フランダーが苦笑する。だがメレアはそれに釣られて笑う余裕などない。

「メレア、油断しちゃダメだよ。今の僕はかつての全盛期以上に強い。君との鍛練の日々で、成長していたのはなにも君だけじゃないからね」

 馬鹿を言え。メレアはその言葉に対しさすがに頰を引きつらせる。

「ほかの英霊の大術式を、いくつか反転させることに成功した。それに伴って、系統が似ていれば、ほかの英霊の術式も何度か見れば反転させられる」

 さきほど纏まとった黒い雷と、白い術式剣。メレアの中には確信に近い予想があったものの、改めて断言されると冷や汗の三つや四つ当然のごとく溢あふれてくる。

「そのままでいいのかい、メレア。今の僕に鍛練のときのような手加減はないよ」

 フランダーが両腕を開いて、威圧するように前へ出ながら言った。

 そのときにはすでに、メレアも次の手段への起動言語をつぶやいていた。

「〈暴神クルザ・カタストロフの憤怒〉──〈四し門もん封ふう解かい〉」

 メレアの髪が黒く染まる。

 身体から莫ばく大だいな量の術素が溢れ、メレアの全開を知らせた。

「言われなくても」

「そうだ、それでいい。君の歩んできた道の成果を、ここで確かめよう」

〈術神〉が楽しげに笑った。


◆◆◆


「いやはや、両者ともおそろしいほどの戦闘力ですね」

「お前は加わらないのか」

「アハハ、そんな無謀なことはしませんよ。ワタシ自身にはさして戦闘力はありませんから」

 メレアの使っていた石の小屋の陰から、〈魔神〉と〈術神〉の戦いを見守る者がいた。

「お前の目的はなんだ。なぜ〈魂の天海〉から私たちを降ろし、今を生きる者たちに差し向ける。死者への冒ぼう瀆とくのみならず、お前の行いは世界そのものを混乱させる」

「あえて言うならばそれが目的ですから」

 ネクロア・ベルゼルート。長く垂れる前髪の隙間から、濃い紫色の眼を不気味に輝かせるのは、まさしくかの〈死神〉であった。

「世の混乱がお前の望みか」

「正確には混こん沌とんです。ワタシは秩序というものが嫌いでして。特に平穏のために形作られる秩序というものが」

「腐っているな、人として」

 そしてもう一人はメレアと同じ雪白の髪を持つ女、〈白帝〉レイラス・リフ・レミューゼである。

「なんとでも。アナタ方は人間の本質をわかっていない。ワタシは人の発展に寄与しているのですよ? 人は混沌の中でこそ発展する。混沌の中、秩序を求める過程で、人は次への一歩を踏むのです。とはいえ、実際に秩序を手に入れられては困る。そこで発展が止まってしまうので」

 ネクロアは激化するメレアとフランダーの戦いを恍こう惚こつとした表情で見ながら言った。

「発展とは耳あたりの良い言葉だが、お前の言葉はどうにも薄っぺらいな」

「バレましたか? まあ、そんなものは建前ですからね。──単純に混沌としていた方がおもしろいからですよ」

 レイラスが鋭い視線をネクロアに向けた。

「コワイコワイ。最も秩序に近しかったアナタの眼は、いろいろな意味でワタシに毒だ」

 ネクロアはレイラスを一いち瞥べつしてくすくすと笑う。

「やめろと言ってもお前はやめないのだろうな」

「人に言われてやめるくらいなら、ワタシはとっくに自害でもしています」

 ネクロアの返答で、レイラスはその男の救いがたい本質を理解した。

「自分が人類にとって悪質であることを理解しているのだな」

「世間一般の価値観の上では、そうであるだろうという認識はあります」

「それでもなお己の欲望に忠実に生きるか」

「当然です。ワタシは〈悪徳の魔王〉ですから」

 レイラスは不意に服の下に手を突っ込んで、そこから一振りの短剣を抜いた。

 その様子を見たネクロアはまた楽しげに笑った。

「やめた方がいいですよ。アナタ、その〈白帝の魔眼〉とそれに付随する世界式──正確には人体式──への干渉でなんとかワタシの〈死霊術式〉による縛りを緩和しているみたいですが、あそこにいる〈術神〉とは違ってかなり無理やりな方法ですよね。これ以上無理に自分の人体式をいじると、存在そのものが霧散してしまうのではありませんか?」

 ネクロアは舐なめるようにレイラスの身体を見た。

 レイラスの腕は遠くの景色を透過している。薄まっているのだ。

「アナタも人の生み出した式に強ければ良かったですね。そうすればあそこにいる〈術神〉のようにワタシの術式に抗あらがえたかもしれないのに。──とはいえ、あの〈術神〉もすでに抗いきれてはいませんが」

「それでも──」

「意外に物わかりが悪いですね。これ以上面倒なことをするようであればすぐにでもアナタを〈魂の天海〉に戻すと言っているのです。触れたいのでしょう? 彼に」

「っ」

 ネクロアは不気味な笑みを浮かべてレイラスに言った。

「なら、大人しくしていてください。ワタシは彼らの戦いをもう少し見ていたいのです。あの二人は術士という分野において人類の到達点にいる。この混沌とした時代が産んだ発展の完成形の一つ。実に美しい」

「メレアを、どうするつもりだ」

 レイラスは短剣を強く握ったままネクロアの顔を睨にらみつけた。

「どうもしません、今は」

 ネクロアは肩をすくめる。

「ここで〈術神〉に負けて死ぬのならそこまでですが、ここで生き残ったならばまだ先がある。こんなところで混沌の鍵かぎでもある彼を殺してしまうのは惜しい」

「混沌の鍵……?」

「ええ。彼は今の黒国の王子であるセリアス・ブラッド・ムーゼッグとともに、世界に大きな争いを巻き起こす鍵なのです。すでにちらほらと囁ささやかれてはいますが、いずれセリアス・ブラッド・ムーゼッグは〈黒神〉と呼ばれ、この時代の英雄の筆頭になる。対し、あそこにいるメレア・メアは、〈白神〉と呼ばれムーゼッグに対抗する〈魔王〉の象徴になる。争いは混沌の良き友人。彼らは混沌の母体になる」

 ネクロアは自分の身体を両腕で抱いて、嬉うれしげに言った。

「〈白神〉と〈黒神〉。この二つの衝突こそ、これからの時代における最大の混沌構造。もっと彼らのために場を整えなければ」

 すると、その言葉を聞いたレイラスが、不意に短剣を落として──

「あはは」

 笑い出した。

「なにがおかしいのです?」

「お前、思いのほか見えてないな」

 レイラスは一転して心底からおかしがるように腹を押さえる。

 ふとレイラスが顔をあげたとき、その金色の眼が煌こう々こうと輝いていた。

「多くの見落としがあるぞ。お前が思うほどこの世界は単純ではない。この眼を持つ私が言うのだから、意味はわかるだろう?」

〈白帝の魔眼〉。もっとも世界の構成術式を見たその金眼に、ネクロアの顔が反射する。

「断言する。お前の思うようにはいかない、絶対にだ」

 レイラスはネクロアを指差して得意げな顔で言った。

「不愉快ですね」

「お互いにな。だが安心した。お前がその程度しか見えてないのならば、メレアの敵ではない」

 レイラスはもう足元に落ちた短剣を拾わなかった。必要ないとばかりに。

 対するネクロアはそのレイラスの開き直りに顔をしかめる。

「せいぜい己の欲望のために邁まい進しんするといい。いずれお前は己の惰弱な想像力に絶望し、破滅する」

 レイラスはもうネクロアを見ていなかった。その視線は山頂で戦いを繰り広げるメレアとフランダーを見ている。

「……その眼はやはり良くないものだ」

 ネクロアは不意にレイラスの眼に手を伸ばした。

「世界の秩序を見る眼なんて、いらない」

 まるでレイラスの眼をくり抜こうとするかのように、ゆっくりと指が伸びて──


「彼女に触れるな」


 二つの声が、ネクロアの耳を穿うがった直後、その腹部に一振りの麗刀ともう一振りの白剣が突き刺さった。

「っ」

 ネクロアは背中から自分の腹部を貫いて出てきた二本の刃の切っ先を見てから、すぐに後ろを振り返る。

「……壮観ですね。二対の〈術神の魔眼〉に睨まれるというのは」

 いくつもの術式と反転術式を打ち合いながら、その最中にネクロアを睨みつけるメレアとフランダーがいた。

「あの攻防の間に、二人同時にワタシへ術式を飛ばしたのですか」

「私の息子と夫を舐めるなよ」

 レイラスはこの状況にもまるで動じず、腕を組んで二人を静観している。

「〈術神〉に至ってはまだ〈死霊術式〉で縛りきれないと」

「お前の気が緩んだ隙に、〈反転術式〉で主導権を握り返したんだろう」

「まったく、おそろしいまでに精せい緻ちな技術だ。油断も隙もない」

 ネクロアの身体が不意に光の粒になって消えはじめる。

「ふん、やはりそれも分身体か」

「分身とは少し違うのですが、まあ似たようなものです。ワタシは死を司る術士。人の死体に自分の魂を分包することくらい訳ないです」

「ろくな死に方をせんな」

 ネクロアの身体は瞬く間に上半身だけになって、その頃にようやくレイラスはネクロアを見た。

「お前はそう遠くないうちに破滅する」

「よくもまあ、ワタシに命を握られた状態でそこまで強気に出れますね」

「殺したければ殺せ。もう私はお前の思うようには動かない。私はあそこにいる〈術神〉の妻であり、〈白神〉の母でもある。あの二人がああして自分の本当の望みを殺してまで未来への可能性を残そうとしているのに、私だけ自分の望みにすがりつくわけにはいかない」

 レイラス・リフ・レミューゼの意志は苛か烈れつである。この女がいなければ英霊たちは一つにまとまらなかったし、メレアは生まれなかった。ある意味、レイラスこそがすべての母である。

 ときに子どもらしく快活に、ときに燃え盛る炎のように苛烈に、そして決して後ろへ退かない鋼鉄の意志を持つ〈白帝〉レイラス・リフ・レミューゼ。その矜きよう持じは間違いなくメレアに受け継がれている。

「……おもしろくないですね」

「混沌が望みなのだろう? 私がお前の思い通りに動いたら、それはお前の作った秩序に合致することにもなる。それはお前としては望まざるべきことではないのか?」

「まるで子どもの言葉遊びだ」

「お前の程度に合わせただけだ」

 ネクロアの身体が首だけになる。レイラスはもうネクロアを見ていない。

「まあ、勝手にしてください。興がそがれたので、ワタシは向こうに行きます」

「好きにしろ。もうお前は眼中にない」

 そしてネクロアは完全にその場から消え去る。レイラスは空に昇るネクロアのものではない魂に胸中で祈りを捧ささげ、またメレアとフランダーの戦いを見た。

 気づくと空から雪が降ってきていた。


◆◆◆


「──〈牙が風ふう御みか雷づち〉」

 メレアは風の六翼を羽ばたかせ、雷の入り混じった暴風をフランダーに叩たたき付けた。

「発想は悪くない」

 フランダーは真正面からその暴風を受ける。

「でも、まだ雑だ」

 フランダーは自分の身体に襲い掛かる雷風のみを、継続的に〈反転術式〉で中和させながら、あろうことかメレアに向かって歩みはじめた。

「〈麗れい刀とう時雨しぐれ〉」

 メレアは即座に天を指差し、無数の〈水神の麗刀〉を展開する。

 振り下ろし。

 フランダーに向かって数えきれないほどの麗刀が猛烈な勢いで襲い掛かる。

「三式、〈白光壁〉」

 フランダーは麗刀が到達する前に軽く足裏で地面を叩いた。瞬間、その場所から白い光の壁が現れる。その光の壁は向かってきた麗刀をすべて受け止め、燃やし尽くした。

「秘術は強力だ。独自の術式理論はまさしくその一族の集大成でもある。──けれど、必ずしもそのほかの術式が劣っているわけではない。現存する一般的な術式理論も、工夫と重ね合わせを繰り返すことで、十分な威力を発揮する」

「〈白光砲〉の術式を矛盾なく五重に重ね合わせて、その上で壁状に展開するなんて芸当、フランダーにしかできないよ」

 メレアはわずかに息を荒らげながら、〈牙風御雷〉と〈麗刀時雨〉を受け切ったフランダーを見る。

「なら、いずれできるようにならなくちゃね」

「善処はする」

 と、フランダーがまた足裏で地面を叩く。

 メレアの足元に術式が展開され、それは一瞬のうちに事象になってメレアに襲い掛かった。

「くっ」

 地面から土の槍やりのようなものが突き出された。

 メレアは横に飛び退くことでそれを避けるが、

「略式、〈天王エクシル・フローラの剛ごう槌つい〉」

 避けた先に展開された大気の槌つちが、メレアの身体を容赦なく打った。

「がっ」

「双式、〈地王の剛槌〉」

 吹き飛ばされた先で二振りの黒塊に叩き潰つぶされる。

「君の身体は本当に丈夫だね。〈戦神タイラント〉や〈命王ミユーゼル〉に感謝することだ」

 半ば地面にめり込むまでに地面に叩き潰されたにもかかわらず、メレアの身体はすぐに起き上がろうとする。

「なら、これはどうかな」

 そんなメレアを見て、フランダーは容赦なく術式を展開した。

「反転術式──〈聖ベルセウスの白はく龍りゆう〉」

 それはあの〈風神〉の一撃。

 フランダーの頭上に、神話にすら存在しない白い龍が現出した。

「まだ、だ……!」

 対するメレアも起き上がり、天に手を掲げる。

「〈聖ベルセウスの黒龍〉!!」

 黒い風の龍と、白い風の龍が、その牙きばを互いの首に差しこんだ。


「……」

「生きてるかい?」

「……かろうじて」

 術式勝負の決着は、二頭の龍の喰らい合いのあとに起こった。

「あれもフェイクだったのか」

「白龍は君の意識を正面に向かせておくための布石。本命は足元に展開した石槍だよ」

 メレアは地面から生えたオブジェのような石槍に心臓を突き刺されていた。口元から血が流れ、ぽたりぽたりと雪の大地を赤く染め上げる。

「でも、ずいぶん強くなったね、メレア」

「皮肉にしか聞こえないよ、フランダー。〈死王アハト〉の心臓を継いでなかったらとっくに死んでる」

 大きく咳せき込んで、血を吐きながらメレアが苦笑する。

「これでも僕は〈術神〉だ。術式合戦という名目で僕が負けるわけにはいかない」

 フランダーはメレアに近づき、その頰に触れながら言う。

「君も、僕に華を持たせてくれたんだろう?」

「……」

 半分その通りで、半分その通りではなかった。

「俺は、術式合戦でも勝つつもりでフランダーに挑んだよ」

「そうか、良い心がけだ。なら、いずれはこの号も君に譲ることになるかな」

 そのときまで、まだ僕が〈術神〉だ──フランダーが照れたように言う。

「でも、今回はもう十分だよ、メレア」

 フランダーの手の中に術式が展開され、一振りの炎の剣が現れた。

「僕にはもうこの〈死霊術式〉に抵抗する力がない。だから、これ以上はいいんだ。僕はもう十分に満足した。君の成長を感じることができたし、僕自身全力で戦えて楽しかった。なんだかんだ言って僕も戦闘狂だったのかなぁ。タイラントたちのことをとやかくは言えないね」

 フランダーがまた照れくさそうに笑う。

「じゃあ、あとは任せたよ、メレア」

「うん」

「レイラスが、待ってるから」

「うん」

「そういえばあの小屋にレイラスがいるって最初から気づいてたの?」

「気づいてたよ」

「そっか。君は抜けてるようでいて肝心のところはしっかりしてるなぁ」

「フランダーが抜けすぎなんだよ」

「そうかもね。ともあれ、そういうところはレイラスに似たんだな。彼女も普段は子どもっぽくて、抜けてるところが多いけど、ここぞというときは僕よりもずっと頼りになるから」

「そうなんだ」

「そうさ、僕の自慢の妻だよ」

「なら、俺の自慢の母でもあるね」

「うん。──甘えられる時間はあまりないけど、彼女との時間は、たしかに僕が作っていくから」

「……」

「君のその力は、今の時代の仲間たちに使ってあげなさい」

「……わかった」

「じゃあ、またね、メレア」

「うん。──またね、フランダー」

 そしてフランダーの握った炎の剣が、フランダーの意志とは関係なく、メレアの首に迫った。


「〈魔神の神威〉」


 しかし、炎の剣はメレアの首を刈ることなく、メレアの身体から放出された金色の術素に触れた瞬間、まるで霧のように消えてしまう。

「そう、その力こそ、君の集大成。君の研けん鑽さんが生んだ、世界を変える力」

 フランダーは意志とは関係なくさらに無数の術式を展開しながら、メレアのことを愛いとおしげに見ていた。

「レイラスの眼だけでは、そうはならなかった。君が血のにじむような努力の果てに、そこまでの術式処理能力と独特の術式感覚を会得しなければ、世界式をいじるなんてことできるはずがない」

「みんなのおかげだ」

 メレアはフランダーの展開した術式を、手も触れず反転術式も展開させずすべて解術した。

「君のその眼にはなにが見えている?」

「未来の、可能性が」

 下がろうとしたフランダーの身体を、メレアは意志のみで傍に引き寄せた。その瞳ひとみには、金色の術式紋様が浮かんでいた。

「なら、その可能性に、すべてを懸けよう」

「きっと、つかんでみせるよ。希望に繫つながる明日あしたを」

「がんばれ、メレア」

 いつの間にかメレアの心臓を貫いていた石槍も消え、メレアの身体から傷までもが消えている。

 メレアは近くに引き寄せたフランダーの身体を抱きとめ、その背中に手を当てた。

 そしてつぶやく。

「さようなら、フランダー」

 そしてメレアは神の威とまで呼ばれる力を発動した。

 フランダーを構成するすべての式に触れ、その中の不純物──〈死霊術式〉の影響を受けている部分をすべて元に戻す。

 フランダーの身体が光に包まれ──そのまま空に昇りはじめた。

 メレアは降り落ちる白い雪の中、フランダーの光が昇って行く光景をずっと見ていた。

 彼の魂が安らかに天海に昇るまで。

 ずっと。

 いつまでも。


◆◆◆


 フランダーを見送ったメレアは、小さく息をついてから小屋の方を見た。

 そこには自分と同じ雪白の髪を持つ女が立っていた。

 今回は白いヴェールもない。

 ふと、彼女が歩いてきた。

 メレアは急に恥ずかしくなって、視線を落として立ちすくむ。

 なんて声を掛けたらいいのか、わからない。

「フランダーめ、最後に私に〈死霊術式〉を中和する反転術式を掛けていったのか」

 凛りんとした声が聞こえた。綺き麗れいな声だと思った。

「最後の最後までおせっかいなやつだ。これくらい、私でもなんとかできる」

 少し、気の強さをうかがわせる物言い。しかし、嫌な感じはしない。それはそんな物言いの中にも、相手に対する愛情が感じられるからだろう。

「おい、どうして下を向いているのだ」

 雪を柔らかく踏む足音がした。

 目の前だ。

「い、いや、その──」

 恥ずかしいからだなんて言えない。メレアは返答に困った。

「私に会いたくなかったのか?」

「違っ──!」

 そう言われ、メレアはとっさに顔をあげた。

 その瞬間。

「会いたかったぞ、メレア」

 メレアはレイラス・リフ・レミューゼに抱きしめられた。

「あ──」

 メレアの身体から無駄な力がすべて失うせる。

 ただ彼女に抱きしめられただけで、強こわ張ばっていた心が、溶けていった。

「ぬ、意外とでかいな。いや、あの熊男の因子を継いでいるわりには小さいのか……?」

 レイラスの手がメレアの頭を撫なで、身体を撫で、心を撫でた。

 まるでそこにちゃんと在ることをたしかめるような手つきに、メレアは身を委ゆだねる。

「まあ、ともかく、よく生きてきたな、メレア」

「──うん」

 メレアは声の震えを極力抑えて、短く答える。

「その、風邪とか、ひかなかったか?」

「はは、〈病神シリル〉の抗体を継いでいるし、〈薬王カルラ〉の血もあるから、風邪はひかないよ」

「む、それもそうだな……」

 きっとレイラスも自分と同じなのだと、メレアは気づいた。

 互いの鼓動が速い。それでいて気持ちは落ち着いている。

 恥ずかしいけれど、心地よい。

 安心する。

「最近、どうだ。友達はできたか?」

「できたよ。楽しい仲間たちがたくさん。元王子とか、昔アイオースですごく優秀だった女の子とか、完かん璧ぺきなメイドになることを使命にしている女の子とか、元傭よう兵へいですごく凛とした女の子とか、身体は弱いけど誰よりも仲間思いな女の子とか──」