「すみません」

「気にしなくていい。それより……、ありがとう。庇ってくれて」

「それこそ気にしないでください。鞍を選んでくださってありがとうございました」

体勢を立て直すと、シーク伯爵が「ねえ」と私に視線を合わせるようにしゃがみ込む。

「ミスティアちゃん、突然だけれど今日は夕食にご招待してもいいかい?」

「え」

「危険な目に遭わせただろう? おうちには連絡するから、ね?」

どうしよう。ジェシー先生の方を見ると、先生は力強く頷いた。

「食いたくないなら、無理強いはしない。でも、そうじゃないなら一緒に……」

「なら……、えっと、よろしくお願いします」

「やったぁ! ミスティアちゃんとお食事だね! なぁジェイ!」

「うるせえな」

「じゃあミスティアちゃん、さっそくだけど馬車があるから」

伯爵に、停まっているシーク家の馬車に促される。

そのまま馬車に向かおうとすると、ジェシー先生が私に鞍の入っていた包みを差し出してきた。包みには傷一つない。先生が取り押さえられながらも守ってくれていたのだ。

「ありがとうございます! ……あ、あの、先生はお怪我ないですか? 鞍を守って先生が、怪我とかは……」

「特にない。それにもう二度目だぞ、その質問。ほら、乗れ」

包みを受け取り馬車に乗り込むと、ジェシー先生も乗り込んだ。シーク伯爵は別の馬車で帰るそうで、御者によって扉が閉められ馬車は走り出した。

ほっと息を吐いて、心からジェシー先生の無事と変わりない姿に安堵する。

イレギュラーの私が攻略対象に関わっても、別に異常事態は起きない。

私さえ気をつけていれば、相手のトラウマや、精神の根幹に関わるようなイベントの邪魔さえしなければ、大丈夫。

その事実に心が穏やかになっていくのを感じて窓の外に目を向けると、そこに嵐も、黒い雲もなく、ただ赤々とした夕日が沈もうとしていた。