通いの蝶

紅く染まった木々が枯れ、風が凍てつくようなものに変わった冬。私は自室にて人生の岐路に立たされていた。

私の人生を大いに左右する存在。穏やかな日々を激動する嵐の中へと変える存在は、この世界にたった一人しかいない。要するにレイド・ノクターから手紙が来た。

春からそこそこの頻度で手紙は来ていたけれど、問題はその内容だ。

レイド・ノクターの手紙は基本的に庭の様子、家族の様子、最近読んだ本、最近聴いた音楽の四種類で構成されている。だから私も同じような内容で返している。はじめこそ投獄死罪がちらつき血眼になって不審点がないかと書いた手紙を読み返していたけれど、なにかしら作品の感想を書いておけばいいと気づいてからは、気楽に返事を書いていた。

よって、たまに来る屋敷への招待さえ断り続けていればいい。そんなふうに私は考え、慢心していた。

『今度御屋敷の中を案内してくれないかな? 都合のつく日を具体的に教えてね』

そして今朝届いた手紙の、最後の一文。

なんというか、「具体的に教えてね」に過去最大の圧力を感じる。

一般的な婚約者同士の手紙のやり取りであれば、微笑ましいやり取りだと思う。二人で仲良く庭園などを散歩して、優雅に紅茶を飲む姿すら想像できる。

しかし私にとっては、レイド・ノクターと私が二人で歩く映像から、徐々に周りが焼けこげ、次に映るは私や両親が投獄される姿が思い浮かぶ。メロや屋敷で働いてくれている皆が路頭に迷う姿も見えるし、最後に断頭台のカットの後に、漆黒の背景、鮮血の赤でゲームオーバーと文字が記され終幕という光景が、頭の中でムービーとして再生される。

先日、エリクとレイド・ノクターのまさかの遭遇事件が起きたことで、私はレイド・ノクターの誘いを断り続ける中、エリクとは高頻度で会っていることを知られた。

あの後、個々に説明しエリクに対しては誤解が解けた。が、レイド・ノクターは納得していないようだった。おそらくその弁明を求めているのだろう。

私は疲労を感じながらカレンダーを見て、空いている日を確認した。

緑の星が付いている日はエリクと勉強会の日。赤い丸が付いている日は乗馬練習だ。あれから馬に乗り走れるようになったものの、ジェシー先生の「続けてないと腕が鈍るぞ」との指摘により練習は続行している。

そういえば先生の冤罪事件当日、私がシーク家の屋敷で夕食を食べている時、アーレン家の屋敷では、私がシーク家とアルゴー家の争いに巻き込まれたことを聞いた父が、アルゴー家を潰そうと暴れだし騒ぎになっていたらしい。

そんな父を母が、「ミスティアはそんなこと望まない」と説得してくれたことで、第二の事件に至らなかったと聞いた。

本当にありがたい。罪は法で裁かれるべきだし、家族に手を汚してほしくない。私が受けたダメージは、「もしかしたら、ただの誤解だったかもしれない相手に高圧的に接した」ことへの罪悪感だ。兄弟には悪意があったけれど、本当に悪意がなくただの誤解による可能性だって十分にあった。反省しなければ。

ちなみに父は、ノクター夫人と甥の事件の時も甥に報復をしようとして、ノクター伯爵に「自分にさせてほしい」と頼み込まれ耐えたらしい。家族がなにもしなくて良かったような、複雑な心境である。

そうしてエリクと勉強をし、ジェシー先生と乗馬練習をするという攻略対象と関わった生活をしているけれど、私が攻略対象に関わるだけならバグや異常事態は起きないことがわかったため、気後れはない。

カレンダーを見ながら、便箋に空いている日を書いていく。バグは起きないけれど投獄死罪が直接的に関わるレイド・ノクターとのやり取りは気後れしかしない。

私は配送の手違いで三か月後くらいにこの手紙が届いてくれないだろうかと祈り、手紙をしたためたのだった。


レイド・ノクターから返信が来たのは、それから翌日のことだった。驚がくした。意味がわからない。速度がおかしい。

混乱しつつ手紙を確認すると、彼が屋敷に訪問する日取りが綴られていた。目を凝らしてよく見ても、そこに記されていたのは二日後の日付であった。