ノーボがそう考えていると、
「ノーボ様!」
とまた声をかけられた。
今度は小人の男だった。
小人が喧嘩を始めたようで、それが止められないので、仲裁をしてほしいようである。
ノーボは慌てて向かった。
喧嘩の原因は、食事の際、うまい肉を食われたということだった。
食べ物の恨みは恐ろしいとは言うが、それで怪我人が出そうなくらい、激しい掴み合いの喧嘩になっていたので、やり過ぎだろう……とノーボは思う。
食料はまだまだある上に、肉もあるのでノーボは食べられた側の小人に、その肉を恵むことにした。
きちんと食べた側には謝罪をさせ、何とか丸く収まる。
一難去ってまた一難。
今度はハーピィーの女が、ノーボの下へとやってきた。
「あの……旦那が近くの森に山菜とかの採取に行ったんですけど……まだ帰って来なくて……いつもはもう帰ってくる時間なんですけど……」
拠点の近くの森は、基本的に強力なモンスターは出て来ないが、行く場所によっては出ることもある。
「分かりました。探しに行きます」
ノーボは頼まれて、急いで向かった。
早く行かないと手遅れになる可能性がある上に、あまり長時間町を空けることも出来ない。
急いで森に向かい、森の入り口に到着した。
救出するハーピィーの足跡を探して、発見。
足跡を辿りながら、ノーボは森の中を歩く。
道中、ホーンビートルという、角が生えた芋虫のようなモンスターに出くわす。
雑魚モンスターなので、フレイム一撃で葬り去る。
急いで先に進み、
「うわあああああああああああ!!」
悲鳴が近くから聞こえてきた。
ノーボは急いで、悲鳴が聞こえてきた場所まで向かう。
ハーピィーの男が、キラーインセクトという、ノコギリのような角を生やした、巨大なカブトムシのモンスターに、襲われていた。
ホーンビートルが蛹になって羽化すれば、このキラーインセクトになる。
見た目は凶悪だが、そこまで強いモンスターというわけではない。
ノーボのような強者ならば、ホーンビートルもキラーインセクトも、一撃で倒せるので、どちらも等しく雑魚モンスターだった。
ただ、一般人にとっては、かなりの差はあるかもしれない。
ノーボはフレイムを使用し、キラーインセクトを燃やして、倒した。
「ノ、ノーボ様!」
「大丈夫ですか? 痛いところはありませんか?」
気遣うようにノーボは言った。
ハーピィーの男は体の所々を怪我しているようだったが、どの傷も軽いものだった。
ノーボは、ヒーリングを使用し怪我を治す。
怪我は完璧に治った。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
ハーピィーの男は、頭を何度も下げてお礼を言ってきた。
「それでは帰りましょうか」
ノーボはハーピィーの男を連れて拠点へと戻った。
もうトラブルも起きないだろう、とノーボは自分の家に入り、休もうかと思っていた。
だが、それは許してくれなかった。
「ノーボ様! おばあちゃんが!」
小人族の子供が涙目になりながら、ノーボの下に来る。
その小人族の子供の後ろには、老婆を背負った小人族の男がいた。
祖母をノーボの下へと、運んできたようだ。
ノーボは自室のベッドに老婆を寝かせる。
そして、容態を見た。
「これは……」
息が弱く、心臓の鼓動も急激に遅くなっている。
身体も冷たい。
ヒーリングは、怪我を治したりするのには有用だが、このように寿命が尽きそうになっている者に、効果はなかった。
「すいません。彼女はもう……私の手では治すことが出来ません」
ノーボがそう言うと、祖母を連れてきた老婆の息子が、
「そうですか……覚悟はしていましたが」
気落ちした様子でそう言った。
「な、何で!? いつもの魔法で治してくれないの!? ノーボ様お願いします! おばあちゃんを治してください!」
子供は涙ながらに訴えてくる。
「ヒーリングで治せる病気、怪我には限界があります。私たちには見守ることしか出来ません」
「そ、そんな……」
子供はがっくりとうなだれて、涙をボロボロと流し始めた。
祖母のことが大好きであるようだ。
「人はいずれ老いて死にます。その時が来たら泣くのではなく、笑って送り出してあげた方がいいのではないでしょうか?」
諭すようにノーボが言った。
小人の親子は二人とも頷いて、ベッドで寝ている老婆の傍らに行き、笑顔で話を始めた。
ノーボは、そっと自分の家から出た。
数分後。
二人は家から出てきて、老婆が亡くなったということをノーボに告げた。
老婆の遺体を土に埋めて、立派な墓を作製した。
それ以降はこれといったトラブルはなかったが、それでも心身ともにノーボはだいぶ疲れていた。
今回は、ノーボがやっているが、普段この業務はほとんどララが担当している。
ララがいるときは、ノーボは食料の調達や資源の調達など他の仕事をやっていた。
「これは仕事の補佐をしてくれる者を、選ぶ必要がありますね」
人数が増えたことで、町の公務をやる者を選び増やすべきだと、ノーボは思った。
ペペロンたちが帰ってきたら、意見を言うと決めた。
○
ペペロンたちはグレイス地下牢跡に足を踏み入れ、最初の敵と交戦していた。
真っ黒なアンデッド系モンスター、シャドーである。
ゴーストと同じで、物理攻撃に耐性を持っている。
魔法攻撃も光属性以外は、物理ほどではないが耐性を持っている。
攻撃力も高く厄介な相手である。
ペペロンたちは、光属性の攻撃手段を持っていないため、ほかの魔法で攻撃するしかない。
ブリザードを使って攻撃するが、ダメージは与えられているようであるが、ゴーストのように凍りつかせて、自由を奪うことは出来なかった。
「ギガフレイム!」
こうなると仕方ないので、持っている最上級の魔法をエリーが使った。
凄まじい炎を受けて、一瞬でシャドーは消滅した。
地力が高いエリーの使うギガフレイムは、とてつもない威力を誇る。
さらに進むと、大量のワイトというアンデッド系モンスターに出くわす。
ワイトは動く死体である。
だが、ゾンビのように腐っているという感じではなく、きちんと五体丈夫に揃っている。それでも、顔から生気は感じないので、生きた生物だとは思えない。
ワイトは動きが素早く、さらに耐久力も高い。
その上、魔法が効きづらいという特性を持っているため、物理攻撃で倒すしかない。
ワイトは十体ほどいて、飛びかかってくる。
「パワーエンチャント!」
物理攻撃はあまり得意でないエリーだが、何も出来ないということはなく、ペペロンたち全員にパワーエンチャントをかけた。
ワイトクラスの魔物だと、ペペロンたちでも普通に戦えば、簡単に倒せないのだが、パワーエンチャントがかかった状態なら話は違う。
特にエリー並みに知力の高い者が使用したパワーエンチャントは、能力の上昇量が普通よりかなり多くなる。
今のペペロンたちは、平常時の倍近くの筋力を保持しており、その分、攻撃力は恐ろしい高さに上がっていた。
ペペロン、ララ、ポチは、ワイトを一瞬で葬り去っていく。本来こんな簡単に倒せるモンスターではないので、凄まじい攻撃力だった。
元々そこまで戦闘力のないガスも、パワーエンチャントを受けた状態だとかなり強かった。
戦いだと、スピードはあるがパワー不足が難点だったが、パワーエンチャントのおかげで、その難点がある程度解消されている。
もっとも、ワイトを一撃で葬り去れるほどの攻撃力を身につけているわけではないが、それでも数撃で倒し切ることが出来ていた。
ワイトにはもう少し苦戦するかもしれないと、ペペロンは思っていたが、そんなことはなく楽に倒すことが出来た。
それでも、ペペロンは気を引き締めて、先へと進む。
(しかし、相変わらず不気味な場所だ)
グレイス地下牢跡は、嫌な雰囲気をビリビリと感じる遺跡で、時折苦しそうな叫び声が聞こえてきたり、ガリガリと何かを引っ掻くような音が聞こえてきたりする。
聴覚だけでなく、視覚にも辛い光景があり、地面には骸骨や骨が所々落っこちている。
壁に、黒くなった血の跡がついていたり、拷問を受けたあとのような、鎖で繋がれた骸骨が牢の中に入っていたりと、不気味すぎる光景だ。
マジック&ソードをゲームとしてプレイしていたときは、そこまでグラフィックがリアルではなかったので、そこまで恐怖心は感じなかったが、現実になってかなり迫力のある光景になっている。
ステータスで精神力が上がっていなければ、今頃ビビって逃げてただろうなと、ペペロンは思った。
ペペロンたちは、先へと進む。
グレイス地下牢跡は、複雑な構造になっている。
何か不慮の事態が生じて、囚人たちが脱走しても、簡単には外に出られないように、複雑な構造にしている、という設定のようだ。
ペペロンたちが向かうのは、地下牢の一番下の階だ。そこに強力なボスモンスターがいる。
このモンスターを倒すことに成功すると、宝が多く手に入る。
「ガス、罠を解除してくれ」
「了解っすー」
ペペロンはガスにそう頼んだ。
グレイス地下牢跡には、罪人を逃さないためというのと、外部から侵入者対策として、様々な罠が仕掛けられている。
ガスに解いて貰ってから先に進まないと、大ダメージを受ける恐れがあった。
ガスはペペロンの指示に従い、罠を解除する。
罠は主に床に仕掛けられていることが多い。踏んだら壁から矢が飛んできたり、落とし穴になっていたり、様々な仕掛けがある。
ガスに解いてもらわないと、非常に危険である。
「解けたっすよー」
しばらくして、ガスがそう合図をした。
「助かった。流石ガスだ。頼りになる」
ペペロンはガスの働きを労うようにそう言った。
ペペロンたちは先に進む。
看守たちが使っていたと思われる部屋の中に、宝箱があるのでそれを回収する。
看守の部屋の中には、ワイトが数体いた。
さらに一体、一際大きなワイトもいる。
ワイト・エリートだ。
通常のワイトより、ありとあらゆる能力が一段階高い。
パワーエンチャントの効果は持続中である。
知力の高いエリーが使ったパワーエンチャントは、能力上昇量が多いだけでなく、魔法の効果持続時間も長かった。
通常のワイトを全員で蹴散らしていき、最後にワイト・エリートとの戦いになる。
ワイト・エリートは強いのだが、一対五の状態なら流石に瞬殺可能だ。
最初ペペロンが斬り、一撃では倒せなかったが、体勢が崩れ、その隙にポチが大剣で一刀両断にした。
序盤はペペロンの想像よりも、楽に進んでいた。
ただ、油断は禁物である。
奥に進めば進むほど、敵は強くなっていく。
先ほどのワイト・エリートが、大量に湧いてくる場所もある。
決して侮って良いような場所ではなかった。
ペペロンはそれをしっかり頭に入れて、慎重に先へと進んだ。
再びガスに罠解除を頼み、手際良く罠を解除してもらった。
グレイス地下牢跡に仕掛けられた罠は、非常に解きにくく設計されているのだが、ガスには全く関係ないようだ。
先に進むと下の階に行くための、階段があった。
グレイス地下牢跡は、地下八階まであり、下に行けば下に行くほど、凶悪な犯罪を犯した者や、逃がしてはいけない重要人物が収監されていたようだ。
一階降りる度に、モンスターの強さも上がっていく。
ペペロンたちは階段を降りた。
早速、モンスターに出会う。
黒い鎧を身につけた亡霊、ゴーストナイトだ。
ポチが持っているような巨大な大剣を持っている。
四体出てきて、ペペロンたちに向かって、大剣を構えている。
構えながらジリジリと間合いを詰めてきて、そして飛びかかってきた。
ゴーストナイトは鎧の下に実体がないため、物理攻撃が効きづらい。
倒すなら魔法を使う必要がある。
「ギガフレイム」
エリーが早速使用した。
ゴーストナイト四体全てを爆炎が飲み込んでいった。
ただ、ゴーストナイトはそれだけでは倒れなかった。
耐久力も並大抵ではない。
ゴーストナイトは、一旦距離を取り、大剣を背中で背負う。
その後、小手を弄り出した。
小手に小型のクロスボウが仕掛けられていたようだ。小さめの矢が、高速で飛んでくる。
ゴーストナイト全員が、同じ動きをしていたので、四本分矢が飛んで来たのだが、ポチが前に出て、それを全て受け止める。
その後、今度はエリーでなくララが、ギガフレイムを撃った。
万能型のララは、近接戦闘でも強いが、高威力な魔法も使うことが出来る。
エリーのギガフレイムを喰らっていたゴーストナイトたちは、だいぶ弱っていたため、ララのギガフレイムがとどめとなり、消滅した。
鎧の中にいたゴーストが消えたようで、黒い鎧が地面に落っこちる。
これはアンデット系モンスター以外が、装備すると呪われてしまう防具であるので、拾う意味はあまりない。
呪いを解くと装備出来るが、呪いを解くのには魔法が必要で、魔法書を獲得出来ていないので現状ペペロンたちは、呪いを解く魔法を使用することは出来ない。
そもそも、仮に利用出来たとしても重すぎるので、バッグを圧迫してしまう。
ゴーストナイトの鎧は完全に無視して、先へと進んだ。
二階は一階に比べて、強いモンスターが出てくるとは言え、ここで苦戦しているようでは、グレイス地下牢跡の攻略は不可能だ。
ペペロンたちは、出てくる敵をそれほど苦労せずに、どんどんと倒して先に進んでいく。
グレイス地下牢跡には、物理攻撃がほとんど効かなかったり、逆に魔法攻撃がほとんど効かなかったりと、極端な耐性を持っている敵がほとんどである。
ペペロンは、ゲーム時代に培った知識が多いので、きちんと敵に合わせて、攻撃を指示していた。
どんな攻撃も通用しないというモンスターは、当然マジック&ソードには絶対に出てこない。人を選ぶゲームと評されるゲームではあるが、決してクソゲーというわけではない。
二階で宝箱なども回収しながら進んだが、良いものは出てこなかった。
ただ、宝石類など金になりそうなものは、入手出来た。
行商人が今後は定期的に拠点を訪れるだろうから、今後金はさらに重要になってくる。
全て回収して、バッグに入れた。
三階に行く階段を発見したので、階段を降りて三階へと進む。
降りた瞬間、三階に紫色の煙が立ち込めていた。
これは毒である。
ペペロンたちは毒をもろに吸ったが、何ともない。
これは毒に対して、耐性があるからであった。スキルに毒耐性というものがあり、ここに来ている全員がかなり高い数値になっている。
リーチェやパナなどを連れてこなかったのは、ダンジョン難易度が高いというのもあるが、この毒の存在も大きかった。
二人の毒耐性はまだ上がっていない。
三階は、そこら中に毒があり、回避するのは不可能である。連れていくことは出来なかった。
毒を全く気にせず、ペペロンたちは先へと進む。
リッチ・エリートという、通常のリッチを大幅に強化したリッチが出現した。リッチ・エリートの周りには、レッド・ゴーストとイエロー・ゴーストが十体ほどいる。
リッチ・エリートには、魔法攻撃はほとんど通じず、レッド・ゴースト、イエロー・ゴーストには、逆に物理攻撃が通用しない。
「リッチ・エリートはポチとガスで、残りのゴーストたちは、エリー、ララ、私で対処する」
ポチとガスは、魔法があまり得意でないので、リッチ・エリートを、魔法がきちんと使える三人はゴーストの対処をする。
ペペロンの指示にすぐに従い、部下たちは戦闘を始める。
イエロー・ゴーストは、ギガフレイムで倒し、レッド・ゴーストはブリザードで凍らせていく。
敵の数が多いので、すぐには倒しきれず、ゴーストが魔法を使うのを許してしまった。
メガフレイムの魔法である。
ペペロンとララは避ける。エリーは直撃したが、ほぼ無傷である。彼女は、魔法防御力が非常に高いので、ちょっとやそっとの魔法攻撃ではダメージを喰らうことはない。
ポチとガスは、リッチ・エリートと戦っていた。
リッチ・エリートはそれなりに強い上に、瞬間移動をしてくるため、攻撃が当てづらい。
「おら!」
ポチはリット・エリートを斬るが、手応えがなく瞬間移動をされて避けられてしまった。
どこに行ったと、ポチは探し、剣の間合いからだいぶ離れたところに、移動したことを知る。
その位置から、ダーク・スピアの魔法を使われる。闇属性の攻撃魔法だ。
闇で出来た魔法の槍が、ポチに向かって放たれる。
全部避けて、攻撃しに行くが再び瞬間移動で避けられた。
「だあ!! 面倒なやつだ!」
イラついて、ポチは声を荒げる。
ガスは冷静に、瞬間移動をする位置を予知しており、そこに向かってナイフを投げた。
予想通りリッチ・エリートは出現。
ガスのナイフが突き刺さる。
彼の投げたナイフは、特殊な効果があり、敵の動きを一時的に、止める効果がある。
止まる時間は一瞬だが、ポチにとっては十分すぎるほど長かった。
一瞬で、リッチ・エリートとの距離を詰めて、一刀両断した。
耐久力はそこまで高くないリッチ・エリートは、ポチの攻撃を耐え切れず、一撃で死亡した。
それと、ほぼ同タイミングで、ペペロンたちもゴーストたちを仕留め終わる。
三階から、モンスターのレベルはさらに上がるのだが、まだまだ五人には余裕が見えた。
「ん? これは……」
ポチが地面に落ちていた何かを拾う。
薄っすらと光る白い球であった。
「リッチ・ソウルだな。貰っておこう」
リッチというモンスターは、今まで倒した敵の魂を集め、球体にすることがある。それをリッチ・ソウルという。
強いエネルギーがある物質で、素材にすることが出来る。
マジック&ソードをゲームとしてプレイしていたころは、何も考えずリッチ・ソウルを素材にしていた。
だが、よく考えると、集めた魂の中にヒューマンとか小人みたいな、知恵のある種族の魂もあるかもしれない、とペペロンは気づいた。
現実であると考えると、それを素材にするのはいいのかと、少し悩んだが、この球体の状態から魂を解放する方法も知らないし、深く考えすぎず使った方がいいとペペロンは結論を出した。
リッチ・ソウルをバッグに入れて、先へと進む。
この階から、道に落ちている骨の量が、やたら増え始めてきた。毒にやられた冒険者のものだろう。不気味な雰囲気が、一段階増してくる。
看守の部屋に入り、牢屋の鍵を入手する。
上階の牢屋は、開きっぱなしの状態だったが、この階の牢屋は全部閉まっている。
珍しい物が牢屋の中に入っているので、開けて入る必要があった。
ガスにピッキングで開けてもらうことも可能だが、鍵があるならそっちで開けた方が楽だ。
牢屋の鍵を開けて中に入っていく。
レアなアイテムは、宝箱に入っているという感じではなく、囚人が隠し持っている物であるので、ぱっと見どこにあるのかは分からない。
ペペロンもどの牢屋に、何が入っているのかを完全に把握していたわけではないので、とりあえず全部の牢屋に入って、調べることにした。
鍵が一個あれば、この階の全ての牢はそれで開くようになっている。
重要な囚人を多数閉じこめている牢にしては、セキュリティがあまい気がするが、元はゲームであるので、無駄にアイテムを作るのを嫌ったのだろう。
牢を開けていき、中に入る。
骸骨が横たわっているので、それを調べる。
動き出す骸骨もあるので、慎重に調べる必要がある。
ペペロンも、どの牢の骸骨が動いて、どの牢の骸骨が動かないかは、完全に把握しているわけではない。
この部屋の骸骨は動かない。
骸骨の下に、特にレアな物はなかったが、手日記を発見。
興味本位で読んでみる。
無実の罪で投獄されて、看守たちから憂さ晴らしの拷問を受け、発狂していく可哀そうな囚人の心情がつづられていた。
読んでいたら鬱になりそうなくらい、リアリティを感じる日記である。
ステータスで精神力が強化されていなかったら、実際鬱になっていたかもしれない。
マジック&ソードで見た時より、文章に若干変化があるようにペペロンは感じた。
ここまで、リアリティのある文章じゃなかったはずだ。
ゲームはあくまでライターがそれっぽい文章を書いているだけなので、どれだけ文章力があろうと、実際に投獄をされ拷問を経験したライターなどいないだろうから、どこか真実味にかけるが、ゲームが現実になったことで、実際に拷問されて死んだ人間が書いたことにより、リアリティが出たのかもしれない。ペペロンはそう仮説を立てた。
ゲームが現実になったことで、思ったより色々な物が変わっているのだなと、ペペロンは改めて思った。
その牢から出て、ほかの牢も調べていく。
次の骸骨は動いてきた。
触った瞬間、起き上がった。普通なら心臓が止まるほど驚くところだが、五人は全員精神力が高いため、その程度で驚くことはなかった。
瞬時に戦闘態勢をとる。
生前、強い人物だったのか、手練れであったが五対一で負けるはずはなく、一瞬で勝利した。
牢屋を物色すると、珍しい装飾品があった。
暗黒のネックレスである。闇属性に対する耐性を上げる装飾品だ。
すでに五人の闇属性耐性は高い。住民たちにあげるにしても、闇属性の攻撃をしてくる敵など、グレイス地下牢跡くらいにしかいないので、あまり必要のないものであるが、結構高い値段で売れる物である。
実用性でなく装飾品として、価値があるようだ。ペペロンは暗黒のネックレスをバッグに入れる。
その後も牢の中に入っていき、色々な品物を入手した。
三階を巡り続けて、階段を発見し、四階へと降りる。
四階は広大なスペースがあり、牢屋のほかに看守たちの休憩所も存在していた。
休憩所は階段を降りて少し歩くとすぐにある。
現在のグレイス地下牢跡の休憩所は、広いスペースなので、大量のアンデット系モンスターがいた。ゴースト・ナイトや、ワイト、リッチ・エリートにゴーストなど、様々なアンデット系モンスターが、休憩所を埋め尽くしている。
数にして三十体以上はいそうだった。
普通なら尻込みするような光景であるが、このアンデッド系モンスターは、ペペロンたちからすれば、それほど厄介な敵ではない。
攻撃を喰らってもほとんどダメージを受けないので、負ける心配もない。
ペペロンたちは、何の躊躇もせずモンスターだらけの休憩所に足を踏み入れた。
無遠慮に足を踏み入れたため、アンデッド系モンスターの視線を集めた。
常人なら失禁しそうな状況だが、五人は全く焦らず、戦闘態勢を整える。
今回も物理攻撃に耐性がある敵と、魔法攻撃に耐性のある敵、二種類が同時に出現してきたので、前回と同様役割分担をして対応する。
ただ、数が多すぎるので、中々上手く分担しきれなかった。ポチをゴーストが狙ったり、エリーがワイトやリッチ・エリートに狙われたりと、面倒な状況になる。
特にエリーは、魔法防御力は高いが、物理に対する防御力はそれほど高くない。
ワイトに攻撃されると、無視出来ないほどダメージを受けることになる。
こういう状況になれば、ペペロンやララなど、物理魔法どちらも使える者がうまく立ち回ることで危機を回避する。
エリーを攻撃してきたワイトは、ペペロンが剣で斬り裂いて、ポチに向かっていったゴーストたちは、ララが魔法で倒していった。
二人が上手く立ち回りつつ、さらにガスがモンスターたちを引きつけて、負担を軽減する。
結果、三十五体ものモンスターをほぼダメージゼロで倒し切ることに成功した。
ペペロンたちは強いステータスだけでなく、モンスターと戦う時の立ち回りも非常に優れていた。
相手の行動パターンをある程度、読むことが出来ているので、先読みして戦うことが出来ている。
「ちょうど休憩所だし、そろそろこの辺りで休息をするか」
この階に降りるまで、戦いっぱなしだったので、ペペロンたちは疲れが見えていた。
敵を殲滅して、休憩所を使えるようになったので、しばらくここで休むことにする。
休憩所には、机や椅子のほか、ベッドやソファなども置いてある。
休むにはうってつけの場所であった。
「あ~。俺は腹が減ったぜぇ。ペペロン様、飯食いましょうぜー」
ポチがだるそうに椅子にどっしりと座ってそう言った。
「ペペロン様の前で何という態度を! 行儀が悪い!」
ポチの態度をララが叱る。
「良い。私も腹は減っているので、食事にしよう」
王都グレイス跡に到着してから、ここに到着するまで、食事は一切取っていない。
流石にそろそろ食わないと、とペペロンは思っていた。
バッグの中に入っている携帯食を取り出す。
燻製肉や、パンなどだ。
はっきり言って味は良くない。
もっと美味いものを食べたいと、ペペロンは思っていたが、長期間の移動だと微妙な物を食べて生活するのは、仕方ないことであった。
異世界に転移したことはペペロンにとって、ラッキーなことではあった。
一番好きなゲームの世界に転移出来たのだから、当然ではある。
しかし、食事に関しては、大いに不満はあった。やはり日本にある食べ物を考えると、異世界の料理は正直言ってあまり美味しくはない。
料理はスキルが存在するので、上げていれば美味しい物が食べられるだろうが、ゲーム時代は特に重要ではなかったので、料理スキルが高い部下が存在しない。
これから先、料理人の育成もすべきだと、ペペロンは食事のたびに思っていた。
全員で、食事をとる。
ペペロン以外の者は特に食事に不満はないようで、美味しそうに食べていた。
「あ! それ俺の燻製肉だろ! 取るな!」
とポチに燻製肉を取られそうになって、ガスが取り返した。
「ぐ……パンだけだと食い足りねーんだよ。パンと交換しようぜー」
「それは俺も一緒だっつの! 我慢しろ!」
ポチはガスに言われて、がっくりと肩を落とす。
「ふむ……」
エリーがパンをもぐもぐとハムスターのように、小刻みに食べながら、地面に転がっているワイトを見る。
ワイトは片付けずに放置されていた。
ゴーストなど実態がないモンスターは、死んだら消滅するが、ワイトは別である。
死体が転がっているような場所で飯を食べるようになり、気分を害してもおかしくない。
「食べ心地が悪いか? なら、どかそうか?」
ペペロンが気を使ってエリーに尋ねると、エリーは首を横に振った。
「違います。ワイトって……焼いたらもしかして食べられるかなって……」
エリーはとんでもないことを考えていた。
「いや、食べられんだろ」
「というより、食べちゃ駄目ですわ! 今はアンデット系モンスターですが、多分元は何らかの種族だったでしょうから!」
人肉を食べるようなものである。
倫理的に間違いなくアウトな行為だ。
「うーん、でもゴーストは実態がありませんし、リッチ・エリートは骨ですしね。ここのモンスターは、食べられませんね……」
「そんなに腹が減っているのか? エリーは」
「いえ。私は少食ですので大丈夫ですが、皆さんは大丈夫ではないかと思って。特にポチさん」
「お、俺たちのためだったのか」
「お気遣いは嬉しいですが、ワイトを食べるのはちょっと……」
「皆様のためというより、空腹だとパフォーマンスが落ちるため、危険が増えるでしょうから、そのための対策です」
エリーは冷静な表情でそう言った。
本心から言っているようだった。
彼女は頭が良いため、基本的に合理的に物事を考えているのだろう。
「私は、小人なのでそれほど食べ物はいらないから、これで十分だ」
「流石ペペロン様です」
エリーは誉めたが、今のは流石と言われるようなことなのか……? とペペロンは悩む。
「携帯食が足りなくなると困るから、なるべく早く攻略しないとな」
「そうですね」
「頑張るっす!」
ペペロンの言葉に、部下たちがやる気を入れ直した。
携帯食を食べ終えて、先へと進む。
本来は眠らないといけないくらい、ずっと起きて活動を続けている五人だが、ある程度の時間眠らなくても、行動を続けることの出来るスキルを、全員所持していたので、眠らずに先へと進む。
休憩所を出て、四階の探索を開始。
この階のモンスターはほとんど、休憩所にいたようで、他の部屋や廊下ではほとんど姿が見えなかった。
出くわしても、一体か二体で出てくるという感じで、まるで脅威ではなかった。
この階の牢屋の中には、価値の高いものをあまり所持していないので、確認する必要性はなかった。
あまり無駄に歩き回ったりはせず、すぐに下の階へと降りて五階に行く。
この五階から、難易度が急激に上がっていく。
ペペロンたちは気を引き締め直して、五階へと降りた。
○
ペペロンたちがグレイス地下牢を攻略しているとき、拠点ではファナシアの苛烈なしごきが行われていた。
「こらー! 休むなー! あと十周だぞー!」
「勘弁してくださーい……」
「もう十分だろー……」
リーチェとパナは、走りながら力なく返事をした。
冗談抜きで、拠点を百周させられていた。
当然、全員ヘロヘロになっている。
ファナシアも一緒になって、全員の後ろを走っており、遅れそうになったら喝を入れられるので、簡単に速度を落とせない。
全員、死ぬ思いで走り続けていた。
「おらー! スピードが落ちてるぞー! ペース維持しろー!」
喝を入れられ、集団の走る速度が少し上がる。
「あの人ずっと走ってついてきてるのに、なんであんなに元気なんだ……」
「ファナシアさん、体力ありすぎだよー」
ファナシアは、後ろでずっと走り続けている上に、さらに定期的に叫んで喝を入れているのにもかかわらず、ほとんど汗をかいておらず、涼しげな表情であった。
どれだけの時間戦い続けても、簡単には息が切れない無尽蔵なスタミナをファナシアは持っていた。
その後、ヘロヘロになりながら何とか十周走り終えた。
走り終えた瞬間、全員その場で倒れこむ。
「な、何とかなるもんだね……」
「最初は絶対無理だと思ってたけどな……」
百周走るのは、最初は無茶だと思っていたが、何とか走り切ることが出来て案外何とかなるもんだと、寝転がりながら二人は思った。
「よーし、皆、よく頑張ったよー。三十分休憩! そのあと、筋トレを始めるよ!」
「「「ええええ!?」」」
訓練で叫ぶ元気もないくらい消耗していたのだが、それでも訓練を受けていた全員が叫ばざるを得なかった。
先ほどの地獄のようなランニングを終えたあと、三十分後に訓練をまたするなど正気の沙汰とは思えなかった。
一旦家に帰って疲労を癒す必要が、どう考えても必要だった。
「む、無茶ですよ!」
「そうだ! 殺す気か!」
リーチェとパナも、全力で抗議する。
「むう? アタシに口答えする気かー?」
ファナシアは見た目的には、あまり迫力を感じないが、その実力を知っているだけに、リーチャとパナは口を閉じてしまう。
「ファナシア。訓練はやり過ぎると、良くない」
そう言いながら、ドシンドシンと巨体を動かして、ノーボがやってきた。
やった、助け舟が来たと、一同安心する。
「えー? やり過ぎないと訓練じゃないでしょ」
不満げな表情でファナシアが反論する。
「どういう考えですか、それは。疲労困憊の状態で訓練をしても、中々成長しなくなるし、怪我をするリスクが高くなるだけで、効率は非常に悪いです。訓練は効率よくやらないと」
「じゃあ、どうすればいいのさー」
「まず、休憩は三十分から一時間にします」
ノーボの言葉を聞いて、一同は「ん?」と思った。
三十分よりましではあるが、この疲労度では一時間でも回復は無理だ。
休憩時間を長くするというより、今日はもう訓練はやめにして、明日にしようとノーボは言うと思った。
「その後、筋トレとして、腕立てや腹筋、スクワットなどを各五百回ずつやり、再び一時間休憩。あ、ちなみに休憩するタイミングで、パワーエンチャントの発動訓練をやりますね。魔法を使うのに、魔力は消費しますが、体力の消費はないですから。それから……」
地獄のようなトレーニングのスケジュールをノーボは語り始めた。
休憩時間に魔法の練習をするというのも、そんなことで休憩出来るかと、一同愕然とする。
「えー!? そんなの全然緩いよー!」
ファナシアの反応を聞いて、再び愕然とした。
一体、どんな訓練をするつもりだったんだ? という疑問が全員の頭の中に浮かんだ。
「とにかくこれが、それほど消耗せず効果的に鍛えることの出来る、訓練のスケジュールです」
「むー、まあ、ノーボが言うなら正しいだろうけどさー」
どっちにしろ、地獄のような日々が待っていることを、住民たちは悟るのであった。
○
グレイス地下牢跡の五階にたどり着いたペペロンたちは、最初にレッド・ゴーストキング、ブルー・ゴーストキング、イエロー・ゴーストキング、グリーン・ゴーストキングと交戦をしていた。
ゴーストキングは、通常のゴーストを一段階大きくして、強力にしたアンデット系モンスターだ。
色も、風属性の魔法を使うグリーンと、氷属性の魔法を使うブルーが新たに出ている。
それぞれの種類が三体づつ同時に出現してきた。
様々な属性の魔法が飛び交い、さらにゴーストたちが動き回って物理攻撃もしてくる。
物理攻撃への耐性もさらに高まり、ゴーストキングはどれだけ強い攻撃でも、凍らせでもしない限り、一切物理のダメージを受けない。
ペペロンたちは、とにかくギガフレイムをまず乱発した。
ここまで来て、魔力を温存などする必要はない。
というより、ここでちゃんと戦うために、魔力を温存しつつ今まで戦ってきたのに、ここでも温存していたら意味がなくなる。
ギガフレイムは、レッド・ゴーストキングには通用しないが、ほかのゴーストキングたちには、ダメージが入るので、まずはレッド・ゴーストキング以外を狙い撃ちする。
一応、ガスもポチも魔法を使うことくらいは出来るので、ここは使っていた。
あまり威力はないので、それほどダメージを与えることは出来ていないが。
ゴーストキングたちは、広範囲に効果を発揮する、強力な魔法を使用してくるので、避けきれず魔法を喰らってしまう。
ある程度、ダメージを受けてしまったが、これは仕方のない負傷だと、割り切るしかない。
一体一体確実に倒していき、そして、何とかレッド・ゴーストキング以外のゴーストキングを殲滅した。
レッド・ゴーストキングの攻撃は魔法ではなく、エリーを狙って物理攻撃をしてくる。
ゴーストキングは、瞬間移動を使える。
背後に回り込んで、殴りつけてきた。
「エリー!」
ペペロンが瞬時に反応して、エリーを庇った。
レッド・ゴーストキングの攻撃を間一髪で受け止める。
それを見たエリーが、「ブリザード!」と氷属性の魔法を使用。
レッド・ゴーストキングを凍りつかせる。
瞬間移動での攻撃をレッド・ゴーストキングはララにも行ってきたが、ララはエリーより近接の攻撃を得意としているので、瞬時に反応し避ける。
その後、自分でブリザードを使用して、レッド・ゴーストキングを凍らせた。
残りの一体は、魔法を使用してきた。
ペペロンたちも使っていた、ギガフレイムである。
使わせる前に、ペペロンがブリザードを使用して、凍らせた。
これで三体とも凍らせて、あとは動けなくなったレッド・ゴーストキングを、ビッグボムで爆殺していった。
「ペペロン様……ありがとうございます」
「部下を守るのは私の役目だ。当然のことをしたまでだ」
ペペロンにそう言われて、エリーは、ポッ……と頬を赤く染める。
ララはそれを見ながら、
「う……羨ましい……私は接近戦が出来るし、同じように助けられたりは……わざと……するのはペペロン様に迷惑だし……」
と助けられたエリーを羨ましく感じているようだ。
全員、少しだけダメージを受けていたので、ヒーリングの魔法を使用し回復した。
軽傷だったので、あっさりと全快する。
ヒーリングは初期から使える簡単な魔法なので、魔力もあまり消費しなかった。
「何かいっぱい落ちてるっすね」
ガスが床を見ながらそう言った。
床にゴーストキングたちのドロップアイテムが、散らばっていた。
ソウル・リキッドというアイテムだ。
半透明の液体のような物体だ。よく見ると、地面には付いておらず、少しだけ浮いている。
触ると生温かい感触がある。
赤色、緑色、黄色、青色と、それぞれのゴーストキングの色のソウル・リキッドがある。
防具や武器を作ったりするときの素材になる。
これを混ぜると、防具の場合、色に応じた属性に耐性が付き、武器の場合は属性が付与される。
液体の素材があった場合を考えて、容器を持ってきているので、ペペロンたちはいくつか採集した。全部を取ることは出来なかった。
五階を探索。
この階には、罠がほかの階より多めに仕掛けられている。
ガスがどんどん罠を解除していく。
五階の罠は、上階の罠よりもさらに解除が難しくなるのだが、それでもガスにとっては何の問題もなく、簡単に解除していった。
(ガスの罠解除能力は、MAXだからな。マジック&ソードの最難関ダンジョンにある罠でも、ガスの手にかかれば解除出来るし、グレイス地下牢跡なら楽勝だな)
部下の能力ではあるが、ペペロンは鼻を高くしていた。
五階には中央に懲罰室が設置されている。
ペペロンたちはそこに向かった。
中にはレアなアイテムが出る確率が高い、宝箱がある。
ぜひ回収しておきたかった。
懲罰室に到着する前に、ワイト・エリート五体に遭遇する。
ゴーストキングたちとの戦いでは、目立った活躍が出来なかったポチが、その鬱憤を晴らすかのように、大剣で敵を斬りまくった。
ワイト・エリートは、非常に強いモンスターであるが、ポチの圧倒的な破壊力の前に、一刀両断され、行動不能にされる。
その後も、出現したアンデッドモンスターたちを倒しつつ、懲罰室へと向かう。
扉があった。鍵がかかっているので、ガスがピッキングで開く。
懲罰室はかなり広い部屋だ。
何らかの違反を犯した囚人たちを反省させるという名目で作られているこの懲罰室だが、部屋の中に置かれているものは拷問器具ばかり。
道徳を説いて反省を促したというわけではなく、痛みと苦痛を与えて、違反を犯す気を失くさせるための部屋だ。
「ひっひっひっひっひ……囚人は痛めつける……徹底的になぶる……死んだらばらして、トイレに流す……ひっひっひっひっひ……囚人は痛めつける……」
狂ったような呟きがペペロンたちの耳に入ってきた。
この懲罰室には、所謂ダンジョンの中ボスがいる。
囚人たちを拷問していたと思われる看守の亡霊である。
モンスター名は『アラドール』。看守の生前の名前であると言われている。
見た目は非常に恐ろしい。
ぎょろッとした目と、大きく裂けた口。
鞭を右手に、左手に大きなハサミを持っている。
足はなく浮遊している。
ボロボロになった、看守服を身につけており、服には血の痕が染み込んでいる。
見る人が見れば、トラウマになるような見た目の、恐ろしいモンスターだ。
ペペロンは、マジック&ソードをプレイして、初めてアラドールに出くわした時は、あまりにも驚いて、一目散でダンジョンから逃げ出した経験がある。
それ以降、トラウマとなり、珍しいアイテムが手に入ると分かっていても、中々行くことが出来なかった。
数ヶ月後、ようやく勇気を出して、攻略に乗り出し、何とかビビりながらも倒した。
それ以降も、何度かグレイス地下牢跡へは行ったが、何度行ってもアラドールには苦手意識を感じていた。
今回は、現実になったことで、さらにリアル感が増して、怖さも増している。
ペペロンの姿になり、精神力が増しているとはいえ、転移前の記憶も相まって、若干たじろいだ。
だが、怯えているところを、部下たちに見せるわけにはいかないので、冷静になって、速くなっていた心臓の鼓動を何とか抑える。
(……大丈夫だ。こいつは強いし、見た目も怖いモンスターだが、今の俺たちなら全然倒せる……よし)
自分に言い聞かせて、パニックになるのを何とか抑えた。
アラドールが、ペペロンたちの侵入に気づいた。
「侵入者……? 侵入者も囚人も同じ目に遭わせる」
敵の侵入に気がつくと、アラドールは台詞を変える。
その瞬間、鞭を地面にバチんと叩いた。
部屋の中には棺桶がいくつかあり、その中からワイト・スペシャルが出てきた。
アラドールが、通常のワイトに何らかの改造を施して作り出した、特殊なワイトである。
ワイト・エリートをさらに強化したような身体スペック。
そして、魔法は完全無効で、物理攻撃に対する防御力も高いため、非常に耐久力がある。
ワイト・スペシャルは全部で五体出現した。
「ワイトは、ポチが倒してくれ。アラドールは私とララとエリーでやる。ガスは、両方の援護を頼む」
すぐにペペロンが指示を飛ばした。
部下たちは指示通り、戦闘を開始する。
ポチがワイト・スペシャルたちと戦闘を開始。
通常のワイトなら、一撃で倒せるが、ワイト・スペシャルは倒せなかった。
ただ、かなりのダメージが入っているのは分かる。
これならそれほど苦戦はせず、五体くらいは倒せるだろう。
問題はアラドールだ。
ギョロリとした目で、ペペロンたちを見つめている。
動きはまだ見せてこない。こちらの出方を窺っているようだ。
「ギガフレイム!」
エリーが出し惜しみせずに魔法を使用した。
だが、避けられてしまう。アラドールは速度が非常に速いため、簡単に攻撃を当てることが出来ない。
回避したあと、ハサミで攻撃してきた。
ペペロンが剣で対応する。
アラドールは、物理攻撃を無効にするため、剣で傷つけることは出来ない。
「ブリザード」
まずは凍らせて、動きを止めるか鈍らせようと思い、ペペロンはブリザードを使用した。
アラドールは、瞬時に動いて、ブリザードも回避する。
「細切れになれ、『サウザンド・ソード』」
そう呟くと、黒い短剣が次々に出現した。
サウザンドと言っているが、千本はあるようには見えない。精々、百本くらいだろうが、それでも十分大量の短剣があった。
多数の短剣は、不規則に動き始め、ペペロンたちを切り刻もうとする。
軌道が読みづらい攻撃だが、ペペロンは自身の剣を高速に振り回し、短剣から身を守る。
自分だけでなく、近くにいたエリーに当たりそうな短剣も片っ端から切り落としていった。
魔法攻撃への防御力は高いエリーだが、魔法攻撃にも色々あり、こうやって短剣などの刃物を魔法で作って攻撃するのは、物理攻撃に該当する。
ペペロンは何とか自分の身とエリーを守り切った。
ララとガス、ポチは、自分で防ぎ切ったようだ。
「ギガフレイム」
守られているばかりではいられないエリーが、ギガフレイムを使う。
サウザンド・ソードを使うと、アラドールは僅かな時間動けなくなる。
今度は避けられず、エリーのギガフレイムが直撃した。
「ぐぐぐぐ…………侵入者風情がぁ……」
恨みをこもった呟きを漏らす。
かなりのダメージを負ったようだが、まだ倒れてはいないようだった。
再び鞭を地面に打ちつける。
すると、空中から白いゴーストキングたちが七体出現した。
白のゴーストキングは、何の魔法も使えず、物理攻撃だけをしてくる。
瞬間移動は出来て、攻撃力も通常のゴーストキング同様高いので、魔法が使えなくても普通に手強い敵である。
「ギガフレイム!」
ペペロンは、瞬時に魔法を使って、攻撃した。
魔法はゴーストキングに直撃する。ペペロンは接近戦だけでなく、魔法攻撃も非常に強いので、一撃で葬り去る。
ゴーストキングは、ポチの背後に瞬間移動する。
ポチはすでにワイトを倒し切っていたので、すぐに反応して大剣でゴーストキングの攻撃を防いだ。
ゴーストキングは、攻撃する際、透過するというわけではないので、剣でも防ぎ切ることが可能だ。
「ブリザード!」
大剣で反撃は出来ないので、ブリザードを使用。
知力がそれほど高くないポチのブリザードは、あまり効果は高くない。
しかし、ゴーストキングの動きを、少し遅くするくらいの効果はあった。
ノロノロと移動しているゴーストキングに、ララがギガフレイムをぶつけて倒した。
「内臓をぶちまけろ!!」
物騒なことを叫びながら、アラドールは巨大なハサミで、ペペロンを斬り裂こうと、ハサミを開きながら、飛びかかってくる。
凄まじい速度だったが、ペペロンは何とか反応して、剣で受け止めた。
アラドールが攻撃してきた、今が魔法を当てるチャンスと瞬時に判断し、ギガフレイムを使用する。
「ウガアアアアアア!!」
顔にギガフレイムが直撃して、アラドールは苦しみ始める。
エリーがトドメに、ギガフレイムを使ってアラドールを倒した。
ゴーストキングが余っていたのだが、アラドールを倒したら一緒に消滅していった。
今回もそれほど消耗をせずに、中ボスを倒すことが出来た。
ここまでは相当順調に攻略出来ている。
もう少し、消耗しているだろうと予想していたが、この結果だ。ギガフレイムとパワーエンチャントを習得出来たことが大きかったようだ。
アラドールを倒した瞬間、部屋の中央に宝箱が四つ出現する。
鍵はかかっていない。
ペペロンは早速宝箱を開いた。
一個目の宝箱の中身は宝石。
二個目は未鑑定の絵が描かれた皿だった。
芸術品に分類される品だ。基本的に何の効果もないのだが、芸術品が好きな者にあげると好感度を一気に上げることが出来る。
商人に売っても高く売れる。
ただ、あくまで鑑定の結果次第である。
偽物だった場合、ただのゴミに成り下がる。
美術品は数が多すぎて、ペペロンも完全には把握していない。
(多分、ルド・メイカー作の、一級品の皿だと思うが……本物かどうかは分からんな)
偽物の場合、僅かに違いがある。
ルド・メイカー作の一級品の皿は、転移前に見たことはあるが、だからといって、鑑定可能なほど見て模様を覚えたわけではないので、分からなかった。
あとで、鑑定士のいる町まで行って、鑑定をしに行かないといけない。
三つ目の宝箱の中には、腕輪が入っていた。
パワーを高める効果がある、剛力の腕輪である。
アクセサリをつけていない住民たちのために持っていこうと思ったが、ふとペペロンは気になる。
(マジック&ソードはシステム上、アクセサリを複数装備は不可能だった。しかし、現実になったら可能なのではないか?)
現在ペペロンは『スピードスフィア』という、アクセサリを装備している。
白い小さな球体で、スピードがかなり上がる効果がある。
体のどこかに身につけず、ポケットに入れるだけで装備となるので、本来アクセサリでも何でもないのだが、ゲームのシステムではアクセサリ扱いを受けていた。
スピードスフィアをポケットに入れた状態で、ほかの何らかの効果を発揮するアクセサリを装備することは出来ない。
ちなみに、効果を発揮しない体を着飾るためのアクセサリは、装備可能である。
ゲームから現実になった今、ポケットにスピードスフィアが入っているだけで、腕輪を付けられなくなるという奇妙な現象は起こらないのでは? と思ったペペロンは剛力の腕輪を取って、腕に付けようとした。
しかし、途中で見えない壁に阻まれて、付けられなくなった。
「ペペロン様。スピードスフィアを持ってるので、腕輪はつけられませんよ」
「う、うむ、そうであったな」
とララが指摘してきたので、瞬時に付けるのをやめた。
現実になろうと、効果のあるアクセサリを二つ装備するのは、不可能だったようだ。
諦めて、拠点に戻った時に住民にやろうとペペロンは思う。
「ふふふ、たまに抜けているところがあるのも、また素敵ですわ」
ララは微笑ましいものを見るかのように、ペペロンを見てつぶやいた。
好感度が落ちていないようで、ペペロンはホッとする。
最後に四つ目の宝箱を開けた。
魔法書が入っていた。
二等級の魔法、エア・バズーカである。
風属性の魔法だ。風の大砲を相手にぶつける魔法で、当たったときのダメージに加え、吹き飛んだ時の衝撃でもダメージを与えることが出来る、強力な魔法である。
現在、強力な攻撃魔法は、炎属性のギガフレイムしかなかったため、二等級の風属性の魔法を入手出来たのは大きかった。
これで、炎属性に耐性を持っている敵でも、倒しやすくなる。
宝箱から出てきたものをバッグに詰め込んで、五人は先に進んだ。
六階へ行く階段を見つけて、下の階へと降りる。
下に行けば行くほど、難易度の上がるグレイス地下牢跡であるが、六階は例外的に五階より難易度が低く設定されている。
五階どころか三階より難易度が低いくらいだ。
敵も弱ければ、出てくる数も少ない。
五階まで進んで、消耗し切った冒険者に束の間の憩いを与える、休養階と呼ばれていた。
七階からは地獄のように難しくなるので、油断させるための階と指摘するプレイヤーも少なくはない。
この階の敵はあっさりと苦戦することなく倒していく。
難易度が低い分、宝箱などもない。
すぐに攻略をして、七階へと降りた。
七階、八階の難易度は相当高くなる。
まずガスに罠を解除させて、慎重に先に進んだ。
しばらく歩くと、女性の啜り泣く声が聞こえてくる。
「私は……悪くないのに……何で? 何でなの?」
声は一つではない。
今度は、恨みのこもった女性の声が聞こえてきた。
「呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる」
ほかにも色んな負の感情がこもった女性の声が、次々に聞こえてくる。
先へと進むと、生気のない顔をして佇んでいる、ドレスを身につけた女性のゴーストが数体いた。
この階から大量に出てくる、バンシーというアンデット系モンスターである。
瞬間移動をしたり、強力な魔法を使ってくるゴーストで、ステータスはゴーストキングを上回る。
使ってくる魔法も、ゴーストキングのように色によって一種類だけというわけではなく、様々な属性の魔法を操ってくる。
厄介なのは、バンシーは実体化をするという点だ。
ゴースト状態だと魔法が効くが物理攻撃は効かず、逆に実体化すると魔法は効かないが物理攻撃は効くという状態になる。
透けていればゴースト状態で、透けてなければ実体化した状態であるが、コロコロ切り替わるので、非常に厄介。切り替わるのにそれほど時間もかからない。
バンシーたちは、ペペロンたちに気付いた。
その瞬間、瞬間移動をして、ペペロンたちの後ろに回り込む。
あまり賢くはないようで、全員が全て後ろに瞬間移動をした。
振り向いて対応すれば良いだけなので、あっさりと攻撃を受け止められた。
連携して挟み込むように攻めて来られるのが、一番厄介だっただろう。
最初はゴースト状態だったので、エリーがギガフレイムを使用するが、当たる前に実体化される。
それを見たポチが大剣を振るうが、またも当たる前に霊体化してきた。
霊体化したバンシーに、大剣は当てることが出来ない。
見事に空振りをして、ポチは体勢を崩してしまい、その隙にバンシーから頭を殴られる。
「痛ぇっ!」
と声を出す。
防御力が高いので、そこまで強烈なダメージが入ったというわけではないだろうが、それでも攻撃力の高いバンシーのパンチは痛いだろう。
バンシーを倒すのは、とにかく連携が重要だ。
例えば、味方が物理攻撃をした直後、霊体になるタイミングで魔法をぶつけるか、もしくはそれと逆の攻め方をすれば、流石に霊体と実体の切り替えが間に合わず、攻撃が当たる。
物理攻撃をした直後、魔法をぶつけると、味方に魔法が当たってダメージが出る可能性がある。
ペペロンは、魔法攻撃を先にして、実体のある状態にした後、物理攻撃を当てるという方法を取ることにした。
「エリーとガスは魔法を使って実体化させてくれ。使う魔法は最下級のフレイムでいい。私とポチ、ララは実体化したバンシーを攻撃する」
ペペロンは指示を出した。
バンシーを実体化させるには、弱い魔法でも問題はない。無駄に魔力を使う必要もないので、フレイムを使うのが一番だった。
問題はタイミングだ。
魔法が当たった後に物理攻撃をすればいいのだが、バンシーは実体化と霊体を切り替える速度は決して遅くはない。
タイミングを少し間違えれば、空振りをしてしまう。
剣で攻撃をする、ペペロン、ララ、ポチの三人は、高難易度の攻撃となるのだが、いずれも達人級の腕を持っている。
特にペペロンは、ゲームで同じ倒し方をバンシーに対して行っているので、タイミングの計り方はバッチリで、間違えることはなかった。
いつものように、部下たちはスムーズにペペロンの指示を実行に移す。
エリーがフレイムでバンシーを攻撃。
当たる直前、バンシーが実体化する。
タイミングを合わせ、ペペロンはバンシーの首を狙って剣を振るった。
綺麗に首に剣が入り、すっぱりと斬れる。
首が切れても血などは出ず、バンシーの首の断面からは、青白い光が大量に漏れ出ている。
首がなくともバンシーは動き続ける。
効いてないというわけではない。
漏れ出ている青白い光が、バンシーにとっての血のような重要な物質であるので、これが一定以上失われれば消滅する。
首を切った際、青白い光が出る量はかなり多いので大ダメージを与えることが出来ている。
このまま攻撃を加えていけば、倒せる。
首を失ったバンシーは魔法を使用してくる。
風属性の魔法、エア・バレットだ。
見えない風の弾丸を撃ち出す魔法である。
不可視の攻撃であるため、避けるのが困難だ。
ペペロンも、胸の辺りに被弾する。
防具が守っている場所なので、ダメージはほぼなかった。
ほかのバンシーたちは、別の属性の魔法を使用する。
炎属性のメガフレイム、氷属性のブリザードなど、多種多様だ。
全部は回避出来ず、ダメージを喰らう。
ペペロンは、ブリザードを喰らう。
大抵の属性には耐性を持っているため、凍りつくことはなかった。
動きもほとんど遅くはならず、いつも通りのスピードで動くことが出来ている。
ガスは、全ての魔法を躱し切っており、隙をついてフレイムをバンシーに撃つ。
当たった直後、ポチが大剣でバンシーを切り裂いた。
胴体が一刀両断される。
これでもまだ消滅はしない。しかし、上半身のほうは動けなくなっているので、そこにエリーが魔法を放つ。
霊体から実体になった瞬間を狙い、ララが剣で上半身を細かくバラバラに切り裂いた。
こうなると流石にバンシーも消滅する。
上半身が消滅したら、下半身も一緒に消滅した。
バンシーはまだ三体残っている。一体は首がないバンシーだ。
「死にたくない死にたくない死にたくない」
「呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる」
「誰か……誰か……誰か」
などと、バンシーは戦いながらも、不気味な呟きを続けている。
戦闘が発生したからと言って、特に呟く内容を変えないので、かなり気味が悪い。
ペペロンは、自分で首のないバンシーに向かって、フレイムを撃つ。
バンシーに向かって飛んでいくフレイムと、ほぼ同じ速度で動き、当たった瞬間を狙って、胴体を剣で切り裂いた。
青白い光が漏れ、致命的となる量が失われ、首のないバンシーは消滅していく。
残った二体のバンシーは、再び瞬間移動をして、ペペロンの背後を取る。
後ろから抱きついてきたところを、間一髪で回避する。
この攻撃はかなり危険な攻撃で、抱きつかれると、体力を吸い取られてしまう。
もう一体のバンシーは、ガスの背後に行ったようで、ペペロンと同じく避けられていた。
エリーに来られると、少し面倒だったかもしれない。
「フレイム」
エリーのフレイムがバンシーに向かって飛んでいく。
ペペロン、ガス、ララが、同時に動いて、同じバンシーを集中して狙った。
ペペロンは首、ガスは胴体、ララは足元を斬り裂く。
夥しい量の白い光がバンシーの体から漏れた。
ここまでの量が失われると、流石にひとたまりもなく、消滅する。
残りのバンシーは、ガスがフレイムを当て、同じように倒した。
全員、魔法攻撃は何回か被弾していたので、ヒーリングで回復する。
「エリー、残りの魔力はどのくらいだ?」
回復したあと、ペペロンが尋ねた。
七階まででだいぶ魔力を消費したはずだ。
「結構消費しましたけど、六割くらいまだ残ってますよ。まだまだ余裕です」
エリーは平気そうな顔でそう言った。
残り階数は、この階と最終階のみ。
六割残っていれば問題はないように思えた。
(エリーの魔力はやはり多いな。念のため、節約しながらここまで来たが、必要なかったかもしれないな)
魔力消費にそこまで神経質にならなくて、良かったかもしれないと、エリーの様子を見てペペロンは思った。
七階の探索を再開。
この階はバンシーが出てきて、モンスターの脅威度も増すが、罠もより多くなり、さらにかかった場合のダメージも多くなり、解除もしにくくもなる。
だが、ガスは七階の罠もあっさりと手際よく解除していく。
本当に頼りになるとペペロンは思った。
ガスがいないと遺跡の攻略はほぼ無理だなと、ありがたみを実感する。
ララも罠をある程度解除する能力を持っているが、グレイス地下牢跡の罠を解除するのは、出来なくはないだろうが、かなり時間がかかるだろう。
ガスの場合、一つの罠を解除するのに、一分以上かけない。
あまり解除するのに時間がかかりすぎると、遺跡の攻略に時間がかかり、食料などの物資が足りなくなる恐れがあるが、ガスの場合そんな心配は全くしなくてよかった。
ガスが罠を全て解除したあと、先へと進む。
この階に出るモンスターはほぼバンシーである。
マジック&ソードの裏設定では、グレイス地下牢跡の七階は、魔女が狩られて閉じ込められていた部屋らしい。
グレイス王国では、魔法を使うのは男にしか許されないという、変わった法律があったようだ。
罰則も厳しく、全員死刑。
さらに、魔女には何をしてもいいという風潮があったようで、女が魔法を使って捕まった場合、グレイス地下牢跡に収容され、それは厳しい拷問を受け殺されていったようだ。
バンシーはその時の殺された魔女の亡霊であるようだ。
その裏設定を知っているペペロンは、バンシーは可哀想な存在だと思ってはいたが、手加減してこちらがやられるわけにはいかないので、容赦はしないと決めていた。
先を進んでいると、バンシーの声が聞こえ始める。
今度はさっきより数が多い。
八体のバンシーが、ペペロンたちの行く手を阻んでいた。
バンシー以外にも、ワイト・エリートとゴーストナイトがいた。全てのモンスターを合計して、二十五体いる。
ここが七階の山場だとペペロンは思う。
七階で一番モンスターが出るスポットがここだ。
ほかの場所は、バンシーが出て来ても三、四体で、それくらいならば問題なく倒せるだろう。
このスポットにはバンシーが八体いて、ほかのモンスターも非常に多い。
戦い方をしくじれば、痛い目に遭う可能性がある。
「まずバンシー以外のモンスターを処理して、最後にバンシーを倒す。バンシーはガスが引きつけてくれ」
「了解っす」
「……八体は少し多いかもしれないが、問題ないか?」
「大丈夫だと思うっすよ」
引き寄せる対象が、少し多すぎると思ったので、ペペロンは念のため尋ねたが、ガスは即答した。
彼がそう言うのなら、本当に問題ないだろうと、ペペロンは引きつける役を任せることにした。
「じゃあ、頼んだ。それでは戦闘開始だ」
五人はモンスターの群れに向かっていった。
先頭を行くのはガスだった。
最初にガスが、バンシーだけでなく、全てのモンスターの気を引いた。
モンスターの視線を集め、攻撃をされまくるのだが、全てさらりと躱していく。
モンスターたちがガスに狙いを定めているのを見て、残りの四人はゴーストナイトやワイト・エリートたちを倒し始めた。
魔法の効かないワイト・エリートはポチとペペロンが剣で、物理攻撃が効かないゴーストナイトはエリーとララが魔法で倒すよう役割を分担する。
ゴーストナイトは、それほど強い魔物ではないため、ギガフレイム一撃で倒せる。
ワイト・エリートは、一撃では倒せないが、それでも二、三撃で倒せる敵なので、それほど一体を倒すのに苦労はしない。
ガスに気を取られていたため、奇襲を仕掛けたような形になったので、五体はあっさりと倒した。
仲間がやられたことで、モンスターたちはペペロンたちにも視線を向け始める。
バンシーもペペロンたちに視線を向けたが、そこはガスがナイフを投げたりして、上手く気を引いた。
瞬間移動して、バンシーたちはガスの背後に回り込んで攻撃するのだが、攻撃パターンを完全にガスは読み切っており、あっさりと躱した。
ガスのおかげで、ペペロンたちを狙っているのは、ワイト・エリートとゴーストナイトだけという状態になる。
残りは十二体。ワイト・エリートが五体で、ゴーストナイトが七体だ。
ペペロンは同時に二体のワイト・エリートと、一体のゴーストナイトに狙われ、攻撃をされる。
他三人も同じく複数のモンスターに狙われているので、援護は期待出来ない。
自分で全て倒しきらなければいけない。
ワイト・エリートがペペロンの顔面目掛けて、パンチを放ってくる。しゃがんで回避し。
それと同時に、剣を振りワイト・エリートの腕を斬り飛ばした。
とどめを刺そうとすると、ゴーストナイトともう一体のワイト・エリートが同時に攻撃をしてくる。
ペペロンは避けず、ワイト・エリートの攻撃は剣で受け止め、そして、
「ギガフレイム」
ゴーストナイトにはギガフレイムをぶつけた。
一撃でゴーストナイトは消滅する。
残りのワイト・エリートを剣で連続で斬っていき、倒しきった。
あっさり倒して、部下たちの救援に向かおうとするが、部下も危なげなく倒していたので、その必要はなかった。
残りはバンシーたちである。
ガスが引き寄せてくれていた。
最初は攻撃を完全に避けていたようだが、魔法を何度も使われて、流石に何回か攻撃を喰らったようだ。
ただ、重症ではなく軽症で、動きもそこまで悪くなってはいない。
ガスは基本的には、避けてなるべく攻撃を喰らわないことに特化しているので、耐久力は比較的高くはないが、それでもちょっとダメージを受けたら、すぐに倒れてしまうほど弱くはない。
流石にそれほど弱かったら、引きつけ役も出来ないので、ペペロンは最低限の耐久力は身につけさせていた。
ガスが引き寄せてくれていたバンシーに、まずはエリーが魔法攻撃を使う。
バンシーは攻撃を察知する能力が高く、エリーの攻撃をすぐに察知して、実体化をした。
それを見たポチがほんのわずかに攻撃を遅らせて、バンシーを大剣で一刀両断する。
ほかのバンシーもそれを見て、ペペロンたちの方へも注意を向けた。
ここからは、先ほどバンシーを倒したときと同じように、ガスとエリーが魔法を使って実体化させ、ペペロン、ララ、ポチで実体化したバンシーを剣で攻撃していく。
ガスはペペロンたちが攻撃をしたのを見て、ペペロンの指示を受けずに、瞬時に引きつけ役から、魔法を使う役へと切り替えていた。
八体いるので、バンシー側の攻撃も先ほどより苛烈になっていた。
魔法は飛び交うし、瞬間移動していつの間にか背後に回られていたりしている。
ペペロンは、常に全体を見ながら、危なくなった味方のフォローをしていた。
自分が何回か攻撃を貰うこともあったが、ペペロン自体の耐久力は非常に高いため、それほど問題はなかった。
元々転移する前、現実世界にいたときは、痛みに強いタイプではなかったが、今では痛みを恐れずに戦うことが出来ていた。
バンシーたちの攻撃をうまく防ぎながら、八体いたバンシーを一体一体確実に削っていく。
バンシーは強敵ではあるのだが、攻略法は確立されているため、それをしっかりと繰り返していけば、倒すことは可能だ。
ペペロンと部下は一糸乱れぬ動きで、剣で斬るタイミングを間違えることなく、バンシーを斬っていき、八体全て倒し切ることに成功した。
ペペロンは倒せてホッとしたが、その後、体のあちこちが僅かに痛むことに気づく。
流石に無傷ではいられなかったので、それなりにダメージは受けていたようだ。
この程度ヒーリングをすれば問題なく治るので、気にする必要はなかった。
「傷を治しますね」
エリーがそう言って、全員の怪我をヒーリングで回復した。
重傷を負った者は誰もおらず、怪我はすぐ治った。
七階はこれ以降は、敵が大量にいるスポットはなく、これまでよりは遅くはなったが、着実に攻略をしていった。
宝箱もいくつか発見して、解錠し中身を入手する。
武器や魔法書は出て来ず、金になりそうな宝石だけだった。
だが、ブルーダイヤモンドという、非常にレアな宝石が出てきた。
大きさは米粒より少し大きいというくらいの大きさだったが、これだけで約十万ゴールドで売れるほど高い。
ほかにもいくつか宝石を入手した。
これまで入手した宝石を含めて、全部売れば総額二十万ゴールドほどは稼げるだろう。
グレイス地下牢跡には、ボルフの塔同様最後にボスが待ち構えており、倒すと宝箱を入手することが出来る。
そこで出てきた物にもよるが、もっと稼げるかもしれない。
もっとも、金目のものより魔導書や設計図、装備などが出てくれた方がありがたいのだが。
七階から八階に降りる階段は、分かりにくいところにあるのだが、ペペロンはすでに何回か、ゲームで攻略済みなのでスムーズに、階段を発見する。
「次がいよいよボスだな」
ペペロンがそう言うと、部下たちは神妙な表情になる。
「ここのボスっていうと、あれっすよね……」
「最初来た時、やられて逃げ帰った覚えがありますぜ」
マジック&ソードが現実になった後、このグレイス地下牢跡に来た覚えはないので、ゲーム時代の頃の記憶が残っているのだろう。
確かに、ペペロンは戦力を見誤り、一度グレイス地下牢跡のボスに立ち向かい、勝てっこないと思って、逃げ帰った覚えがある。
マジック&ソードでは、ボス戦でも逃げることが可能である。
ボスは非常に長い距離を追いかけてくるため、途中で追いつかれそうにもなったのだが、何とか命からがら、ボスが追ってこないところまで、逃げ切った記憶がペペロンにはあった。
「確かに一度逃げましたが、次は鍛えて楽に倒せるようになったはずです。今回も勝てるはず!」
ララは勇ましい表情でそう言った。
二回目は部下のレベルをあげたり、魔法書を入手したりして、挑んで無事ボスを倒せたはずだ。
「あの時、使えていた魔法が今回では、いくつか使用出来ませんけどね。まあ、パワーエンチャントとギガフレイムがあれば何とかなりますか」
エリーは冷静な表情で言った。
攻略した時に比べて、魔法は使えない物も多いが、五人のステータス自体はゲームで攻略成功した時より、さらに大幅に高くなっているので、ペペロンはそんなに心配ないと思っていた。
「大丈夫だ。確かに一度苦戦した相手ではあるが、我々なら勝てるだろう。それでは行くぞ!」
ペペロンがそう言ったあと、五人は階段を降りて、グレイス地下牢跡の八階に足を踏み入れた。
○
一方、拠点では地獄の訓練が、ようやく終わろうとしていた。
「次で最後だよ!」
ファナシアがそう言った。
これまで色々な訓練が行われてきた。
ランニングに、筋トレ、武器の素振り、パワーエンチャントの練習、ほかの魔法の練習など、様々だった。
早朝から訓練は行われており、現在日が暮れ始めていた。
リーチェとパナはもはや限界寸前まで疲れており、ふらふらの状態だった。
「次……?」
「逆に……まだやらないといけねーのかよ……」
後一回訓練をしなければいけないという事実に、二人は絶望感を感じていた。
二人以外の住民たちも同じく、限界ギリギリまで体力的に追い込まれており、もはや怒って文句を言う気力すらなかった。
「みんなよく頑張ったね! ランニングで疲れていた時を考えると、やっぱりやれば出来るんだね!」
と嬉しそうに言うファナシアは、全く疲労していないという感じだった。
彼女は教えるのに集中していたというわけではなく、ランニングの時のように、一緒に訓練をしながら、教えていた。
流石に汗は少しはかいてはあるが、表情は生き生きとしており、まだまだ余裕はありそうだ。
化け物すぎると、リーチェとパナはファナシアを改めてそう思った。
「それで最後の訓練は……そーだねー……締めに最初と同じように拠点を百周してもらおうかな!」
ファナシアがそう言った時、全員が絶望するような表情を浮かべていた。
今から百周は流石に死ねる。
「って、冗談だよ! あはははは」
ファナシアは笑ったが、住民たちは誰一人笑っていなかった。
「笑えねぇー冗談だっつの……」
パナは、呆れたような表情をしながら、小声で呟いた。
「最後は模擬戦をしてもらおうかなー。皆の実力も見てみたいし。誰かと組んで五回、戦ってね。武器を落とした方か、急所に武器を当てられた方が負けね」
ランニングよりマシな訓練だったが、この疲労困憊の状態でまともに戦えないので、実力なんて分かるのかと、リーチェとパナは疑問に思った。
体力のある者は、これだけ訓練した後でもまともに戦うことは出来るだろうから、それを含めての実力ということなのだろう。
ただ、まともに戦えるほど体力が残っていそうな者は、全員を見渡しても一人もいない。
(これで、まともに模擬戦出来る人いるの?)
リーチェは疑問に思った。
「と、とりあえず、やろうかパナ」
「ああ……やってやるしかねぇか……」
全く気が進まなかったが、覚悟を決めて、リーチェとパナは、二人で模擬戦を行う。
疲れでまともに武器も持てず、全く剣の振りも鋭くなかった。
どちらかというと、リーチェよりパナの方が動きは良かった。
普段は、リーチェの方が強かったのだが、リーチェの方が動きが悪くなっている分、互角くらいになっていた。
「な、なんでパナいつもより速くなってるの?」
「お前が遅くなってんだよ。私はお前よりアジトで働いてた時期が長かったから、体力的には上なんだろうな」
BBCでのアジトは、環境が非常に悪いため、長く働いていれば、体力もつきやすくなる。
リーチェはBBCのアジトにいたのは、僅かな期間である。そこまで体力はついていなかった。
パナは途中から、BBCの使いっ走りのような役を務めるようにはなっていたが、雑用などを任されることはそれでもあるため、毎日キツかったことには変わりなかった。
パナ以外にもBBCの奴隷だった者たちは、比較的動きが良くて、戦えていた。
五回模擬戦が終わり、パナの三勝、リーチェの二勝という結果に終わった。
「うぅー悔しい……」
負けてリーチェは悔しそうに歯を食いしばっていた。
「今日の訓練はおしまい! ある程度皆が持っている力も大体分かったよ! 戦うため、ダンジョンに行ったりするとなったら、一日で今日より疲れることもあるから、体力は皆付けないといけないよ! 明日からも一緒に頑張ろう!」
最後にファナシアがそう言って締めた。
「明日も同じ訓練するのかよ……」
パナは絶望していたが、
「わ、私は頑張るよ。実戦で体力があれば実力が出せたのにって、言い訳は通用しないからね。これから遠くのダンジョンに行って、きちんと戦うためには、剣の技術を磨くだけじゃなくて、体力も鍛えないといけない」
リーチェは、訓練をしてまともに戦えなくなって、パナに負けたことが、悔しかったようだ。
これから、ファナシアの訓練を誰よりも頑張ろうと心に誓った。
それからすっかり日が暮れて、食事を取る。
「あー、疲れまくったあとの飯は美味いなー」
「だね!」
二人は一緒に食事をしていた。
疲れていた分だけ、いつもより食事のスピードは速くなっていた。
「ペペロン様たち、今頃どうしてるかなー?」
「もう完全に攻略したんじゃないのか?」
「えー? もう? そんなに早いかな?」
「そりゃ、めっちゃつえーからな。あの人たちが負けるのを、私は想像も出来ないぜ」
「それは確かにそれはそうだね。難しい遺跡だって話だけど、大丈夫だよね」
リーチェは少し心配しているようだが、パナは絶対にペペロンたちがやられることはないと、確信しているようだった。
「これから強くなって、一緒に行けるようになるといい。いや、絶対一緒に行けるくらい強くなる」
「私は、強くなる……ってかガスさんみたいに技術を身につけて、一緒に行けるようにならねーとな。まあ、今より強くなる必要はそれでもあるけどな」
ついていけなかった悔しさがあった二人は、訓練後、改めて決意を固めたのだった。
○
ペペロンたちは、グレイス地下牢八階へと降りた。
グレイス地下牢八階は、ボスがいる大きな部屋が一つあるという構造になっている。
マジック&ソードの設定では、この八階は特殊な罪人を閉じ込める部屋だった。
その罪人は、非常に強力な力を持っており、尚且つ残忍な性格をしている。無実の罪を着せられて閉じ込められた者が多い、グレイス地下牢跡だが、その罪人だけは完全な悪党だったようだ。
八階に足を踏み入れた瞬間、声が聞こえた。
「出せ……ここから出せ……」
野太い男の声だった。
まだ遠くから聞こえている。
一本道があり、ここをずっと進んでいくと、ボスがいる部屋に入る扉がある。
ペペロンたちは道を歩いて行った。
その度に、その声は大きくなっていく。
「誰かの悲鳴が聞きたい。女を犯したい。誰かの肉を喰らいたい。苦痛に歪む表情が見たい」
おぞましい声であった。
五人はその恐ろしい声を聞きながらも、冷静な表情で進んでいく。
そして、扉があるところまで来た。
この扉には鍵がかかっているが、鍵自体は扉のすぐ近くにかけてある。
この扉の鍵は、仕様上、ピッキングして開けることが不可能となっているので、この鍵を使って扉を開けるしかない。
「よし、開けるぞ。準備はいいか?」
ペペロンが尋ねると、部下たち四人は頷いた。
鍵を手に取り扉を開けて、ペペロンたちは中に入った。
「開いた……」
中に入った瞬間、驚いたような声が聞こえた。
部屋の中には、おぞましい姿のボスがいた。
全身、拷問を受けたような怪我の跡、そして両目はなくなっており手足には鎖がかけられている。
実体ではなく霊体なので、薄らと透けている。
ボスの名は『アンバーソン』。
数多の罪を犯した罪人は、ありとあらゆる拷問を受けて、処刑された。
極めて強い恨みを感じながら死んだようで、その恨みの強さがそのまま力の強さになっている。
「お前らが、開けてくれたのか? これで出られる。お礼にお前らを俺が食ってやろう。俺の一部になれるとはお前らも嬉しいだろう」
アンバーソンは笑みを浮かべて、狂った発言をしてきた。
罪を犯して人を殺して処刑されて、自業自得ではあるのだが、本人は犯した罪を罪だと思っていなかったようだ。
あくまで善意に基づいて、人を殺してたし、人を食べていたし、女を犯していた。
それだけに、拷問されて処刑されたことに、強い恨みを感じていたのだった。
その強い恨みと、生前の強さがアンバーソンの強さにつながっているようだ。
現在は霊体なので、扉を開けずとも部屋から出られるのだが、生前の扉があると出られないという意識が、この部屋に閉じ込めていた。
アンバーソンは霊体であるので、物理攻撃が効かない。
バンシーのように切り替わったりはしないので、魔法を当てていればいいのだが、耐久力が高く簡単には倒せない。
魔法などは使わず、全て物理的な攻撃をしてくる。
攻撃力が高いため、エリーのカバーをポチに任せる必要があった。
アンバーソンが早速動き始める。
瞬間移動を複数回行い、ペペロンたちを撹乱するように動いてきた。
最終的にペペロンの背後に来て殴ってきた。
アンバーソンは武器は持っていないが、普通に殴るだけでかなりの攻撃力があった。
まともに当たると流石にペペロンでも、馬鹿に出来ないほどのダメージを喰らってしまうので、何とか避けた。
エリーとララがギガフレイムを使おうとしたが、次の瞬間には別の場所へと瞬間移動していた。
この瞬間移動を繰り返すのは、非常に厄介な特性である。
通常のゴースト系のモンスターは、瞬間移動出来るとはいえ、乱発はしてこないが、アンバーソンはしてくる。
次々に別の場所に動かれるので、中々狙いを定めることが出来ない。
瞬間移動する場所にも、規則性は存在しないため、動きを予測することもほぼ不可能である。
それだと攻撃が当てようがなく、倒すのは不可能だと、ペペロンも最初は思ったのだが、攻略法は確かに存在した。
一度攻撃を当てると、アンバーソンは数十秒間怒りモードに突入して、攻撃を当てた者を狙い始めるので、そうすると楽に当てられるようになる。
一度当てるのは、基本的には乱発である。
とにかく当てずっぽうで、魔法を撃ちまくれば、そのうち一発くらいは運よく当たる。
フレイムなどの、低ランク魔法でも当たりさえすれば、怒りモードに突入してくるので、撃ちまくっても魔力はそこまで大量には消費しない。
怒りモードは数秒間なので、アンバーソンとの戦いは、長期戦になることが多い。
怒りモード中は攻撃を喰らっても、ターゲットが入れ替わるということはない。
数秒間過ぎたら、絶対に怒りモードは終了するので、ずっと怒りモードにして攻撃し続けることは不可能である。
ペペロン、ガス、ポチ、ララがまずは、フレイムなどの魔法を乱発して、アンバーソンを怒りモードにさせる。
エリーは、怒りモードになったアンバーソンに狙われるのは危険な上、狙われている者は回避と防御に精一杯になるので、魔法で攻撃出来なくなる。
一人でも多く乱発する役が多い方が、アンバーソンに当たる確率もまた高くはなるが、それでも一番魔法攻撃力の高いエリーが、魔法を使えなくなるのは痛いので、エリー以外が乱発をする役をすることにした。
「では、フレイムを放て」
ペペロンの指示で、フレイムの乱発を始めた。
最初は中々当たらない。
途中ララの背後に回ってくる。
乱発中は、フレイムを撃つことに意識が行って、回避しづらくはなるが、ララレベルの能力を持っていれば、それでも回避をすることが出来ていた。
その後も、乱発は続く。
そして、ポチの放ったフレイムが、ちょうど瞬間移動した直後のアンバーソンの顔のあたりに命中した。
攻撃が当たると、アンバーソンは眉間に皺を寄せ、怒りの形相を浮かべる。
「貴様……この俺に痛みを……許さん……お前は食わん……目をくり抜いて、爪を剥がして、腸を抉り出して殺してやる!」
恐ろしいことを叫びながら、ポチに突撃してきた。
ここまでブチ切れておいて、数十秒後、怒りモードが終わった後は、また笑顔になって瞬間移動を始める。
アンバーソンはポチに向かって突撃し、猛攻を始めた。
物凄い速度で連続パンチをする。
ポチは何とか攻撃を防いでいた。
ポチとアンバーソンの位置が近いので、ギガフレイムを撃つ際は、ポチを巻き込まないよう、注意をする必要がある。
ペペロンたちは、魔法の威力が高いだけでなく、精度も磨いて、ほぼ狙った場所に魔法を撃つことが出来るようになっている。
しかし、それでもギガフレイムは高威力な魔法なので、巻き添えでダメージが出ることはあるだろうが、ポチの耐久力ならそれほど、大きなダメージは入らないので、あとで回復すれば問題ないだろう。
ギガフレイムを連射して、アンバーソンを攻撃する。
やはり耐久力が高いため、道中の敵は数発で確実に倒してきたギガフレイムを五、六発当たっても全然耐えていた。
数秒経過して、怒っていたアンバーソンの表情が、笑顔に変化する。
この表情変化は、いつ見ても不気味であった。
再びフレイムを乱射する。
ギガフレイムを撃って巻き添いダメージを喰らったポチを、エリーが回復する。
「ごめんなさい。私だけフレイム撃ってなくて」
申し訳なさそうに言った。
必然的にフレイムを撃っている者たちは、ポチと同じように巻き添いを喰らう可能性はある。
エリーだけ、ダメージが入ることはないので、自分一人だけ楽な役目で、申し訳ないという気持ちがあるようだった。
「作戦を考えているのは私だから、エリーが気にやむ必要はない。仮に私がポチと同じ役になっても、構わず魔法を使うんだ」
ペペロンは、エリーが魔法を撃つことを躊躇ったりしないよう、声をかけた。
次にアンバーソンにフレイムを当てたのは、ララだった。
アンバーソンの表情がさっきと同じように急変し、ララに向かっていく。
猛攻してくるアンバーソンを、ララは上手く受け止める。
戦いの技量に関しては、ペペロンの次くらいに熟練したものがあった。
圧倒的な速度を持ったファナシアと、圧倒的なパワーを持ったポチが、接近戦では非常に強い。
ララはこの二人ほど身体能力は突出していないが、剣技においては二人を凌駕していた。
ララ以外の者たちがアンバーソンに向かって、ギガフレイムを一斉に放った。
ここまで喰らってもまだアンバーソンは消滅しない。
ボスモンスターは、道中のモンスターに比べて桁違いの体力を持っていることが多い。
しかし、これだけギガフレイムが当たれば、相当減らせたのは間違いない。
もう一度、一斉に当てること出来れば、消滅するだろう。
「ググ……グググググ。貴様ら……この俺を……コケにしやがって……許さん……許さん許さん許さん許さん」
狂ったようにアンバーソンは呟き始めた。
ボスモンスターとしては、ありきたりな特性ではあるが、体力が一定以下に減ると、ステータスが上がり、さらに攻撃パターンが変わってくる。
アンバーソンは瞬間移動をする。場所は、ガスの目の前。
凄まじい速度のパンチを放つ。
ガスはそのパンチにきちんと反応し、回避する。
再び瞬間移動。
今度はペペロンの目の前だ。蹴りを入れてきたので、剣で防ぐ。
体力が減り本気モードになったアンバーソンは、誰かの近くまで瞬間移動をして攻撃する、以外の行動をほとんど取らなくなる。
たまに距離を取ってくることもあるのだが、ほとんど攻撃してくるので、動きを読みやすい。
だが、動きの速度や攻撃の威力などは、全体的に上がっているので、防御するのが難しくなる。
エリーが狙われた場合、対応が難しくなる可能性があるので、ペペロンは常にエリーを気にかけながら、アンバーソンの瞬間移動を待ち構えていた。
アンバーソンは、ペペロンの近くに瞬間移動してきた。
ペペロンは剣で受け止める。エリーが、ギガフレイムでアンバーソンを攻撃した。
当たる直前に、アンバーソンは瞬間移動。
エリーのギガフレイムが当たりそうになったので、ペペロンは何とか避ける。
アンバーソンは、エリーの背後に移動。
先ほどまで、ギガフレイムを回避していた、ペペロンは咄嗟には動けない。
エリーの近くにいたララが、咄嗟に反応し、エリーを庇う。
何とか防御には成功する。アンバーソンは、次はガスの近くに移動していた。
ペペロンとエリーが今度は早く反応し、ギガフレイムを放つ。
アンバーソンはガスに攻撃をする前に、ギガフレイムを喰らい、ダメージを受けた影響で怯む。
もう一発ギガフレイムを撃とうとしたが、アンバーソンは瞬間移動をして、距離を取った。
「アァアアアアアアァアアアアアア!!!!」
恐ろしい雄叫びを上げた。
相手を膠着状態にする効果のある雄叫びだ。
五人は一瞬動きを止める。
膠着耐性を五人は持っていたが、それでも、二秒ほど動きを止められてしまう。
その二秒が命取りになる。
五人が立っている場所の、ちょうど中心に瞬間移動。
その後、ダンスのウィンドミルのように、足を回転させて攻撃をしてきた。
強力な衝撃を受けて、五人は吹き飛んでしまう。
ペペロンは空中で体勢を整えて、被害を確認する。
防御力の高い、ララとポチは、ペペロンと同じく、着地していた。見たかぎり、それほど大きなダメージは受けていないようである。
ガスとエリーは、死んではいないが、だいぶ痛そうにしていた。
エリーの方がダメージは大きいようである。
弱っているエリーを狙いそうだと思ったペペロンは、急いでエリーの近くに向かう。
予想通り、アンバーソンは、エリーの近くへ瞬間移動した。
エリーは自分の近くに来ると予想していたようで、咄嗟にギガフレイムを唱え、アンバーソンにぶつける。
ペペロン、ララもエリーが、ギガフレイムを唱えたのを見て、同時にギガフレイムを撃った。
「グアアアアアアアアアア!!」