出会い


「ハッ、ハッ、ハッ……」

 森の中を息を切らして懸命に駆ける一匹の黒子猫。

 闇猫と呼ばれ、夜の狩りが得意な魔物だ。

 強力な魔物である闇猫でも、幼体が単体で動き回るのは危険すぎる。

 しかし、この状況は仕方がない。

「ガァッ!!」「グルアッ!!

「ッッッ!?

 目の前に二体の魔物が現れる。

 小鬼のゴブリンだ。

 樹や草を利用し、何とか逃れることができたと思っていたが、そうはいかなかったようだ。

 数が多いことを利用して、先回りしていたようだ。

 いくら闇猫が強いと言ってもそれは成猫の話で、幼体ではゴブリンに勝つことは難しい。

 しかも、敵は単体ではない。

 進路先に現れた敵に、子猫は脚を止めるしかなかった。

「「「グルル……!!」」」

「ッ!?

 子猫は目の前の二体から逃れるために方向転換しようとしたが、後方から追いかけて来ていた敵に追いつかれてしまった。

 三体のゴブリンが加わって周囲を囲まれてしまい、子猫は絶体絶命の状態になってしまった。

「ウゥー……!!

 子猫は必死に威嚇するが、ゴブリンたちは全く脅威に感じていない。

 ジリジリと子猫との距離を縮めてきた。

 夜にこそ本領を発揮するのが自分たち闇猫。

 それに比べると、昼間は少々実力は落ちる。

 このゴブリンたちはそこを狙っていたらしく、多くの人数で自分たち家族の巣穴を襲い掛かってきた。

 父や母は懸命に抵抗したが数に負けてしまい、共に逃げた兄たちも次々とやられてしまった。

 せめて自分だけでもと必死に逃げてきたが、ここまでのようだ。

〝ガサッ!!

「ッッッ!?」「「「「「っっっ!?」」」」」

 勝てないまでも、一矢報いてやる。

 子猫がそう思っていたところで、何かが草をかき分けてこちらへと近付いてきた。

 突然のことに、子猫だけでなくゴブリンたちも驚き、音のした方へ目を向けた。

「…………」

「……?」

 現れたのは、ゴブリンのように二足歩行で歩く木。

 トレントと呼ばれる木の魔物は見たことがあるが、それとも違う。

 見たこともない生物に、子猫は戸惑うしかなかった。

「ガウッ!!

 戸惑っているのはゴブリンたちも同様らしく、子猫を囲んでいたゴブリンの内、一体が木の生物の排除に動いた。

〝スバッ!!

「ニャッ!?

 棍棒代わりの木の棒を武器に、ゴブリンは木の生物に殴りかかる。

 その次の瞬間、襲い掛かったゴブリンの首が舞い上がった。

 木の生物が、腰に差していた武器で斬り裂いたようだ。

 あまりの早業に、子猫は思わず驚きの声を上げた。

「「「ガアッ!!」」」

 仲間がやられたことで腹を立てたのか、ゴブリンたちは子猫そっちのけで木の生物へと襲い掛かる。

〝ズバッ!!〟〝ズバッ!!〟〝ズバッ!!

「…………」

 三体による攻撃を苦にすることなく、木の生物はあっという間に斬り倒した。

「グ、グルル……」

 木の生物の強さに恐れを抱いたのか、残った一体は腰が引けて今にも逃げ出しそうな反応を見せる。

〝ズバッ!!

「ギャッ!!

 逃げることを選択したようだが、ゴブリンが背中を見せた途端に木の生物が一気に距離を詰めて背中から斬りつけた。

 その一撃によって、ゴブリンは短い悲鳴を上げ、大量の出血をまき散らして倒れて動かなくなった。

「ミ……」

 次は自分がやられる番。

 そう考えた子猫は身構えるが、何故か木の生物からは脅威を感じない。

 その思いが正解かのように、木の生物は自分に向かって来ることなく、倒したゴブリンの体内から魔石を取り出し始めた。

 子猫は構えを解いて、戸惑いつつもその様子を黙って見つめた。

「ニャッ……?」

 魔石を取り出した後、木の生物はゴブリンたちを焼却し始める。

 アンデット化を防ぐための処置だが、子猫には理由が分からないため首を傾げる。

〝スッ!!

「ニャッ?」

 ゴブリンの死体の処理を終えた木の生物は、一旦子猫の方へと顔を向けた後、ゆっくりと歩き出した。

 言葉は発していないが、何だかついてこいと言うかのようなその行動に、子猫はこの木の生物に付いて行くことにした。


「んっ? おかえり、ロ……イ?」

 木の生物に付いて行き、森から出ると、木の生物とは違う二足歩行の生物がいた。

 その生物は、木の生物と何かやり取りをした後、子猫に近付いてくると、優しく子猫の頭を撫でた。

「…………」

 頭を撫でられたことで、子猫は敵意を感じないからと言って、どうして自分は木の生物についてきたのかを理解した。

 この生物から受ける、不思議な匂いというか雰囲気のようなものを、木の生物から感じ取ったからだ。

 何と言って良いか分からないけれど、似た感覚は覚えている。

 父や母、兄たちから感じていた、何だか温かくてフワフワした感覚だ。

 それが分かった瞬間、子猫はずっとこの生物の側にいることに決めた。


 これが、後にクオーレと名付けられる子猫と、主人となるレオの出会いだった。