幕間 ~アトルとチコの憧憬~
「サクヤさまは、おとぎばなしのおーじさまのようなりりしさであったのです!」
「いえ! サクヤさまは、おとぎばなしのおひめさまみたいにきれーでかれんであったのです!」
アトルとチコがそのように声を張り上げると、同じ
「おーじさまとおひめさまでは、はんたいなのです。アトルとチコの、どっちがただしいのです?」
アトルとチコは二人仲良く「えーとえーと」と頭を
「チコのいうとおり、サクヤさまはおひめさまのようにきれーでかれんであったのです」
「でもでも、アトルのいうとおり、おーじさまのようにりりしかったのです」
「それでは、けっきょくわからないのです。サクヤさまとは、どのようなおかたなのです?」
母の言葉に、兄妹は「うーん!」といっそう頭を抱え込んでしまう。すると、父が
「どちらにせよ、りっぱなおひとであることはたしかなようなのです。さすがはりゅーおーさまのごどーはいなのです」
「はい! サクヤさまは、とてもりっぱなおひとであったのです!」
「それに、つよくてかしこくてうつくしかったのです!」
兄妹の言葉に、他の家族たちも
「アトルとチコには、くろーをかけるのです。でも、ふたりのおかげでみんなしあわせなせいかつをおくれているのです」
「とんでもないのです! じゅーよーなしごとをまかされて、ぼくはとってもこーえいなのです!」
「そうなのです! それに……りゅーおーさまもサクヤさまもおやさしいので、わたしたちはしあわせいっぱいいっぱいなのです!」
兄妹のそんな言葉に、家族たちはいっそう表情を安らがせた。
今から、およそ一年前――
「
それは
「我の悪名が
コメコ族は、畑というものを知らなかった。彼らは祖父母が幼子であった時代から、この砂の海の
「畑とは、野菜を育てるための場である。其方たちは
その野菜という言葉も、コメコ族には
「其方たちは砂の船にて訪れる行商人から、干した豆や果実などを買いつけているのであろう? 生鮮の野菜にも其方たちに必要な
竜王はそのように申し述べていたが、そもそもコメコ族に
そして――コメコ族は、思わぬ幸いに見舞われることになった。アトルとチコは毎日のように連れ出されることになったが夜には無事に帰されたし、そしてしばらくののちには畑の
それらはすべて、素晴らしい味わいであった。さらには美味なる果実酒まで届けられて、集落は喜びの思いに満たされることになった。そうして竜王が決して
「りゅーおーさまのごどーはいであられるトシゾウさまというおひとも、すばらしいおひとがらであられたのです!」
「はい! さいしょはちょっとこわかったですけれど、トシゾウさまはとってもおやさしーのです!」
アトルとチコもほんの数日ていどで、そんな風に申し述べていた。魔の山には人間族の老人も住まっており、それが竜王とともに畑というものを作りあげたのだという話であった。
その
そしてその後には、歳三の
「サクヤさまがりっぱなおひとで、なによりであったのです。アトルとチコはこれからも、いちぞくのためにがんばってほしいのです」
「はい! もちろんなのです!」
「サクヤさまとおあいできて、わたしたちもうれしーうれしーなのです!」
そうして食事を終えた後は、家族みんなで
しかし、アトルとチコは同じ毛布をかぶりながら、なかなか眠ることができなかった。咲弥とは今日の朝方に別れたばかりであったので、まだその
「あしたのあしたには、またサクヤさまがきてくれるのです。ぼくはいっぱいいっぱいたのしみなのです」
「わたしもなのです。サクヤさまはおやさしいので、いっぱいいっぱいだいすきなのです」
咲弥は歳三と同じように、いつでものんびり笑っていた。しかし、時としては
そんな咲弥の指示で作りあげた数々の料理は、とてつもない味わいであった。アトルとチコは歳三が作りあげる料理にも心から満足していたのだが、咲弥の料理はそれとも
「それに、きのうのよるもしあわせいっぱいいっぱいだったのです」
うっとりと目を細めながら、チコはそう言った。昨日の夜は、咲弥が持ち込んだテントという小屋の中で眠ることになったのだ。
もちろんかつては歳三も、アトルとチコをテントの中で眠らせてくれた。ただ昨晩は、咲弥が竜王の身に
「今日もなかなかの
「アトルとチコが望むのであれば、べつだん拒む理由はない」
そう言って、ドラゴンは長い尻尾をしゅるりとのばしてきた。それでアトルとチコは、そのつやつやと照り
「やっぱりサクヤさまだけじゃなく、りゅーおーさまもおやさしいのです」
「はい。りゅーおーさまにおつかえできて、わたしはしあわせいっぱいいっぱいなのです」
そんな風に言い合いながら、
他の家族たちはすっかり