第三章 襲来


「ペペロン様ー! お帰りなさーい!」


 ペペロンが拠点へと戻ると、ファナシアが抱き着いてきた。

 ララはその様子を震えながら、黙って見ていた。

 本来ペペロンに抱き着くことは看過出来ないが、今回は一緒に行かなかったので、特別に見逃したようだ。

 しばらく抱き着いた後、ファナシアはペペロンから離れる。

 ペペロンは拠点の様子を見てみると、何だか住民たちが異常にぐったりとしている。

「これは……」

「あ! アタシ、頑張って皆を訓練したんだよ! この数日でめっちゃ強くなったと思うよ!」

 ファナシアは強くなったと言うが、明らかに疲れてへばっており、本当に強くなっているのか、ペペロンは疑問を抱いた。

 訓練のやりすぎのような気もしたが、ファナシアは褒めて欲しいという表情を浮かべているので、

「よくやってくれた」

 とファナシアを褒めた。ペペロンに褒められて、ファナシアは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「ペペロン様、早速魔法書の研究をしたいんですが、いいですか?」

 エリーがうずうずした様子で、ペペロンにそう尋ねた。

 言われなくても、魔法書の研究は、エリーに任せる予定だったので、

「元々頼むつもりだった。お願いする」

 そう言った。

 エリーは嬉しそうに魔法書を抱えて、研究をしに行った。

 その後、ペペロンは攻略の疲れを癒すため、休憩をすることにした。



「さて、今日から訓練はまた俺がやるが……だいぶファナシアにしごかれたようだな」


 ポチが帰ってきて、再び訓練役はポチが務めることになった。

 ペペロンとしては、ファナシアのように厳しく訓練するのも、今後はやるべきだとは思っていたが、まだ兵たちが育ちきっていない状態では、ポチのように軽い訓練をするのが、一番適切だと考えていた。

「俺は今まで通り行きたいと思うが、それでいいか? ファナシアみたいにして欲しいってんなら、してやってもいいぜ」

 兵士たちは首を横にブルブルと振った。

 ファナシアの苛烈な訓練は、完全にトラウマになっていた。

 ただ一人だけ、そうではない者もいた。

「私はファナシアさんの時のように、厳しい訓練が受けたいです!」

 リーチェである。

 自分の能力が、まだまだ不足していると、思い知らされたリーチェは、少しでも早く強くなりたいと、苛烈な訓練を求めていた。

「中々根性があるようだな。まあ、ファナシアの訓練は一通り受けただろうから、お前はそれを続ければいい」

「分かりました! やってきます! パナ、さあやろ!」

「私もやるのか!?

 リーチェの隣にいたパナは、驚く。

「当たり前じゃん! 強くなれないよ!」

「いや……私は強くなるってか、補佐する役目になりたいからなぁ」

「でも、最低限の強さはないといけないよ! とにかくグダグダ言わずに一緒にやる!」

 リーチェはパナの手を掴んで走り始める。

「あ、おい! 離せ! あーもう走るから! 離せ!」

 二人はファナシアの指導のもと行ったランニングを始めた。

 あくまでランニングはウォーミングアップ。

 最初はめちゃくちゃ疲れていたが、今では拠点を百周走っても、何とかへばらないくらい体力は伸びていた。

 剣の素振りや筋トレなどの訓練も、どんどん行なっていく。

 一通り訓練を言えて、リーチェはポチに再戦を挑んだ。

「俺と模擬戦がしたいってのか? まあ、別にいいが、でもお前フラフラじゃねーか」

 訓練を終えた後だったので、リーチェは体力をだいぶ消耗してフラフラになっていた。

「大丈夫です! お願いします!」

 リーチェとポチは木剣を構えて、向かい合う。

 リーチェは体は疲れていたが、精神力は下がってはいなかった。

 息をふっと吐き出して、ポチに向かって剣を振る。

 力がいい具合に抜けたから、理想的なフォームになっており、疲れているとは思えないほど、振りは速くなっていた。

 ポチは驚きながら、リーチェの剣を受け止めた。

 当然、少し訓練しただけで、ポチに勝てるほど強くはなっていないが、以前戦った時より、明らかに剣の扱いが上達していた。

(コイツはやっぱ、かなり強くなるかもな)

 そう思いながら、ポチはリーチェの剣を叩き落とした。

 リーチェは落ちた自分の剣を拾い直して、構え直して、

「ま、まだです!」

 そう叫んだ。

「え?」

 ポチは予想外の行動に、少し戸惑っているようだ。

 リーチェは、ポチと何度も戦うが、結局攻撃を入れることは、一度も出来なかった。


 訓練が終わり、夜になる。

「ねぇ、私って強くなってるのかな?」

 二人は家に集まって一緒に食事を取った後、部屋で二人きりになり、リーチェは、パナにそう尋ねた。

「強くなってるだろ。何でそんなこと、悩んでるんだよ」

「うーん、本当? ポチさんには一撃も攻撃入れられなかったし、何か強くなってる実感てやつがないんだよね」

「そりゃ、ちょっと訓練しただけで、攻撃入れられるようになるほど、甘くはないだろ。差はまだ大きいけど、お前自体は絶対強くなってる」

「本当かなー」

 パナは説得するが、いまいちリーチェは納得しきれていないようだ。

「そうだ。拠点の外に出てモンスター倒しに行こうよ。今まで絶対倒せなかったやつでも、倒せるようになってれば、分かると思うし」

「は? 危険だろそれ、死んだらどうすんだ」

「大丈夫だって。それに力を試すだけじゃなくて、モンスターとの戦闘にも慣れておきたいし。私たちはペペロン様の遺跡攻略に同行出来るようになるために、強くなっているんだから。モンスターとの戦いには慣れておかないと、そんなの絶対無理でしょ」

「それは確かにそうだが……」

 ペペロンの遺跡攻略についていきたいというのは、パナも思っていることだったので、モンスターとの戦いに慣れた方がいいというのは、パナも納得した。

「でも、どのモンスターを倒すんだ? 今まで倒せなかったモンスターって……」

「うーん……下手に強すぎるモンスターに挑んじゃっても、それは危険すぎるしさ……明日ポチさんに尋ねてみよう」

 リーチェとパナはそう決めて、今日はベッドに入って寝た。


 翌日。

「あの、モンスターとの実戦訓練をしたいんですけど、どのモンスターが良いでしょうか? 出来れば強いモンスターが良いです」

「ん? そうだなぁ。ここら辺なら、近くの森にいる、ジャイアントマンティスとかが、一番強ぇーんじゃねーかな」

「ジャイアントマンティス?」

「馬鹿でかいカマキリのモンスターだ。切れ味鋭い鎌を持っているモンスターだから、注意して戦えよ」

「は、はい!」

 リーチェはパナの下に戻り、ジャイアントマンティスを倒すということを、告げた。

「む、虫は嫌だ!」

「カマキリだよ? ゴキブリとかよりは、気持ち悪くないよ」

「カマキリも十分キモイ!」

「パナさぁ。そんなことだと、ペペロン様についていけないよ? めっちゃヤバイ虫がいっぱい出る遺跡に行くことになったら、どうするのさ。今のうちに慣れておかないと」

「ぐ……」

 リーチェの正論に、パナは言葉を詰まらせる。

「もしかしたら、デカいゴキブリとか出てくるかも……」

「や、やめろ! 想像しちまうだろ!」

「とにかくカマキリくらいの、マシな虫から慣れていければ、気持ち悪い虫と戦うことになっても、そこまで動揺しなくて済むと思うよ」

「……分かったよ。行くよ」

 リーチェの説得にパナは折れた。

「よーし、じゃあ準備開始だー」

 と二人が準備がしようとしていると、


「リーチェとパナか。モンスターを倒しに行くんだな?」


 後ろからペペロンに声を掛けられる。

「ペペペペ、ペペロン様!?

 いきなり話しかけられた、リーチェは動揺する。

 パナも顔を赤くして、声を出すことが出来なかった。

「此度の遺跡攻略で、この剣『ソウルイーター』を獲得した。リーチェが使うのにちょうどいいと思ったから、使ってくれ」

「あ、ありがとうございます」

 リーチェはお礼を言いながら、ソウルイーターを受け取った。

「パナには申し訳ないが、ちょうどいい武器が出てこなかった。今度出てきたら、パナにもあげよう」

「え? いや、謝る必要はないってか、き、気にしないで欲しいです」

 謝られて、パナは狼狽えながらそう言った。

「それでは健闘を祈る」

 それだけ言い残して、ペペロンは去っていった。

「け、剣貰っちゃったよ! ど、どうしよう」

「ぐ……う、羨ましい……でも、見つけたらくれるって言ってたし……」

「絶対強い剣だよこれ! これでジャイアントマンティス退治も行けるね!」

 リーチェは剣を見て自信をつけたようだ。

 二人は準備を完全に終わらせて、拠点を出て、ジャイアントマンティスを退治しに行った。


「この森に出るんだね……どの辺にいるんだろう」

 ポチは具体的に森のどの辺にいるのかは、教えてくれなかったので、二人は捜索をする。

 最初に出てきたのは、ホーンビートルだった。

 角の生えた芋虫のモンスターだ。


「ひ、ひぃい!?


 気持ち悪い巨大な芋虫の姿を見て、パナは恐怖で凍り付く。

 弱いモンスターなので、リーチェがあっさりと剣で斬り殺して倒した。

「情けないなー……ってあれ? 白い光が私の体に。何か体が楽になったんだけど」

 ソウルイーターは敵を斬り殺した直後、白い光を発し、その光がリーチェの体の中に入った。

 これは体力を回復する、ソウルイーターの効果だ。本来は怪我を治すのだが、怪我を負っていない状態だと、疲労回復などの効果がある。

「切れ味も良いし、回復効果もあるし、やっぱりペペロン様、凄い剣をくれたんだ!」

 とリーチェはソウルイーターの効果を知り、大喜びした。

「クソー……ついてくるんじゃなかった……森に行くんだから、当然ほかのモンスターもいるじゃねーか……となると芋虫みたいなのがいてもおかしくないじゃねーか」

 ホーンビートルの気持ち悪い姿を、もろに見てしまって、パナはグロッキーになっているようだった。

「もうー、こんな弱いモンスターにビビってるようじゃ、先が思いやられるよ!」

「強い弱いの問題じゃねーんだよ」

「あ、そうだ。これ付ければいいんじゃない?」

 リーチェは、以前洞窟攻略で手に入れた、心石のネックレスをパナの首にかけた。

「どう? 落ち着いた?」

「あ、ああ。なんか芋虫見ても平気になったって言うか……結構凄い効果あるな、このネックレス」

 心石のネックレスには、動揺するのを抑える効果がある。

 身につけた瞬間、芋虫の死骸を見ても全く動揺しなくなる、ネックレスの効果をパナは実感した。

「死んでるから平気なだけかも?」

 リーチェがそう指摘した。

 ホーンビートルは、今地面に転がっている状態である。

 動いている方が気持ち悪いので、死んでるから平気なだけだとリーチェは考えた。

「うーん、どうだろうか?」

 パナにも分からなかった。

 すると、調子いいタイミングで、生きたホーンビートルが飛び出してきた。

 パナはホーンビートルを見たが、悲鳴を上げたりしなかった。

 むしろ瞬時に反応し、ホーンビートルに接近して、ナイフで斬り殺した。

 虫の液体が体にかかるが、別にどうってことはなさそうである。

「こ、効果ありそうだね」

「ああ、何ともないな」

「よーし、これで解決だね! パナもちゃんとやれるはず!」

「不思議な感じだな。虫がキモいってのは感じてるが、だからと言って心が乱れたりはしない」

「へー。今外したらどうなるんだろう」

「それはやめろ。発狂するかもしれん」

 虫の液体を全身に浴びたので、外した瞬間、体液に対する嫌悪感が限界に達するかもしれないと、パナは嫌な予感を感じた。

「や、やめたほうが良さそうだね……先に進もう!」

 パナの虫嫌いという問題は解決して、二人はジャイアントマンティスの捜索を再開する。

 森の中を練り歩き、モンスターを倒しまくった。

 フォレストウルフなど、そこそこ苦戦しそうな相手も、あっさりとリーチェとパナは倒していく。

「わ、私……強くなってるかも……」

 自分が強くなったと、リーチェは実感する。

「おい、お前自分が強くなったか分からないから、ここに来たんだよな。もう分かったなら帰っていいだろ」

 パナは冷静に指摘する。

「ま、まだ完全には分かってないから! せっかく来たんだし、目標は達成した方がいいでしょ!」

 図星を突かれたリーチェだが、強引な理論で押し切った。


「あ!」


 リーチェは遠くを見て目を見開く。

 視線の先には巨大なカマキリの姿が。

「ジャイアントマンティスだ! ちょうど良かった! 倒しに行くよ!」

 リーチェは誤魔化すようにそう言って、ジャイアントマンティスの下へと向かう。

「デ、デカいね……思ったより……」

「ああ……」

 近づいてみると、ジャイアントマンティスが、想像を超える大きさだと分かった。

 二人より大きい。

 それこそ巨人族のノーボ並みの大きさだ。

「これはネックレスがなかったら、見た瞬間気絶しちまったかもな」

 今のパナは冷静ではあるが、ネックレスがなければこうはいかないだろうと思うような、見た目であった。

 ジャイアントマンティスは、リーチェとパナを見つけ、襲いかかってくる。

 意外と動きが速かったが、リーチェは何とか剣で巨大な鎌を受け止める。

 受け止めている間に、パナがフレイムでジャイアントマンティスを攻撃。

 パナの魔法の威力は低いが、ジャイアントマンティスは炎属性の攻撃が苦手だったようで、フレイムが当たった瞬間、怯んだ。

 その隙をついて、リーチェはジャイアントマンティスの首を狙って斬りつける。

 ジャイアントマンティスは、通常のカマキリとは違い、硬い甲殻で全身を守っているので、そう簡単に斬ることは出来ないのだが、リーチェは首を一撃で斬り落とすことが出来た。

 あっさりとジャイアントマンティスを倒せて、倒した本人のリーチェが驚いている。

「や、やっぱり私、強くなってるかも」

「剣が良いだけかもよ?」

「う……その可能性も……い、いやいくら剣が良くても使い手が駄目だったら、簡単には斬れないよ! やっぱり成長したんだ!」

 リーチェはジャイアントマンティスを倒したことで、だいぶ強くなった実感を得たようだ。

「私も虫に対する対策が見つかったのはなんだかんだで言って良かったな。これからこいつ外せないかもしんねーけど」

 虫に恐怖心を抱くことは、パナも密かに悩んではいたので、解決しそうで良かったとは思っていた。


「よーし! これからも訓練頑張るぞー!」


 リーチェはやる気満々な様子でそう宣言した。



 屋敷に入り、これからやるべきことをペペロンは考える。

(拠点レベルは上げて、遺跡攻略したけど、まだまだ拠点の住民が足りないから、もっと住民を増やさないとなぁ。でも、やっぱ自分たちで集落に行って勧誘するのって、効率が悪いんだよな。やっぱ自分から、住民になりたいって、誰かが来るようにならないと)

 住民を増やすには直接勧誘する方法と、住民になりたいと言って来たものを、受け入れるという方法があった。

 向こうからやってくるようになるには、勢力の名声を上げる必要がある。

 不遇七種族以外の種族が、住民になりたがってくる場合もあるが、その時は断ればいい。

 ゲームの時は、特定の種族を断り続ければ、断った種族が住民になるために拠点を訪れなくなるというシステムがあった。

 情報が出回るということなのだろう。これは、現実になった今でも同じようになる可能性は高い。

 最初は断り続ける必要があるのだが、最初だけなので徐々に面倒が少なくなってくる。

 問題は名声の上げ方である。

 マジック&ソードには名声値というものがある。

 個人の名声と、勢力の名声と二種類あり、住民が自ら来てくれるようになるには、勢力の名声を上げなければいけない。

 遺跡攻略などをすると名声が上がるのだが、それはペペロン個人の名声である。

 個人の名声が上がるのも、色々メリットはあるのだが、住民が自ら来てくれるようにはならない。

 ゲームでは明確に個人の名声と、勢力の名声は違うものとして扱われていた。現実ではそこら辺がどうなっているかは、ペペロンには分からないが、今までも共通点は結構あるので、そこも同じだと考えて、行動したほうがいいと思った。

 ちなみにマジック&ソードというゲームにおいて、勢力というのは国を指すときには使わない。

 勢力はあくまで、都市や街、村などをある程度自治しているものたちのことである。

 その勢力が別の勢力を従属させ、それが一定数に達すると国が出来る。

 さらに、国をいくつか従属させる国が現れると、その国は帝国と呼ばれるようになる。

 従属させる以外にも、勢力を吸収するという方法もある。

 吸収すると、同じ勢力になる。勢力を吸収し続けて、一定以上の規模になるとこれまた国と呼ばれるようになる。

 現在のグロリアセプテムは、アレファザレイド帝国に従属しているスパウデン家に従属しているという状態である。

 若干ややこしいが、あくまで独立性はある。

 命令を受けずに、ほかの国に攻め込むなんてことも不可能ではない。

 ただ、盟主が同盟を結んでいる国に攻め込んでしまうと、勢力から外された上、元々所属している勢力とも戦をすることになる。

 一気に二か国を相手に、戦うことになるので、現実的に同盟を結んでいる国相手に、戦を仕掛けることは不可能であった。

 勢力の名声の上げ方は、戦で活躍することである。

 戦で名声を上げるにはいくつかパターンがあり、自分からどこかを攻め落としたり、または誰かが戦をするから、その援軍として参加したり、または攻め込んできた敵を撃退したりすればいい。

(攻め込むのは、撃退するより正直難しい。リンドクーシールのクォレスを攻めればいいんだが、勝てるか分からない。誰かの戦に参加するには、援軍を要請してもらえるくらい、どこかの勢力と仲良くならないといけないし、そもそも名声がないと呼んでもらえない。まあ、勝手に行くという手もあるけど、基本的に援軍で駆けつけて戦に勝っても、名声の上がり具合は援軍を呼んだ側の方が多いからな……やはり、敵を撃退するのが一番だが……)

 現状攻め込んでくるとするならば、リンドクーシール王国のクォレスになるだろう。

 ペペロンの拠点があるタレスヘム草原のすぐ近くにあり、アレファザレイド帝国とも同盟を結んだりしていない。

 どちらかというと、そこまで仲も良くはない。

 攻め込んでくる可能性は大いにあった。

 そして、現在の拠点には、攻め込んできても撃退出来るだけの能力はあった。

 名声が低い街に対して、そこまで大規模攻勢を仕掛けてくることはまずない。

 微妙な数の兵に攻められて、それを撃退するのはペペロンたちの力量からすると容易い。

 仮に大規模な攻勢をかけてきたとしても、一兵一兵の質も決して高くないため、負けることはほとんど考えづらいことであった。

(クォレスは結構好戦的だから、攻め込んでくる可能性はあるとは思うんだけどなぁ……来ないかなぁ)

 自分から挑発などをして、攻め込ませるという方法もある。

 例えば、ガスを使って、グロリアセプテムが、クォレスを攻めようとしていると噂を流せばいい。

 グロリアセプテムが、クォレスより格上の勢力であるならば、クォレスは防衛を強化したり、自分が従属している勢力の盟主、この場合はリンドクーシールの国王や、もしくは仲のいい勢力に対して援軍を要請するだろうが、現状名声のないグロリアセプテムは、実力はどうあれかなり格下として見られているだろう。

 格下の勢力が攻めようとしていると知ると、好戦的な勢力は先に攻めてくることが多い。

 あくまでマジック&ソードがゲームだった時の話であるので、現実でも同じような展開になるとは限らない。

 ただし、試してみる価値はあるだろうと、ペペロンは思っていた。

(クォレスが攻めてくるからそれを撃退した後、その後、素早く兵を動かして、兵士が少なくなって守りの薄くなったクォレスを侵略する。そうなると、一気に名声は高まりそうではある)

 格上の勢力に完全勝利を収めると、一気に名声が高まる。

 ペペロンが現在目標としている、勝手に住民がやってくるような段階にすぐなるだろう。

 戦略を決定し、ガスを呼んでお願いしようとしたその時、ララが慌ててペペロンの屋敷へと入ってきた。


「ペペロン様! 至急報告があります!」


 内心、少し驚きながらも、平常心を保ちながら、ペペロンは返答した。

「何だ?」

「拠点の外で食料集めをしていたのですが、軍勢が拠点に向かっているところを確認いたしました! 三ツ眼族で構成された軍隊なので、恐らくクォレスからの軍勢だと思われます!」

「何だと? それは本当か?」

「この目で確認しました!」

 ペペロンはさっきまで来て欲しいと思っていたクォレスの軍勢が来たという報告を聞いて、本当かどうか疑う。だが、ララが虚偽の報告をするわけではないので、嘘ではないだろう。

(ガスに頼むまでもなかったか。かなりラッキーな展開だぞこれ)

 ペペロンは内心喜んでいたが、ララの手前クールぶる。

「敵の数は?」

「正確な数は分かりませんが、千人はいたと思われます」

 今の拠点で、きちんと戦える人材はそう多くはない。

 クォレス兵千人程度ならば、ペペロン、ララ、ファナシア、ポチ、エリー、ノーボ、ガスだけで十分対処可能だとペペロンは思った。

 クォレスはそれほど魔法が豊富な勢力ではなく、大した魔法は使ってこない。

 その上で、兵たちの能力もそれほど高くはない。

 グレイス地下牢跡に出てくるモンスターに比べれば、遥かに弱い。

 グレイス地下牢跡で、魔力と体力を消費したとはいえ、回復能力も高いため、ちょっと休憩しただけで、ほぼ元通りになっている。

 千人集まろうと、ペペロンたちが負ける道理はなかった。

 拠点のすぐ近くまで誘き寄せて、拠点に作ったバリスタから援護射撃をしてもらいながら戦えば、さらに楽に倒せるようになる。

「迎撃する。早速戦う準備をするんだ。私と、ララ、エリー、ファナシア、ノーボ、ガス、ポチが外に出て直接戦う。そして、バリスタの扱いが上手いものに、援護射撃を任せる」

「了解しました。早速、全兵士に伝令をしてきます」

 ペペロンとララは屋敷を出る。

 ララは急いで伝令を始めた。

 敵の襲来で、住民たちはざわめいていたが、ペペロンなら確実に追い払ってくれるだろうと、信頼をしているようだった。

 部下たちはすぐに準備を済ませ、ペペロンの下へと集結した。


「さて、行くか」


 攻めてきたクォレス軍を撃退すべく、ペペロンたちは門の外へと出た。



「あれが最近タレスヘム草原に出来た謎の拠点か」

「思ったより発展してますね」

 クォレスより兵を率いてきた、三ツ眼族の武将ロッダ・レナードと、彼の副将であるアレックス・ルドーは、グロリアセプテムの拠点を見て、そう感想を述べた。

「まあ、そっちの方が好都合だ。あくまであの拠点は、スパウデン家を攻め落とすための、足掛かりにするために攻略するんだからな。防備が良ければ良い方がいいだろう。発展していると言っても、まだまだ狭いし、落とすのは確実だろうからな」

 彼らの最終目標は、グロリアセプテムの攻略ではなく、その先にあるスパウデン家の攻略であった。

 長年、国境を接してきたクォレスとスパウデン家は、あまり仲は良くない。

 たまに和解して、交易を結んだと思ったら、どちらかが約束を反故にして、戦を仕掛けたりということが、日常茶飯事のように起こっていた。

 クォレスからすると、スパウデン家の治める領地を侵略するというのは悲願であった。

 そんな時、突如タレスヘム草原に謎の拠点が出来た。

 その存在を知ってからずっとクォレスは、グロリアセプテムをマークしていた。

「まずは降伏勧告をする。相手の戦力は大したことはないだろう。勝ち目がないと分かれば、降伏するはずだ」

「従わなかった場合はどうします?」

 そう尋ねられて、ロッダは何を当たり前のことを聞いているんだ、というような表情になる。


「そんなもの決まってるだろう。力尽くで奪い取るまでだ。住民を全部殺してでもな」


 ロッダは残忍な笑みを浮かべながらそう言った。

 彼はクォレスの中では、一番優秀な武将として知られている。

 クォレスを治めている彼の主人は、戦となるとあまり有能な人物ではないので、軍事活動に関しては、ロッダに一任されていた。

 兵を指揮する才能は高いのだが、残忍な性格をしており、度々戦場を血に染めていた。

 副将のアレックスは、ロッダに比べて常識人だった。

 飛び抜けて得意なこともないが苦手なものもない、良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏な男であった。

 ロッダは確実に勝てるだろうと、確信をした状態で兵を進めていた。

 グロリアセプテムの規模からして、まともに戦えるであろう兵は多くて二百人ほど。一方ロッダが率いている兵の数は全部で千五百人。七倍以上の差がある。

 住民全部を出すと、五百人以上にはなるだろうが、全員で来ても一瞬で倒せるような弱兵が増えるだけなので、あまり意味がない。

 スパウデン家の情報は、すでに探らせているが、援軍を送ったという話も聞かない。

 それどころか、援軍を頼んだという報告も来ていなかった。

 こちらの接近に未だに気づいていないとしか、ロッダには思えなかった。情報収集能力も低く、未熟な拠点であることの証明であると、ロッダは考えていた。

 拠点の中から七人出てきた。

 小人族、エルフ、巨人、ゴブリン、コボルド、ハーピィー、賢魔、全て、取るに足らない弱小種族たちであった。

 数が少ないことから、交渉でもしに来たのかと思って、ロッダは部下に降伏勧告を告げてくるよう、命令して、敵の下へと駆けさせた。

 色々話をしたあと、部下はロッダの下へと戻ってくる。

「あの……降伏はあり得ないと。帰るか侵略したいなら侵略してこいと言われました」

「何? 馬鹿なのかあいつらは。負けるのなんて火を見るよりも明らかだろうに。まあ、その気なら別にいいだろう。攻め落とすぞあの拠点を」

 ロッダは剣を上に掲げた。


「突撃せよ! 拠点を落とすのだ!」


 シンプルな命令である。

 本来は、もっと複雑な命令をして、陣形などを組んで戦をするのだが、今回の相手は七人の弱い種族たち。

 戦術を練らずに適当に突撃しようと、確実に勝てるだろうという考えがロッダにはあった。

 バリスタが防壁にはあるようなので、何人か犠牲者が出る可能性はあるが、元より拠点を制圧するのに一人も死なないで済むとは思っていなかった。

 ロッダは兵たちの突撃を後ろで見ている。

 自身の腕に自信はあるし、前線で指揮を取った方が兵の士気は上がり、軍が強くはなるのだが、当然自分が死んでしまう可能性が上がるというデメリットもある。

 わざわざ士気など高めなくても、楽に倒せるであろう相手に前線で戦うなどリスキーな方法を取る必要性をロッダは感じていなかった。

 欠伸をしながら兵たちが突入していくのを眺めていると、突如悲鳴が聞こえてきた。

「うあああああああああ!?

「ひ、火があああああああああああ!!

 かなり大人数の悲鳴だ。

 敵は七人なので、味方の悲鳴だろう。

 何事か気になったが、前線の方を肉眼で確認することは出来ない。

 一時的に反撃にはあったが、それでも圧倒的な兵量差がそのうち解決するだろうと、ロッダはそこまで深刻にはなっていなかった。

 思ったより兵数を失いそうで、それは忌々しいことであったので、

「チッ」

 と舌打ちをした。

 しばらく時間が経過しても、悲鳴は収まらないどころか、強くなる。

 流石におかしいと感じる。

(拠点の中から、兵士が出て来て、そいつらが思ったより数が多かったのか? と言ってもゴミ種族たちだぞ?)

 ロッダは理由を考えるが、分からなかった。

 ロッダの下に、命からがらという様子で前線から逃げてきた兵士が来た。

「貴様! 敵前逃亡は死罪だぞ!」

「う、ロ、ロッダ様……」

 怯えた目で兵士はロッダを見る。

 ロッダは自分を護衛する兵士に、逃げてきた兵士を捕まえさせた。

「お許しください……お許しくださ……」

「許して欲しいなら、前線で何があったのか説明しろ」

「あ、あいつら……あいつらは強すぎます……ゴミ種族だと思って突撃したら……たった七人で俺らを……」

 しどろもどろな説明であったが、何が言いたいのかはロッダは理解した。

「馬鹿な。最初に防壁の前に立っていた七人に、やられているというのか?」

「は、はい……」

「馬鹿を言うな! 虚偽の報告も、敵前逃亡同様死罪だぞ!!

「う、嘘はついておりません! 誓って、嘘は……」

「……」

 この場面で嘘をつくメリットは、兵士にはない。

 勘違いか、それとも事実か、どちらかだ。

(しかし、事実というにはあまりにも荒唐無稽な……)

 困惑していると、どんどん悲鳴が近づいて来ていた。

 近くで話を聞いていたアレックスが慌てて、

「ロ、ロッダ様! 逃げた方が良いです! 恐らく敵は大将であるあなたの首を狙っています!」

 千人以上の兵を全て倒すより、ロッダの首を取ったほうが、決着がつくのは早いだろう。

 将を失った軍は、一気に瓦解する。

「馬鹿な、ここまで奴らがたどり着けるわけ!」

 そう話していたら、ロッダの目に信じられない光景が目に入った。

 小人族の男と、ハーピィーの少女、エルフの女が兵士たちを斬り捨てながら、こちらに猛スピードで向かってくる光景だ。

 三人はロッダの姿を確認すると、一直線で向かってきた。

 あまりのことにロッダはすぐに逃げ出すが、あっさりと追いつかれた。


「く、くそ!」


 近づいてきた小人族の男と剣を交えるが、一瞬で剣をはたき落とされる。

 あまりの恐怖に、ロッダは腰を抜かして、地面にへたり込んだ。

 自分を見下す小人の姿が、ロッダの目には巨大なものに映った。



「来たな」


 何の策略もなく、脳死で突っ込んでくる敵兵たちを見て、これは余裕だとペペロンは改めて思った。

「さて、私とファナシア、ララは、敵兵たちを倒しながら、後方にいるであろう敵将を倒しに行く。ポチ、エリー、ガス、ノーボは、ここで突っ込んでくる敵兵たちを倒してくれ」

 ペペロンの指示通りに部下たちは動き始める。

 まずは突っ込んでくる敵兵の勢いを削ぐために、ギガフレイムをお見舞いした。

 ペペロン、ララ、エリー、ノーボの魔法攻撃が強い四人が、同時に使い、爆炎が発生する。

 ギガフレイムが直撃した場所にいた兵士たちは、即死。

 周辺にいた者たちは、炎上している。

「うああああああああ!!

「あ、あちぃ!!

 兵士たちの悲鳴が次々に上がり始める。

 あまりにも悲惨な光景であるが、ペペロンの心はあまり動かなかった。

 やはり何かを殺すということに、抵抗心が少なくなっているようだ。

 自分たちの領土を脅かしにきた不届き者たちを殺すことに、良心の呵責を抱くことはなかった。

 敵兵たちの勢いは一気に止まる。

 近くの味方が悲惨な死に方をしているのに、そのまま進軍出来るような勇気ある者はいなかったようだ。

「行くぞ」

 ペペロン、ファナシア、ララが、ペペロンの言葉を合図に動き始める。

 いまだ炎上している戦場に突撃した。

 三人は炎に対する耐性を所持しているので、別に火の中に飛び込んでもそこまで深刻なダメージを負うことはない。

「は?」

 燃えている兵たちを見て、戸惑っている兵士たちは、炎の中からペペロンたちが飛び出してきて、驚愕の表情を浮かべた。

 驚いたのは一瞬。ペペロンの剣が兵士の首を的確に捉え、斬り飛ばした。

「な、何だ!? 何だこいつら!?

 敵が戸惑っているうちに、ペペロンたちはどんどん斬り飛ばして、軍勢の中を駆けていく。

 指揮官が前線にいたならば、混乱した兵たちを立て直せたのだろうが、後方にいるためそれも出来ない。

 どんどん、兵士たちを斬り飛ばして進んでいく三人に、なすがままにされていた。

「う、うおおおお!!

 たまに勇気を出して、ペペロンたちに攻撃してくる兵士もいるが、無駄だった。

 ペペロンは無慈悲に一太刀で斬り捨てていった。

 たまに不意打ちがあったりもするが、これも全く無駄だった。

 防御力の高いペペロンたちにダメージを与えられるような攻撃を出来る者は、一般の兵士たちにはいないようだ。

 ペペロンたちは、敵兵を殺してどんどんと先に進み、遂に敵将の姿を捉えた。

(やっぱりロッダか。アレックスもいるな)

 マジック&ソードのゲーム内では、クォレスにいる武将としてロッダとアレックスは登場していた。

 結構有名なNPCであるため、ペペロンも名前と顔を知っていた。

 有名になる理由は、比較的有能で強力だからである。

 クォレス軍は弱いのだが、指揮をするロッダとアレックスは強いので、こいつらを仲間にすると良い、という攻略法があったりする。

 不遇七種族しか仲間にしないという縛りプレイをする前は、クォレスを滅ぼした後、二人を説得して部下にする、みたいなプレイをしたことがあったので、ある意味戦友といえば戦友かもしれない。

 今回は、仲間には出来ないので、殺すか捕虜にするかである。

(殺さないと敵は引かないか。捕虜にしたら、奪還するため逆にやる気を出させる要因になるしな。まあ、こいつら如きが多少やる気になっても、問題はないんだが。殺しといた方がいいな)

 ペペロンはロッダとアレックスを殺すと決めた。

 一気にロッダとアレックスの下へと駆けて、近づく。

「く、くそ!」

 抵抗してきたが、はっきり言って現在のペペロンに比べると、ロッダはかなり弱い。

 あっさりと追い詰めた。

 ロッダは地面にへたり込む。

「た、助けてくれ……! 命だけは!」

 と命乞いをしてきた。

 若干可哀想だとは思ったが、やはり拠点に攻めてきた不届き者を許す気はペペロンにはなかった。

 容赦なく剣を振り、ロッダの首をはねた。

 ララが同じくアレックスを仕留めたようだ。

 これで敵の指揮官は二人とも失ったことになる。

「ロ、ロッダ様とアレックス様が……」


「う、うわあああああああ!!


 二人が死ぬのを見ていた兵士たちは、散り散りになって逃げ始めた。

 これから、クォレスを侵略するのなら、逃さない方がいいので、逃げる兵士たちを次々に討ち取っていく。

 流石に遠くまで逃げていった兵を深追いはせず、近くにいた兵士を優先して討ち取っていった。

 千人以上いるのを全部討ち取るのは、流石に手間がかかりすぎる。

 大勢の兵士たちを一気に倒すには、剣で斬るより、魔法の方が効率が良いため、ギガフレイムを乱発して、とにかく兵士たちを燃やしまくった。

 戦場に立っている敵兵がいなくなるまで、それを続けた。

 二百名ほど逃しはしたが、千人以上討ち取ることに成功した。

 これでクォレスは、戦う力を大きく失った。

 ペペロンの記憶している限りでは、クォレスの兵士総数は三千人。

 今回の戦で半数近くを失い、尚且つ優秀な指揮官であるロッダとアレックスを失った。

 人数以上にダメージを受けることになっただろう。

 城を落とすには、相手もバリスタなどの防衛用の武器を使うので、簡単にはいかないが、それでも兵士が少なければ、攻め落とすことは簡単だろう。

 クォレスを落すことが出来れば、名声は大いに高まる。

 グロリアセプテムの名前も、各所で聞かれるようになるだろう。

「まずは、死体の処理をした後、クォレス侵略の準備をするぞ」

 千人もの死体を放っておくのは、色んな意味で良くないので、一カ所に集めて燃やすことにした。

 住民たちにも手伝って貰い、兵士の死体を一カ所に集め、ギガフレイムで燃やした。

 その後、侵攻の準備を行う。

 クォレスを攻めるのも、ペペロンたち七人だ。

 まだ、育ちきっていない兵士たちを利用して、下手に死なせてしまいたくはないとペペロンは考えていた。

 本来、敵領地の侵略は、大義名分がないと逆に名声が下がってしまうこともあるのだが、今回ペペロンはクォレスからの侵略を受けていたため、大義名分は間違いなくあると言えた。

(落とした後、どうするかだなぁ。クォレスは、三ツ眼族の街だから、住民はほとんど三ツ眼族だ。不遇種族しか住民になれないって、部下たちに宣言しちゃったから、三ツ眼族の市民を街に置いておけないし、追い出すか、殺すか)

 マジック&ソードをゲームとしてプレイしていたときは、敵地を侵略したあと他種族の住民は漏れなく処刑していた。

 あくまでゲームなので、別に何人殺そうがペペロンの良心は一ミリも動かなかったが、現実となると流石に殺すのには抵抗を感じる。

(でも、今回の目的はとりあえず名声を得ることだし、征服する必要はないか。都市を襲撃して、敵の領主に負けを認めさせれば、名声は上がるから、別に住民を追い出す必要もないか。クォレスを落としたら、リンドクーシールから、奪還するための兵士たちが来るけど、そいつらを追い払う力は、まだないしな)

 ペペロンは一度、敵地に侵攻して、領主に接触して負けを認めさせるのが、一番いい方法だと考えた。

 敵に負けを認めさせるのと同時に、魔法書やゴールド、設計図に武器など、戦利品もいただけるし、今はそれが一番合理的であるとペペロンは思った。

 リンドクーシールも、そこそこ規模の大きな国なので、クォレスを取り返すために、万単位で兵士を送られてくる。

 流石に、そこまで数が多いと防衛は難しい。

 クォレスを守るか、グロリアセプテムを守るかの二択になる。

 本格的に占領するのは、住民数が増えてからがいいだろうと、ペペロンは思った。

(よし。では、早いうちにクォレスを落としに行くか)

 クォレスの兵士と指揮官たちは、予期せぬ敗戦で大きく動揺しているだろう。

 一秒でも早く侵略に向かった方が、落とせる確率が上がると思ったペペロンは、休む時間もあまり取らず、部下たちと一緒にクォレスへと向かった。


 クォレスはそう遠くない場所にある。

 全力で走って向かったら、数時間で到着した。

 道中、敗戦後逃げ帰っている兵士たちがいたので、戻られると兵が増えて面倒なので、きっちり息の根を止めながら、移動していた。

 クォレスの門の前に到着する。

「何だ貴様ら? 弱小種族どもじゃないか。ここは三ツ眼族の町、クォレスだ。貴様らのようなゴミどもが来ていい街じゃないぞ」

 あざ笑うように門番は言った。

 別に弱小種族だからと言って、入ってはいけないという決まりはクォレスにはなかったはずだ。

 この門番が、嫌なやつ過ぎるだけであるようだ。

「今日は、別に買い物したり、観光したりするために来たわけではない。このクォレスを侵略しに来た」

 ペペロンの言葉を聞いて、門番が、

「はぁ? 何言ってんだお前?」

 と呆れた表情を浮かべながらそう言った。

「言葉が通じないことはないだろう? 侵略しにきたんだ」

「……おい、ゴミ種族。わけ分かんねーこといつまでも言ってんじゃねーぞ」

 門番は持っていた槍で、ペペロンを突き刺そうとしてきた。

 ペペロンはそれを回避。剣を抜き、門番の首を撥ね飛ばした。

 それを合図に、部下たちも動き始める。

 異常を察した敵兵たちが、ペペロンたちを撃退しようと動き始めるが、全て蹴散らしていった。

「目標は領主の屋敷だ。そこまで一直線で行く。私に続け!!

 ペペロンがそう叫ぶと、部下たちは「はい!!」と一斉に返事をして、走るペペロンの後についていった。

 クォレスの地形は覚えている。

 領主のロシナッダの屋敷は、街の中央にある。

 街の中心である屋敷を落とすことが出来れば、クォレスを落とせたと言ってもいいだろう。

 ペペロンたちは一直線に走っていく。

 市街は完全に混乱状態になっていた。

 市民たちに危害を加える必要はないので、完全に無視して走る。

 道中、兵士たちがペペロンたちの進軍を止めようと、立ち塞がってきたが、一瞬で斬り飛ばしていく。

 はっきり言って、相手になるような敵はもういなかった。

 屋敷の入り口には、大勢の兵士たちがおり、中に入れないようにしていた。

 ペペロン、ララ、エリー、ノーボでギガフレイムを集まった兵士たちに撃ち込んだ。

 計四発のギガフレイムが放たれ、兵士たちを燃やしていった。

 集まっていたせいで、火が燃え移り阿鼻叫喚な光景が繰り広げられる。

 クォレスの兵士の中に、炎耐性を持っている者はどこにもいないようだ。

 門の前に集結していた兵士たちは、あまりの熱さに散り散りになって、逃げ去っていった。

 邪魔をするものがいなくなったので、門をこじ開けて、ペペロンたちは屋敷の中へと侵入する。

 屋敷の中にも兵士はいた。

 通常の兵士より強い、エリート兵たちだ。

 ペペロンの一撃を何とか剣で受け止めたが、完全に力負けをして、体勢を崩される。

 その隙をペペロンは見逃さず、兵士の胴体を一刀両断した。

 魔法を使う者もいたが、魔法防御力の高いペペロンたちに、ダメージを与えるほどの威力を出せる魔法使いはいなかった。

 メガフレイムが何発か飛んでくるが、当たってもほとんどダメージはなかった。

 エリーが、通常のフレイムで魔法使いたちを、一撃で倒して行く。

 魔法使いたちが放ったメガフレイムと、エリーのフレイムでは、エリーのフレイムの方が遥かに威力が高かった。

 知力の高さで、魔法の強さは上がったり下がったりする。

 エリーとクォレスの魔法使いは知力に大幅な差があるのだろう。

 屋敷にいる守備兵を全て蹴散らし、ロシナッダを捜索する。

 屋敷には、攻められた場合のための、隠し部屋があり、ロシナッダはそこにいるのだと、ペペロンは予測した。

 屋敷の隠し部屋の場所まで、正確に把握しているわけではなかったので、捜すのには時間がかかった。

 その間にも、敵兵たちが屋敷に突入してくるが、襲いかかってきた兵士たちは全て殺していった。

 そして、捜し続けて、部屋を発見する。

 調理部屋の床が外れるようになっており、その下に隠し部屋があった。

 ペペロンたちは部屋に侵入する。

「う、うわああ!!

 ロシナッダは発狂したような叫び声を上げた。

 太った金髪の中年の男である。

 領主であるがはっきり言って無能なタイプの男だ。

 戦うことも出来ないし、頭も良くはない。

 隠し部屋の中にいたのはロシナッダだけではなく、モバッハというクォレスにいる三ツ眼族の中で、最強の男がいた。

 髪が長くボサボサで、剣を二本手に持っている。

 指揮能力を考えると、ロッダが戦の際には一番優秀なのだが、単純な個人の強さはモバッハが一番である。

 かなりの速度で斬りかかってきた。

 二本の剣を巧みに操り、連続攻撃をしてくる。

 強いのは強い。しかし、倒せないほどではない。

 ペペロンは力を込めて、剣を振るう。パワーエンチャントを突入前に、かけており、ペペロンのパワーは飛躍的に向上していた。

 モハッダはそれほどパワーはなく、ペペロンの強力な攻撃を受けて、体勢を崩した。

 ペペロンはそれを見逃さず、肩のあたりを斬る。

 モハッダは素早い反応で、後退してペペロンの剣を避けようとした。

 だが、ペペロンの剣は速い。完全に回避されることは許さず、肩に深い傷を作った。

 避けていなければ、確実に肩から体を両断することが出来ていただろう。

「ぐあ……」

 深い傷を負い、モハッダは傷を押さえ倒れ込んだ。

 出血量からしてまず助からない。

 このまま苦しませるのも何なので、首を断ち切ってとどめをさした。

「モ、モハッダが……な、何だ……何なんだ貴様ら……ゴミ種族がなんでここまで強いんだ……!?

 全力でロシナッダは狼狽えている。

「私はグロリアセプテムの主、ペペロンである。愚かな貴様に罰を与えに来た。今すぐ敗北を認めろ」

「な、何だと……? そんな馬鹿なことが……貴様ら、そんなことしてただでは済まんぞ……だ、第一なぜクォレスを」

「それは、貴様らが先に仕掛けてきたからだろう」

「先に……? そうか……貴様ら、タレスヘム草原に出来た新しい街の……そういえば、グロリアなんとかと言っていたな……まさか、わしの軍は撃退されてしまったというのか?」

 速攻で侵攻を仕掛けたので、まだ領主であるロシナッダにすら、情報が届いていないという状態だったようだ。

 非常に狼狽えている。

「さて、私は貴様らの侵攻に大変憤りを抱いている。速やかに負けを認め、この街にある、装備、ゴールド、宝、設計図、魔法書を渡せば、許してやろう」

「ば、馬鹿なことを言うな。誰が渡すか……」

 反抗しようとするロシナッダの首に、ペペロンは剣を押し当てる。

「そう何度もチャンスは与えんぞ? 貴様を殺して奪っていってもいい」

 領主を殺すことでも、戦に勝利したとなり、名声は上がる。

 しかし、ロシナッダを殺してしまうと、彼以上に有能な者がクォレスを治めて、次、侵略するときに面倒なことになる可能性がある。

 ここは生かしておいた方が、都合がいいとペペロンは思っていた。

「ぐぅ……」

 首に剣を突きつけられ、汗をダラダラと流す、ロシナッダ。

 死ぬのは当然怖いが、貴族としてのプライドもあり、簡単に負けを認めることは出来ないようだ。

 数秒ほど葛藤する。

 ペペロンは面倒だったので、少しだけ剣に力を込めた。

 ロシナッダの首から血がツゥーと流れる。

「ひぃ!」

「そんなに長くは待てないぞ?」