と思ってレッドの顔を見るととても冗談を言っているような顔をしていなかった。

「あ、私……」

 なんで、そんな特攻隊みたいな顔してるのよ。決死の覚悟、死にゆく若者みたいな。

 死んだら許さない。死んだら、許さない。

 ギルド長としてほかの人を見捨てられないだとか、ギルド長として率先して前線に赴かなければならないとか……知らない、そんなの。

 死んでほしくない。

 レッドに死んでほしくないっ。

「帰ってきたらいくらだってキスくらいしてあげるわよっ! だから、さっさと戻ってきなさいよっ」

 レッドの鼻をぎゅっとつまんで笑った。

 涙を見せるな。

 レッドなら絶対生きて帰ってきてくれる。死ぬわけがないとそう信じてる顔をするんだ。

「約束だ」

 にっとレッドが笑った。

 大丈夫、きっとみんなが無事に逃げた後に、レッドもソウも爺マッチョ戦隊のみんなも……。

 城壁の階段を下りたところで振り返ると、地竜……ドラゴンの白く光る頭が見えた。

 もう、そんなに近づいてきているの?

 早く、早く逃げなくちゃ……!

 もうすぐ騎士の訓練所の横を通るはず、そこを通り過ぎれば避難所の入口まで……。

 その時だ。どぉんとものすごい音が聞こえた。

 振り返ると、城壁の一部が崩れている。

 地竜の体が半分見えていた。

 そして、炎をまとった剣を持った人影が地竜の喉元めがけて飛び出すのが見えた。

 剣が届く前に、地竜の腕が人影を手で払った。

 すっ飛んで行った人影が壁に激突する前にかばう人影も見えた。

 あれは……レッド?

 攻撃されたことに怒った地竜は、進行方向を変えて城壁に沿って進み始めた。

 レッドがおとりになったのか……!

 歩みが遅い地竜とはいえ、その手の一振りで城壁がガラガラと崩れていく。

 爺マッチョたちは早く走ることができない。どうやら地竜の足元の土を耕してバランスを崩させたり、泥沼の罠にはめたり、なんとか時間を稼いでいる。

 でも、このままじゃ……レッドたちが逃げることができないよ。

 少しでも足止めする方法はないの? 泥沼もほんの数秒しか稼げない。人が五〇センチ沈む泥沼でもあの巨体からその一〇分の一ほどにしか感じてないだろう。

 後ろを振り返り振り返り逃げる。避難所に続くドアの入口まで来た。

「アリスお姉ちゃんどうしたの?」

 立ち止まった私を心配そうに子供が見上げる。

「先に行っていて、私は……私はもう少し待ちたい」

 子供だけじゃなかった。騎士たちも何人も立ち止まって、心配そうにレッドたちが残った城を見ている。

「【ブラックライト】っ」

 ミルト君の声に意識がもどった。

「あぶないっ!」

 騎士が私の腕を引くと、それまで私がいた位置を黒い足が通り過ぎる。闇スパイダーの足だと理解するころには、別の騎士が切り倒していた。

 そうだ……。

 壁の内側にすでに魔物が侵入していると言っていた。

 騎士が撤退し、地竜が城壁を壊してしまった今、もっと多くの魔物が中に入っているんじゃないの?

 残ったレッドたちは……どうやって避難するの?

 城壁の外に浮かび上がった無数の蛍光色を思い出す。

 まるで、何万個もの電球を使ったイルミネーションのように地面を覆っていた。

 あれはイルミネーションじゃない。紫外線……ブラックライトで光っている魔物たちだ。

 あんな大量の魔物が城壁の中に入り込んだら、爺マッチョ戦隊どころか走れる騎士団長のソウやレッドすら逃げることなんて……無理じゃないっ!

 何よ、何よ、何よっ!

 死ぬ気だったの、初めから!

 許さない、許せない!

 戻ったら、いくらでもキスしてあげるって言ったでしょう! 私にキスなんてされたくないっていうの?

 許さないっ!

 死ぬなんて、絶対に、許さないっ!

 足止めできれば、少しでも足止めが……ここに走ってくるまでの時間の足止めが……!

 泥沼程度ではだめなら底なし沼ならどう? もっともっと沈めば足止めになるんじゃないの?

 落とし穴は?

 ……わかってる。できるならとっくにドリューさんがしてるよ。あんな巨体を落とす大きな穴は掘れないんだよ……。

 光属性の私ができること……。

「そうだ、雷光は?」

 ワーウルフロードの足止めはできた。

 ああ、でも光で昼行性の魔物をもっと活性化しちゃう可能性があるからダメだ。

「そうだ……」

 うろ覚えの知識だ。

 でも、確か……。赤外線よりももっと波長が長い……ずっと長い……。

 紫外線のぶるぶるとは逆のゆったりとした感じ……。

 もはや目に見える光とはまったく思えない、電波だ。でも光魔法が光子ならば同じ……。

 名前だって、電気から離れて、まさか光子が関係してるなんて知らない人のほうが多い……。

「【マイクロ波】」

 ははは、思わずなんとか波みたいなポーズしちゃったよ。

 いけー! マイクロ波!

 またの名を電子レンジの波!

 電子レンジなんて名前がついているのに電子じゃなくてあれは光子だって知った時の豆知識がこんな時に役立つなんて。

 電子レンジの波は水分を温める波。

 動物を電子レンジに入れても死なないという話もあるけど、殺処分に電子レンジを使うという話もある。怖くて調べたことがある。

 実験動物はすぐには死ななかったけれど、内臓のあちこちがボロボロになっていて何日か後に死んだらしい。

 高出力のマイクロ波。