……遊ぶような気持ちになれないかな、大人は。ならば内職かな。

 アルフレッド様は仕事? それとも避難所にはいない?

 っと、そうだ。旦那様の部屋はまだ紫外線除菌してなかったんじゃなかった?

 アルフレッド様の部屋の扉を開ける。

「【殺菌灯】」

 青紫の光を部屋の四隅と真ん中に出す。

「ん? ! んん? !」

 何か部屋のあちこちがピカピカしてる。

 いや、私の部屋も避難部屋も廊下もうっすら発光してた気はする。

 そういえば、紫外線って強いと殺菌灯、弱いとブラックライトなんだっけ?

「【消灯】」

 いったん殺菌灯を消す。

「【ブラックライト】」

 青紫っぽい淡い光が部屋の中に浮かび上がる。

「うわあ、何これ。あれこれ光ってるわ」

 なんか幻想的だ……。

 青や緑や赤に部屋のあちこちが光っている。

 ブラックライトで光るものって蛍光剤が有名だよね。白い服が光って見えるのは蛍光剤で白をより際立たせようとしてるからとか。

 シーツは青色に見えるところがある。

 壁は青や緑や赤などいろいろな光を発している。

 石造りだし、もしかしたら何らかの鉱石? 確かルビーは赤っぽく光るんだよね。

 ん、そうだ、だんだん思い出してきた。

 ブラックライトって、汗や尿も光るんだったっけ。洗濯でどれだけ汚れが落ちたかとか、汗染みとか洗濯前と洗濯後にブラックライト当てて検証するみたいなの見たことあるわ。……ズボンはやめたげて! って思ったよ。

 ……てことはよ? トレーニング中の筋肉にブラックライトを当てると……!

「まぁ、なんてことでしょう! 青く光る筋肉が出来上がると!」

 ……うん、別に見たくないかな。汗が光るなんて、誰得?

 ……でも、ってことはこのシーツの光は汗ってことかな……。

 紫外線で殺菌する前に洗濯か、やっぱり。こうなれば徹底的にやるか。

 あ! 思い出した。

 カビ! カビも光るんだ!

「よもやよもや……」

 この、幻想的な壁の光は……。

「カ、カビィー!」

 ひぃっ! 可視化される無数のカビ! こ、こわっ!

 ううん、でもこれなら徹底的に掃除ができるんじゃない? 目に見える黒カビだけがカビじゃないもんね!

 ふき取るだけでもだいぶ減らせる。できればアルコールか酢……。アルコールや酢でこすった後に水ぶきも忘れず……。

 う、うん。うーん、うん。やっぱり現実的じゃないよね。食料で掃除は。カビはこまめに紫外線当てて水ぶきとかで頑張る。避難してる間やることない人もいるだろうから掃除してもらう。掃除代金……お小遣い程度になっちゃうだろうけど侯爵夫人の予算で何とかやりくり考えようかな。

 よし。とりあえず今は見なかったこと……に。

 と、振り返るとひときわ鮮やかなピンクに光っている場所があった。

「おや? これは何だろう?」

 近づいて見る。

「あ!」

 そこにあったのは盾だ。体の半分くらいを隠せる大きな盾。

「【LED】」

 部屋を明るくして確認する。

 盾は金属製で、丈夫そうだけれど、ゲームや何かで見るような装飾があるようなものではなく、金属を伸ばして盾のかたちにしただけの……警察とか機動隊とかが使うような?

 その盾が、ブラックライトに照らされて光っていた。

 もう一度LEDを消して暗くしてブラックライトをつける。

「全体的にピンクが強いけど、下のほうに黄色が交じっててあとは緑も青も……何だろう、これ?」

 盾を作るときに強度を増すために何か混ぜてある? それにしては色の出方がまちまち。

 ……待てよ、待てよ……!

「犯罪捜査……といえば……」

 粉をポンポンとはたく指紋採取に、スプレーシュッシュのルミノール反応。

 ルミノール反応は光を当てると青白く光る……血痕が残っているところでは……。

 目の前にあるのは盾。ひときわいろいろな光を発している。

「えっと……魔物の血液が反応してるの?」

 うわー。綺麗なんて思った自分を鈍器で殴りたい。

 これ、命を懸けて戦った証だよね。

 それに……。青白い光のどれかは汗や尿じゃなくて人の血液だったりして? ……いやいや、スプレーシュッシュしなければブラックライトで見えるものじゃないっけ? 血液は……。

 ぐっとこみあげてきたものを飲み込む。

 まだ、私は覚悟が足りない。魔物との闘いが身近ではないから。

 どこか遠くで起きる殺人事件みたいな感じにしか受け取れていない。まさに対岸の火事って感じだ。ワーウルフと戦ったはずなのに、あれは夢でも見たんじゃないかくらいの感じになっている。

 パンパンとほっぺを叩く。脳みそを切り替えるんだ。

 まずは……。

「光って見えるってことはブラックライトになってるってことだから、紫外線も紫外線ライトになってると思っていいってことじゃない?」

 うん。そういうことだ。

 一つ前進。


 旦那様の部屋に紫外線をたんまり設置して出る。

 日焼けを安易に考えてはいけない。紫外線で失明することだってある。強い紫外線は怖いのだ。

 肌が真っ赤になって痛くてシャワーも浴びられなくなって皮がべろんとめくれて……。

 階段を上り、自分の部屋に戻る。紫外線殺菌のめどはたった。

 ……あとはサラたちにも同じように紫外線を出せるかだよね?

 火光やLEDはすぐにサラもギルドの子供たちも出せるようになった。紫外線はどうだろうか。

 光は実は光子の波で、波長の違いで目に見える可視光線がどうのこうので……。

 自分もよくわかってないのに、うまく説明できる気がしないっ。

 紫外線を出せるようになったかどうかの確認しながら訓練するにしても……。

「奥様、お手紙が届きました」

 へぇ?

「私に、手紙?」


■ユメリア視点 ~王宮にて~■


「ユメリア、この間君が母上に贈ったハンカチだが」

 殿下の言葉に体を一瞬硬くする。

「えっと、王妃様が? 気に入らなかったのでしょうか?」

 あのハンカチは、ギルドに依頼して三つ向こうの街で刺繡が得意な女を見つけ出して刺繡させた品。

 さすがに、王都の有名店で手に入れたものなら買ったことがすぐにばれてしまうと思ったから、わざわざ王都から離れた場所で依頼したのに。

 まさか、バレた?

「いや、いつもと作風が違うようだとおっしゃっているんだ」

「さ、作風ですか?」

 作風って何よ。

 刺繡なんてうまいか下手かくらいしかないんじゃないの?

 ちゃんと贈る前に確認したけど、見事なバラの刺繡がハンカチ一面に施されて立派なものだったわ。

 リリアリスに刺繡させたものと遜色ないものだと思ったから王妃様にも贈ったというのに。

「うん。いつものユメリアとは違う技法で刺されていると……何かあったのか心配していたよ。その、王妃教育が大変すぎて誰か別の者に刺繡させたのではないか……と言う者もいて……」

 誰よ。余計なことを言ったやつは。

 もし誰か分かったら、王妃になったら処罰してやる。

「いえ、確かに私がひと針ひと針王妃様のことを思って刺繡させていただいたものですわ。……確かに刺し方は変えましたの。王妃様ともなれば一流のお店の物をいくつもお持ちでしょうから……。改めて人気のお店の刺繡を学び、参考に刺しましたの……それで、作風が変わったと思われたのでは?」

 殿下がほっとしたようにため息をついた。

「ああ、そうだったのか。そうだよね。ユメリアが他人の刺したものを自分が刺したなどと王室に噓をつくわけがない。そんなことをすれば、不敬罪に問われることなど、侯爵令嬢として知らないわけがないからね……母上も大げさなんだ。私を敬う気がないのかなんて怒るなんて……」

 やばい。

 王妃様を怒らせてしまえば、いくら皇太子と婚約したからと言っても安泰ではいられない。

 王妃教育に合格できなければ結婚は許されないのだから。結婚してしまえばこちらのものだけれど……。婚約者のまま何年も過ごし、皇太子の愛が若い子に移ってしまったという過去の話もある。