「【水球!】毒入りだ、味わえ!」

 水球はホーンベアの口に当たった。しばらくしてベアがマヒして倒れた。

 はっ。早速実戦で使うか。

 あのサイズのホーンベアを倒そうと思えば、数人で取り囲んで注意を引く者と攻撃するものと役割を分担して……と結構厄介なんだが。

 マヒはしばらく続くはずだ。その間に、ほかの魔物も倒していく。

 応援に駆け付けた俺たちの隊と合わせて三小隊。十五名で倒した魔物の数は百に上るだろう。本来ならこの人数では対応が難しかったはずだ。

「リリアリスのおかげで命拾いしたか……」

 マヒで動けないでいる魔物たちにとどめを刺しながらふっと息を吐きだす。

「アルフレッド様っ!」

 光属性の子に問題解決の合図を上げてもらおうとしたら、子供が空を指さした。

 今度はギルドの依頼で森の中で魔物の巣をつぶしているはずの冒険者から光の暗号が上がっている。

「ちっ。こんどは森か。……ここからでは距離があるな……対応はガルダに任せるしかない……。だが、何があってもいいように急いで戻るぞ」

 と、魔物の死体の処理は後回しに急ぎ戻る。

「アルフレッド様、あれを」

「ああ、気が付いている。応援に向かうと、連絡してくれ」

 光属性の子供に連絡用の光を上げてもらう。

 ……場所、魔物の種類、およその数、味方の数に負傷者……。

 これだけ情報が瞬時に伝えられれば、迅速に対応が可能だ。

 応援する側からも向かうと連絡ができるのも効果は大きい。

 応援が来るという気持ちが、最後の踏ん張りに……生死を分けることもあるからだ。

 リリアリスだ。これも、リリアリスのおかげ。

 感謝してもしきれない。

 この恩に報いるには……。一日も早く王都へと送り返したほうがいいのではないか。過酷な冬をアシュラーン領で過ごさせるわけには……。

 そうだ、恩に報いるために、王都へはガルダに送ってもらうのはどうだろう。

 筋肉神様が護衛についてくれるの? と大喜びで王都へ行くのではないだろうか?

 はっ……。自分の嫁をほかの男に預けて喜ばせるなんて冗談じゃない。

 俺が送るさ。

 俺の筋肉で満足してもらうさ。

 ああ、そして、別れの瞬間、思いを伝えよう。

 そうだ。それくらいなら許されるだろう。

 俺は、お前のことが好きなんだと。本当は別れたくないと……。

「アルフレッド様っ!」

 前方に、先ほどのホーンベアよりも二回りほど大きな、目の赤い個体が現れた。

 ホーンベアじゃないな、あれはホーンベアロードか……。

「お前たちは援護に向かえ。二小隊はこいつらを始末してから追いかける! 【火壁】」

 ホーンベアロードの横に火の壁を作り出した。その横を五人の騎士が走り抜ける。

 ホーンベアロードが襲い掛かろうとするが、火球を当てて挑発し、敵意をこちらに向けさせた。

 今日はもう、何度空に連絡用の光魔法が打ちあがったのだろう。

 スタンピードの前兆とは本来はこんな感じなのだろうか。

 今までは連絡手段がなかったため事象がとらえられていなかっただけで……。

「アルフレッド様、領都が!」

 新たに打ちあがった連絡用の光。

 領都に、魔物が侵入したという連絡だった。

 領都に……! そんなっ!

 冒険者は森に入っている。ガルダもその対応に回ってしまっている。

 騎士はこうして街道の魔物の対応に当たっている……。

 失敗したのか?

 魔物がスタンピードを起こして領都を襲うのを迎え撃つべきだったのか?

 増えすぎる前にとばらばらに動いて討伐していくというのは……愚策だったのか!?

「アルフレッド様っ、急いで倒して駆け付けましょう!」

 騎士の言葉にハッとする。

 そうだ。今すべきことは反省することではない。そんなもの後でいくらでもすればいい。

 今は……。

「あちらからホーンベアが集まってきています」

「ホーンベアロードが集めているのかっ、じゃあまずはこいつを始末しないとな。周りのやつは頼んだ」

 すでに水属性魔法使いがマヒ薬を浴びせていたが、多少動きは鈍っているものの動きを止めるまでには至っていない。

 だが、動きが鈍るだけでも、助かる。

「【火剣】【業炎】」

 本来ならたった十名の騎士では逃げの一手という状況だ。

 ホーンベアロードが一体と、ホーンベアが三〇体。そこに、ワーウルフの群れまでもが現れたんだ。

 だというのに……。

 光属性の子供が声を上げた。

「ワーウルフだ、おいしそう!」

 はっ、違いねぇ。ワーウルフはおいしかったな!

 騎士たちの緊張がほぐれた。

「俺たちは、死なない! リリアリスがお前もおいしく食べさせてくれるさ!」

 俺の後ろで、呪文を唱える声が聞こえてきた。

「【水球】毒入り」

「【石鏃】ほらほら、尻尾を巻いてにげなっ!」

「えっと、僕も。【火光】あっちに行けっ」

「【竜巻】」

 ん? 竜巻って、渦巻いた強風……そんな強い魔法がいつの間に使えるようになったんだ?

 ちらりと視線を向けると、つむじ風と呼ぶにもおこがましいほどの小さな渦巻き状の風が発生していた。

 土属性魔法の【石鏃】と光属性魔法の【火光】におびえて一か所に固まった魔物たちを【竜巻】という名の小さなつむじ風がつつみ、魔物の毛を揺らす。

 すると、魔物たちが次々に倒れていった。

「やった! 毒入り水球をまねて、睡眠薬を風に乗せたんだ! 散りすぎないように渦巻きにする練習をした甲斐があった!」

 騎士が嬉しそうに声を上げた。

 はっ。リリアリス旋風だな。彼女がもたらした勝利だ。

「アルフレッド様、危ないっ!」

 しまった。油断した……。

 仰向けにのけぞると、空に光る連絡がまた増えたのが見えた。

 救援要請ばかりだ……。

 これでは、誰が領都を救いに行けるんだろう。

 領都には……領都には……。

 アシュラーン公爵として流刑されたいらない王子を優しく迎え入れてくれた領民たちがいる。

 屋敷には家族のように接してくれた使用人たちがいる。

 そして……かりそめとはいえ……家族が。

 リリアリスが……。

 死ぬわけにはいかない、いいや、死にたくないっ!

「アルフレッド様ーっ!」