幕間 【思いは霊山の空に揺蕩たゆたう】



「そろそろ来るね、僕たちの息子が」

「……ああ」

 雪の積もる銀面の山頂に、二つの影があった。

 一つは灰色の長髪を後ろで一本に結っている若い男。中性的な美び貌ぼうに、柔らかな微笑がよく似合っている。背は低くないが、身体の線は細く、優男と呼ぶにふさわしい容姿だ。しかし男の瞳ひとみに宿る赤色は、そんな柔和な印象と乖かい離りして鋭く煌こう々こうとした光を放っていた。

「君、先に彼に会ってきたでしょ」

「……」

 もう一人は頭から白いヴェールをかぶった女だった。すらりと長い手足に、押せばよろけてしまいそうな細身の身体だが、立ち姿は凛りんとして美しく、ヴェールの隙間からこぼれる白髪が地面に反射した銀光できらきらと光っている。

「私は……」

 女は白いヴェールをおもむろに手で取った。

 その下から現れた顔は、おそらくこの世で最も美しいと形容される美貌を宿していた。

「私は、お前らと違って成長したメレアを見たことがなかった……!」

 それまで超然とした雰囲気を呈していた女は、不意に感極まったように声に力を込めた。灰色の髪の男を見る大きな目は潤み、頰は熱で紅潮している。

「私のっ、息子だぞ……! 私の……っ」

 金色の瞳が涙で潤み、そのまま零こぼれた涙は白はく皙せきの肌を撫でる。

「そうだね。君が、誰よりも望んだ、君の息子だ。君が僕たちを説得して、〈異界草〉を使おうだなんて言わなければ、彼は生まれなかった」

「ううっ……」

 女は両手で顔を覆って、嗚お咽えつを漏らした。その姿はもはや泣きじゃくる小さな少女のようである。超然とした雰囲気はすでにどこかへ行ってしまっていた。

「みんな知っている。君が誰よりも彼を愛していることを」

「でも、私はもうメレアに触れられない。近づけば私はメレアを攻撃してしまう」

 女はとめどなく溢あふれる涙を何度も何度も手で拭ぬぐいながら、それでも泣いていた。

「それは、嫌だ。私は死んでもメレアにだけは害を為なしたくない。そうなるくらいなら私は自分を殺す」

 男は女の意志の強さを肌で感じた。少女のようでいて、数多あまたの英霊たちに一目を置かれる彼女の意志の強さは、今に疑うようなものではない。

「でも──」

 女はふと言った。嗚咽が大きくなった。

「一度でいいから、抱きしめさせてくれ……っ!」