うまいこと力を分散された防御に、レオは驚きながら一歩下がる。
「ハッ!!」
「っと!」
初撃を防がれたレオは、今度は胴へ目がけて剣を
しかし、その剣はガイオが腰を引いただけで空振りに終わる。
「ハッ!」「タアッ!」
その後もレオは上下に向けて攻撃を仕掛けるが、ガイオは棒を使ったり、
「フンッ!!」
「あぁっ……!!」
レオが攻撃を続けているうちに息が切れてきたのを待っていたかのように、ガイオはレオの木剣を弾き、そのまま振り下ろした棒を当たる前で止める。
最後の一撃だけ印象通りの豪剣に、レオは手玉に取られた思いがした。
「ハァ、ハァ……、ほんとに一歩も動かせなかった」
最初の宣言通り、ガイオは結局動くことはなかった。
そのことに、レオは息を切らしつつ悔しがるが、その表情は楽しそうだ。
「レオ、いくらなんでもそりゃ無茶だ! 俺たちがふたりがかりでも勝てねえんだから」
「あっ! ドナートさん。ヴィートさん。そうなんですか?」
懸命にガイオへ攻撃していたために気づかなかったが、いつの間にかドナートたちがレオの側に立っていた。
どうやらさっきの訓練を見ていたようだ。
レオが悔しそうにしているところに、ふたりはそれを当然と言うように笑顔で話しかけてきた。
ふたりとも弱っていたオーガが相手だったとは言っても、あっという間に倒してしまったことから考えるとかなりの実力者のように思える。
そんなふたりが揃って勝てないなんて、レオには信じられないような情報に驚く。
「鈍っている今なら一対一で勝てるんじゃねえか? なんなら今やるか?」
「「……いや、いいっす!」」
確かに片足骨折している今のガイオならなんとかなるかもしれないが、ふたりはこれまでの経験からガイオとの稽古にはトラウマを感じている。
たとえ勝てたとしても、怪我が治った後が怖いので、ふたりとも声を揃えてガイオの誘いを辞退したのだった。
◆◆◆◆◆
「今日も暑いですね……」
「そうだね。クオーレも日陰から出たがらないね」
ガイオとの稽古を終了したレオは、エレナと共に畑に水やりを始める。
島の気温はかなり上昇しており、住民のみんなも暑さをしのぐために近くに流れる川や砂浜へ行って、涼をとるようにしている。
闇猫のクオーレは、いつもレオの側にいたがるのだが、暑さが嫌なのか家の日陰で横になっている。
「人形さんたちは偉いですね……」
「本当に助かるよ」
みんなは休憩をいれながらそれぞれ仕事をしているが、レオのスキルによる人形たちはこれまでと変わらずに動いている。
ロイたち戦闘用の人形は周辺にいる魔物の退治へ向かい、小さい布人形たちは民家建設用の柱への細工をせっせと行っている。
その様子を見ていると、自分の能力で動いているとはわかっていても、エレナの言う通り不思議と偉いと思えてくる。
「暑いから速く水をあげて、僕たちも休もうか?」
「そうですね」
人形たちと違い、人間は熱い日差しに晒されていると熱中症になってしまう。
特にお嬢様育ちのエレナのことを考えると、麦わら帽子を被っているといってもあまり長い間外に出ているのはよくないだろうと思い、レオは水やりを少し速めることを提案する。
エレナはそんなこととは知らず、ただレオの提案に賛成し、水やりの速度を上げたのだった。
「……フッ!」
「ずいぶん機嫌がいいですね?」
「うるせぇ……」
稽古をつけた後、脚が治るまで安静にしているしかないガイオは、クオーレの側に座ってレオとエレナのやり取りを見ていた。
無邪気なふたりを見ていたガイオが思わず笑みを浮かべていると、いつの間にか側にセバスティアーノが立っていた。
眉にシワが寄っていることが多かったガイオが楽しそうにしているのを、セバスティアーノが長年の付き合いから察する。
しかし、その言葉に照れたのか、ガイオはすぐにいつもの表情へと戻ったのだった。
「今朝、お前も見ていただろ?」
「えぇ……」
見ていたというのは、ガイオと稽古をしていたレオのことだ。
ふたりはエレナのためにこの地に住むことに決めたが、領主であるレオのことが気になっていた。
特殊なスキルを持っているのはわかったが、使いこなすレオ自身の能力がどんなものかということだ。
もともとは病気がちだったという話で、あまり期待をしていなかったのだが、訓練を始めて数ヶ月という段階でなかなかの実力を有しているのが感じ取れた。
最初から才能があったのかわからないが、その成長はかなりのものがあるように思える。
「魔物を倒せば強くなる。レオを見ていると本当かもしれないな……」
その成長の一端から、もしかしたらレオの言っていたことが事実なのではないかと考えるようになってきていた。
誰が広めた説なのかはわからないが、本当ならこの先が楽しみに思えてくる。
「……しかし、魔物なら俺も結構倒しているんだが……」
レオを見ていると説が本当だったのではないかと確かに思えてくるのだが、そうなると自分はどうなるのだろうか。
それに、冒険者にも多くの魔物を倒している人間はゴロゴロいる。
その中には一流とは言い難い者も含まれている。
説が正しいのであれば、誰もが一流の能力を持った人間になれるのではないかと思える。
「おそらく、彼のスキルが原因かも……」
「……どういうことだ?」
セバスティアーノもガイオと共に多くの魔物を倒した経験がある。
今のふたりはかなりの実力者だが、それは魔物を倒したことによることというより、厳しい戦いを潜り抜けてきたからだと考えている。
しかし、レオを見ていて説が真実と仮定するならば、思いつく考えがセバスティアーノにはあった。
自分の疑問の答えを知っているかのようなセバスティアーノの
「人間がひとりで戦える数は限られていますが、彼の場合は違う……」
「なるほど、スキルで動かしている人形たちが倒した魔物もレオの力になるとすると、人の何倍も速く力の上昇が得られるってことか?」
「えぇ……」
魔物をたくさん倒すにしても、人間ひとりが一度に戦える数には限界がある。
それに引き換え、レオの場合は人形を増やせば増やした分だけ戦える数は増えていく。
説通りに微弱な上昇だとしても、レオなら何倍もの速度で上昇することが考えられる。
「それに、冒険者の場合などは数人で戦うため、能力アップがあるとしても分散される可能性が考えられますが、彼の場合はひとりで総取りです」
ある程度対応可能な魔物であっても、安全性を確保するために数人で戦うのが基本になっている。
能力アップを単純に人数で割ったとすると、さらにわからないほど微弱な上昇しかもたらされないことになる。
レオの場合は人形自体が個人の能力になるので、人形たちが倒せば全てがレオに集約されることになる。
「しかも、人形を動かすのは魔力のみ、魔物を倒せばその魔力も上がりさらに動かす人形を増やすことが可能になる」
「さらに加速度的に能力が上昇していく……?」
「仮定の話ですが……その通りかと」
「…………」「…………」
全体の能力が上昇すれば魔力も上昇し、その魔力を使って人形を増やせばレオはその分さらに上昇する。
仮定とは言っても、人の何倍もの速度で強くなっていく可能性が考えられたふたりは少しの間無言になってしまった。
「……人形のことばかり考えていましたが、彼自身が強力な強さを持つようになるかもしれませんね」
「……なんだか寒気がしてきたな」
「私もです」
スキルで動く人形にばかり目が向いていたが、人形よりもレオ自身のほうがとんでもない大物になるかもしれない。
仮定が正しかった場合のことを考えると、ふたりは表情が強張った。
そして、この気温の暑さにもかかわらず、何故だか身震いがして鳥肌が立ってきた。
「いや~、暑いですね……」
「あぁ、そうだな……」
ふたりが話していたところに、当の本人であるレオが水やりを終えてエレナと共に戻ってきた。
「…………」
エレナとのほんわかしたやり取りを見ていると、とても大物になるような雰囲気を感じない。
そのギャップに、ガイオは思わず気が抜けてしまった。
「今日のお昼は何か冷たい料理がいいかな……」
「そうですね」
「ピエトロさんにお願いしてこようかな……」
エレナと共にこの地へ逃れてきた料理担当をしているピエトロという男性が、島のみんなの分の食事を用意している。
彼を休ませるためにレオがたまに調理をしているのだが、今日はいつも通りピエトロが昼食を用意する予定だ。
こうも気温が高いと、熱い料理は避けたくなる。
ピエトロがどんな料理を用意するのかわからないが、できれば冷たい料理をお願いしたいところだ。
「では、私がピエトロに頼んできましょう」
「そう? じゃあ、お願いするわ」
エレナも望んでいることなので、セバスティアーノはふたりの言うように冷たい料理ができないかピエトロに頼みに行くことを申し出た。
これまでそれが当たり前だからか、エレナも普通にそれを受け入れる。
「あっ! 僕も一緒に行きますよ。もしも氷が必要になったら人形の力が必要ですから」
「そうですか? ではお願いします」
冷たい料理となると氷が必要になるはず。
魔法で氷を作ることは可能だが、島の住人全員に冷たい料理となると氷を作る人間が必要になる。
しかし、みんなそれぞれ仕事をしているので、それほど人数を確保できない。
だが、レオが人形に頼めばそれも問題ない。
レオがひとりで人数分の氷を作るより人形たちに作らせるほうが、同じ量の魔力を消費しても氷を作る速度は断然速い。
そのため、レオもピエトロの手伝いに行くことにした。
「あの料理好きが大物になる…………のか?」
「ニャ~?」
畑作業や料理することをとても楽しそうにしている少年にしか見えないが、それがさっき言ったようなことになるのだろうか。
だんだん信じられなくなってきたガイオは、なんとなく側で寝転ぶクオーレに問いかける。
それに対しクオーレは、「なんのこと?」と言わんばかりに鳴き声を返したのだった。