かわいそうなお姉様。
手紙の裏に書いてきたのも、手紙に使う紙一枚与えられてないってことよね?
私への嫌がらせじゃなかったのね。
そういえば、ここに住んでいた時だって、お父様やお母様に何一つとして私物を与えられていなかったわ。
「かわいそ。まさか嫁ぎ先でも同じように扱われてるなんて」
でも、仕方ないわよねぇ。光属性だもの。
「仕方がないわねぇ、かわいそうなお姉様に、お酒も送ってあげましょう。お酒でも飲ませて公爵の気を引きたいってことよね。くすくす。本当、かわいそう」
ん? 追伸があるわね。
「アシュラーン公爵領に向かう馬車が魔物に襲われ、荷物をすべて失いました。着替えもありません。服も送ってください……くっくっ」
馬鹿なお姉様。
初めから何も持たされてなかったのよ。荷物なんてあるわけないじゃないの!
まさか、公爵家では用意してくれないの?
貧しい領地だものねぇ。役立たずの形ばかりの妻に服を用意するなんて、もったいなくてできないって?
「かわいそう~」
あ、そうだ! いいこと考えちゃった。
クローゼットを開ける。
「えーっと、これとこれとこれと……ああ、これも染みが抜けないのよね。こっちはもう三回も袖を通しちゃったし……」
翌日、皇太子殿下に事情を話した。
「昨日、アシュラーン公爵家へ嫁いだお姉様から手紙が届きましたの」
殿下がピクリと眉を上げた。
王位継承権を争うことを避けるために流刑地と呼ばれる土地に追いやられた殿下の叔父の話が出たことで、どう反応すべきか迷ったようだわ。うちが、アシュラーン公爵の肩を持つとでも思ったのかしら?
「お姉様、公爵様から疎まれていらっしゃるようなの。おかわいそうに……」
心底同情しているようにうつむいて唇の端を下げる。
「いったい、どんな内容だったんだい?」
殿下が私の肩にそっと手を置いた。
「それが……公爵領に向かう途中に馬車が魔物に襲われ荷物を失ってしまったようなのです。持って行った着替えのドレスなども……」
殿下がちょっと青ざめた。
「それは、大変だったね。流刑地……いや、アシュラーン領は噂通り魔物が出るひどい土地のようだ……それで、恐れをなして帰ってくるとでも書いてあったのかい?」
首を横に振る。
「いいえ、それが……公爵様が新しい服を用意してくれないようで、ドレスを送ってほしいと……。急なことで、仕立てる時間もないので私のドレスをいくつか送ろうと思っているんです。お姉様が気に入ってくださるか分からないけれど……恐ろしい土地に嫁いでいったお姉様に、せめて素敵なドレスを送りたくて。新しく仕立てたものも後で送りたいと思っているのですが……今年の予算が……」
落ち込んだ様子を見せると、殿下がぎゅっと私の体を引き寄せて抱きしめた。
「ああ、ユメリア。君はなんて優しいんだ。なんと姉思いの素敵な女性なんだろう。いいよ、僕が予算を出そう。君のお姉さんにドレスを作ってあげるといい。ああ、もちろんユメリア、君にもドレスを贈らせてくれ!」
殿下の腕の中で、先ほどまで下げていた口の端を上げる。
やったわ。殿下からドレスを作る予算をもらえるわ。新しいドレスも贈ってもらえるし。
ふふふ。お姉様もたまには役に立つじゃない。
お礼に、とびきり〝よいお酒〟を送ってあげなくちゃ。
「ありがとうございます殿下。殿下こそなんてお優しい……」
「ユメリア、君の悲しむ顔を見たくないんだ」
「うれしい!」
殿下の私室へと、身を寄せ合ったまま移動することにした。
お姫様抱っこにあこがれたこともあったけれど、子供じゃない大人を抱えて移動するなんて野蛮な男のすることよね。