〝コクッ!〟
ロイの案内について行く途中、ゴブリンの死体が一体燃やされていた。
ゴブリンとは、人間の幼児と同じくらいの身長をした小鬼の魔物だ。
繁殖力が高く、世界中で生息を確認されている。
どうやらこの島にも生息しているようだ。
死体を見たレオは、ロイが攻撃を受けていないか心配になって問いかける。
それに対し、ロイは腰につけた剣を見せてきた。
剣で倒したと言いたいようだ。
死体を燃やしているのはアンデッド化を防ぐためだ。
動物の死体に魔素が溜まり、ゾンビやスケルトンになって襲ってくる可能性もあることから、倒した魔物や動物は焼却するのが常識になっているため、ロイも焼却したのだろう。
「魔石は?」
〝スッ!〟
レオに問われたロイは、腰につけていた小袋から小さな石を取り出し、レオへと手渡した。
魔石とは、魔物の体内に存在する魔力の詰まった石のことだ。
これが体内に留まることで、魔物へと変化するといわれている。
どうしてそれを取り出したかというと、魔石は魔道具を動かすための電池として使えるため、魔物を倒したら手に入れるようにしている。
魔物の強さによって魔石の大きさが変わり、大きい程魔力保有量が多いため高額で取引されている。
週一で安否確認に来てくれるアルヴァロへの代金代わりに、魔石を渡すのもいいかもしれない。
「うん! ここなら砂浜に近いしいいかもね」
砂浜から西へ二分、南へ三分ほど行った所に少し開けた場所が存在していた。
釣りをするなら砂浜まで五分程度で行けるし、なんといっても百八十度広がる海の景色はとても美しい。
ここが魔物の
「ありがとうね」
ここなら森から少し距離があるため、魔物が出現しても発見もしやすいし、逃げることもできるだろう。
いい場所を見つけてくれた感謝を込めて、レオはロイの頭を撫でてあげた。
顔のない人形だというのに、撫でられているロイはなんだか嬉しそうだ。
「じゃあ、ここに家を建てよう」
〝コクッ!〟
拠点となる場所が見つかったので、レオは早速ここに家を建てることにした。
そうなると木材が必要になるため、ロイは森のほうへと近づいていく。
〝ズバッ!!〟
近くの樹の前に立ったロイは、剣を構えて魔力で
そのまま剣を振ったら、樹が一発で切り倒された。
「すごいな……」
少し離れた場所で見ていたレオは、拍手をしながらロイの
ロイがやったのは、レオから与えられた魔力を使っての身体強化だ。
貴族の場合、幼少期からの訓練で剣技のスキルを手に入れる者が多いため、それと組み合わせるとかなりの戦闘力になる技術だ。
「これを乾燥させて……っと」
枝を切り
そんな時には魔法を使う。
乾燥させるイメージを持って、レオは木に魔力を注ぎ込む。
すると、少しずつ木は乾燥していき、建物に使うにはちょうどいい具合の木へと変わった。
「みんなは細かい作業をお願いするね」
〝コクッ!〟〝コクッ!〟
釘がないので、建物は
レオは設計図を地面に描き、小さい布人形たちに細工をお願いした。
この人形たちも、小さいからといって何もできないわけではない。
スキルの性質上、どんなに離れても主人のレオとは魔力で繋がっているらしく、ロイも含めて人形たちはレオの知識から行動を判断しているようだ。
つまり、
〝シュパッ!〟
細工を任された布人形の手からは、小さいながら風魔法が発射される。
レオも風魔法が使えるので、この人形たちも使いこなせるようになったのだ。
ロイの剣技も、レオの書物の知識からきている。
しかし、体調がよくなって日も浅く、実家にいる頃は父や兄の目もあったために訓練することができなかったため、レオのほうは知識があっても体が使いこなせていないというのが実状だ。
自分の能力とはいえ、知識を人形たちがそのまま使用できるのはうらやましい限りだ。
「フゥ~……、みんなの協力もあって、ひとまず完成だ!」
布人形たちは風魔法を使って木に細工をしていき、ロイは樹を切って持ってくる。
レオは木を乾燥させるのと、細工された木を組み立てることをして、日が暮れるギリギリ前に小さいながらもとりあえず雨風
ひとり暮らしなのだから、今はこれで十分だろう。
「さて、魚を食べよう」
そのうち作るつもりだが家の中にはないため、今日は外に石を組んで作った
家完成の祝いとして、レオは今日釣った魚を食べることにした。
持ってきている調味料は少量のため、あまり無駄遣いできない。
塩なら海から作ればいいと考えたレオは、魚を塩焼きにすることにし、美味しくいただいた。
「お休み!」
食事をして腹も膨れたレオは見張りをロイに任せ、家造りでの疲れもあって早々に眠りについた。
◆◆◆◆◆
「おはよ……うっ!」
目が覚めて家から出てみると、警護役の人形ロイが立っていた。
そのロイに挨拶をしながら周辺を見てみると、レオはぎょっとした。
家の周りに、数体の魔物の死体が転がっていたからだ。
「……四体も来たのかい?」
〝コクッ!〟
転がっているのはゴブリン一体と、コネチッラと呼ばれるテントウムシの魔物が二匹、セルペンテと呼ばれる二メートルほどの長さの蛇の魔物が一匹だ。
どうやらロイが剣で斬り倒したらしく、それぞれ斬り裂かれた跡がある。
人形だからもともと目がなく、魔力を使った探知で魔力に反応することで戦えるため、夜の暗闇でも関係なく動けるのはありがたい。
〝スッ!〟
「ん? あぁ、魔石? ありがとう!」
魔物を倒したら魔石を取る。
言わなくてもちゃんと取っていたらしく、ロイは四つの小さい魔石をレオに渡してきた。
昨日同様褒めて頭を撫でてあげると、ロイはされるがまま動かない。
本当に感情でもあるかのような反応に思えてくる。
「ゴブリンとコネチッラは焼却して。セルペンテは解体して食料にしよう」
〝コクッ!〟
魔物とは言っても、種類によっては肉を食することができる。
蛇のセルペンテの肉は食べられるため、食料が手に入ったレオは嬉しそうにロイに指示をだした。
指示を受けたロイは、すぐに木の枝を集めて魔物の焼却作業を開始。
その間に、レオはセルペンテの解体に入ることにした。
「ひとりで食べきれるかな?」
解体し終わったセルペンテの肉の量を見て、レオは思わず呟いてしまう。
見た目通り普通の蛇よりも肉厚で、取れた肉の量は五キロくらいありそうだ。
病弱は改善されつつあり、食欲も少しずつ増えてきているが、まだ小食といっていいレベルのため、レオだけならこの量の肉で数日は持ちそうだ。
「それにしても、このスキルは助かるな……」
気をつけないといけないが、だいぶ体も丈夫になったらしく、昨日の疲労も残っていない。
体の調子が悪くなることがなくなってきた。
それもこれもスキルを得たことによる恩恵だ。
改めてレオはこのスキルに感謝したのだった。
◆◆◆◆◆
「そろそろいいかな……」
話は半年ほど前に戻り、スキルを得た頃のこと。
簡単な実験をしてスキルを把握したレオ。
この日、最後の実験を行うために夜遅くまで起きていた。
「これが成功すれば……」
十五の成人できっと追い出されると考えていたレオは、その時のためになんとしてもしておかなければならないことがあった。
それは自身の体のことだ。
すぐに体調を崩して寝込んでいるようでは、冒険者になるしかない自分はとてもではないが生きていけない。
ならば、体を鍛えればいいとなるが、体を動かしたことによる疲労も体調を崩すきっかけになることがわかっている。
最終手段として、本を読み漁ることで得た方法がある。
それが魔物の
昔から、魔物を倒すとわずかながらステータスを上昇させることができるといわれていた。
しかし、それを検証した資料は存在していない。
多くの魔物を倒しても、ステータスが上がったかどうか調べる手立てがないことが原因だろう。
はっきりしない程度の上昇。
レオはそれに望みを託すしかなかった。
「ロイ! 誰にも見つからないように町を出て、魔物を倒して来てくれるかい?」
〝コクッ!〟
この実験を行うために、レオは準備を進めていた。
それが、レオの代わりに魔物を倒すための人形を作ることだ。
魔物を倒したことによるステータス上昇は、自身の力によって倒した時のみ得られるといわれている。
スキルも自身の力と
魔物と戦うとなるとある程度の大きさと強固さが必要で、加工することを考え、木製の人形を使用することを選択した。
ベンヴェヌートに木材を求めた時にどう理由をつけるか迷ったが、大作の人形を作るためと素直に言ったら用意してくれた。
ベンヴェヌートも、残り数ヵ月で別れることになるとわかっていたためか、レオの好きにさせようと
そして完成させたのが、木製人形ロイだった。
「弱い魔物を狙うのと、無理はしないでね!」
スキルの条件として、自作物でないといけないらしく、替えを作るにもまたベンヴェヌートに材料を揃えてもらわないとならない。
それに、ここまで作り上げたことでロイに愛着も湧いている。
そのため、壊れてしまったら正直悲しいため、ロイには無事に戻ってくることも約束させた。
人形が動いているのを町の人に見られたら噂になりかねない。
これでも、一応自分は伯爵家の人間。
町の詳細な地図から抜け道は把握している。
その抜け道を通って町の外に出るようにロイに指示しておく。
「いってらっしゃい!」
魔物と戦うのに武器がないのでは倒せないだろうと、ロイを作った時に使ったナイフを渡して窓の外へと出たロイへ魔力を補充する。
レオの魔力が、ロイが動く燃料となっている。
戦うことにも使うだろうし、町から出て戻ってくるまでも距離がある。
多めの魔力を渡しておけば、失敗に繋がるようなことはないはずだ。
体調に響かないギリギリまで魔力を渡し、レオは闇夜の中をいくロイを見送った。
◆◆◆◆◆
「結果は成功だったな……」
半年近く前のことを思いだして、レオはしみじみと
魔物を倒すことによるステータス上昇。
実験がハッキリと成功したとは数値を示して証明することはできないが、あえて言うなら自分が証拠と言っていい。
もしかしたら、そう思い込んでいるだけなのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
ロイが夜な夜な近場の魔物を倒すようになったことで、レオの体調が改善されていったのは事実なのだから。
「どうせなら、あの時倒した魔物の魔石も持ってくるように言っておけばよかったかな?」
魔物を倒すことによってステータス上昇。
それによる体質改善を重視したために、ロイに魔石の採取や後始末のことは指示していなかった。
知識はあっても、指示を受けていないことを行わないというのは、やはり人形だからだろうか。
「そういえば、あの頃放置した魔物の死体はどうなったんだろ? ……まぁ、父上が何とかする話だ。関係ない自分が気にする必要はないか……」
魔石も採取せず放置した状態だと、核となる魔石が残っているため、死体がアンデッドになりやすい。
ロイが放置した魔物の死体もその状態のため、意図していなかったとはいえアンデッドが発生しやすい状況を作り出してしまったことになる。
しかし、そうだとしても、領主が町の周辺を兵や冒険者を使って異変を察知すれば対処できることだ。
そのため、レオは自分が気にすることではないと考えるのをやめた。
それよりも、まさか領地を与えられると思ってもいなかったため、この島までの移動資金を稼ぐのに時間がかかってしまった。
今考えると、魔石だけでも取ってくるように言っておけば、売った資金でもっと早くここに着けたかもしれない。
レオは今さらながら、少しもったいなかったように思えてきた。
「まぁ、気にしても仕方ないか。無事着いたことだし……」
何もできずにベッドで過ごした時間が長いせいか、レオは結果オーライと判断することが多くなった。
この島で魔石なんて、今のところアルヴァロへの報酬分あれば十分だ。
多くのことは望まず、今を楽しく生きることを考えるほうが建設的だ。
「でも、ロイだけでここを生きていけるかな……」
ロイのお陰でいい拠点を手に入れ、魔物の対応を任せていられる。
森から少し離れているせいか、まだ強力な魔物は出現していないが、手つかずのこの島にはどれだけの魔物が潜んでいるかわからない。
自分を守ってくれて、力仕事もしてくれる人形がもっといてくれたほうが、安心して生活できるはず。
「ロイ! 木を持ってきてくれるかい?」
〝コクッ!〟
多くの魔物にここを襲われたらロイだけでは不安が残る。
ならば、ロイの仲間を作ってしまえばいい。
材料となるものは、昨日の家造りで用意した木材が残っているため、レオはそれを使って新しく人形を作ることにした。
「完成!」
人形作りを始め、結局完成するまで三日かかった。
ロイを作る時は一週間くらいかかったので、それを考えればかなりの時間短縮だ。
一度目よりも二度目のほうが、慣れによるところが大きいのだろう。
「スキル発動!」
早速完成した人形を動かしてみようと、レオはスキルを発動する。
魔力を与えられた人形は、カタカタと音を立てた後、ゆっくりと立ち上がった。
「君はロイの弟のオルだよ! よろしくね!」
〝ペコッ!〟
立ち上がった人形に不具合がないか確認し、問題ないことを確認したレオは、作っている間に考えていた名前を新しい人形に告げた。
木製人形二号ことオルは、レオに名前を告げられると