「うむ。我が解析したところ、酒精の成分は三割といったところであったな」

 そのように語るドラゴンは、長い舌をのばしてマグカップの中身をなめ取っていた。咲弥にとっては、初めて目にする所作である。

「ふむふむ。さすがのドラゴンくんも、ひと息で飲み干すのはためらうアルコールのうなのかな?」

「うむ。我は、水で割っていないのでな」

「にゃるほど。なつとくであります。ではでは、ローストチキン……いや、まずはローストデザートリザードをいただきますかぁ」

 そのように宣言しながら、咲弥はまず未知なる葉菜たる『黄昏の花弁』からいただいてみたが――確かに食感は、ハクサイと似ている。しかしハクサイよりもいっそう肉厚であるため、蒸し焼きにされても多少はしゃくしゃくとした食感が残されており、そしてハクサイよりも豊かな甘みと花のような風味が感じられた。

「おお、こいつは美味しいねぇ。ほんとにちょっと、花びらを食べてるような感覚だよぉ」

「うむ。実際には、甘い花びらなどは存在しないのであろうがな」

 そのように語るドラゴンも、ごまんえつの眼差しである。そして、デザートリザードの肉を口にした兄妹たちは「きゃーっ!」と悲鳴めいた歓声をあげた。

「こ、これはとんでもなく、おいしーおいしーなのです! デザートリザードのおにくが、しんじられないぐらいやわらかなのです!」

「はいっ! やいたおにくなのに、にこんだおにくぐらいやわらかなのです!」

「うんうん。それこそが蒸し焼きのおんけいだろうねぇ。たっぷり時間をかけたがあったかなぁ」

 咲弥も異界の獣たるデザートリザードの肉を頬張ってみると、外見通りのとりにくに似た味わいだ。脂は少ないが肉汁は豊かで、ほどよい弾力がとても心地好い。くさみなどはまったくなかったし、調理の直前にすりこんだ『ほりこし』とオリーブオイルの下味もしっかりきいていた。

「ああ、これはいいお肉だねぇ。高級な地鶏だって言われても信じちゃいそうだなぁ」

「うむ。デザートリザードの肉はいくらでも手に入るので、今後も大いに活用してもらいたい」

 ドラゴンのこわは相変わらずちんちやくしぶみがかっているが、その黄金色の瞳は星のようにきらめいている。その明度は、牛ステーキのアヒージョを食していた際にも負けていなかった。

「それじゃあ、本物の鶏肉とも食べ比べしてみよっかぁ」

 咲弥はカッティングボードにスペースを作り、鶏モモ肉の片方を切り分けた。骨つきの立派なモモ肉であるが、四名がかりならささやかな量だ。それを口にした兄妹は、再び「きゃーっ!」とかんたけびをほとばしらせた。

「こ、こちらはデザートリザードよりも、もっとやわらかなのです! こんなにやわらかなおにくは、うまれてはじめてかもしれないのです!」

「ほ、ほんとーなのです! トシゾウさまからいただいたぶたやうしのおにくより、もっともっとやわらかなのです!」

 咲弥も「ほうほう」と食してみると、確かにデザートリザードの肉よりもさらにやわらかい。あとは、部位の問題もあるのだろうか。デザートリザードの肉は鶏の胸肉に似た食感でそれも好ましい限りであったが、鶏のモモ肉はいっそう肉汁も豊富で、きわめてジューシーな仕上がりであった。

 それにやっぱり、『ほりこし』とオリーブオイルの下味がきいている。こちらは家を出る前にけ込んでおいたので、いっそう味がしみこんでいるのだ。『ほりこし』の有するニンニクやペッパーや各種のスパイスの風味が肉の風味と溶け合って、またとない味わいを完成させていた。

「素晴らしい……これほどに美味なる料理を口にしたのは、この世に生を受けて初めてのことやもしれん」

 ドラゴンなどはまぶたを閉ざして、感動に打ちふるえんばかりであった。

「気に入ってもらえて、何よりだよぉ。牛ステーキのアヒージョよりもおしたのかなぁ?」

「それは――」と、まぶたを開いたドラゴンは、実に切なげな眼差しを咲弥に送ってきた。

「そのように難解な質問に答えることはできん。どうか、ようしやを願いたい」

「あはは。そんなマジにならないでよぉ。好きなもんに順番をつける必要なんてないさぁ」

 咲弥がついそのしなやかな背中をぺしぺしとたたくと、ドラゴンはむしろうれしそうに目を細める。であれば、咲弥もますます楽しい心地になるのが自然のせつというものであった。

 アトルとチコはきゃあきゃあとはしゃぎながら、残された肉や野菜を頬張っていく。こんなに小さな体であるのに、食欲のほどはドラゴンにも負けていないようだ。

 しかしダッチオーブンの中には、まだデザートリザードの肉塊と鶏のモモ肉が半分ずつ残されている。ごうな夕食はまだ折り返し地点であるのだから、最後には彼らの心と胃袋も満ち足りることだろう。そして咲弥の心に関しては、もうキャパオーバーを起こしそうなぐらい温かな気持ちで満たされていたのだった。