微笑ほほえんでくれる。

 恥ずかしそうに顔と耳を赤くするところが、初々しい少女のようで、かわいらしい。

「長女のマリアーヌです」

「次女のミリアリーフです」

「三女のソクラシアです」

「手にキスを」

 長女さんから右手の甲を差し出してくる。もちろん近づかないとできないので、接近する。

 ドレスアーマーと白い素肌にすごいドキドキしてくる。

 それからミーニャたちとも違う、女子高生くらいの女の子特有の甘いモモのようないい匂いもしてきてクラクラする。

 ちゅ。ちゅ。ちゅ。

 無心。心を空っぽにして作業のようにキスを落とす。

 断固、精神を統一して作業を遂行した。俺の周りにはみんながいる。

 俺の横にはすでにミーニャ、ラニア、シエルが待機していて、そのエルフさんたちを顔を赤くしてぼーっと見つめていた。

 これは彼女たちが美しくて、見とれているのだろう。

 そして少し離れてギードさんとメルンさんもいた。

 メルンさんとミーニャはさっきまで俺と離れて治療をしていたけれど、すでに終わっている。

 治療のとき、ミーニャの前に若い冒険者が列を作っていたので笑ってしまうところだった。

「どうだい? 僕の自慢の戦友たちは」

「あ、はい! とっても美しい、綺麗だと思います」

「そうかいそうかい。だそうだよ」

「「「……ありがとうございます。エド様」」」

 ちょっとためらった後、俺にお礼を言ってくれる。

 少しほおを染めるところとか、めっちゃかわいい。

 褒めたせいか、少し恥ずかしいのか目が若干泳いでるもんね。

 あ、目線が止まった。顔が赤くなる。目線を追うとギードさんだった。

 ギードさんがうつむきつつ、目立たないように片手をそっと上げる。

 そうすると姉妹三人が目を見開いて、今度は目を細めて、そっと頷いた。

「あの、マーク」

「なんだい?」

「明日、午前中少しの間、用事ができまして、私たちに時間をください」

「そうか。まあ、いいよ。別に急いでいないし」

「「「ありがとうございます」」」

 姉妹が揃って頭を下げる。

「それじゃあ、明日の午前中はフリータイムということで。僕もついていくけど」

「わかりました」

「では、戻ろうか」

 三姉妹はそっとポンチョコートを羽織って視線から衣装を隠す。

 さっきからじろじろ見られていたのだ。

 その男性たちの視線の数はちょっと数えきれないくらい。

 そっと長女のマリアーヌさんが俺に聞いてくる。

「すみません。エド様、あのエルフの方は?」

「ああ、あのちょっと名前は言えなくて。なんで?」

「いえ、その知り合いでして。ご領主様と言っても信じてもらえないと思うのですけど」

「あぁ、あの失礼ですが聞きたいんですけど、教会派ですか? それとも正教会派ですか?」

「教会派です。あの、ギード様に会わせてください」

 後ろのマークさんも頷いてくれる。

「彼女たちは確実に教会派だ。僕が保証する」

「いいよ、明日、うちに朝早くおいで。喫茶店エルフィールってお店だから」

「わかりました。必ず、必ずや、お伺いします。このマリアーヌ、命に懸けて」

「いや、命は大事にしてください」

「うっ、は、はい」

 こうして明日の朝、うちで会うことになった。


 昨日エルフ三姉妹と会う約束をした。朝になって、ラニアもうちに呼んである。

 俺たちの中には秘密はなしだ。ギードさんには確認して了解してもらった。

 あ、ギードさんが領主という話はバレてしまったので、バレたことになった。

 ややこしいが、そういうことで。

「ごめんください」

「ようこそ」

 先頭に鎧装備を収納した軽装になっているマークさんがいる。

 部分鎧だけど、これはこれで高そうなのが一発でわかる程度にはいいものを着ている。

 その後ろには三姉妹が今日もポンチョコートで入ってきた。

「喫茶店エルフィールですか。いいお店ですね」

「でしょ」

 マリアーヌさんにそう言われると俺もうれしくなる。

「「「失礼します」」」

 そう言うと、ポンチョコートを脱いで収納した。みんなマジックバッグを持っているみたいだ。

 スカートの横の隠しポケットがそうらしい。昨日のドレスアーマーのミニスカの格好になる。

「領主様……」

 ギードさんが立ち上がると、声をかける。三姉妹がギードさんの前に並んで、片膝を突く。

 そして三人ともミスリルのナイフなのだろう短剣を掲げる。

 例の、俺も持ってるドワーフ作の一品という親愛のあかしだ。

「領主様、ここに長女のマリアーヌ、生きて、参上しました」

「領主様、次女のミリアリーフ、私も、生きて、お会いしたかったです」

「領主様、三女のソクラシア、お姉ちゃんたちと一緒に生きてきました」

「あ、ああ、生きていてくれて、うれしいよ。フェルメールの三姉妹」

「はい。領主様。しかしサルバトリア領は」

 長女さんが代表して会話をするらしい。

「そうか、すまない。私の犯した罪だ」

「いえ、そんな、そんなことあるわけないです。人族だって同胞だと。それは建前ではなく、事実としてそこにあると。本当のことです。立派なことをしただけです。領主様は」

「まあ諸侯には恨まれてしまったけどね」

「あれは、どう考えても、言いがかりです。あんな仕打ち。エルフ同士で、なにやっているんでしょう、私たちは」

「本当にバカだな、エルフは」

「そうです、そうですよ」

 と、まあ共通の敵を見て盛り上がったところで、話を戻す。

「メルン様、それからミーニャ様」

「生きていてくれて……うれしいです。三人とも」

「んにゃぁ、私? 私えっと」

「ふふふ、ミーニャ様はまだ小さかったから。ほらウサギさんですよ」

 そう言うと指を小指と人差し指だけ伸ばしてウサギっぽくする。

「あっあ、これ私知ってる。お姉ちゃん?」

「そうだよ、ウサギのお姉ちゃん」

「わっ、わっ、なんだか懐かしい気がする」

 ミーニャがマリアーヌに抱き着く。それをそっとあやしてから、話を始める。

「私たちは生きて子孫をその……つなぐ。そのためには無条件降伏しかありませんでした。私たちは降伏のすきに領主様同様、逃げられたのですが──」

 三姉妹だけではない。

 八年前、エルフ騎士団のうち若い子はエルダニア出兵に際して残された。未来のために。

 エルダニアから生きて戻ってきたエルフもいて、騎士団の規模は半分以下になったものの再結成された。しかしそれも数年のことだった。

 サルバトリア領は諸侯から反逆罪の汚名を着せられ、あっという間に諸侯軍に包囲された。

 真っ先に領主様を脱出させた後、エルフ騎士団はろうじょうしていた。

 そして降伏勧告。

 脱出前の領主様の判断は「生き抜いてくれ。死ぬな」。

 元々エルフは人口が少ない。それゆえ死んだらなんもならないのは骨身に染みている。

 モンスター戦では仕方がないが、エルフ同士で殺し合っていてはだめだ。

『じーじは最後の最後まで、戦いますじゃ。裏王家、エルフの誇りに懸けて。賊は向こうですじゃ。大義は我にあり』

『じーじ、領主様は生きろとおっしゃいました。降伏しましょう』

 玉砕するというじーじの言葉をみんなで説得して、生きる道を選んだ。

 いくら屈辱的でも生きていれさえすれば、またチャンスは来るはずだからと。

 こうして無条件降伏の受け入れとなり、城門を開けた。

 エルフ同士、まだ話はできるはずだ。その間、ほんの少しだけど時間に猶予があった。

 その隙に若いエルフたちを優先させて領都から脱出させた。

 三姉妹をはじめ多くの若いエルフはメルリア王国の首都メルリシアに避難した。

 それから冒険者を始めた。マークさんとは首都メルリシアで出会ったそうだ。

 マークさんは元のパーティーメンバーと業績を上げて王都に屋敷をもらった。

 パーティーを解散して王都で休暇をとっていたらしい。

 そこへエルフの三姉妹と運命的な出会いをして、今は彼女たちとパーティーを組んでいるそうだ。

「こんなんでも、マークはいい奴だから」

「そうなのよね」

「そうそう」

 口々にマークさんを褒める。そっと自分たちの格好を見て、頬を染める。

 マークさんもまんざらではなさそうに、首をブンブン振っている。

「マーク、改めて、路頭に迷いそうだった私たちを救ってくれて、ありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

 ちゅ。ちゅ。ちゅ。三姉妹がマークさんの頬にキスを落とす。なるほど。

 細かいことはわからないけど、この子たちもいい関係を築けているんだ。

 そういうのはなんかいいなって思う。

 うちも、みんなといい関係を続けられたらと思う。

「マークはそこそこ強いから、死なないでしょ。でも寿命で死んじゃうかもしれないね」

 ソクラシアさんがそっと言った。

「……」

 人とエルフではどう頑張っても寿命には差がある。

 ちょっとしんみりしてしまった。

「あ、でもマークの魔力はおかしいから、エルフと同じくらい生きるかもしれません」

 マリアーヌさんがそう言う。

「領主様、どうなんです?」

 今度はミリアリーフさんが質問した。

「そうだね。魔力が多ければ、長生きはすると思う。あと僕はもう領主じゃないんで、その、ギードさんとでも呼んでくれ」

「そんな、領主様は私たちの領主様です。いつもよくしてくださいました」

「そうですよ、お姉ちゃんのいう通りです」

「ソクだって、そう思います」

「そ、そうか、でも変な感じだ。領主業からは逃げてきたからな」

「逃げてきたんじゃないです。みんなで逃がしたんですから、領主様の責任ではありません」

「まあ、そういう解釈も」

「そうなんです、あれは領のエルフ貴族の総意なんですから」

「そうだったな、すまん。オンボロ領主で」

「そうですね。こんなところで喫茶店なんてやってる領主はオンボロですね」

「あはは」

「それもエルフィールだなんて」

「そうだな」

 ちょっと涙目だけど、笑顔を浮かべて、生きて再び会えたことをよろこびあっていた。

 くっそ。いいじゃねえか。俺まで泣きそうだ。


 この後はトライエ市のほうの領主に挨拶してから、そうそうに王都へ帰るそうだ。

 西の人間同士のいざこざは彼らの領分ではないとのこと。

 王都はトライエから見て東側、エルダニアの先にある。

 三姉妹とも別れ際に俺の頭をでてくれた。向こうを向いて、ポンチョコートを羽織る。

 うちから出ていく。さて、学校に行かないと。

 お姉さんたちのドレスアーマー姿もなかなかカッコよかったな。




 ゴブリン・スタンピードのとき、Bランク冒険者相当のメルンさんとギードさんは目立たないように新東門で待機していた。

 ひっそり後方から戦線を抜けてきた敵をたたいていたらしい。

 表立って目立った戦闘はできなかったものの、精一杯戦ったようだ。

 そのおかげで新東門より内側のスラム街には被害が一切なかった。

 その代わり小学校がある真ん中の北東門のほうでは少し被害が出てしまった。

 新北門には騎士団、ようへい団、マークさんたちもいたので、余裕の戦闘だったようだ。

 エルフのお姉ちゃんたちは三人ともけいがいだけど魔術師なので戦闘時にはつえを装備している。

 あの軽量な格好は回避に重点を置いているのだ。

 当たらなければどうということはない、という格言もあるし。

 俺もミーニャ、ラニア、シエルの三人にドレスアーマーを着させるところを想像してみる。

 うーん、今の背格好のままだとちんちくりんだな。

 まず胸がないし、胴もずんどうで子供体型だ。

 かわいいといえばかわいいが、まあ大きくなってから検討してみよう。


 さてマークさんとラプンツェル・シスターズが領主とえっけんしていたけど、俺たちもゴブリンキングを仕留めたため、領主との謁見が待っていた。今回は歩いて領主館へ向かう。

 この前、鍋を返しに行ったとき以来だけど、貴族街の南大通りを進むのは緊張する。

 大通りは東西南北にあり、南は距離が短い。その南側にメルリア川が流れているからだ。

 南側の貴族街は北半分より少し狭いのだ。

 その土地に貴族たちが広い区画で家を並べているので、圧巻だったりする。

 領主に招待されているのは俺たちのパーティーだ。ミーニャ、ラニア、シエル、そして俺の四人。

 倒し損ねた敵がラニエルダへ入らないように最終防御ラインを守っていたギードさんたちは招待されていない。

 本来なら保護者でもあるのでギードさんとメルンさんも招待されてもおかしくない。

 これはおそらく、訳アリのエルフ様ご本人を招待するのはまずいということなのだろう。

 あくまで対外的には領主は「知らない人」でいないといけないのだ。

 さて南大通りの突き当たり、立派な領主館に到着した。

 名前を名乗り守衛さんに通してもらい中に入る。

 メイドさんが出てきて控室に案内してもらった。

「お茶です。どうぞおくつろぎください」

 お茶が出てくる。色が赤い。紅茶だ。これは渡来品でもちろん高級茶だ。貴族のお茶会には高いお紅茶というわけだ。

 健康茶やハーブティーとは客層がまったく違う。俺たちが扱っているお茶は主に一般市民以下をターゲットにしていた。

 市民以下には今までほとんどお茶の習慣がなかったのだ。

 紅茶には最初から砂糖が入れられていて、優しい甘味を感じた。

「おいちい」

「ええ、この赤いお茶、おいしいです」

しいみゃう」

 みんなその赤い不思議なお茶を堪能している。お茶菓子は蜂蜜クッキーだった。

 砂糖と並んで蜂蜜も高級品で、一般市民はほとんど口にしない。

 執事さんが入ってくる。すでに今日の謁見の内容については連絡が来ていたので、概要は知っている。

「魔石はございますか?」

「はい。マジックバッグに入れてあります」

「よろしいです。確認のため一度出してもらってもかまいませんか?」

「はい」

 俺がアイテムボックスからゴブリンキングの魔石を取り出して手のひらにのせて見せる。

「確かに大きな魔石です。よろしいかと。ではしまってかまいません」

「はい」

 俺は袋に入れるみたいな動きをごそごそして収納する。

 実際には手のひらの上からでも直接収納できるがそれではマジックだ。

 そうして領主と謁見する時間になった。

 おっぱいが大きい美少女のメイドさんに先導されて、館内を移動する。

 メイドさんはミニスカート姿で、それが揺れてちらちらしている。

 後ろからでも太ももとガーターベルトの絶対領域が見えていてなんだか色気を感じる。

 俺も謁見なのにそんなことを考えている余裕がある程度には大物になったものだ。

 この前の格下の第二謁見室の前を通過した。

 そして通路の奥、正式な謁見室の扉が衛兵によって開けられる。

「エド様のパーティーが、ご入場です」

 メイドさんは謁見室の中まで入ると、右へ折れてこちらに向き直って立ち、手で進行方向を指して、俺たちにはまっすぐ進むように指示を出した。

 そして頭を下げてくれる。

 やっぱりおっぱい大きいなと思いながらメイドさんの前を通過する。

 この子は今まで見た中で特別大きい。

 さて俺がおっぱいのことを考えているとも知らずに、正面奥では領主がにっこにこの笑顔で立ち上がって俺たちを迎え入れてくれる。

 左側の壁際には奥様、長女、次女、それから女騎士と家臣たちが並んでいた。

 右側には偉そうな貴族だろうおじさんたちが控えている。

「よく来てくれた。エド君、そして少女たちも」

「はいっ」

 俺たちは一斉に頭を下げる。立礼の略式ではあるけれど、これでいいらしい。

「では、楽にしてくれ」

 俺たちは礼の姿勢から正面を向く。

「エド君、ゴブリン撃退後のトマトスープの件もよく働いてくれた。礼を言う。それが、まさかゴブリンキングだとは思わなかった。強かったんだね」

「ええ、まあ。たまたまです」

「なぜ戦ったか、説明してくれるか」

「あの辺に戦える人が自分たちしかいなかったのです。僕たちの後ろには子供のパーティーしかいなくて、僕たちが戦わなかったら子供たちが犠牲になるところだったのです。それで必死でした」

「なるほど。了解した。今度はあるまいが、そういうときは戦力をもう少し分散配置させるように言っておこう。今回は北側から攻めてきたのを考慮しすぎて北門ばかりに戦力を置いてしまった。指揮のミスだな。代表して謝罪しよう」

「そんな、領主様。確かに敵はほとんど北側から出てきたので、だいたいは問題なかったんです。ただキングが東寄りに出てきたのが想定外だったんです」

「そうか、ふむ。それで魔石をここに」

「はい」

 俺がさもマジックバッグですというふうに、袋を装って魔石を取り出して掲げる。

 それを執事さんが手に取り、壇上の領主様の元へ届けてくれる。

「確かに。大きいな。それにれいな色をしている」

 紫なのだがのぞき込むと中は宇宙みたいにいろいろな色が散らばっていて、とても綺麗なのだ。まがまがしい魔力の結晶という雰囲気は全然しない。

「確かに受け取った。では報奨金を」

「はっ」

 執事のおじさんが俺に魔石の代金として報奨金を出してくれる。

「金貨、五十枚です」

「確かに頂きました」

 失礼だから数えたりしないが、金貨が十枚ずつ重ねて包まれていてそれが五個あるので間違いないはずだ。

「エレノアが婿にと言ったときは、焦ったが。それも悪くはないかもしれないな」

「そんな、領主様」

「あはは。エド君、そんなに焦らなくてもよい。なに嫁が一人増えるだけだ。領主を継げとか言わないから、可能性の一つとして考えてみても悪くはないだろう。なに、まだ若いからこれからだ」

「はい」

「では、下がってよい」

「失礼します」

 俺たちはもう一度立礼をして、くるっと向きを変えて戻っていく。

 はぁああ、緊張した。

 領主様の椅子がまんま玉座のそれで、威厳たっぷりだったのでこっちはビクビクですよ。

 変に目をつけられるのもできれば避けたいのに、もうばっちり覚えられているという。

 こうして魂の抜けたような顔をして家に戻りましたとさ。

 金貨はエド信託銀行の共有財産としてプールされることに決まった。



 翌日は土曜日だったので、また森を探索した。

 街で売っているものも多いのだが、中には見たことすらない種類の植物があったりする。

 お隣へ寄ってラニアも連れていく。

 エルダタケを探して切り株の草原を通過しつつ探す。

「お、エルダタケだ」鑑定。

【ドクエルダタケモドキ キノコ 食用不可(強毒)】

 そんなぁ。

 近くにもう一個。鑑定。

【エルダタケ キノコ 食用可】

 よし。やったぜ。

 こうして近くにあると油断しそうになるが、ちゃんと全部確認しないとだめだ。

 森の入り口でミーニャに祝福してもらう。

「ベルもよろしく」

「はいっ」

 シエルはちょっと恥ずかしそうな顔をするが、すぐに真剣な表情になってベルを鳴らし始める。

「ラファリエール様のご加護の下に」

 キンコン、コンコンキンコン、コーン、キンコン。

 曲が前と違う。非番の日とかに練習しているのだろう。

 向上心があるようでよかった。こうして俺たちは当社比二倍のパワーで森へ入る。

 ふふふ。今日は北東方向だ。まっすぐ進むとエクシスの滝だけど、前回は周りの草木を全部無視して進んでいったので、今回は草木のほうをターゲットにしている。

 ふふふ。

「あ、倒木。キクラゲだぁ」

 ミーニャが目ざとく発見する。うん、確かに鑑定でもキクラゲのようだ。

 キクラゲに似てる毒キノコなんて聞いたことがないが用心はしておこう。

 そうして歩くことしばし。

「トマト? あれ、なんか細い」

 トマトに似た枝がある草には、赤と緑の実がいくつもなっている。

 しかし形は丸ではなく、長細かった。俺が思い当たるものは数種類しかないが、鑑定してみるに限る。ちなみに鑑定も一応魔力を使う。

 俺の魔力は多いほうだとは思うけど、無限ではないんで、見かけたすべての植物を鑑定して歩くことはできない。

【トウガラシ 植物 普通】

 おぉぉお。トウガラシちゃんだったか。シシトウや細い種類のパプリカかと思った。

 今まで辛みは、さんしょう、コショウを使っていた。トウガラシが欲しかったのだ。

「これ甘い? おいしい?」

「いや、辛いんだこれ」

「え、辛いの? いらない」

「そんなことないって。これはこれで美味しいんだ」

「そうなの?」

「うん」

 ミーニャちゃんの食いしん坊さんめ。


 さて追加でトマトも採れたし、他にもトウガラシは近くにいくつかあったので、採って歩く。

 そうして家に戻ってきました。お昼は適当なメニューを作ってしのぐ。

 午後、トウガラシをみたいなかごに入れて、干す。乾燥トウガラシだ。

 よく輪切りとかにして使うし、生より乾燥かなってなんとなく思って。

「こんなにおいしそうな色してるのに辛いの?」

「うん」

「ふーん」

 よくわかっていない顔をする。三人とも。

「食べてみる?」

「うん」

「一本三つに分けて、端だけ、ほんのちょっとかじってごらん。それでもすごく辛いよ」

「ふーん」

「ぎゃあああ」

「うえぇぇ」

「みゃうううう」

 三人の悲鳴が聞こえる。台所にあるみずがめに走っていく。

 しゃくみたいなものがあるので、それで水を飲んでいた。

「はわわわ、死んじゃうかと思った」

「これは、ナシですね」

「こんなのないみゃう、辛いみゃう、絶対おいしくないみゃう」

 さんざんな目に遭って三人とも辛いことは納得した。

 何事も経験だ。俺はやらないけど。みんな復活して夕方。

「じゃじゃーん。夕食は、ぺぺろんちーのー」

 少し道具を出すネコ型ロボットっぽく。

「え、なに?」

「ニョッキのペペロンチーノにしたいと思います」

「ふーん。美味しくなるの?」

「まあ、一応」

 さすがに何なのかわからないだろう。三人とも不思議そうな顔をしながら見ている。

 ニョッキを作った。パスタ類が市販されていないのは痛い。

 売り出してほしい気がするが、乾麺の知識が皆無で製法がわからないという。

 乾かせばいいというものなのか、どうか。ニョッキをだいたいの感覚ででる。

 草原産のニンニク、森産のトウガラシに市販のオリーブオイルと塩とコショウを少々。

 ちょいとアレンジ。イノシシ肉を少し入れていためる。それからタンポポ草を投入。

 これでニンニクオイルソースみたいなものが出来たら、そこへニョッキを投入して絡める。

 はい、完成。

「なんだかいい匂い」

「匂いはだいたいはニンニクだけど」

「あぁニンニクかにゃ」

「では食べますか」

「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」

 さて食べるぞ。三人が俺の顔を見ている。

「え、みんな食べないの?」

「「うん」」「みゃう」

 あ、そう? じゃあいただきます。

「……美味しい!」

 俺は一人でご満悦だ。ペペロンチーノここにあり。

 また出会えてよかったペペロンチーノに。

「そこまで言うなら、じゃあ、食べてみるね」

 三人とも不安そうだけど、食べてはみるらしい。

「おいちぃ」

「美味しいです。エド君」

「ちょっと辛いけど、美味しいと思うみゃう」

 うんうん。なぜなのか知らないけど、トマトとかは売ってるんだけどね。

 トウガラシが売ってないんだ。料理とかにも使われていないみたいで。

 メルンさんとギードさんにも好評だった。

「辛いには辛いけど、美味しいよ、エド君」

「そうね。これは変わっているけど美味しいわね」

 だそうだ。エルフ様の口にもあったようでなによりです。


 翌、日曜日。ふはははは。ついに、ついにトウガラシを発見したのだ。我がエド軍は圧倒的に優位に立っている。なぜならトウガラシにより、これで悲願のカレーを作ることができるからだ。

 さっそく原料を買い付けにセブンセブン商会に向かう。

「すみません。カレー粉ください」

「はーい」

 いつものメイドさんが対応してくれる。そうなのだ。この世界にも俺が「カレー粉」と呼んでいるものがある。前に少量だけ購入して試食したのだが。

『なんだこれ、カレー粉だけど辛くない』

 うむ。確かにカレー味だった。カレー風味と言うべきかもしれない。なぜかトウガラシが入っていなかったのだ。

 風味は完全にカレーなので、これでもカレースープとか作れるといえば作れるのだけど。

 カレーが食べたい場合には物足りないというほかなかった。

 だからボツにしていたネタだったのだけど、トウガラシが見つかった。それも自生しているほう。

 商品として見つかった場合でもよかったけど、どちらでもよい。ということで今日のお昼はカレースープです。

 スープというかシチューみたいにして食べるカレーというか。

 カレー粉と乾燥トウガラシをすり鉢で細かくしたものだ。

 何回も丁寧にすってかなり小さい粒にした。すでに野菜各種を鍋で煮こんである。

 お肉はイノシシ肉の在庫が少ないので、ウサギ肉にした。

 これなら俺たちが定期的にりに行けるので。

 イノシシはまた向こうから来るくるまで狩りようがない。

 さすがに土日の森探検だけではイノシシとの遭遇率が低くてあまり現実的ではない。

「ということで今日はウサギカレーです」

「ふーん。また辛いのなの?」

「そうだよ」

「あんまり辛くしないでね」

 三人ともべーって舌を出して、あのときは辛かったと顔で表現してくれる。

 ちょっとかわいくて面白い。

「では、この辺でカレー粉とトウガラシ粉を入れます」

「ふぅん、なんだかいい匂い」

「そそ、これがカレーの匂い」

 かわいいお鼻をひくひくさせる三人。

 猫がご飯に顔を近づけているのに似ていて微笑ほほえましい。

 まず黄色い色になり、そして少しだけ赤い色を入れる。

 入れすぎてはいけない。子供の舌は劇物に敏感だ。

 むしろリンゴと蜂蜜とか甘くしたほうが好きかもしれないけど、俺は辛いのが食べたい。

 なんでもやってみるに限る。

「はやくっ、はやく」

「美味しそうな匂いなので、ミーニャがせかすのもうなずけますね」

「シエルも、はやくみゃ、はやくみゃあ」

 うずうずしている子をドウドウとなだめて落ち着かせようとする。

 しかしこのおいしそうな匂いに完全にやられている。

 せめて三十分くらいは寝かせたい。地球の母親はいつもそうやって作っていた。

 俺は母親の作ったカレーがかなり好きなので、できるだけ再現できるところは準拠したい。

 ミーニャたちが待ち遠しそうに、モグラたたきのモグラみたいにぴょこぴょこ跳びはねているのをしばらく眺めて、ようやく時間になった。

「よし、そろそろいいね」

「やったっ」

「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」

 特製のスプーンで食べる。スープ用より気持ち大きめで持ちやすい。

 丁寧に削ってあるので曲線的なフォルムは手になじむ。

 カレーだけをすくって食べる。うまい。ちょっとだけ辛みもあるが、野菜やお肉のうま、カレー粉自体の旨味のような何かが調和して、抜群にうまい。

 よくわからんけどハーモニーってやつ。

「おかわり!」

「はいはい。まだ少しあるから大丈夫」

「やったっ!」

 いっぱい食べておおきくなあれ。ちんまくて、ぺっちゃんこなのもかわいくて好きだけどね。

 ただしデブらないように運動もしような。いつも学校へ行ったり仕事で立っていたりするので、大丈夫だとは思うけど。前は痩せ気味表示だったのが、今は普通になっている。

 ちょっとっぺたもぷにぷにになって、顔までかわいくなっている。この状態を維持したい。

「「ごちそうさまでした」」

 カレーをおかわりした三人は、お腹を膨らませてでている。

 幼女がぽんぽこお腹をさすっている姿は非常に微笑ましい。

「エド、毎日食べたい!」

「えぇっ、さすがにそれは」

「じゃあ、毎週!」

「それくらいなら」

「じゃあ毎週日曜日のお昼はカレーね」

 ということでうちでは日曜日のお昼がカレー曜日と指定された。

 カレー粉は渡来品で結構高いんだけど、うちには共有資産のプール金があるので余裕だった。

 俺の貯金を切り崩しているわけではなくて、家族共有費だと思ってくれていい。

 これは家賃やおいしいご飯の材料のためのお金なので、存分に使っていいのだ。


 さてまだ先だけど、喫茶店の三号店を計画をしている。

 うちは手狭なので、この一号店は会員制の少し高級なピザとカレーの飲食店にする。

 今までの低価格な有人自動販売機のような店は近所の空き家に移そうと思っているのだ。

 俺たちが毎日氷を補充して、ハーブティー類の在庫の管理をする以外はバイトを雇うつもりだ。

 まだほとんど構想段階だけどどうだろうか。

 ちょうどキングの魔石代がプール金として増えたので、家賃や各種投資にも回せる。

 借りる家も目星がついている。近所の少し歩いたところだ。うちより狭くて、二階は別の一家が住んでいる。

 一階に広いリビング兼ダイニング、キッチン、寝室があり建物の外にトイレがある。

 リビングダイニングが一部屋で広いので飲食店に向いているのだ。

 ここはもうあとは契約するだけ。今は仮契約で押さえてある。

 家具はセブンセブン商会とビエルシーラ商店で購入する。

 今のうちは二階に倉庫と子供部屋と夫婦の寝室の三部屋がある構造だ。

 一階にはリビング、ダイニング、キッチン、隅にトイレ。

 あとは誰を雇うかなのだけど、それは冒険者ギルドのハーフエルフのミクラシアさんにお願いしてある。

 週七日毎日営業。合計三人。二人勤務で一人はローテーションで休暇だ。その予定で各種準備ができ次第、俺が面接する予定。さてどんな人を紹介してくれるだろうか。



 さて思いついたことがある。普段スプーンを作っているのだけど、それを組み合わせてトングにするのはどうだろうか。現時点でこの世界では見たことがない。

 反対側はフォークだからフォークも欲しいんだけど。木でフォークというのもなくはない。

 しかし先の細い部分を作るとどうしても耐久性に問題がある。

 どこへかけ合えばいいか、ちょっと考えてみる。ドリドンさん、ではないと思う。

 ラファリエ教会司祭バイエルンさん。悪くはないが黒い影がちらつく。借りは作りたくない。

 ビエルシーラ商店。悪くはない。冒険者ギルド。ハーフエルフのミクラシアさん。悪くはない。

 ダークホース、商業ギルド。まだ親しい人がいない。

 そうだな、うーん。まずミクラシアさんに話を持っていこう。

 別に俺だけいればいいか。珍しくソロだ。と思ったんだけど。

「ミーニャも行く、絶対!」

 そうか今日はミーニャが非番だったか。

「エルフのミクラシアさんのところなんだけど、行きたい?」

「行きたくない……行くぅぅ、行くのぉ」

 ミーニャは少しミクラシアさんが苦手だ。じっと憧れの視線で見つめてくるので。

 別に嫌いではないのだろうけど、ちょっと怖いのだろう。

 ファンみたいなものだが、気持ちはわからんでもない。

 冒険者ギルドへ向かう。

「すみません」

「あ、はい。ミーニャ様! ようこそ冒険者ギルドへ」

「あの、金属加工職人の紹介ってできますか?」

「え、あ、はい。もちろんですよ。職人ですよね?」

「鍛冶、うーん、まあそうです」

「すぐにいっぴつ書きますね!」

 ふむ。エルフさんは最近仕事が素早い。簡易手描き地図と紹介状を出してもらった。

 紹介状の名義はミクラシアさんだ。

「ドワーフのおじさんなんですけど、腕は確かです」

「あ、はい。ありがとうございます」

 エルフとドワーフって仲が悪いってたまに聞くけれど、実はお互いをリスペクトしてて認めてるらしいんだ。

 ただ相手を認めてる分、お互い主張はするので衝突してるように見えるだけで。

 地図を見る。西地区だな。西も西、西門近く。こっちはあまり来ないので、よく知らない。

 歩いてみると職人街のようだ。ミーニャはご機嫌で俺に腕を絡ませて歩いている。

 前は手を握っていれば満足だったのに、どこでそういう情報を仕入れてくるのやら。

 腕を組んでご満悦だ。きょろきょろして周りを見る。道を一本入ると迷子になりそうだ。

 慎重にランドマークの角の店の名前を確認して、路地へ入る。

 角から四軒目、ここだ。

「ベギダリル鍛冶店」

 看板はないか。表札は出ている。金属板にベギダリルとだけ刻印されていた。

「すみません」

「あっ、ごめんください」

 ミーニャも挨拶をして中をうかがう。

「誰じゃ、子供の声だったが」

「あ、はい。俺、元ラニエルダ民のエドっていうんですけど」

「エド君ね、そっちは?」

「ミーニャ」

「ほう、なかなか見ない綺麗なエルフじゃの」

「えへへ」

 ミーニャが褒められてニコッと笑う。

「うむ。素晴らしい澄んだ心を持っているようじゃ。綺麗な心は大切にするといい」

「ありがとう、おじさん」

「おおう! それでなんじゃ」

「あ、はい。トングという道具を思いつきまして」

 まあ前世知識だが、この世界では見たことがないのでこれでいいだろう。

 パスタを調理したりするときに便利だし。紹介状を出す。

「あぁミクラシア嬢ね。あのエルフっ子か、よいよい」

 絵に描いてきたものを見せる。

「ふむ。なるほどここを薄い金属で作ってバネみたいにするんじゃな」

「そうです。理解が早くて助かります」

「まぁに何十年も鍛冶屋なんてやってないわい」

「すごいですね」

「ははは」

 スプーンの加工も金属でもできる。でもそれだと俺たちの出番はない。

 スプーンの部分だけ木工にしてフォークとバネを金属で作る。

 金属加工のほうが高いので、これでも値段が少し下げられるそうだ。

 接合部にはくぎを一本打てるように細工してあって、それで固定する。

「なに、ちょっとやってみるか。スプーンはあるんかい?」

「あ、はい。一応これです」

 普段使っているのまんまなんだけど、持ってきてはいる。

「ふむ。まぁまぁの細工物だな」

「ありがとうございます」

「おい、これ作ったナイフ見せてみ」

「はい」

 俺はミスリルの細工ナイフを出した。

「ほほーん。これエルフ王家とかで使ってる親愛のナイフじゃろ」

「みたいですね」

「なにもんなんじゃ」

「さぁ、家を空けてる母のもので」

「そうか母親の。このナイフ、大切にしなさい」

「はい」

「あっそうそう。武器もあるか? 研いでやろう。ナイフも軽い調整だけしてやる」

 武器の剣、それからミスリルのナイフを預ける。

 弟子が一人いて、作業する間に地金を用意するように言っていた。

「ミスリルを研ぐのは久しぶりじゃの」

 楽しそうに作業に入ってしまった。

 研ぐだけなので回転いしと仕上げ用の手作業の砥石でささっと、ものの十分くらいだったろうか。

「どうじゃ。ミスリルだから年一回くらいでいいんじゃが、研いだほうがいい」

「ありがとうございます」

「こっちの魔法付与の剣もすぐやる」

 宣言した通りこちらもすぐ終わった。俺のクイックカッターの輝きが前と違う。

「こっちはちょっと研ぎが甘かったから、しっかりやっておいたぞ」

「ありがとうございます」

「で、なんだっけ。そうそう、トングだったか」

「はい」

「あの師匠、地金、用意できました」

「おし、やるか」

 そういうとかなづちを取り出す。そして弟子とあいづちで打ち始める。

 それはみるみるもんじゃ焼きのヘラのような形になっていく。

 反対側のスプーンを挿す金具部分を形にしていく。

 そして柄の真ん中を薄く延ばしていき折り返す、これはバネの部分だ。

 最後にヘラだったものにタガネを打ち込んで、三又のフォークの形を作った。

「ほい、できた」

「えっ」

 早かった。ものの三十分くらいだろうか。

「スプーン、ん」

 スプーンを渡す。金属側の先端の輪っか型の金具部分にスプーンを挿入して、金槌で金具の穴に釘を打ってスプーンを固定した。

「はい、完成。どうじゃ」

「え、すごいです。できてます」

「だろ」

 それはまさしくトングだった。この世界にトングが誕生した瞬間であった。ある程度量産してもらえる契約を取りつけた。

 この商品もビエルシーラ商店に卸すことが決まった。

 空き時間にぼちぼちとスプーン部分を作って、なんとか数をそろえた。

 こうしてトングが商品として店に並ぶようになった。




 僕はビエルシーラ商店を運営しているライル・ビエルシーラ。

 エド君との付き合いはいつからだったかな。

 そうだ、たしかスプーンの買い取りだったと思う。

 様々な商品を卸しているドリドン雑貨店から、木製のスプーンを買い取ってほしいと依頼が来ていたのだ。

 この手の商品は一般家庭から料理店まで幅広く顧客がいて、定期的に売れる。

 スプーンは近郊の農家などが片手間に作るものをすでに販売していた。しかしこのエド君の家のスプーンは、丁寧に削ってあり滑らかな仕上がりなのが特徴だった。

 普通、高級なスプーンというものは鉄や銀で作る。そのため木のスプーンは安い量産品が多く、仕事が雑なものが多かったのだ。うちで元々販売していたスプーンもそうだった。

 そのため木のぬくもりのある上級品のスプーンは今までになく、珍しさもあってそれなりに需要があった。

 話を聞くとエド君と居候のおじさんの作品であるということだった。


 次はかごを買い取りするようになった。特徴といえば、農家の家だと気まぐれで大きさがぞろいだったりする。

 エド君の家の籠は大きさがほぼ揃っていて、側面が斜めになっているため重ね置きができたのだ。

 これは大きな特徴で、しまっておくのに場所を取らないのは大変有用だった。

 作成者には隣家の人も加わっているそうだが品質はどれも悪くなく、それからみんなで作ってくれたためそれなりにまとまった数があった。

 こういうものを大量に欲しいという人もいるが、同じ規格のものは数が揃わないことが多かった。

 ということで大量注文が入って売られていくことになった。さらに追加分もということで入荷次第どんどん売れていくようになっていた。


 エド君たちとは直接取引ではなく、しばらくはドリドン雑貨店経由で付き合いがあるだけだった。

 それからハリス君のところがハーブティーと健康茶を納入するようになった。

 これは市内でそこそこ売れており、貴族や富裕層などにも人気だった。

 一般市民用のお買い得用パックと、れいな包装をしてある高級品と両方ある。

 このお茶についても元々はエド君の発案でハリス君にアウトソーシングしているというのだから、その商売適性は目を見張るものがあった。

 そんなときだ。

 教会つまりセブンセブン商会がエド君の仲介で他都市向けの健康茶の販売を始めたと耳に挟んだのだ。

 やられた、と思った。

 元々うちと取引があったので、その延長でもっと取引量を増やしてゆくゆくは王都をはじめとする国全体、さらに外国へと販路を広げる計画だったのだ。

 それを教会が目をつけて先に取引をしてしまった。出し抜かれたのだ。

 エド君とはまだ直接取引をしていなかったし、そういう付き合いの優先度とかも考えるような立場ではなかったのだろう。

 商習慣的には、本来は僕たちビエルシーラ商店に優先権があってもおかしくはなかった。

 結局セブンセブン商会側は話し合いに応じてくれて、なんとかこの件は折り合いがついた。

 そして私たちのビエルシーラ商店にも茶葉が届けられて、トライエ市外への販売ができる体制までもっていくことができたのだ。

 このとき人を集めたりと動いてくれたのはエド君だったので、その行動力にはやはり目を見張るものがあった。

 彼一人だけではないものの、スラム街の住民や子供たちがまとまって参加してくれるとすごいパワーを発揮すると身をもって知ったのだ。

 スラム街の子たちだと侮ってはいけないのだ。

 彼らは協力してくれるとなれば大勢を動かすことができて、大規模な商会並みの仕事ができるプロ集団だったのだ。

 今まではそういう仕事を回してくれる人がいなかったので、誰もそのポテンシャルに気がついていなかった。

 これからも協力しあっていきたいと思う。

 ということでスラム街の子たち、とくにエド君には注目している。

 これからも商業パートナーとして、そして友人の一人として大切にしていきたい。




 七月一五日。ゴーン、ゴーン、ゴーン。朝から三の刻の鐘がなる。今日は祭日だ。

 ──『ゼッケンバウアー伯爵叙爵記念日』。

 現在トライエ領主を務める家系、初代ゼッケンバウアー伯爵の叙爵を記念する日となっている。

 叙爵した日じゃなくて記念する日なのがポイントで、トライエ市移行記念日を兼ねている。

 去年は領主によりラニエルダでイルク豆の無料配給が行われていた。一人あたり一週間分くらいもらえた。普段はラニエルダを無視していた領主だったけど、こういう人気取りはしっかりやっているらしい。

 朝ご飯を食べて俺たちも準備をする。パレードは朝の九時からだ。

 夏のこの時期、暑くなる昼間より朝からやってしまおうというつもりなのだろう。ラニアを迎えに行って戻ってくる。

「じゃあ、行くよ」

「うん」「はい」「みゃう」

 三人を引き連れて大通りへ向かう。東地区から東大通りへ。

「人でいっぱいだね」

「ああ」

 ミーニャが残念そうに言った。

 道の横には人がびっしり並んでいて、先頭で見るのは無理そうだ。

 そして俺たちは子供なので背が低く、後ろから見るのも無理。

「東門のほうへ行ってみる」

「うん」

 道を東へ。門へ向かう。人はびっしりだけど、一人分くらいの空きはあったりする。

 ただ子供三人で見るには狭い。そのまま歩いていったら東門前広場に着いた。

 この広場は非常時に軍の待機場になるように作られている。

 普段は馬車の方向転換用で、隅のほうの空き地に露店がある。今日も露店は出ていた。

「エドぉ、エドぉ。お肉ぅ、肉串~」

「お、おう。買ってくか」

「やった」

 お肉妖精ミーニャの要望には応えないとなるまい。

 おやおや、お肉妖精は三人だったようで、みんな口の端からヨダレが垂れそうな顔をしている。

「おじさん、肉串四つ」

「あいよ!」

 一本銅貨一枚。この辺の主流の西の森のオオカミ肉だ。

 オオカミ肉はうまはあるんだけど、少し筋があって硬い。赤身肉で牛肉に少し近い。

 西の森ではオオカミが多く、こうしてよく売られている。

 ウサギ肉のほうが食べやすい。

 オオカミ肉は筋ばっているので、下級市民の食べ物という認識があり、上級市民や貴族は口にしない。

「あつっ、はふはふ、おいちぃ」

しいです」

「うみゃい、みゃう」

 うむ、どれどれ。味付けは塩、そしてコショウの香りがほんのわずかだけする。

 コショウは高いので、ケチっているのだろう。銅貨一枚なので、これはしょうがないと思う。

 うん。肉本来の旨味と、そして硬い肉は食べ応えはある。

 さて、行くぞ。

 ロータリーになっているところの横のほうは、人が少なくて俺たちも最前列を確保できた。

「見える場所、見つかってよかったね」

「おう」

 右側にミーニャがくっついて体をこすりつけてくる。猫か。猫だったわ。

 左側のシエルも同じようにもぞもぞと体をこすりつけてくる。猫か。こっちは本当に猫だったわ。

 シエルの左にはラニアがニッと笑ってそれを眺めていた。相変わらずの余裕の表情だ。

 ピッパラパパパ。プッパラペペペ。ピーヒャラドドド~♪

 管楽器を中心とする音楽が聞こえてくる。領軍の軍楽隊だ。

 軍楽隊は大規模な戦争時などにあらかじめ決められた指令を音楽で伝える役割がある。

 ただ現代ではハーピー便や早馬なども使うので、今でも現役なのかは知らない。

 普段は領主館で演奏会とかしているみたい。以上、ラニア先生による。

 マーチだな。

 パレード先頭に隊長マークをつけた白馬の騎兵。というかですね、隊長はビーエストさんだ。

 全身銀ピカのよろいに金髪、イケメン。かぶとはつけていない。これ顔選抜だな。

 その後ろに騎兵が三騎三列、合計九騎で隊長含めて十騎。

 こちらは一般的な茶色い馬で、先頭三人は全身鎧、後ろ六人はけいがいになっている。

 さらに続きまして、軍楽隊。

 トランペット、ホルン、ドラムなどでみんな歩きだ。そろいのれいで派手な衣装を着ている。

 制服なのだろう。半分くらい女性隊員で全員美少女だった。

 ヒラヒラのミニスカの制服はちょっとせんじょう的だ。

 まるで高校生のマーチングバンドみたいで見ているだけでも心いやされる。

 警備の軽鎧の騎馬を挟んだ。そして領主一家の馬車だ。

 屋根がないオープンタイプの貴族馬車。ゼッケンバウアー伯爵一家。

 領主トーマス様。キャシー夫人。長女マリエール様。次女エレノア様。

 それから一番上の子だと思われるおそらく長男の子。

「エドくーん、おーい」

 エレノア様が馬車から目ざとく俺を見つけて手をブンブン振っていた。

「エレノア様~おーい」

 俺も声をかけて手を振り返す。

 音楽がなかったら注目されまくりだっただろうけど、なんとか音に紛れて目立たずに済んだ。

 また二列だけ護衛の騎兵の列がある。その後ろには歩兵のようだ。

 おおぉ。珍しい。虎の子とうわさの女子魔法部隊だ。揃いのセーラー風の制服を着ている。

 みんなおっぱいがあってスタイルもいい。美少女が笑顔で手を振っていた。

 ミニスカートから見えるふとともがまぶしい。

 ちなみにゴブリン・スタンピードのときは北門の中で待機していた。出番がなかったみたい。

 そして一般兵と続く。そうへい部隊。弓兵部隊。剣士部隊。

 最後にしんがりの騎兵が旗を掲げてついてくる。

 ロータリーを回ると、元の道だと列が回り切れないので、一本入った道を少しだけ進んで大通りに戻っていくようだ。行ってしまった。

「終わったね」

「ああ」

「んじゃ、戻るか」

 大人たちはこの後、酒場で騒ぐのが習わしとなっている。四人で道の端をへこへこ歩く。

 女子魔法部隊。かわいかったな。ほとんどが高校生くらいの年齢で、揃いのセーラー服みたいな格好。すごいそそられる。

 魔術師は女子が多い。理由はわからない。

 男と違って子宮に魔力をめられるからとかいう噂はある。

 男にも魔法使いはいるが、全体の割合からすると少ないらしい。

 男女混成だと風紀が乱れると問題になって男が追放されて以来、女子魔法部隊となったそうだ。

 まさに女の子の花園。ぐへへ。

 ラニアとかは俺と出会わなければ進路は間違いなく女子魔法部隊だな。

 いや、今から所属してもいいかもしれない。

 あんな大きなファイアボールを撃てる子なんてあんまりいないだろうし。知らんけど。

 こういうとき常識がないと比較ができなくて困る。

 女子魔法部隊か。覚えておこう。あとエレノア様の動向にも注意しよう。



 ちょっと思いついたことがあるんだ。それは「ミントオイル」。

 ラベンダーオイルとかあるじゃないですか、地球の場合。

 香料の天然オイルって高価で、そういうのをブレンドした香水の中には修道院で作られていたものもあるとか読んだ記憶がある。

 それで今すぐできそうなものにミントオイルがあるのだ。

 すーっとするし、愛好家はいると思う。これから夏だしいいんじゃなかろうか。

 この前トングの製作でお世話になったドワーフのベギダリルさんくらいしか頼れそうな人はいないので、聞いてみよう。

「ということでミントオイルの蒸留器みたいなのが欲しいんですけど」

「あぁ蒸留器な、それならできるぞ。小型のほうがいいよな? 大きいとめちゃくちゃ高いからな」

「そうですね」

 ニッと笑ってまかせろと言ってくれる。

「ところで蒸留器なんてなんで作れるんですか?」

「そんなの酒に決まってるだろ。アルコールだって油みたいなもんだからな。ドワーフといったらウォッカとウィスキー。ウォッカとウィスキーといったらドワーフ」

「なるほど」

 非常に納得できる理由だった。

「だからドワーフの屋は蒸留器を作れなきゃ一人前とは言えん。うちにもあるんだ。それでだな、ちょうど最近自家製の酒用の蒸留器を小型のものから中型の大きいのに替えたんじゃ。小型のが余ってるから持ってけ」

「え、いいんですか?」

「もちろん料金は取るぞ。ただし相場の半額じゃ」

「ありがとうございます」

 こうして蒸留器を入手した。それをアイテムボックスに収納する。

 別に変な顔もされなかったので普通なのだろう。セーフ。せこせこハリスの家に向かった。

「というわけでミントオイルの製造をしたい。蒸留器があるんだが、ハリスんちに置いて作ってほしいんだけど」

「あぁ仕事はまだ欲しい。人数が多いと仕事が足りねぇ」

「だよな。じゃあ頼む」

「おうよ。お任せされるぜ」

 と二つ返事でOKを貰ってハリスの家を製造工場とした。

 ハリスの家は俺の元の家と一緒でしっかり屋根と壁があり、スラム街では大きいほうなのだ。

「じゃあみんな、今日の採取はミントだけだ」

「おぉおおお、ミントな」

「ミント!」

 みんなでミントをかき集める。小一時間でもみんなで集めればあっという間だ。

 それを蒸留器にセットして蒸す。火はいらない。これは魔道コンロの一種なので。

 そうして待つことさらに一時間くらいで、ぽつぽつと一滴ずつ冷却パイプの先から垂れてくる。

 それを小ビンで受ける。嗅いでみるとスーッとする匂いがする。

 オイルは無色透明だ。

「ほら、これがミントオイル」

「おぉお。いい匂いするな、なるほどこれを貴族のご婦人とかが肌につけるんだな」

「そういうこと」

「なるほど、売れそうだな。さすがエドだ」

 こうしてミントオイルが製造できた。卸し先をどうしようかなと思ったが、さっそくセブンセブン商会に持ち込んでみた。従業員の偉い人が応対してくれる。

「ほぉ、これがミントオイルですか」

「そうです」

「似たコンセプトのものはあります。ラベンダーオイルですね」

「あぁラベンダーオイルですか。それなら?」

「はい、これも売れると思います。ラベンダーはいい香りですが好まないかたも多いそうで」

「へぇ」

「これは香りがちょうどいいですね。それにスッとして夏に特にいい。素晴らしいです」

「えへへ」

 評価は上々、さっそくトライエ貴族向けに店に置いて、さらに王都の貴族向けの荷物に一緒に入れてくれることになった。

 ちなみにセブンセブン商会ではマジックバッグを持った人間が乗ったランバード便を主に使っていて、特急配達ができる。

 量が多いものに関しては普通の馬車を手配することもあるそうだ。

 それで少量で高値がつくミントオイルはランバード便に載せてもらえることになった。

 数日のうちに王都に到着する予定だそうだ。さすがセブンセブン、仕事が早い。


 家にも持って帰る。

「ほらこれがミントオイル」

「へぇ、なにこれスーッとする。面白いね」

「みゃう、変な感じするみゃう」

 ミーニャもシエルも楽しそうに匂いを嗅いでいる。

「こうして手首のところにつけて使うんだ」

「へぇ」

「ふぅん」

 香水のつけかたを教える。耳の後ろとかにつける人もいる。

 さわやかな匂いがして、なんだかいい感じだ。

 ただミーニャもシエルもそれからラニアも、元々女の子特有のいい匂いがするので、香水はつけなくてもいいんだよな。

 メルンさんは別に変な臭いとかしないけど、おすすめしてみるか。

「メルンさん、どうです。香水みたいな感じのものだけど」

「えぇ、さわやかでいいわね」

 メルンさんにもご好評いただいて、サンプルの香水はメルンさんが使うことになった。

 患者にお金があるとは思えないけど、スラム街の診療所で話題くらいにはなるかもしれない。

 別に香水以外の用途でもいいのか。例えば頭につけてトニックみたいに使うという手もある。

 夏の暑い日にはよろこばれそうだ。

 朝シャン文化なんてないけど、水で頭を洗うことはある。

 試しに水をんできて数滴ミントオイルを垂らしてやってみた。

「うぉぉ頭が……」

 頭が変な感じに。慣れないとスースーしてたまらん。

 気持ちいいといえば気持ちいい。るかどうかは微妙なところだ。

 商品は売るだけでなくて、使い方もレクチャーしないとだめなんだな。

 特に新しい商品はどうやって使ったらいいかわからないもんな。勉強になったわ。



 ラニアと喫茶店エルフィールの当番の日。まだ開店直後でお客さんは誰もいない。

「エド君、いたいた! エドくぅぅん」

 犬みたいにくぅーんと伸ばして現れたのは、領主様の次女エレノア様だった。

 ドアを開けて一人で入ってきたので、すぐにバタンと閉める。

 ピンク髪のツインテールで、俺たちと同じ六歳だ。

「エレノア様、護衛すら連れないで、どうしたんですか」

「あの子たち遅いんですもの、ほんと困りますわね」

 ほっぺに手をやる仕草はかわいいが、要はおてん娘ということだ。

 エレノア様から遅れてすぐ、その護衛たちがドアを勢いよく開けて入ってきた。

「し、失礼いたします」

 騎士団の女の子が三人。鎧姿だけどミニスカートでどこかかわいらしい。

 いわゆるドレスアーマーと言われたりするタイプだ。

 鎧は銀色で真っ赤なスカートはタック多めのひらひらだった。

 ただしお姫様用とは違い、装飾そのものは少なめで実用性重視だとわかる。

 あと胸鎧ブレストプレートが膨らんでいて男性用とはフォルムがだいぶ違う。

 そっか、女の子の護衛は女騎士が務めるんだね。

 そうだよね。女子トイレとか下着売り場とか男騎士だと入りづらいし。

「それでエレノア様、どうしたんですかこんな場末に」

「場末だなんて。素敵な喫茶店を始めたって聞いて、飛んできたんですのよ」

「ありがとうございます。褒めていただいて」

「いいのですわ。それから午前中は女の子を連れて小学校とかいう場所に行っているとか」

「はい。ラニエルダ青空小学校ですね」

「私も通いたいと言ったのに、お父様に『そんな低俗な学校に行ってはいけない』と言われてしまいましたのよ」

「そうですか。ほんの初心者向けの学校ですから、家庭教師がいるのなら必要ないでしょう。それにスラム街ですよ、あそこ」

「う、そうね。正論で言われたら言い返せないではないですの」

 はぁ、と両手を広げて「ありえない」っていうポーズをする。

「まあ、許してください」

「はい。許しますわ。エド君、それで、おいしい飲み物をください」

「そうですね。外は暑いですしアイスでいいですよね」

「そうね」

「メニューはそこにありますので選んでください。クッキーのジャム添え、それかお昼がまだなら豆ランチなら出せますけど」

「お昼は食べてきたの。そうね、これ、タンポポコーヒーっていうのください」

 アイスタンポポコーヒーを出す。

「ふぅん、少し香ばしいような、ちょっと独特の苦みがあって、おいしい」

「ありがとうございます」

「あのですわね。なんというか、その(ごにょごにょ)……」

「なんですか? 聞こえません」

「もっと、その、敬語なんてやめてくださいまし。他人行儀みたいで、イヤなの」

「そうですか? じゃあ、もう少しフランクな感じにさせてもらうよ?」

「そう、それでいいのよ。エド君」

 俺のほうを見て微笑ほほえんでくれるエレノア様。なんだかこっちはやりにくいんだけど。

 調子が狂うというか、高貴な人がこんなところでのんにタンポポコーヒーを飲んでいるなんて。

「失礼しますじゃ」

 そこへ、ああ、おじいちゃん。司祭様がやってきた。

 こちらはいつも連れている女子三人組もちゃんとついてきている。

「どうして司祭様が」

 エレノア様も少し驚いている。

「それはわしの台詞せりふですぞ、エレノア様」

「まあ、なんでですの」

「エレノア様が護衛を引き離して走っていったと聞いて、わしも飛んできたのですじゃ」

「まぁ」

「まったく、おしとやかだった性格はどこへ置いてきたのか」

「いいんですの」

「さようですか」

 ふむ。この二人、そこそこ親しいのかな。普通に会話している。まあそうだろうな、とは思う。

 なんたって街の有力者同士だから食事会とか会合とかで顔ぐらい合わせるのだろう。

 司祭様もアイスコーヒーをご注文だ。しばらく二人の会話が続くのを俺とラニアで見守る。

 タンポポコーヒーは少しだけ高いので、護衛の女騎士さんとお付きの人にはアイスの健康茶を順番に出していく。

「それで、それですよ。健康茶? とかいう」

「これですか? エレノア様」

「そうよエド君。なんだか最近下町で流行っているって噂で。でも貴族には紅茶があるから要らないわねって笑い飛ばしているのを聞いて私、しゃくに障って……」

 そうか、俺が健康茶を扱っているとご存じのようだ。

 エレノア様が少し悔しそうにニッとする。そんな顔も俺から見たらかわいらしいが。

「紅茶は紅茶で素晴らしいと俺も思うよ。健康茶も負けてはいないけど、ジャンルが違うので比較してもしょうがないと思うんだ」

「そうね。エド君のほうが大人だわ。えらいですわ」

「いえ」

 エレノア様がアイス健康茶も飲みたいというので出す。

「ところで護衛はみんな三人なのかな? パレードも三人組の騎士が三列だったけど」

「よく見てるのですね。スリーマンセルっていうの。シルリエット説明して」

 女騎士さんの隊長らしい人がシルリエットさんのようだ。

 血の薄いハーフエルフさんなのか耳がわずかにとがっていて肌も白い。

 髪の毛は黄色が混じった薄い茶色。年齢は十八歳ぐらいに見える。

 ちなみにこの世界では一般市民は十二歳までに就職なり仕事につく。

 貴族や裕福な家庭の子は十二歳になると高等学校へ進んで十五歳で卒業だ。

 小学校はあったりなかったり、他に私塾みたいなものがある。

 トライエ市内にも小学校はあるんだけど上級市民向けしかない。

「はい、エレノアお嬢様。三人一組をスリーマンセルといいます。敵を発見した者が盾に、次の者が剣になり、残り一人が伝令のために戻ります。だから三人なのです」

「なるほど」

「そういえばパレードよかったですよ。エレノア様」

「まぁ、ありがとう。手を振り返してくれていたのは見えていたわ。私こそ、ありがとうですわ」

「どういたしまして」

「ふふ。こういうことは少ないからなんだか恥ずかしいわね」

「そうですね」

 その後、俺は女騎士さんたちがパレードに出ていなかったことについて質問した。

 どうやら女騎士は少人数しかおらず、全員が近衛騎士団に所属している。

 それ以外の騎士団所属の女の子はいなくて「女子魔法部隊にでも入っていろ」というのが騎士団の多数派の言い分らしい。

 そのため一般兵団へ入った女子の精鋭や貴族籍の女の子が選抜されて近衛所属に任命される。

 特殊なルートだと武装メイド上がりの子もいるそうだ。

 基本的には近衛騎士は護衛なのでパレードには参加しない。

 正規の騎士団は「女騎士のミニスカートでなんて恥ずかしくて戦えまい」と下に見ているため花になるとしても女騎士のパレード参加は認めないそうだ。

 パレードのリーダーを務めたビーエストさんはそんな古い考えに異を唱える参加容認派であったそうだが、古参兵などにかたくなに拒否されたため今回は流れたらしい。

「まあ、なんというかいろいろあるんですね」

「あはは、ええ」

 シルリエットさんが苦笑気味に笑ってくれる。

 この人も少し苦労してそうだ。顔はかわいいけど。

「ちょっとエド君。シルリエットとばかり話して」

「おっとエレノア様、すみません。熱中してしまって」

「そんなに女の子の騎士が好きなの?」

「いえ、そういうわけではないんだけど、カッコイイよね、女騎士って」

「「きゃっきゃ」」

「まぁそうだけど……(私だって、戦えるのに)」

 俺が褒めると、女騎士の子たちはちょっとうれしそうだった。

 お堅い騎士様かと思っていたけど、真面目なだけで女の子なんだなぁ。

 エレノア様は少しぶつぶつ「私だって、私のほうが」とか言っている。

 百面相をしているので面白い。

「おっほん。仲がよろしいようで、結構ですじゃ」

 そういえば司祭様もいたんだった。忘れていた。

 ニコニコして俺たちのほうを見ているから機嫌は良さそうだけど、びっくりした。


 それからエレノア様と司祭様を交えてしばらく会話した。

 お客様には悪いけどお店はクローズドにしてある。

 オープンのままでも外に騎士がいるから入ってこないと思うけど。

 女近衛騎士三名のほかに普通の近衛騎士三名の別のチームもいるのだ。

「少しお腹がすいてきたわね」

「そうですか、なにか食べますか? ピザとかどう? メニューにはまだないんだけど」

「ピザ? どんな料理なのかしら」

「えっと、薄いパン生地にトマトとバジルとかとチーズをのせてオーブンで焼いたものだね」

「そうなのですね。ぜひ、それをっ!」

 ニッコニコでそう答えるエレノア様。司祭様もそれを見て微笑んでいた。

 俺はアイテムボックスから焼く前のピザを取り出す。

 ピザはいつでも焼けるようにストックがあるのだ。

 実を言えば焼いて入れておけばいいのだけど、それだとアイテムボックスがバレてしまう。

 オーブンを予熱してからピザを入れる。

 今日のピザは森産トマト、草原のバジル、薄切りのウサギ肉、そしてスライスしたチーズをまんべんなくのせてある。

 後をラニアにお任せして俺はエレノア様の相手をする。

「なんだかいい匂いがしますわ」

「そうですのお」

 エレノア様だけでなく司祭様もノリノリだ。

「ピザ、お待たせしました」

「おおぉ」

「ほほう」

 ラニアがピザを二人の前にそっと配膳する。

「これがピザなのですね。とっても美味しそう! エド君は天才ですわね」

「ま、まあね」

「では、いただきますわ」

「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

 司祭様はさすがにラファリエ教徒だけあって、ちゃんとした挨拶をした。

「おいしぃ!!

「ああ、とっても美味しいですのう」

 もぐもぐとエレノア様がかわいらしくピザをほおる。

 俺とラニアはそれを微笑ましく眺めていた。こっちもお腹がすいてきた。

「こんなに美味しいものがあるなんて、エド君はすごい」

「まあ、うん」

「エド君、エド君、これ、これは売っていませんの? さっきメニューにはないって」

「ああ、今度喫茶店をすぐそこの家に移して、ここをピザとカレーの店にするんだ」

「まぁ、ところでカレーってなんですの?」

「カレーは辛い食べ物で、スパイスが利いてるスープなんだ」

「スープなのね。今度食べてみたいわ。また来るわね」

 それから他に聞ける人がいないので、エレノア様にエルダニア領主館について質問してみた。

「エルダニア領主館なら前の領主が逃げ出したから今は無人のはずよ。管理はうちでやっているから利用許可なら取れるけど」

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「もちろん」

 こうしてエレノア様に領主館ホテルの設置許可をお願いした。

 その後も雑談などをして、司祭様とエレノア様は帰っていった。


 話はとんとん拍子で進む。領主館ホテルはエレノア様による支援が決まり、資金の援助なども受けられることになった。

 現地へ行って調べたところ、ベッドや布団、それから食器類、調理器具に至るまで、エルダニア領主館にはそっくりそのまま放置されていたため、準備するものが少なく済んだ。

 喫茶店エルフィールは近所の「エルフィール三号店」に移された。アルバイトの人も決まった。

 ハーフエルフの店員さんは魔法が使えるため、氷の手配をお願いした。

 これで俺たちなしでも指示だけで店が回せる体制を整えることができた。

 今住んでいる家のリビングは「会員制料理店エルフィール」に生まれ変わる。

 出すのはエレノア様に話した通りお茶類とカレーとピザだ。

 こちらも先ほどのハーフエルフさんに氷をお願いして、あとは他の店員さんにお任せする体制ができた。

 ギードさんはラニエルダ青空小学校の先生を辞めた。

 こちらも後任にハーフエルフさんが見つかったので、問題はない。




 トライエ市領主ゼッケンバウアー伯爵家次女エレノアが私。

 ピンク髪をツインテールにしていてへきがんの六歳の女の子だ。

 最近、気になる男の子が出来た。エド君だ。

 スラム街に住んでおり、会ったのはエルダニアでの評判によって領主館に招かれてトマトスープを披露してくれたのが最初だったと思う。

 トマトスープは塩気やうまがあり絶品だったのを覚えている。

 こんな最高のスープは食べたことがなかった。

 それを作ったのが私と同じ六歳の男の子だとわかり、私はお婿さんにしたいと思った。

 領主館の料理はどれもしいけれど、最近は鶏肉ばかりで飽きてきたというのもある。

 新しい料理を私たちに提供してくれる人は私にはとても魅力的に見えた。


 エド君はゴブリン・スタンピードでは大活躍だった。

 私は彼がお父様にえっけんしたとき、横で話を聞いていたけれど、あんな大きなゴブリンキングを倒してしまうなんて、やっぱりすごい。

 いくら剣がいいものだからといっても体格差がある。

「エド君は怖くないのかしら」

 領主館でぽつりと言ってみたものの返事はなかった。

 お父様とも真剣に話をして大人みたいに立派に受け応えもしていた。

 なんだかすごいんだなって思ったのだ。


 ゼッケンバウアー伯爵叙爵記念日でのパレードのとき。

 私は馬車からトライエ市の沿道の人々を見ていた。

 その中にエド君がいたのだ。

「エドくーん、おーい」

「エレノア様~おーい」

 手を振り合ったのを覚えている。私の声もきっと聞こえたのだろう。

 とてもうれしくなり心臓もドキドキしてしまった。

 料理を振る舞ってくれたエド君は私に新しい刺激をくれる。

 そんな彼のことが気になって気になってしょうがなかったのだ。


 そんなエド君であったが、スラム街からトライエ市内に引っ越して喫茶店を始めたと聞いた。

 いろいろな情報が領主のところには集まってくる。

 もちろん不要な情報も多いのだけれど、ちゃんと先に誰の情報が欲しいって要望すればまとめてくれるのだ。

 いひひ。『エドのうんち一週間戦争』の話とてんまつだって知っている。

 青空小学校の件もそうだ。なんだかんだと裏で動いていたらしいと聞きおよんでいる。

 重要な案件に裏でさらっとかかわっていたりするから侮れないのだ。


 この前は喫茶店に行って話をした。

「あれ、このジャム」

「うん、自家製」

 それでわかったことだけど、以前家でジャムや大イノシシの料理が出たことがあった。

 あれも元をたどればエド君が採ってきて加工したジャムで、大イノシシを倒したのもエド君たちだっていうんだから、それはもうびっくりした。

 喫茶店でさらっとジャムが出てきたから聞いてみたのだ。

 そしてピザとかカレーとか美味しい料理の数々。


 なんなんだろう、本当になんなの。

 エド君の頭の中ってどうなってるんだろう。

 私は非常に興味を持った。こんな頭が良くてなんでも思いついて、そして実は強くて。

 なんでもできて。

 そして黒髪の男の子。黒髪といえばこの国にはほとんどいない。

 市井では「呪われた子」と言われているが、実は貴族の間では別の話が知られている。

 それは王家の血筋に関係しているといううわさだった。

 はるか昔、エルフの血筋とは別に、異なる世界からの生まれ変わりだという黒髪の王が国を発展させた。

 だから、王家には金髪が多いがたまに黒髪が生まれるというのだ。

 それで市井で認知されていない愛人などの王家の血を引く人が生まれたとき、たまに黒髪のことがあり王位継承権や様々な問題を引き起こす。

 それが「黒髪の呪い」というふうにゆがんで伝えられて「忌み子」になったということだ。

 つまりエド君ももしかしたら王家に近い血筋の可能性がある。

 私にも遠縁だけれど王家の血が入っている。

 そう思うと親近感が湧いてくる。

 余計、エド君に興味が出てくる。お婿さんの件はお父様にいさめられてしまったけど、まだ諦めてはいない。


 そしてエド君からエルダニア復興計画を聞かされた。私は是非もなく賛成し出資することに決めた。壊滅したエルダニアを復興させようだなんてすごい。

 私は興奮して、お小遣いを出すだけでなくお父様にかけ合って資金を融通してもらった。

 いままでこんなにお願いしたことがなかったのでお父様も驚いていた。

 スポンサーの当然の権利としてエド君を監督するのだ。

 いけいけ、私。エド君、待っててね。




 だいぶ暑くなってきた。

 しかしミーニャは相変わらずで朝になると俺にくっついている。

 朝方はまだ少し涼しいのが幸いなところだ。

 エルダニア領主館をホテルにすることも決まって、話はとんとん拍子だ。

 あまりにも順調でちょっと怖いくらいだった。

 エレノア様は資金だけでなく、人員も貸してくれる。

 まずエルダニア領主館を見に人をやった。内部はほとんどのものが残されたままだったそうだ。

 領主が真っ先に逃亡したため、残された使用人たちは財産を持ち出す許可をもらう当事者を失い、必要最低限の自分たちのものだけを持って王都へ避難したそうだ。だからベッドから魔道コンロまで何でもそのままになっていたと。

 エレノア様もやる気出まくりだ。ただし俺たちがトライエ市からエルダニアに引っ越すのは寂しいみたい。

「エド君、本当にエルダニアに行っちゃうんですの?」

「うん」

「そんなこと、雇った人を送れば済むことですわ。エド君は一緒にトライエ領主館に住みませんか? 女の子たちも一緒でいいですわ」

「うーん、確かに自分の手でやらなくてもいいのか。でもギードさんたちだけじゃ心配だし」

「それはそうですけど」

 トライエ市とエルダニアの間は片道三日。往復となると六日はかかる。

 もちろんランバードに乗って強行軍をすれば片道二日といったところだけど、子供の体力では厳しい。

「そうだわ、出資者として私が監視に行けばいいのよ。私は別に学校に行っているわけでもないし、エルダニアについていけばいいんだわ」

「どうだろうね」

「いひひ。お父様たちに邪魔されずにエド君と愛の巣を作れるわ。女の子たち三人はいるとしても、みんなで楽しく過ごせば幸せですわね」

「悪い顔してる」

「だってこんなに楽しいこと他にないわ」

 領主館まで下見に行った人に間取りを説明してもらい、部屋割りをしていく。

 ベッドは使用人たちが使っていた使用人部屋ごとホテルに転用できる。

 ちょうど一人部屋、相部屋があり客室にぴったりだった。

 俺たちも領主一家が生活していた個室や応接間、小食堂などをそのまま使える。

 大食堂もあり、お客さんたちの食堂にすることにした。

 それから地下室。地下一階には倉庫、食料庫があった。地下二階には大きなワイン保管庫とそれからろう

 牢屋はこういう行政機関にはどうしても必要なのだそうなので、そのまま残す。

 俺たちが学校へ行って、新しく決まったハーフエルフの先生の授業を受けている間にも、準備は進んだ。

 そしてついにエルダニアに行く日になった。

 もう準備はほとんど終わっていて、あとは俺たち経営陣と実働部隊が行って、ホテルを開業するだけだった。

 ミーニャとその両親、ラニア、シエル、あとエレノア様と女騎士さん一人、それからエッグバードを乗せて俺たちの馬車はエルトリア街道を進む。

 もう一台、人間とエルフのお手伝いさんたちを乗せた馬車も一緒についてくる。

 さらにエレノア様の本来の馬車に女騎士二名、男の騎士三人、武装メイドさん三人を乗せている。

 俺たちの馬車に乗せている女騎士さんは、シルリエットさんだ。

 胸の形のブレストプレート、膝当てクリーブは金属製だが限界まで軽量化されている。

 ペットボトルのように表面に凹凸があり、形状によって硬さを補っている。

 ひらひらのミニスカート、ガーター、ニーソックスは赤だ。

 この世界では赤の染料は比較的高価で高貴な色とされる。

 上腕、お腹、太ももは素肌が見えていてちょっと色気がある。

 絶対領域はなかなかどうして。

 元男子高校生といっても女子はミニスカに普通丈の紺のソックスだったので、絶対領域は絶滅危惧種だ。

 この絶妙に太ももだけ見えていて、スカートがヒラッと揺れるところがなんともいえないのだ。

 この女騎士の制服決めたの、絶対おっさんだよな。よくわかっている。

「やっぱりエド君のスープはしいですわ」

「そりゃどうも」

 エレノア様もご満悦。道中は俺が料理担当だったので、スープを作った。

 エルダタケはなんとか在庫があったので、節約しつつ入れた。

 トマト、ナスなどの夏野菜スープだ。

 馬車ではミーニャはすっかりハーフエルフのシルリエットさんがお気に入りで、彼女の膝に乗せてもらってくつろいでいた。

 冒険者ギルドのミクラシアさんは崇拝するがごとく接してくるので苦手そうだった。

 同じハーフエルフでも、シルリエットさんはミーニャと波長が合う、のほほんとしたところがあるみたい。

「ふんふ~ん。にゃらららん、はにゃる~ん♪」

 終始こんな感じに鼻歌とか歌っちゃって、お膝の上でゆっくり左右に揺れている。

 俺たちはそんな疑似エルフ姉妹をニヤニヤして見つつ、馬車に揺られた。

 あっち向いてホイとか、お互い同時に親指を立ててその数を当てるゲームとかをしつつ過ごした。

 そうして、ようやく領主館に到着した。

「やっと着いたにゃ」

「おう、ミーニャ、走り回るなよ」

「そんなことしないよぉエドぉ」

 そう言って俺の周りをくるくる回る。

 こうしてるとまるで気まぐれな妖精みたいだな。

 エレノア様を先頭に、彼女に雇われ先行して到着していた雑用係に玄関を開けてもらい、中に入る。広い。

 トライエ領主館より少しだけ狭いくらいの広さだ。

「ここが私たちの新しいハウスね!」

「おう、ってかそれ言いたいだけやろ」

「にゃーん」

 ミーニャが走っていってしまった。後をシエルが追う。

 俺とラニアはそっと手を取り合う。すかさず反対側にエレノア様がずずずっと近づいてきて、そっと手をつんつんしてくる。

「私とも、手をつないでよ」

「あ、ああ」

 エレノア様とも手をつなぐ。ゆっくり、しかし確実に領主館ホテルへ入る。

 ここが俺たちの新しい家。エルダニア領主館ホテル。



 トライエ市を離れ、エルダニア領主館ホテルの運営に力を入れることになった。

 ホテルのほうも住み込みの仕事を希望しているハーフエルフさんが二人ほどいる。

 他にもヒューマンの住み込みの女の子を三人、手配してある。全員が到着した。

 というか他にもうわさを聞きつけた元サルバトリア領のエルフさんが何人かお手伝いに集まってきている。

 それからラプンツェル・シスターズ。

 彼女たちもエレノア様から連絡が行ったのか、噂を聞きつけたのか、わからないけれど、領主館に滞在している。

 一応、今はギードさん一家の専属護衛をしてもらっている。

 領主館ホテルのロビーに全員が集まった。

「ごほん。エルダニア領主館ホテル、本日より営業開始を宣言します」

 ギードさんだ。喫茶店エルフィールは都合上、俺が仮店長をしていたが、ここは違う。

 ホテルの支配人はギードさんになっている。つまり──。

「うおぉおぉぉ」

「領主様、新しい領主様の誕生だ」

「それも、ごほんごほん、秘密じゃが、あのギード様じゃ」

 ここ元ドリアンドン伯爵領の新領主こそ、ギードさんその人ということになる。

 みんなギードさんに注目している。中には涙ぐんでいる人もいる。

 以前、この人たちはギードさんに救われたのだから、恩義も感じるだろう。

「ああ、まだ対外的には公にしないが、元サルバトリア公爵の私がここを新サルバトリア公爵領とすることを、仮宣言する。目標は正式にメルリア国王に領主として認めてもらうことだ」

 一斉に拍手が起こる。

「おおおおおおお」

「領主様、万歳、万歳」

 順番に並んでギードさんに握手を求める。以前来たときの販売店の人もいる。

「まあギード様、あなたが本当は領主様だったとは、これは一本取られました」

「あのときは偽りを告げて、すまなかった」

「いえ、まだお忍びでしたから。ご健闘、お祈りいたします」

「ありがとう」

 例のごとく俺たち一行には監視なのかビーエストさんがついてきている。

「新領主様、よろしくお願いします」

「ビーエスト殿、エド君がお世話になっています。剣術をまた教えてやってほしい」

「もちろんですとも。この領も忙しくなります。戦力は多いに越したことはない」

「そうですね。脅威は突然やってくるから」

「はい」

 ビーエストさんとギードさんが固い握手を交わす。

 それを満足そうに見つめるエレノア様。

 彼女はホテルの出資者という立場で、俺たちを見守っている。

 護衛の女騎士さんたちも、キリッとしたいい表情をしていた。

「パパ、がんばってください」

 無邪気な笑顔でミーニャが声援を送る。

「ギードさん、がんばってくださいね」

「ギードさん、がんばってみゃう」

 おめかししたラニアとシエルもギードさんを応援する。

 ラニアはうちの子ではないが、くっついてきていた。

「ありがとう。ところでエド君にも働いてもらうよ。氷を出したり、知恵を借りたり、ピザを焼いたりね」

「あ、はい。頑張ります」

 俺がギードさんに頭を下げる。

「エドちゃん、一緒に頑張ろうね!」

「エド君、私とも一緒に頑張りましょう」

「エド君、みんなで頑張るみゃう」

 みんなが体を寄せてきて、ぐりぐりしてくる。その体温が温かい。

「いひひ、早く大きくなってお嫁さんにしてもらわないと、にゃ!」

「はい。私もよろしくお願いします」

「みゃうみゃう、わわわわ、私も、お嫁さんなりたいみゃう」

 ミーニャが俺のほっぺにキスを落とす。

 微笑ほほえみを浮かべたラニアも同じようにキスをしてくる。

 最後に焦ったシエルも軽くチュッとしてくる。

 向こうではそれを見ていたエレノア様が顔を赤くして視線を泳がせていた。

 さて、これからも、頑張らせていただきます。

 目指せ、ギードさんの正式な領主就任。

 それから、俺たちのスローライフ生活──。




 少し時間を戻して、トライエ市を立つ挨拶回りをしたときのこと。

「えっとドリドンさん、ハリス、ミクラシアさん、ビエルシーラさんかな」

「そうだね!」

「順番に行きましょう」

「いってくるにゃ!」

 まずはドリドン雑貨店に向かう。

 スラム街の入り口にありラニエルダ民の食料や各種雑貨を一手に担っている。

 母親のトマリアがいなくなったあとは後見人にもなってくれた人だ。

 ハーブティーなどの買い取りもしてくれて大変世話になった。

「ドリドンさん。今度、エルダニアの復興を始めることになって、しばらく留守にします」

「そうなのかい、エド君。寂しくなるね」

「ええ、今まで本当にお世話になりました」

「うんうん。あっという間に立派になって、行ってらっしゃい」

「行ってきます」

「ミーニャちゃん、ラニアちゃん、それからシエルちゃんもくっついていくんだろう? がんばっておいで」

「はいにゃ」

「はい。行ってきます」

「いってくるみゃうみゃう」

 女の子三人も順番に頭をでられて旅立ちをお祝いされた。


 次はハリスかな。

 ガキ大将ハリス。前はけんもしたけど今では商売人として取引相手でもある。

 今もスラム街に住んでいるので、ラニエルダの中を進んで家まで行った。

「ハリス!」

「よう、エド。どうした?」

「エルダニアに行くことになったから、しばらく留守にする」

「お、お前」

「うん。ラニエルダ民ならエルダニアの復興は悲願だろ」

「ああ、俺たちはここ生まれだから別になんとも思ってないけど、両親とかはな」

「だろ。ちょっくら街を復興させてくる」

「簡単に言って。こっちが困ったときは誰に言えばいいんだ」

「え、ドリドンさんに頼ってくれ。あとビエルシーラさんも相談に乗ってくれるよ」

「そっか。そうだよな。ありがと」

「おっおう」

「んじゃ」

「ああ」

 子供同士なんて「んじゃ」で十分だよ。そんなもんだ。

 腕をぶつけ合う挨拶をして別れた。

 ハーブティーと健康茶では世話になったな。

 あのガキンチョが今ではみんなをまとめるリーダーだってんだから。

 雑用よりももうかって前よりいい生活ができている。

 みんなで幸せになろうな。


「次は冒険者ギルドだ。ミクラシアさんだね」

「うん」

 冒険者ギルド受付嬢。ハーフエルフのミクラシアさん。

 ミーニャをひいしている。これはもうエルフの定めなので、しかたがない。

 俺も新しい喫茶店用の家を借りたり、ちょっとしたことでもお世話になった。

「冒険者ギルドにようこそ。どんなご用ですか?」

「あ、ミクラシアさん。こんにちは」

「こんにちは。エド君、ミーニャ様たち」

「実はエルダニアの復興をすることになりまして」

「へぇ、それはすごいですね」

「しばらくトライエを離れます」

「はい。了解しました。向こうにはギルドがないから、たまにはいらっしゃい」

「うん」

 それから少し雑談などの情報共有をしてお別れした。

「ミーニャ様、お元気で」

「はいっ」

 ミーニャも最初は警戒していたけど、それほど悪い人ではないとわかって今では打ち解けている。

 ミクラシアさんもいい人でよかった。


 さて最後はビエルシーラ商店だ。

 冒険者ギルドのすぐ近くの商業地区にある。

「こんにちは」

「こんにちは。エド君じゃないか」

「エルダニアの復興でしばらく向こうへ住むことになりましてね」

「あぁ聞いてるよ。うちからも資材が行ってるからね」

「そうでした。そうでした」

 いろいろな物資の調達などですでにお世話になっている。

 今も荷物が集められていた。

 ということでビエルシーラ商店には今後もいろいろ調達してもらう予定だ。

「寂しくなるけど、注文はよろしく」

「ははは。商魂たくましいですね」

「そりゃね。大得意様だからね。領主館ホテルだなんて」

「そうですね。これからもよろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしく。未来の領主様かな?」

「さすがに領主にはならないと思いますけどね、あはは」

 なんにせよ世話になるので挨拶はしておくに限る。

 では一通り済んだので行きますか。


 いろいろな人との出会いがあった。

 みんな本当にいい人ばかりだった。

 世の中には怖い人もいる。わかってはいたけど俺は運がいいんだ。

 みんなのと出会いに乾杯。

 ではエルダニアに向かいます。俺たちの冒険は続く。