第3章 ヴェントレ島探検とレオ覚醒


「レオポルド様! これからよろしくお願いします!」

「敬語はいらないし、爵位もないですから、レオでいいですよ」

 この島に住まわせてほしいとガイオとセバスティアーノから頼まれ、レオは受け入れることを決定した。

 翌日、エレナが代表として頭を下げてきた。

 一応領主といってもレオには爵位がないため、あまりかしこまられても困ってしまう。

 そのため、レオはみんなにフランクに接してくれるように頼んだ。

「でしたら、私もエレナでお願いします」

「わかったよ。エレナ」

 エレナも叔父のムツィオから追っ手を送られるようなことになりたくはないので、世間的には死んだように見せたい。

 そうなると、爵位がないも同然のため、レオと同じく特別扱いはしてほしくない。

 その思いを受け、お互い敬称をつけないで呼び合うことにした。

「ここで暮らすとなると、みんなの家が必要だね」

 総勢二十五人が住むにしても、今のままテント暮らしはあり得ない。

 まずは雨風しのげて、全員が入って寝泊まりできる場所を用意しないといけない。

 そのため、レオはまずは大きな建物を一軒建てることにした。

「人手がいるなら力仕事は男共もいるし、造船の技術を持った彼らを使ってくれていいぞ?」

「それは助かります!」

 みんなのための建物を建てることを告げると、ガイオは人手を割いてくれ、男性陣を手伝わせるのを勧めてくれた。

 とりあえずとは言っても自分たちが寝床にする場所のため、みんな協力する気満々だ。

 ガイオは足が折れているので、細かい手作業を手伝ってくれるらしい。

 レオが住んでいる家よりも大きな建物を造らないといけないので、人手は多いほうがいい。

 みんなの協力はありがたい。

「でも、魔物の出現にも気をつけないといけないし、数人は警備に回すか?」

「大丈夫ですよ」

「えっ?」

 レオがひとりで住んでいるのだから、危険な魔物が出る可能性は低いとは思えるが、建築中に突然魔物が現れたら対応に戸惑うかもしれない。

 魔物が来た時のために、戦う人間を用意することをガイオに提案された。

 しかし、レオはその提案に対し、笑顔で断った。

 魔物への対策なしにどうするつもりなのか、ガイオだけでなくみんな首を傾げる。

「ロイ! オル! ラグ! ドナ!」

「……?」

 急に森の方向に向かって声を出すレオに、男性陣だけでなく洗濯や編み物をしていた女性陣も首を傾げた。

〝ガサガサ……!!

「なんだ!? 魔物か?」

 レオが声を出して少しすると、森の中から四体の人形が姿を現した。

 それを見たみんなは、魔物の出現かと思い慌てて身構えた。

「ごめんね。昨日はずっと外にいさせて」

 その人形がレオに近づくと、片膝をついて頭を下げてきた。

 ロイたちには悪いが、昨日はいろいろあって森の中で過ごしてもらったため、レオは四体の頭を順番に撫でていき、軽く謝罪の言葉をかける。

 現れた四体はレオのスキルで動いている人形。

 昨日は、みんなすぐに出て行ってしまうだろうと思っていたため、レオは自分のスキルを教えるつもりはなかった。

 しかし、ここに住んでくれるとなると教えておかないと、さっきの反応のように魔物と間違えて攻撃されてしまうかもしれない。

 そのため、レオはロイたちのことを教えることにした。

「レオ。その人形は魔物ではないのか?」

「違います。僕のスキルで動く人形たちです」

 レオの行動で魔物ではないのはわかるが、どうして人形が動いているのかわからない。

 そのため、ガイオはロイたちのことを指差してレオに問いかける。

 それに対し、レオはみんなに伝えるように、ロイたちのことを説明した。

「人形操作……聞いたことないスキルだな……」

「今住んでいる家もこの能力を使ったので簡単でした」

 レオからスキル名を聞いても、ガイオはピンときていない様子で、不思議そうにロイたちのことを見つめた。

 結構精密な人形に見えるが、どうして動いているのかよくわからない。

 それがスキルによるものなのだろうと理解はできるが、そのスキル自体聞いたことがないため、なんとなく不思議な気分がぬぐえない。

 しかし、この能力があるからこそ、レオがひとりで暮らせているのだろうと考えるようになった。

「みんな引き続き魔物の警戒をお願い」

〝コクッ!〟

 彼らがいるので魔物への対応はひとまず安心だということをみんなに伝え、ロイたちにはまた魔物への対応をお願いした。

 レオの指示に頷き、また森の中へ向かって行ったロイたちの背を眺め、みんなは鳩が豆鉄砲を食ったようにぼうぜんとしていた。

「…………」「…………」

 みんなが茫然としている中、ガイオとセバスティアーノだけは、お互いの目を見合わせ、同じような考えに至っていた。

 ふたりには何か思うところがあるようだが、レオがそのことに気づくことはなかった。


「皆さんには樹を切ってもらえますか? 切ってもすぐには使えないので、もしも魔法が使える人がいたら、乾燥作業に協力してもらえませんか?」

「了解!」

 ロイたちのことを紹介したレオは、早速建物の建設作業へと移ることにした。

 貴族のように教師に教わるわけではないが、平民でも魔法が使える人間はいる。

 切った樹を全て自分ひとりで乾燥させるのは骨が折れるため、レオは魔法が使える人間に協力を求める。

 すると、三人が手を上げたため、彼ら以外に樹を切り倒してもらい、その樹をレオと彼らが乾燥させる担当をすることにした。

 ロイたちのお陰で魔物への対応はそこまで心配しなくてもいいということから、多くの男性が建物造りに投入され、かなりの速さで樹が切り倒されて乾燥されていった。

「乾燥させたのを細工するとなると、人手が必要だな」

「大丈夫です」

「……?」

 レオの設計通りに造るとなると、釘がないので木材に加工を施さなくてはならなくなる。

 しかし、造船の技術を持っている者はそれほど多くなく、また、細かい作業が得意な者も少なかった。

 そうなると人手が足らないように思えたガイオは、女性陣にも手伝ってもらおうかと思った。

 しかし、女性陣に声をかける前に、考えがあるかのようにレオがストップをかけた。

 何をするかわからないが、ガイオはレオがすることを黙って見守ることにした。

「スキル!」

「っ!! こんな小さい人形も動かせるのか?」

「えぇ!」

 まだ何か策があるのかと思って見つめているガイオの前で、レオはポケットや魔法の指輪から布でできた人形を出し、魔力を流してスキルを発動させた。

 小さな人形が動き出し、建設用の木へ細工を開始したのを見て、ガイオは驚きの声をあげた。

 多くの人形を動かしたので、そんなことをして魔力がもつのかと思ったが、小さい分少ない魔力で動かせるということを聞いて、ひとまず納得していた。

「彼らに手分けして細かい作業をしてもらいます」

「かなりの速さだな……」

 人の手でもできる作業だが、細かい分時間がかかる。

 しかし、そういった細かい作業が得意な布人形たちは、せっせと木材へ加工を施していった。

 多くの作業が一気に進んでいき、力自慢の人たちには布人形たちが加工した木材を運んでもらい、造船の技術のある人たちには組み立てる作業を行うことを頼んだ。

 時間がかかる作業が省略されたことで、一気に建物の建設は進んでいった。

 布人形の何体かは、作業が終わるとそのチョコチョコした動きがかわいらしいと、エレナや女性たちに捕まっていた。

 もともとはかわいらしい系統の人形を作っていたので、女性が反応するのもわからなくない。

 喜んでもらえているのなら、しばらくはそのまま女性たちに楽しんでもらうことにした。


「完成!!

「これが一日でできるなんて……」

「皆さんの協力のお陰です!」

 木製人形を作る用の木材があったとは言っても、レオの家の数倍の大きさの家が仕上がった。

 男女に部屋を分けただけのシンプルな家だが、みんな嬉しい気持ちとあまりにも簡単にできてしまったことへの不思議な気持ちが入り混じっていた。

 そんな中、多くの人たちで作業をすることの楽しさを味わったレオは、とてもいい笑顔で作業に携わった全員に感謝を伝えた。


◆◆◆◆◆


「見たか? あのスキル……」

「えぇ……」

 島に住むことになったみんなが、ひとまず寝泊まりする場所として大きな建物を建てた日の夜、ガイオとセバスティアーノは、ふたりだけで砂浜へと来ていた。

 レオたちの住居から近いとは言っても、夜行性の魔物が出ることを考えると危険な行為だ。

 しかし、ガイオとセバスティアーノからしたらそんな風には思っていない。

 ふたりとも武術の心得があるからだ。

 ガイオは片足が折れていようと身を守れるくらいはできると思っているし、セバスティアーノは余程のことがない限り大丈夫だと思っているのだろう。

 この砂浜に来た理由はほかの者に聞かれずに話をするためだ。

 目を合わせたのでわかっているとは理解しつつも、着いて早々にガイオは話のきっかけとして今朝のことを話し始めた。

「あれは使い方しだいでとんでもないことになりますね」

 今朝のスキル、つまりはレオのスキルのことだ。

 ガイオに聞かれたセバスティアーノは、あの能力を見た時の衝撃を思い出していた。

 人形を操る能力なんて聞いたことがない。

 しかし、その能力は利用方法しだいでとんでもないことができることに、ふたりは思い至っていた。

 そのため、今朝無言で目を合わせたのだ。

「あの能力の使い方によっては、ひとりで軍隊を相手にできるかもしれません」

 セバスティアーノの言葉通り、ガイオも同じことに思い至って鳥肌が立つ思いがした。

 スキルによって動き出した人形たちは、主人の命に従ってほとんどオートで動いてくれる。

 魔物とも戦えるのだから、相手が人間でも戦えるはず。

 しかもその人形が倒されてもしょせんは人形のため、レオは魔力を消費しただけでなんの痛手も受けることはない。

 もしも、戦争などに関わった場合、大量の人形を動かして巨大な戦果をあげることができるだろう。

 それだけの力を有しているのも同然と言っていい。

「本人は気づいていると思うか?」

「わずかな時間での感想ですが、レオ殿は聡明なお方のように思えます。おそらくその一端は気づいているのではないかと……」

 そもそも、動かせると言っても所詮は人形、それを使って魔物と戦わせるという発想を思いついたくらいなのだから、魔物ではなくて人を相手にしても戦えるということくらいはすぐに思いつくはず。

 それでなくても建築や野菜の栽培技術、それに料理などといろいろな面ではくしきの一端がレオからはうかがえた。

 スキルを戦闘に使った場合のことも考えていると思われる。

「こんな島にひとりで無事に暮らしているくらいだからな」

 魔物がばっする地であの能力。

 おそらく、危険な魔物が出た時の考えも何か持っているはず。

「しかし、野心のようなものもないように思えます」

「あぁ、あの力をうまく使えばこんな所にいなくてもいいだろうに」

「むしろここでの生活を楽しんでいるようでしたな……」

 レオの話では、成人を機に家から追い出されたという話だが、そのディステ家への報復を考えているようには思えない。

 みんなでいろいろな作業を行っている時、レオはとても無邪気な笑顔で楽しんでいるようだった。

 まだ短い付き合いなのでなんとも言えないが、とても何か報復を考えているようなものには見えなかった。

 そのレオの笑顔だけを見ると、自分たちも純粋な子供の頃を思い出してしまう。

 子供の頃とは言っても、ふたり共それほどいい思い出ではないが……。

「エレナ嬢には危険かとも思えたが、もしかしたらここに来たことはフラヴィオ様とグイド様の導きかもしれないな」

「えぇ……」

 フラヴィオとはレオの祖父と仲のよかったエレナの祖父で、グイドはエレナの父だ。

 幼少期に火事で家族を失ったガイオとセバスティアーノ。

 孤児になり、盗みでもしなければ生きていけなかったふたりを引き取って、成人になるまで育てた恩人がフラヴィオで、兄弟のように接してくれていたのがグイドだ。

 ふたりからしたら、証拠はないとはいえグイドを殺した可能性のあるムツィオのことが許せない。

 しかし、報復に出るにも人も力もまったく足りない。

 それよりも残されたエレナの身を守り抜くことが最優先だ。

 逃れた先がレオの所というのは、ふたりの恩人の導きに思えてしまう。

 ここなら追っ手を送られることもないだろうし、レオしだいで報復することも可能かもしれないからだ。

「報復の機会はこないかもしれないし、きても相当先のことだろうがな……」

「私としては、エレナ様が無事ならそれは後々で結構です」

「……そうか」

 昔からの仲であるガイオとセバスティアーノはエレナの身の安全優先だが、少しだけ思いが違う。

 ムツィオへの報復を考えているガイオと違い、セバスティアーノはエレナさえ無事ならそこまで報復にこだわるつもりはない。

 恩人のために報復したいという気持ちと、恩人のためにエレナを守り抜くという、どちらも恩人のふたりのことを思っての違いだ。

「しばらくはレオを手助けしているしかないか……」

「その前にあなたは足を治すことに専念しなさい」

「もっともだ……」

 今はこの地でエレナと共に過ごしていくしかない。

 はっきり言って、レオの能力があるからと言ってこの島がまだ安全と思っているわけではない。

 レオの開拓に協力をして、少しずつ安全地帯を広げていくのが確実な手だろう。

 その開拓に武力的な意味で一番力になれそうなのがガイオだ。

 そのため、セバスティアーノから正論を言われ、ガイオはうなずくしかなかった。


◆◆◆◆◆


「皆さんの家を建てるためにも、畑を作るためにも開拓を始めようかと思います」

「……確かに」

 ガイオの船には、エレナと共に逃げてきたルイゼン家の使用人とその家族たちがいる。

 彼らのためにも家族用の家を建てるつもりだが、昨日のようにそこまで慌てて建てる必要もない。

 建てるにしても、畑を耕すにしても、そもそもそんなに土地がない。

 これからの食料を考えて畑の拡張をするにしても、土地を広げる必要が出てきた。

 昨日のセバスティアーノとの話し合いで、もともと開拓を進めるつもりでいたガイオだったが、レオから言い出してくれたことで、「話が早くて助かる」という思いがした。

「えぇ、人も増えたことですし、まずは周囲を調べてみようかと……」

「人形や闇猫がいると言ってもひとりで行く気か? 危険じゃないか?」

 レオの側には闇猫のクオーレと、スキルで動いている木製人形のロイとオルがいる。

 闇猫も戦力になるが、夜に本領を発揮する魔物だ。

 日が明るい時間でも戦えるだろうが、人形たちの強さもまだわかっていないので、ガイオとしてはレオの身が心配になってくる。

「ドナートとヴィートを連れていってくれ。あいつらはそうじゅつのスキル持ちだから役に立つはずだ」

「へぇ~、すごいですね!」

 槍術のスキルは、けんじゅつのスキル同様に戦闘をする人間にとっては人気のスキルだ。

 魔物を相手にすることになった場合、ドナートとヴィートの兄弟がそのスキルを持っているのは心強い。

 ガイオの言葉に甘え、レオはふたりを連れて周囲の調査に向かうことにした。

「では、行ってきます!」

「シャアー!」「よしっ!」

 ガイオに言われたら断るつもりのないドナートたちは、あっさりとレオについていくことを受け入れた。

 主武器となる槍と腰に短剣を装備したふたりは、魔物の出る森の中へ入っていくことへ、ためらうどころか気合いが入っているようだ。

 特に血の気の多いドナートは、ひとりで突っ走っていきそうなほどだ。

 さすがにそんなことしないとは思うが、レオは少しだけ不安に思ってしまう。

「気をつけて……」

「そんなに深くまで行かないから大丈夫だよ」

 エレナが不安そうに心配する言葉に返答し、レオたちは森の中へと入っていったのだった。


◆◆◆◆◆


「薬草がいっぱい生えていますね!」

 ロイとオルを先頭にドナートとヴィートを連れて森へと入ったレオだが、入ってすぐに足を止めることになった。

 家の周りにも生えているのだが、誰も採取する人間がいないからか、森の中には薬草がかなり自生していた。

 余るくらいに取っておいてもちょうどいいくらいだ。

 人は増えたが、医者がいないので回復薬を作っておく必要があるため、レオは薬草の採取を始めた。

「野草も生えていますね。揚げ物にすると美味しいんですよ」

 薬草だけでなく、いろいろな野草まで生えている。

 食用の魔物の肉は結構な量あるが、野菜などは少ないためこれから育てるしかない。

 野菜が育つまで肉ばかりではさすがに飽きるだろうと思い、レオは野草の採取も始めた。

「まったく先へ進めねえな……」

「あぁ……」

 護衛代わりについてきたドナートとヴィートだが、レオがさっきから草ばかり採取して全然進まないことで暇そうに話していた。

 みんなが暮らしている所からそれ程離れていない場所でこんなことしていても、まったく調査にならない。

 レオが採取しているのを立って見ているだけのふたりからしたら、暇に思うのも当然だろう。

〝ガサッ!!

「「っ!!」」

 暇そうにしていたとは言っても、当然魔物への警戒は怠っていない。

 少し離れた場所で物音がし、ふたりはすぐにそちらへ向けて持っている槍を構えた。

「ゴブリン!!

 音のしたほうへ目を向けると、そこには緑色のしゅうあくな顔をした小鬼が目に入った。

 ゴブリンという名前の魔物も同じタイミングでこちらに気づき、ヴィートが魔物の名前を発した時にはこちらへ走り出していた。

「ゲギャッ!?

〝ズバッ!!

 しかし、ゴブリンの攻撃がレオたちに届く前に、剣を装備したロイがゴブリンの横から斬りかかる。

 人形だから気配を感じなかったのか、いつの間にか死角に回られたことに気づかなかったゴブリンは、首を斬られてあっさりと出血死した。

 ゴブリンが動かなくなると、ロイはすぐに魔石の回収に入る。

「すごいな……」

「確かに……」

 ゴブリンは小さいうえに頭もそれほどよくないため、武器を持った普通の大人なら冷静に対処すれば倒せる魔物だ。

 とは言っても、かなりあっさりとロイが倒してしまったことに、ドナートとヴィートはあっにとられていた。

 魔物の相手ができるとは聞いていたが、思った以上にロイたち人形の動きがいい。

 ロイがゴブリンの相手をしている最中、レオなんかいちべつしただけで、すぐさま薬草採取を再開していた。

 それだけの実力があるとわかっている行動だ。

 なんだか身構えた自分たちのほうが恥ずかしい気がしてきたくらいだ。

「護衛に来た意味がない気がしてきたな……」

「薬草採取を手伝うか?」

「そうだな……」

 ロイたちの動きを見ていると、確かにある程度の魔物なら任せておいて大丈夫そうだ。

 自分たちまで守られている気がしてきたドナートとヴィートは、何もすることがないのでレオ同様に薬草と野草の採取を手伝うことにした。


「これだけあれば、ひとまずいいかな……」

 ロイが倒したゴブリンの魔石と共に、レオは薬草や野草を魔法の指輪に収納した。

 結構な量を採取しても薬草はまだかなり生えている。

 しかし、もう多くの回復薬を作れるだけの採取が済んだので、ひとまず薬草採取を終了することにした。

「海沿いに向かいましょう!」

「……なんでだ?」

 何もしないでいるよりも歩いて足を動かしていることのほうが気分的に楽だが、海沿いに行ってなんの調査をするのか気になったドナートは、その理由を尋ねた。

「皆さんの船を置ける所がないかと思いまして……」

 レオが海沿いを確認する理由は、みんなが乗って来た船を、今のまま砂浜の近くに停泊させておくわけにはいかないからだ。

 台風による高波を受けたことにより、船にはあちこち破損した箇所もある。

 その修復に木材を持っていくにも、小舟で何度も往復しなければならない。

 もしも、また台風が来た場合、沈没してしまうかもしれない。

 それならどこか島の近くで泊められる場所を探して、そこに船を運んで修理したほうがスムーズにことが運ぶと思ったからだ。

「船乗りにとって船は大事なものなのでしょう?」

「当然!」

 週一で来てくれる漁師のアルヴァロもそうだが、船を持つには結構な資金がかかる。

 漁船ですら高いのに、それより大きな中型船となるともっと大金がかかっているはずだ。

 このまま砂浜の近くに停泊させて沈没することになってしまったら、みんな悔しい思いをするのではないかと思う。

 きっとドナートたちもあの船のことが気になっていると思い問いかけてみると、ドナートはすぐに返事をしてきた。

「整備するにも、住居から近ければ魔物の危険も少ないでしょう? そんな場所がないかとりあえず探してみましょう!」

「あぁ!」「おう!」

 理想としては、船場は砂浜の近くに置きたい。

 そうすれば、みんなが住んでいる所に近いからだ。

 なければ人海戦術で作るという考えもあるが、それは最終手段にしておきたい。

 まずレオたちは、船が波で流されたりしないように停泊できる場所を探すことにした。


◆◆◆◆◆


「んっ? おいっ! あれっ!」

「えっ? ……洞窟?」

 崖下を覗き込むようにして見回していたドナートが、何かを発見したように声をあげた。

 それに反応したヴィートは、ドナートが指差した方向へ目を向ける。

 すると、たいして深いようには見えないが、洞窟のような場所があるのを発見した。

「ここなら大型船でも入るんじゃないか?」

「そうですね! 実際にここへ船場を作れるか、海底の深さを後日見に行きましょう!」

 洞窟なので雨にさらされることも防げそうだし、縦横の幅を考えると確かに大型船でも入れることができそうだ。

 あとは船を操縦して、そのまま泊めておくことができるかということだ。

 海底の深さがあるならそのままここに停泊すれば、船場として十分使えるだろう。

 しかし、崖から飛び降りるわけにもいかないので、後日調べるしかない。

 ちょうどいい場所があったのを発見したレオは、羊皮紙にメモを取った。

「それでは魔物の調査を少しして帰りましょう!」

「了解!」

「わかった!」

 護衛についてきたのだが、結局出てくる魔物はロイとオルが始末してしまう。

 はっきり言って何もしていないも同然でしかなかったが、船場にできそうな場所が発見できたことから、ドナートとヴィートは機嫌がよくなった。

 あの船はガイオが大事にしている船なので、ふたりはこのまま海上に停泊させておくのは心苦しかった。

 それがちゃんと保全できそうなので、ガイオにいい報告ができると思ったからだ。

「しかし、森の入り口付近とは言ってもかなりの多さだな……」

「ですね……」

 ヴィートのつぶやきに、レオも同意する。

 調査に出たのだが、レオたちのいる場所は拠点となる場所からたいして距離は離れていない。

 しかし、薬草を採取している時やさっきの洞窟を発見するまでの間にも魔物が定期的に現れていた。

 出たと言っても弱い魔物ばかりで、ロイとオルがあっという間に倒してしまっていたが……。

「またか?」

「ゲゲ……」

 どんな魔物が出るかカウントしているのだが、多く出てくるのはゴブリンだ。

 また現れたゴブリンに、ドナートは思わず呟いてしまった。

「ゴブリンの集落があるんじゃないか?」

「怖いですね。そんなのがあるなら早急に対処しないといけないですからね……」

 頻繁に出てくるゴブリンを見ていると、ヴィートの言うようにゴブリンの集落でもあるのかと思えてくる。

 一体の強さは弱くても、数が大量になればゴブリンでもかなりの脅威になる。

 そんなのがあるというなら、早々に潰しておかないと、いつかみんなに危険が及ぶかもしれない。

 ヴィートのちょっとした予想のようなものでしかないが、レオは調査する必要アリと羊皮紙にメモをした。


「ところで……」

 調査によっていくつか収穫があったレオたちは、日が暮れる前に拠点へ戻ることにした。

 もう少しでみんなが待つ拠点に着くというところで、レオは疑問に思っていたことをふたりに聞くことにした。

「ふたりは海賊なのですか?」

「「…………」」

 レオからのいきなりの質問に、ドナートとヴィートは思わず無言になり足を止めたのだった。

「……なんでそう思うんだ?」

 急に自分たちのことを海賊ではないかと尋ねてきたレオに、ヴィートは質問で返す。

 若干険しい表情をしているのを見抜かれたからなのか、それとも海賊の疑いをかけられて腹を立てているからなのかはわかりづらい。

「この島には噂がありまして……」

「噂……?」

 質問を返されたレオは、どうして彼らを海賊なのではないのかと思うようになったかを答えることにした。

 とは言っても、ただ単純に思っただけのことなので、たいした理由ではない。

「ここは魔物の巣窟と海賊が休息所にしているという噂がありました。船員の皆さんはここに来たことがあるようですし、もしかしたらと思いまして……」

 ガイオも船員の人たちも、ここが魔物の巣窟だということを知っているかのような会話をしていた。

 確かにその通りなのだが、エレナのいたルイゼン領からはこの島は結構離れている。

 商船が通るにしても近づくこともないため、魔物が多いと知っているというのは、立ち寄ったことのある人間である可能性が高い。

 ここに立ち寄るのは海賊くらいのため、もしかしたら彼らも海賊なのではないかと思ったのだ。

「それだけの情報で海賊だと思ったのか?」

「いや、失礼ながら皆さん人相が……」

「ハハッ! 確かに人相がいい連中じゃないもんな!!

 噂だけでなく、自分たちの会話などからその推理を導き出したことに感心する。

 確かに、その噂と会話を聞いていたらそう思われても仕方がない。

 そうなると、ほかにも何か原因がなかったか気になってきたヴィートは、興味からレオに尋ねた。

 その問いに対し、レオがもうひとつ海賊ではないかと疑うようになった理由を躊躇ためらいがちに言うと、ドナートは声をあげて笑い出した。

 そんな単純な理由で海賊だと疑われるとは思ってもいなかったようだ。

 確かに船員の中に人相のいい人間なんているように思えない。

 レオの言うことももっともだと思ったらしい。

「その中にはお前も入っているんだぞ?」

「…………」

 笑っているドナートだが、なんだか自分のことを棚に上げて笑っているかのような反応だ。

 それが気になったヴィートは、思わずツッコミを入れる。

 ヴィートのツッコミを受けて、自分で自分のことも人相が悪いと笑っているのと同じだということに気づき、ドナートから笑顔が消えた。

「でも、皆さん海賊っぽくない感じもしますし、どっちなのかな? と思いまして……」

「なるほど……」

 レオとしても、別に彼らを海賊だと断定しているわけではない。

 ただ、もしかしたらという思いから確認をしたかっただけだ。

 そのレオの考えを聞いて、ヴィートは納得したように頷いた。

「レオの最初の質問に答えるなら、俺たちは海賊ではない」

「そうですか。よかったです」

 もしも彼らが海賊で指名手配などでもされているようなら、エレナのことはともかく、国に報告をしなければならなくなっていたかもしれない。

 そうなるとエレナの存在もバレる恐れがあったため、どうしようか悩ましいことになるところだった。

 海賊ではないとドナートに言われて、レオは安心したように息を吐いた。

「……ただ、一部の者には海賊だと思われているかもしれないな」

「俺たちは海賊狩りをしていたからな」

「海賊狩り……?」

 安心したレオにドナートが続きを話し、それにヴィートが補足した。

 話を聞いてみると海賊が出たという噂は本当で、それをつぶすために彼らが動いていたということだ。

 そのためには海賊だと思われることもしなければならなかったために、海賊と思っている人間もいるということらしい。

「海賊狩りはガイオのおやっさんが、お嬢エレナのお父君であるグイド様に依頼されてやっていたことだ」

「海賊のほとんどを削ったが、グイド様などのこともあってそれどころではなくなったがな……」

 そして、エレナを逃がすことに協力をすることになって、ここに来ることになったらしい。

「やっぱりエレナを守る気持ちは本心だったようですね」

 海賊であろうとなかろうと、彼らがエレナを守ろうとしていることは本気のようにレオの目には映っていた。

 そのため、そんな者たちを国に突き出さなければならないようなことにならなくて、レオは安堵した。

「しかし、どうして海賊かもしれない俺たちに尋ねたんだ?」

「もしかしたら口封じされるって思わなかったのか?」

 物騒な話だが、確かにふたりの言うように、彼らはレオに通報されないように始末するという選択も可能だ。

 所詮ひとりしか住んでいないので、いなくなっても魔物にられたことにでもしてしまえば証拠も隠滅できる。

 ふたりが殺意を持っていれば、そうなっていてもおかしくなかった。

「みんなを見た中で、戦闘力で一番危険なのはガイオさんとセバスティアーノさんです。しかし、ガイオさんは骨折しているし、セバスティアーノさんはエレナを守ること優先でそんなことをしてくるとは思えません」

 こんな所に住んでいるのだから、レオ自身でも魔物を倒したりすることもある。

 少ない経験ながら、危険そうな人間はなんとなくだがわかるつもりだ。

 その中で、直感的に危険なのはガイオとセバスティアーノだとレオは判断していた。

 今のところそのふたりは自分を襲ってくるとは思えないが、もしものことを考えてほかの人間に聞いてみることにしたのだ。

「……俺たちなら勝てるって言いてえのか?」

「いえ、いえ! でも、逃げるくらいはできると思いました」

「そうか……」

 確かにガイオやセバスティアーノに比べれば弱いかもしれないが、自分たち兄弟は強さではふたりの次の位置にいると思っている。

 襲われても大丈夫そうな人間に聞いてきたのかと思い、なめられていると思ったドナートは眉間にシワを寄せた。

 ドナートの気を悪くしてしまったようになってしまい、レオは誤解を解くように否定した。

 その否定を受けて、ドナートとヴィートは怒りを鎮めた。

「それに、ガイオさんに人形の強さを見ておくように言われませんでした? 二体があなたたちふたりに勝てるとは思わないでしょ?」

「「…………」」

 レオの言葉にドナートたちはまたも固まる。

 確かに、出発前にガイオからレオの人形の強さを見ておくように耳打ちされた。

 しかし、それがレオに聞かれたということはないはず。

 それなのに、そのことを当てられて、改めてレオの推察力に目を見張った。

「わかっていて人形の強さを見せたのか?」

「えぇ、まぁ……」

 能力を知られるのは、対処法を考える機会を与えてしまうことになる。

 さっきも言ったように襲われでもしたら、逃げることもできなくなるかもしれない。

 それでも見せたということは、レオには何か逃げきれるだけの自信があるということになる。

「何かまだ隠しているということか?」

「……ふたりを信用しても、さすがにそれを今教えるわけにはいきません」

「そりゃそうだ」

 逃げ切る自信となる能力は確かに持っているが、レオにとっては奥の手なのでそれは秘密だ。

 信用している人間にですらまだ教えるつもりはない。

 ドナートやヴィートも仲間以外に秘密にしている技などがある。

 仲間だからと言っても別に見せびらかしたわけではなく、海賊と戦うことになって見られることになっただけだ。

 レオが言うように、無闇に教えるようなものでもないため、その奥の手を知ろうとするのは野暮というものだ。

「お前おもしれえ奴だな……」

「あぁ、ただの青白い顔したガキンチョだと思ってたぜ!」

「ハハ……、ありがとうございます」

 レオの能力を聞いたふたりは、戦いはすべて人形に任せているのだろうと思っていた。

 それでも確かにすごい能力だが、ちゃんと自分で自分を守ることも考えていることに感心した。

 しかも、自分たちを相手にしてもなんとかなると思っているくらいの能力を隠していることに興味が湧いてきた。

 少しの時間でいろいろと驚かされることになったふたりは、レオのことが気に入ったようだ。

 気に入られたのはいいのだが、言動などから海賊扱いしてしまったため、レオは少し複雑そうに言葉を返したのだった。


◆◆◆◆◆


「そうか海賊に思われていたか……」

「すいません……」

 調査から帰って来る途中、ドナートとヴィートから海賊狩りだということを聞いたレオは、夜になりガイオに細かいことを尋ねることにした。

 と言っても、だいたいドナートたちから聞いていたので、特に質問することはなかったが、ガイオの今後の考えも尋ねておこうという思いもあった。

 レオがガイオたちのことを海賊なのではないかと思っていたことを伝えると、ガイオは楽しそうに笑みを浮かべた。

 もしかしてというくらいとは言っても、疑っていたのは事実なので、レオは申し訳なさそうに謝罪した。

「ハハ……、こんな人相の連中じゃ疑って当然だ。気にすることはない」

 レオが疑った理由のひとつである人相のことを聞くと、ガイオはドナートを指差して声を出して笑った。

 ドナートの目つきの悪さをするような発言だ。

「……おやっさんが一番海賊っぽいっすよ?」

「…………」

 自分も目つきが悪いのはわかっているが、それを言われるにしてもガイオに言われるとちょっと納得できないため、ドナートはガイオにツッコむ。

 ガイオ自身もそう言われたら返しようもなく、口ごもることになった。

「人形の強さはどうだった?」

 レオに海賊狩りだと知られたからか、ガイオは隠すのをやめたようにヴィートに問いかける。

 目の前に本人がいるのに、気にしていないようだ。

「結構やりますね」

「ギリギリ中級冒険者ってところです」

 ヴィート、ドナートの順でガイオに答える。

 それ程強い魔物が出たわけではないので、答えるにもそこまで評価しづらいが、ふたりは見た感覚をそのままガイオに告げた。

 ゴブリンなんかは初級の冒険者が相手にするような弱い魔物。

 その魔物が数体出ても難なく倒しているところから考えると、中級に入れてもいい程度の実力と言える。

 それがロイたちの戦いを見たふたりの出した印象だ。

「それなら十分だ。数を増やせればだいぶここの安全が確保できる」

 ガイオたちとしては、エレナの安全が重要だ。

 そのため、家があるこの周辺の安全の確保には神経を使わないといけない。

 ドナートたちの評価を聞いて、ガイオとしては人形たちの強さは満足いくレベルだった。

「それに、自分の身を守るために奥の手もまだ用意しているようです」

「ちょっと! ヴィートさん……」

 レオからすると、そんなこと言わなくてもいいのにということまでヴィートに報告されてしまった。

 ふたりに言ったように、奥の手は隠しているから奥の手だ。

 何かあると思われているだけで、警戒されて効果が薄まるということもあり得る。

 少し非難するような反応をするが、レオも報告されることも予想していたのでそんなに強くはしない。

「……ハハッ! おもしろい! こんな奴初めてだ!」

「イタタ……、ハハ……」

 中級冒険者並みの戦力を持つ人形たちを、魔力が足りる限り動かすことができるというだけでかなり不思議な少年だと思っていたが、まだ何かあるということに興味が湧いてくる。

 なんでレオがこんな島に送られてきたのかとますます不思議に思えてきた。

 この能力を知っていれば、きっとディステの領内はかなり利益を生んでいたはずだ。

 しかし、自分たちはこの能力のに入れた。

 これから先のことを考えると、年甲斐もなくワクワクした気持ちがふくらんできた。

 そのため、ガイオはレオの肩を叩いて声をあげて笑ってしまった。

 ゴツイ手で叩かれたレオのほうは、ジンジンする痛みに耐えて苦笑した。

「でしょ?」

「俺たちも笑っちゃいましたよ」

 そのことにドナートとヴィートは、自分たちが聞いた時と同じ反応に笑みを浮かべる。

 どうやら自分たち同様ガイオもレオのことが気に入ったようだ。

「俺たちがお前をフォローするから、安心してこの島の開拓に使ってくれ!」

「ありがとうございます!」

 海賊狩りたちのトップであるガイオに気に入られ、今後の開拓への協力を約束できた。

 なんとなく開拓に船員たちを借りるのがためらわれていたのだが、これで気兼ねしないで済みそうだ。

 安心したレオは、笑顔でガイオと握手を交わしたのだった。


◆◆◆◆◆


「これでひと安心だ」

「あぁ……」

 洞窟内に収納された船に、ドナートとヴィートはつかえていた物が取れたような思いがしていた。

 昨日発見した洞窟を、海岸から足場と呼ぶには少々危険な岩場を渡っていろいろと調査をしてみた。

 海底の深さや岩の位置などを調べた結果、ガイオたちの船を置くのに十分なことがわかった。

 そうとわかれば早速と、砂浜の沖に停泊させていた船を洞窟内へ格納することにした。

「へぇ~……、すごいな……」

 帆に魔法で風を送って微調整しつつゆっくりと船がバックしてくるのは初めて見たので、レオとしてはそれだけでおもしろかった。

「海に落ちるなよ?」

「溺れるからな!」

「うっ……! 落ちませんよ」

 この洞窟の調査をしようとしたのだが、すぐにレオに問題が生じた。

 レオは泳げなかったのだ。

 それもそのはず、ずっとベッドの上で過ごしてきたので泳ぐことなんてできるわけがない。

 レオが自分は泳げないとドナートたちに伝えると、彼らはからかうネタを発見したと思ったのか、ちょこちょこイジってくるようになった。

 それを受けて、レオは密かに泳ぎの練習をしないといけないなと思っていた。

「あとは海岸から道を作りましょう」

 洞窟内を船のドックに改造するのは船員たちがすることになるのだが、そもそも洞窟へ来るまでの道が危険すぎる。

 レオたちのように、上から階段を下りる造りにすると魔物の出現に注意しなくてはならない。

 そうなると、魔物の心配のない海岸からの道を造ってしまえばいいということになった。

「スキル! みんな持てるサイズの石を運んでくれるかい?」

〝コクッ!〟

 ポケットや魔法の指輪から大量の布人形を取り出したレオは、スキルを発動させる。

 すると、人形たちが動き出し、レオの指示に頷きを返して散らばっていった。

「これだけいるとずいぶん楽だな……」

「そうですね」

 列になり、リレーのようにして運ばれた石が海岸近くの岩場に積み上がっていく。

 それを見ていたヴィートは、改めてレオのスキルの有用性に感心していた。

 ちりも積もれば山となるということを証明するかのように、人形たちのお陰で石の山ができ上がっていた。

 歩くのも危険な岩場に石を撒き、人工的に整地してしまおうという考えだ。

 ドックの製造に洞窟へ向かう船員たちには、道が完成するまで板を並べた簡易的な道を通ってもらうことにした。

 人形たちによる洞窟までの整地作業は、五日という速さで完了した。

 人間でも相当数が動かないとここまでの期間で造ることなどできないだろう。

 それがレオのスキルと魔力だけでできてしまったことに、ガイオやドナートとヴィートだけでなく、船員たちも大いに感心し、改めてレオのことを気に入ってくれたらしい。

 これで船の修理ができると、レオはみんなから感謝をされたのだった。


「そういや、ゴブリンのほうはどうするんだ?」

 調査に行った三人は、頻繁に出てくるゴブリンの数が気になっていた。

 ゴブリンが少しいるくらいならたいして気にする必要もないが、ゴブリンが大量に生息している場所でもあったら、レオたちの住んでいる所も危険に晒されるかもしれない。

 早々に対応にあたったほうがいいため、ドナートはレオにそのことを問いかけてきた。

「ロイたちにゴブリンは見つけしだい始末するのと同時に、大量に生息している場所がないか探させています。見つけた時は、皆さんに相談させてもらいたいと思います」

「わかった!」

 ゴブリンたちの生息地がわかれば、攻め込んで潰してしまえばいい。

 生息数しだいではみんなに協力を頼もうかとレオは思っている。

 ゴブリン相手に暴れられると思っているのか、ドナートは若干楽しそうだ。

 それから数日して、ロイがゴブリンの生息地を発見したことを教えに来てくれた。


◆◆◆◆◆


「あそこですね?」

「あぁ、報告通りだな……」

 樹の陰に隠れてレオが覗き込むと、そこにはゴブリンたちが出入りしている洞窟が見えた。

 ゴブリン討伐に加わったドナートもそれを確認して頷く。

 ロイが発見して教えてくれたように、レオたちが前回調査した所から少し森の奥へ向かった場所に存在していた。

「結構近場だったな……」

「ですね……」

 ドナートと共に参加しているヴィートの言うように、レオたちの家がある地域からはそんなに離れていない。

 もしもゴブリンたちがレオたちのことを先に気づいていたら、攻め込んでくる可能性も考えられた。

 こちらが先に動いたことは成功だったと言っていいだろう。

「中に入ったわけではないのでわからないですが、約百といったところです」

「ゴブリンが百か……」

「まぁ、なんとかなるだろ……」

 ロイたちに交代で洞窟を見張ってもらったのだが、出入りする人数と運ばれる食料から簡単に計算した結果、百体ほどのゴブリンがこの洞窟を拠点にしているという結論になった。

 ゴブリン一体ならたいしたことないが、数が多くなると話が変わる。

 ひとりで何体も相手にするには相当な実力がないと危険なために、人数を揃えなくてはいけなくなる。

 百体でも結構な数だが、今回はヴィートの言う通りなんとかなりそうだ。

「作戦通り行動を開始します。ふたりはフォローをお願いします」

「おう!」「了解!」

 ゴブリンとはいえ多くの魔物を相手にするのにもかかわらず、討伐に来ているのはたった三人。

 とても百体相手にするのには少なすぎる。

 しかし、この討伐のためにちゃんと作戦は練ってある。

 その作戦実行のために、三人は行動を開始することにした。

「頼むよ? みんな!」

〝コクッ!〟

 戦いに参戦しているのは三人だが、当然レオのスキルによる人形たちも参戦している。

 ガイオの海賊狩りの船員たちがなんとかしてくれると思うので、家周りの守備はクオーレに任せてきた。

 そのため、常時動かしているロイたち四体を全部連れてきた。

 武器を装備した四体は、戦力としてかなり期待している。

 レオが小声で期待の言葉をかけると、ロイたち人形は頷きで返した。

「GO!!

 レオの合図で全員が動き出す。

 作戦の最初は洞窟付近に散らばっているゴブリンたちの始末だ。

「ギッ!?」「ゲギャッ!!

 いきなりの襲撃にゴブリンたちは慌て始める。

 洞窟内の仲間へ報告に行こうとする者もいたが、ドナートとヴィートの槍によってあっという間に始末された。

 レオは戦闘をせず、ロイに守られながら洞窟の入り口へ一直線に向かう。

 魔法の指輪にあらかじめ用意しておいた燃えやすい木を取り出し、すぐさま着火する。

「よしっ! あとは出てきたのを順次撃退で……」

「あぁ!」「よし!」

 洞窟の出入り口でたきしたことで、内部にいるゴブリンは入ってきた煙で慌てて飛び出してくるはずだ。

 内部が深ければ一酸化炭素中毒死するだろうし、慌てて出てきたとしても出入り口はひとつ。

 ここで待ち伏せしていれば列を組んで向かってくるはずだ。

 出入口はまあまあ大きいが、ゴブリンが出てこられるのは二列ほど。

 これなら人数が少なくても対応可能だろう。

 それに、煙が充満しようと関係ないロイたち木製人形が洞窟内で数を減らすので、ドナートたちは漏らした敵を始末するだけの簡単な作業だ。

 人が住んでいる島なら人質がいる可能性もあるが、ここはずっと誰も住んでいない。

 人質など気にしないでこの作戦を実行できる。


「……終わったか?」

 内部からゴブリンのものらしきうめき声が聞こえなくなってきた。

 煙を送り始めて数分経つし、中にいたとしても生きているのは難しいはずだ。

 作戦が成功したような雰囲気に、ドナートは安堵したように呟いた。

「「「っ!?」」」

 しかし、レオを含めた三人が終了したと思っていたところで、様子が変わってきた。

 中に入っていたロイたちが慌てたように戻ってきたのだ。

「どうしたの!? 何かあったの!?

「なんだ?」

「俺たちにも下がれって言ってんのか?」

 出てきたロイたち四体の人形はロイとオルがレオを抱え、ラグがドナート、ドナがヴィートの腕を引っ張る。

 まるで下がるように言っているかのようだ。

 それに気づいた三人は、四体の行動に従って洞窟から離れた。

「グルッ……!!

「「「っ!!」」」

 洞窟内にまだ生き残りがいたらしく、うめくような声が聞こえてきた。

 それに気がついた三人が目を向けると、

「なっ!! オーガ!!

 身長二メートル以上の巨体をした鬼が洞窟内から姿を現した。

 いきなりの危険な魔物の出現に、レオは驚きの声をあげる。

 オーガは、ゴブリンなんて比べ物にならないほどの危険生物である。

 大物の魔物の出現に慌ててしまうのも無理はない。

〝ババッ!!

「っ!! ドナートさん! ヴィートさん!!

 オーガが出たことで慌てているレオと違い、ドナートとヴィートは何故かオーガへ向かって駆け出した。

 あまりに危険な行為に、レオは止めようと手を伸ばす。

 しかし、その手が届くはずもなく、ふたりはオーガへ向かって行ってしまった。

「っ!! そうか!!

 オーガを相手にするのにふたりでは無謀すぎる。

 しかし、ふたりは迷わず向かって行く。

 レオは最初その理由がわからなかったが、すぐに理解した。

「ロイたちも今のうちにオーガを攻撃するんだ!!

〝コクッ!〟

 ふたりの無謀な行動理由を理解したレオは、すぐにロイたちも攻めかかるように指示をする。

 レオの命令に従い、ロイたちは頷きを返すとドナートたちの後を追った。

「ハッ!!

「ガアッ!!

 最初にドナートがオーガへと攻撃を開始する。

 接近による速度を生かした槍による強力な突きが、オーガの右足へと突き刺さる。

 その攻撃の痛みで、オーガは呻き声をあげる。

「もう一発!!

「グァッ!!

 ドナートの攻撃を食らったすぐ近くへ、ヴィートの槍が突き刺さる。

 強力な痛みにより、またも呻き声をあげたオーガは、左膝をついて座り込んだ。

「グッ!?

 足の痛みに呻いているオーガへ、今度はロイたちが襲いかかる。

 座ったことで下がった顔面目掛けて、ドナによる矢が高速で飛んでくる。

「グアァッ!!

 右目に突き刺さり、オーガはまた大きな声をあげる。

 そして、ロイは剣で、オルは槍で、ラグは二本の短剣でオーガへ攻撃をする。

 反射的に右目を抑えた右手は無視し、空いている左手をズタズタに斬り刻んだ。

「ナイス!!

「とどめだ!!

 ロイたちが攻撃をしている間に、ドナートとヴィートはオーガの背後へと回り込む。

 そして、注意を引き付けてくれていたロイたちを褒めると、そのまま一気にオーガの背中からふたり同時に攻めかかった。

「ガアァッ!!

 心臓のあると思われる場所を背中から突き刺し、一気にとどめを刺した。

 二本の槍が深々と刺さったオーガは、一瞬呻き声をあげるとそのまま前のめりに崩れ落ちていった。


「すごい! さすが戦い慣れていますね……」

 念のため倒れたオーガをそのままにして様子を見、死んでいることを確認した三人は改めて倒れているオーガへと近づいていった。

 そして倒れているオーガを眺めたレオは、思わずドナートたちの判断力のよさに感心した。

「オーガも煙でまともな状態じゃなかったんですね?」

「「その通り!」」

 オーガが出て慌てたレオと違い、ドナートたちはオーガの足がふらつき目も焦点が合っていないことを瞬時に見抜いた。

 煙による一酸化炭素中毒はゴブリンだけでなくオーガへもちゃんと効果があったのだ。

 必死に外へ逃れてきたらしく、オーガがよく持っているこんぼうを所持していなかった。

 武器もなく状態異常では、気をつけさえすればオーガですらなんとかなる。

 まずは最初に足を潰し、ロイたちが来てくれたことでとどめを刺すために動くことができた。

 強力な魔物の出現に慌てずに行動した勇敢さに、レオは尊敬した眼差しをふたりに向けたのだった。


◆◆◆◆◆


「まさかオーガなんて大物が出るなんて……」

「あぁ……」

 オーガの死体を魔法の指輪に収納し、ようやくひと息ついたレオは、安心したように呟いた。

 それに対し、ヴィートも同意し頷く。

 ロイたちには洞窟内のゴブリンの死体の処理をお願いした。

 ゴブリンから手に入る素材は小さい魔石くらいしかないが、それでも島の収入源になる。

 せっかく倒したのだから、手に入れておかないともったいない。

 それに、レオのスキルによって、待っているだけで手間な作業は人形たちがやってくれる。

 戦いによる緊張感が少し解け、三人は持ってきた軽食をつまんで休憩を取ることにした。

「ビックリして一瞬腰が引けましたよ」

 この島に来て、体を鍛え始めていたレオだったが、こんなに多くの魔物に近づくようなことはなかった。

 オーガという強力な魔物の出現を目の当たりにし、言葉の通り腰が引け、頭が真っ白になりかけた。

 自分ひとりだったら、戦うなんて考えずに逃げていたかもしれないところだった。

「俺たちだって焦ってたぜ? なあ?」

「あぁ!」

「ふたりはすぐに反応していたじゃないですか」

 レオとしては、ドナートたちがいてくれたことに感謝している。

 海賊狩りというと対人戦闘が強いという印象が強かったが、魔物相手でもかなり活躍していた。

 本人たちも魔物よりも対人戦闘のほうが慣れていると言っていたのに、オーガが出てきてからの状況判断のよさは尊敬してしまう。

「ゴブリンもオーガも鬼系統だから人間に近いからな」

「対人戦闘に近い感覚で戦えたって感じかな……」

「なるほど」

 ゴブリンやオーガは鬼系統の魔物のため、二足歩行することから動きが人間に近い。

 オーガは確かに驚いたが、煙を吸い込んで弱っていたし、でかい人間だと思えば変わりはない。

 そのため、ドナートたちからするとほかの魔物のような脅威は感じなかったようだ。

「ゴブリンが増えたのはオーガのせいだったのかもしれませんね」

「どういうことだ?」

 これだけゴブリンの数が増えていたのを考えると、ガイオたちみんなが来る少し前からオーガがあの洞窟に住み込んでいたのではないかと思える。

 オーガはゴブリンをパシリに使って食料を得て、ゴブリンはオーガの守護の下で数を増やすことができていたのだとレオは考えていた。

 いわゆる共生という状況が、ここでできていたということだろう。

「嫌な共生だな……」

「まったくだ」

 レオの説明を受け、ドナートとヴィートは納得すると共に顔をしかめた。

 ここを放置してゴブリンの数が増えていたとしたら、それほど時間もかからずにレオたちのいる場所を見つけられていた可能性がある。

 今日とは反対のことが身に降りかかっていたかもしれないと考えると、身震いをする思いだ。

「運がよかったですね?」

「だな……」

 先にこちらから動けたのは、レオが言うように運がよかったと言っていいかもしれない。

 それと同時に、ここの島の開拓の難しさも感じていた。

 まだ島の一割にも満たない範囲なのにもかかわらず、オーガなんて危険生物が存在しているとなると、森の奥へと進んだらどんな魔物が潜んでいるかわかったものではない。

「とりあえず、ここまでは大丈夫そうですし、ゆっくり広げていくしかないですね」

 たいした範囲内を調査したわけではないが、ここまでの地域内の魔物はなんとかなりそうだ。

 もちろんオーガなんて魔物がまた出ないとも限らないが、開拓を進める範囲としてこの洞窟を目安にしていいかもしれない。

「帰っておやっさんに報告しようぜ」

「ハイ!」

 開拓をするにしてもみんなの協力がないと、レオのスキルだけでは難しい。

 それに、戻ってみんなに無事討伐が終了したことを伝えて安心させたい。

 オーガもゴブリン同様たいして素材として採取できる部分はないが、大きめの魔石と角が高値で売れるらしいため採取した。

 そして、ロイたちによって集められたゴブリンの死体の焼却を済ませたレオたちは、拠点に帰ることにした。

 ゴブリン討伐を成功させ、無事に帰ったことでレオたちはみんなに喜ばれた。

 まさかのオーガの出現にみんなも驚いていたが、弱っていたので倒せたということを言うと、みんな安堵していた。


◆◆◆◆◆


 討伐から二日後、いつものようにアルヴァロが島へ来てくれた。

「だから魔石が大量にあるんですね?」

「そうなんです」

 魔物の討伐をすることになった経緯と、結果がどうなったかを説明し、アルヴァロは魔石の山を見て納得した。

 前回はガイオたちが住むことになって驚いていたが、今回はオーガを倒したということに驚いていた。

「坊ちゃんには毎回驚かされますね……」

 どんな魔物の魔石でも需要はあるので大量に手に入るのはありがたいが、オーガを相手にするなんて無謀もいいところだ。

 島には海賊狩りをしていた戦闘自慢もいるという話を聞いていたが、そんなことになるならレオには参加しないでほしかった。

「開拓を前進させるために防壁の製作を始めました」

「そうですか!」

 ロイたち木製人形を増やして防御機能を強化するという手もあるが、それでも守り切れない場所が出てくるかもしれない。

 ドナートたちもいることだしなんとかなるとは思うが、危険なことには変わりはない。

 そのため、防壁を造って簡単に魔物が侵入してこないようにすれば、異変が起きてもロイたちが対応できると思い、防壁の製作を始めることにした。

 少しでも開拓が進めば人を増やしても大丈夫になり、人が増えれば開拓の速度も上げられる。

 この島の開拓が進み、国にそれが認められれば、レオが貴族に戻ることができるようになるかもしれない。

 ディステ家の仕打ちをレオから聞いて知っているアルヴァロからすると、ざまあと言いたくなる。

 それもまだ先のことになるだろうが、レオに期待しているアルヴァロからすると開拓が進むのは嬉しいことだ。

「そう言えば、ディステ領のことですが……」

「何かありましたか?」

 レオが順調に進めていることに安心したアルヴァロは、話していた時にふとディステ家のことを思い出した。

 父であるカロージェロの領主としての能力は、はっきり言ってレオにはわからない。

 領主邸から外に出たこともないので、領内の経営状況とかもまったく知らない。

 しかし、ギルドに見放されたなんて言われると、何をしているんだという気持ちになる。

 ガイオたちからギルドに見放されたとかいう話を聞いていたが、それ以外にまた何かあったということだろうか。

「領内から全ギルドが撤退して、魔物の討伐を専門にする傭兵を雇うようになったって聞きましたが?」

「えぇ」

 父のカロージェロは、領内で大量発生した魔物の討伐の関係でそこを統括しているギルマスと揉め、領内からギルドが撤退するということになったらしい。

 冒険者たちを統括し、魔物を狩ってくれるギルドは、領を経営するのにかなり役に立つと思える。

 こっちは何もしないでも魔物を調整してくれるのだから、平民からしてみれば暮らしを安心させてくれる存在ともいえる。

 危険な魔物などが出現した時は領主側が資金を出さなくてはならないだろうが、そんな非常時に対応するために常時傭兵を雇っているのは経済的には非効率だ。

 ギルドがなければ冒険者もいなくなってしまうだろうし、それで領内の安全を維持できるのだろうか。

「それによって冒険者もいなくなって、さらには住民も減っていっているようですよ」

「……そうですか」

 アルヴァロの言葉に、自分の故郷のことを知ったレオは複雑な思いをしていた。

 案の定、ギルドがなくなったことによる問題が増えているようだ。


◆◆◆◆◆


「また町中で揉めごとを起こしただと!?

「はい……」

 執務室で書類に目を通していたディステ領の領主であるカロージェロは、報告に来た執事に対し怒りをあらわにする。

 最近はほぼ毎日のように上がってくる報告で、いい加減我慢しきれなくなったのだ。

「いつものように傭兵と領兵がケンカを始めてしまいまして……」

「くそっ!! どいつもこいつも……」

 ギルドが急にいなくなってしまった代わりに最近雇うようになった傭兵と、有事の際にカロージェロの命令によって動く軍の領兵が、些細なことで揉めてケンカに発展することが頻発している。

 それが何度も起きているせいで、カロージェロは無駄な書類仕事が増えて時間を割かなくてはならなくなっている。

 腹を立てるのももっともと言いたいところだが、ギルドが出ていく原因はカロージェロにある。

 カロージェロは怒りで顔を真っ赤にしているが、こんなことになるならばギルドを残すように動けばよかったのではないかと、執事の男は思わずにはいられない。

「……っで? 揉め事を起こした奴らはどうしている?」

「いつも通り頭を冷やすまで別々の牢に入れております」

「まったく、治安を守る者がそれを乱しおって……」

 どちらの兵も、この領内を守るために雇われている存在だ。

 領兵は有事の際に出動するために訓練を重ねると共に、治安維持のために町中のパトロールを行い、警察の仕事と兼任している。

 最近雇うようになった傭兵は、町に魔物が侵入して来ないように周辺の魔物を駆除するのが仕事になっている。

 同じ兵でも仕事としては分かれており、揉めるようなことはないと思っていたのだが、最初は何もなかったのにしだいに揉めるようになってきた。

「領兵の奴らは安全な所でヌクヌクしていて楽な仕事だな!?

「アンデッドの魔物に苦戦したって話だし、訓練が足んねえんじゃねえか!?

 酔った傭兵たちが吐き捨てたこの会話が伝え広がり、それを聞いた領兵の者たちは頭にきた。

 以前起きたアンデッドの討伐で苦戦したのは事実だが、それは数が多かったからだ。

 事情も知らずに好き勝手言われると腹が立つのも仕方がない。

 だが、それでケンカを仕掛けるほど領兵たちは短気ではなかったが、一部の新人はそうではなかった。

 この言葉による怒りがずっと胸の中でくすぶっていた新人が、休日たまたま傭兵たちと酒場で出くわしてしまい、その新人領兵がいると知らなかった傭兵たちがまた愚痴るように先程の言葉を話していたのがきっかけになってしまった。

「お前ら! 調子に乗るなよ!」

「なんだ!? 青臭えガキが何なめた口きいてんだ!?

 くすぶっていた怒りが再燃し、新人の領兵は忠告の意味で傭兵たちへ文句を言っただけだった。

 しかし、我慢をする気のない傭兵たちはすぐさま怒りで立ち上がり、その新人を店の裏へ連れていき、袋叩きにしたのだった。

 傭兵の彼らとしても愚痴っていたのには理由がある。

 魔物を狩る仕事をしている彼らは、毎日危険がつきまとっている。

 ただ、魔物を狩るだけでなく、魔石などの素材を手に入れ、それを御用達の商店へ納品する。

 それが町に広がっていくため、自分たちが町を救っていると自負している。

 しかし、魔物の素材を売っても、冒険者のようにその代金が個人の懐に入るわけではない。

 傭兵が持ち込んだ素材の売れた代金は、領の資金として使われることになるため、傭兵たちはなんの得にもならないことになっている。

 毎日危険と隣り合わせの思いをして町に貢献しているのに、領兵よりも給金が低く、倒した魔物から得た素材を売買した資金も手に入らない。

 それなのに、領兵は外よりも安全な町中で治安維持しかしていないという境遇に、納得できない思いが募っていったため、愚痴が出てしまったのだ。

 仲間をやられれば我慢をしているつもりもなく、領兵たちも傭兵たちににらみを利かすようになり、傭兵の者が町中で少しでも市民に迷惑をかけようものなら、すぐさま捕まえて罰金刑にするようになった。

 そうなれば、当然傭兵たちは腹を立てる。

 休みの日の領兵を見つけてはちょっかいをかけ、集団で暴行するという報復に出るようになった。

 やられたらどちらもやり返すが続いているため、カロージェロを悩ませていた。

「くそっ!! 領民の流出も続いているし、なんでこうも問題ごとが続くんだ!!

 カロージェロの悩みの種はもうひとつある。

 ギルドがなくなってから領民が少しずつ他領へと流出しているのだ。

 そして、兵同士の揉めごとが起きてから、さらにその勢いが増しているため、このままでは税収も減っていく一方だ。

 傭兵を雇うのにも資金を使っているというのに、税収が減っては傭兵の維持ができなくなる。

 まるで負の連鎖が続くかのようだ。

「ギルドがなくなったことにより、冒険者関連の市民がついていっているようです」

「またもギルドのせいか!?

 ギルドがなくなり、冒険者たちもほかへと移っていった。

 その冒険者たちを相手に商売していた者やその家族が、冒険者を追って他領へと移るという選択をしたのだ。

 それもそのうち収まるものだと思っていたが、兵同士のいざこざでいまだに市民の流出が続いている。

 市民からしたら、ギルドがなくなって不安に思っていた部分が強い。

 冒険者を追っていった者たちの知り合いは、自分たちもこのままでいるべきなのか考えた。

 領主が冒険者の代わりに傭兵を雇うようになったが、その傭兵が領兵と揉め始めたため、ここから出ていくということを決めたのだ。

 ギルドがなくなったことによる影響だとわかり、カロージェロとしては不愉快なこと極まりない。

 しかし、どうすることもできないので、机を叩いて気を紛らわせるしかなかった。

「ええい! 他領へと続く道に関所を作れ! 他領へ移り住もうとする者は引っ捕えろ!!

「しかし、そんなことをしたら……」

 他領へ移り住む者が多いのであるならば、力ずくで止めてしまえばいい。

 そう思っての考えなのだろうが、執事の男からするとそんなことをしたら余計に市民に不評を買うのが目に見えている。

 そうなれば、ますます市民の流出が止められなくなってしまうかもしれない。

 それよりも、問題の始めとなったギルドを再開してもらうように動いたほうが、元の安定した領地に戻せる気がしている。

 しかし、カロージェロの性格上そんなことは絶対にしたくないだろう。

 改善策がない状況に、執事の男も頭を抱えたくなる思いだ。

「邸の使用人も数人いなくなっているのだぞ! 管理を怠ったくせに意見する気か!?

「……いいえ、そのように手配いたします」

 カロージェロの言うように、市民流出問題はこの邸にも起きていた。

 数人の使用人がいつの間にか姿を消したのだ。

 捜索を指示した結果、他領へ向かうのを目撃したという報告が入った。

 彼らはいち早くこの家に見切りをつけたということだろう。

 いなくなってしまったのは、別に執事の男のせいではないと思うが、カロージェロとしては彼のせいにすることでしか怒りが抑えきれなかった。

 腹を立てている時のカロージェロには、何を言っても無駄だというのはわかっている。

 それに、これ以上何か言って不敬罪にでもされたら面倒だ。

 そのため、執事の男はカロージェロの言葉に頷くことしかできなかった。

「失礼します!」

 指示を受けたのなら実行に移すために動かなければならないため、執事の男は頭を下げて部屋から退室していった。

「この領は大丈夫だろうか……」

 カロージェロから指示を受けて部屋を出た執事の男は、どう考えてもうまくいかなくなる未来しか見えないため、廊下を歩きながら思わず愚痴が出てしまう。

 ギルドがなくなったことのツケがこのように回ってくるとは、彼自身も思ってもみなかった。

「ベンの奴はうまくやったな……」

 邸からいなくなった使用人たちの中には、レオの世話をしていた者たちもいる。

 特に彼からすると、同じ執事としてこの家に仕えていたベンヴェヌートがいなくなったことが意外だった。

 早々にこの家から出ていったベンヴェヌートに、彼としては恨みよりもうらやましさを感じる。

 彼自身も出ていきたいと思い始めているからかもしれない。

「もう少し様子を見るか……」

 出ていくにしても、一応は恩ある身。

 ベンヴェヌートのように出ていきたい気持ちもあるが、彼はもう少し様子を見ることにしたのだった。


◆◆◆◆◆


「トマトがいっぱい採れたね」

「ニャ~!」

 いつものように畑仕事に精を出すレオ。

 近くには闇猫のクオーレがついて来ている。

 少しの範囲であるが、人の暮らす範囲を広げるように防壁を造ることを開始した。

 とは言っても、それはレオが新たに作った人形たちが担当しているので、レオとしてはこれまでとは特に生活は変わっていない。

 住民のための家の建設もほかのみんなで協力しているし、布人形たちが分散して細工することで速いペースで進んでいっている。

 人形ばかり動かしてレオは何もしていないというわけではなく、畑を広げることを担当している。

 住民も増えたし、アルヴァロに頼んで種を手に入れ、野菜の種類を増やしている。

 新たに広げた畑にはまだ芽が出たばかりだが、もともとひとりにしては大きめに作ってしまった畑には、トマトの実がたくさんなっていた。

 レオが好きな野菜だからといっても、植えすぎたために余ってしまいそうになるほどだ。

 トマトが大量に採れたことを喜ぶレオに、クオーレも楽しそうだ。

「お昼はトマトを使ったパスタにしよう!」

「フフ、レオさんは料理が好きですね?」

 トマトを見てなんの料理を作ろうかと考えていると、一緒に野菜の収穫をしていたエレナが、そんなレオを見ておかしそうに笑みを浮かべながら問いかけてきた。

 貴族でお嬢様育ちのエレナに、何か仕事を頼むのは気が引けていたのだが、畑仕事をずっとやってみたかったと言われて、手伝ってもらうようになっていた。

 虫におびえるところはあるが、本人も楽しそうだし、レオとしてはかなり助かっている。

「料理も楽しいよ」

「そうですか? 今度教えてもらおうかしら……」

「いいよ」

 料理の楽しさは家を出てから知ったため、レオの調理の腕はそこまでうまいわけではない。

 だが、いろいろな調理法を知っているお陰でバリエーションは豊富だ。

 エレナについてきた料理担当の使用人もいることからたまにしか料理をしなくなったが、やっぱり料理をするのは楽しい。

 レオの気持ちが伝わったのか、エレナも料理をやってみたくなってきたようだ。

 趣味仲間を増やすことができそうな雰囲気に、レオも嬉しそうに調理指導を了承した。

「レオ殿、収穫終わりました!」

「……速いですね。セバスさん」

「恐縮です!」

 レオとエレナが楽しそうに話しながら収穫をしていると、セバスティアーノが籠いっぱいの野菜を持って現れた。

 収穫する範囲がかなりあったのにもかかわらず、あまりの手際のよさにレオは驚いた。

 レオの能力や人となりを知って、エレナと少し仲良くなったからか、セバスティアーノからセバスと呼ぶように言われた。

 有能な人のようなのはなんとなくわかっていたのだが、いろいろ優秀すぎる気がする。

「はい! 魔物のお肉にトマトを使ったミートソースパスタだよ!」

 トマトの料理と言ってレオが最初に思いついたのが、シンプルだがとても美味しいミートソースパスタだ。

 レオの好物でもあり、結構頻繁に作るため、一番自信がある料理かもしれない。

 魔物の肉はロイたちが狩ってくれるので売るほど余っている。

 そのため、結構多めに入れている。

「エレナにも手伝ってもらって、サラダとトマトスープも作ってみた」

 みんなに説明するように、レオはサラダと収穫したばかりのトマトの汁で数種類の野菜を煮込んだスープも出す。

 早速料理を手伝ってもらうことにしたレオは、エレナにサラダを作ることを頼んだ。

 野菜をざっと切るだけなので、最初の料理にするには安全だと思ったためだ。

「手伝ったと言っても、ちぎって盛りつけただけですが……」

 自分が作ったとちょっと言いにくいせいか、エレナは少し照れ臭そうだ。

「おぉ! なかなか美味いな……」

「美味え! けど肉がもっと欲しい!」

「肉が食いたいだけだろ?」

 レオとエレナの料理はみんなに好評なようだ。

 ガイオの船に乗って来たのは海賊狩りの船員と家族、それとエレナについてきた使用人とその家族だ。

 いつまでもみんな一緒の場所で暮らすのも気が休まらないかもしれないので、それぞれの家庭用に家を建てている。

 それまでの間にと建てた大きな建物は、食堂として使用中だ。

 みんなで食べるのが楽しいということもあって、自然とこのような感じになっている。

「美味しいです!」

「それはよかった」

 エレナにも喜んでもらえ、レオとしても作った甲斐がある。

 みんなとの食事は、レオにはまだ新鮮に思える。

 そのせいか、自分で作った料理が前よりも美味しく感じる。

「美味しいものが食べられるってことは大事なことだよ。僕は昔病弱だったからね」

「そうなのですか?」

 レオがどういう経緯でこの島で領主をしているのかは、住民のみんなには話していない。

 別に隠しているつもりはないので、レオは昔のことを話すことにした。

「そのせいで家から追い出されたんだけど……」

「そうですか……」

 病弱で役に立たないと判断され、父や兄に邪魔者扱いされるようにこの島へ来たことを伝えると、聞いていたみんなは少し表情を暗くした。

 こんな危険な地へ送られれば、もしもレオにスキルがなかったら初日のうちに死んでいたことだろう。

 つまりはそうなってもいいという思惑からここへ送ったことになるため、みんなのディステ家への不信感は強くなった。

「でも、今は健康そうですけど?」

「うん。スキルを手に入れてからちょっとずつよくなったんだ」

 暗くなりかけた空気を戻そうと、エレナは話を少し変えることにした。

 レオとしても、そのほうがいいと思いその話題に乗ることにした。

「魔物を倒すと能力が上がるって説があるでしょ?」

「えぇ、証明されていませんが……」

 どうやらエレナも同じ説を知っていたらしく、レオの言葉に首を傾げる。

 やはりこの説は立証されていないため、噂の域を出ていないようだ。

「僕が証明になると思うよ。密かにロイに魔物の退治をさせていたら体調が改善されたから」

「へぇ~……、おもしろいなそれ!」

 レオの話に、エレナでなくガイオのほうが強く反応した。

 病弱だったのに、魔物を倒しただけでどうして健康になれたのかはわからないが、それ以外にレオが健康になった理由は思いつかない。

 スキルを手に入れたからという考えもできるが、ロイに密かに魔物退治に行かせてからよくなったという自覚があるため、レオとしてはこの説が正しいと確信している。

 ここの開拓を進めるには脅威となる、未知の魔物がまだ潜んでいるかもしれない。

 その時のために、ガイオは足が治ったら訓練代わりにロイたちと共に周辺の魔物退治に向かうことを予定している。

 レオが言うように魔物を倒していれば強くなれるなら、一石二鳥だと思ったのだろう。


◆◆◆◆◆


「フンッ! フンッ!」

 いつもの早朝、レオは木剣を振って汗を流していた。

 昔のように寝込むことがなくなってからは、健康のためにも体を鍛えようと思い、この島に来てから始めた習慣だ。

「精が出るな……」

「あっ! すいませんガイオさん。うるさかったですか?」

 素振りをしていたら、レオのもとへガイオが杖を突きつつやって来た。

 怪我をしているので、もしも困ったことがあった時のためにレオの家で一緒に暮らしているのだが、もしかしたら素振りをしている音が気になったのかと思い、レオは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いや、気にしなくていい。寝てばかりでは暇で仕方がないからな」

 左脚のけいこつ(すねの内側の骨)を骨折してしまい、骨がつくまでおとなしくしていなくてはならないため、ずっと座りっぱなしの日々にガイオもいい加減飽きてきていた。

 そのため、少し早く起きてしまったらちょうどレオが素振りをしている音に気がついたのだ。

「剣の練習をしていたのか?」

「はい! そうだ! ガイオさんは剣が得意だって聞いたのですが?」

「ドナートたちから聞いたのか?」

「はい!」

 ガイオの問いかけに対し、レオはあることを思い出した。

 誰に聞いたのかをすぐに察したガイオが質問すると、予想通りの答えが返ってきた。

「よかったら、指導してもらえませんか?」

「別にいいが、教えるなんてしたことないな。型を見るくらいでいいか?」

「はい!」

 エレナの祖父のフラヴィオに拾われ、セバスティアーノと共に武術の訓練を施されたこともあり、剣術の型はひと通り学んでいるが、そこからはガイオが独学に近い形で鍛えてきたため、人に教えるというのはしたことがない。

 できることと言ったら、基本の型を見てやることぐらいのものだ。

 ガイオから了承を得たレオは、木剣を構えて素振りを見てもらうことにした。


「フンッ! フンッ!」

「………………」

 木剣を振って、レオはガイオへいろいろな型を見せる。

 その様子を、ガイオは黙って見ているだけだった。

「……自分ひとりで練習していたのか?」

「えぇ」

 ひと通り型を見せて軽く息を切らしているレオへ、黙っていたガイオが問いかける。

 その問いには、若干不思議そうなニュアンスを含んでいるように思える。

「う~ん」

「あの……、どこか悪いでしょうか?」

 レオの答えに対し、ガイオは顎に手を当てて考え込むような声を漏らした。

 その反応を見て、自分の剣の腕がよくないのかと判断したレオは、不安そうに問いかける。

「いや、悪くない。ひとりでやっていた割には基本の型がまあまあできているのが不思議なだけだ」

 レオに勘違いさせてしまったようなので、ガイオはすぐにそれを否定する。

 ガイオが悩むような声を出したのは、完全独学と言っている割には、自分勝手に振り回すようなわけでもなく、レオの剣にはちゃんと型ができているような気がしたからだ。

 少しでも誰かに指導を受けていないと、このように振れるようになるとは思わないため、レオが嘘を言っているのではないかと思えてくる。

「何かいろいろ混じっているようでもあるが……」

「僕は昔病弱だったので、本はたくさん読みました。その中にはこの国や他国の剣術の本もあったので、それが混じっているということだと思います」

「それを覚えていたとしても、そう簡単にできると思えないんだが……」

 レオはこの国の剣術を元にして、他国の剣術も取り入れた型を練習している。

 それがガイオの言う、混じっているという感想なのだろう。

 確かにそう言われれば、見たことある他国の剣術が混じっていたように思える。

 しかし、本でいろいろと学んだからといって、それができるようになるかといったらそうではない。

 他流の剣術を取り入れるというのは、ある程度自分の剣が確立した者がやるようなことだ。

 それを、本を見ただけで行い、ちゃんと型になっているというのがガイオとしてはなんとなく納得できない。

「教えることはないかもな……」

「えぇ?」

「ちゃんと型になっているからそのままでいいということだ」

「な、なんだ……」

 せっかく人に教えてもらえるようになったというのにもうさじを投げられたと、レオはショックを受けたように驚いた。

 素人考えでほかの剣術を混ぜたのは間違いだったと後悔し始めるレオに、ガイオはすぐ訂正を入れる。

 まだたいした期間訓練したわけではないが、一生懸命にやってきたことが無駄にならなくて安心したレオは、一気に肩の力が抜けた。

「あとは実戦だな……、よしっ、かかってこい!」

「えっ!?

 近くに落ちていた手頃な棒を拾い、杖を突いてレオの前に立ったガイオは、まさかの発言をしてきた。

 強いのはなんとなくわかるが、稽古をつけてもらうにしてもガイオは骨折している身。

 まだちゃんと骨もついていないのに、打ち込むにはレオとしては気が引ける。

「大丈夫だ。俺はここから動かない」

「……わ、わかりました!」

 動かないと言われても、踏ん張りが利かないのではないかと思える。

 そんな状態の人間相手に打ち込めるほど、レオはまだ強い心を持っていない。

 しかし、自信ありげなガイオに、そこまで実力差があるのかという思いから試してみることにした。

〝バッ!!

「おっ! 思ったよりも速いな」

「っ!!

 木剣を構えて一気に接近し、レオはガイオへ木剣を上段から振り下ろす。

 全力とまではいかないまでも結構な力を込めた一撃だが、片手に棒を持つガイオにあっさりと防がれる。

 背も高く、比較的ガッシリした体格のガイオから受ける印象としては、力強い豪剣という思いがしていたのだが、止められた時の感触は柔らかいものを叩いたような感じだ。