「エレナ様! よく生きていてくださいました!」

「我々はフラヴィオ様、グイド様に大恩ある者たちです!」

 エレナに言われて顔を上げた彼らは、涙を拭いて話し始めた。

 彼らは昔からルイゼン領に住む者たちで、エレナの祖父であるフラヴィオと父であるグイドに助けられた経験を持つ者たちの集まりだそうだ。

「憎きムツィオへの報復のためとはいえ、罪を犯したこと申し訳ありません!」

 グイドが亡くなり、その娘のエレナを死に追いやったことで彼らは怒りが抑えきれなくなった。

 どうにかしてムツィオに報復をしてやろうと考え、同じ思いを持っていたシェティウス男爵と繋がることができた。

 彼との情報のやり取りもあり、ルイゼン領へダメージを与えることができた。

 しかし、所詮苦しむのはムツィオではなく市民ばかり、申し訳ないと思いつつもムツィオの評価を下げるまで続けるつもりでいた。

 しかし、ムツィオは自分たちの討伐を利用して領地拡大を図るつもりだと聞き、しかもそのことで内乱が起きる可能性が出てきたことが伝えられた。

 こうなったら殺されるのを覚悟でムツィオの所へ攻めかかろうかと思っていたが、シェティウス男爵から逃走地を用意してもらえ、その地にエレナが生存しているという話に驚愕した。

 フラヴィオ、グイドへの恩を返す意味でも、エレナを助けるのが自分たちの使命と思った彼らは、すぐに船を偽装してこのヴェントレ島へと向かったのだそうだ。

 恨みを晴らすために行った行為とはいえ、ルイゼン領市民へ被害を与えてしまったことを彼らはエレナに謝罪した。

 自分たちほどではなくても、ムツィオへの怒りを持っている者たちもいる。

 そんな仲間である者たちにも、もしかしたら被害を与えてしまったかもしれないからだ。

「レオポルド様も我々のような厄介者を受け入れてくださりありがとうございます!」

「その恩に報いるために、我々この島のために懸命に働くことを誓います!」

 彼らはすぐさまレオへも頭を下げてきた。

 もしも海賊をかくまったと知られたら、ムツィオに報復を受ける可能性がある。

 兄のグイドから奪い取った領地と爵位とは言っても、ムツィオの爵位は伯爵だ。

 報復を受ければ、下の爵位の者たちだとかなり面倒なことになることは確実なため、海賊の受け入れなど断るのが当然だ。

 それを受け入れたレオの器の大きさに、彼らは恩義を感じたようだ。

 レオとしては少し重い気もするが、この島への貢献を誓ってくれたのはありがたい。

「皆さんはもう、この島の住人です。今のところここの住人の多くは元ルイゼン領の人たちばかりです。話が合わないということはないでしょう。皆で仲良くこの島の開拓を目指しましょう!」

「「「「「ハイ!」」」」」

 意図したわけではないが、レオも言ったようにここの住人は元ルイゼン領の者たちばかりだ。

 エレナに対する思いも同じのため、揉めるようなこともないだろう。

 海賊をしていたくらいだから魔物を相手にしても大丈夫だろうし、力仕事も問題ないはずだ。

 レオとしても、開拓を進めるのに有力な人物たちに来てもらえて嬉しいところだ。

 彼らに期待する言葉をかけると、みんな大きく頷いてくれたのだった。


◆◆◆◆◆


「コルンバーノから報告があります。シェティウス男爵からエレナ嬢へ、今回のことは申し訳なかったとのことだ」

 いつものようにアルヴァロと共に来たファウストは、レオの家に招かれると早速説明と報告を始めた。

 ファウストの知り合いのコルンバーノに動いてもらい、シェティウス男爵へエレナとセバスティアーノの手紙を届けたこと。

 それによって、エレナたちの生存にシェティウス男爵は喜び、海賊を逃がすことを決定してくれたとのことだった。

「レオにも感謝の言葉を届けるように言われたよ」

「そうですか」

 海賊たちをどこかへ逃がそうにも、シェティウス男爵はどこへも送ることができなかった。

 それに悩んでいたところだったが、ヴェントレ島なんて聞いたことはなかったが、エレナやセバスティアーノの手紙を読んだ感覚からすると、とりあえずは大丈夫な所なのだろう。

 そう思い、シェティウス男爵はこの島へ送ることに決めたとのことだ。

「ちゃんと情報を提示したら、みんなを送って来なかったかもしれないですね……」

「結果オーライだろ?」

「……そうですね」

 コルンバーノがヴェントレ島のことを知らなかったのは、もしかしたらよかったのかもしれない。

 この島の周辺の領地を持つものなら、ここが魔物の多い危険な地だとわかっていたはずだ。

 貴族の三男が、成人をした時に与えられた領地という認識しかなかったのではないだろうか。

 ファウストの言うように、結果的にはどちらにもいいように終わったので、レオもよしとしておくことにした。

「そういえば、元ルイゼン領の人間が多いとか思っているだろうが、開拓が進めばほかにも連れて来られる人間がいるからな」

「えっ! そうなんですか?」

 自分で言うのもなんだが、この地へ来たがるような人間なんてすねに傷を持つ者くらいしかいないように思っていた。

 そのため、レオは驚いたのだが、ファウストの口ぶりだとまだ当てがあるような感じだ。

「お前とも縁がある。ディステ領から逃れた者たちだ」

「えっ……?」

 ディステ領の住民が流出しているという話は聞いていたが、レオは病弱だったことから外に出ることもなかったため住民との関わりはない。

 自分を追って来てくれるような人間なんて心当たりはなかったため、ディステ領の住民が来てくれると言われてもピンとこなかった。

「心当たりがないのですが? どうしてここへ?」

 レオたちのいるヴェントレ島がまだ危険な地だということは、ファウストもわかっているはず。

 それでも市民を送りたいということは、自分と何か関わりがあるのかと思っていた。

 しかし、レオには心当たりがなかったため、どういった理由なのか不思議に思い尋ねた。

「ディステ領と他領へ向かう街道に関所を作ったことで、いっときほどではないが流出は収まっている。しかし、関所なんて作るからさらに市民は不安に感じ、他領へ渡ろうとする者が後を絶たないでいるんだ」

 ギルドが撤退したため、代わりに傭兵を雇ったが領兵との関係悪化で治安が悪くなった。

 兵同士の争いも罰を重くすることで少しずつ収まっていったが、いまだに関係は悪いままだ。

 冒険者たちもギルドのある所へ移動しなくてはならなくなり、それについていく市民が相当数いた。

 それによってディステ領に不安を感じた市民も他領へと逃れるようになってしまい、困った領主のカロージェロは関所を作り、市民の流出を無理やり抑えた。

 しかし、その関所の建設がさらなる不安を作り出し、市民たちは危険な山道を通って逃れるようになったそうだ。

 最近では、密かに山道を案内するブローカーまで出現する始末になっているらしい。

「ほかの領も最初は市民が増えていいことだと思っていたが、だんだんと受け入れられなくなってきている」

 何もしていないのに市民が増えるのはいいことだが、許容量を越えれば逃れてきた市民の住む場所や仕事などが足りなくなってくる。

 そうなると、低所得者層が増えスラム化してしまう。

 スラムの人口が増えれば治安の悪化が懸念されるため、どこの領も一気に増えられて困ってきたというのが本音なのだそうだ。

「ほかの領に少しずつ送ってどうにか分散させるため、ここにも送ろうという話になっている」

「そうですか……」

 もともとはヴェントレ島もディステ領地だった。

 ならば、ここにも送ってしまおうという思いがあるのだろうか。

 無理やり送ってこられると、こっちとしても市民にとっても好ましくない。

いするわけじゃないぞ。ちゃんとここのことを説明したうえで送るからな」

「それなら、大丈夫ですかね……」

 説明をしても、ほかに行くことができないから仕方なしにという選択で選ぶ可能性もある。しかし、この島の状況を完全に納得して来てくれるというのは期待しすぎだと思い、レオは目をつむることにした。

「今のところフェリーラ領は問題になっていないが、そのうち困ることになるかもしれないからな。できればここの開拓を進めてほしいところだ」

「わかりました。防壁ができたら調査を開始したいと思います」

「無理はせず、気をつけてくれよ」

「はい」

 グラド、ガンデを専属にし、ほかの人形たちも時折参加させて建築を進めてきた防壁がもう少しで完成する。

 市民を受け入れるにしても、安全が確保できないと安心して招くことができない。

 ガイオたちに加えて、今回腕自慢の者たちも住人になってくれたため、今度は何人かの班に分かれて調査を進めるつもりだ。

 調査を始めるのはいいが、レオにいなくなられるとこんな所なんてすぐにまた無人島に戻ってしまうことになる。

 念のため注意喚起し、ファウストはフェリーラ領へと戻っていった。


◆◆◆◆◆


すみがま?」

「はい!」

 新しく増えた住民のうち、ベネデットという青年がレオに話しかけてきた。

 エレナたちが死んだと思って海賊になったため、ガイオたち海賊狩りとはまったく面識もなかったからか、住民同士はあっさりと仲良くなっていった。

 船の整備やドックの改造、それに船を停泊するバースと呼ばれる場所を人工的に造ったりと、船に関係する仕事をしている人間が多い。

 今はそれでも構わないのだが、ほかにもできる仕事を探してほしいとみんなに頼んでいた。

 ベネデットは海賊に参加する前は炭を作る仕事をしていたらしく、すぐにそれが見つかった。

「ここにはいろいろな樹々が生い茂っているので、冬のことも考えると炭にするのにもいいんじゃないかと……」

「いいね!」

 昔は人が住んでいたらしいが、無人島になってからは手付かずの状態だったため、樹々は密集していたりして生育もまばらだ。

 家の建築に使うにしても、真っすぐ育った樹を選んで伐採している。

 しかし、そうなると、見栄えの悪い樹々ばかりが残ってしまう。

 森は森でもきちんと整備された森のほうが景観としては美しい。

 森の整備や景観の調整という意味でも、余計な樹々は伐採してしまったほうがいい。

 だが、ただ切って使わないのではもったいないため、そういった樹々を炭にして今年の冬に燃料として備えるのがいいのではないかというのがベネデットの考えだ。

 その炭作りのために、炭窯を作る許可とそれを作る場所を与えてほしいということだ。

 食料に関しては、野菜や魔物の肉を塩漬けにして保存食の製造もしているし、もしも足りなくなりそうならアルヴァロに調達してもらうという方法もある。

 しかし、燃料はどれだけ必要になるかわからないので、この島で調達できるのならありがたいと思ったレオは、すぐさまベネデットの意見を採用した。


「さっそく作ろう!」

「はい!」

 炭窯を作るのは、材料となる森に近い場所で、住民の住居がある所からは少しだけ離れている。

 ここなら煙や匂いを気にすることはないだろう。

「石は砂浜近くから運べばいいだろう」

 こんな時、容量の多い魔法の指輪は役に立つ。

 砂浜の近くには岩がゴロゴロ転がっている場所が存在しているため、そこからたくさん運んできた。

「これを積み上げましょう」

「うん」

 持ってきた岩をベネデットの指示に従って積み上げていく。

 岩といっても、波で削られて丸い物ばかりだったため、少し砕いたものだ。

 レオも本で見たのである程度わかるが、やはり本職に任せたのがよかったのか、あっという間に窯の形になっていった。

「これを粘土質の土で覆えばいいんだね?」

「はい。お願いします」

 岩の積み上げが済み、あとは周囲を粘土質の土で覆って完成というところまできた。

 そこからは、レオが試してみたいことがあるため、任せてもらうことにした。

「よしっ! ハッ!!

「おぉ! レオさんは魔法が得意なのですね……」

 集めてきた粘土質の土に魔力を流し、それを積み上げた土に覆うようにイメージする。

 そして【土】の魔法を使って、土を被せていった。

 手作業でやるよりもあっという間にできたことで、ベネデットは驚きながらも感心したように声をあげる。

 住民になったことでレオのスキルも説明を受けて驚いたが、魔法も得意なところを見ると、どうやらレオは多才な人間なのだとベネデットは思うようになっていた。

「魔法はジーノさんに教わっているお陰ですよ」

 魔法を褒められたレオは照れたように謙遜する。

 ジーノに教わってから、なるべく生活の中で使うように心がけるようにしている。

 それもあって、少しずつうまくなっている気がしていた。

 その努力が褒められたような思いがし、レオは嬉しかった。

「煙突をつけて……」

もくさくえきも取れるんだよね?」

「はい」

 木酢液とは、炭を焼いた時に出る水蒸気や煙を冷やして液体にしたものだ。

 薄めると殺虫液としても使えるし、さらに薄めたものを土に撒くと土壌改良に使えるので、炭焼きをするついでに採取してもらう。

 そのため、煙突も角度があるのをつけた。

 畑の虫を退治するのは結構面倒なので、できれば早くできてほしいところだ。


「「完成!」」

 人形たちの手伝いも受けたので、順調に作ることができた。

 あとは材料を集めて炭づくりが開始できる。

 炭窯の完成に、レオとベネデットはハイタッチをして喜んだ。


◆◆◆◆◆


「どういうことだ!?

「どういうことと言われても……」

 住民も増えてレオたちが少しずつ発展を目指して進み始めるなか、ルイゼン領のムツィオは怒りに打ち震えていた。

 呼び出されたルイゼン領のギルドマスターのビアージョは、怒りを向けられていることに首を傾げる。

「相手がいないのでは、討伐などできませんので……」

 依頼を受けて海賊を討伐するために、冒険者を乗せた船団を組織して無人島群へと向かったのだが、どの島にも人の住んでいる気配はなく完全なる空振りに終わった。

 当然それを依頼主のムツィオに報告をしたのだが、何故自分に怒りを向けているのかわからない。

 確信があるから依頼をしてきたはずなのに、その依頼に応えたら海賊がいなかったのだから、そもそも依頼を出す前の調査が不完全だったとしか言いようがない。

 領主の依頼だから断るわけにもいかず、短い時間で討伐へ向かうメンバーを揃えたというのに、空振りになって腹を立てたいのはこっちのほうだと言いたいところだ。

「本当にあの島にいたのですか?」

 性急に討伐に行かせるなんてことをしたのがそもそも間違いで、自分たちギルドの最終確認を待ってからムツィオは動くべきだった。

 それを待たずに行くように指示しておいて、失敗をこっちのせいにされては困る。

 そもそも、海賊の存在自体が怪しく感じられてきた。

「私が嘘をついていると言うのか!?

「……いえ、しかし……」

 海賊の存在自体に疑いをかけられ、ムツィオはさらにげっこうする。

 王家に許可を得るということまでしておいて、それが嘘ではないかと思われれば確かに腹立たしいだろうが、いなかったのだからそう思われても仕方がないところだ。

 この周辺の海域には昔から海賊が出現することがあったので、完全に嘘だとは思わないが、単発的な被害で冒険者を総動員させられるのはギルドとしては迷惑だ。

 本来ならこっちが怒鳴りたいが、貴族相手のためビアージョは口ごもった。

「……ともかく、我々の失態ではないのであしからず……」

「クッ……!!

 これ以上ここにいると、貴族相手でも自分が我慢できなくなると思い、ビアージョは立ち去ることにした。

 謁見室から出ていくビアージョの背を、ムツィオは歯を食いしばって見送ることしかできなかった。

 確かにビアージョの言うように、今回空振りに終わったのはギルドのせいではない。

 当然結果はギルド間で共有し合うため、ムツィオが王家に虚偽の報告をしても意味はない。

 ほかの貴族にも知れ渡るだろうし、自分の評価が落ちることは間違いない。

「くそっ! どこかに逃げたに違いない!」

 数回被害に遭ったこともあり、調査はきちんとしていた。

 確実に討伐するために、もう少し早くギルドへ依頼することもできた。

 その時に依頼していれば、ビアージョが言ったようにギルドの調査も行ったうえで実行に移すことができただろう。

 しかし、海賊たちの棲み処があの無人島群だとわかって欲が出てしまった。

 海賊討伐を理由にし、王家の許可を得てそのまま自領の兵を島へ居座らせるということができるかもしれない。

 そんな企みが浮かんでしまったのが失敗に繋がった。

 逃げるにしても、他国は当然のこと、伯爵の自分に敵対するような火種を受け入れる者がいるはずがないという考えがあったために安心していたのだが、王家の許可を得るまでの期間に海賊がいなくなるなんて思ってもいなかった。


かくまっている場所を見つけ出して、必ず報いを受けさせてやる!!

 海賊が逃げたにしても、他国がこのヴァティーク王国と揉めるようなことはしない。

 そうなると、海賊が逃げたのは国内の可能性が高い。

 今回のことで国中に恥を晒したムツィオは、報復することを決意し、ギルドとは違う子飼いの闇組織を使い、海賊たちの行方を探させることにしたのだった。


◆◆◆◆◆


「ハハハ……!!

「笑い過ぎですよ。殿下……」

 ルイゼン領のムツィオの失態は王城へと報告された。

 その報告を自室で受けた王太子のクラウディオは、笑いが止まらなかった。

「これが笑わずにいられるか? サヴェリオ!」

 笑い続けるクラウディオへ注意をした宰相のサヴェリオに対し、クラウディオは笑みを浮かべながら話す。

 海賊を退治に行くので許可をくれと王家に言い、行ったら海賊がどこにもいませんでした。

 こんなコントみたいな話が聞けるとは思ってもいなかったため、笑いが止められないのは仕方がない。

「父上が俺やお前に話すこともなくあの群島へ兵を送ることを許可したと聞いた時は、さすがに怒りで我を忘れそうになったが、こんな結果になるとはな……」

 いくら無能の王とは言っても父は父。

 そもそも、王太子として決定しているため待っていれば王になれるのだから、さすがに殺害してまで王位に就きたいわけではない。

 だからと言って、国内を混乱させた状態で引き継ぐのはごめんこうむる。

 せめて、何もしないでいてくれないかと、クラウディオは思うようになってきた。

 数ヵ月前のディステ領のことが起きる前から、宰相のサヴェリオが細かくチェックを入れているというのに、それをすり抜けて王に届いてしまうことがあるため、クラウディオは頭が痛い思いをしていた。

 案の定、遠く離れた王都に住む王家があの群島の管轄になっている理由を考えない父が、あっさりルイゼン領のムツィオに許可を出した時は、息子でありながら殺意が湧きそうになった。

 内乱になるような火種に、自分から油を注いで何をしているのだと思ったが、どういうわけだか火種がなかったというのだから不思議な話だ。

「海賊が逃げたのだろうが、どこへ行ったかはわかるか?」

「いえ、消息は不明です」

 王家は王家で情報収集のルートがある。

 宰相のサヴェリオにその情報が集約されるようになっている。

 サヴェリオも、王のカルノよりも皇太子のクラウディオに従っている意識が強い。

 そのため、彼が望む情報を提供しようといろいろ人を動かしているのだが、今回の海賊がどこへ行ったのかはわかっていない。

「シェティウス男爵はどうなさいますか?」

「気にするな。彼の気持ちを考えれば当然の行いだ。それに彼と決まったわけではない」

 クラウディオたちも、情報の精査からシェティウス男爵が海賊と繋がりがあるのではないかという思いに至っていた。

 しかし、証拠は見つかっていない。

 海賊を動かして問題を起こしたことは許しがたいが、もしもシェティウス男爵が犯人だとすれば気持ちはわかる。

 ルイゼン領の前領主の死には解消しきれない疑惑がくすぶっているし、前領主の娘も行方不明になったという話だ。

 海難事故で遺体が見つかっていないが、おそらく生きているとは考えづらい。

 親友とその娘を亡き者にした可能性が極めて高いムツィオに、報復を考える気持ちもわからなくもない。

 だが、罪は罪なので、もしも海賊が捕まってシェティウス男爵の名前が出ていたとしたらクラウディオは容赦なく断罪していたことだろう。

 そんなことにならず、クラウディオとしても少し安堵した。

「ルイゼン領のムツィオも要注意だな……」

「はい!」

 カルノなら深く考えないと思い、ふざけた考えで今回のことを起こしたムツィオのことを、クラウディオとサヴェリオは警戒するようになった。

 もしかしたら、内乱に繋がっていたかもしれないようなことを企んでいたのだから、そう考えるのも当然だ。

「もしも海賊を受け入れた人間がわかったら教えてくれ。内乱阻止の礼として、俺のほうでもその者へ密かに助力をするつもりだ」

「かしこまりました」

 今回のことでクラウディオにとって助けになったのは、その海賊をかくまってくれた人間だ。

 勝手にとはいえ、カルノが許可した以上王家は手出しできなくなっていた。

 最悪の状況への移行も考えられたが、それを阻止してくれたのだから感謝しかない。

 サヴェリオとしても同じ思いをしていたので、すぐにその指示に了承したのだった。


◆◆◆◆◆


「これから防壁の外の魔物の調査に向かいますが、皆さん充分注意しつつ行動してください!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

 元海賊の人たちが来てから数日経ち、グラドとガンデに頼んでいた防壁作りも終了した。

 それに伴い、レオは開拓を進めるために防壁の外側を調査することにした。

 いろいろあって、この島の住民には戦闘自慢が何人もいる。

 調査に協力してくれるという彼らを編成して、レオ班、ドナート班、ヴィート班の三班に分かれて調査に向かうことにした。

 強力な魔物に遭遇しては逃げきることもできないかもしれないので、防壁内に逃げ込めるように森の深くには行かないように警告してある。

 レオよりも戦闘経験豊富な者たちばかりなので、それを破るようなことはしないだろう。

「みんなも頼むよ?」

〝コクッ!!

 主人であるレオに頼まれて、人形たちは了解したように頭を下げる。

 スキルで動くロイたち木製人形たちも分かれてもらった。

 レオ班にはロイ、護衛というわけでもないが、ドナート班にオル、ヴィート班にラグをつけ、もともとは戦闘用に作ったわけではないのだが、グラドとガンデは防御役にできると思い、ドナート班とヴィートの班に盾役としてそれぞれついていってもらうことにした。

 ロイだけだと領主であるレオが手薄になると、もう少し護衛を増やしたほうがいいのではないかと言われたが、調査範囲を一番狭くすることで納得してもらった。

「クオーレは残った住人のみんなを守ってね?」

「ニャッ!」

 レオの従魔で、闇猫のクオーレには念のため残ってもらうことにした。

 頭を撫でられながら頼まれたクオーレは、任せてと言わんばかりに鳴き声をあげる。

「こっちにはセバスやエドモンドに、ジーノのじいさんていう戦力も残っている。安心して行ってこい」

「はい」

 足が完治していないガイオは当然だが、年齢的なものを考慮してエルフのジーノには残ってもらう。

 エレナの執事のセバスティアーノも実は強いようだし、片腕とは言ってもドワーフのエドモンドもてっついを使った戦闘ができるらしいので、むしろ残ってもらう人間のほうが強いのではないかと思える。

 そのため、レオは安心して調査に出られるというものだ。

「皆さん気をつけてくださいね?」

「「「「「はい!」」」」」

 今でも充分ここの生活を楽しんでいるようだが、ここの発展はエレナの生活をよりよくすることに繋がる。

 そのため、元ルイゼン領の面々は、エレナの言葉に気合いが入っているようだ。

 なるべく危険を冒さないという基本的な方針での調査とは言っても、どんな魔物が潜んでいるかわからないので、エレナは心配そうにしている。

 クオーレを残すのは、実はそんなエレナの気を紛らわせるという役割のためでもある。

「では、出発しましょう!!

「「「「「おうっ!!」」」」」

 ほかの住民の見送りを受けながら、レオたちは住宅地から防壁のほうへと向かって行った。

「っ!! ルマーカ!?

 北西へドナート班、西へレオ班、南西にヴィート班に分かれ、防壁の外の調査を始めたのだが、レオたちはすぐに新たな魔物に遭遇することになった。

 ルマーカという、成人男性程度の大きさをしたナメクジの魔物が出現したのだ。

 これまでよく遭遇していたゴブリンやいっかくうさぎなんかの魔物よりも、この魔物のほうが危険性は一段上だ。

「くっ! 斬っても意味がない!」

 仲間のひとりがルマーカを斬りつけるが、すぐに治ってしまった。

 この魔物の厄介なところは、スライムという魔物同様にざんげきは意味がないところだ。

 スライムならば、透ける体のせいで急所となる魔石の部分がわかっているのだが、ルマーカの場合それがわからないというのも面倒な理由だ。

「落ち着いてください! 塩を持ってきているので安心してください!」

「お、おうっ!」

 最近は塩を作る仕事をする人間もいるため作っていないが、レオはこの島に着いてから毎日のように塩を作っていた。

 調味料として使うため、余るぐらいにあっても困らないからだ。

 売ってもたいした金額にならないため魔法の指輪に保管していたが、今回はそれが役に立つ。

 ナメクジには塩が有効。

 魔物であってもそれは同じなため、レオは塩をルマーカへ振りかけた。

「持っていてよかった!」

 塩を浴びたルマーカは浸透圧で体の水分が抜けていき、どんどん小さくなって動かなくなった。

 そうなってしまえば、あとは魔石を取り出して退治完了だ。

 余っているからといって、塩を捨ててしまわずよかったとレオは安堵した。

「ほかのみんなは大丈夫っすかね?」

「ドナートさんたちなら大丈夫じゃないですか?」

 ルマーカの対処法として塩があるのが理想的だが、レオとは違ってドナートたちは塩なんて持って出かけていない。

 そのことに心配している人間がいたが、オーガ相手にもひるまず突っ込んでいった彼らなら、ルマーカを相手にするのも大丈夫だろうとレオは思っている。

 塩がなくても、ルマーカは熱に弱いので、火を使えばなんとかなるはずだ。

 森の中なのでレオは火事になるのを心配したが、燃え広がらない所に誘導すれば火を使って倒せるはず。

 ドナートたちならそういった方法で倒せるのではないだろうか。

「粘液を食らわなくてよかったですね」

「あぁ……」

 ルマーカは、粘液を吐きだして敵をそのネバネバで動けなくして踏み潰すという攻撃を得意とする。

 今回はその攻撃を受ける前に倒せたので、そういった面でもラッキーだった。

「では、調査を続けましょう!」

 開始早々に魔物に遭うくらいだ。

 きっとこの先も頻繁に遭遇することだろう。

 もともと慎重に進むつもりでいた面々だったが、より気を引き締めることになった。

「これまでよりワンランク上の危険度で、虫系の魔物が多いですね……」

 ルマーカ以降、出現した魔物を思い返してレオは独り言のように呟く。

 ムカデ、ミミズ、イモムシと、虫が魔物化して巨大になった魔物がレオたちの前に出現していた。

 危険といえば危険だが、どれも単体で出てきたため、みんなで囲んでしまえばそれほど難しくなく退治ができた。

 そんなことする人間はいないと思うが、無防備にひとりで出歩くなんてことをしなければ、とりあえずなんとかなるだろう。

「もうすぐお昼になるようですし、これ以上進んで危険な目に遭う前に引き返しましょう」

「「「「「了解」」」」」

 ノルマの範囲も調べられたし、時間的にもそろそろ戻ったほうがいいだろう。

 そう思ったレオは皆と共に防壁のほうへと戻ることにした。

 範囲も狭く、慎重に進んでいたため、誰も怪我をすることなく終えられそうだ。


「……あれっ? ドナートさんの班が戻ってこないですね?」

「そうだな……」

 調査範囲の関係上、遠くまで行っていないレオたちが最初に防壁の所へ戻ってこられた。

 ほかの班が帰ってくるのを待っていたら、少しして南西に向かったヴィート班も戻ってきた。

 南西側を調査した結果を受けると、レオたちが調査した西側と同様に虫系の魔物の出現が目立ったそうだ。

 人形たちだけでも隊を編成すれば数を減らせるだろう。

 これまで通り人形たちに任せて、数が減らせたら防壁を広げることを検討しようと思う。

 調査結果のやり取りも終わり、あとはドナートが戻ってくるのを待つことにした。

 しかし、昼食を取って待っているのだが、彼らはいつまで経っても戻ってこない。

 確かに、一番範囲の広い北西を任せたが、ここまで遅いと不安になってきた。

「あっ! 帰ってきた!」

「……様子が変だな?」

 予定の集合時間から一時間以上経ち、さすがに心配になって捜索に向かおうかと思っていたところで、ようやくドナートの班が戻ってきたのが確認できた。

 しかし、ヴィートが言うようにドナートたちの雰囲気が暗いように感じる。

「すまん。レオ……」

 着くと同時に、ドナートはレオに謝ってきた。

 魔物と戦ったためか、みんな細かい怪我を負っている。

 しかし、誰も重傷には至っていないため安心したのだが、ドナートが背負ってきたものを見て暗かった理由がすぐにわかった。

「……オル?」

 ドナートたちについていったレオの人形であるオルが、ボロボロの状態で動かなくなっていたのだ。

「仲間をかばって魔物の攻撃を受けちまって……」

「そうですか……」

 話によると、ドナートたちが向かった北西も虫の魔物が多かったそうだ。

 しかし、戻ろうとしたところでミミズの魔物の集団に囲まれてしまい、みんなの奮闘でなんとか倒していたのだが、仲間のひとりに魔物二体が襲いかかってきたそうだ。

 ひとりでは対処できない攻撃を防ぐために、オルが身をていして守ったらしい。

 それにより、仲間は助かったがオルは動かなくなってしまったそうだ。

「……偉いぞ! オル! なんとか直してやるからな……」

 仲間を救って動かなくなってしまったオルを、レオは優しく褒めてあげ、魔法の指輪に収納した。

 人形なので直せばまた動かせるが、ボロボロなので元に戻せるかは微妙だ。

「みんな無事でよかったです。調査は終了して帰りましょう」

「あぁ……」

 暗い雰囲気になってしまったが、誰も死なずに済んだのだ。

 それをよしとして、レオたちは住宅地へと戻っていったのだった。


◆◆◆◆◆


「徹夜でオルの修復作業を行っているみたいだな……」

「レオさん大丈夫でしょうか?」

 家に帰ってみんなに今回の調査の結果などを報告した後、レオは家に入って出てこなくなった。

 みんなその理由はわかっている。

 仲間をかばったことにより、壊れて動かなくなってしまった木製人形のオルの修復にすぐさま取りかかったからだ。

 翌朝のガイオとの稽古は中止、畑仕事もベンヴェヌートに任せ、ずっと修理を行っているようだ。

 ガイオの言うように、夜中になっても家に灯りがついたままだったので、おそらく徹夜をしているのだろう。

 ロイたちによる魔物退治で体調が改善されたとは言っても、もとは病弱だったということからまた体を壊してしまうのではないかと、エレナはレオのことが心配になってくる。

「オル、動いてみて?」

 みんなに心配されている本人は、朝になっていることなんて気になっておらず、ようやくオルの修理が終わったところだ。

 壊れていた箇所を修理したり、違う部品に取り換えたりと、いろいろとやってなんとか直せたと思う。

 これで特に問題なく修復できたと思ったレオは、最終確認としてオルに魔力を流しスキルを発動した。

〝スッ!!

「よかった。直ったようだね……」

 レオの言葉を聞いたオルは、座っていた状態から立ち上がり、手足などを動かして見せた。

 その動き方を見て、レオはオルを直せたことに安堵した。

「昨日は偉かったよ。オル」

 直ったことに安心したレオは、昨日のオルの取った行動を改めて褒めてあげ、頭を撫でてあげた。