「へー! よくわかんねーけど、便利だな! お味のほうも、なかなかだしよ!」
よほど鯖缶のお味がお気に召したのか、右側の首は子供のようにはしゃいでいる。しかしその黒い
「でも、これっぽっちじゃ全然たりねーよ! もっとあるなら、さっさと出しやがれ!」
「いい加減になさい。この身は、生死の境にあるのですよ?」
「うむ……不用意な発言で
二つの首が
(なんじゃこの可愛いモフモフは)という想念を
「鯖缶はもう一個あるんだけど、やっぱりここは公平にわけわけするべきかなぁ?」
「いえ。魚の肉でより深い満足を得られるのは、そちらの首です。もしもご温情を
「あらそう? まあ、こいつを三等分にしたら食べごたえもないもんねぇ」
咲弥は最後の鯖缶を
「なんだこれ! こいつのほうが、さらに上等なお味じゃねーか! もっとないのかよ?」
「さっきのは
右側の首は「ちぇっ」と舌を鳴らしてから、未練がましく蓋の底をなめた。残る二つの首は、大事そうに鯖の水煮を
そして――そのタイミングで、周囲の樹木の葉がいっせいにざわめいた。
ケルベロスの三つの首は、いずれもハッとした様子で頭上を
「……これは、
地上に舞い
「み、みつくびのくろきおおかみ! こちらは、ケルベロスさまなのです!」
「はい! ほんもののケルベロスさまをめにしたのは、これがはじめてなのです!」
「うむ。我は都で、何度か見かけた覚えがあるが……どうして其方が、この山にてそのような姿をさらしているのであろうか?」
「……ぶしつけな来訪をお許しください。実はあちらの砂漠にて、サンドウォームの群れに
真ん中の首がそのように応じると、ドラゴンは「なるほど」と目をすがめた。
「我の許しがない限り、いかなる
「よくわかんないけど、なんも危ないことはなかったよぉ?」
咲弥が横から口をはさむと、ドラゴンは「左様か」と目を細めた。どこか張り詰めていた雰囲気がようやくやわらいだようで、咲弥はほっとする。
「ほんで、この子たちはこのお山で魔力ってもんを補給したいんだってよぉ。もちろん、許してあげるでしょ?」
「それはまあ……この地で悪さをしないと
ドラゴンが再び厳しい目を向けると、右側の首は「ふん!」とそっぽを向き、左側の首はもともとうつむいていた顔をさらに
「無論、竜王殿のお
「左様か。では、サクヤの身から遠ざかるがよい。魔力を
「えー? あたしはここでお別れなのぉ? せっかくお近づきになれたのに、残念だなぁ」
と、咲弥はすかさず不服を申し立てた。
「それに、その子たちはお腹がぺこぺこなんだってよぉ? 魔力ってのを補充しても、食事は別腹なんでしょ? たしか、食事をしないと心が満たされないんじゃなかったっけ?」
「……サクヤはこの者たちに、何か食事をふるまったわけであるな?」
空になった三つの蓋を見回しながら、ドラゴンはそう言った。
「うん。最初の日にドラゴンくんともいただいた、鯖缶だねぇ。せっかくだから、もっとちゃんとした料理をふるまってあげたいなぁ」
ドラゴンはへたりこんだケルベロスと咲弥の姿を見比べると、
「相分かった。では、魔力の補充は早々に済ませることとしよう」
ドラゴンが
「ま、まさか、
「
「……ふん! こんなの、大したことねーや!」
右側の首はすぐさま強気の態度を取り
やがて真紅の輝きが消え
「特別に、サクヤのそばに身をおくことを許そう。
「はい。私など、竜王殿の前では子犬も同然でありましょう。決して非礼な真似はしないとお約束いたします」
そんな風に言ってから、真ん中の首は咲弥のほうに視線を向けてきた。
「それに……そちらのサクヤ
「あはは。そんな大した話じゃないけど、どうぞよろしくねぇ」
咲弥が笑顔を返すと、右側の首は「へん!」とそっぽを向き、真ん中の首は
ただし、首は三つでも
2
「それじゃあ、設営を始めたいところだけど……ちょっと問題があるんだよねぇ」
咲弥の言葉に、ドラゴンは「問題?」と小首を
「うん。実は、キャンプギアが不足気味でさぁ。今日はじっちゃんのキャンプギアを詰め
「なるほど。ケルベロスが加わるならば、さらに装備が不足するわけであるな」
すると、
「そ、それでしたら……ぼくたちが、ごえんりょするのです」
「は、はい……どうかわたしたちのことはすておいて、ケルベロスさまをもてなしていただきたいのです」
「そんな
咲弥がおしおきとして兄妹の小さな頭を
「まあ、どうにかやりくりするしかないんだけどさぁ。アトルくんやチコちゃんのおうちから、何か物資をお借りしたりはできないもんかなぁ?」
「物資というと、どういった品であろうか?」
「うーん。まずは、タープかな。この人数だと、雨をしのげないしねぇ。あと、食器も不足するだろうし……欲を言うなら、調理の作業場も拡大したいところかなぁ」
「タープとは、簡易的な屋根であるな。そして、食器や作業台か……それでは、我が所有する宝物の中から選別してみてはどうであろうか?」
「ほーもつ?」
「うむ。我は
と、ドラゴンはいくぶん
「ほへー。でも、そんなお宝を使っちゃっていいのぉ? キャンプギアって、
「うむ。道具とは本来、使用してこそ確かな価値が生じるものであろう。使われるあてもないまま宝物を眠らせておくのは、我としても心苦しい限りであったのだ」
いかにもドラゴンらしい誠実な物言いに、咲弥は思わず「そっか」と笑ってしまった。
「それじゃあ
「西から数えて三番目の
そのように言ってから、ドラゴンはリアゲートが開いたままである軽ワゴン車のほうに目をやった。
「いや……あちらの車を放置しておくのは、不用心であるな。サクヤよ、ひとまず荷物を片付けてもらえようか?」
咲弥は「ほいほい」と応じながら、メスティンやコッヘルの蓋をコンテナに収納し、シートともどもトランクに押し込んだ。そうしてドラゴンの尻尾が
「わー、手品みたい。……ていうか、魔法なのかぁ」
「うむ。我の所有する
ドラゴンが巨体を伏せたので、咲弥は
「んあー。ついついお
咲弥はドラゴンの首を
「飛び立つ際には結界を張るので転落の危険はないが、目的の場所までは数分ていどだ。眠っているいとまはなかろうな」
「はぁい。それじゃあ、夜を楽しみにしておくよぉ」
咲弥たちがそんな言葉を
「では、ゆくぞ」
ドラゴンの翼が大きく広げられるなり、その巨体が助走もなしに高々と舞い上がる。咲弥はドラゴンの首にしがみつきながら、「うひゃー」と声をあげることになった。
「すげーすげー。なんか、いかにも物理法則を無視した動きだねぇ」
「うむ。これはあくまで、
ほとんど垂直に舞い上がったドラゴンは、そのまま水平移動に移行する。そうして眼下を見下ろした咲弥は、思わず息を呑むことになった。いつも
七つもの峰を持つ、
今はまだ昼下がりであるため、二月の陽光が
「すっごいねぇ……じっちゃんも、こうやって空からこのお山を見下ろしたことがあるのかなぁ?」
「うむ。アトルたちの管理する畑まで出向くには、こうして空を移動するしかなかったのでな」
咲弥が「そっか」と満足の
「あっ! あれがぼくたちのしゅーらくであるのです!」
と、咲弥のすぐ後ろからアトルが
「アトルよ。其方たちとサクヤが共有しているのは、二つの世界が同期したこの山のみであるのだ。山の外に見える光景は、まったく異なるものになろう」
「あっ、そうだったのです! ついついうっかりしてしまったのです!」
アトルはそのように答えていたが、咲弥には最初から理解が及んでいなかった。まったく異なる世界の中で、ただこの山だけが同じ存在として
「……横から失礼いたします。二つの世界が同期しているとは、いったい如何なるお話なのでしょうか?」
事情を知らないケルベロスが不思議そうに声をあげると、ドラゴンはいくぶん
「言葉の通りの意味である。我は転移の術式の応用で、こちらの山を異界と同期させた。こちらのサクヤは、異界の側の住人となる」
「い、異界? 異界とは……海の外の世界という意味でありましょうか?」
「否。こちらとは異なる歴史を
ケルベロスは、三つ首そろって絶句したようであった。やはり、魔法の文明を築きあげたというそちらの世界でも、これは規格外の話であるのだろう。
すると、ドラゴンが「到着した」と宣言するなり、地上を目指して
そうして到着したのは、広大な岩場である。かなり山頂に近いらしく、びっくりするぐらい空気が
「おー、すっげー。この山には、こんなスポットもあったんだねぇ」
ドラゴンの背中から飛び降りた咲弥は、ぐるりと周囲を見回した。フットサルができそうなぐらいのスペースで、切り立った
「見晴らしはいいし、地面もけっこう平らだし、ペグさえ
「左様か。それはまったくかまわぬが、まずは装備の補充であるな」
ドラゴンは長い首をもたげて、崖と反対の側を見た。そちらは
「ふむふむ。お宝の山は、あちらに保管されてるのかなぁ?」
「左様である。こちらも結界を張っているので、
ドラゴンの尻尾がふわりと宙をかくと、きらめく光の
「では、参るがよい。……サクヤたちには、明かりが必要であるな」
ドラゴンがまた尻尾をひと振りすると、青白い
「おー、すごいすごい。できればランタンも補充したかったんだけど、この魔法があれば十分かなぁ」
咲弥の言葉に、ドラゴンは小首を傾げた。
「我も以前に同じような思いを抱いたのだが、トシゾウには不要と判じられている」
「あ、そーなの? じっちゃんは、何がお
「うむ。青白い光というものは人の心に
それで咲弥も、
「……かえすがえすも、我の生み出す炎は人の世にそぐわないということであろうな」
ドラゴンがふっと目を伏せたので、咲弥はその首をぺちぺちと
「もー、いちいち気にしないでいいってばぁ。それ以外の魔法は、みんな
「うむ。またサクヤに、いらぬ
ドラゴンはやわらかく目を細めたが、ケルベロスの三対の視線に気づいて居住まいを正した。
「では、進むがよい。宝物は、この
そのように告げるなり、ドラゴンは真紅の輝きを発してシベリアンハスキーぐらいのサイズに縮んだ。こちらの洞穴はかなりの規模であったが、もとの姿で足を踏み入れるのはさすがに窮屈であったのだ。
そうして一行は、ふわふわと
「ひゃー! ほんとーに、おたからのやまなのです!」
やがて洞穴の奥に到着すると、アトルが仰天した声をあげた。そちらには、まさしく宝の山がどっさり積み上げられていたのだ。
絵に描いたような宝箱からは、金貨や宝石などがあふれかえっている。今にも動きだしそうな白銀の
3
「こちらには食器の類いも存在するはずだが、保管した場所を失念してしまった。アトルとチコはそれを捜しつつ、他にも活用できそうな品があるかどうか見つくろうがよい」
ドラゴンがそのように申しつけると、亜人族の兄妹は「わーい!」とはしゃぎながら宝の山に
「本当に、
「へん! まがりなりにも王だったんなら、これぐらいは当然だろ!」
「うむ……それに、王として君臨していた時代には、これとも比較にならぬほどの財宝を手中にしていたのだろうな……」
同じように感心していても、発言の内容はずいぶん異なる三つの首である。ただし、もっとも瞳を輝かせているのは、いつでもやんちゃな右側の首であった。
「おっ、なんだこれ! おかしな形だな!」
と、右側の首に引っ張られるようにしてケルベロスが近づいていったのは、ヒマワリのごとき植物をモチーフにした巨大なオブジェである。人間ぐらいの
「それは、周囲の空気の
「な、な、なんだそりゃ! そんなもんが、なんの役に立つってんだよ!」
「そもそもは、
「まったく、人間族ってのは……」と不平がましい声をこぼしながら、ケルベロスは前足をちょちょいとかざしてまたからくり人形を踊らせる。それで楽しげに顔をゆるませるのは、やはり右側の首であった。なんだか、
咲弥としても見ていて
「確かに立派なお宝がどっさりだけど、キャンプギアに転用できそうな品があるのかなぁ?」
「うむ。屋根ならば、こちらの品は
ドラゴンの尻尾がしゅるしゅるとのびて、岩盤にたてかけられていた品を取り寄せた。
「こちらは『
「おー、すっげー。でも、こんなゴージャスな織物をタープの代用にするのは、もったいなくない?」
「どれほど
そんな風に言ってから、ドラゴンは巨大な織物を咲弥の首から下にあてがった。
「まあ、こちらはそもそも
「いやいや、猫に小判の
「左様か」といくぶん残念そうな目つきをしながら、ドラゴンは尻尾だけで器用に織物を丸めた。
「あ、ただ、タープとして使うには備品が必要になるんだよねぇ。ロープは余分にあるけど、ポールとペグは買い足すしかないかなぁ」
「なるほど。支えになる柱の棒に、ロープを地面に固定する
ドラゴンは一考してから、また尻尾をのばした。それが二往復して、二種の品を咲弥の足もとに並べる。片方はセカンドバッグぐらいのサイズをした黒光りする
「こちらは『聖騎士の槍』である。あくまで装飾の品であるが、伝説の
その穂先は白銀に照り
「なんか、ますます気が引けてきたなぁ。……そっちのケースは、何かしらん?」
ドラゴンは無言のまま、革のケースの留め具に尻尾の先を
「おー、確かにペグっぽい。これは、どういうお宝なのかなぁ?」
「こちらは『
「おおう……そんなものをハンマーでがしがし叩いたら、
「大事ない。我が
よくよく見てみると、その杭の表面にもびっしりと紋様が刻まれている。咲弥の
「タープなる屋根に関しては、これにて
奥のほうにのばされたドラゴンの尻尾がひょいっと持ち上げたのは、人間が寝そべることもできそうなぐらい巨大な、石造りの台座であった。こちらは白大理石のような材質で、側面にはやはり
「……ドラゴンくんは、力持ちだねぇ」
「うむ。身を圧縮させても、力が弱まるわけではないのでな」
細長い尻尾ひとつで台座を引き寄せたドラゴンは、それを地面にそっと下ろした。
「こちらは、『祝福の
「ほうほう。ようやく
「うむ。古き神に
「……もしかして、わざとやってる?」
「あくまで、模造の品である。我とて、死の
ドラゴンが
「ともあれ、これだけの大きさであれば作業にも不自由はあるまい。アトルやチコの背丈でも、支障はなかろう」
「うん、まあ、それは認めよう。あー、だけど……欲を言ったら、カッティングボードも
「カッティングボード……いわゆる、まな板であるな」
ドラゴンはまたしばし思案してから、尻尾をのばした。それが運んできたのは、A4サイズの
「こちらは『プロフェーテースの
「うんうん。いちいちつっこむのも
そうして咲弥が
「りゅーおーさま! おさらをはっけんしたのです!」
「ほかにもおやくにたちそうなものをみつくろったので、ごかくにんをおねがいしますのです!」
『祝福の閨』なる石の台座に、それらの宝物が並べられていく。ドラゴンの尻尾が、その内のひとつをつまみあげた。
「ほう。こちらは『サラマンダーの
「はいっ! トシゾウさまのつかっていた、らんたんというどうぐにそっくりなのです!」
確かにそちらは、ランタンによく似た形状をしていた。台座の上に
「これは魔力の
ドラゴンの尻尾が上部の笠を操作すると、
「この笠の開き具合で、明かりの強さを調節することができる。こちらの世界でも、
「大魔道士ヘルメス……?」と反応したのは、
「それはこの世に
「道具なんて、使ってなんぼだろ! こんな場所に
右側の首が
「火の神殿から我のもとに移されただけで、けっきょくこの品は眠り続けることになった。どうかサクヤのもとで、正しく使ってもらいたい」
「はーい。こっちの食器はすいぶん立派だけど、汚しちゃって
「うむ。そちらは聖王国ヴェイロムから
それは、美しい
「あと、こちらのかたなはすごいきれあじなのです!」
「うむ。そちらは
「えー? だけどちょっと、
「大事ない。たわむれに試してみたところ、我の鱗に傷ひとつつけることはかなわなかった。おそらくは、竜族をも
「そんなの、たわむれでも試しちゃ
咲弥が口をとがらせると、ドラゴンは居住まいを正して「左様であるな」と
「今後は、
「ぼくにはわからないですけれど、すごいきれあじなのです!」
アトルは鞘から短剣を引き抜くと、その場に
「わー、そんなの使ったら、カッティングボードもテーブルも真っ二つじゃない? 切れすぎる
「左様か。アトルよ、そちらはもとの場所に戻してくるがよい」
「りょーかいなのです!」と、アトルは残念がる様子もなくぴゅーっと駆け去っていく。すると今度は妹のチコがもじもじしながら、美しい小ぶりの
「こ、こちらのつぼは、すくってもすくってもおみずがわいてくるのです。とてもふしぎでべんりなのです」
「そちらは『ウンディーネの
「おおー、あたしのウォータージャグはソロキャン用のサイズだし、じっちゃんの分まで詰め込むスペースがなかったから、そいつがあれば心強いなぁ」
「サ、サクヤさまのおめがねにかなえば、きょーえつしごくなのです!」
チコはいっそうもじもじとしながら、
すると、ドラゴンが「ふむ」と思案する。
「壺か……であれば、こちらも有用であるやもしれんな」
ドラゴンの尻尾が、新たな壺を引き寄せる。いかにも美しい『ウンディーネの恩寵』とは異なり、真っ黒で禍々しいデザインをした壺だ。ただしサイズは、いっそう小ぶりであった。
「こちらは、『
「うんうん。いかにも
「この壺は、呑み込んだものをすべて虚無に返すのだ。存在そのものが
「えー? でもそれも、取り扱いが難しくないかなぁ? うっかり手でも
「大事ない。この小さな壺の内に収まりきるものでなければ、魔法は発動されないのだ。であれば、危険はなかろう?」
その壺は、口の直径も全長もそれぞれ十五センチていどとなる。であれば、危険にさらされるのは虫や小動物ぐらいであるだろう。
「それにサクヤは、山中における
咲弥は「ストップ」と宣言しながらドラゴンの口もとに人差し指を
「ドラゴンくん。
「……サクヤの気分を害してしまったのなら、心よりの謝罪を申し述べよう」
「いえいえ。こちらのアイテムはとても便利そうなので、つつしんでお預かりいたします」
そんな感じで、キャンプギアの
タープの代用である『精霊王の羽衣』、ポールの代用である『聖騎士の槍』、ペグの代用である『昏き眠りの爪』、作業台の代用である『祝福の閨』、カッティングボードの代用である『プロフェーテースの黒碑』、ランタンの代用である『サラマンダーの寓居』、聖王国ヴェイロムから献上された銀の食器類、ウォータージャグの代用である『ウンディーネの恩寵』、