惑星アイア、日本。

 見上げる空は青く、雲一つない。

「暑いな」

 いつつぶやき、れんをくぐって和食店へと入る。

「いらっしゃい」

「連れが先に来ているはずだが」

「奥にいらっしゃいます」

 そう言われて奥へと入っていく。

「来たな」

 逸見の顔を見るなり、いそやまは破顔して手招きする。

「今日は何だ?」

 そう尋ねると店員が注文を取りに来た。チラリと磯山の手元にある生中を見て、

「とりあえず生中一つ」

 と言うと磯山が続ける。

「予約どおりに料理を出してくれ」

「かしこまりました」

 店員は部屋を出ていった。

 ほどなくして逸見に生中が届けられる。

「それで何だ?」

「ああ、結婚する事になった」

 と言って磯山はビールを飲む。

「ふふ、お前もか」

 ビールを飲み、逸見も笑う。

「何だと! 逸見も結婚するのか!?

「お互い色々と話し合った結果、早い方が良いという結論になった」

「ふう、俺らも同じようなもんだ」

 磯山は逸見の追加分のビールも一緒に頼む。

 そのうちに料理が運ばれて、二人は舌鼓を打つ。

「だいぶ日本料理らしくなったな」

 と逸見がしみじみと言う。

「ドワーフの女子が日本の料理にかなり興味を持ってな、それで日本の食材に似たものを提供したらしい」

「そうか」

 逸見は赤身の刺身を食べる。


  


 リンドルンガ上空、浮遊島。

「ようやくここまで来られましたな」

 ドラガンは目の前のリンドルンガ産の魔導宇宙船を見上げる。

「これで宇宙へと飛び出せる。待っててくださいよ、コウさん」

 とドラガンは呟いた。


  


 リンドルンガ上空、母船内コントロールルーム。

「リンドルンガ上空に到達しました」

 あんの表情をしてオペレーターがそう報告する。

 俺たちはシャンバラから次元転移をしてやっと戻ってきたところだ。

「俺らはリンドルンガにはみはないが、生まれた星に帰ってきた感じはするな」

 タキノも背伸びをして身体からだをほぐし、そう言って笑顔になる。

「本当にそうだな。安心したよ」

「へぇ、ここがコウが初めに拠点としていた街なんだね」

「それは興味あるわね」

 ルカは興味深そうに街と浮遊島を眺め、ヘルミナもルカを横目でチラリ見ながらリンドルンガを眺める。

「ナブが逐一データを送ってくれていましたから、結構発展していると思いますよ」

 コウも懐かしそうに笑顔でリンドルンガを見る。

「では降りてみましょうか」

 とコウの一言でサイ、タキノ、ルカ、ヘルミナが後に続く。まずは五人で降りて様子を見て他のクルーも降下させる予定だ。

 四人を連れてコウは久しぶりの自宅ガレージへと入る。少しほこりっぽいが懐かしく思える光景を見る。とりあえずは浄化魔法で埃を取り除いて、ソファーやテーブルに椅子を用意する。

「まぁ、適当に座ってください」

 と言うと各自は好きな場所に腰を据える。

「ここがコウの最初の拠点か」

「ふふふ、コウの原点といったところね」

 サイがガレージを見回しながら興味深そうに言うと、ヘルミナも同様にガレージを見回す。

「丁度昼ですね。何か食べますか?」

「いいな」

 とタキノが答えると、コウとルカがキッチンに向かい、食事の用意をする。

 食事の用意が出来るとテーブル席に全員で座り、とりあえずのビールで帰還の乾杯をする。

「一仕事が終わった後のビールは最高だな」

「本当ね。しいわ」

 タキノはめるようにそう言うと、ヘルミナもしみじみと言った。

 食事が進み、一段落した頃に呼び鈴が鳴る。

 誰か来たらしい。コウが扉を開けるとそこには懐かしいメンバーがいた。

「久しぶりです。コウさん」

 マリオさんが涙を浮かべている。

「よっ、コウ」

 後ろから顔をのぞかせて手を上げたのはぎんろうの三人だ。うれしそうに笑っている。

「元気でしたか? 皆さん」

「はい、皆元気にしてましたよ」

 コウが笑顔で返すと、マリオさんが代表して答えた。

「まあ、中に入ってください。今の仲間を紹介します」

 コウが先導してガレージに入っていく。

 テーブルの前へと行くと、仲間達を紹介していく。

「紹介しますね。魔法使いのサイです」

「よろしく」

 とサイが頭を下げる。

「次は剣士のタキノです」

 タキノは口にまだ何か入っているのか、モグモグしながら片手を上げる。

「次に結界師兼料理担当のルカです」

「ルカです。よろしくお願いします!」

 ルカが元気よく挨拶をする。

「最後に弓術師のヘルミナです」

「ヘルミナです。皆さん、はじめまして」

 ヘルミナは席を立ち、お辞儀をする。

 次にマリオさんや銀狼の三人を紹介すると、ビールを取り出して全員で乾杯をする。

 なんやかんやと時間が過ぎて、マリオさんと銀狼の三人は帰っていった。


  


 リンドルンガ商店街。

「コウさんは良い仲間に恵まれたようですね」

 マリオが嬉しそうに言うと銀狼のウリルは複雑な表情をした。

「それは良かったんだが……何か悔しくてな」

「ハハハ、ウリルさん。コウさんが初めてリンドルンガに来た時は、ここの常識が分からなかったでしょ。そんな時にコウさんの隣にいたのは私達ですよ。それは間違いないです」

 マリオはウリルの背中をたたく。

 そんなやり取りを見てダリスとランガも顔を見合わせてうなずく。

「さて、コウさん達もすぐには旅立たないと思いますから、また会いに行きましょう」

 マリオを先頭にして商店街を歩いていく。


  


 リンドルンガ上空、浮遊島。

「なにぃ!? コウが帰ってきてるだと!?

 ドラガンが報告に来た警備の兵士につかみ掛かる。

「まぁ待てドラガン。まずはこの宇宙船の改良が先だ」

 同僚のドワーフがそう言うと、ドラガンは少し落ち着いた。

「それもそうか。じゃあ野郎ども! 仕上げるぞ!」

 その言葉に他の面々も声を上げる。

「見とれよ、コウ。俺らの意地を見せてやる」

 ドラガンはニヤリとしながら呟いた。


  


 リンドルンガ商店街。

「ここは活気があるな」

「そうね、あれがファントムというものかしら」

 サイが道行く人々を眺め、ヘルミナが通りをかっする数台のファントムを指差す。

「ええ、あれがファントムですね。それも、商人が使う荷馬車代わりのものです」

「じゃあ、あれは?」

 ルカが指差す方向には、冒険者が使うファントムが四機歩いている。

「あれは冒険者用の対魔獣仕様のファントムです」

 いかつい武器を持ったファントムをコウは見る。

「あちこちに冷えた飲み物が売ってるし、あれはアイスじゃねぇか」

 とタキノはびっくりしたように言う。

 途中、キンキンに冷えたエールと串焼きを食べつつ商店街を巡り、広場へとやってきた。

「おいおい、あれはボア丼屋か?」

「そうですね、あれは先日来たマリオさんと一緒に手掛けた店です」

 タキノがざとくボア丼屋を見つけ、コウは懐かしそうにボア丼屋を見る。

「色々とやっているんだな。ん? あれはもしかしてビールか?」

 サイは店の前にいくつか並ぶテーブル上に置かれたジョッキに目をつける。

「そうです。冷えたジョッキに冷えたビールと、ボア丼の具のみをセットにしたものですね」

「この街だけ別の世界みたいだわ。あちこちに進んだ魔導具が使われて、食文化も進んでいる。流石さすがコウのいた街ね」

 ヘルミナが感心したように……いやあきれたように言った。

「ふふふ、流石コウ、自重という言葉を知らないわね」

 とルカが笑う。

 しばらく広場内を探索してあらかた見終わったので、広場にあるベンチで休憩する。

 空を見上げると雲一つ無い青空が広がる。

《マスター》

「どうした、ナブ」

《現在、リンドルンガ上空に未確認の飛行物体が上昇中です》

「どこからの飛行物体だ?」

《おそらくは浮遊島です》

「そうか! 完成したんだな」

 とコウは嬉しそうに空を見上げる。


  


 リンドルンガ上空、浮遊島産試験宇宙船内。

「現在、問題なく上昇中」

 オペレーターが計器類を監視しながら後ろに控えるドラガン達に報告する。

「ここまでは順調だな」

「ああ、それでなければ困る」

 とドラガンは離れて刻々と小さくなる浮遊島をモニター越しに眺める。

「大気圏外に出ます」

 その声に息をむ。

「宇宙空間に到達しました。これより周回軌道に移ります」

「ヨシ! 船内の重力制御も大丈夫だな」

 ドラガンは拳を握り、ふとモニターに映った生まれ故郷を眺める。

 そう、青く美しい星を。

 誰も彼もがその美しさに言葉をくしてモニターを見入る。

「俺はこんなにも美しい星に住んでいるんだな」

 と一人が呟くと、

「本当だな」

 全員が頷く。

「予定周回数をクリアしました。これより帰還シークエンスに入ります」

 その言葉に全員が気を引き締める。

「大気圏に突入します。耐熱結界、順調に機能中。問題ありません」

 安堵すると、

「リンドルンガ上空に到達。浮遊島へ着陸します」

 とのオペレーターの声に歓声が上がる。

「やったな」

 ドラガンを含めた者達が涙を浮かべてたたえ合う。


  


 リンドルンガ広場。

「ナブ」

《ハイ、マスター》

「その後の飛行物体の様子は?」

《無事に周回軌道を周回して浮遊島に帰還しました》

「そうか、やったな」

「どうしたの? コウ」

 とルカが顔を覗き込んでくる。

「ふふ、嬉しそうね」

 とヘルミナも笑う。

「実はですね。浮遊島の連中が独自に宇宙船を開発して飛行に成功したんです」

 嬉しそうにコウは笑う。

すごいな」

「本当か?」

 サイとタキノも素直に驚く。

「まだ実験機ですし、足りないところもかなりあるなか、快挙ですよ」

 コウはまぶしそうに浮遊島を見上げる。

《マスター》

「どうした、ナブ」

《シャンバラより通信が入りました》

「シャンバラから?」

《はい、マスター》

「内容は?」

《調査依頼です》

「どこの調査だ?」

《新しく発見された宇宙です》

「新たな宇宙か」

「うん? ナブからか」

 とタキノが聞く。

「ええ、シャンバラからの調査依頼で、新たな宇宙を調査してほしいみたいです」

「そりゃぁ面白そうじゃねえか」

 タキノは満面の笑みを浮かべる。

「この話、受けてもいいですか?」

 と全員の顔を見回すと、

「どうせ暇だし、いいんじゃないかしら?」

 ヘルミナがそう言って全員が頷く。

「ナブ、次元転移の魔法陣は?」

《既にデータは送られてきています》

「そうか、母艦に戻ろうか」

 一行は母艦に向かう。


 リンドルンガ上空、母艦内。

「皆さん聞いてください。これからシャンバラの依頼により新しい宇宙の調査に行く事になりました」

「はい、既にナブさんから次元転移の魔法陣のデータをもらっています」

「了解しました。では皆さん、出発の準備を始めてください」

 コウが指示を出すと全員が動き出す。

「今度はどんな旅になるのかしら?」

「誰も行った事のない宇宙か。ワクワクするな」

 ルカがつぶやくとサイがそう返す。

「転移魔法陣の準備が出来ました」

 オペレーターの声が聞こえた。

「転移を始めてください」

「転移魔法陣の展開を開始します。転移まで十、九、……四、三、二……転移開始します」

 軽い振動があったかと思えば転移した。しかし……、


  


 新しい宇宙のとある惑星。

「えっ! ここはどこ? 船は?」

「分からねえ」

 ルカの横で周囲をにらむタキノがそう返す。

 うっそうとした森は暗く危険に満ちているようだ。


  


 新しい宇宙の別の惑星。

「何が起きた!?

「異変が起きたようね」

 驚いた様子のサイに、ヘルミナが何も無い平原を見てそう言った。


  


 新しい宇宙の母艦内。

「た、大変です! コウさんやタキノさん、サイさん、ルカさん、ヘルミナさんがいません!」

《次元転移時に何かあったようですが、魔法陣などには異常は見られません》


  


 新しい宇宙空間。

「くっ!」

 コウは呟くと、結界を張って風魔法で内部を空気で満たす。

「なぜ? 俺だけ宇宙空間に放り出された!?


  


 新しい宇宙、とある惑星、サイとヘルミナ。

 どこを見ても平原だ。ここはどこなんだ? コウやルカ、タキノはどこだ?

「何が起きたんだ?」

「ふふふ、いきなりのトラブルね」

 サイは途方に暮れるがヘルミナは笑う。

「おいおい、余裕だな?」

 サイは苦笑しながらヘルミナを見る。

「そうね、今は何も分からないし、慌ててもしょうがないわ。お茶にでもしましょうか」

 そう言って収納から簡易テーブルと椅子を二脚取り出す。

「おっ、ヘルミナがれてくれるのか?」

「バカね。私は料理とかは何も出来ないわ。もちろん、母船で配られるお茶よ」

 サイがうれしそうな表情をしたが、ヘルミナはそう言ってテーブルの上に缶に入ったお茶を二つ取り出した。

「はぁ、まぁ俺も似たようなもんか」

 タブを開けてお茶を飲み出す。

 サイは何かに気がついた。

「そういえば、この状況を考えると食料は持ってるか?」

「私は弁当が二ヶ月分というところかしら。他にはお茶が五百本に炭酸水が二百本。アルコール各種が五十本あるわね」

「俺も似たようなもんだ。酒だけは俺の方が多いくらいか。この先どうする?」

「人がいるか分からないけど、いそうな方へ行きたいわね。確認するアイデアは無い?」

「う~ん、そうだな。……人が住むとしたら魔獣が少ない所だな。という事は魔素が少ないところとなるな。ちょっと試してみるか」

 サイがそう言って立ち上がり、目をつぶる。

「ん? なんとなくだが俺の向いてる方が魔素が濃い。そして俺の背後の方が薄い感じだな」

「じゃあ、魔素が薄い方へと行ってみる、でいいのかしら?」

「だな」

 サイが答えるとヘルミナは空き缶とテーブル、椅子を収納へとしまう。

「行ってみるか」

「ふふ、冒険ね」

 サイは背後へと振り向き、と歩き出す。

 ヘルミナが笑うとサイは肩をすくめた。


「だいぶ日が傾いてきたな。この辺で野営しようか」

「そうね、いいわ」

 サイが空を見てそう言うとヘルミナは立ち止まる。あとはそれぞれのテントを張り、テーブルや椅子を取り出して、テーブルの上に魔導ランプを二つ置いて弁当を用意する。

「ふ~、成果無しだな」

「また明日、何か考えましょう」

 サイは中華丼を食べ、ヘルミナは生姜しょうが焼き弁当を食べる。

 食べ終わるとそれぞれ好きなアルコールを収納から取り出す。

 サイはビール、ヘルミナはワイン。

 タブを開けてサイはビールをゴクゴクと流し込み、ヘルミナはワインをコップに注いでチビチビと飲み出す。

「しかし、これはどういう事なんだろうな」

「サッパリ分からないわ」

 サイがビールの缶を見ながら言うと、ヘルミナはそう返した。

「そういえば、他のやつらはどうしてるかな?」

「多分、同じようにバラバラなような気がするわ」

「そうだよな」

 サイはいきをつく。その後は各自で結界を張って就寝した。


 翌朝、簡単に朝食をって歩き出す。

「何かないか?」

 とサイは考えながら歩いていた。

「どうしたのサイ?」

「いや、進むべき方向を確認する方法がないかと」

 ヘルミナがその様子を見て声を掛けると、サイは答える。しばらくして、

「そうか、やれるな」

 と言うと、サイは結界を地面と平行に生成し、それに乗って上昇していく。

 三百m、何も発見出来ず。

 五百m、発見出来ず。

 七百m、発見出来ず。

 千m……かすかに何かが見える。建物か?

 降りてヘルミナに伝える。

「これで何もないという事はなくなったわね」

「だが何日もかかりそうだぞ」

 ヘルミナはご機嫌そうに言うと、サイはゲンナリして返した。

「あら、冒険よ。それも良いじゃない」

 ヘルミナは笑う。

「はぁ」

 と溜め息をつき、サイは後をついていく。


 新しい宇宙、母船。

「魔導レーダーに感知あり。アンノウンが二」

 魔導レーダーには二つ光点が表示されている。

「ステルス偵察ポッド出します」

「了解」

!! アンノウン魔力反応増大を確認」

《結界を強化しました》

「ナブさん」

「敵攻撃きます!」

 ズウン! ズウン!

「敵エネルギー弾結界に直撃。結界に損傷はありません」

『こちらアルド・ミラー』

「はい、アルドさん」

 オペレーターはモニターを見る。

『ワシとアーマー隊の出撃準備は出来ておる』

「了解です。順次出撃してください」

『了解した』

 アルド・ミラーはそうじゅうかんを握り、計器類をチェックする。

「問題ないな。アーマー隊各員も問題ないかの?」

『『『『問題ありません』』』』

 と元気な返事が返る。

「では行くか。アルド・ミラー参る!」

 その言葉と共に背部スラスターが全開で噴射して機体が前に押し出されると魔法陣を抜けて加速する。

 一つまた一つと魔法陣を抜けて加速し、宇宙空間へと投げ出される。

 アルドは中空に浮かぶホログラムを見て機体方向を修正して敵艦へと向かう。

 アーマー隊も四機ひと編隊としてダイヤモンド編隊を組んでアルドの機体に続く。

 ピピピ。

『アルドさん、敵艦より小型機が出てきました。その数三十です』

「了解した。迎撃する」

 アルドはホログラムに映る敵機を確認して機体を操作し、魔導ライフルを右手で構えて引き金を引く。その魔導弾はエイに似た敵機体を直撃して撃墜する。

「一つ」

 更にもう一機撃墜。

「二つ」

 アーマー隊も順調に敵機を迎撃して敵の数を減らす。

「二十」

 アルド機単体で二十機を撃墜。残りの十機もアーマー隊が処理。これで全ての敵機が撃墜された。

 アルドは機体を敵艦へとアーマーの姿勢を制御。敵艦へと向かう。アルドの機体は魔導ライフルを背部に固定して魔導サーベルに持ち替える。

 ブーンと魔導サーベルが起動して収束した光魔法のやいばが伸びる。

 アルドの機体は敵艦の上に着陸して魔導サーベルを逆手に持ち敵艦へと突き刺す。ジュウと敵艦の外装が溶ける。更にアルドは敵艦上を魔導サーベル突き刺したまま移動して引き裂いていく。

 バチバチと光が瞬くと火を吹き出し始めた。すぐにアルドは機体を操作して敵艦から離れると敵艦が膨張して爆発した。

 ホログラムを見るともう一艦の敵艦にアーマー隊が群がっているのが確認出来た。

「さてもう一押しか」

 とアルドはつぶやくとアーマー隊が群がる敵艦へと機体を向ける。

 しばらくすると、アーマー隊の攻撃によりボロボロになった敵艦は致命傷を受けて、爆発炎上する。

「アルド・ミラー帰投する」

 機体を母船へと向ける。

『敵艦せんめつを確認』

 オペレーターはモニターを見ながら答える。


「どこから来たのかしら?」

「あらゆる周波数で敵と思われる通信を傍受しようとしたのだけど、見当らないのよね」

《でも宇宙に出られるくらいの文明がある事は確認出来ました》

「そうですねナブさん」

《まずは敵艦が来た方向へと向かってみましょう》

「はい、ナブさん」


  


 新しい宇宙、タキノとルカ。

 どこまで行っても深い森の中だ。が高い時間だというのに薄暗い。

「もう一度登ってくる」

 タキノはスルスルと大木を登っていく。ある程度まで登ると結界に乗って木の上に出る。

「方向は間違いないが、しばらくは森から出られそうにないな」

 タキノは三方を山に囲まれた森を眺める。

 今向かっているのは、唯一山が無い方向だ。

 木から降りたタキノはルカに間違いなく山が無い方に向かっていると告げて歩き出す。

 遠くから何かの鳴き声らしきものは聞こえるが、動物や魔獣といったものにはまだ出会っていない。

「うん?」

 タキノは前方をにらみつけて足を止める。

「どうしたの?」

「前方に魔獣の気配を多数感じる」

 とタキノは答えて腰にある剣のつかに手を添える。

かいする?」

「いや、歩くだけなのも飽きてきたから丁度良い」

 タキノは小走りで前方へと向かう。

「はぁ、まったく」

 ルカはいきをつきながらタキノの後を追う。

「囲まれたか?」

 タキノは樹上を見て呟く。

 シュッ!

 という音と共に何かが飛んでくる。それをタキノは素早く抜剣してたたき切る。

「硬い木の実か」

 更に今度は複数同時にいろんな方向から何かが飛んでくる。それをタキノは軽々とさばいていくが、

「うおっ! 臭え! おい、こりゃふんか」

 タキノは顔をしかめる。

 そこに追いついたルカが、

「ちゃんと結界は張ってるんでしょ?」

 と言うと、

「ああ、張ってはいるが臭いな」

 とタキノは苦い顔をする。

「さっさとやっちゃいなさいな」

 ルカは結界の中からのんびりした口調でタキノに言う。

「ああ、なんのストレス解消にもならねぇな」

 と言うと姿がえる。

 しばらくするとあちこちから魔獣の悲鳴が聞こえ、すぐに辺りが静かになる。

「あら、終わったの?」

 ルカは歩いてくるタキノを見つけて話し掛ける。

「終わった。大した事ない魔獣だが、俺の簡易鑑定ではグリーンモンキーというらしい」

「ふふ、猿ね」

「もう少し進むか」

 タキノは歩き出す。


 しばらく歩くと泉のある広場に辿たどいた。

「今日はここで野営するか?」

 タキノは辺りを見渡す。

「そうね、水場もあるし結界を大きめに張れば問題ないわ」

 ルカは結界を三重にして張り巡らす。

 タキノはルカの分もテントを張り、ルカは夕食の準備を始める。

 暗くなってきた周囲をルカは光魔法で明るく照らして料理をする。

「出来たわよ」

 ルカが用意された机に作った料理を並べると、タキノも席に座り料理を食べ始める。

うめえな」

 とタキノはガッついて食べ、

「それは良かったわ」

 ルカは笑顔で答える。

 料理を食べ終わるとお茶を飲んで一服する。

「お前はチビだが、料理と結界は間違いないな」

 タキノが満足そうに言うと、

「チビは余計だけど、食事に満足してくれたのはうれしいわ」

 とルカが微笑ほほえむ。


  


 新しい宇宙、宇宙空間、コウ。

「はぁ」

 コウは宇宙空間に浮かぶ結界の中で溜め息をつく。

 辺りを見渡しても近くに惑星などは無く、どの方向を見ても見渡す限り星が瞬く宇宙空間だ。

「とりあえず、現状をなんとかしないとな」

 コウは呟くと収納の中を確認する。

「なんとかなりそうか」

 収納の中を確認し終わったコウは作業を始める。

 まず、結界を直径が十mほどのボール状に拡張させる。その中に一辺が三mの立方体を作製。その外壁は五重のハニカム構造だ。

 更にコウは作業を進め、立方体の一つの壁面に魔法陣を生成して、その魔法陣で立方体内へと転移する。立方体内へと入ったコウは光源として中空に光魔法にてライトをともす。

 そしてコウは目をつぶり空間魔法を行使。奥行き十m、幅七m、高さ四mの空間拡張を行う。コウは拡張された空間を確認すると長辺の壁から二mの所に壁を作製。

 その空間を空間拡張して奥行き十五m、幅七m、高さ七mの空間を作製。その中に魔力を集めて増幅させるために、シャンバラからの技術供与による新型の魔導炉を四基作製して設置する。

 その設置された魔導炉から魔力を供給して分けられた空間二つの天井全面が照明となるように魔法陣を生成して設置。

 床面に重力を発生させる魔法陣を生成して環境を整える。

 ふうと一息つく。


 次に今後の事を考えて、これもシャンバラからの技術供与を基に管理制御AIを作製。これはナブほどではないが、室内やこれからこの空間を拡張して作製する宇宙艦船の制御管理や探査用ポッドの管理、データ収集、データ精査、艦船作製時に使う作業ポッドの管理、操作をするために作製した魔導炉と並べて設置。

 室内の大気管理もAIに任せて各場所に大気制御の魔法陣を設置していく。

 元の空間に戻り、管理制御AIに指示して作業ポッドを作製していき、二十体の作業ポッドが出来たところで外から入ってきた側の壁の外に空間を作製して拡張する。その空間は奥行きが二十m、幅が十m、高さも十mの作業空間となる。

 作業ポッドは管理制御AIの指示によって元の空間の床を全面フローリングにして壁には白の壁紙を貼っていく。

 完成したところでコウは出入り用の魔法陣がある壁の反対側に扉を三つ設置して一つはトイレ、もう一つには脱衣所と風呂場を設置。

 最後の扉の中は八畳の私室としてベッドのみを設置する。

 元の空間へと戻り、扉側の近くにアイランドキッチンを作製して、その近くにダイニングテーブルとソファーを収納から出して設置。

 コウはAIに指示して作業空間にて探査ポッドの作製を作業ポッドにて行い、二時間もした頃には三十機の探査ポッドが完成して、元の空間とは逆の壁の外に宇宙空間への出入り用の転移魔法陣を作製して、そこから三十機の探査ポッドが宇宙空間へと探査に向かう。

 こんなところかな。

 コウはソファーに座り、コーヒーを飲みながらシャンバラから供与された様々な技術データをあさる。


 そんな事をしているうちに三時間が経過し、四方八方に散った探査ポッドから続々とデータがAIへと集まってきた。

《マスター》

「どうした?」

《キンリン、ノ、タンサ、ケッカ、ガ、アツマッテ、キマシタ》

「データを表示してくれ」

 指示を出すと空間にモニターが複数浮かぶ。

 そこに表示されたモニターの一つにアステロイドベルトと思われるものが映し出される。

「ここから資源は回収出来るか?」

《ゲンザイ、データ、ヲ、シュウシュウ、シテ、イマス》

「何か分かったら教えてくれ」

《ハイ、マスター》

 AIとの通信は切れたが、空間に浮かぶ複数のモニターには刻々と集められたデータが表示されては流れていき、しばらくすると第二陣の探査ポッド五十機が完成して、宇宙空間へと飛び出していく。


 そして二時間が経過した頃。

《マスター》

「うん? 何か分かったか?」

《ハイ、アステロイドベルト、ニテ、カクシュ、コウブツ、シゲン、ガ、ハッケン、デキマシタ》

「そうか、ならば作業ポッドを作製して採掘を始めてくれ」

《ハイ、マスター》

 コウは立ち上がり、左右の壁に外部を確認出来る大型のモニターを作製して設置する。そこには広大に広がる宇宙空間が映り星々が光り輝いている。

 コウはソファーに座り息を吐くと、グラスを取り出して丸い氷を魔法で生成して入れる。そこに濃厚な香りを放つウィスキーを注ぎ一口。

「はぁ、落ち着く」

 コウは目を瞑ると、少しの間ソファーに寝転ぶ。

 それを感知したAIは部屋の明かりを暖色へと変化させて明かりを抑える。

 薄目を開けたコウはしばしのまどろみを楽しみ、次の行動を思案していく。

 そして何かを決意したかのように体を起こすと、

「まぁ、なるようになるさ」

 と呟き、立ち上がる。

 適当な場所に円形の舞台を作製して、その真ん中に魔導ピアノを収納から出して設置。

 舞台上の天井からピアノへとスポットライトが当たる魔導ピアノは流麗なピアノ曲を奏で始める。

 コウはソファーへと戻り座ると、宇宙空間が映る大型モニターを見つめて曲に耳を傾ける。

「皆はどうしているだろうか?」

 ウィスキーをチビッとめるように飲む。

「無事ならいいのだけれど」

 思案するようにそう呟く。


  


 新しい宇宙、母船。

「探査ポッドからデータが送られてきました。攻撃してきた敵艦の母星と思われる位置情報です」

《こちらでも確認出来ました。探査ポッドを集中させて情報を収集してください》

「はい、ナブさん」

 オペレーターは元気良くナブへと返事をすると、モニターを操作して分散していた探査ポッドを敵母星へと移動させていく。

 数時間もすると敵母星の情報が集まり始めた。

「敵母星のデータが集まりました」

 オペレーターの言葉で大型モニターの前にクルーが集まる。

「これは……、通常の人類種ではないですね」

 もう一人のオペレーターがモニターに表示されたデータを見て思わず呟く。

「ああ、これは魚から進化した種族かのお?」

 アルドはオペレーターの呟きに反応してモニターを見る。

「そのようですね。都市は水の中というか海中にあります」

「異様に陸地の面積が少ないのう」

 アルドは表示されている惑星のマップを見ている。

「どうやら資源採掘のために陸地を削っているようです」

 オペレーターが言うと、陸地が大型の機械によって削られていく様子が映し出される。

 次に映し出されたのは海中にある都市だ。

「うむ? 栄えているのは都市の中心部だけかの?」

「はい、他の都市も同様でかなりの貧富の差があるようです」

「だがおかしいな。宇宙へと出るくらいの文明ならもう少し発展しててもおかしくないと思うがの」

「新しいデータですが、どうやら他の惑星からの介入があったようです」

「では、この惑星はその介入している惑星の属国という事か」

 アルドは考え込むように天井を見上げる。

「介入している惑星の情報はあるかいの?」

「いいえ、今のところはまだありません」

「そうか、何か分かったら教えてくれ」

「はい」


  


 惑星ゾラス、ガンダリア帝国。

「魚人どもに与えた宇宙戦艦二隻が何者かに撃沈されただと?」

「はい、艦載機も含めて全滅です」

「共和国の連中か?」

「いいえ、その宙域に共和国の艦船は侵入していません」

「ふむ、どちらにしても放ってはおけんな」

 玉座に座る男はそばに控える男を見る。

「ライウス、そちに第三艦隊を預ける。魚人族の艦船を沈めた者らを探し出し、殲滅せよ」

「はっ!」

 ライウスは敬礼をすると、玉座の間を出ていく。

「我が帝国に刃向かうやからは始末せねばのう」

 と玉座に座る男は口角を上げる。


  


 母船内。

「アルドさん、データ収集が終わりました」

 アルドがコントロールルームに入ってくると大型のモニターが表示されて、そこには宙域図が映し出されている。

「これは何じゃ?」

「問題の惑星に介入していると思われる惑星と、その周辺の宙域図です」

「どうやらその惑星の周辺にある、人類種が生息可能と思われる惑星の全てが、何らかの形で介入されているようです」

「コウさんたちの反応は?」

「ありません」

「では無視してもいいかのお」

 とアルドが考え込むと、

「アルドさん! 未確認の通信があります」

「例の惑星関連か?」

「分かりませんが違うようです」

「そうか、回線をつないでくれ」

 とアルドが指示すると、モニターには軍服を着た女性が映し出された。


  


 新しい宇宙、サイとヘルミナ。

「うん? 何か見えないか」

「遺跡かしら?」

 サイが前方を見つめるとヘルミナが返す。

 二人は遺跡らしきものに近づく。

「かなり古い遺跡のようだな」

 遺跡はほとんど風化して朽ちている。

「そのようね」

 ヘルミナは素っ気なく返しながらも遺跡を観察する。

「おかしいわね。この遺跡は奥に行くほど原形をとどめているわ」

「ふむ」

 とサイは来た方向を眺めて呟いた。

「過去に何かで吹っ飛ばされた遺跡ということか?」

「そういう事になるかしら」

 ヘルミナは興味深そうに遺跡を眺める。

「とりあえず先に進もう」

 サイが歩き出してヘルミナもその後に続く。


 二時間も歩くと、寂れてはいるが街と思われる場所が見えてきた。

「もう少しか」

 サイは汗を拭う。

「何だかワクワクするわね」

 ヘルミナがのんに構えたのを見てサイはゲンナリする。

「楽しそうなのは良いことだ。だが警戒は怠るなよ?」

「それはもちろん」

 サイは鬱陶しそうに告げるとヘルミナは笑顔で返す。

 街にはすんなりと入る事が出来た。

「活気が無いわね」

「辺境ということだろうな」

 するとヘルミナは街を見て首をかしげる。

「どうした?」

「ここは新たな宇宙にある惑星よね? 文字が読めるわ」

「たしかに読めるな」

 サイは再度街中にある看板を見る。

「どういう事かしら?」

「とりあえず話を聞いてみるか」

 露店を開いている場所に行き、サイが店主に話し掛ける。

「最近の景気はどうだい?」

 ヘルミナは心の中で、その話し掛け方はおかしくないかしら? と思ったのだが、怪しまれる様子もないので、心の奥底にしまっておく事にした。

 サイも冷静そうに見えて、抜けているところがあるのだった。

 いつもはタキノのお陰? で意識していなかったけれど、改めて二人になってみると感じる。

「景気は良くないな。魔獣の襲撃が多くて皆疲弊している」

 店主は苦虫をつぶしたような顔をしながら答えた。

「領主は?」

「ああ、領主様か……ここは最果ての地と呼ばれる場所だからな、無能な代官を置いてダンマリさ」

 店主は諦め顔をする。

「魔獣の襲撃がある割には、街を壁で囲んでないんだな」

 サイが来た道を振り返るように言うと、

「魔獣の襲撃が始まったのは、ここ最近なんだ。何とか自警団と騎士団で頑張っているがな……」

「来たばかりで疑問だったんだが、大体分かったよ」

 サイは店主に礼を言い、露店を離れる。

「まずい状況のようね」

「かなりな」

 サイは空を見上げる。


  


 新しい宇宙、タキノとルカ。

「もうすぐで森を抜けそうだな」

「そうね、結構時間は掛かったけど、私達の脅威になりそうなものもいなかったし」

 ルカはやっと森が開けて木漏れ陽がす獣道を気持ちよさそうに進む。

 しばらく歩くと草原に出た。

「森は抜けたが、何も無いな」

「仕方がないわ。仲間の反応も無いし」

「まぁ、進むしかねえ。そうすれば何とかなるだろ」

 とタキノはニカッと笑う。

 ルカは、ハァと溜め息を漏らし、

「アンタのそういう呑気なところは羨ましいわ」

 とタキノをまぶしそうに見つめてうつむく。

「ここでウダウダしてても仕方がないしな。さっさと行くぞ」

 タキノは剣を肩に担ぎながら歩き出し、ルカはその後に続く。


 数時間ほど歩くとタキノが立ち止まった。

「ルカ、気付いたか?」

「何?」

「生き物の気配がねえ」

「うん? そ、そうね」

 とルカは慌てて周囲の気配を探る。

「チッ、らしくねえな」

 とタキノは吐き出す。

「私らしいって何よ!?

 ルカはタキノに反発する。

 するとタキノはそっぽを向きながら。

「仲間とはぐれて不安なのは分かるが、いつものルカのように元気でいてほしいんだよ。上を向いてりゃあ涙もこぼれない。俯いてないでさっさと元気になれ」

「は?」

 ルカがポカンとタキノを見つめていると、頭の中で言葉の意味をしゃく出来たのか、

「な、何言っているのよ!」

 と赤くなり、ポカポカとタキノを叩き出す。

「それでいいよ」

 とタキノは笑うが、ルカはフライパンを取り出して、

 ガンッ!

 と叩いた。

いてえな! 何すんだ!」

「アンタが変な事を言うからよ!」

 とルカはタキノを追い越して歩き出す。

 タキノの言うとおりだ。

 食堂でつらい日々を送っていた頃の自分と重ね合わせて、少しだけ元気をもらえた。

 頭をさすって後ろを歩く大きな姿に、そっと気付かれないよう、ありがとう、と微笑んだ。


 それから数時間が過ぎて、陽が傾いてきた。

 タキノは周囲を見渡す。

「今日はこの辺で野営だな」

「そうね。結界を張るからテントをお願い」

 野営の準備を始める。

 食事も済んでを囲み、二人で話し出す。

「皆、大丈夫かな?」

 ルカが焚き火の火を見つめて言う。

「大丈夫だろ。何も問題ねえよ」

「皆、それぞれバラバラなのかな?」

「その可能性はあるな。まぁ、俺は食事がいルカと一緒でラッキーだったがな。これがサイと二人だったら収納にある弁当が頼りになってたな。そういえば、ヘルミナって料理は出来るのか?」

「無理ね」

 とルカが素っ気なく返した。

「でも私は戦闘があまり得意じゃないし」

「あっ? お前はフライパンで十分だろ」

 タキノは当然のように返す。

「はっ? 何言っているのよ。このか弱い私に向かって……」

「どこがだ?」

 と言うと、

 ガンッ!

 とフライパンの打撃音が鳴る。

 あんたの中の私って、本当に合っているの!?

 いつもの調子に戻ったルカ本人は、前言撤回よ! と思うのだった。


  


 新しい宇宙、母船。

 モニターに映っているのはしい表情をした軍服を着た女性だ。

「応答してくれて感謝する」

 その女性が頭を下げる。

 それを見たアルドは、

「それで何の用件かの?」

 と告げると、

「私達は、先ほどあなた達が交戦した帝国と敵対している勢力です」

「ふむ、それで?」

「実は我々の勢力はさほど大きくはなく、艦船もぜいじゃくで帝国に押されていました。そんな時にあなた達が帝国の艦船を簡単に殲滅したのを見かけて声を掛けた次第です」

「手を組みたいと言いたいのかのお?」

「端的に言えば」

 アルドは暫し考えた後に、

「そうか……ならば、こちらの条件をめるのなら考えよう」

「その条件とは?」

「今現在、謎の現象により数人の仲間とはぐれている状態にあってのお。その仲間を捜す手助けをしてほしいんじゃ」

「はぐれた仲間を捜す手伝いですね」

「うむ」

「分かりました。その条件を呑みましょう」

「了解した。後の事はオペレーターと話してくれ」

 とアルドが言うと映像が切れた。

「ふう、これで良かったか、ナブさん?」

《はい、構いません。マスター達を見つけるにはある程度の人手が必要です》

「そうじゃな」

 アルドは刻々と送られてくる探査ポッドのデータが映ったモニターを見る。

「見つからんか……」

《かなりの範囲を捜索していますが、一向に見つかりません》

流石さすがに宇宙は広いのう」

 アルドは溜め息をつきながら呟くと、

「アルドさん。あちらとの話は暫定ですがまとまりました」

 とオペレーターが報告を始める。

「どうなった?」

「まず、あちらはイズリ共和国の宇宙艦隊という事ですが、総数は二十隻程度の艦数で敵対勢力であるガンダリア帝国は、その二十倍近くの艦船を保有しているそうです。この後は共和国宇宙軍の拠点である宇宙ステーションへと行き、本格的な打ち合わせをする事になっています」

「場所は分かっているのかのう?」

「はい、既にデータを受信しています」

 オペレーターがキーボードを叩くと、宇宙ステーションの座標がモニターに映し出される。

「了解した。向かってくれ」

 アルドはそう言うと、コントロールルームを後にする。


  


 イズリ共和国、旗艦アデノリアス、艦橋。

「ふう、何とかなりそうね」

 司令官であるミリアはあんの息を漏らす。

「彼らは信用出来るのでしょうか?」

 不安そうな表情で副官がミリアに聞く。

「少なくとも帝国と敵対しているわ」

「そうですが……」

「どっちにしろ、このままではジリ貧よ。彼らにすがるしかないわね」

 ミリアはモニターに映る船を見つめる。

「では宇宙ステーションへと向かってちょうだい」

 ミリアは指示を出すと司令官の席へと腰を下ろす。

くいくといいのだけど」

 と小さく呟き目を瞑る。


  


 新しい宇宙、コウ。

 シャンバラの技術はあらかた呑み込めた。ここからどうするのか、それが問題だ。

 どうしようか?

 何となくの構想はある。シャンバラの技術があれば可能であろう。やってみるか。

「こういうコンセプトでいきたい」

《ハイ、ワカリマシタ》

「大体の技術的な事は任せる」

《ハイ、シャンバラの技術データ内にあります》

「亜空間潜航艦を実現してくれ」

《了解しました。亜空間潜航艦をコンセプトとして構築します。シャンバラデータから入力。構築開始しました。構築……終了。コンセプトデータにより建造を開始します》

「ふむ、いいな」


  


 新しい宇宙、サイとヘルミナ。

 サイとヘルミナはしばらくの間、街の市場を見て歩いていた。

「私達の宇宙とあまりと変わらないわね」

 ヘルミナは首を傾げる。

「ああ、どういう事だろうな」

 サイも疑問に感じたのか、足を止め辺りを見渡す。

「何か変な感じね」

「同感だ」

 サイとヘルミナは歩き出す。

 カン! カン! カン!

 と突然、鐘の音が鳴り響いた。

「た、大変だ! 魔獣の襲撃だ!」

 男が転がり込んでくる。

「な、何!? それは大変だ」

 市場にいる露天商達は店を畳み始め、市場に来ていた人達は逃げ始める。

「どうする?」

「とりあえず見に行ってみようかしら」

 ヘルミナは少しワクワクしたような様子で答える。

「フッ、楽しげだな」

「そうよ。少しうっぷんもたまっているしね」

 ヘルミナは魔獣が来ると思われる方向を見つめる。


  


 街の冒険者ギルド。

「マスター、街中にいる冒険者の召集を完了しました」

「おう、よくやった」

 冒険者ギルドマスターはおうように答える。

 しばらくして冒険者があらかた集まると、ギルドマスターはカウンターに上り、

「おう、野郎ども! また性懲りもなく魔獣どもが来やがった! 今度も殲滅するぞ!」

 と冒険者達を鼓舞すると、冒険者達はそれに答えて、

「「「「おう!」」」」

 と声を上げた。


  


 サイとヘルミナ。

 サイとヘルミナは魔獣が来ると思われる街の外れに来ていた。

「あら、意外と冒険者達の動きが早いわね」

 既に集まって魔獣への対策を始めている冒険者達を見る。

「だが騎士団と思われる連中は見えないな」

「そうね、代官が出し渋っているのかもね」

「そうか、どこも同じか」

「そうね、魔獣に侵入されたら終わりなのに、ね」

 とヘルミナはあきれたように言う。そこに、

「来たぞぉ!」

 と冒険者の声が響く。

「どうするよ?」

 サイが面倒くさそうにヘルミナに聞く。

「それはやるに決まってるじゃない」

 サイは溜め息をつく。

「そうか、やるか」

 若干肩を落としながらも用意を始める。

 ヘルミナは収納から魔弓を取り出し、サイは魔法の準備を始める。

「おっ、魔弓か! 珍しいな」

「そうね、魔導兵器を見せるわけにはいかないと思ってね」

 ヘルミナがそう返すと、

「来るぞ!」

 と冒険者の声が響き、前方で土煙が上がった。

「さて、やるか」

 サイは数十の魔法陣を展開し、ヘルミナは魔弓の弦を引くと魔力により生成された矢が出現する。


  


 新たな宇宙、タキノとルカ、森を抜けた平原。

「ん? いるな」

「いるわね」

 タキノとルカは前方を見つめる。

「近くに魔獣がいない原因だな」

「結構、魔力が大きいわね」

 タキノは楽しそうに言い、ルカは警戒する。

 タキノとルカは緩やかな丘を登ると、大きな魔力が放たれている方向を見る。

「アレか」

「アレね」

 見つめる先には三十mほどの赤いドラゴンが寝ていた。

 ドラゴンもタキノとルカに気付いたのか、目を開けて首をもたげる。

「やるか」

「止めてもやるんでしょ?」

「当たり前だろ! それともおびえながらここで待ってるか?」

「怯えてなんかいないわよ!」

 タキノとルカは言い合いながら、丘をゆっくりと下っていく。

 赤いドラゴンの近くまでやってきた。

「いくか」

 タキノは抜剣して剣に魔力を込める。

「こっちも用意は良いわ」

 ルカも結界を用意する。

 タキノは小走りから徐々に速度を上げてドラゴンに接近する。

 ドラゴンは危機を感じたのか、体を起こしてほうこうしタキノの動きをけんせいしようとするも、そんなの効かぬとタキノは疾駆する。

《待て待て待て! 赤い悪魔よ、何を勘違いしておる》

 ドラゴンは焦ったようにタキノに話し掛ける。

「あっ?」

 タキノは歩を緩めて首を傾げると、そこにルカが身体強化をして追いついてくる。

《人間、我はお主らと争うつもりはない》

 ドラゴンは冷や汗を垂らしながら言う。

 というか、ドラゴンって汗かくんだな……と、タキノは一瞬別の事が気になった。

「ドラゴンさんは争うつもりがない、というのは本当なのかしら?」

《そうだ》

 とドラゴンは答える。

「チッ」

 タキノは舌打ちをすると剣を収める。

《お主らはここで何をしておる? ここは人族の里から遠く離れた地ぞ》

「距離はかなりあるのかしら?」

《そうさのう、人族の足で二週間は掛かるかの》

 ドラゴンは人族の里があると思われる方向を見る。

 それを聞いたタキノはうんざりした顔して、ルカはニヤリと笑う。

「ドラゴンさん」

《何じゃ?》

「私達を人族の里まで送ってくれないかしら?」

《我の背に乗ってか?》

「そうよ」

 それを聞いたドラゴンは少し考える。

《良かろう》

 と言うと、背に二人が乗りやすいようにかがんだ。

《では行くぞ》

 とドラゴンは羽ばたくと宙を舞う。

「お前すごいな」

 タキノはルカにそう言う。

「使えるものは使わないとね」

 と胸を張るが、

「胸はねえぞ」

 とタキノは半笑いで返す。

 ガン!

 とフライパンの音が響き、

「痛え!」

 とタキノの絶叫がとどろく。

《お主ら、我の背で何を騒いでおる。今のは聞かなかった事にするから、静かにしてくれんか?》


  


 新しい宇宙、コウ。

「建造の進捗はどうだ?」

《ハイ、マスター。六十%といったところです》

「分かった。う~ん、名前がないのも不便だな……ナビィかな。これからナビィと呼ぶ」

《ハイ、マスター》

 コウは息を吐くとソファーに座り、モニターに映る宇宙を見ながら考える。

「皆、元気かな」

 ポツリと言うと、収納からビールを取り出し、

 プシュッ!

 とタブを開けてゴクゴクと一気に飲む。

「考えてもしょうがないか」

 口の周りを拭い、ビールをもう一本取り出すと、今度はゆっくりと飲む。

 次に収納からボア皿を取り出してつまみながらビールを飲むと、収納の中身を見る。

「出来るな」

 立ち上がってキッチンへと向かう。更に収納から調理器具と調味料や材料を取り出し、料理を始める。しばらく調理を続け、

「出来たかな」

 と味見をして、

「いいな」

 と顔を綻ばせる。

 そして皿を収納から取り出して、炊けたご飯を盛り付けると調理していたものをご飯の上に掛ける。それをテーブルの上に置いて座り、ビールをもう一本開けて目の前に漂う料理の匂いを嗅ぐ。

たまらないな」

 スプーンですくって一口、

「美味い!」

 一口二口と進んでいく。

 口直しにビールを一口飲む。

「う~ん、もう少し辛くても良かったかな」

 と目の前のカレーライスを見る。

 カレーライスを食べ終え、少しの時間まったり過ごした。

《マスター》

「なんだ? ナビィ」

《今回の設計には防御用の結界はありますが、攻撃手段がありません。何か追加しますか?》

「そうだな……たしか亜空間魚雷のデータがあったはずだ。ここで作製出来るか試してみてくれ」

《ハイ、マスター…………精査完了しました。可能です》

「ではそれを作製して装備してくれ」

《ハイ、マスター》

「頼んだ」

 コウは少し考えて溜め息をつく。

「アーマーでも作るか」

 立ち上がって収納内の使用可能な材料を確認し始める。

「うん、あるな」

 新たに設置されたコンソールを開いてモニターを表示させると設計を始める。

 二時間も集中して設計していると、

「これでいいか。あとは作業しながら追加していこう」

 と立ち上がり、伸びをしてシャワーを浴びに行く。

 浴び終わって時間を確認し、

「作業は明日だな。今日は大人しく寝よう」

 と寝室に向かって就寝する。


 翌日。適当な時間に起きて食事をると、暫しの間ボーッとする。

 突然収納を探り、机の上にホットコーヒーを出してチビチビ飲む。

「さてやるか」

 収納から材料を取り出していく。

 目の前のモニターにアーマーの設計図を表示させて材料の加工を始める。

 所々で設計を変更しながら作業していく。

「ちょっと収まりが悪いか」

 シャンバラの技術情報を再度読み込む。

「こうか」

 設計を変更しながら作業を続ける。

「これで基本的なところは完成だな。外装と兵器類は明日だな」

 軽くストレッチしてシャワーを浴びに行く。


  


 新しい宇宙、母船、アルド。

「目標物を捉えました。モニターへ映します」

 ふむ、あれが拠点か……。

「映像を大きく出来るかの?」

「はい、ズームします」

 ズームによって映された建造物は……何というか………遺跡? 宇宙を彷徨さまよっていそうな大きなデブリを改造して作られた遺跡にしか見えんな。

 基本は石造りで要所要所が金属で補強されたものだ。

 違和感があるのお。

 たしかに先導する船を見た時に感じたものじゃ。何じゃろうか?

「ナブさんや」

《何でしょうか、アルドさん》

「映像で目標拠点を見ているのだが、何か違和感を感じての」

《違和感ですか……精査します。………………ハイ、私もアルドさんがおっしゃる違和感を理解しました。少し色々と調べてみます》


  


 ナブ。

 たしかに違和感があるように思える。違和感……違う…………親近感?

 そうか、何かに似ているのだ。

 何に?

 そうだ。我々の船に似ている。

 なぜだ? この宇宙には我々の船は存在しない、我々が初めて訪れた宇宙だ。

 シャンバラのデータを調べてみる。

 あった。

 我々の宇宙からシャンバラがある宇宙へと次元転移する際に、二十五隻もの船が行方ゆくえ不明なっている。

 これだろうか? 今回、我々も次元転移する際にマスターとはぐれた。可能性はある。

 多分だがシャンバラへと向かう約五百隻もの大船団。その中の二十五隻がこの宇宙へと飛ばされた。その可能性が高い。

 だから言葉が通じる。

 船にはかなり旧式ではあるが、我々の船との共通する部分が見られる。

 そうすると彼らは我々と祖先を同じくする同胞ということになる。これはあちら側にも確かめる必要があるだろう。


  


 母船内、アルド。

《アルドさん》

「何か分かったかの?」

《はい、説明します……》

 ナブさんから説明を聞いた。

 正直驚いた。我々と同じ祖先の可能性がある。だから言葉が通じ、船にも親近感がある。

 納得がいった。

 なるほど祖先にも今我々が直面しているような出来事が起きて、この宇宙へと飛ばされた。その可能性があり、そして高い。

 こうしてモニターに映る拠点や先導する船をあらためて見ると、そう、そうだ本当に似ているのお。

 彼らは祖先を同じくする同胞。だから容姿も似ていて言語も、ほぼ同じ。

 ハハハ、納得じゃ。

「アルドさん、先導する船よりデータが送られてきました。人類種が生息可能な星の宙域図です」

「ほう、ではその宙域図に載っている星を優先的に調べる事は可能かの?」

「はい、可能です。今から優先的に探査を開始します」

「うむ、頼んだぞ」

 もう一度モニターを見る。

 ああ、同胞か、そうすると無下には出来んの。遠い昔にはぐれた祖先。

 その子孫。

 五百隻の中のたった二十五隻。よくぞ生き残った。

 これは凄い事だ。たしかに色々な事が出来る船があったのだろう。だがコウさんらに聞くところによると、かなりの確率で文明は失われて祖先の記録を失ったところが多いと聞いた。

 その中で生き残った。たった二十五隻で……。

 何か目尻に熱いものが込み上げそうになる。

 よくぞ、よくぞ生き残った。我が祖先達と、その子孫達よ。

 これは協力するしかないのう。


  


 新しい宇宙、サイ。

 前方には五百を超える魔獣が土煙を上げてこちらへと迫ってくるのが見える。展開した数十の魔法陣は頭上で瞬き、今か今かと魔獣をらうために待機している。

 チラリと横にいるヘルミナを見ると、楽しそうに魔力の矢をつがえて弦を引き絞っている。

 そうだよな、コウ達とはぐれてここまで苦労は無かったが、精神的に鬱憤が溜まっていた。その鬱憤を晴らすには魔獣に八つ当たりでもしないとな。まぁ、俺もだけども。

 もうすぐ射程圏内だ。三、二、一……。

「いけ!」

 その言葉と共に魔法陣が解放されて数十の炎の矢が飛び出していく。

 ヘルミナも魔力の矢を射出してすぐに次射の用意を始める。

 俺も負けじと魔法陣を数十展開すると初めに放った炎の矢は確実に魔獣の眉間を貫き絶命させている。ヘルミナの矢も途中で十に分かれてそれらも正確に魔獣の眉間を貫いているのが見える。

 そこからは繰り返し魔法陣を展開して魔獣をほふり、ヘルミナも魔力の矢を連射して魔獣を殲滅していく。

 三十分はっただろうか、ほとんどの魔獣は俺とヘルミナで殲滅していた。横にいるヘルミナも満足そうにして弓を下ろしている。

「終わりだな」

「そうね」

 ヘルミナがこちらに振り向き笑顔で答える。どうやら鬱憤は晴れたようだ。

 しばらくすると土煙も収まり現場の全貌が見えてくると、五百を超える魔獣の死骸が転がっている。

「かなり倒したな」

「ふふふ、やりすぎたかしら」

 ヘルミナは楽しそうだ。

 俺はふぅと息を吐き出して空を見上げ、

「俺は何をやっているんだ」

 と思わず呟く。

「ふふふ、相変わらずサイは真面目ねぇ」

 ヘルミナはこちらを楽しそうに見ながら俺にそう言ってくる。ハァ~、コウ以外は本当に能天気だよな……。

 そういや、タキノは元気かな……。どうもアイツと絡まないと調子が崩れる。

 ふとヘルミナの後ろを見ると、ポカ~ンと口を開けてほうけている冒険者だか探索者が多数見える。

 本当にやりすぎたと俺は思わず頭を掻く。

 しばらくすると、呆けている冒険者や探索者を掻き分けて、ガタイの良いオヤジが俺らの前に来た。

「うん?」

「お前らは見ない顔だな?」

「ああ、ここいらの者ではないな」

 と答えるとヘルミナも気付いてこちらを向く。

 流石に警戒しているようだ。

「俺はここの街の冒険者兼探索者ギルドのギルドマスターだ。先ほどまでのお前らの活躍は見せてもらった。報酬の件もある、一緒に来てくれないか?」

 そう言ってきたのでヘルミナを見るとうなずいている。

「分かった。ついていこう」

 そう答えるとギルドマスターは背を向けてまた冒険者達を掻き分けていく。

 その後ろを俺とヘルミナがついていくと、盾に剣が二本交差している看板がある大きな建物に入っていく。

 建物の中に入ると正面にいくつかの窓口がある受付。左には食堂兼酒場があり受付右側に階段がありギルドマスターはその階段を上っていく。

 ギルドマスターについていき二階へと上がり、廊下を歩いて突き当たりのドアへとギルドマスターは入っていく。

 俺らも続いて部屋の中へと入ると、

「そこのソファーへ座ってくれ」

 ギルドマスターは、質素だが程度の良いソファーを指差す。

 それに従い俺とヘルミナがソファーへ座ると、ドアをノックする音が聞こえ、物腰が柔らかでれいな女の子が入ってきた。

「メイか、申し訳ないが三人分のお茶を用意してくれ」

「はい、かしこまりました」

 メイと呼ばれた女の子は一度頭を下げると部屋を出ていった。

 しばらくするとギルドマスターも対面のソファーへと腰を下ろした。

「それでお前らはどこの所属の冒険者だ?」

 俺とヘルミナは一度顔を見合わせ、俺が答える。

「いや、俺らは冒険者ではないな」

「うん? どういう事だ?」

 ギルドマスターは眉をひそめる。

「ああ、なんというか転移魔法中にトラブルが起きたんだ。俺らだけここに飛ばされて仲間とはぐれた状態にある。なのでここがどこかも分からない」

「て、転移魔法だと!? それは既に失われている魔法だぞ!?

「と言われても俺らは普通に使っているが、トラブルは今回が初めてだ。多分だが外部からの干渉があったと思っている」

「そ、そうか。この大陸の者ではないと?」

「う~ん、信じてもらえるか分からないが、この星の者ではない」

「星? 星とはなんだ!」

 ギルドマスターが立ち上がると同時にドアがノックされて、メイがお茶を運んできた。


  


 新しい宇宙、ルカ。

「見えてきたわね」

 まだ少し遠いが高い壁に囲まれた街が見えてきた。あまり発展はしていなそうに感じるわ。

「ドラゴンさん、あの街のかなり手前で降ろしてもらえるかしら? ドラゴンさんが近づくと街がパニックになる可能性があるわ」

《そうか、分かった》

 ドラゴンさんがそう答えると徐々に高度が下がり、街道から外れ開けた場所に降り立った。

「ドラゴンさん、ありがとうね」

《なんということはない》

 と言って飛び去っていった。

 タキノは相変わらず不機嫌な顔をしている。

 ふぅ、本当にタキノはお子ちゃまだ。そのお子ちゃまが武力を持っているのだからタチが悪い。

「いくぞ」

 タキノはぶっきらぼうにそう言うと、街道の方へと歩き出す。その後ろを私は溜め息をつきながらついていく。

 街道に出ると街の方向へと歩き、四十分も歩けば壁のある大きな門に辿り着いた。

「並んでやがるな」

 タキノは舌打ちして最後尾に二人して並ぶ。

「少し掛かりそうね」

 とタキノの顔をのぞむように見つめる。

「なんだ?」

「まだ、くされているのかと思ってね」

 と笑いながら言うと、

「不貞腐れてねえし」

 タキノはソッポを向いた。そんなにドラゴンと戦いたかったのだろうか?

 脳筋め!

 数十分もすると私達の番がやってきた。

「ここに来た目的は?」

田舎いなか村から出てきました。働き口が見つかればと思って来たのです」

「そうか」

 門番はそう答えると、何かが書かれた木切れを渡す。

「これで十日は滞在出来る。期限が切れるまでにどこかのギルドに入会してギルドカードを手に入れろ。それが身分証になる。そうしたらこれを、ここまで返しに来い」

 と門番に告げられて街に入る事を許された。

 街の中に二人して入ると特に珍しくもない街並みが並ぶ。

 ふと店舗の前に掲げられている看板を見ると雑貨屋と読めた。

 先ほどの門番との会話もそうだが、言葉を交わせるし文字も読める。

 どういう事だろうか?

 本当に違う宇宙に来たのだろうかと疑問に思う。チラリとタキノを見るとあまり気にしていないようだ。これだから脳筋は……。

 広場に着くとそこには色々な出店が並んでいた。ほとんどが食べ物を売っている。

 冷やかしながら情報を収集すると、この街はアリスト辺境伯領の最奥にある、リアンテという街らしい。この辺境伯領が所属する国の名はガリストン王国。

 このリアンテの街を囲むように深い森があり、奥に行くにつれて強力な魔獣がいるとの事。多分だが私達があまり魔獣に出会わなかったのは、あのドラゴンの縄張りだったからだろう。

 客と店主とのやり取りを見ていると、流石に流通する貨幣は私達が使っているものとは違うようだった。これは金策をする必要がある。

 たしか収納に魔石がかなりの数があったはずだから、それを売ればなんとかなるか。色々と聞いて回り、魔石を買い取ってくれるのは冒険者ギルドか魔導具屋、雑貨屋になると知った。場所も聞いたので、まずは雑貨屋へと向かうと、適正かは分からないが金貨十枚ほどになった。

 これで今夜の宿に泊まれるし、食事も出来る。まぁ、食事は材料も含めてかなりの数が収納にあるのだけど。

「なんかすげえ額になったな。これで当分は安心だろ!」

 ノウキンさんの言葉が耳に入らないよう、結界を張ろうかしら?

 次に冒険者ギルドで登録して木切れを門番に返しに行き、ついでにおすすめの宿を聞いて宿へと向かう。

 一泊朝晩の食事が付いて一人一銀貨。

 私の感覚だと高い気もするが清掃の行き届いた宿に見えるし、受付の横には食堂があり、しそうな匂いが漂っている。これは期待出来そうだ。

 タキノは既に食堂へと気が行っている。今にもよだれを垂らしそうな顔をしている。

 とりあえず一泊分のお金を払い、部屋へと案内される。二階の角部屋で今回は空きがなかったので二人部屋だ。

 野営では隣で寝た事もあるし問題ないわね。こいつはお子ちゃまだからベッドに入るとすぐ寝るしね。

 もう晩の食事が出来るという事で食堂に向かうと、既に食堂は混み合っていた。

 席を探していると、先ほど部屋へと案内してくれた女の子が、親切に席へと案内してくれる。

 泊まり客の食事は決まっているらしく、エールだけ二人分注文して食事が来るのを待っているとジョッキに入ったエールが運ばれてくる。

 一口飲むがぬるい。

 隠れてジョッキを魔法で冷やして、再度冷えたエールを飲む。

 しいわ。

 タキノも魔法で冷やしたらしく、ごくごくと喉を鳴らして飲んでいる。

 すぐに二人共に飲み切り、二杯目を注文する。

 しばらくすると食事とエールが一緒に運ばれてくる。今夜のメニューはステーキとパンとザワークラウトっぽいものだ。香草がよく利いているのかステーキから良い匂いがする。タキノを見るとステーキをナイフで切り分けて口に運んでいる。

 とても満足そうな顔をしているからくはないのね。私もステーキを切り分けて一口。

 うん、美味しいわ。ここは当たりだ。魔法で冷やしたエールを流し込んで口の中をサッパリとさせてステーキ肉を食べる。美味い美味い。

 三杯目のエールを飲み干すと部屋へと戻ろうと席を立ち、満足したおなかさすっているとタキノがニヤニヤしながらこちらを見ている。

「何よ!」

「胸より腹が出ているんじゃねえか?」

 ガンッ!!

「痛え!」

 本当に失礼なやつだわ。フライパンを頭に受けてうずくまるタキノをほっといて部屋へと戻る。

 体にクリーンの魔法を掛けてベッドに入るとタキノがブツブツ言いながら部屋に入ってきた。

 タキノもクリーンを掛けてからベッドに入ると、もう寝息が聞こえてきた。

 そんなタキノに背を向けて目を瞑ると、すぐに眠りに落ちた。


  


 新しい宇宙、母船、ナブ。

 もうすぐあちらの拠点に到着する。いくつか探索ポッドを出して拠点をスキャンした。これで外観の3D映像が出来た。

 細かいところまで精査したが特に警戒するところはない。ただ気になるところはある。

 しになっている設備が、シャンバラの古い設備に似ているのだ。似ているといっても、かなり劣化したものに見える。この設備を作製した時に、製造設備が古かったか劣化した製造設備しか作れなかったか、どちらにせよシャンバラ由来の設備に見える。

 やはりシャンバラの大船団にいた二十五隻の者達やその子孫が作ったと思われる。

 今回、イズリ共和国側との打ち合わせのためにアルドさんを含めて数人、宇宙ステーションという名のデブリの拠点に乗り込む事になっている。

 その際に小型の探査装置を各人に装備してもらい内部もスキャンする予定だ。これで見えてくるものもあるだろう。

 共和国側よりもたらされた人類種が生息可能な惑星の宙図は、母船のコントロールルーム経由で私にもフィードバックされている。

 既に宙図に基づいて探査ポッドも派遣済みで、これではぐれた仲間と合流出来ればいいが、最低でもなんらかの手掛かりをつかめればと思っている。

 そろそろ共和国の拠点に着く頃だ。何か得られればいいが。


  


 母船内、アルド。

 目の前に並ぶのはアーマー隊から二名、整備班から二名、コントロールルームからワシをサポートするために一名の計五名が並んでいる。

 既に共和国の拠点に接岸して、後は降りるだけとなっている。

 ワシの前に並ぶ五人を見ると良い気概を持って挑んでいるのが分かる。良い傾向だ。自然と笑みがこぼれる。

「皆、準備は良さそうじゃな。ナブさんから持たされた装置も装備済みかのう?」

 と問うと全員が頷く。大丈夫そうじゃな。

「それではこれからイズリ共和国の拠点へと乗り込む」

 ワシがコントロールルームに合図を送ると、目の前のハッチが開いていく。するとなんとも言えないよどんだ空気が母船内に入り込んでくる。これは空気の浄化も追いついていないか、劣化で機能が低下しているのだろう。

 一瞬、他の五名も顔を顰めたがハッチの先に軍服を着た者達が見えると顔を引き締めた。

 ワシはハッチをくぐり共和国の拠点へと降り立ち、他の五名もそれに続く。全員が拠点に降り立つのを見計らい、目の前にいる軍服の集団の中からかっぷくの良い御仁が前に出てきた。

「私はここの責任者をしているダリル・ウェンディーです。以後お見知りおきを」

 と手を差し伸べてくる。

 ワシはその手を取りながら、

「ワシは臨時の責任者をしております、アルド・ミラーという者です」

 と握手する。

「それではここではなんですから、場所を移動しましょう」

 ダリル氏は軍服の者を引き連れて移動を開始する。

 その後ろについていくと中規模の会議室に案内される。全員が着席するとお茶が運ばれてくる。

 その後に打ち合わせが始まるが、共和国側の説明にはナブさんから聞いた情報以上のものは無かった。しかし、現状が厳しいということは分かった。

 色々と話を聞いたが、どうも行き当たりばったりな感じがするのう。どうやら本格的に手詰まりなのかもしれんの。

 艦船や艦載機、それに地上戦力のデータも見せてもらった。かなり老朽化が進んでいて稼働率も低い。数、質共にガンダリア帝国に劣っているのは明白だ。

 協力するとは言ったが、これは根本的なところから変えていかないとダメかもしれん。

 会議が終わると拠点内を見学する事になった。ここで二班に分かれる。

 一班はワシ、護衛であるアーマー隊員、整備班の者の三名。

 二班はワシをサポートしてくれたコントロールルームの者、護衛のアーマー隊員、整備班の者の三名。

 この二班に分かれて見学を開始する。それぞれに二名の軍服を着た者が付き、拠点内を案内、説明をしてくれる。

「それでは行きましょうか」

 と案内の者が歩き出す。ワシ達はその者についていき見学が開始された。


  


 母船内、ナブ。

 どうやら無事に打ち合わせは終わったようだ。その打ち合わせ中にも同行しているオペレーターから随時データが送られてきていた。

 これらを見るとかなり厳しい。まずは技術を教える必要がある。

 共和国と帝国共に製造技術が発展していなく、全て発見された艦船から部品を交換する事でなんとか、ここ数百年しのいできたようだ。

 それも既に枯渇気味。一部の単純な部品は製造しているものの、精度も品質も悪く、すぐに劣化してしまうらしい。

 これらの基本技術から教えていく必要があるだろう。間に合うだろうか? とりあえずやってみるしかない。

 その合間にマスター達を捜す。なんとか見つかればいいのだが……。

 そんな事を考えていると六人から拠点内のデータが送られてきている。

 フム、どうやらこのデータを見る限りシャンバラ五百隻の大船団からはぐれた者達で間違いないだろうと思われる。

 使われている資材、部品の規格が我々の母船に使われている物と同一だと分かる。これほどの数の規格が一致する事は普通はないだろう。

 間違いない。

 共和国をなんとかするプランとしては、統合簡易AIを作製して製造や修理のサポートや助言をさせて、そのAIには作業ポッドも作製させて製造や修理をする共和国側の作業員のサポートさせる事で上手くいくだろう。

 アルドさんが戻ってきたら相談しよう。


  


 新しい宇宙、コウ。

 良い目覚めではなかったが目が覚めた。ベッドから降りて軽く伸びをする。気持ち良い。

 スッキリするために軽くシャワーを浴びて作業着に着替える。

 部屋から出て大広間に出ると、少し離れた所に骨格が剥き出しであらゆる部品が見えているアーマーが見える。

 これはこれで美しいと感じる。

 思わずほおが緩む。手際よく朝食を用意して食べ終わると、温かいコーヒーを用意してゆっくりと飲む。この時間もいいな、寛げる。

 そしてコーヒーの湯気越しに見える製作途中のアーマー、何か趣がある。ふふふ。

 まぁ、自己満足だな。

 片付けを済ませると製作途中のアーマーのもとへと行く。見上げる製作途中のアーマーはいかつく感じるが、またそれも格好が良い。いつまででも眺めていられるな。

 どうしてもニヤリとして頬が緩んでしまう。俺はやはりこういった物を作るのが好きなんだなとつくづく感じる。

「さて始めるか」

 まだまだ眺めていられるが、自分に言い聞かせるように作業を始める。

 今日の作業は外装部分と出来れば兵装にも手を付けたい。

 外装に使うのは三重ハニカム構造の外装板である。一番外側に使うのはオリハルコン、真ん中にミスリル、内側に魔鋼の三重構造になる。

 それらを機体に合わせて膨大な魔力で変形させて取り付けていく。もちろん、メンテナンスも簡単に出来るようにしっかりと考えてある。

 完成した造形はなかなかだと思う。これにペイントしていく。下地は黒。そこに金色で衣装をつけていく。

 うん、完成だ。堪らなく格好が良い。

 威圧感もあるが、何か威厳も感じる機体に仕上がった。ふふふ、すぐにでも乗りたい。

 がしかし、我慢だ。一気に兵装も作製していく。

 まずは近接武器である魔導セイバーを二本両腰に装備。ハハハ、武士だ、武士!

 肩部の広がった装甲と広がった腰部のアーマーと広がった足部の装甲が着物を連想させる。ふふふ、スカート付きめが……。

 ああ、楽しい。

 う~ん、薙刀なぎなたにすればよかったかな? 背部に一つ装備するか? 後で検討しよう。

 次に背部バックパックには機体制御用のシャンバラの技術の応用により、かなりの小型化が実現した重力制御装置が取り付けられており、その周辺、特にバックパックの左右に兵装を装備する。

 正面から見て左側には大火力用の魔法触媒をアームに取り付けて魔法砲撃戦でも戦えるようにする。

 右側には、これから作る大型のメガ魔導ランチャーをアームに装備する予定。これは上級害獣にも対抗出来る兵装だ。他にも小型の魔導誘導弾も八発装備。

 更に遠隔式の魔導兵装ポッドを八基装備。これはパイロットの意思に反応して遠隔でしょうして魔導ビームや結界を形成する。結界機能は複数のポッドの連携により結界を拡大する事も可能となる仕様だ。

 最後に背部腰部に取り付けた魔導ビームライフル。これは従来のものよりも威力、射程が大幅に改良されたものになる。まぁ、これらが実現したのはシャンバラからの技術供与が大きい。

 今回の機体には新しい機能が多く積まれている。

 それらを紹介すると、亜空間潜航機能。これは単純に母船となる潜航艦から亜空間内より出撃や帰投が可能となっている。

 そのために通常空間へと浮上する探査及び通信ケーブルが装備されている。これで亜空間を移動しながら通常空間の情報を得る事が可能となる。

 更にこのケーブルから魔導兵装ポッドも操作可能となり遠距離の情報の収集や攻撃が可能となっている。

 次にコアとなる装備である機体内に拡張された空間に設置された魔導演算機だ。これは機体制御や各種兵装の使用時にパイロットの意思を魔力により読み取り、それらを正確に素早く反映させる事が出来る。これもシャンバラから提供された技術で、より小型でより高性能なものになっている。もちろん、ナブやナビィなどの高位AIとの連携も問題ない。

 他にも各種関節には摩擦制御機能も装備されており、各部の摩耗を防ぐと共にレスポンスも向上している。

 重要な装備はこんなものかな。後は乗るのが楽しみだ。

 やっと完成した我がアーマーを見てニヤニヤしていると、

《マスター》

 と話し掛けられた。

「どうした? ナビィ」

《採掘していた作業ポッドが、捨てられたと思われるかなり古い施設を発見しました》

「よしっ! 何かの手掛かりになるかもしれない。様子をモニターに映せるか?」

《ハイ、可能です。モニターを表示してライブ映像を映します》

 俺の前に大きなモニターウィンドウが開くとそこに少し暗いが何かの施設と思われるものが映し出される。

「ナビィ、映像を記録してくれ」

《ハイ、マスター。記録を開始します》

 作業ポッドが施設内を移動していく。映像を見る限りかなり古いものだと思われる。

「うん? 少し戻ってくれ。そうそこの右側を映してくれ」

 作業ポッドが映し出した映像には〝触るな危険〟と書いてある看板が見えた。

「字が読める……」

 ぜんとしてそれを見つめて考えるが答えは出ない。

「どういう事だ……」

 ある程度その映像を映した後は奥へと移動していく。所々に表示された文字は俺にも読める。

「ナビィ、この施設を集中的に調べてくれ」

《ハイ、マスター》

 どういう事なんだろうか、ここは本当に新しい宇宙なのだろうか? よく分からんな。


  


 新しい宇宙、ヘルミナ。

「星? 星とはなんだ!」

 ギルドマスターは立ち上がってそう言うが、そこにメイがお茶を運んできて配膳する。

 出されたお茶の匂いを嗅ぐ。

「良い匂いね」

 気持ちが和らぐわね。

「はい、王都から取り寄せたものです」

 とメイが嬉しそうに答える。

「そうなのね」

 私は一口飲む。うん、かたも良いわね。素直に美味しい。

「美味しいわ。ありがとう」

「いえ、仕事ですから」

 メイは嬉しそうに言うと部屋を出ていく。

 ゴホンッ!

 目の前に座るギルドマスターがせきばらいをする。一度、興奮して立ち上がってえたが、今は落ち着いているようだ。

「それで先ほどの話なのだが、星とはなんだ?」

 そう聞かれて私とサイは顔を見合わせるが、サイは答える気がないらしく私が答える事になった。

「星とは、空の更に上に存在する無限に広がる空間という宇宙に存在する恒星や惑星の事を言うわ。恒星や惑星にも色々あって、この惑星のように人が住める惑星は少ないわね」

「無限に広がる宇宙……」

「そう宇宙。惑星は球体で宇宙は無重力なのよ」

「惑星は球体で宇宙は無重力? 球体? 我々は球体の上に立っているのか?」

「そうよ」

「バカな。だったらどうして立っていられるのだ?」

「それは重力があるからよ」

「重力……重力とは何だ?」

「惑星はある一定の質量を持つと、重力を発生させて物を引きつけるのよ」

「物を引きつける……じゃあ、何か我々はその重力に引っ張られて立っているのか」

「そうよ、でも宇宙はその重力が無くて無重力なのよ。空気もないしね」

「空気? それは何だ」

 それもかと私は溜め息をつく。

「では、ギルドマスターさん。口と鼻を塞いでみて」

「口と鼻を塞ぐだと? それでは苦しくなるではないか?」

「そうそれよ。この星には空気が存在する。あなた達はその空気を吸って生きているのよ」

「俺達は空気を吸って生きている……そしてその空気は宇宙には無い?」

「そういう事。少しは分かったかしら?」

「ああ、何となくな。ではお前達はどうやって宇宙を移動するんだ?」

「そうね、今回は転移の失敗によってこの星に来たけど、通常は宇宙を航行出来る船に乗って移動しているわ」

「宇宙を航行出来る船………」

 ギルドマスターは少し考えた後に立ち上がり、自分の執務机に向かう。ゴソゴソと引き出しの中を物色すると紙の束を持ってきた。

「これなんだが見てもらえるか」

 と紙束を渡してくる。それを受け取りサイと二人で見る。

「え!?

「これは!」

 サイと私はそれを見て驚いた。そこに書かれていたのは宇宙船と思われるものの写し絵。それも二種類ある。

 説明文を見ると、どうやら最近遺跡で偶然発見されたものという事だ。

「どうだ? それは宇宙船というものか?」

「直接見ないと分からないけど、その可能性は高いわね。これはどこで?」

「王都近くにある遺跡からだ。現在、その遺跡は王家の預かりとなっていて誰も入る事は出来ない。その資料は遺跡へと入った事のある冒険者兼探索者ギルドのトップにのみ公開されて、何かそれに関わる情報がないか調べている」

「私達も見られるかしら?」

「扱えるのか?」

 ギルドマスターは真剣な目で見つめてくる。

「そうね、絵を見た感じからすると扱える可能性は高いわ」

「そうか、少し時間をくれ王都に問い合わせる。宿はこちらで用意する。人を呼ぶから案内してもらえ」

 と言うとギルドマスターは何かのボタンを押し、部屋にメイが入ってきた。

「メイ、ギルドの名義で宿を借りて、その二人を宿に案内してくれ」

「はい、分かりました。ではついてきてください」

 と部屋を出ていくメイの後についていく。


 宿は近くにあり、割と綺麗な宿のようだ。とりあえず何があるか分からないので二人部屋にしてもらい、部屋に入る。

「食事は朝と晩が付きます。今日は晩のみですね。何かあれば私に言ってください」

 と言ってメイは部屋を出ていく。

 サイと二人きりになると防音の結界を張って話し合う。

「宇宙に出られる可能性が出てきたな」

「そうね。運が良いわ」

「あとは王都次第か」

「勘だけど上手くいくと思うわよ」

 と私はサイを見てニコリと笑う。


  


 新しい宇宙、タキノ。

 ああ、めんどくせぇし、何かイラつく。

 朝、久々のベッドから出て隣のベッドを見ると、ルカの奴は既にいねえ。

 おけに入った冷たい水で顔を洗い、身だしなみを整えていると、部屋のドアが開けられてルカが入ってきた。

「タキノももう起きたのね。朝食の準備は出来ているそうよ」

 と言うと部屋を出ていく。

 しょうがねえ。

 食堂に下りていくと商人と思われる数人が既に朝食を食べていた。辺りを見回すとルカが座っていて、そのテーブルに行き、ルカの正面に座る。

「今日もえない顔ね」

 ルカが顔を覗き込んでくるので横を向く。

 そんな事をしていると女将おかみさんが朝食を持ってきてくれた。

 朝食はまだ温かいロールパンとクズ野菜のスープ、目玉焼きにソーセージが二本だ。クズ野菜のスープを一口。

 美味いな。冷えた体に染みる。

 目玉焼きには塩を振りかけて食べる。とろとろの黄身の部分に千切ったロールパンを浸して食べる。

 これも美味い。

 ソーセージはロールパンに切れ込みを入れて挟んで食べる。こっそりケチャップを収納から出して掛けるのも忘れない。

 美味い美味い。

 すぐに食べ切ってしまった。ふ~と息を吐き出すと食器を下げに来た女将がついでに温かいお茶を出してくれた。

 熱そうなのでちょっとだけ冷ましながら飲む。ほっこりする味だ。

 ルカも食べ終わりお茶を飲んでいる。

 そんな時間が過ぎる頃にルカに今日の予定を聞く。

「今日はどうするんだ?」

「今日の午前中私はギルドの資料室で何か手掛かりがないか調べるわ」

「そうか、なら別行動だな。たしかギルドの裏手に訓練場があったよな。そこで体を動かすか」

「分かったわ。こちらの用事が終わったら訓練場に行くわ」

「了解だ」

 と言って俺らは席を立ち、宿を後にする。

 ギルドの中は混雑していた。依頼の取り合いになっているのだろう。俺らは事前に取り決めたとおりに分かれて行動する。ルカはサッサとギルドの二階にある資料室へと向かい、俺はギルドの裏手にある訓練場へと向かう。

 訓練場に着いたが早朝のせいか、まだ誰もいない。

「ふむ」

 辺りを見渡すと、壁際に木剣が何本も箱に入れてあるのが見える。多分ギルドが管理しているものだろう。その中から自分好みのバランスの木剣を一本選ぶ。

 一度、大きく息を吸いゆっくりと吐く。腰を落とし木剣を構える。敵をイメージする。今回はハイオーク五匹。その幻影のハイオーク達が俺を囲もうとしてくる。魔力を練って身体強化を重ねがけする。準備は整った。

 鋭い踏み込みから正面にいるハイオークをけで斬る。まずは一匹。

 次に右側で木のこんぼうを振り上げているハイオークに下から地面を擦るように剣を跳ね上げて斬る。二匹目。

 すぐにその右にいるハイオークの首をねると後ろに跳躍する。三匹目。自分が元いたところにハイオークが振るった木の棍棒が突き刺さっている。

 着地と同時に地面を蹴り込んで前に出て棍棒を振るったハイオークに肉薄して心臓がある左胸を一突き。四匹目。

 最後の一匹は逃走を図ろうと背を向けたところをバッサリと斬って五匹討伐完了だ。

「うん?」

 気がつくと複数の冒険者がこちらを口を開けて見ている。

 何だ?

 すると訓練場の出入り口で腕を組んでこちらを見ているジジイが寄ってきて、

「にいちゃん、なかなかやるな」

 と肩を叩いてくる。

 ウゼェ。

 少し殺気を込めて睨みつけると、

「おいおい、他意はねえよ」

 と両手を上げた。そんなジジイをほっといて訓練場の端に行きぜんを組んでめいそうに入る。精神を集中させて雑念を取り除いていく。ふう、徐々に周りの音が聞こえなくなってくる。

 どれくらい経ったのだろうか、突然肩を叩かれる。ふと目を開けるとルカが仁王立ちしている。

「あ? 何だ」

「さっきから声を掛けても反応しないじゃない」

 何かご立腹だ。俺はただ瞑想をしていただけなのだが……。まぁ、こいつに何を言っても始まらない。俺は土を払いながら立ち上がり、

「何か分かったのか?」

「気になる事が少しね」

「もう昼か?」

「そうよ」

「昼飯を食いながら聞かせてもらおうか」

「分かったわ」

 とルカは訓練場の出入り口に向かっていく。その後ろを歩いて辺りを見渡すと冒険者が一人しかいないようだ。

 ギルドを出るとルカが事前に調べていた飯屋に向かう。


  


 新しい宇宙、母船内、アルド。

 母船に帰ってきたワシらは、ナブさんが収集したデータを精査し総合したものを見ながら会議を開いた。

「ではナブさんも収集したデータから、彼らはワシらと同族で間違いないと思うのだな?」

《そうです。使われている部品の規格が全て我々と同じ物を使っています。この事からも同じ系統のものだと推察出来、間違いなく同族が作ったものと考えられます》

 そうか、やはり同族で間違いないようだのう。そうと分かればこれからの事を考える必要がある。

 まずは技術の底上げだ。

 ここに共和国の技術者を呼んで技術の供与をする。何とも皮肉なものだな。我らはシャンバラから技術供与を受け、大船団から漏れた我らの祖先の子孫が、シャンバラ大船団と一緒に出発したが、大船団からはぐれた子孫である彼らに技術供与をする。

 何とも不思議な巡り合わせだ。

 技術供与の件は既にナブさんからコントロールルーム経由で共和国側に伝えられているのを今聞かされた。

 流石にナブさんは仕事が早い。

 内容は現在、共和国が所有している艦船を修理及び建造が可能になるレベルの技術を供与する。その後の発展は彼ら共和国に委ねる。

 そう考えるとコウさんは凄いのだなと改めて思う。一人で活動している時から色々な物を作り古代書を解析して技術を掘り起こして、しまいにはシャンバラへと辿り着いた。

 どうにか早くコウさん達と合流をしたいものだ。彼らは必ず生きている。


 数日が経つと共和国の技術者や研究者が集まってきて、講義が始められる事となった。これにはナブさんに繋がる端末を共和国の拠点内に持ち込んで、ナブさんも参加する予定だ。

 時間となり講義が始まると始めのうちは唖然として呆けていた彼らも、講義が進むにつれて目が輝き出して熱を帯びてきた。途中様々な質問に受け答えしながら講義が進み、一回目の講義はせいこうに終わった。

 明日は彼らが今日聞いた話を咀嚼するために設けていて、明後日に二回目の講義を行う。

 今は技術者、研究者同士で議論をしているところだ。良い刺激になっているようで何よりだ。


 二回目の講義が始まると更に講義を受ける人数が増えている。どうやら整備の人間も参加しているようだのう。

 ハハハ、彼らが興奮しているのが分かる。積極的に質問して分からないところは分からないと言い、更なる説明を求める。貪欲じゃ。

 今回まではモニターに映したもので説明していたが、次回からは実物をいじりながら講義をする。

「ふう」

 二回目の講義が終わり一息つく。ワシが講義をしたわけではないのだが何か疲れたのう。そう、彼らの熱にあてられたようじゃ。

 少し休んでから食堂に行くと何やら騒がしい。どうやら整備班がナブさんと三回目の講義の打ち合わせをしているようだ。

 ワシは適当な席に座り給仕ポッドに注文をする。とりあえず冷えたビールが飲みたい。しばらくするとジョッキに注がれた冷えたビールと枝豆が目の前に置かれた。

 勢いよくジョッキを掴みゴクゴクとビールを飲む。

 美味い!

 これが仕事が終わった感じがして解放感がある。すぐに一杯目を飲み干す。二杯目を頼むとビールと一緒に注文していた唐揚げも目の前に置かれる。

 ゴクリと喉がなる。いつ頼んでも美味そうな唐揚げだのう。う~駄目じゃ、我慢が出来ん。フォークを唐揚げに刺してガブリと一口。美味い!!

 そこにビールを流し込む。これは至高の美味さだ。

 ふと顔を上げるとまだ整備班は話をしている。彼らも共和国の技術者や研究者を何とかしてやりたいと燃えているのだと思う。頭が下がる思いだのう。

 ああ、でも唐揚げが美味い。このとしになって油物を頑張らずに食べられるのは幸せじゃのう。


 三回目の講義は実地訓練となり、拠点内にある中規模の格納庫内で行われる。

 時間となり格納庫に行くと既に作業着姿の技術者、研究者、整備員が集まっている。今回は母船の整備班が中心となって魔導エンジンの分解組み立てや各部の説明を行っていく。

 講義が始まると見ている側は静かになり、食い入るように観察している。

 所々で大切な場所は手を止めて説明していき、ある程度のところで質問を受けて答えた。母船の整備班も何やら楽しそうだのう。

 都合、五回の講義を予定しているが、この回だけで技術が身につけられるとは思ってはいない。これから数回は同じ講義を繰り返す必要があるだろう。

 他にも既にナブさんが中心となって、この拠点内に共和国の技術で構築可能な製造設備を作製し、今回はスピード優先で作業ポッドが作業している。

 あと数日で完成予定だ。これらの設備も共和国側に説明する必要がある。日程的に頭が痛いがな。

 コウさん達を見つけるために入手した宙図を元に探索を続けているが、いまだに手がかりは無い。

 早く共和国への技術供与を完了させて探索に集中したいものだ。

 コウさん達が元気でいてくれればいいのだがのう。


  


 新しい宇宙、コウ。

 ナビィが集めたデータを見る。う~ん、かなり古い遺跡という感じだ。

 規模はかなり大きい。遺跡? 古代施設? の半分は宇宙艦船の係留出来る場所とドックになっている。その規模は大型艦船を係留出来る場所が五箇所、中型艦船を係留出来る場所が十箇所、小型艦船を係留出来る場所が四十箇所になり、整備などを行えるドックと思われる場所は大型が四箇所、中型が八箇所、小型が三十箇所になる。

 その他にも艦載機用と思われる格納庫があり、推定で百五十機が収納出来て、それらのドックもあり、かなり機能的に作られている。

 施設のもう半分は、資材などの倉庫や居住施設になっていた。もちろん、これらの施設は朽ち果てており機能するものは一つとして無い。

「どうするか」

 データが表示されているモニターから目をらすと、湯気を上げるコーヒーカップが目に入る。

 そうだな、今は一人だ。仲間といつ合流出来るか分からない。じゃあ、合流出来るまでの拠点が必要ではないか?

 うん、ここを改修、改造して拠点としよう。今、建造している船もこれで安心して建造出来る体制になるのではないかな。

 まずは、ナビィと相談して船を建造するためにドックから改修、改造する事となった。それに伴い、他の必要な施設、設備を構築していく。


 数日かけて準備をしたところで、一息つけた。

 そういえば、まだ新アーマーの試乗をしていないな……。という事で初乗りを行う事にした。

 拠点に作った新たな自分の工房から直接、宇宙へと出る。

《マスター、準備は整っています》

「了解だ。射出してくれ」

《ハイ、マスター。射出シークエンス開始します。……五……四……三……二……一……射出》

 軽いGを感じながら、アーマーが加速の魔法陣をいくつか抜けて宇宙へと射出される。宇宙が広がる。目の前が開けた気分だ。

 まぁ、ほとんど室内で過ごしていたからな、仕方がない。

 ナビィと相談して作製した検証プログラムに沿って機動をこなしていく。うん、かなりのレスポンスで機体が動く。凄い。

 新たな重力制御ユニットと新たなスラスター制御ユニットの組み合わせは成功だ。自由自在に機体が動く。

 機体制御AIの恩恵もあるのだろう。軽快だ。

《標的ユニットを配置します》

 ナビィの声を聞きながら目の前に浮かぶ立体モニターを見ると赤い点が表示される。

 その数、十!

 刻々と変化する立体モニターを見ながら兵装を選択する。新型の魔導ライフルを試す。

 一番近い目標が選択されて、レティクルが表示された目標を捉える。

 引き金を引く。

 ズンッ!

 低い腹に響くような振動が機体の手元から一瞬伝わると、光の線が目標物へと伸びる。

 命中だ。立体モニターから目標物の表示が消える。

 ふふ、射撃補正も正確で素早い。これは楽しい。他の目標も殲滅してライフルの検証を終える。次は魔導誘導弾を試す。

 八発しか積んでいないが多種多様な弾頭を選択出来て応用の幅は広い。色々なミッションで活躍出来ると思っている。

 これもいくつかの弾頭を試して、その有用性を確認出来た。

 最後に遠隔操作ポッドを試す。最大で十八機のポッドを格納出来て、今回は八機のポッドを使う。

「いけ!」

 拡張された意識の中で指令を出すと勢いよくポッドが飛び出していく。ポッドが離れて拡散していくと、それに伴い意識が拡張されていく。

 これは何だろうか?

 今までにない感覚だ。ポッドから魔力波が逆流して周囲の状況が分かる。

 凄い! シャンバラの技術を取り入れた機体制御ユニット。これが自分の意識をアシストしているのが分かる。多重思考。

 試しにシャンバラのVR技術を一部を使ってみたのが影響しているのだろう。

 凄い! 凄い!

 宇宙と一体となった感覚だ。

 自由自在に個別にポッドを操作出来るし、機体の操作もおろそかにしていない。逆に周囲の状況が手に取るように把握出来て機体がスムーズに動く。

 少し怖くなった。

 これ、何か自分に影響は無いのだろうか? 脳とかに……。

 興奮も収まってきたところで帰投する。まずは成功といったところだろう。

 ……自分に何も影響が無ければだが。

 帰投後はすぐにメディカルルームにて精密検査を行った。その結果は……。

 問題無し、と出た。

 ああ、安心した……。

 このメディカルルームだが、まだメディカルポッドは三つしかないがシャンバラの進んだ医療技術の集大成とも言える性能だ。

 多分、信頼出来る。

 多分ね。

 ふぅ~と一息ついて拠点内に新設された食堂でジョッキで冷えたビールを飲む。

 ゴクゴクと喉に流し込んでいき、ツマミとして用意された肉じゃがを食べる。ジャガイモがホクホクしていて美味しい。

 ああ、何か生きているという感じがする。


  


 新しい宇宙、サイ。


 数日が経つと連絡があり、王都へと向かう事となった。だが……。

「尻が痛い……」

 あまりにも長い間馬車に乗っていなかったせいか、尻にダメージを受けている。チラリと横に座るヘルミナを見るが平然とした表情をしている。

「なあ」

「何かしら?」

 ヘルミナは若干面倒くさそうに、こちらを見る。

「痛くないのか?」

 そう聞くとヘルミナは溜め息をついて、

「柔らかい結界を敷いているから平気よ」

 と言ってプイッと前を向く。

 ああ、そういう事か……結界か。すぐに柔らかく丈夫な結界を張って尻を防護する。

 ふう、これで大丈夫だな。

 俺は箱馬車に取り付けられている濁ったガラス越しに外を見るが、特に何も無い。あと三日も掛かるのか……。何かゲンナリする。俺とヘルミナだけならば身体強化して走れば、多分一日で到着する。

 ハァ……。

 今回はギルドからの同行者もいて自由が利かない。野営で出される飯も不味い。

 あと三日だ。頑張ろうと目を瞑る。


  


 王都、ヘルミナ。

 王都の城壁が見えてきたと言うので窓から顔を出して見てみる。

 う~ん、十mくらいの壁がぐるりと王都を囲っているのが見える。まぁ、普通よね。隣のサイを見るが彼は興味が無いらしい。そりゃそうね。

 門には人がかなり並んでいたが、馬車はその列の横を通り過ぎて門の前に止まったかと思えばすぐに走り出す。

 どうやら事前に連絡をしていたらしく最優先で入れたらしい。馬車は王都の中心に向けて走っていく。

 立派な城が見えてきた。

「あそこが目的地かしら」

「ハイ、直接城に参ります」

 とギルドからの同行者が答えてくれる。

 城の門に着くとすぐに開いて中へと入っていく。

 しばらくすると馬車が止まった。

「到着しました」

 同行者が最初に降り、その後をサイに続いて降りる。

 降りた場所には十八歳くらいの綺麗なドレスを着た女の子がいて、その後ろに女性の騎士と思われる者が四人従っている。先頭の女の子は興味津々で目を輝かせているが、後ろの女性騎士四人は目つきが鋭く、どうやら歓迎していないように見えた。

「ようこそいらっしゃいました」

 先頭の女の子は見事なカーテシーで出迎えてくれる。

「お招きいただき光栄です」

 とサイも綺麗に礼を返す。サイって結構良いところのおぼっちゃんなのよね。同行者の説明によれば、この女の子は第三王女らしい。どうりで気品があるわけね。

 私も無難に挨拶をして案内されるままに後ろについていく。

 五分ほど王城内を歩いてごうしゃな応接間へと通される。

 言われるがままにソファーに座ると対面に王女が座り、紅茶とお菓子が用意される。なかなか良質な紅茶ね。良い香りがするわ。

 少し同行者が雑談をすると、

「では本題に入りましょう」

 と王女は真剣な顔になる。すると王女の従者がテーブルに数枚の紙を並べる。

「これらのものが何か分かると伺いましたが」

 王女は紙に描かれた宇宙船を指差す。

「ハイ、分かります」

 とサイが答える。

「そ、そうですか!」

 パァと王女の顔が明るくなる。そこに、

うそではないだろうな」

 と後ろにいた女性騎士の一人が凄んでくる。

「おやめなさい! クローディア」

「しかし、王女様……」

 なおもクローディアと呼ばれた女性騎士が何か言おうとするが、

「今までの者達とは違うと聞いている」

 と王女はキッパリと騎士に言うと、こちらへと視線を移す。

「本当に分かるのですよね?」

「ハイ」

 サイも王女の目をしっかりと見てハッキリと答える。

「分かりました。ではこれらは何なのですか?」

 真剣な顔で聞いてくる王女にサイは上へと指を差し、

「空を飛び、空を越えてその先の宇宙へと行くための船になります」

 と返す。

「空を飛ぶ船……」

 と王女は言葉を失った。


  


 新しい宇宙、ルカ。

 ギルドで教えてもらった食堂へと入っていく。ギルドで安くてボリュームがあり、味も問題ない食堂だと聞いていたのだ。

 中に入ると丸いテーブルが並び、昼前の時間だが半数のテーブルは客で埋まっている。これから混むのが予想される。店内の清掃も行き届いており内装も質素だが雰囲気は良い。

 他のテーブルにある料理を見ると、ほとんどのテーブルには大きめの山盛りステーキと山盛りの肉野菜いためが配膳され、それらを小皿に取り分けて数人でシェアして食べている。もちろん、大きなジョッキのエールも漏れなく配膳されている。

 良い匂いだ。香辛料もふんだんに使われていると見える。

 適当な席に座り、同じ料理とエールも頼む。対面に座るタキノはキョロキョロと周りを見てはソワソワしている。

 こいつはメインは食事ではなく、話がメインだという事が分かっているのかしら?

 口から垂れそうになっている涎を見ると分かってなさそうだ。

 思わず溜め息が出る。

「タキノ、アンタ分かっているの?」

「ああ?」

 タキノは涎を垂らしながらこちらを見る。頭が痛い。

「食事はついでよ。話がメインだからね」

「あ、ああ、分かっている」

 とタキノが逸らした目は他のテーブルの料理を見ている。そこにエールが運ばれてくる。やはりぬるいエールだ。隠れて魔法で冷やして一口飲む。

「美味しいわ」

 思わず口に出た。やっぱり収納から出す以外の食事も良いわね。対面のタキノも自分で冷やしたエールを美味しそうに飲んでいる。

 一杯目のエールを飲み干すと料理が運ばれてくる。一口サイズにカットされたステーキと肉野菜炒めが大皿に盛られて配膳される。ついでに二杯目のエールを頼むと小皿にステーキと肉野菜炒めを取り分けてタキノへと渡す。

 タキノは小皿に盛られた料理を見てゴクリと喉を鳴らすとフォークを持ち食べ始める。一口目を口に入れると口角が上がり美味そうに食べ始める。

 私も小皿に料理を盛り付けて食べ始める。なるほど、味付けも焼き加減も絶妙で美味しいわ。ふとタキノを見るとエールの二杯目を片手にステーキ肉にかじいている。

 もう話は無理ねと溜め息をついて諦める。

 三杯目のエールを飲み干す頃には料理も食べ終わり、まったりとした時間が流れる。タキノは満足そうに笑顔で腹を擦っている。

 気がつくと昼時も進んで店内が混んできている。これは店を出るしかなさそうだ。支払いを済ませて店を出る。

 たしかベンチが多数ある広場があると聞いたので、そこへと向かう。広場には囲むように屋台があり競うように料理などを売っている。

 適当な屋台で果実水を頼んで空いているベンチにタキノと並んで座る。少し冷えている果実水を飲んで落ち着くとタキノへと話し始める。

 ギルドでは、この周辺の状況と歴史を含めて国、街の情報を集めた。結果、私達が抜けてきた森にはかつて古代都市があり、何が原因かは分からないが一夜でそれが破壊され、その後に森が出来て破壊の影響か魔力の流れが滞り魔力まりが発生して森の中心部には強力な魔獣が存在しているという事らしい。

 あのドラゴンもそういう類いだろう。

 そして大きな森を囲むようにいくつかの古代遺跡が点在しているという。ギルドの話によれば、王都へ行けばもう少し詳細な情報があるらしいのだが、ここは辺境で王都とはかなりの距離がある。

 このままでは何も情報は得られない。ならばどうするか?

 とりあえず、この街周辺を探索してはどうか。それをタキノへと話して了承を得る。

 まぁ、こいつは何も考えていないのだろうが……。

 簡易に写してきた手書きの周辺地図を膝の上に広げてタキノに見せる。タキノはふ~んと地図を眺めてはいるが分かってはいないようだ。

 とりあえず一番近くで規模の大きな遺跡を探索する事にした。既に何十年も前から国によって調査、探索はされているが何も見つかってはいないそうだ。

 でも私らが見れば分かる何かの文字や絵文字などが見つかり、今後の手掛かりに繋がる可能性もある。

 私達は適当な宿で一泊して翌日の早朝に遺跡へと向かった。


 遺跡には一時間ほどで着いた。もちろん、身体強化をして森を走り抜けたからだ。特に魔獣に出会うとかは無かった。

 遺跡に着くとポッカリと地面に四角い穴が空いていて風化している階段が見える。辺りを見渡すとどうやら、この遺跡の上には何らかの設備や建物があり、それらは古代都市が破壊された時に一緒に破壊され吹き飛ばされたように見える。

 そして、地下の遺跡だけが残った。

 タキノを先頭にして遺跡へと入っていく。明かりなどは何も無く、魔法で光源を空中へと浮かべて壁などを調べていく。

 かなり風化が進んで壁も劣化が激しい。いくつか左右に部屋があったが何も残されていないし、壁などにも何も文字などの痕跡も無い。

 一直線に伸びる通路を歩いていくと二十分ほどで突き当たりになる。

 ここまでは何も手掛かりは無かった。これでおしまいか……。

 と思っているとタキノが、

「なぁ、ここおかしくないか?」

 と突き当たりの壁を剣の柄で叩いている。

 ゴンゴン、コンコンと場所によって音が変わる。

 私も近寄り魔力を使って壁を調べるとたしかに壁の奥に空間がある。これはもしかして……と考えていると、

「おりゃあ!」

 とタキノが身体強化フルマックスで壁を蹴り上げる。

 バキッ!

 と音がするとガラガラと壁が崩れ落ちる。どうやら元は頑丈な扉だったようだ。それが経年による劣化でもろくなりタキノの蹴りによって崩された。

 ふふん。

 とタキノはドヤ顔でこちらをいちべつすると崩れた壁の奥へと入っていく。


  


 新しい宇宙、母船内、アルド。

 共和国への技術提供は講義が終わった後も引き続き行われている。共和国の技術者や研究者は貪欲に技術を吸収して、疑問があれば納得がいくまで喰らい付いてくるのだ。

「はぁ~」

 と食堂のテーブルに座っているオペレーターの一人が溜め息をつく。

「どうしたんじゃ?」

 まぁ、原因は分かっているのだが聞いてみる。こういう時は話をさせた方がストレスが軽減するものなのだ。

「あっ、アルドさん。あのですね、共和国の人達の圧力がですね……」

「ははは、彼らも必死だからのう」

「それは分かっているのですが……度が過ぎるというか何というか……」

「分かった。ワシからも程々にと進言しておこう」

「はい、ありがとうございます」

 と少し明るくなった顔を上げる。この羊獣人の女の子も慣れない講義やらなんやらで疲労の色が見える。

 これはなんとかしないといけないのう。ナブさんに相談するか。


 現状をナブさんに相談してから数日が過ぎた。ナブさんからの提案は、彼らの質問事項や疑問点を調べられる端末を作製して各自で調べてもらおうという事になった。

 早速、数台の日本移民達が使っていたノートパソコンというものに似た端末を三十台ほど用意して共和国側へと渡した。

 これでなんとかなればいいのじゃが。


 それから数日は渡す端末を増やしていき、なんとか質問などは母船クルーの手を離れつつある。

《アルドさん》

「ナブさんか、何だね?」

《共和国側から供与された資料の中に面白い記述を見つけました》

「そうか、それはどういうものなんじゃ?」

《かなり古い資料で欠損も激しいものでしたが、いくつかの資料を繋ぎ合わせる事によって分かった事があります。それは、この宇宙へと迷い込んだ宇宙船二十五隻は人種が移住可能ないくつかの星へと移り住みました》

「やはり、彼らの祖先は移住に成功したんだのお」

《はい、そしてつたないながらも移住者が結束して色々な技術を確立させ、少しずつその生存圏を広げてきましたが、それにより人口が増え資源の枯渇が懸念されました》

「ふむ」

《そこで彼らは宇宙の辺境と呼ばれる地にまで開拓を進めて資源確保にまいしんしました。それが人種はいるが文明が発達していない今の地域となります》

「うん? それでは今なぜ辺境地は文明が進んでいないのじゃ?」

《それが、順調に開拓が進み、資源も送れるようになった頃に他の文明からの攻撃を受けて壊滅したと記録に残っています》

「辺境宇宙の先に他の先住種族がいたのかのう?」

《そうです。その種族はどのような種族なのか記録はありません。ですが辺境地の全ての星にある都市という都市が全て宇宙からの攻撃により消滅し、少数が生き残った宇宙船で脱出して、この記録が残されました。この事により、どのような種族・文明度が分からない者達、最低でも宇宙を移動して攻撃が出来るほどの文明から距離を置くべく、辺境地は放棄されました》

「なるほどな、それで辺境地は手付かずなわけか」

《はい、そしてこの話には続きがあります》

「ほう?」

《はい。辺境の地を放棄した後、やはり人口増加により資源の枯渇が起きてしまいます。それにより星ごとに分裂して資源の奪い合いで戦争が始まります。この戦争により主要な星にある都市は双方ともに壊滅。それでも戦争をやめない彼らはほとんどの資源を使い果たして文明の退化が起こり現在に至ります》

「だから彼らには遺跡から出てきた物は使えるが、直したり生産する技術が無いのか」

《はい》

「なるほど、大体は分かった。ではそれを踏まえてどうするか? じゃ」

《これは憶測になりますが、探査ポッドの探査記録から推測すると、文明がある程度発達している場所にマスター達はいないのではないかと》

「辺境の地かのう?」

《はい、可能性は高いです。現在はその辺境の地方面へも探査ポッドを飛ばしていますが、辺境の地までは距離がありデータが送られてくるのは数ヶ月後になります》

「う~む、それまでこのままというわけにはいかんな」

《はい、それで共和国の方も現在は一段落しています。それで母船で辺境の地へと向かってはどうでしょうか。共和国には数体のポッドを置いておけば何とかなると思います》

「問題ないなら、それもありだな……ナブさん、その方向で調整してくれ」

《はい、分かりました》

 ふと視線を上げると自室にある大型モニターが目に入る。

「綺麗だのう」

 星々が輝いている。何か久しぶりに見た気がする。ワシも追い込まれていたということか……。今更ながらにコウさん達がいない事による重圧を感じていたのだと実感する。

「一杯飲むか」

 腰掛けていた椅子から立ち上がり、部屋を出て食堂を目指す。


  


 新しい宇宙、拠点内、コウ。

 新たなアーマーについてナビィと話し合う。懸念点として戦闘宙域にて乱戦になった場合、情報量が多くなって制御AIが処理し切れない可能性がある。

 当初の脳波リンク機能はシャンバラからの情報を得る前に限界がきていた。これにシャンバラの技術を利用して新たな脳波リンク機能を確立した。

 それにシャンバラのVR技術も追加。

 それらもろもろの要因によって空間認識の拡張を得られた。だが情報量が過多となり現在の制御AIでは処理出来なくなる可能性が出てきた。

 これから進むべき方向は二つ。まずは機能を落として使用、これなら現在の制御AIでも使用可能となるだろう。

 もう一つは制御AIを拡張する事。機能をナビィの三分の一にまで引き上げる。

「う~ん」

 悩むな。使用した感じでは現在、脳波リンクというよりはシンクロに近い。過剰な機能とも言える。

 デチューンしてもいいのではないか?

 違う違うとかぶりを振る。

 考えてみればこれは俺専用機の機能だ。それを妥協してどうする。ここは妥協せずに盛り盛りでいってみようではないか。

 ハハハハ。

 俺もバカだよな。まぁ、サイ、タキノ、ルカ、ヘルミナの四人の機体にはそれぞれに見合った程度に制限して、アーマー隊用にもかなり機能を抑えたバージョンでいいだろう。

 それでもかなり性能が上がるはずだ。

 後は長期間ミッション用の機能も必要かな? 今回みたいに一人ではぐれた場合には必要だろう。新たにシャンバラの技術で作製したエネルギー機関は核融合炉から超小型化に成功した縮退炉を使用している。これによって強大な出力と膨大なエネルギーでほぼ無限に活用出来る事となった。

 自分の魔力を使わなくても大規模な魔法を行使する事も可能となった。これはありがたい。

 とりあえずはこんなものかな? ナビィに設計変更をお任せして少し休もう。


 数日が過ぎると専用アーマーの改修作業も終わった。内容的には制御AIの拡充とサブ制御AIの追加。

 他にもコックピット後ろに空間拡張により部屋を設置。簡易な二段ベッドにミニキッチン(自動調理機含む。※材料は時間停止空間にて保存)、トイレにシャワーも備えている。

 これでまたボッチ状態になってもやっていけるかな……今もボッチだけれども……。

 拠点の方もかなり整備されてきている。作物プラントや人工肉のプラントも設置されている。使用量的には俺一人分なのでほとんど稼働してはいないが……。

 この人工肉だがシャンバラから提供された技術だ。シャンバラで一時期、この人工肉が広まっていたが味気無いのではないかという意見が出て、今は一部でしか使われていない技術だ。技術としては錬金術に属するものだ。

 ここでは豚、牛、鶏の肉を生産している。凄く美味しいとは言えないが味に違和感は無い。

 今、かなり拡張して整備された場所を走っている。周りは森でその中にランニングコースが通っている。一周は一キロ。日課として十キロ走っている。

「ふう」

 軽く汗ばんだ体を冷えたタオルで拭く。気持ちが良い。

 ふと周りを見るが少し違和感がある。それはそうだ、生き物の気配が皆無なのだ。でも風が吹いて木々が揺れて綺麗な水が流れる小川がある。

 ここの他にもトレーニング機器を置いた部屋やアーマーのシミュレーションルームに一人遊び用の機器が多数ある娯楽施設などがある。

《マスター》

「なんだ? ナビィ」

《探査ポッドが人種が生存可能な星を見つけました》

「部屋へ帰る」

《ハイ、マスター》

 自分の部屋へと急いで戻る。部屋に入り着替えを済ますとナビィを呼ぶ。

「ナビィ」

《ハイ、マスター》

 と声が聞こえ目の前にモニターが現れる。

「報告を聞こう」

《ハイ、探査ポッドが見つけたのはこの星です》

 モニターに青い星が映る。

「人種はいるのか?」

《いません》

「そうか……」

《ですが、人種がいたと思われる痕跡がありました》

 モニターに完全に崩れている遺跡と見られるものが映る。

「遺跡か」

《ハイ、星の何箇所かに遺跡の痕跡があり、これらの遺跡は何らかの攻撃によって消滅したと思われます》

「攻撃か……もう少し何か発見出来ないか調べてくれ」

《ハイ、マスター》

 通信が切れた。

「ふう」

 一息つくと収納から冷えたビールを取り出してゴクゴクと飲む。

「これで何か手掛かりが掴めればいいが」

 と先ほどナビィから報告された星の画像を眺める。


  


 新しい宇宙、サイ。

 俺らの回答を聞いた王女は素早く行動して遺跡へと向かう準備を整えた。

「それでまた馬車か……」

 王都まで来た時よりはマシな馬車だが、それでも揺れはひどい。結界で何とか凌いでいる状況だ。ふと隣に座るヘルミナを見ると平気な顔で何かの本を読んでいる。

 この一行は王女とそのお付き二人が乗る豪奢な馬車を中心に、その馬車を囲むように女騎士が乗る馬が四頭。その後ろに俺らが乗る馬車、これにはギルドからの同行者も乗っている。

 最後の三台目の馬車には文官四名が乗っていて、その一行を守るように騎士が乗る十騎の馬が追随している。

 陽が少し傾いてきた頃に遺跡へと到着した。今日のところはここで野営となる。遺跡の警備を担当している兵士達と騎士達が手早く天幕を設置すると俺らと同行者に一つの天幕を使う事を許される。

「何か面倒くさいな」

 と思わず呟くと、

「もう少しの我慢よ」

 ヘルミナは意に介さない。

 その後は不味い食事が配られて、何とか口に突っ込んで食べたらすぐに就寝した。


 翌朝は朝食を食べた後に全員が集まり予定を聞かされる。どうやらこの場に四人の騎士と警備の兵士を見張りのために残して、他の者は遺跡へと入る事となった。

 女騎士二人が先導して遺跡へと入っていく。手に持たされたランタンの明かりが心細くなるほどに弱い。

 しばらく通路を進むと崩れた壁が見え、そこを抜けると下へと続くせん階段を降りていく。かなりの深さだ。

 もう一時間は階段を降りている。

 時折、ランタンの明かりで壁を照らすと今までの風化した遺跡とは違いツルリとした壁になっている。

 どうやら状態保存の魔法が掛けられているようだ。

 更に三十分ほど階段を降りると一つの空間に辿り着いた。その中に入っていくと……。

「これは凄いな」

 魔導具の明かりで照らされた巨大な空間が現れ、その空間の先に大きな物体の影が見える。

「あれが宇宙船ね」

 ヘルミナは楽しそうに、その黒光りする船体を眺める。

「ああ、本当に宇宙船のようだな」

 俺は安堵の息を吐く。何とかなりそうだ。

「あれが例の物体です」

 と王女の隣にいる文官が説明を始める。どうやら船の種類は三つ。王城で確認した絵図では戦闘艦らしきものと輸送船が二種類があるらしい。

 近づくにつれて船体がよく見えるようになってくる。

「戦闘艦は小型艦ぐらいの大きさかしら」

「そうだな思ったより大きくないな」

 見つめる先には砲塔が三つ付いた戦闘艦らしきものが二隻見える。その隣に中型艦ぐらいの輸送船二隻に少し草臥くたびれた小型輸送船が一隻見える。

「あれが本当に空を飛ぶのかしら」

 と王女は無邪気に目を輝かせている。

 さてと、いつまでも眺めているわけにもいかない。戦闘艦へと近づいていく。

「あれが搭乗口ね」

 ヘルミナが船体下部から伸びている搭乗口を発見する。そこに近づいて扉と思われる周囲を確認する。

「これね」

 ヘルミナが壁の一部を押すとコンソールが現れた。そして無造作にモニターの上に手をかざすと、

 ピピピ!

 と電子音が鳴り、画面に明かりがともり文字が映し出される。

「なるほどね」

 ヘルミナはもう一度画面に手を翳す。すると画面の色が緑に変わり認証登録完了の文字が浮かぶ。

 ヘルミナは画面の指示に従い画面を操作すると搭乗口の扉が開いていく。

「開いたわ」

 ヘルミナは警戒もせずに中へと入っていく。その後へと続き中に入ると船体へと伸びる階段が見える。そこをヘルミナは上っていく。

「お、おい。少し待てよ」

 声を掛けるがヘルミナはお構いなしに上っていく。

 階段を上り切ると船体へと入る扉が見える。そこもヘルミナは壁の端末を操作して扉を開けると船体内へと入っていく。

 ふと後ろを振り返ると必死になってついてきている王女様達が見える。

 とりあえず、中の事はヘルミナに任せて俺は王女達を待った方が良さそうだ。


  


 新しい宇宙、遺跡内、タキノ。

 怪しい壁に蹴りを喰らわせるとガラガラと音を立てて崩れ去る。

 思ったとおりだ。

 いつの頃からだろうか……いや、いつの頃からかは大体分かっている。きっかけはアーマーに乗り始めてからだ。

 アーマーに乗り始めた当初は操縦に違和感があったが、乗る回数が増えるにつれてそれが解消されていった。

 これは最近得た感覚だが、何というかアーマーに乗ると意識が広がったように感じる時があった。その感覚をコウに相談するとあっさりと答えをくれた。

 アーマーには操縦を制御補佐するための機能として脳波リンク機能というのが装備されているらしい。それが度重なる改良によって、魔力が混ざった脳波を正確に捉えて操縦者の意図を読み取り、機体の補正補助をして精密、正確に動作させる事が可能となっていると説明された。

 コウも感じた事があるそうなのだが、それが時折、情報の逆流現象を起こし知覚が広がったように感じる時があると言っていた。

 ただ、コウが使う脳波リンク機能に比べて俺らが使う機能には脳に負担にならないように、かなり制限されているのだとか……。

 まぁ、あれだけの大規模魔法を行使するには機能を最大限にするしかないのだろうな。

 すげえと思う。

 それでだ。最近も変わらず精神集中の訓練のために瞑想をしているのだが、雑念が取り除かれていくごとに、周囲の状況が細かく把握出来る感覚が生まれる時がある。

 これが最近集中して周囲を観察している時に、ごく近い周辺の違いというか違和感が分かるようになった。

 今回もその感覚に従い行動したら壁が崩れたという事だ。

 剣聖のじいさんとの模擬戦でも感じていた事だが、爺さんの周囲を認識する能力はかなり高い。それは今俺が感じている感覚が拡張されたものではないかと思っている。

 まだまだ、爺さんやコウには及ばねえが、その取っ掛かりは掴めたように思える。

 おもしれえ。

 思わず口角が上がる。ワクワクしてきたぞ。

 さて先へと進むか。


  


 遺跡内、ルカ。

 目の前の壁がタキノの蹴りによって崩される。何が起こったか把握するのに数瞬掛かった。軽く頭を振り状況を観察する。

 壁の先に通路が見える。どうやら風化して壁と同化した扉だったようだ。それをタキノが蹴りで壊したと……。

 何だろうかタキノから時折感じる野生の勘というか、そんな類いのもの。

 タキノは崩れた壁を一瞥すると壁の奥へと進んでいく。跡を追わないと……。

 タキノは暗い通路をまるで見えているかのように進んでいく。はぁ~、多分見えているのだろうな。それを天然で自然にやっている。

 こいつはバカなのか天才なのか分からない。

 だからいつも気になって構ってしまう……。手の掛かる弟のようなものだ。

 私も目を強化すれば暗闇でも視界は確保出来るが、周囲の状況を把握するために光源魔法で辺りを照らす。

 進むにつれて壁の状態が良くなってきている。軽く魔力で壁に干渉してみると、どうやら状態保存の魔法が全体に掛かっているようだ。

 外にさらされている部分から状態保存の魔法が切れて風化が進んでいるのだろう。しばらく進むと扉が見える。

 タキノが無造作に扉に手を掛けるとあっさりと開く。施錠はされていなかったようだ。

 扉の中に入ると階段が見える。その階段をタキノは何も気にせずに下っていく。溜め息が出る。少しは周囲を警戒してほしいと思う。

 下っていくにつれて状態保存の魔法の効力が強くなってきている。


 一時間も階段を下っただろうか、階段が終わり小さな部屋へと辿り着く。部屋の奥には扉がある。

 さすがのタキノも安易に壊す行動はせずに周囲を観察している。いつもそうしてほしい……。扉の前にいるタキノを退けて扉周りを調べるとカバーで隠された操作パネルが見つかった。

 カバーを開けてパネルを調べるとてのひらほどのモニターがあり、そこに手を当てて魔力を流してみると、

 ピピピ!

 と音がしてパネルに明かりが灯る。二つボタンがある、赤と青だ。青を押してみると扉がシュウッと開いていく。

 更に扉の奥へと入っていくと、突然にブーンと低い音が響き出した。タキノも周囲を警戒して足を止めると周囲が明るくなる。

 この施設はまだ生きているようだ。私達がパネルを操作した事によって動き出したみたいだ。

 短い通路を抜けると大きな空間へと出る。かなり広い空間だ。

 手前から順々に奥へと明かりが灯っていく。

「ありゃあ、何だ?」

 とタキノが言うと奥が明かりに照らされると大きな物体が見える。何だろうか一見すると船に見える。それも宇宙船だ。

 近づいていくとたしかに宇宙船だ。艦種は戦艦に属すると思われる。ただそれほど大きくはない。黒光りするその船体は劣化を感じさせずたたずんでいる。

「船だな」

 とタキノは呑気に宇宙船を見上げている。

 これが何かの手掛かりに繋がればいいのだけれど……。


  


 新しい宇宙、母船内、アルド。

 何とか共和国側との調整が済んで辺境の地へと飛び立つ事が出来た。

 食堂の大型モニターに映る共和国の拠点を見ている。

「何とかなりましたね」

 と羊獣人であるオペレーターの女の子が声を掛けてくる。

「そうだのう。君らにも苦労を掛けたな」

「いいえ。良い経験になりました」

 彼女は少しずつ小さくなっていく共和国の拠点を見つめる。

「そうか。少しでも経験として何らかを残せたなら良かったわい」

「はい、何となく共和国の方達の心境が分かるんです」

「そうなのか?」

「はい、私達もコウさん達と出会うまでの生活や文明レベルは共和国の人達よりも低かったですからね」

 と笑う。

「ほう」

「ええ、本当に何も知りませんでしたし、生活も酷かったです。それがコウさん達と出会って、まずは生活が激変して、ルカさんやナブさんにまれて今に至ります」

「そうか」

 彼女の横顔を見ると何か晴れ晴れとした表情をしている。またモニターへと目線を移すと、もう拠点は豆粒くらいに小さくなっている。

《アルドさん》

「ナブさん」

 と返事をすると目の前にモニターが展開される。そこに映るのは辺境の宙域の宙域図だ。

《予定ですが、一番近い宙域がココになります》

 ナブさんがそう言うとモニターが切り替わり、二つの星がクローズアップされる。

《手前の星が目当ての星で、奥にある星は人種が暮らす事は可能ですが恒星から少し離れていて、陽光が届きにくく気温が低い星となります。それゆえに役目としては資源採取を目的として開拓されていたようです》

「ではまずは手前の星かのう」

《そうです。あと二日ほどで探査ポッドが当該惑星へと接近します》

「そうなればデータを入手出来るという事じゃな。この星へはどれくらいで到着出来る?」

《予定到着日は一ヶ月後の予定となっています》

「かなり掛かるのお」

《久しぶりの航海と新たに組み込んだり交換した箇所の検査を行いつつ向かうので、多少時間が掛かります》

「新たに導入したものといえば、エネルギーユニットか」

《はい、シャンバラの技術により大幅に改良された縮退炉の試験となります》

「アーマーの新しい融合炉はどうじゃ?」

《そちらも既にアルドさんの機体には換装済みで、アーマー隊へは随時行っていき当該目標へと到達前には全て完了します》

「シミュレーション施設には、それらは反映されているのか?」

《はい、既に反映されて順調に訓練は進んでいます》

「他に何かあるかのう?」

《以上です》

「もう自室へと戻るが、何かあったら呼んでくれ」

《はい》

 とのナブさんの声と共に目の前にあったモニターは消え去った。食堂を見渡すと集まっていたクルーは既に解散しており、数人が飲み食いをするだけとなっていた。

「ふうっ」

 と息を吐き出して自室へと戻る。部屋の中に入るとベッドへと倒れ込むように横になる。何もない天井をしばしの間見つめると、

「そういえば」

 と思い出す。たしか我らの拠点の星へと戻ると新たにアーマー隊員が増員されるとあった。悪ガキタキノの配下のアーマー隊を除いたアーマー隊はいつの間にかワシの預かりとなっていた。

 他のメインの人員は忙しいからのお。

 タキノは分からんが……。あれもワシからすれば、ヤンチャだが可愛かわいいものだ。

 どうしているのかのお。

 ふと、コウさんやサイ、タキノ、ルカさん、ヘルミナさんの顔が浮かぶ。

「こちらはこちらで何とかしていくしかないのう」

 と宇宙空間を映すモニターを見る。

 皆無事だといいが……。


  


 新しい宇宙、コウ。

 知覚が拡張されて米粒のようなデブリでも鮮明に知覚出来る。宇宙空間に生身でいる気分になる。目標となるデブリ群を把握、それらに向かってアーマーのスラスターを最大限に吹かす。

 機体には何の影響もない。掛かったGは重力制御で打ち消されて機体とパイロットへの負担は解消される。

 機体から伸びる魔力のざんきらめいて筋を残す。それを外から知覚出来る。

 デブリ群へと突入、恐ろしい速さで迫り来るデブリを軽々とけて進む。機体の改修と共に新たに機体各所に追加したセンサーが周囲三十キロ圏内を詳細に把握する。

 先行している遠隔機から送られてくるデータと合わせてデブリの位置、その挙動を把握して避けていく。

「追加機能もちゃんと稼働しているな。成功だな」

 と俺は機体を拠点へと反転させる。遠くに見える恒星がぐるりと位置を変える。良い反応だ、病みつきになりそうだ。

 拠点へと近づくと前方に魔法陣が展開されて、その魔法陣を抜けると格納庫へと一瞬で移動する。

 機体を降りて改めて機体を見上げる。

「仕上がったな」

《マスター》

「何だ?」

《船の方ですが、明日には完成予定です》

「おお、そうか」

 思わず口角が上がる。やっと完成かぁ。

「すぐに使えるのか?」

《いいえ、一週間ほどの試験航行を済ませて不具合がないか、改修の必要がないか検証が必要となります》

「そうか、そうだな」

 ナビィの言葉に納得する。自室へと向かいシャワーを浴びて着替えを済ませたら食堂へと向かう。

「今日は何かな」

 席に座ると給仕ポッドがチーズバーガーとフライドポテトに炭酸飲料を目の前に配膳していく。チーズバーガーの包み紙をがし一口齧る。

「美味いな」

 お世辞抜きで美味い。人工牛肉を使っているとは思えない。まぁ、ルカの作成したレシピもいいのだろう。

 チーズバーガーをもう一つ注文して食べ切り、食後のコーヒーを飲む。

「何とか十日以内には出られそうか」

 と独りごちる。ノリで拠点とかも改修して使えるようにしてしまったが、今後も使う予定があるのだろうか?

 疑問だな。

 ここまでかなりの数の探査ポッドに付近を探査させているが、めぼしい結果は得られていないし、発見した人種が生存可能な星にあった遺跡も完全に破壊されていて何も発見出来なかった。

 仲間とは完全にはぐれてしまっている。

 いざ一人ぼっちになってみると彼らに依存してたのが分かる。信頼していたし楽しかった。

 また会えるのだろうか?

 このまま一人ぼっちなのか? という考えが浮かぶが頭を振ってそれを振り払う。

「何もしていないと余計な事を考えてしまうな」

 食堂の席を立ち自室へと向かう。

 何かしなければ……。

 専用のアーマーは作ってしまったしな。

 う~んと悩んでいくつかのものを作る事にした。

 一つはナビィに任せる艦載機だ。これは人型ではなく、二種作りたい。戦闘機型と雷撃機型だ。これらをAIで制御してナビィが統率する。

 拠点防衛や船の守りにも使える。

 もう一つは俺のアーマーの無人随伴機。これは三機種、近接戦闘型・魔法砲撃型・万能型だ。

 高度なAIがあり制御も可能となれば作らないという選択肢はない。

 さてさて、作ってしまおうか。


 数日が経った。船は順調に試験航行を行っていて、ナビィ用の艦載機も二種完成してナビィが楽しそうに宇宙で試験運用を始めて、機体の改修も進んで今では戦闘機型が百機、雷撃機型が五十機完成している。

 ついでにナビィの目となる探査ポッドや偵察ポッドの他に早期警戒機型も十機ほど運用が始まった。

 何を目指しているのだろうか?

 暇があるというのは罪だな……。それで俺のアーマーの随伴機だが難航している。

 基となる機体はすぐに出来たのだが各種の装備が決まらない。考えすぎて凝ってしまう。

 妥協が必要だろうか?

 いやいやいや。妥協なぞいらんな。とことんやってみようか……。

 幸いにして時間はたっぷりとある。


  


 新しい宇宙、サイ。

「サイさんと言ったかしら」

 王女が俺らに追いついてそう聞いてきた。

「そうです。サイです」

「これが本当に飛ぶのかしら?」

 王女は船の中の通路をキョロキョロと見回して問いかけてくる。

「はい、飛びます」

 そう答えると、前方を歩くヘルミナが突き当たりの扉を開けて入っていくのが見える。王女の問いかけに答えながらヘルミナの後に続いて扉の中へ入ると、

「この船生きているわ」

 とヘルミナはこちらを見ずにコンソールを操作している。

「動きそうか?」

「動くは動くけど私達の船と違って、このコントロールルームだけでも五人は必要よ」

「操作方法は?」

「このユニットに記録されているわ」

 ヘルミナがコンソールを叩くとモニターに操作マニュアルという記録が表示される。

「王女様、人数はそろえられますか?」

「問題ないわ。何人必要かしら」

「ヘルミナ、何人必要だ?」

「そうね、予備も含めて二十人は必要ね」

「二十人ね、すぐに集めるわ」

 王女は答えると後ろにいる文官に指示を出す。

 ふうっ、何とかなりそうだな。後でヘルミナと相談する必要があるが、これなら報酬として一番小さい船をもらう事も可能かもしれない。

 チラリとヘルミナを見ると目が合う。ニコリとヘルミナが微笑むと顔を近づけてきて、

「報酬の件だけど頼んでいいかしら?」

「小さい船だな」

「そう」

 と短くヘルミナは答えると次々にコンソールを操作していく。しばらくすると低い振動音と共にコントロールルームにあるモニターが徐々に点灯していく。左右前方にある大型モニターが点灯すると外の状況が映し出される。

「「「おお」」」

 と王女と女騎士、文官が声を上げる。次にヘルミナがコンソールを操作すると小さなモニターに船内の見取り図が表示される。

「サイ、士官室が四つあるわ。王女様をここの一番大きな士官室へと案内してあげて」

「了解だ」

 とヘルミナに答えると王女様御一行を士官室へと案内する。一人の文官は残るようだ。士官室へ着き中へ入ると十五畳ほどの空間があり、大きなベッドと応接セット、ミニキッチンがある。奥には扉があり確認するとトイレと洗面所付きのシャワールームがあった。

 色々と触ってみると操作方法はこれまで使っていたものと変わりがない。早速、王女達はソファーに座り、一人の文官が外へと出ていく。

 どうやら王女付きの侍女と色々なものを運び込むらしい。一時間もすると侍女や荷物が届いてキッチンをぎこちなく操作しながらお湯を沸かしてお茶を淹れている。

 途中、ヘルミナが部屋へ来て一緒にクルー用の食堂へと移動する。

「報酬の件は?」

「少し話したぐらいだが了承されそうだ」

「簡単に了承するわね」

 ヘルミナが首をひねる。

「どうやら、もう一つの遺跡で同じような通路が見つかったらしい」

「それで」

「ああ、もしかするとあと何隻かの船が見つかる可能性がある」

「もう少し私達の力が必要という事ね」

「そうだ」

 と言うとヘルミナは収納から温かい缶のお茶を出して適当な席に座る。

「人員が揃い次第、訓練かしら」

「そうなるな」

 俺も席に座りお茶を収納から出してゴクリと喉を潤す。

「じゃあ、早めに船を貰って居住しましょうよ」

 ヘルミナは楽しそうに言うが、その折衝は俺がしなければならないだろう。

 溜め息が出る。まぁ、ヘルミナの言うとおりなんだがな。早めに船の確認だけでもした方がいいだろう。

 しばらくすると王女付きの侍女が来て俺を呼んでいるという。何だろうか? 侍女の後ろに付いて王女がいる部屋へと行く。部屋に入ると王女が座るソファーの対面に促されて座ると侍女がお茶を用意してくれる。良い香りがするな。

「王女様、何か御用でしょうか?」

「先ほどの報酬の件だけど、そちらの要望どおりでいいわ」

「そうですか! ありがとうございます」

「その代わりと言ったら何だけど、今回の二十人だけじゃなく、もう少し多くの人員を訓練してくれないかしら?」

 俺は少し考えるフリをしながら、

「了解いたしました」

 と答えた。

「そう、ありがとう。そうね、食事や必要な物はそこにいる侍女に言えば揃えるわ」

 王女は壁際に立つ侍女を見て言う。

「はい、何か必要な事があれば相談させていただきます」

 と答えて頭を下げる。ふうっ、いつも交渉事はルカが担当だったのだが経験してみると頭が下がるな。早速、ヘルミナに伝えないとな。


  


 新しい宇宙、ルカ。

 宇宙船だ。宇宙船がある。隣でポカーンと宇宙船を見上げているタキノを見たらなぜか冷静になった。

 宇宙船から下へと伸びている入り口らしきものへと近づいていく。

「入り口ね」

 と思わず声に出てしまった。後ろからついてくるタキノもどこかワクワクした顔つきになっている。

 入り口の周りを調べると小さいコンソールが出てきた。これに魔力を流すと扉が開き、その扉を抜けると階段があり上っていく。

 階段を上り切ると宇宙船へと入る気密ドアが見える。そこにも小さなコンソール、それに魔力を流して扉を開くと通路が見える。

 中へと足を踏み入れると通路の明かりが灯る。

「生きているようだな」

 天井を見上げてタキノが呟く。そのまま通路を直進していくと突き当たりに扉があり、扉の前に立つと自動で扉が開いた。

 開いた扉の先へと足を踏み入れると、そこは宇宙船のコントロールルームらしき場所。正面にあるコンソールをいじると他のコンソールにも明かりが灯る。

「いけそうだわ」

「そうか」

 タキノも何だか嬉しそうにしている。

 ふむとコンソールを弄っていると色々と分かってきた。ナブのようなAIが無いせいで、ほとんどが手動だ。そうだ、と収納にナブと相談して作ったものがあるのが確認出来た。

「これでいけるわね」

 収納からタブレットと万能型作業ポッドを四体出して、タブレットを操作してポッド達を起動させる。これは地球からの移民者向けにナブの恩恵を受けられない農業、畜産中小規模業者へと貸し出す用途で作り、試験で使おうとしていたものだ。

 そして宇宙船には制御用のAIは無くても、それなりのコンピュータは各所に搭載、設置されていて繋がっている。

 ではどうするか?

 無いならば簡単なAIを繋げて制御してしまえばいい。一体のポッドの点検ハッチを開いてポッドの制御AIから点検用のコードを引き出して、コンソール近くにあるソケットへと繋げる。なぜかソケットのサイズが同一規格になっている。どうしてだろうか?

 少し考え込むが、それは後で考えればいいと頭を振り目の前の作業に集中する。

 タブレットを介してポッドのAIへとアクセス。そこから宇宙船の各コンピュータへと繋げていく。

 これで準備は出来た。さて上手くいくかな? とタブレットに表示されたボタンを押す。

 するとタブレットへと各種データが流れ込んできてポッドの制御AIが機能し始める。

「上手くいったか?」

「ええ、何とかなったわ」

 タキノへ笑顔で答える。ふう、これで少し宇宙船に手を加えれば、この星から出られるわ。次はと考えてタキノが壊した壁を修復して塞ぐ。

 タキノは少し飽きたらしく、この宇宙船がある大きな格納庫を走りに行った。元気ね。階段を再度上って壁を修復して通路を魔法で埋める。これで誰も入ってこれない。

 宇宙船へと戻るとタキノは楽しそうに走っている。

 宇宙船の内部を確認・点検する。うん、何とかなるわ。とりあえず四つある個室の一つを占有して宇宙船の改修計画を考える。

 まずは強固な防御機能である結界をつける。一応は元から宇宙船には小さなデブリ程度をはじけるシールド? らしき機能は付いているようだが防御機能としては弱すぎる。

 それから武装も追加で用意した方が良いだろう。この小型艦程度の宇宙船の武装として光学系の主砲が付いているが、これも弱すぎる。魔法系の攻撃手段なら追加出来そうだ。

「こんなものかな」

 一応は艦載機らしい物を積むスペースはあるが手持ちの材料では艦載機などを作る事は出来ない。タキノには武装の制御をお願いしよう。

 後は魔法陣と魔石で便利機能も追加かな。タブレットで宇宙船にあったデータを眺めていると簡単な宙図が出てきた。

 これが正確なものかは分からないが、ここはこの宇宙船を作った者達の勢力がいる端っこにあるらしい。

 遺跡がこんな状態だという事は、この宇宙船を作った者達が生存しているかどうかは疑問だし、生存しているとしても友好的とは限らない。

 とりあえず勢力図の中心を目指すべきだろうとは思う。後は他の仲間達と合流出来るかが問題だわ。すぐに見つかるといいのだけれど。

 中心へと向かいながら、途中にある星を探索するしかないわね。収納にかなりの食料があるといっても無限ではない。途中で補給も必要だ。

 はぁ。思わず溜め息が出る……。

 タキノはというと、一度戻ってきて自分の部屋を決めると、すぐに船外へと出て瞑想を始めた。ホント、呑気なものね。

 さてと食堂のキッチンを調べて何か作ろうかしらと部屋を出る。