第一章 発展


「プレットー村はねー! 右の道を行けば着くんだよ!」

「違いますわ! 左の道に行くと森があるので、その中にプレットー村がありますの! 覚えてませんでしたの!」

 プレットー村に向かう道中、ファナシアとララがどっちの道が正しいかを巡って言い争いを始めた。

「えー! 絶対、右だよ右!」

「ペペロン様、ファナシアの言葉を信じてはなりませんわ! 確実に左の道だったと記憶しております」

 記憶力はララの方が優れていそうだし、ペペロン自身もハーピィーが住んでいる村は、プレットー村に限らず大体森の中にあったような気がするという、自身の記憶からララの言葉の方が正しいだろうと思った。

「ここは左の道を行こう」

「えー!!

「流石ペペロン様、賢明なご判断ですわ!!

「絶対右だと思うんだけどなぁー……あれ? でも左だったかも? うーん、左のような気も……」

 正しい道を思い出し始めたのか、ファナシアは悩み始めた。

 ララの言葉通り、三人は左の道を進んだ。

 左の道をずっと進むと、ララの言葉通り森が見えた。

 道を外れてその森に入る。

「この森の中央にプレットー村はあったと思いますわ」

「中央か……」

 森の中央と言われても、どの辺りが中央なのか分かりにくい。

 それほど大きな森でもなさそうなので、移動速度が速い自分たちなら、しらみ潰しに探しても見つけられそうだと、ペペロンは思っていた。

 村が見つからなくとも、森の中に、プレットー村の村人がいて、その村人に場所を聞ける可能性もあるので、それほど時間はかからないだろう。

 三人は森の中を探索する。

 森の中にはモンスターが潜んでいた。巨大な赤いトカゲ、レッドキングリザードという名のモンスターだ。

 動きが素早いことが特徴であるが、ペペロンたちに比べると遅く、ほかに優れた能力もないため、はっきり言って敵ではなかった。

 襲いかかってくるが、ファナシアが瞬殺していく。ペペロンは自分のやることはないと、剣すら抜かなかった。

 その後も、モンスターが何体も出てきた。

 赤い角がある大きめのクマ、レッドベアや、緑の巨大な蜘蛛、ジャイアントグリーンスパイダーなど、三人にとっては強くないモンスターであっさりと倒した。

 この森にいるモンスターは、そこまで強くはないようだ。そもそもモンスターが強かったら、弱小種族のハーピィーが村など作ることは出来ない。

 探索を続けて数時間経過。

「ここか」

 木の塀に囲まれた村があった。ようやくプレットー村を発見することが出来た。

 門がありその横に、見張り台がある。その上からファナシアと同じく背中から翼を生やしたハーピィーが、周囲の様子を確認している。

 ちょうど見張りをしているハーピィーと目があった。


「貴様ら何者だ!」


 警戒した様子で声をかけられる。

「怪しい者ではない。村の中に入れてくれないだろうか?」

「怪しい奴が自分で怪しいですと名乗るか!」

 それは全くその通りであった。

 同種のファナシアに説得してもらえれば早いと思い、ペペロンはファナシアに入れてもらえるよう頼んで欲しいと言う。

 ファナシアは頷いて、

「アタシたち全然怪しくないから、入れてー」

 とお願いした。

「む、同胞か。しかし同胞がいるからと言って易々とは開けられん。同胞が悪党に無理やり従わせていたり、同胞が悪人であることがあるからな」

 ペペロンはやたら警戒しているなと思った。

 ゲーム時代は、そこまでの警戒感はなく、同種が仲間にいたり、交渉術などのスキルが高ければ、あっさりと村に入れてくれた。

 余所者を警戒するのは普通のことではある。現実になったので、変化が生じたのだろう。

 ペペロンはカリスマ性という能力値が高数値であるが、警戒している相手にはあまり意味をなしていないようである。

 ここは言葉で交渉をしていくしかない。

「そもそも、こんな辺鄙なハーピィーの村に何の用だ。ここには何にもないんだぞ」

 欲しいものは村の住民であるが、良く考えればプレットー村からすれば、貴重な住民を引き抜かれるということである。

 ゲーム時代はその辺をリアルにすると面倒なのか、普通に勧誘出来た。

 村の好感度が高ければ、勧誘して部下になってくれる住民の数が増えるが、良く考えると現実になっている今そんな簡単に勧誘出来るとは思えない。

 前回のエルフの住民を引き入れることに成功したのは、BBCに襲われているところを助けたからだった。

 ただ勧誘するだけではなく、何かプレットー村が抱えている問題を解決してから、勧誘した方が成功率は上がりそうだ。

 何の問題も抱えていないという村はなさそうである。それを余所者に教えてくれるかどうかは、分からないことではあるが。

「私はグロリアセプテムという村の長のペペロンというものである。プレットー村と良き関係を結びたいと思っている。信頼出来ないというのなら、何かこの村が抱えている問題を一つ解決してみせよう」

「グロリアセプテム? 聞いたことないな。たいそうな名前の村だ」

 小馬鹿にしたような態度を門番が取り、ララがかなり怒ったような表情を浮かべて、今にも飛びかかっていきそうだと思ったので、ペペロンは止める。

 普段はお淑やかな性格のララではあるが、ペペロンやグロリアセプテム絡みのこととなると、怒りの沸点が著しく低くなる。

「抱えている問題と言えば、森に出てくる『赤い悪魔』だな……塀のおかげで村には入ってこないが、森で狩りをする時とかに、仲間が襲われて非常に苦労している。狩りの成功率も低くなって、食糧庫が底を突き掛けている。まあ、貴様らに奴を何とか出来るわけがないがな」

 問題は話してくれた。食糧庫が底を突き掛けていると、結構深刻な問題を抱えているようだ。

「どんな外見のモンスターだった?」

 恐らく倒せないモンスターではないだろうが、一応何が出たのか確かめるため、どんな外見だったかペペロンは尋ねた。

「赤い悪魔は……角を生やしていて、赤い毛に覆われている、巨大で獰猛なモンスターだ。とにかく強くて歯が立たない……倒しに行くつもりならば、やめておけ、貴様らでは到底歯が立たないだろう」

 モンスターの特徴を聞き、ペペロンは何か引っかかった。

(どこかでそんなモンスターと出くわしたことがあるような……)

 数秒考えて、プレットー村に着くまでの道中に倒した、レッドベアである可能性が高そうだと思った。

(レッドベアは、俺たちからするとただの雑魚モンスターだから、ほかのモンスターと同じく瞬殺したけど……よく考えればほかのモンスターより一段階くらい強さが上だよな……レッドベア以外考えられないな)

 ペペロンたちにとっては同じ雑魚でも、プレットー村の住民たちにとっては、レッドベアとほかのモンスターとでは、大きな差があるようだと、ペペロンは推測した。

 レッドベアの死体から取れる素材はそこそこの値段で売れるのだが、わざわざ取るほどでもないな、と放置していた。

 倒した場所はそこまで遠い位置ではない。二十分くらいで行って帰って来れる。

「ちょっと待っていてくれ、我々が敵ではないことを証明してくる」

「お、おい、待て! 倒しに行く気か? 死ぬぞお前ら!」

 見張り役のハーピィーは慌てて三人を止めた。心配しているようなので、警戒はしているが、確実に悪党であると思っているわけではいないようだ。

 もうすでに倒しているのだが、そのことは言わずにペペロンたちはレッドベアの死体を取りに行った。

 数分で死体のある場所へと到着。

 死体を漁るモンスターに見つかって食われたなんてことはなく、きちんと赤毛の巨体が地面に横たわっていた。

「私が運びますわ!」

 ララがそう言ってレッドベアを持った。自分の体の数倍の大きさがあるレッドベアを、軽々とララは持ち上げた。

 万能にどんなことでも出来るようにララは強化してある。筋力においても超人的なステータスを持っていた。

 レッドベアを運び、プレットー村へと戻る。

 ペペロンは、レッドベアを門番に見せた。


「な……あ、赤い悪魔!?


 門番はレッドベアを見た瞬間、驚きの声を上げた。

 レッドベアが赤い悪魔で間違いないようであった。

「これで我々が敵ではないと分かってもらえたか?」

「あ、ああ……ちょっと待ってくれ、村長を呼んで来る……」

 見張りはそう言って、村の中に行った。もしかすると、レッドベアを倒すほど強いということで、逆に警戒されるかもとペペロンは少し心配していたが、そんなことはなかったようだ。

 しばらくすると、門が開いた。村に入れてくれるようだ。

 ペペロンたちは村の中に入る。

 ハーピィーの住む家は、素朴な木造の建物だった。

 中にレッドベアを入れた後、もう持つ必要もないので、ララにレッドベアを下ろしていいと指示を出し、ララはレッドベアを地面に置いた。

「う、うわ! 赤い悪魔だ!」

 村に入った途端、老人の驚き声が聞こえてきた。

 ハーピィーの老人がレッドベアを見て、目を丸くしていた。

 恐らく彼がプレットー村の村長だろうと、ペペロンは予想する。

「ほ、本当に倒したのか、お主たちが……いきなり動き出したりはせんかのう?」

「間違いなく私たちが倒した。触ってみるか?」

 村長は恐る恐るレッドベアに触れる。

 ピクリとも動かないのを確認する。

「ほ、本当のようじゃな……」

 ほっとした表情で、村長はつぶやいた。

「申し遅れたが、わしはこのプレットー村の村長、ギジャールじゃ。お主たちは……同胞と小人族とエルフ……どれもあまり強くない種族として有名であるが……あれだけ強いとは、一体何者なのじゃ」

 ギジャールがそう質問をすると、ララが待っていましたという表情で、


「良くぞお聞きになりました。このお方は、七種族の救世主、至高の王、世界最高の大英雄、生ける伝説……グロリアセプテムの王、ペペロン様ですわ!!


 ペペロンを紹介した。

(二つ名増えてるし……)

 以前の名乗りから、なぜか一つ二つ名が増えていた。

 相変わらず派手すぎる名乗りに、ペペロンは恥ずかしさを感じる。

「な、何かよく分からないが、やはり凄いお方なんじゃな……」

 ギジャールは二つ名をおかしいとは思っていないようだ。

 いつの間にか、ほかの村人のハーピィーたちも寄ってきていて、ペペロンたちを取り囲んでいた。最初は警戒されていたため、ペペロンのカリスマ性の高さが効果的ではなかったようだが、レッドベアを倒し警戒を解くと、効果を発揮しているようだ。

 村人全員が、ペペロンを畏敬の念を込めているような表情で見ている。

「あのレッドベアを倒した……」

「す、凄いお方だ……」

「体は小さいけど、なぜか大きく見える……」

 ハーピィーたちがざわざわとペペロンを見ながら騒ぎ始める。

 レッドベアを倒すというハーピィたちにとっての偉業を成し遂げて、カリスマ性の効果が出始めたのではとペペロンは考えた。

 この状況なら、勧誘もある程度成功するだろうと思ったペペロンは、話を切り出すことにした。

「私は小人、エルフ、ハーピィー、ゴブリン、巨人、賢魔、コボルドの不遇と言われる七種族たちのための、王国を作ろうと思っている。まだ人口も少なく、王国というにはものたりないため、新しい住民を探していたのだ。この中に我がグロリアセプテムの住民になりたいというものがいれば、名乗り出て欲しい」