第4章 ヴェントレ島発展とさらなる仲間たちの追加


「あれっ?」

 遠くに小さく船が見え、レオはいつも通りに砂浜でアルヴァロが来るのを待っていた。

 しかし、いつものように向かって来る船に、アルヴァロ以外の人間が乗っていることに気づく。

 この島に来たがるような人間がいるとは思えないので、レオとしては首を傾げるしかない。

「えっ!? ベンさん!?

 近づいてくると、そこに乗っている人間の顔に見覚えがあった。

 実家で自分についてくれていた執事のベンヴェヌートだ。

 どうして彼がここに向かっているのだろう。

「ベンさん! どうしたんですか?」

「ディステ家のほうにはお暇をさせていただき、やって参りました」

「なんで……?」

 ここはディステ家の元領地ではあったが、王命によって今はなんの関わりもないことになっているはず。

 追い出して押しつけた側の父が、人を送ってくるとも思えない。

 そう思ってレオが問いかけると、仕事を辞めてきたと言うから驚いた。

 ベンヴェヌートは昔からディステ家に仕えていたこともあり、仕事の面で特に問題があるとは思えない。

 そのため、どうして辞めてしまったのか、理由が思いつかない。

「失礼ながら、旦那様の考えにはとてもついていけないと判断したしだいでして……」

「そうですか……」

 レオが実家を出てから、ディステ領は問題が立て続き起こった。

 アルヴァロから話を聞いていたので、レオもだいたいのことは知っている。

 その問題自体も、父であるカロージェロが適切に対応していれば問題となることはなかったはずだ。

 その後も何かうまいこといっていないような話を聞いているが、所詮自分は追い出された身。

 あまり関心がないというのがレオの本音だ。

 ベンヴェヌートからしたら、問題が続いたことが見切りをつける判断となったらしく、領民の流出に合わせて仕事を辞めてきたということだ。

 ベンヴェヌートは結婚をしていないため、家族もほかにいないことからできたことだろう。

「私もここへおいていただけないでしょうか?」

「もちろんいいですよ!」

「ありがとうございます」

 領主の立場からすれば、ひとりでも領民が増えるのは望ましいこと。

 それが小さい時から知っているベンヴェヌートなら、レオとしては断る理由が見当たらない。

 ここに住みたいというベンヴェヌートの申し出に、レオはあっさりと了承した。

「でも、いいのですか? ここはまだ安全とは言い切れませんよ? それにお給料だって出せないし……」

「構いません。給料もお気になさらず。レオポルド様のお側においてください」

 ベンヴェヌートが一緒にいてくれるのはレオとしても嬉しいしありがたいが、ここは噂通りに魔物が多く存在している。

 安全性を考えると、レオとしては説明しておかないといけないことだ。

 オーガとゴブリンの集団を退治して比較的安全な範囲を広げたとは言っても、まだまだ島のごく一部でしかない。

 防壁造りを人形たちにさせているが、ロイたちはこれまで通り多くの魔物をレオのもとへ届けている。

 それを考えると、防壁が完成するまでは軽々しく開拓作業に移るわけにもいかない。

 それに、フェリーラ領のギルマスに提供された魔法の指輪の代金の返済という借金のようなものが存在しているため、給料を支払うこともなかなかできない。

 住民のみんな同様に、食事を提供する以外仕事に対する見返りができない状況だ。

 そのことを話しても、ベンヴェヌートは表情を変えることはなく、レオにつくことを求めてきた。

「様はいらないよ。もう貴族じゃないんだし、レオでいいよ!」

「いいえ、そうはいきません。むしろ、私のほうこそ呼び捨てで構いません!」

「でも……」

 給料も支払わないのに様づけされるのは、レオとするとスッキリしない。

 そのため、実家の時にもよく交わしていたように、敬称をつける、つけないで言い争うことになった。

「……でしたら、レオ様でいかがでしょう?」

「……ベンさんはちょっと頑固だよね」

「レオ様も……と思いますが?」

「ハハ……」「フフ……」

 少しのやり取りの後、ようやくベンヴェヌートが少し譲歩し、言い争いは収まった。

 しかし、昔からこのやり取りを続けていて思っていたが、ベンヴェヌートは全然変わっていない。

 そういった面で頑固という感想を持ったのだが、ベンヴェヌートからしてもレオに対して同じ印象を持っていたようだ。

 昔と変わらないということがなんだか懐かしくも嬉しくもあり、お互い思わず笑ってしまった。

「アルヴァロさんありがとうございました」

「いやいや、ギルドから坊ちゃんの知り合いだって聞いて乗せてきただけで、勝手に連れてきて逆に申し訳ない」

「いえ、嬉しい驚きでありがたかったです」

 ベンヴェヌートを引率してきてくれたアルヴァロに、レオは感謝の言葉をかける。

 着いてすぐにも言われたので、乗せてきただけの自分にあまり感謝されても恥ずかしくなってくる。

 アルヴァロがベンヴェヌートに出会えたのは、ただいつものようにギルドへ行った結果であり、感謝されるほどのことではない。

 それもギルド側から紹介されてのことだし、むしろ勝手に連れてきて迷惑にならないか不安な思いをしていた。

 だが、それもレオの笑顔を見ればあっさりと解消された。

「そう言ってもらえると、連れてきた甲斐がありやした。では、来週また来やす!」

「ありがとうございました!」

「アルヴァロ殿、ありがとうございました!」

 アルヴァロはベンヴェヌートとの出会いを説明した後、いつものように売却する魔物の素材を受け取り、必要なものの注文を受けフェリーラ領へと戻っていった。

 少しずつ離れていくアルヴァロを、レオとベンヴェヌートは感謝の言葉と共に見送ったのだった。

「じゃあ! みんなを紹介しないとね?」

「アルヴァロ殿より聞いております。少数ながら移民がいるとのこと……」

「うん! みんないい人たちだよ!」

 これからここに住むのだから、まずはみんなを紹介しないといけない。

 アルヴァロにはここに住むみんなのことを教えていたが、細かいことはベンヴェヌートへ話さないでいてくれたようで、移民がいるということしか知らされていないようだ。

 島のみんなにベンヴェヌートのことを紹介して回ると、みんな快く迎え入れてくれた。

 もしかしたら、ディステ領から送られて来たスパイではないかと疑っている人がいないわけではなかったが、アルヴァロからちゃんとギルドが保証してくれていることを伝えると、安堵してくれたようだ。

 ギルドもカロージェロとレオとの関係を知っていたので、レオの足跡をたどってきたベンヴェヌートのことは気づいていたらしい。

 そしてベンヴェヌートと接触し、もうディステ領とは関係ないという判断をしたため、アルヴァロを紹介するということに至ったという話だ。

「セバスティアーノ殿……」

「ベンヴェヌート殿……」

 最初にエレナと執事のセバスティアーノのことを紹介した。レオも少し予想していたことだったが、やはり面識があったようだ。

 同じ執事という職業だからというだけでなく、レオの祖父とエレナの祖父が親しかったという情報から予想していたことだった。

 ベンヴェヌートもレオの祖父の代から仕えている身。

 当然と言えば当然かもしれない。

 エレナがいたルイゼン領とも、お互い領主が変わることによって行き来することもなくなっていたため、ふたりからしても、まさかこんな場所でまた顔を合わせることになるとは思ってもいなかっただろう。

 ふたりとも知らない間柄でもないため、すぐに打ち解けたようでレオとしては安心した。


◆◆◆◆◆


「……ていうのが僕の能力だよ」

「……信じられない! いつの間にそんな能力を……」

 ずっと実家で仕えていたベンヴェヌートがこの島に住むことになったので、レオは自分のスキルのことを説明することにした。

 動く人形たちを見て、やはり彼も驚いていたのがおもしろかった。

 その後にレオが続ける説明を黙って聞いていたベンヴェヌートは、最後まで聞き終わると珍しく大きな声を出して喜んだ。

「この能力はさまざまに応用できるんだ」

 レオの祖父である先代のディステ領主から仕えてきていたこともあり、レオが出て行く時について行くという決断ができなかったことをずっと悔やんでいた。

 成人まで残り一年となり、しだいにベッドに横になっている時間は減っていったが、もともとの色白さゆえに健康に近づいているという印象は受けなかった。

 健康状態から考えて、レオが島で生きていけるかどうかはかなり難しいとわかっていた。

 それどころか、島にたどり着くかも怪しく思っていた。

 それがわかっていてもついて行かなかったということは、自分も心のどこかでレオのことを諦めていた部分があったのかもしれない。

 そのことに気づくとさらなる後悔にさいなまれた。

 カロージェロの領内での失策は、そんなベンヴェヌートに見切りをつけさせることになった。

 レオの死という情報は入ってこなかったこともあり、ディステ領から出たベンヴェヌートは足跡を追うことにした。

 フェリーラ領に着いてギルドと接触した時、レオの生存を知って歓喜したものだ。


「この能力なら納得できますね……」

 レオの能力の説明に、ベンヴェヌートは独り言のように呟いた。

 生き残っていてくれたことは嬉しかったが、その理由が思いつかなかった。

 兄たちのように戦闘訓練を積んできたわけでもないので、魔物と戦えるとは思っていなかったからだ。

 しかし、レオのスキルなら、人形たちが魔物から守ってくれる。

 それがなかったら、本当に死んでいてもおかしくなかっただろう。

「それにしても、魔物による能力アップですか……」

 もうひとつ気になったのが、レオの健康状態だ。

 小さい頃からよく風邪をひいたりしていたため、レオの体調面ではベンヴェヌートもかなり気を使ってきた。

 久しぶりに会ったレオは、色白とは言っても顔色もよく、とても元気そうだ。

 それが多くの魔物を倒したことによって改善されたと聞いた時、ベンヴェヌートは最初のうちは信じられなかった。

 ベンヴェヌートもその例は聞いていたが、まゆつばものだと思っていた。

 レオの思い込みによるものという印象を抱かずにはいられないが、言われてみるとそれ以外に改善された理由は思いつかない。

「成人する一年前くらいに発現したんだ!」

「なるほど……」

 そう言われて思い返せば、成人する少し前は寝込む日が少なくなっていたような気がする。

 それを考えると、レオの言っていることを完全に否定することはできない。

 結局のところ、レオが健康になったのならどんな理由であろうと気にすることではない。

 完全には納得できないが、それならそれでいいといったところだ。

『……おや? もしかして……』

 そのレオの言葉で、ベンヴェヌートはあることを思い出した。

 成人する一年ほど前から魔物を倒すようになったということは、その倒した魔物はどうしたのだろうか。

 本人が認識できない程度の微弱な能力上昇となると、結構な数を倒さないとレオの場合は体がよくなるとは思えない。

 もしも、ただ倒してそのまま放置していたとしたら、ディステ領付近の森でアンデッドが出たのはもしかしたらレオの人形が倒した魔物なのではないだろうか。

 そう考えるとアンデッドが増えた理由が説明できる。

『……まぁ、レオ様が気にすることではないでしょう……』

 アンデッドが増えたのはもしかしたらレオによるものかもしれないが、市民に被害が出たのはカロージェロのミスでしかない。

 なので、わざわざ言うことでもないと判断したベンヴェヌートは、アンデッドの大量出現の原因をレオには黙っておくことにした。

「畑仕事もよくしているんだよ!」

「本当にお元気になられてよかったです……」

 そう言って、レオはベンヴェヌートに案内するために畑へと向かって行った。

 何がどうなって今のレオがあるかなんて、ベンヴェヌートにはもうどうでもいい。

 目の前で元気にいろいろと話してくれるレオに、ベンヴェヌートは込み上げてくるものを必死に我慢した。


◆◆◆◆◆


「夏野菜がたくさん採れましたね?」

「だね」

 ベンヴェヌートが来てから数日経ったが、特に変わったことなどはない。

 これまで通りの生活が続いている。

 今朝もガイオに稽古をつけてもらい、畑で野菜の手入れをしているところだ。

 カゴにたくさん入った夏野菜を見て、レオとエレナは嬉しそうに微笑む。

「トマトはいろいろな料理に使えるし、ナスはカポナータなんていいかもね」

「いいですね!」

 カポナータとは、素揚げしたナスやほかの野菜を、甘めの酢で味付けしたトマトピューレで煮込んだ料理のことを言う。

 ナスがメインの料理というと、レオが最初に思いつく料理だ。

「男性からすると、お肉を入れてもいいかもしれないね」

「私はパスタのソースにするのが好きですね」

「美味しいよね」

 野菜をメインとしている料理のため、男性からすると物足りないと思える部分があるかもしれない。

 そのため、肉を入れてボリュームアップをするのもいいし、エレナの言うようにパスタのソースとしても応用できるため使い勝手がいい。

「オクラやキュウリはシンプルにサラダにすると美味しいだろうね」

「サラダだけは得意です!」

 成長が速いので、オクラが結構採れた。

 やはり、オクラというとサラダにするのが思いつく。

 ネバネバが体にいいということは有名なので、最近食卓にオクラを出す頻度が増えている。

 サラダと聞き、レオの手伝いでよく作っているエレナは胸を張る。

「トウモロコシは茹でただけでも美味しいよね」

「そうですね」

 トウモロコシは嫌いな人間もなかなかいないだろうと、結構多めに作っている。

 あまり手を加えないで美味しいのはありがたいものだ。

 島にはいくつかの果樹が自生していたが、実は採れても甘さがなく物足りないものばかりだった。

 それでも、天日干しにしてドライフルーツを作ったり、煮詰めてジャムとして利用できるかもしれないため、住居近くにも植えて育て始めている。

 甘味好きな女性たちには申し訳ないが、もう少しの間はトウモロコシの甘みで我慢してもらうしかない。

「枝豆はみんな好きなようだけど、お酒がないから船員の人たちは愚痴っていましたね」

「うん。お酒造りも考えたほうがいいね……」

 レオは成人したばかりでお酒のよさがわからないため、酒造りなんて考えもしなかったが、船員たちに検討するように頼まれていた。

 特に枝豆の塩ゆでを出した時、強く求められたのをふたりは思い出した。

 アルヴァロに職人を探してもらっているが、お酒が造れるのはしばらく先のことだろう。

「ゴーヤは好き嫌いがあるから料理には気を使わないと……」

「苦いですもんね……」

 体が弱かった時、レオは食べたくても食べられないということが多かった。

 今はそんなこともなくなり、なんでも好き嫌いなく食べるようにしている。

 なので、ゴーヤも作ってはみたのだが、ガイオの船員たちは嫌いな人が多かった。

 エレナは大丈夫だが、たまにでいいというのが本音のようだ。

「クオーレも嫌いみたいなんだよ」

「そうなの?」

「ニャ~……」

 ゴーヤが採れるようになった時、試しにゴーヤ料理をクオーレへ出してみたのだが、いつもレオの料理を残さず食べるクオーレも、ゴーヤの苦さは我慢できなかったらしく弾いていた。

 それ以降、ゴーヤは苦手になったらしく、なるべく出さないようにしている。

 なんでも美味しそうに食べるため、エレナはクオーレに好き嫌いがあるとは思わなかった。

 ゴーヤを見せるとクオーレはそっぽを向いたため、エレナはその反応に思わずクスッと笑ってしまった。


◆◆◆◆◆


「本当に人が住んでいるみたいだな……」

 売却用の魔物の素材を渡し、いろいろ情報をやり取りするため、いつものようにアルヴァロを自分の家へと招いた。

 その後ろからついてくる人物は、数軒の家が建設されているのを見て、何やら小さく呟いている。

「また誰か来たみたい……」

「そのようですね……」

 今週もアルヴァロの船には人が乗っている。

 レオの側につき添うベンヴェヌートに引き続き、誰かここに住んでくれる人でも連れて来てくれたのだろうか。

 もしくは、頼んでいた酒造りの専門家だろうか。

 近づいてくる船を見ながら、レオは少しワクワクしながら船が到着するのを待った。


「すいません。また勝手に連れて来てしまって……」

「いえ……、こちらの方は……?」

 船が到着してすぐに、アルヴァロはレオに謝ってきた。

 レオは首を振ってそれを許す。

 アルヴァロのことは信用しているので、きっとこの島にとって有益な人物なのだと思うからだ。

「初めましてレオポルド様。私はファウストと申します」

「どうも、初めまして……」

 がっしりした体型や雰囲気から考えると、ガイオのように戦闘が得意そうに思える。

 ちょっと粗野にも感じた最初の印象とは違い、丁寧な挨拶をされたレオは内心少し戸惑いつつも挨拶を返す。

 自分の名前を知っているということは、アルヴァロから説明を受けているのかもしれない。

「お久しぶりです。ファウスト殿」

「どうも、ベンヴェヌートさん」

「えっ? ベンさん知ってるの?」

「はい」

 どんな人なのか気になっていたレオだが、実家の邸で執事をしていたベンヴェヌートと顔見知りとなると、どういった関係なのか疑問に思える。

 もしかしたら、邸を出てから知り合った人間なのだろうか。

「ベンヴェヌートさんもあの領主を見限って来たのですか?」

「その通りです」

「……?」

 交わす会話の内容を聞くと、レオはまた首をかしげたくなる。

 ベンヴェヌートが見限った領主と聞くと、おそらく父のことを言っているのだろう。

 そうなると、このファウストもディステ領にいた人間だということになる。

 余計にふたりの関係がよくわからない。

「レオ様。こちらのファウスト殿はディステ領のギルドマスターです」

「……なるほど」

 レオが不思議そうな表情をしていることに気づいたのか、ベンヴェヌートはファウストのことを説明してくれた。

 父の代になってからは来ることはなくなっていたが、祖父の代の時は時折ギルドと連携をとっていたということを聞いたことがある。

 ギルマスなら、祖父の代から領主邸で働いていたベンヴェヌートと顔を合わせていても不思議ではない。

「確か、ディステ領からは撤退したと聞きましたが……、どうしてこちらへ?」

 父のカロージェロとの関係悪化から、数ヵ月前に領内から全ギルドが撤退したという話を聞いていた。

 それによってディステ領は問題が増えているということだが、それはどうでもいいとして、領地のギルマスになった程の人ならほかの領地でそれなりのポジションに就いているのではないだろうか。

 そんな人間がここに来る理由が思いつかない。

「ほかのギルドマスターたちに働けって言われまして……」

「……?」

 ディステ領から撤退したのは完全にファウストの独断的行動だったらしく、ほかのディステ領内の支店の人たちと違い、ギルドの上の立場の人たちからいろいろとお叱りを受けたらしい。

 ギルドとしてもその勝手で収入が減ったため、そうなるのも仕方がないことだろう。

 ディステ領から出て、昔のように冒険者としていろいろとほかの領を回ったファウストは、フェリーラ領に流れ着いた。

 そこのギルマスに会って、この島とレオのことを聞いたらしい。

 そして、フラフラしているならギルドの職員として、ギルマスの自分に協力するように言われたそうだ。

「ここに住人がいるなんて話、信じられませんでしたが、本当みたいですね……」

 この島に人が住んでいることを知っている人間はそれ程いない。

 ファウストはフェリーラ領のギルマスにここのことを聞いた時、なんの冗談かと最初は信じられないでいたそうだ。

 それが、アルヴァロについて来たことで冒頭に呟いたように本当だと理解したようだ。

「アルヴァロから聞いたのですが、なんでも人材を探しているとか?」

「えぇ、まぁ……」

 島のみんな(特に船員)には、お酒が欲しいという話を受けていた。

 確かに何か島の特産などを作らないと、開拓しても人が住んでくれるとは思えない。

 病弱な時に読んだ本からの知識としてお酒の造り方はいくつか覚えているが、どうせなら素人が造る物ではなく専門家によって商品にできるような美味しいものを造ってもらいたい。

 そのため、アルヴァロに酒造業の経験者の勧誘を頼んでいるのだが、ここに来てくれるような人間はなかなか見つからないだろうと考えている。

 それだけでなく、ここの領民になってくれるような人間がいるなら、連れて来てほしいとも思っている。

 それもやはり同じ理由で難しいだろう。

「人材探しなら私に任せてください。これでも元ギルマスですから……」

「本当ですか? お願いします!」

 ファウストは少し自嘲して言うが、レオとしてはありがたい提案だ。

 アルヴァロに頼んではいるが、人材探しなんてかなり広い人脈がないと難しい。

 漁師から兼業でこの島専属の商人のような仕事をしているアルヴァロでは、人材探しはかなり時間がかかるとアルヴァロ自身が言っていた。

 その点、ファウストはギルマスの経験者。

 冒険者や依頼人などからいろいろな人脈を持っていても不思議ではない。

 そんな彼が協力してくれるとなると、レオもそうだし、アルヴァロとしても助かる。

 そのため、レオはファウストの提案にすぐさま乗っかるように返事をした。

「優先的に酒造技術のある人材、次に住人の確保ということでよろしいですか?」

「はい!」

 住民を増やすにも開拓はのんびりとしか進んでいない。

 そのため、住民を増やすよりも、今住んでいるみんなにここでの暮らしを楽しんでもらいたい。

 彼らの希望で多いのが嗜好品となるお酒の製造だ。

 酒造専門家に来てもらえれば、きっとみんな喜んでくれるはずだ。

 ファウストの確認に、レオは大きく頷いた。

「アルヴァロと共に毎週報告に来るつもりなので、その時に状況報告をさせてもらいたいと思います」

「わかりました!」

 人材を探すにしても、この島にいるわけにもいかない。

 そのため、ファウストはフェリーラ領で動いてくれるらしい。

 一応ギルドへの依頼という形になるため依頼料を取られるようだが、魔法の指輪の料金の返済同様、この島で得た魔物の素材の売却額から引かれることになった。

 この島では資金を得ても使うこともないので、特に問題ではない。

「そのうち、ここにギルドが置けたらいいですね!」

 ギルドがあるのは、都市としてはひとつのステータスだ。

 ギルドとしても利益があると見込めるからギルド施設を置くので、冒険者や商人たちも利益を見越して集まってくるようになる。

 多くの人が集まることで、さらなる発展が見込めるようになるため、ギルドのない地の領主になった者としては、当然の目標になっている。

 レオもいつかはという思いをしていても不思議ではない。

「その時は俺をギルマスに置いてもらえますか?」

「ハハ……いいですよ!」

 ギルドの支店が置けるにしても、相当先の話だとここにいる人間は誰もが思っている。

 そのため、ファウストは冗談のように言ってきた。

 父の領地からギルドを撤退させた人間が、見捨てられた息子の領地のギルマスになるなんて、完全に当てつけだといっていい。

 世間の誰もがそう見ることだろう。

 そうなったらレオとしてもおもしろいと思え、あっさりとファウストの冗談に返事をしたのだった。


◆◆◆◆◆


「レオ! 防壁の進展具合を見に行くんだろ?」

「はい!」

「じゃあ、俺たちもついて行く」

「ありがとうございます」

 魔物が多いと言われているこの島で、安全地帯を作るためにレオは防壁の造成を始めた。

 とは言っても、造るのはレオのスキルによって動く人形たちに任せているので、レオが直接造っているとは言いにくい。

 レオ本人はいつものように普通の生活をのんびり送っているだけだからだ。

 その防壁がどれほど進展しているかを確認するため、レオは作業をしている人形たちの所へ向かうことにした。

 ロイたちが護衛代わりについてくれるのだが、念のためとドナートとヴィートがついてきてくれることになった。

 槍術が得意なふたりがついてきてくれるならレオとしてもありがたいため、お願いすることにした。

「オーガを倒したからか、ゴブリンは出なくなったみたいだな……」

「そうみたいですね」

 防壁を造り、ロイたちが内部の魔物を狩っているので、レオたちの前に現れる魔物の数は以前と比べると激減した。

 ドナートが言うように、特にゴブリンはまったく出なくなったことを考えると、やっぱりこの三人で巣を駆除したのがよかったのかもしれない。

 たまに見かけるのも弱小の魔物ばかりで、すぐにロイが始末しているので足止めされるようなこともない。

 警戒はしつつも、三人はたいして時間もかからず防壁を造っている場所へと辿り着いた。

「ご苦労様! グラド、ガンデ」

〝ペコッ!〟

 二メートルくらいの身長で、両腕が極端に太くて長い人形が、レオの声に反応して頭を下げる。

 防壁を造るためにレオが作り、グラドとガンデと名付けた人形たちだ。

 石を盛り、土を集めて固め、さらに魔法で強固にした高さ五メートル、厚さ一メートルの壁がかなりの距離ができあがっている。

 オーガでもそう簡単に壊すことはできないだろう。

「もうすぐできそうだな……」

「ロイたちも協力してくれているので速いですね!」

 思っていた以上に強固な防壁に、ドナートたちは内心驚いている。

 魔物を狩る人形のロイたちも石や土を集めるのに協力したのもあって、思っていたよりも進展が速い。

 このままだと、あと十日もしないうちにできるのではないだろうか。

「引き続きよろしくね」

〝コクッ!〟

 満足いく防壁が造られていっていることに満足したレオは、グラドとガンデにこのまま続けてもらうことを頼み、住居のほうへ戻っていった。

 ドナートとヴィートは魔物が出ないので暇そうにしていたが、それだけ防壁内は安全だということになる。

 まだ少し開拓しただけだが、このまま少しずつ領地を広げていければと思うレオだった。


◆◆◆◆◆


「このお茶美味しいです」