付き添いで、記念受験と洒落込みます

やってきました、レイラさんの自由への道第一関門である九月十日。しかし何故か私までレイラさんと一緒に魔術師昇格試験の会場前に立っている。

二人でお互いの身許を保証してくれる師の紹介状を受付に提出し、会場の中に足を踏み入れれば、今日の受験者達が硬い表情で最後の問題集確認をしている姿が目に飛び込んできた。

パッと見た感じ顔の半分を包帯で覆い、目深にフードをかぶっている私を気にする余裕のある人はいなさそうだ。というよりも、チラホラ似たような格好の人達もいる。きっと私と同じ枠での受験者だろう。

キョロキョロと落ちつきなく周囲を見回していたら、クスクスと楽しそうに笑う声がして。振り向くとレイラさんが微笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。

「ああ、笑ったりしてごめんなさい。でも今日は貴女あなたとここに来られたことが嬉しくて。やっぱりね、一人だと不安だったの」

ちなみに今日までの集大成が発揮できるとウキウキしているレイラさんとは違い、付け焼き刃の私はガチガチだ。今すぐにでも帰りたいことこの上なしである。しかし私に撤退の二文字は許されていなかった。

「は、ははは……そうですね、レイラさん。お、お互いに頑張りましょう」

「ええ。試験教室は違うけれど、筆記試験が終わったらここで落ち合ってお昼を一緒に食べましょうね」

そう言ってはにかむ彼女の表情に少しだけ勇気づけられ、ついでに鞄を重くする要因になっている師匠お手製のお弁当にも鼓舞された。無事に筆記試験を終えて美味しく楽しいお昼にすることを心に誓い、互いに軽く握手をして振り分けられた教室へと向かう。

『魔術師昇格試験にも抜け道というか、飛び級制度みたいなものはあるから。師事している師匠の手伝いとして実働五年以上魔術に関わっていれば、一定の技術と知識を修得したことになるの。師匠が証明のサインと紹介状を書けば学校に通ってなくても会場に入れるわ』

師匠の思いつき癖はいつものことだけど、今回のこればかりは正直無理だと思った。記憶のない状態で拾われて途中から勉強しだしたうえに、魔術師適性どころか魔法使いの適性すらないのにそんな馬鹿なと。でも──。

『あたしの授業を受けてきたあんたなら、筆記試験はそう難しくないと思うわ。今から磨くとしたら実技ね。当日までに座標を口にしないでも籠が編めるところまで持っていくわよ』

その言葉に逃げ道を塞がれたのもある。けれど続いた師匠の『あたしの名前で紹介状を書くんだから、みっともない点数取るんじゃないわよ』と言われた時に、思わず背筋が伸びた。だってこれって考えようによっては、正しく師匠の弟子として送り出されたということだ。

振り分けられた教室の前まで辿り着いて中を覗き込むと、私と同じような経緯で送り出されたのかもしれない受験者達が席について、各々古ぼけた本を手に最後の暗記に勤しんでいた。

そんな光景に気圧されつつ、一般の受験者よりも人数が少ない社会人向けの教室の一番後ろの席に陣取って、師匠の蔵書の中でも特にお世話になってきた本を開く。ページをめくる音だけが満ちる教室に程なく試験官達が入室してきたところで、馴染んだ本とは一旦お別れだ。

彼等に配られた問題用紙を伏せて待つ耳に「それでは始めてください」の声がかかり、一斉に紙が表返される。その問題にザッと目を通した瞬間、机の下で拳を握りしめてしまった。だって……全部バッチリ分かる問題しかないのだ。

鬼のように厳しかった師匠の授業に感謝しつつ問題に取りかかり、その中に問題と解答の噛み合わないものが交じっていたので、それを試験官に尋ねたりと充実した受験者気分を味わった。どのみち次の実技試験で馬脚を露わしてしまうのだし、今この筆記試験くらいは出来の良い弟子でいたい。

満点までは無理だろうけど、せめて試験開始前に試験官から説明があったように、この受験者達の中で実技に多少加点が入るという五指枠を目指した。

──……で、何だかんだと順調に筆記試験が終わり、待ちに待ったお昼休み。

約束通りレイラさんと朝別れた会場の入口で落ち合って、午前中の答え合わせに躍起になる受験者達の隣を刺激しないように通りすぎ、二人で人気の少ない日陰が多い中庭の端にある蔦が絡まる石造りのベンチに落ち着いた。

私は師匠から持たせてもらったお弁当を。レイラさんは師匠から教えてもらった美容食材で自らこしらえたお弁当を取り出し、膝の上で包みを広げる。

そうしてお互いにお弁当を口にしながら、午前中の筆記試験の出来映えについて意見交換と答え合わせをしてみた。一問だけ師匠手持ちの本の内容が古かった問を除けば、概ね正解だろうという結果に胸を撫で下ろす。

「今の答え合わせの分だったら私もレイラさんも合格点ですね」

「ええ。筆記試験の結果発表はたぶんお昼休み中に終わるわ。でもそうなればいよいよ実技試験ね……不安だわ」

「レイラさんの実力なら大丈夫ですよ。ギルドマスターのジークさんが認めたんだから、実技は通ったも同然です。むしろ心配なのは私の方ですよ。この日に合わせて付け焼き刃をしただけなんですから」

「まぁ、そんなことないわ。アリアさんの魔術構築はベイリー様のお弟子さんらしく、短期間で習得したとは思えない見事な出来だもの」

なんて讃えあって。ほんの僅かな時間でも学生生活を味わえるというだけで充分気分が高揚したまま二人、午後の筆記試験結果の張り出しを告げる鐘が鳴るのを待った。

──そして。

「あ、ほらあそこにありますよ、レイラさんの名前!」

「あちらにアリアさんの名前もあるわ!」

ついにお昼休み終了の鐘が鳴り、レイラさんと一緒に張り出された午前中の筆記試験の結果を見に行き、無事に午後の実技試験に進むことができることにひとまず手を取り合って喜ぶ。私の順位は実務経験受験者達の第四位。何とか実技試験でちょっとだけ色をつけてもらえる五指に滑り込めたみたいだ。