「そ、そうだね。最初はペペロン様に渡すよね」

 パナはネックレスを取り、ポケットの中に入れた。

 引き返して、分かれ道があった場所へと戻る。

「さて、左だねぇー」

 先ほど行かなかった、左側へと進んだ。

「そう言えば、ポチさんは攻略して来いって言ってたけど、どうすれば攻略になるんだろう?」

「そりゃ、一番奥深くまで到達したら、攻略だろ」

「一番奥かー。ボルフの塔には、頂上に凄く強いモンスターがいたけどさこの洞窟にも、そんな感じのモンスターいるのかな?」

「ボスだな……ボルフの塔にいた奴ほど強いモンスターはいねぇと思うけど……道中の雑魚モンスターより、遥かに強いモンスターが一番奥に待ち構えている可能性はあるな」

「や、やっぱり、そうなのかー……」

 リーチェは緊張した面持ちになる。

 ボスモンスターを想像して、少し怯えているようだ。

「そんなにビビらなくて大丈夫だろ。所詮、雑魚しかいないダンジョンにいる奴なんだし、大したことねぇ」

 その時、パナはリーチェを落ち着かせるために、そう言ったが、それが間違っていると数分後思いしる。


「あ、あれが大したことない……?」

 リーチェは汗を垂れ流しながら、横にいるパナに尋ねた。

 道中、雑魚モンスターをあっさりと倒して、奥深くまでたどり着いたが、そこで待ち構えていたのは、想定外のモンスターだった。

 巨大な茶色いワニのモンスター、ロック・クロコダイルであった。人間の数倍のデカさに、鋭い牙と厳つい眼光。そして、剣などとても効きそうにない、石のような肌のモンスターである。

「な、何でワニが洞窟の中にいるんだよ。川辺にいるもんだろ普通」

 パナは焦りながら文句を口にした。

 二人は遠くからロック・クロコダイルを観察しており、まだ見つかってはない。

「しかし、どうすんだあれ。倒さないと攻略したって言えないよな……でも倒せるか? 攻撃効きそうにないぞ」

「うーん……でもここまで来て帰るのもさぁ……」

「一応戦利品はあるぞ」

「確かにそうだけど……」

 倒さずに引き返すか、どうするか二人は悩む。

「でも、挑まなくて帰るのは、惜しい気がする。やっぱ、もしかしたら倒せるかもしれないし。挑んでもどうしようもなさそうだと思ったら、その時は逃げよう」

「硬そうな反面動きは遅そうだから、逃げるのはそんなに難しくなさそうだし……挑んでもいいか」

 二人はまずは逃げずに、戦うことに決めた。

 ロック・クロコダイルの前に出る。

 ギョロリと目を動かし、ロック・クロコダイルは二人を見た。獲物が来たと言わんばかりに、目を血走らせる。

 二人に向かって、突進し始め、口を大きく開けて食らい付いてきた。

 パナの予想通り、ロック・クロコダイルは、動きが遅く、攻撃を避けるのは余裕であった。

 パナが背中を狙って、剣を振る。

 ギィイという音がして、剣が弾かれた。

「見た目通り、硬いよコイツ!」

 パナも攻撃してみるが、リーチェでもダメージを与えられない敵に、パナの力で歯が立つわけもなく、同じく攻撃を弾かれた。

「よし、逃げよう」

「諦めるの早っ!」

 すぐに逃げ腰になったパナに、リーチェがツッコミを入れる。

「考えてみろ。リーチェの剣もあっさり弾かれるほど硬い皮膚が体全体を覆っていて、隙間なんかない。こりゃ倒せねぇーだろ」

「弱点があるかもしれないでしょ!」

「そんなもんどこにある?」

「そ、それは、まだ分からないから、探さないといけないんでしょ!」

 言い争いをしていると、ロック・クロコダイルが再び噛み付いてきた。それを避ける。

 二人は一旦距離を取った。

「あのワニ裏側は、岩みたいな皮膚ないよ」

 ロック・クロコダイルは、噛み付いた後、頭を僅かに上にあげた。その時、しっかりロック・クロコダイルの首元を見たリーチェは、普段隠れている場所には、岩のような皮膚がないことを確認した。

「岩の皮膚がない場所なら、斬れるかも……」

「こんなでかい奴、ひっくり返すのは難しそうだし、どうやって裏側を斬るんだ」

「噛み付いてきた後、若干顔をあげるから、その時に潜り込んで斬ればいいと思う」

「危険すぎるだろ。間違って食われたらどうするんだ。やっぱり帰ったほうがいい。ポチさんも攻略して来いとは言ったが、死ぬ危険を冒してまで攻略して欲しいとは思ってないはずだ」

 パナにそう言われると、リーチェは少し考え込んだ。パナの言葉も一理あると思っているようだった。

「……でもポチさんは、簡単なダンジョンだって言ってたし、今の私たちなら、あのデカいワニも簡単に倒せるって思ってるんじゃないの? 倒せそうになかったから、帰ったなんて言ったら、失望されちゃうよ」

「仕方ねぇだろ」

「仕方なくない! あいつは確かに硬いけど、遅いし、あの程度倒せないと駄目なんだよ! とにかくやってみる!」

「お、おい、やめとけって」

 止めるパナの声をリーチェは無視して、ロック・クロコダイルに向き合う。

 今度は噛み付いてくるのではなく、尻尾を振り回してきた。

 噛みつきより、尻尾を使った攻撃の方が速く、リーチェは意表を突かれたが、何とかしゃがんで回避した。

 もう噛み付いて来ないかも……とリーチェは不安になったが、所詮ワニなので、特に考えあっての行動ではなかったようで、次は普通に噛み付いてきた。

 リーチェは後ろにサッと下がって回避。

 その後、ロック・クロコダイルが頭を僅かに上げて、防御が薄い首元を野ざらしにする。

「はぁっ!!

 気合の入った掛け声と共に、ロック・クロコダイルの頭の下に潜り込み、首元を斬り裂いた。

 リーチェの予想通り、そこは柔らかく斬ることが出来た。

 斬った後、ロック・クロコダイルの巨大な頭が、頭上から落ちてきたので、前に飛び回避。受け身を取る。

 ロック・クロコダイルから、大量の血が噴き出した。リーチェが斬った箇所は急所だったようだ。

 ロック・クロコダイルは、もがきながら、最後の力を振り絞るように、尻尾をめちゃくちゃに振り回す。

 倒したと、若干油断していたリーチェに、ロック・クロコダイルの尻尾が迫る。

 当たりそうになったところで、間一髪でパナが飛び込んでリーチェを押し倒し、何とか当たらずに済んだ。

「詰めが甘いんだよ、お前は」

「あ、ありがと」

 ロック・クロコダイルは、徐々に動きを鈍くしていき、最終的にピクリとも動かなくなった。

「しかし、なんだかんだ言って倒しちまうとはなぁ……」

 動かなくなったロック・クロコダイルを見て、パナはそう呟いた。

 抜けているところも多少はあるとはいえ、相当リーチェが実力を上げているのは確かだった。

 自分も頑張らないといけないと、パナは気持ちを入れた。

「倒した証拠持っていきたいけど、硬くて切れないし……どうしよっか」

「牙でも持っていくか」

 二人はロック・クロコダイルの口を開けて、牙を取った。

「よし、じゃあ帰るか」

「うん」

 二人は洞窟を出て、グロリアセプテムへと帰還した。


「おー、戻ってきたのか。結構早かったな。ボスは倒してきたのか?」

 二人は帰った後、ポチを探して攻略してきたと報告をした。

「はい、これボスから取った牙です」

 リーチェがロック・クロコダイルの牙を渡す。

「おー、倒したみてーだな。やはりお前らは、どっちも将来有望だぜ」

「しょ、将来有望……本当ですか!?

「まあな。ほかの住民より成長も早いし、努力もしている。ペペロン様もお前らには期待していると思うぜ」

 ポチは直接言葉で期待していると聞いたわけではないが、普段の態度からおそらく期待しているだろうと思っていた。

 リーチェとパナに、ペペロンが期待しているという言葉は、かなり効いた。

 二人ともペペロンを慕う気持ちは、かなり強い。

 二人はもっともっと頑張ろうと、心に誓った。

「あのー真珠のネックレスを洞窟内で拾ったんですけど、これどうすればいいですかね」

 洞窟内の宝箱から獲得した真珠のネックレスを、リーチェはポチに見せた。

「真珠? うーん、俺こういうのあんま詳しくないからな。本物かは分からんけど。まあでも仮に本物でも、お前らが貰っていいんじゃないのか?」

「え? 本当ですか?」

「ああ、多分ペペロン様もそう言うと思うぜ。それが、何かはペペロン様かララ辺りに聞かないと分からないと思うけどな。今は新しい住民探しに出てて、どっちもいないけど」

「そうですか。ではお戻りしたら尋ねてみます」

 真珠のネックレスが貰えると分かって、パナとリーチェの二人は喜ぶ。

「本物だったらいいなぁー」

「売った時のゴールドは山分けだな」

「うん。でも、ゴールドあったら何買おうかなー」

「てか、この拠点、商人とかまだいないし、買う物ないな……ほかの町で買うしかないか」

「うーん、ほかの町で買い物って出来るのかなぁ。一番近い町は、差別が激しいから行っちゃダメって話だし。ほかの町は遠くて、私だけで行くのは危険だし……」

「そうだな……ってことはここが発展するまで、待つしかないのか? でも、そんなに発展するのも遅くはないか」

「そうだね」

 ペペロンならすぐに拠点を大都市まで発展させるだろうと、リーチェとパナは信じることにして、本物でゴールドが入った場合は、その時まで取っておくことにした。



 ペペロンは一旦ハーピィーたちを拠点に連れ帰ったあと、再び領民探しの旅に出る。

 今度の目的地は、ペペロンと同じ小人族が住んでいる村だった。

 小人族は、洞窟の中などに住んでいることが多い。

 別に光を浴びるのが苦手とか、そういう理由があるわけではなく、小人族は弱いので目立たないような場所で暮らしていないと、外敵にやられてしまう危険性があった。

 良質な食料もあまり確保することが出来ず、劣悪な環境で暮らしていることが多かった。

 そのため、小人族はほかの種族に比べて、配下になってくれる可能性が高い。

(小人族の暮らす村は、少し遠い位置にある。コボルドの村や、ゴブリンの村の方が近い位置にあるが、今は拠点の人口を増やすのを優先したい。拠点レベルを上げるのに、人口を増やすのは必須だからな。食料の問題もあるが、小人族はほかの種族に比べて、一人当たりの食料消費量が低いのは魅力だ)

 基本的に欠点しかない小人族であるが、数を確保しやすいというのは長所であった。

 ペペロンのように縛りプレイをしない者でも、小人族をまず配下にして手っ取り早く拠点レベルを上げるという攻略法があった。

 拠点レベルを上げると、良い施設を作りやすくなって、何かと便利だからである。

 施設が良いとキャラの育成もしやすいし、魔法の研究速度も速くなるので、戦力的に強化しやすくもなる。

 ただ、その後、強い種族を配下にして、小人族がいなくても十分な数住民を確保することが出来たら、人数合わせで配下にした小人族は追い出されるか、もしくは一生奴隷のような単純労働をさせるか、二択になる。

 縛りプレイをしているペペロンでもない限り、戦いの戦力にすることはなかった。

 小人族の育成理論を完璧に把握しているペペロンでも、小人族を戦力として使い物にするには、かなり時間がかかる。

 ペペロン並みの実力になるには、途方もない時間がかかる。

(グロリアセプテムはなくなったが、ペペロンのキャラの強さがそのままだったのは、本当に良かった)

 費やした年月を思い出したペペロンは、改めて心の底からそう思った。

 小人族が住む洞窟まで余計な寄り道をせずに、移動する。

 ちなみに今回も旅に同行するのは、ララとファナシアである。

 洞窟に向かって歩くこと十日、ようやく到着する。

 この三人の移動速度で十日かかったので、小人たちを連れて歩くには、三十日くらいはかかるかもしれない。

 道の途中で食料補給などを行わないといけなくなる。

 ペペロン一人で、配下にした小人族たちを守りながら食料を補給するのは難しいので、ララとファナシアを連れて行く必要があった。

 勧誘をして配下にするだけなら、ペペロン一人だけでも成功する確率は高い。

「ここが小人さんたちがいる洞窟かぁ~。でも、何か入り口小さくない?」

 ファナシアが洞窟の入り口を見てそう言った。

 確かに洞窟の入り口はかなり小さい。

 小人族でないと屈まなければ、入ることが出来ないほどの高さである。

 これは外敵が住処に入ってこないよう、あえて狭いところに住んでいるからであった。

 小人族たちも出来れば天井は高い方が過ごしやすいが、我慢してここに住んでいるのだった。

「お前たちには動きにくいだろう。ここで待っていてくれ」

「え? しかし……」

「小人族は臆病な種族だ。私一人で行った方が勧誘の成功率は高まるだろう。二人はここで待っていてくれ。小人族を拠点に連れて帰ることになったら、その時は働いてもらう」

 本当はララとファナシアも行きたかったが、ペペロンの言葉は正しいので反対することは出来ない。

「わ、分かりました」

「はーい」

 ペペロンはララとファナシアの二人を残して、洞窟の中へと入っていった。

 ペペロンは洞窟を歩く。

 洞窟の最初の方は、灯りが少なかったが、途中から灯りがあった。

 しばらく歩くと、小人たちの話し声が聞こえる。

「腹減ったー」

「我慢しろ」

「外に行きたくねーな」

「餓死したくなけりゃ、行くしかないわよ」

 など、生活感を感じるような会話だった。

 ペペロンは小人たちがいる場所に到着する。

「ん?」

 小人たちはペペロンの存在に気づく。

「な、なんだあいつ? 村のもんじゃねーな」

「外の小人か? しかし、何だあの雰囲気は……」

「凄い存在感っていうか……」

「それより、も、物凄くイケメンだわ……」

「ほ、本当ね」

 男の小人たちには存在感の強さで、女の小人には顔の良さで注目を集めていた。

 ペペロンは、どうやら小人族たちにとっては非常にイケメンの部類に入る顔のようだった。

 全小人たちが、固唾を飲んでペペロンを見つめていた。

 どう声をかけていいか、分からないといった様子だ。

 だが、その存在感の高さゆえに、注目せざるを得ないのだろう。


「私はペペロン。グロリアセプテムのリーダーである」


 最初に自己紹介をした。

 その後、早速本題を切り出した。

 普通はいきなり拠点を変えてほしいなどと言っても、通らないだろう。元々ペペロンも、少し馴染んでから話を切り出すつもりだった。

 しかし、小人族から熱心な視線を感じて、これはまどろっこしいやり取りは抜きで、何とかなるんじゃないか? と思った。

 マジック&ソードというゲームには、『同種補正』というものがある。

 同じ種族なら、好感度などが上がりやすくなる仕様である。

 エルフやハーピィーは、ペペロンと同種じゃないので、話しただけで配下になってくれるほど、好感度は上がらないが、小人相手なら別かもしれない。

「どうだろうか、私の配下になりたいという者は、この中にはいないか?」

 ペペロンの説明を受けて、

「な、何だか本当かどうかも分かんねーけど……でもこの人についていけば、今のへぼい暮らしが変わるような気がする」

「あ、ああ」

 少しざわつき始める。


「俺を配下にしてください!」


 最初に若い小人の男が、そう頼んできた。

 その後、続々と配下の申し込みを受ける。

 洞窟には村人が百人以上いた。

 その全員が、配下になりたいと申し出てきた。

(ぜ、全員か……マジか。最初のエルフたちみたく、助けたわけでもないのに。ほかの種族より配下になってくれそうな人は、多いとは思っていたけど、全員は流石に予想外だ。だが、これだけ新しい住民が増えれば、拠点レベルも上げられるな)

 全員連れて行けば、拠点レベルが町に上がるだろうと、ペペロンは思った。

「よし、では全員私に付いてくるのだ。私の拠点に案内しよう」

 ペペロンは小人たちを連れて、洞窟を出た。

 それからララとファナシアと合流する。

 事前にララとファナシアのことは、小人たちに伝えたとはいえ、ほかの種族に恐れを抱いている小人たちは、かなりビビっていた。

 不遇種族のエルフとハーピィとはいえ、小人からすれば恐怖の対象である。

 不遇七種族とは言われているが、その中でもダントツで小人は弱かった。

 小人たちを連れて、拠点に帰還する。

 帰り道は、行きよりだいぶ長くかかった。

 百人を護衛する必要があるし、途中で食料を調達する必要がある。

 百人分の食料を調達するのは、正直だいぶ苦労することになったが、何とかモンスターを倒したり、食べられそうな草などを採取したりと、色々やって百人を食べさせることは出来た。

 小人は一人一人の食料消費量が少ないので、何とか足りた。

 そして、三十日間、歩き続けて、拠点へと帰還した。


 連れて帰ると、

『拠点レベル1上昇。村から町になりました』

 とアナウンスが聞こえてきた。

 拠点レベルを上げるには、住民数を増やす以外にも、決められた建造物を立てる必要があるのだが、すでにペペロンの命令で、住民たちが必要な建物を建てていた。

 また、住民を集めるということで、民家の建造も命令している。

 すでに、かなりの数の民家が建っており、このくらいあれば足りそうであった。

「これから、俺たちはここで暮らしていくのか……」

「洞窟の中じゃない……」

 今の拠点に建っている家は、それほど豪華ではないのだが、それでも小人たちは感激していた。

 洞窟での生活に比べれば、これでも全然ましなのだろう。

「ペペロン様、お帰りなさいませ」

 ノーボが出迎えてくれた。

「新しい住民を連れてきた。早速、家を決めよう」

「かしこまりました」

 小人たちの家を決める作業をまず行う。

 拠点レベルが上がってから、新しい施設の建造が可能になったり、既存の施設のレベルアップが可能になっているのだが、今は後回しにすることになった。

「ペペロン様! おかえりなさいませ!」

「お、おかえり……」

 リーチェとパナがペペロンたちに、駆け寄る。

「うわー、ペペロン様とパナと同じ小人族さんたちが、いっぱいですね」

 リーチェが新しい住民を感激したように見る。

 一方パナは衝撃を受けたような目で、小人たちを見ていた。

「わ、私以外の小人……しかも、若い女がいっぱい……」

 どうやら一気にライバルが増えたと思っているようである。

 パナの心配しすぎというわけでもなく、実際、新しく住民になった小人族の娘たちの多くは、ペペロンに熱視線を送っていた。

 ペペロンはというと、恋愛沙汰などは鈍いので、全く気づいていなかった。

「ぐぬぬ……」

 いきなりのライバル多数出現に、歯軋りをするパナ。

「あ、ペペロン様、お話があるんですが、この真珠のネックレスを洞窟内で見つけたんですが、何か分かりますか?」

 リーチェがそう言いながら、懐からネックレスを出してきた。

「ちょっと見せてくれ」

 ペペロンはネックレスを受け取り、詳しく確認してみる。

「真珠のネックレス……じゃないな。心石のネックレスだ。精神的に動揺しにくくなる効果がある」

「真珠じゃないんですか……高いんですか?」

「そこそこ高いが、効果が効果なだけに売らない方がいい。パナとリーチェには、必要なものかもしれない」

「た、確かにそうですね……あのこれ私たちがもらってもいいんですか?」

「もちろんだ。二人が見つけたんだから、二人のものだろう。どっちが身につけるかは、話し合って決めてくれ。喧嘩はするんじゃないぞ」

「はい、ありがとうございます!」

 リーチェは元気よくお礼を言った。

 その後、パナの方を見る。

 小人たちが増えて、目に見えて動揺していた。

 ニヤリとリーチェは笑い、後ろからパナの首に心石のネックレスをかける。

「どう? 落ち着いた?」

「え? ……? 確かになんか、落ち着いてきたような……」

 見るからに動揺していたパナだが、ネックレスをかけられた途端、表情が冷静になった。

「どっちかが動揺したら、首にかけるってことにしよう」

 ネックレスの使い方を、リーチェが決めた。


 その後、ペペロンは新しく住民になった小人たちの住む家を決め終え、それから新しい施設を作り始める。

 最初は研究施設のレベルアップ作業を行った。

 エリーに任せた魔法の研究だが、まだあまり進んでいなかった。

 エリー並みの知力の持ち主でも、施設レベルが低ければ、やはり研究速度も落ちてしまう。

 ペペロンは早いうちに、もう一つ遺跡を攻略したいと考えており、その遺跡の攻略に、ボルフの塔から入手した魔法の力は必須と言えた。

 研究所をアップグレードするための、材料集めを命じた。

 材料があっても、今は設計図がないためアップグレードが不可能である。

 中級研究所の設計図は、それほど珍しい物ではない。だいたいの街で購入可能である。

 ボルフの塔攻略で、いくらかゴールドを得た。

 ボスを退治した後に出てきた宝箱にあった宝は、ロックたちに全部渡したが、道中のモンスターハウスから出たものは全て換金したので、それなりの額を稼ぐことは出来た。

 設計図くらいなら、購入可能である。

 問題はここから一番近い街である、三ツ眼族が支配する町、「リンドクーシール」は七種族に対する差別意識が強く、まともに買い物が出来ない可能性が高いという点だ。

 以前はエリーに買ってきてもらったが、今は研究に専念させたい。

 ほかの町に買いに行っても良いが、少し遠い上に、リンドクーシールと同じ目に遭う可能性も否めない。

 それでも行くしかないと、屋敷の中でペペロンが思っていると、

「ペペロン様、行商人を名乗っている男が来ました」

 ララがそう報告してきた。

 行商人。

 その名の通り、商品などを旅をしながら、売り歩いている者だ。

 まだ拠点を建ててから、それほど時間は経過していないので、この拠点の存在は全く有名ではなく、まだ来ないとペペロンは思っていたが、思ったより早く来た。

 BBCのアジトを潰したりしたので、多少は知名度が上がったのだろうかと、ペペロンは予想する。

 とにかくこれはついている。

 買い物がしにくい今、行商人はありがたい存在である。

 売っているものも何処にでも売っているような、魔法書や設計図から、中々お目にかかれないような珍しい物を売っている場合もある。

 それこそ普通は遺跡攻略でもしないと、買えないような珍品が手に入ることも。

 問題は値段である。普通より割高に設定されている。

 金に関しては、それなりにあるので、問題はないだろう。

 これから遺跡攻略は何度もやるので、困ることも少ないはずだ。

 今回必要なものは、研究施設、屋敷などのアップグレード設計図。

 ほかにも、塔や、拠点防衛に便利なバリスタなどの兵器の設計図だ。

 村の時は敵が攻めてくる可能性は低いが、町となると攻めてくる恐れがある。

 特に近くの町リンドクーシールは、支配している三ツ眼族が、好戦的な部類なので、攻撃を仕掛けてくる可能性は高い。

 また、防壁の強化も必要だ。

 防壁はすでに作っているが、高さもまだまだ低く、弱い防壁なので、今のままだとあっさりと壊されてしまうだろう。

 とにかくペペロンは行商人に会うと決めた。

「会おう。通してくれ」

 ペペロンがそう命令すると、ララが優雅に頭を下げて、

「かしこまりました」

 と言い屋敷の外に出て、行商人を連れてきた。

 入ってきたのは、ヒューマンの男であった。

 背が低めで、髪は短め。目が大きくて、耳が大きく、猿顔である。

「こんにちはー。あなたが町長のペペロンさんですね。お会い出来て嬉しいです! 僕は行商人のアーレス・トレットと申します!」

 ハキハキと笑顔でそう言った。

 愛嬌があり口調もはっきりしている。

 商人として売る能力に長けているなと、ペペロンは思った。

「商品を見せてくれ」

「分かりました! あ、外に商品を乗せたワゴンがあるので、来てもらえると助かります!」

 それなら最初から自分が出てれば良かったな、と思いつつペペロンは外に出た。

 ワゴンの中には、色々な商品が入っていた。

「設計図や魔法書などが欲しいのだが」

 ペペロンがそう言うと、商人は甲高い声で、

「ありますよ! こちらです!」

 と言って、荷から商品を取り出してきた。

 ペペロンは商品を見る。

 魔法書はめぼしいものはなかった。

 次に設計図を確認する。

(お、中級研究所の設計図だ。それから、バリスタの設計図もある。塔、中級防壁の設計図と、町長の屋敷、公衆浴場の設計図もあるな。町から都市に拠点レベルを上げるのに、全部必要なやつだ)

 今欲しかった施設の設計図が、結構売ってあった。

 値段を見てみる。

 全て千ゴールド前後だ。

 ペペロンの知識にある定価より、若干高かったが、そこは行商人が売っているものなので仕方ないだろう。

 設計図五つ買っても、まだまだ残りのゴールドは多くあるため、気にせず購入することにした。

「ありがとうございます!」

 たくさん設計図を買ったので、アーレスは非常に嬉しそうだった。

「ほかにも色々ありますよ! いかがですか?」

「いや、もう欲しいものはないな」

 魔法書、設計図以外に特に目ぼしいものはなかった。

「そうですか。あ、買い取りもしてるんですが、何か売っても良いというものがあれば、買い取りますよ!」

 売って良いもの? と言われて考える。

 モンスターから獲得した素材が、結構余っており、今は使い所がない。

 これから先も使いそうにはないので、売った方がいいとペペロンは判断した。

「モンスターから取った素材が、いくつか余っているのだが、買い取ってくれるか?」

「素材ですか。良いですよ!」

 貯蔵庫から素材を持ってくる。

「め、めっちゃありますね。全部は無理ですよこれ!」

 結構近くにいるモンスターを、食料にするという目的も兼ねて狩っていたので、だいぶ素材は溜まっていた。

 結構強く、簡単には倒せないようなモンスターの素材もあり、それは高く買い取ってくれるとのことなので、ペペロンは売ることにした。

 結局、設計図を買うのに使用した値段より、高い値段で素材は売れたので、プラスになった。

「いやー、しかし、ペペロンさんとは良い商売が出来そうですよ。これから定期的に訪れたいと思いますが、欲しいものがあったら、言ってくれませんか?」

 アーレスがそう尋ねてきた。

「そうだな……基本的に欲しいものは設計図だ。魔法訓練所、大聖堂、集会場、噴水、図書館が今のところは必要だな。魔法書は、その辺で売っているものじゃなくて、珍しいものなら何でも欲しい」

 設計図は拠点レベルを町から都市に上げるために、必要なものだ。

 魔法は、覚えて損するようなものはなく、色々使えた方が何かと便利である。

 その辺で売ってあるような魔法書は、すでにある程度揃っているので、そこはわざわざ仕入れてきてもらう必要はなかった。

「設計図は集められそうですね……魔法書は……珍しいやつはそう簡単には手に入りませんからね……仕入れる機会があれば、仕入れてきますね」

 アーレスはそう言った。

 中々便利な存在を早めに見つけることが出来た。


「それでは、また来ますね!」


 アーレスはそれだけ言い残して、拠点を去っていった。

 今は材料集めの途中なので、まだ施設を作ることは出来ないが、これで材料が集まり次第、すぐに作れるようになった。


 数日後、材料集めが完了する。

 その後、すぐに中級研究所のアップグレード作業に移った。

 大勢の住民たちの力を借りて作ったので、割とあっさりと完成した。

 これでエリーの研究力もぐんと上がるだろう。

 その後、ほかの施設を作るための材料集めを行う。

 まずは防壁の強化を行った。

 その後、塔を作り、バリスタを作る。バリスタは強力な遠距離兵器なので、それほど強くない者でも強力な敵を倒せるようになる。

 バリスタの命中率を上げるためには、訓練を積まないといけない。

 矢をたくさん作ったので、訓練もたくさん出来るだろう。

 これでペペロンが町を空けている間に、敵が攻めてきても、そう簡単には攻め落とさせないくらい、拠点の防衛力は高まった。


 防衛力強化が終わったちょうどその時、エリーの魔法研究が終了した。

 やはり中級研究所になったことで、研究速度が飛躍的に伸びた。

 元のままだったら、あと数十日はかかっていただろう。

 ボルフの塔から獲得した、パワーエンチャントの魔法やギガフレイムの魔法を習得することが出来た。

 これで、大幅に火力が上がった。パワーエンチャントは、拠点にいる全ての者たちが使えるように、訓練をさせようとペペロンは思った。

 魔法書を解読すると、拠点に所属する者たちは、全員その魔法を使えるようになる。

 しかし、使いこなせるように訓練をしないと、魔法は発動するが、ほとんど効果はないという結果になってしまう。

 それだと意味がないので、訓練は必須だった。

 とにかく、パワーエンチャントの魔法を使いさえすればいいので、訓練は簡単である。

 パワーエンチャントは、優秀な魔法であるが、そこまで魔力消費量が多いというわけではないので、誰でも使うことは可能だった。

 住民たちに毎日、数回は必ず使うように、ペペロンは指示を出した。

 自分たちが強くなるために必要なことなので、住民たちは快く指示に従った。


 ほかの町に情報収集に行かせていたガスも、戻ってきていた。

 各町の相場の情報は、ゲーム時代とほとんど変わっていなかった。

 なら、隊商を編成して、商売をしてたくさんのゴールドを稼せごうとペペロンは思った。

 もっと住民たちを強化しないと、野盗に襲われたり、モンスターに襲われたりして、隊商が壊滅しかねないので、もっと強くなってからにはなるだろうが。


 公衆浴場の作製も終了した。

 公衆浴場自体は、ペペロンの趣味もだいぶ入っている。

 やはり中身は日本人であるので、まともに風呂に入れない生活は正直に言ってきつかった。

 マジック&ソードのゲームにおける公衆浴場の存在意義は、拠点に住んでいる住民たちの満足度を上げるというものであった。

 別に入ったから能力が上がるとか、体力が回復するといった効果は存在しなかった。

 風呂の原理は、温泉をくみ上げているいうわけではなく、魔法によって行われているようだ。

 初期から火を起こす魔法のフレイムと、水を出す魔法のウォーターは持っているので、それらの魔法を使ってお湯を作っているようである。

 ペペロンは早速湯に入る。

 風呂場は貸し切り状態。部下がペペロン専用の浴槽を作製したからだ。

 ペペロンは別に良いと言ったのだが、部下たちはそれでも絶対に作ると言って、作った。

 ほかの浴槽に比べて明らかに豪華で、壁にも手の込んだ絵が描かれてある。一体誰が描いたのは分からない。

「ふうぅー」

 ペペロンは早速お湯につかる。

 久しぶりに風呂に入って、生き返った気分になっていた。

 何だかんだいって異世界に転移してから、色々な意味で疲れていた。

 ペペロンのキャラの強力なステータスがあるため、多少疲れても働き続けることは出来ていたが、それでも疲れは溜まる。

 今日は心置きなく、風呂を楽しむと決めてゆっくりと湯船に浸かっていた。

 すると、

「ペペロン様……お背中を流させていただきます」

 とララが風呂の中に入ってきた。

 タオルを巻いているので、見えてはいけない所が見えているわけではないが、それでも煽情的な光景だった。

 前世ではゲームオタクで、異性に縁など全くなかったペペロンには刺激が強すぎる。

 何とか動揺しないようにペペロンは、

「自分で流すからよい」

 と言ったが、

「い、いえ、ここは流させていただきます!」

 ララはやたら頑なに主張してきた。

 なぜそこまで背中を流したいのか分からないが、ここまで言ってくれるのに追い出すのは、罪悪感を感じたため、

「なら、頼んだ……」

 ペペロンは折れた。

 湯船から出て、風呂椅子に座る。

「それでは、失礼します」

 ララは持っていたタオルで、ペペロンの背中を洗い始めた。石鹸などはないため、水洗いである。

 他人に背中を洗われたという経験が、子供の頃以来だったので、懐かしい感じがしながら、されるがままじっとしていた。

 後ろにほぼ裸のスタイルの良い美しい女性がいると意識をすると、色んな意味で危ない感じがしたので、そこに関しては意識せず、なるべくほかのことを考えてやり過ごそうとする。

「前の方も失礼します」

 そう言って、ペペロンの胸の辺りをタオルでララはタオルで洗い始めた。

 豊かな胸がペペロンの背中に思いっきり当たる。

 今まで感じたことのない感触をもろに感じて、体のとある部分が激しく反応した。


(や、やばっ)


 このままではまずいと思い、ララから逃れようとしたとき、

「ペペロン様ー! 一緒にお風呂、入ろー!」

 とファナシアが元気な声で乱入してきた。

 ファナシアはララのように、タオルを体に巻いておらず完全な全裸だった。

 ララほど、煽情的な体型をしていないファナシアではあるが、引き締まった肉体をしており、スタイルも決して悪くはない。

 そもそも、女性の体を生で見たことがないペペロンにとっては、スタイルなど関係なく刺激的な光景である。

 ペペロンもなるべく直視せず、軽く目を逸らし、なるべく見ないようにした。

 ファナシアの横には、エリーの姿も見えた。

 彼女はタオルを体に巻いて、顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。

 ファナシアのように羞恥心がないというわけではなさそうだった。

「こら! ファナシア! 一緒に入るなんて身の程を弁えなさい!」

 乱入してきたファナシアを見て、ララは一旦ペペロンの背中を流すのやめ、立ち上がり、怒りの表情を浮かべて叱った。

 密着されて、流石にこれ以上我慢は難しそうだとペペロンは思っていたので、離れて少しだけほっとする。

「えー? ララも一緒に入ってるじゃん!」

「私はお背中を流しているのです!」

「じゃあ、アタシがペペロン様の背中、流す!」

「これは私の仕事で……あっ!」

 ファナシアは凄まじいスピードで動き、椅子に座って背中を流し始めた。

 やたら速いスピードでファナシアは背中を洗ってきたので、若干痛みを感じる。

「ペペロン様、どう!?

「いや、もう少し遅く……というより、背中はもうララが洗ってくれたから……」

「じゃあ、前を洗うね!」

 抱き着いてファナシアはペペロンの胸を洗い始めた。

 ファナシアはララほど胸が大きくないので柔らかさを感じにくいとはいえ、ララのようにタオルを付けていないので、直に当たってしまう。

 流石にこれはまずいと思ったペペロンは立ち上がり、

「体は十分拭いてもらったし、もう湯につかる。皆も一緒につかろうではないか」

 と動揺をなるべく隠しながら、そう言った。

 ここで三人を追い払うのは心苦しいので、一緒に入るのが良いとペペロンは思った。

 体を密着されるより、一緒に入る方が動揺も少ない。

「入る入るー」

 ファナシアはさっきまでペペロンの体を拭こうとしてたのを忘れて、湯船に飛び込んだ。

 ララは少し戸惑っていたが、本心は入りたかったようなので、恐る恐るという様子で、湯に入った。

 その後、こそこそとエリーも浴槽に近付いてきて、お湯につかる。

 エリーはお風呂がかなり好きなようで、お湯につかって気持ちよさそうに目を細めていた。このまま寝る気なんじゃないのか、というくらいリラックスをしている。

 美少女三人と混浴という、転移前では考えられないような事態であるが、なるべく周囲を見ないよう、心を落ち着けて過ごした。

 しばらく風呂につかり上がる。

 今度からはなるべくこっそり風呂に入りに行こうと、ペペロンは決めた。