その言葉に反応した若い男性は、近寄ってきてレオの頭をグリグリと撫で回した。

 それが、少々手荒なため、レオは思わず小さな声を漏らした。

「ここから少し行った所に僕の家がありまして、ガイオさんはそこで安静にしてもらっています」

「お前の家?」

「ここはヴェントレ島ではないのか?」

 家という単語を聞いて、若い男性のふたりは聞き間違いかと首を傾げた。

 この島のことは知っている。

 何度か近くを通ったこともあるし、少しの時間の休憩として立ち寄ったことはある。

 魔物が多いことで有名なヴェントレ島のはずだ。

 こんな場所に住んでいるなんて命知らずもいいところだ。

「えぇ、ここはヴェントレ島ですよ」

「なんで……?」

 質問に答えるレオだが、その答えにさらに疑問がでる。

 そのため、女の子をレオから少し下がらせた女性が問いかける。

 子供がそもそもこの島にいることがおかしいからだ。

「申し遅れました。ここの島の領主をしているレオポルドと申します」

「りょっ!? 失礼しました!」

 作業用のつなぎを着て、童顔をしているから気づかないのも仕方がない。

 彼らでなくても、このレオが領主だなんてわかるはずがない。

 領主と聞いた彼らは、慌てて膝をついて頭を下げた。

「あぁ……、かしこまらなくていいですよ。領主と言っても貴族ではないですし、ここには僕しか住んでいませんから……」

「……ありがとうございます」

 領主であるのに貴族でないのはまだわかる。

 小さな村だったり、国への税があまり見込めない土地の領主は貴族を送ったりしない場合があるからだ。

 しかし、だからと言ってまだ疑問は残る。

 貴族でない領主の場合、市民の代表がそのまま領主とされることが多い。

 そうなると、人生経験のある年齢の高い者がなることが多いが、レオはどう見ても成人して間もない少年。

 その疑問に目をつむっても、人もいない所の領主をさせるなんてどう考えてもおかしい。

「申し遅れました。私はエレナと申します」

「ドナートだ!」

「ヴィート!」

「イメルダよ!」

「セバスティアーノと申します」

 レオの疑問は残るが、こちらはまだ名乗りもしていない。

 そのことに気づいたエレナという女の子が、すぐさまレオへ自己紹介をした。

 それにならい、ドナートというボサボサ頭の若い男性、そのドナートに似たヴィートという男性、エレナの前に立つイメルダという女性、エレナの背後に立つガイオと近い年齢をしているセバスティアーノという男性が、順に名乗った。

 あとで知ることになったが、ドナートとヴィートは兄弟らしい。

「ガイオさんの所へ向かいましょうか?」

「はい!」

 レオの言葉に、エレナが特に強く返事をする。

 姿を見て確認したいだろうし、ここにいつまでもいても仕方がない。

 そのため、レオはみんなを連れて自宅へ向けて歩き始めた。


「ガイオ!!

「エレナ……」

 レオの家に着くと、みんなガイオの無事な姿に笑みを浮かべた。

 特にエレナは嬉しそうに抱きついた。

 ガイオもみんなが迎えに来てくれたことが嬉しそうだ。

「ごめんなさい。私のために……」

「気にするな。お前が無事でよかった」

 なんだかいろいろ事情があるようなので、彼らが再会している間、レオはクオーレと共に外で待機していることにした。

 レオがみんなを連れて来た時、闇猫のクオーレを見たドナートとヴィートは、腰に差しているナイフに手をかけた。

 しかし、すぐにレオが自分の従魔だと言ったことで、なんとか収めることができた。

 レオがクオーレを撫でる姿を見て、エレナもなんとなく触りたそうにしていたが、みんなに止められていた。

「ガイオ……落ちそうになったお嬢様を救ってくれた礼を言う。ありがとう!」

「気にするな。俺が勝手にやったことだ」

 確かに台風の波によって船は大きく揺れていたが、ガイオは経験上しのぎきれると思っていた。

 しかし、エレナはそうはいかず、波を受けた揺れで船から落ちそうになった。

 そんなエレナを救い、代わりにガイオが海へと落ちてしまったのだ。

 助けたガイオに、セバスティアーノは感謝の言葉と共に頭を下げる。

 昔からの友人に頭を下げられたガイオは、照れくさそうに返事をした。

「それにしても、さすがおやっさん! あの波にのまれた時にはどうなることかと思ったぜ!」

「あぁ、まさか骨折だけで済むなんて……」

 大荒れした波にのみ込まれ、もしかしたらと最悪のことも予想していたが。

 元気そうなガイオの姿を見て、ドナートとヴィートは骨折で済んだガイオの強さに改めて感心した。

「いや、本気で死ぬと思った。レオポルド殿のお陰だ」

 死なずにこの島の海岸に流れ着いたのは確かに自分が頑丈だったともいえるが、そこで放っておかれていたら確実に死んでいた。

 ガイオとしては、レオに命を救ってもらったという思いが強い。

「あのボウズは本当にここで暮らしているみたいっすね?」

 大きいとは口が裂けても言えないが、暮らす分には十分な設備が整っている。

 家の中を見渡したドナートは、レオの話へとシフトした。

 この家を見る限り、魔物のそうくつの島の領主をしているというのは嘘ではないようだ。

「それに、闇猫を従魔にしているとは言っても、とてもあの子が戦えるようには見えませんね?」

 ヴィートもレオのことが気になっていたので、ドナートの意見にプラスするように疑問を口にした。

 魔物がばっする島に住んでいるとなると、たとえ弱い魔物だとしても闇猫だけで凌げるとは思えない。

 だからと言って、レオ自身が戦えるように見えないため、どうやって生き残っているのかわからない。

「……何か特別なスキルでもあるのかもな」

 ふたりの疑問にはガイオも考えさせられていた。

 レオは、ここは島でも弱い魔物しか出ないと言っていたが、つまりは弱い魔物なら出るということだ。

 だが、レオはふたりの言うように戦えるように見えない。

 顔も色白だし、成人したばかりの貴族の子という印象が浮かんでくる。

 何があったのかはわからないが、もしかしたら何かあっても構わないという思いでここに送られたのではないかと想像できる。

 それに反してこのような家を作って暮らしているということは、何かしらの力がないと不可能に思えた。

「レオポルドさんには改めてお礼を言うことにして、せんさくはやめておきましょう」

「ですね。こちらも探られたくありませんから……」

 エレナも何故レオがここで暮らしているのかいろいろと気になる。

 きっと何か理由があるのだろう。

 それを聞いて答えを得て、逆に自分たちのことを彼に聞かれた場合、答えないわけにはいかなくなる。

 しかし、自分たちにもいろいろと事情があるので、余計なことを聞くのはよくない。

 そのことをエレナが言うと、セバスティアーノがそれに賛成するように言葉を述べた。

「失礼します。お聞きしたいのですが、船にはまだ乗っている方がいますよね?」

「えっ? えぇ……」

「もしよかったら、皆さんも呼んできたらいかがですか? 食事も用意しますし……」

 少し時間が経ち、もういい頃合いだろうと、レオはノックをして家の中に入る。

 エレナたちの乗ってきた船は結構な大きさだったし、まだ船員がいるはずだ。

 時間的にも日が暮れ始める頃だし、レオはその船員たちにも船から下りてもらい、今日はゆっくり休んでいってもらおうと考えた。

「……よろしいのですか?」

「えぇ!」

 確かに、今から出発するとすぐに夜になってしまう。

 一泊くらいなら魔物も出ないかもしれないし、出ても多くの人間がいれば対処できる。

 そのため、ガイオがためらいつつ尋ねると、レオは大きく頷きを返した。

 その言葉に甘えることにした彼らは、少し沖に停泊している船へと仲間を呼びに行ったのだった。


◆◆◆◆◆


「大勢でお世話になって申し訳ありません」

「気にしないでください」

 結局、レオは船に乗っていたガイオの仲間のほとんどを家に呼ぶことになった。

 海上に停泊しているので、念のため数人残してきたようだが、その者たちも合わせて、二十五人の男女が乗っていたらしい。

 みんなガイオが無事だったことを喜んでいて、中には涙ぐんでいる者までいた。

 招いておいてなんだが、さすがに全員に家で寝てもらうことはできないので、近くにテントを張って休んでもらうことになった。

 船はガイオが船長をしていたらしく、代表して改めて感謝されたが、レオは「僕も楽しいので気にしないでください」と、笑顔で答えた。

「食料は結構貯め込んでいるので、食事の用意を始めますね」

「ありがとうございます」

 足以外は大丈夫なガイオには、外に出した椅子に座って仲間と会話でもしていてもらうことにした。

 そして、レオは来訪者に料理を振る舞おうと、夕飯の準備を始めることにした。

「鍋や食器などはこちらが用意しますのでお使いください」

「ありがとうございます」

 船の中にいる女性が調理しているのかと思ったが、ちゃんと調理担当の人がいるらしく、レオはその人たちと下ごしらえを始めた。

 よく考えたらかまどは簡易的に作れるものの、食材を調理する鍋などがなかった。

 しかし、船には当然人数分の調理器具や食器などがあるので、それを使わせてもらうことにした。

「私も何かお手伝いしますか?」

「大丈夫ですよ。調理の方たちにも手伝っていただいていますし」

 何もしないでいるのが落ち着かないのか、エレナはレオのもとへ来て協力を進言してきた。

 しかし、充分手は足りているため、レオはそれを断った。

「そうだ! もしよかったらクオーレの相手をしてあげてください」

 ほかは大人ばかりで、何もすることがなくて暇なのかもしれないと思ったレオは、クオーレを紹介した時エレナが触りたそうにしていたのを思い出した。

 あの時は闇猫に近づくのを危険と判断したほかの仲間に止められていたが、家の側でずっとおとなしくしている姿を見てみんなの警戒も薄れている。

 今なら別に止められないだろうと思い、クオーレを触らせてあげようと考えたのだ。

「えっ? よろしいのですか?」

「……はい」

「では! 失礼します!」

 クオーレに触ってもいいということを告げると、エレナは目を輝かせ、かなりテンションが上がったように声が高くなった。

 あまりの変化に、レオは『そんなに触りたかったの?』と強く思った。

 そのせいで返事に少し間が空いてしまったが、触れるとわかったエレナは、ひと言レオへ告げるとすぐにクオーレの所へ向かって行ってしまった。

「……触ってもいいでしょうか?」

「………………」

 了承を得たエレナは、家の玄関の近くでおとなしく座ってレオを見ているクオーレに話しかける。

 クオーレはそんなエレナに顔を向けたが、すぐにまたレオへ顔を戻してしまった。

「エレナ様……」

「大丈夫です。ご主人のレオさんが勧めてくれたのですから」

 どういう関係だかはわからないが、エレナの側にはいつもセバスティアーノがついているように思える。

 そのセバスティアーノは、クオーレがエレナに攻撃しないかまだ心配している表情をしている。

 それがわかっているエレナは、止めようか悩んでいるセバスティアーノを制止した。

「…………」

 ふたりのやり取りなんて興味がないようにしているクオーレへ、エレナはゆっくりと手を伸ばす。

 これだけ近くにいるのに何もしてこないということは、クオーレが襲ってくることはないだろうとわかってはいても、やはりまだ安心できていないようだ。

 少し時間をかけ、ゆっくりと伸ばした手がクオーレの背中に触れた。

「……うわ~! ふわふわです~!」

 触れても反応しないことを確認したエレナは、ゆっくりクオーレを撫で始めた。

 すると、よほどその触り心地がよかったのか、エレナはとても嬉しそうに微笑んだ。

「大丈夫そうですね……」

 セバスティアーノは、撫で回されてもクオーレがエレナを襲わないようなので安心した。

 というより、エレナにされるがままといった感じだ。

 エレナが久しぶりに嬉しそうにしている姿が見え、セバスティアーノは心が軽くなった思いからひと息吐いた。


◆◆◆◆◆


「どうぞ! できあがった料理を持っていってください!」

「「「「「おぉ!!」」」」」

 日も暮れて暗くなった頃、レオの手料理が完成した。

 しかし、暗くなったといっても多くの人間がいるために、家の周りはたきが灯り代わりになってかなり明るい。

 みんな魔物が襲ってくることへの警戒をしつつ、釣竿や武器の手入れをしていた。

 その作業も終わり、ちょうど手が空いた頃に夕食ができたことで、かなりテンションが高い。

 あっという間に料理を並べたテーブルに列ができてしまった。

「おぉ! うめえ!」

「あぁ!」

 特にレオのいるテーブルの近くにいたドナートとヴィートは、いち早く受け取り、食べ始めた。

 結局、料理と言っても肉や魚を中心とした料理になってしまったが、どうやらみんなの口に合ったらしく、満足してもらえたようでレオはひと安心した。

 毎日この人数の料理を作っているとなると、手伝ってくれた料理担当の人たちの大変さがうかがえた。

 レオがメインで料理をしていたことで、調理担当の人たちも楽ができたと感謝されたのは嬉しかった。

「レオポルド殿……」

「どうしました? ガイオさん、セバスティアーノさん」

 みんなが火を囲んで雑談している所で、レオが食事を取り終わった頃に、セバスティアーノの肩を借りたガイオがレオの席へ近寄ってきた。

「今回はありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」

「いいえ。数年ぶりに大勢で食事ができて僕も楽しかったです」

 ガイオを椅子に座らせたセバスティアーノは、レオに対して深く頭を下げてきた。

 それに対して返したレオの言葉は本心だ。

 実家にいた時、レオは母が生きていた子供の頃までしかほかの人間と食事をすることはなかった。

 それ以降は自室でひとりこもって食べることしかなかったため、多くの人と食事をするという感覚を久々に経験した。

 あまり関係がよくなかった父や兄たちと食事していた時よりも、今日のほうが楽しく食事ができたかもしれない。


「……やはり、何かしらの理由があるようですね……」

「えぇ、お互い様です……」

「……やはりわかりますか?」

 今日のわずかな時間だが、レオは彼らの関係が何かおかしいのはわかっていた。

 特に、みんながエレナの身を案じるような行動をひんぱんにしているのが気になる。

 しかし、それを聞くのはよくないだろうと、レオは気づいていない振りをしていた。

 だが、はしの利く者ならば、隠そうにもいろいろな対応で気づかれてしまうものだ。

 ひとりで建てたという家や、手入れされた畑の野菜、他国の料理法も知っているようだし、こんな所で無事に暮らしている人間の頭が悪いとは思えない。

 もしかしたらと思っていたが、やはりレオに気づかれていたことに、ガイオとセバスティアーノは表情が一瞬こわった。

「…………」「…………」

 レオの言葉に反応したふたりは目を合わせ、何かを決心したかのように無言で頷き合った。

 そして、セバスティアーノは椅子に座るレオの前に片膝をついた。

「レオ殿……」

「はい……」

 さっきのやり取りで何かを決心したのはレオにもわかった。

 その切羽詰まった様子から、まさか暗殺されるのではないかと頭をよぎったが、片膝をついているし、理由を知られる前に暗殺ということはないだろうと思いつつ、レオは若干緊張しながら真剣な表情で見上げてくるセバスティアーノへ目を向け、発言を待った。

「我々をここにおいてもらえないでしょうか?」

「…………えっ? おくというのは、ここに住むということでしょうか?」

「えぇ……」

 ガイオとセバスティアーノによるいきなりの提案に、レオは固まってしまう。

 彼らが何かを隠しているということは、やり取りを見ていてなんとなくだが察していた。

 しかし、レオとしてはそれを追求するつもりはなかった。

 どこかへ向かう予定のようだし、ガイオが大丈夫そうなら一、二日程度したら見送るつもりでいた。

「ダメだろうか?」

「どこか向かう予定だったのでは?」

 そのうち領民を迎えるつもりでいたが、家の周辺以外の開拓にはまったくと言っていいほど着手していない。

 弱いといっても、ここですら多くの魔物が寄って来るというのに、誰かを住まわせるというのはまだ不安が残る。

 それに、彼らはどこかへ向かう予定で台風に巻き込まれたと言っていた。

 それがどこかはわからないが、ここではないことは確実だ。

「我々はディステ領へ向かう予定でした」

「ディステ領……」

 彼らがどこかへ向かうにしてもまさかの行き先に、レオはわずかに眉を動かして反応してしまう。

 はっきり言って、レオからするとあまり聞きたくない領地名だ。

 父はこの島を与えることで自分との繋がりを切ったつもりなのだろうが、レオとしてもありがたいことだった。

 父は自分を部屋に閉じ込め、兄たちは顔を合わせればぞうごんを浴びせてきた。

 レオの中でも成人すれば関係を断ち切れると思っていたところで、島へ行くように命じられた。

 危険な島だという話だが、ここでの暮らしは思ったよりも快適だ。

 すぐに死ぬと思って送ったのなら、『予想がはずれて残念でしたね』と言いたいところだ。

「……それは何故?」

 彼らがディステ領へ行くとなると、何かしら関わりがあるのかもしれない。

 ディステ家の人間としては、行く理由が気になる。

「エレナ……お嬢様をお救いするためです」

「お嬢様……」

 周りの反応を見ていて、レオはエレナが普通の女の子だとは思っていなかった。

 バレないようにみんな呼び捨てにしていたが、お嬢様という言葉が出てやはりという思いがある。

 しかし、エレナを救うためというのは穏やかではない。

 どうやら思っていた以上に深い理由がありそうだ。

「エレナお嬢様はルイゼン伯爵家の前御当主の御子様です」

「南端の……?」

「左様です」

 ルイゼン領は、ヴァティーク王国の南端に位置する領地でフェリーラ領の南にある。

 北以外は周囲を海に囲まれており、水産物で生計を立てている領地だ。

 それ以外は特に変な噂はなく、領主の娘が逃げなきゃならないようなことはないはずだ。

「んっ? ?」

「はい。前領主である御父君が急死なさり、エレナ様が成人するまで叔父君が後見人をになうということになりました。しかし、御父君の死にはいささか疑問が残っておりまして……」

「もしかして……」

「えぇ、その叔父のムツィオが疑わしいのです」

 エレナと話した時、もうすぐ成人すると言っていた。

 レオが実家を出るまでルイゼン家の領主が亡くなったという話は聞いていないので、亡くなったのはごく最近ということになる。

 成人までの後見人をおくにしても、たった数ヶ月の誤差ならエレナに任せてしまっても構わないのではないだろうか。

 話の流れを聞いていると、なんとなく容疑者が予想できてきた。

 レオが考えた予想通り、セバスティアーノは答えを教えてくれた。

「後見人になってすぐ、ムツィオは領地の税を上げ、エレナ様がなるはずのルイゼン家次期当主を息子にすると言い出しました」

「最初からそれが狙いですかね?」

「おそらく……」

 エレナの父が亡くなったのがきっかけになったのかはわからないが、あまりにもあからさま過ぎる行いだ。

 後見人になったのはそのためだったというのが、誰の目にも明らかだ。

 そうなると、エレナの父の死も疑わしく思えるのも納得だ。

「死の真相はもはやわからず、このままではお嬢様に危険が及ぶと判断して海へ逃れました」

 亡くなってしばらくしてから疑い出しても、証拠も処理されてしまったのだろう。

 結局死の真相も掴めなかったようだ。

 疑惑が本当だとすると、エレナのことが気にかかる。

 ムツィオからするとエレナは邪魔な存在だ。

 どこかへ嫁に出すということも考えられたが、最悪の場合始末されるという可能性があったため、逃げるのは正しい選択だったかもしれない。

「何度か暗殺者を送ってきたことからも、ムツィオの犯行は確実だとは思いますが、その暗殺者も何も言わずに自決してしまい証拠にはなり得ず、仲のいいガイオに助けを求めて北へと向かうことにしました」

 ルイゼン領からだと、国内だとどこへ逃げるにしてもとりあえず北へ向かうしかない。

 しかし、陸路の場合、領境で待ち伏せすれば容易にばくが可能になる。

 そのため、ガイオの協力を得て海路で北へ向かうことにしたそうだ。

 そこへ行くまでも暗殺されかけたがセバスティアーノが返り討ちにし、なんとか海へ出たらしい。

 礼儀正しい中年の男性という印象で、とても戦闘が得意には見えないが、セバスティアーノはかなりの実力者のようだ。

「海へ逃れても追っ手が来ていたので、台風にわざと突っ込むようにしてなんとかくことができました」

「なるほど……」

 普通に逃げたのではいつまでも追ってくる。

 ならば、自然環境を利用して逃げるとは考えたものだが、台風に巻き込まれるなんてずいぶんと思い切ったことをしたものだ。

「俺が無様に海へ落っこっちまったがな……」

「それは、エレナ様を助けようとしたことだ。恥でもなんでもない」

 再会した時にレオがいない所でも話していたらしいのだが、このふたりのやり取りはレオにとっては初めて聞いたこと。

 台風に突っ込めるのだから、操舵技術が下手なわけがない。

 しかし、落ちたとなると何かしらのトラブルに遇ったのだと思ったが、ガイオの落ちた理由がこれで理解できた。

「行き先としていたディステ領も、もしかしたら気づかれているかもしれません。エレナ様には申し訳ありませんが、このまま死んだと思わせておくほうがいいかもしれません」

「確かにここにいるなんてわからないかもしれないですね……」

 生きていると知られると、追っ手を向けられる。

 ならば、死んだと思わせて、反撃の機会をうかがうという考えがガイオやセバスティアーノにはあるのかもしれない。

 ここに人が住んでいるなんて知っている人間もいないため、好都合なのかもしれない。

「もともとはディステ家の前当主とエレナ様の御爺様の仲がよかったので救いを求めるつもりでしたが、ディステ家も最近いい噂を聞かないですし……」

「ギルドに見捨てられた領地らしいからな……」

「へぇ~……、そうなんですか……」

 実家のことはもうどうでもいいし、そもそもここにいたら情報が入ってこない。

 そのため知らなかったが、どうやらディステ領も何か問題が起きているようだ。

 内心、『父上たちは何をしているんだ?』という思いがしないでもない。

「いかがでしょう? おいていただけないでしょうか?」

「いいですよ。縁もあるようですし……」

「縁?」

 もともと領地を開拓したら人を集めるつもりではいたが、そのうちという考えでしかなかった。

 この島のことを知っている人間なら、お金を出しても来てくれないだろう。

 それがあっさり解決できるのだから断る理由がない。

 話的に縁もあるし、レオはその頼みを受け入れることにした。

 レオのことをよく知らないふたりは、縁と言われて首を傾げる。

「僕の名前はレオポルド・ディ・ディステ。ディステ家の三男だった者です」

 縁の意味を話すために、レオは改めて自己紹介した。

 ワザと過去のことだということを強調して。