アレクシア共和国の惑星軌道上、母船内。

 別次元宇宙へと転移し、迷宮都市のダンジョンを攻略した俺たちは、湖の底の遺跡でモノリスを発見し、新たな試練を乗り越えてシャンバラを目指すようにと告げられた。

 俺は母船の自室でベッドに寝転びながら天井を見つめる。

 時折、母船の外の宇宙を映すモニターに目線を流すが、瞬く星々の光景は頭に入ってこない。

 シャンバラ。

 理想郷という意味の場所なのだろうか? 『見放されし者達の子孫よ』という事は、シャンバラは祖先である者達が住まう場所なのだろうか?

 まぁ、色々と疑問はある。例えば俺達がその子孫と認められた事だ。俺は神によって転生させられた時に若返った。けれども、あからじめ身体からだを用意された者ともいえる。そんな俺も子孫として認められた。

 あの神がそのように創ったのだろうか? あの神が? 分からない。

 とにかく、行く先は決まった。今はモノリスが示した映像と探査ポッドから送られてきた画像データを照合し、ナブに解析してもらっているところだ。

《マスター》

「ナブ、どうした?」

 俺は答えの出せない疑問の海から浮き上がるように身体を起こす。

《マスター、解析が終わりました》

「シャンバラの場所が分かったのか?」

《いいえ、探査ポッドから送られてきた画像では特定出来ませんでしたが、モノリスが示した映像の中心がシャンバラだと仮定するならば、おおよその位置は特定出来ています》

「そうか、ここからの距離は?」

《惑星らしきものが見当たらないため、はっきりとは分かりません》

「行ってみるしかないか。ではその中心に向かってくれ」

《はい、マスター》

 身なりを整えて自室を出る。向かう先は食堂だ。


 食堂に入ると何やら騒がしい。一部にひとだかりが出来ている。そこから届く声からしてまたタキノとルカがめているようだ。周りにいるアーマーパイロット達がはやてている。

 少し離れたテーブルを見ると、サイとヘルミナが座って静かにお茶を飲んでいる。俺はそのテーブルの向かいに座り、配膳ポッドにお茶を頼んだ。

「あらコウ。コウもお茶?」

「ええ、たまには飲んでみたいと思いまして」

 そう答えてサイの手元を見ると、何やら書物を読んでいる。

「サイ、何を読んでいるんですか?」

「ハハッ、これは日本で手に入れた創作物だ」

 少年のようにキラキラと瞳を輝かせながら、サイが本の表紙を見せてくる。

「ああ、ラノベですね。たしかナブが翻訳していましたっけ」

「読んでみると、なかなか興味深いんだ」

「どこがですか?」

「異世界転生ものっていうジャンルらしいんだけどな、その舞台が迷宮都市のダンジョンを攻略した、この惑星の状況に似ているんだ」

「そうなのですか?」

「ダンジョンがあって、魔獣が攻めてきて、魔獣王が存在する。俺達が経験した事と似ていないか?」

「そういえばそうですね。たしかに似ています……でもなんで最初に気付かなかったんでしょう。私が以前、勇者召喚に巻き込まれた事が関係しているのでしょうか?」

「その可能性はあるな。無意識に刷り込まれていた、とかな」

「召喚陣にそういった副作用が……」

 腕を組んで考えていると、配膳ポッドがやってきてお茶をテーブルに置いた。息を吹き掛けながら一口飲んで一息つく。

「ちょっといいかしら……その、ラノベってどんなものなの?」

 ヘルミナが口を挟むタイミングを見計らっていたように会話に入ってきた。

 俺は以前読んだラノベについて説明をする。

「たしかにこの惑星の状況と似通っているわね」

 そこに突然歓声が上がった。どうやらタキノとルカの方で進展があったようだ。すぐにゴン! とフライパンで何かをたたく鈍い音が食堂に響き渡る。

いてえ!」

 タキノの悲痛な叫び声が聞こえる。

《マスター》

「どうした? ナブ」

《シャンバラへと向かう進路上に、人類が移住可能な惑星を発見いたしました》

「その惑星に人族はいるのか?」

《現在のところ、確認出来ていません》

「映像は表示出来るか?」

《はい。映像を表示します》

 目の前のモニターに映像が流れる。その惑星は青く輝く星でとてもれいに見えた。

「うん? この惑星には大陸が一つしか見えないな」

《はい、マスター。この惑星には陸地が一つしかありません。映像を切り替えます》

 切り替わった映像にはオーストラリアほどの大きさ・形の大陸が映し出され、陸地は全て木で覆われているようだった。

「変わった惑星だな」

《木の全高は全て五百mを超えています》

「そんなにか……」

《はい、マスター》

 夢中で映像を眺めていると、サイが横から話し掛けてきた。

「行ってみるのか?」

「そうですね。シャンバラへと辿たどくための『新たな試練』がこの惑星にはあるかもしれません。寄っていきますか」

 そう返すと、ヘルミナも興味を示すようにうなずいた。

「面白そうな惑星ね」

 どうやら賛成のようだ。

「ナブ、せっかくだから寄っていこう」

《はい、マスター》

「さて、タキノとルカにも聞いてみますか」

 テーブルから立ち上がると、騒いでいた二人がきょとんとこちらを向いた。


  


 母船内、コントロールルーム。

「ディープアウトします」

 オペレーターが号令を出すと、目の前の大型モニターに青く輝く星が映し出された。

「綺麗な惑星ね……」

「ああ、本当だな」

 ルカがつぶやくと、サイが目を細めながら答えた。

 母船は高鳴る期待に沿うように、惑星の周回軌道に乗る。

「本当に大陸が一つしかないんだな」

「そうね。巨木で覆われた大地には何が潜んでいるのかしら」

 タキノとヘルミナも、青く染まった光に瞳を輝かせながら、そう呟く。

「大陸が昼側に入りましたら、降下しますよ」

 皆がうなずく。


  


 青く輝く惑星の軌道上。

 大陸が昼側に入ると、コウを先頭にして斜め後ろ左右をサイとヘルミナ、最後尾をルカとして、各アーマーでダイヤモンド編隊を組みながら降下していく。

 タキノはアーマー部隊十機を引き連れてさらに後方に続いた。

『ナブが言っていたとおり、大陸は巨木でみっちりだな』

 大陸上空を旋回しながら、サイからの通信が入った。

「本当ですね。あの海岸沿いの開けた場所に降下しましょう」

 と全体通信を入れると、各機から了承の通信が返ってくる。

 開けた場所へと次々にアーマーが着陸していき、駐機姿勢をとる。

 先にハッチを開けて砂浜を踏み締める。

「空気が澄んでいますね」

 目をつぶり、深呼吸をする。

 すぐにサイ、ヘルミナが降りてきて同じように空気を吸い込む。

「空気がしいと感じたのは初めてだわ」

 ヘルミナが笑顔でそう言うと、その横のサイも頷く。

 ルカは少し離れた場所に着陸した。続いてタキノとアーマー隊も降りてきて、各機体のハッチが開き、遅れて到着したタキノも深呼吸をして澄んだ空気を堪能する。アーマー隊の各員は警戒しつつも珍しそうに辺りを見回す。

 突然、海側でイルカのような生き物が二頭跳ねた。

「おっ!」

 反応したタキノが指を差すと、つられて他の面々も海上を見つめた。そこに、

 ザバァーン!

 と巨大な何かが海面を叩いた。某恐竜映画に出てくるようなすいせい恐竜らしき生き物が再び姿を現すと、イルカもどきをくわえて海中へと沈んでいく。体長は三十mほどありそうだ。

「すげえな」

 タキノはぜんとして眺め、他の面々も驚いて固まっている。

 気を取り直して巨木の森へと視線を移し、空を埋め尽くさんとする巨木を見上げる。

 ナブから巨木の高さは五百m超えと知らされていたが……もっと高いかもしれない。それが地面を覆い隠すようにみっちりと生えている。

 その巨木の森から濃くて新鮮な空気が流れてくる。

 目を瞑り、新鮮な空気を浴びる。少しの間その空気を肌で感じ終えると、目を開けて巨木の森へと入っていく。

 それに気付いた他のメンバーもコウの後ろへと続く。


 巨木の森の中は、その巨木の葉で光が遮られていてとても暗かった。そして生き物の気配がしない。魔力は漂っていないのかと思ったが、そうでもなく森の外以上に魔力で満ちている。

 不思議な森だ。

 一時間ほどかけて森の奥へと進むが特に何も無い。だが、時折魔獣ではない気配がした。

「なんの気配でしょうか」

 辺りを見渡すが何もいない。

「コウ、何か感じない?」

 ルカは何かを感じたのか、話し掛けてきた。

「ええ、おぼろですがかすかな気配は感じています」

 と言って目を瞑る。

 サイ、ヘルミナ、ルカ、タキノは辺りを警戒するように見渡す。

「うん?」

 目を開けてある一点を見つめると、そこから柔らかな光の球が現れた。こちらにふわりと近づいてきて周りを飛び回る。

「特に害意はなさそうですね」

 観察するようにそうつぶやくと、空気中から次々と湧き出すように赤、青、緑、茶と様々な色の光球が現れ、俺達を囲むように飛び回った。

「綺麗だわ」

 たくさんの光の球が、巨木の葉で光がさえぎられた空間を縦横無尽に飛び回る。しばらくすると、光球が一箇所に集まり、一斉にはじけるように光をらすと消えてなくなった。

「何だろうな、コレ」

「妖精か精霊の類いでしょうね」

 直前まで光球が漂っていた空間を見て、サイが呟いた。

「妖精? 精霊? それって架空のものじゃないかしら?」

 ヘルミナが困った顔で聞き返す。

「多分ですが、この次元宇宙はサイが読んでいたラノベのような世界です。ダンジョンや魔獣王がいたのですから、妖精や精霊という存在もいる世界なのだと思います」

 と言うと、ルカとヘルミナはどこか納得したように頷いた。


  


 青く輝く惑星の大陸。

 日が沈んできて辺りが暗くなりはじめたので野営の準備を開始する。ルカは魔導バーベキューコンロを数台並べて、肉野菜いためとスープを人数分作っていく。

 アーマー隊員を含めた一行の目の前には、湯気が上がるスープと肉野菜炒め、柔らかいパンが置かれた。

「頂きます」

 とサイが言うと、全員で「頂きます」と言って食事を始める。

 食後、アーマー隊は二人一組に分かれて警戒と休憩を交代でこなしながら、俺達はルカがれたお茶を飲みながらまったりと海辺の上空に輝く星空を見上げている。

「綺麗だな」

 タキノにしては珍しくそう呟き、それを聞いたルカが微笑ほほえんだ。

 しばらくしてから、俺は皆から少し離れて森の中へと向かい、落ちていた太い枝を風魔法でカットしてをする。

 まきを組んで火魔法で火をける。

 ボッ!

 と音がして薪に火が移り、炎が大きくなっていく。

 その火を眺めながら、収納からビールを取り出して一口飲む。

「ふう」

 一息吐いて巨木を見上げる。その巨木はうっすらと魔力をまとって発光しているように見えた。ふと気になり鑑定してみると……、

《精霊樹》

 と表示された。

 すると頭上からヒラヒラと一枚の大きな葉が落ちてきて、差し出したてのひらに収まる。その葉もうっすらと発光している。葉を収納し、

「ありがとう」

 と呟くと、精霊樹はそれに応えるようにザワザワと枝葉を揺らした。

 はるか頭上の枝付近が発光したように見えると思ったら、何かがユラユラと発光しながら落ちてくる。軌跡を追うように眺めていると枝のようだ。

 目の前の高さに来ると止まり、俺がつかむまでその枝は静止していた。

 長さは百五十㎝ほどで、上部分はこぶのようになっていて下にいくほどに細くなっている。それを鑑定してみると……、

《精霊樹のつえ

 と出た。

 掴むと杖が強く発光する。同時に頭の中に杖の使い方が流れてくる。

すごいな」

 そう呟いて思わず笑顔になってしまう。

「どうしたの? コウ」

 いつの間にかそばに来ていたヘルミナと目が合い、不思議そうな顔で話し掛けられた。

「これを見てください」

「何かしらコレ!? なんだか凄く……そうね、神気のようなものを感じるわ」

 ヘルミナが手渡された精霊樹の杖に驚いた。

「恐らくですが、目の前にある精霊樹が私にくれたんだと思います」

「精霊樹もコウに何かを感じたのね。ふふ、使うの?」

 ついさっきまで不思議な体験をした巨木を見上げ、ヘルミナが俺に杖を返しながら悪戯いたずらのような顔で言う。

「う~ん、そうですね。今までは杖なんてお飾りだと思っていたんですけど、せっかくですから機会があれば使おうかと思います」

 と杖を見ながら言う。

「コウが杖を使おうと思うなんて珍しいわね」

「なぜか分からないのですが、いつか必要な時がくると感じたんです」

「そう」

 俺は苦笑しながら、ヘルミナを見てそう答えた。

 落ちてきた大きな葉に触れた時、温かい何かを感じたのだ。歓迎され、祝福されているような。言葉を交わしたわけではないがそう思う事にした。

 焚き火を眺めるヘルミナに収納から取り出したビールを渡す。

「悪いわね」

 ヘルミナは笑顔で返してタブをプシュッと開ける。それを美味しそうにゴクゴクと飲む。

「ふう、いわ」

 とヘルミナが言ったところでサイ、タキノ、ルカが現れた。

「おっ、ビールかコウ! 俺にもくれ」

 焚き火の前にドカリと座ると、タキノは笑顔でコウへと手を差し出す。苦笑しながらもタキノ、サイ、ルカの分のビールを取り出して、ヘルミナにもおかわりのビールを出す。

 俺も二本目のビールを飲むと騒いでいる仲間達を見ながら、

「良いですね」

「フフ」

 思わずそう呟くとヘルミナが笑う。

 そして夜が更けていく。


  


 青く輝く惑星、軌道上の母船内コントロールルーム。

 翌朝、コウ達は母船に戻り、シャンバラへと向かう準備をしていた。

《マスター》

「どうしたナブ?」

《探査ポッドが新たに人類種のいる惑星を発見しました》

「モニターに表示出来るか?」

《はい、マスター》

 と答えると目の前の大型モニターに惑星が映し出される。

「ナブ、この惑星はどういった惑星なんだ?」

《文明度は次元転移したアレクシア共和国の惑星と同程度で、種族も同等です》

「ふむ」

 考え込むとナブが更に報告する。

《探査ポッドが他の惑星も発見しています》

 と言うとモニターの画面が四分割されて、それぞれに各惑星が映る。

「この三つの惑星にも人類種がいるのか?」

《はい、マスター。一つ目に表示した惑星と同等です。他にも類似性があり言語や文字も同じです。シャンバラへと向かう進路に沿うように、この四つの惑星があります》

「人類が存在していそうな惑星は、その周辺にないんだろう? 何だか作為的な感じがするな」

 モニターを見つめると他のメンバーもナブの話に聞き入る。

《コレらの惑星は、モニター左上から横へ順番にシャンバラへと向かう宙域に並んでいます》

「確定だな」

「ああ、そうだな」

「決まりね」

「何かあると考えるのがいいわね」

 と仲間達に言われて決心した。

「次の目的地はここから一番近い惑星にします」

 と宣言すると、オペレーター達はナブからの情報をそれぞれのモニターに表示させ、ディープドライブの準備にかかる。

「準備完了しました」

「発進してください」

 という言葉と共に母船は空間を潜っていく。


  


 とある惑星。

 男が神殿から外へ出て夜空を見上げる。

「何やら星が騒がしいな」

「精霊も落ち着きがない」

 後ろから神官がそう声を掛ける。

つくよみはなんと言っている?」

 そうたずねると神官は首を横に振る。

「そうか」

 男は答えると夜空をいちべつし、神殿の中へと戻っていく。

 その後ろ姿を神官は見送ると、

「予言どおりか」

 と呟くと夜空に星が流れる。


  


 母船内コントロールルーム。

「目標惑星軌道上に入りました」

 オペレーターが言う。

「ナブ、一番栄えている大陸はどこだ?」

 コウがナブに確認すると、

《はい、マスター》

 と目の前のモニターに大陸が表示される。更に空間にいくつも画像が表示される。

「ダンジョンもあるのか」

「本当にアレクシア共和国の惑星と同じような惑星ね」

 タキノがうれしそうに言うと、ヘルミナはモニターを確認しながら言った。

「おかしなもんだな。普通、これだけ距離が離れている惑星なら文明も色々と変わってくるもんだがな」

「サイ、多分ですがそれにもシャンバラが関わっているのでしょう」

「なら行くしかないわね」

 とルカが楽しそうに笑う。


 惑星トリステア、マルドア大陸、ナルンケ王国内。

 俺たちはマルドア大陸にあるナルンケ王国にいる。

 母船から降下しようとする前にどういうわけか突然モニターに惑星トリステアと出て、同じように大陸の名前や王国の名前も表示された。

 これは何かあると感じ、すぐに大陸に降り立ったのだ。

「どうしたルカ?」

 サイが首をかしげているルカに問うと、

「う~ん、目の前にある村の名前はアルト村だって母船で表示されたのよね」

 と難しい顔をする。

「シャンバラから何らかの影響を受けていると考えるべきですね」

「そうね、色々と見て何か兆候がないか見逃さないように行きましょう」

 ヘルミナがそう言って村へと歩き出す。

 俺達が進むべき場所へと導かれているような出来事が起きている。

 今はそのみちしるべのようなものに従って前進していくしかない。


 アルト村に入る。

 村人に話を聞くと近くに小規模ながら優良な素材が取れるダンジョンがあり、小さい冒険者ギルドの支店に多くの冒険者が集まり、村はうるおっているのだとか。

 村人達の表情は明るく、たくさんの子供達が走り回っている。辺境の村にしては活気がある。

 宿に入ると一階は食堂と受付で二階と三階が宿泊室となっている。

「お客さん達は食事かい? それとも宿泊かい?」

 宿の女将おかみに声を掛けられる。

「とりあえずは先に食事をしたいのですが宿泊も頼めるかしら? 三人部屋と二人部屋があるといいのですが」

「それなら空いているよ。こっちで受付をしておくれ」

 ヘルミナが返すと、女将はそう言って受付カウンターの中に入り、宿泊名簿を出してきた。

 代表としてヘルミナが記入してお金を払う。

 驚いたのは、次元転移した惑星のダンジョンで稼いだお金がこの惑星でも使えた事だ。

 これには全員顔を見合わせて、シャンバラが確実に関わっていると確信した。

「あんたらもダンジョンに潜るのかい?」

「う~ん、今のところは考えていないわ。目的地は王都なのよ」

「そうかい、たしかに今から王都へ向かえば生誕祭に間に合うね」

 と女将は楽しそうに笑う。

「生誕祭?」

「うん? あんた達、生誕祭を知らないのかい? 生誕祭はこの国をおこすのに手を貸した大精霊様が生まれた事を祝う祭りだよ」

「大精霊?」

「そんな事も知らないのかい? どんな山奥で暮らしていたんだい」

 女将があきれながら部屋の番号が書いてある鍵を渡してくる。

「それでまずは食事でいいのかい。今の時間は定食しか出せないよ」

「それで構いませんわ」

 受付を済ませた俺達は食堂のテーブルに向かう。

 テーブル席を確保し、食事が出てくるのを待つ。

「大精霊、ですか」

「コウが前の惑星で精霊と出会ったように、それもシャンバラが関わっているのかしら」

「情報が少なすぎますね。その辺も探査ポッドを使って調べてみましょう」

 俺は念話でナブへと指示を出す。

 そこに定食が人数分運ばれてきて、タキノが誰よりも早く定食に手をつける。

「なかなかイケるな」

 タキノは満足そうに具沢山なスープを飲み、柔らかいパンを食べる。

「ああ、たしかにこの定食を食べると、この村がある程度裕福なのが分かるな」

 サイも定食を食べながらそう言った。


 翌日。

 一行は村を出て、王都へと続く街道を進む。

「街道も整備されているわね」

 ルカが街道を踏みしめながらそう言った。

「歩きやすいが、辺境だというわりに魔獣の類いの気配があまりしないな」

 タキノが剣を肩に乗せながら周りの森を見渡す。

「これは私の推測ですが、魔獣が少ないのはダンジョンが関係していると思いますよ」

「どういう事だ、コウ?」

「ダンジョンが周囲の魔力を吸い上げて、ダンジョン内部にしか魔獣が出現しないようにしているのかもしれません。だからダンジョン以外の場所には魔獣が少ない、って感じです」

「たしかに次元転移したアレクシア共和国の惑星でも、地表にいる魔獣は少なかったわよね。例外はあのスタンピードだけど」

 ルカが思い出すようにそう答える。

「ええ、あのスタンピードの魔獣は魔獣族の召喚魔術によって生み出されたものだと思います。ですからこの……」

 そう言いかけた時、前を歩いていたヘルミナが振り返った。

「そうだとすると、この惑星のダンジョンもシャンバラが用意したものなのかしら? 例えば、人々が魔獣に脅かされない生活が送れるようにダンジョンによって魔獣の出現を抑えて、探索で得られる資源も活用出来るようにした、とか」

「多分、そうじゃないかと考えてます」

 と答えながら王都へと向かう街道を踏み締める。


  


 ナルンケ王国、王都ナルカン郊外。

「あれが王都か」

 サイはまばゆの光に目を細めながら王都ナルカンの街並みを見下ろす。

 ここまで辿たどくまでに、俺達はいくつかの村や町を抜けてきた。

 そして今、この王都を見下ろせる郊外の丘の上で休憩を取っている。

 この王都はもちろんの事、どの村や町にも外敵の侵入を防ぐような防壁などはなかった。それほどに魔獣の被害が少ないのだろう。

「そういえば、次元転移した惑星では全てではないけど街を守る城壁はあったわよねぇ」

「あそこで聞いた話だと、街を守る城壁は魔獣王軍に対抗するものだったらしいわ」

「そうか、そういえば魔獣王なんてのもいたわね。母船で一発だったけども」

 ルカがにこやかに笑う。

「私達には簡単でも、地元民からしてみれば強敵だったのかしら」

「そうかもね」

 とルカが苦笑する。

「そろそろ行くか」

 ぱんぱんと土を払ったタキノが立ち上がり、それに続いて俺達は街道を歩き出す。


 王都内に入ってしばらくすると、何かを通った感覚になる。

「うん? 何かを通過したか?」

「結界の類いでしょうね。害意は感じませんでした」

 サイが疑問の声を上げ、俺がそう答えると……、

 ゴーン! ゴーン!

 と鐘の音が鳴った。

 家や店から住民が何だ何だと道に出てきて騒ぐ。

 住民にそれとなく聞いてみるも分からないと答えられ、とりあえずそのまま進む事にした。


  


 王都ナルカン、中央神殿。

「来ましたか」

 高位の神官がそうつぶやくと、バタバタと足音を立てて扉が開かれる。

「イグリス神官様。予言の使者と見られる一行を確認しました」

「そうですか。ここまで誘導してください」

「はっ」

 と男は出ていく。

「これでいいのですね。大精霊様」

 イグリスは外を眺める。


  


 王都ナルカン、中央広場。

「うん? 誰かに見られているな」

「大丈夫ですよ。タキノ」

「そうか」

 タキノは警戒を緩めて「ふう」と息を吐く。

 そこに、神殿の関係者と見られる服を着た男に呼び止められる。

「私は神殿で神官を務めている者です。お話を聞いていただけますか?」

「何用かしら?」

「はい、詳しくは神殿へお越しいただければうれしいのですが」

「どうしてかしら?」

 ヘルミナは腕を組んでその男を見る。

「神殿の結界を通った際に、あなた方が予言に記された方々だと特定されました。そのお話も含めてお伝えしたい事があるのです」

 男は頭を下げる。

「行きましょうか」

 と言うと他の四人は楽しそうにうなずく。


 神殿に到着すると奥へと通され、大きな扉の先へと案内された。

 装飾が施された薄茶色の石壁を、窓から差し込んだ光がほのかに照らす。

「ようこそいらっしゃいました。予言に記された方々よ。私はイグリスと申します」

 両手を広げた神官と思われる者に出迎えられた。

「どういう事だ?」

 タキノがイグリスをにらみながら問う。

「予言とは創世の書に出てくる予言の事で、大精霊が去った後必ず星を渡ってくる者が現れるというものです。そしてあなた達が現れた。それも神殿から発せられる見極めの結界に反応があり、鐘が鳴り響きました」

 イグリスは膝をついてこうべを垂れる。

「俺達がその予言に記された者だとして、だから何なんだ?」

 サイがイグリスへと問う。

「はい、予言に記された方々が現れた時は地下の祭壇に案内するようにと書かれています」

 手で示された先には、地下へと続く階段の入り口が見えた。

 普段は立ち入りを禁じられているのだろう。

 イグリスが入り口へ向かい、その鉄格子にかけられた錠に鍵を差し込んで、ひざまずく。

「これはきっと、私達がシャンバラの子孫という事で結界が反応したのでしょうね。そして地下の祭壇に行けば……」

 と言いかけたところで、後方から勢いよく開かれた扉の音がした。

「おお、この者達が予言に記された者達か」

 先頭を歩くごうしゃな服を着た男がそう言うと、その後ろに十人の騎士が続いて入ってくる。

「陛下!」

 イグリスがそう言って立ち上がる。

「何だ、こいつら」

 タキノは警戒して腰の剣へと手をかける。それを見た騎士は陛下と呼ばれた男の前に出て剣を抜く。

「ほう、やる気か」

 とタキノは目を細めて殺気を放つ。

「ぐっ!」

 とうめごえが聞こえたかと思うと、騎士十名と陛下と呼ばれた男が膝をつく。

 騎士達は何とか立ち上がろうとするが、タキノは更に殺気を強め騎士達はバタバタと口から泡を吹いて倒れた。

 陛下と呼ばれた男は何とか気を保って顔を上げるが、立ち上がる事は出来ない。

「そこまでにしてもらえませんか?」

 後ろからイグリスの声が掛かり、タキノは殺気を収める。

 コウ、サイ、ルカ、ヘルミナは厳しい表情でイグリスを見る。

「陛下はこの国の王です」

「だから何だ? 俺らは、この国の住民ではない」

 サイは睨むようにイグリスを見つめ続ける。

「そうですが、しかし……」

「ならこの国を滅ぼせばいいのかしら」

 とヘルミナが笑みを浮かべる。

「そ、そんな事が出来るはずは……」

「やってみますか」

 とルカが神官を睨む。

「もう良い」

 肩で息をしながら陛下と呼ばれた男がそう口を挟んだ。

「しかし……」

「いいのだ。ワシらは元々予言には関係ない。話を進めよ」

 陛下と呼ばれた男は目をつぶり、息を整える。

「分かりました。こちらへ」

 イグリスは地下へと続く階段を降りていき、俺達も後ろに続く。

 階段を降りた先には広い空間があり、奥に祭壇が見え、その上に黒い石板が浮いていた。

「あちらが祭壇です。私達はここまでしか近づく事が出来ません」

 イグリスはそう言って足を止めたが、俺達は構わずに祭壇へと近づく。

 すると、何かの膜を通ったような感覚がした。

《よくぞ来ました。次元を超えた子孫達よ》

 前方の石板から声が聞こえた。

 祭壇の上に浮いている石板が光り、部屋を明るく照らす。

《ここは道標の惑星であり、最初の道標となります。シャンバラへ辿り着くまでにはいくつもの道標があり、あなた達はそれを辿りシャンバラを目指すのです。そうすればあなた達がなすべき事が少しずつ分かるでしょう》

 すると石板に映像が浮かぶ。

《これが次の道標となる惑星です。目指しなさい。さすればシャンバラへと至るでしょう》

 そう言い終えると石板は光を失う。

「ナブ、映像は記録したか?」

《はい、マスター。記録しました。……探査ポッドからの情報と照合すると、残り三つの惑星の内の一つです》

「そうか分かった。光学迷彩を解いて母船を降下させてくれ」

《はい、マスター》

「行きましょうか」

 と四人に声を掛け、階段を上っていく。


  


 ナルンケ王国、王都ナルカン内神殿前。

 神殿地下から階段を上り、神殿前へと戻ってきた。

 しかし、やりを構えた兵士約二百名と、剣と盾を構える騎士二十名が俺達の行手を阻んだ。

「不届き者達め、止まれ!」

 タキノが気にせず前へと歩み出ながら、周囲に殺気を放つ。

 ひるんだ兵士はあと退ずさりするが、少し離れている騎士が叫ぶ。

「怯むな! 抵抗するなら排除しろ!」

 タキノがニヤリとした瞬間、身体からだがブレ、残像となった。

「シッ!」

 目にも留まらぬ速度で移動して抜剣。兵士の槍数本をたたった。

「ヒィィィ!

 槍を斬られた兵士達は次々と尻餅をつく。タキノが立ち止まって肩に剣を担いで辺りを見渡すと、見られた兵士達はゴクリと唾を飲み込む。

 すると突然、辺りが薄暗くなる。

 兵士の一人が頭上を仰ぎ見ると、巨大な何かが王都の上空に浮いていて、白い石畳の上に大きな影を落とす。

「何だあれは!」

 兵士が指を差して言うと、他の兵士と騎士達も一斉に上空を見上げ、口を開ける。

 しばらく兵士と騎士達が頭上で浮いている巨大な何かを見ていると、そこから人型の何かが排出されてこちらへと降下してくる。

 体高が数mもあるその人型の何かはゆっくりと降下し、兵士や騎士達の周りに着陸した。

 その数六機。

 兵士や騎士達はコウ達に目もくれず、背を向けて大きな人型の何かとたいする。

 その間にコウ達はルカが出した結界に乗り、空中へと上昇していく。

 それに気がついた兵士が声を上げるが、大きな人型の何かが一歩前進すると、兵士と騎士達は後退りする。

 コウ達が上空で停止している母船へと入っていくと、兵士と騎士達を取り囲んでいたアーマー隊六機も母船へと帰還した。


  


 王都ナルカン、神殿内。

「宰相の差金であろうな」

 ナルカン王は苦い顔をしてイグリスに声を掛ける。

を打ちましたな。これでもう彼らはここには戻りますまい」

 とイグリスは諦めの顔をする。

「そうだろうな」

 ナルカン王も苦い顔をして神殿の外へと目を向ける。

「それで地下の祭壇ではどうであった?」

「はい、彼ら全員結界に入る事が出来て、祭壇とその上にある石板が反応し、彼らに何かを啓示したようです」

 とイグリスは中空を見ながら答える。

「そうか、それでは啓示が何だったかは聞けぬの。だがこれで宰相を追い詰める事が出来る。もし彼らがその気になってたら王国は滅亡していただろうからな」

 とナルカン王は神殿を出ると上空を仰ぎ見て、徐々に小さくなっていく巨大な何かをまぶしそうに見つめた。


  


 魔導国エリオリアン、首都エリオン。

「俺は来週からトルドア王国にあるリンドルンガへ行くぞ」

 ドワーフのドラガンは腕を組んで、目の前に座る主任研究員のロランへと告げる。

「トルドア王国とは国交が樹立されたばかりですが、よくトルドア王国行きのチケットを手に入れる事が出来ましたね。でもあったんですか」

 ロランは頭をきながら、そうドラガンに尋ねる。

「ああ、その事か……それはな、コウの名前を出したらすぐに許可が下りた」

「……ひょっとして、コウさんはトルドア王国で有名人なのですか?」

「ああ、ここに飛んでくる飛空艇もコウが作ったものだそうだ」

「な、なんと! あの飛空挺をですか?」

「そうだ。それでリンドルンガにはコウから飛空挺などの技術を受け継いだ者達がいるらしい」

「そうですか。それなら私もリンドルンガへ行く事を検討しなくてはいけませんね」

 ロランは頭を悩ます。


  


 惑星アイア、日本。

いそやま、こっちだ」

 いつは焼肉店の店内に入ってきた磯山を個室へと手招きする。

「遅れてすまない。急用が入ってな」

「お連れのお客様がいらっしゃいましたー!」

「「いらっしゃいませ!」」

 磯山が個室の席に座ると、店員がテーブルにビルトインされている焼肉コンロに手際良く火をけていった。逸見は出ていこうする店員を呼び止め、生中を二つ注文する。

「逸見、それで今回はなんで俺を呼んだんだ」

 磯山は、少しめんどくさそうに逸見にそう問いかける。

「あ~、あのな……」

 逸見が何か言いかけたところで生中が届き、適当に食事の注文をする。

 乾杯をした後に磯山は生中を一口飲んで、再度問いかける。

「それで何だ?」

「ああ、あれだ……婚約した」

 逸見は照れたように生中をゴクゴクと飲む。

 磯山は呆れた声を出して逸見を見る。

「はぁ? こんな時にか?」

「ああ、運命の出会いだ」

 逸見は真剣な表情でそう言うと、そこに注文した上カルビや上ハラミ、オイキムチなどが届く。ふうと磯山は息を吐き出して上カルビを網の上に載せると、そこからジュ~という音がする。

 その音が個室に響きながら、二人の間に沈黙が流れる。

「で、相手は誰だ? 俺の知っているやつか?」

 磯山は諦めたように聞く。

「そ、それなんだがな……ハーフドワーフの女の子だ」

「はぁ!? ドワーフ族の子だと! そういう趣味か?」

「ち、違う! たまたまコウくんの所からアーマー類の整備や運用指導のために派遣されてきた子だ」

 逸見は慌てて訂正するが、磯山はジト目で目の前に座る逸見を見る。逸見の顔は真剣だ。

「はぁ~、そうか逸見……実は俺もエルフの女性と付き合い出した」

「えっ! エルフの女性だと!」

 逸見はテーブルから身を乗り出す。

「そ、そうだ」

めは?」

「ああ、それはな、お前と同じでコウくんの所から魔法指導のために派遣されてな……まぁ、世話をするうちにな……」

 磯山は遠い目をする。

「そうか」

 逸見がそう言うと、二人していきをつく。


 二つ目のみちしるべの惑星軌道上、母船内コントロールルーム。

「目標惑星軌道上へと到達しました」

 とオペレーターが報告する。

 モニターに映るその惑星にはやはり人類種が存在しているようで、一つ目の道標であったトリステアと似たような惑星だった。

「ナブ、探査ポッドからのデータは?」

《はい、マスター。データは十分そろっています》

「そうか、では惑星トリステアと同じような条件に当てはまる大陸と国を選定してくれ」

《はい、マスター》

 ナブが答えると、モニターに選定された大陸と王国が投影された。

 すぐに〝惑星デルマ・アクトリア大陸・アクリア王国〟と表示される。

「今回も惑星名と大陸名、国名が表示されたという事は、ここにも何かがあるのは間違いないですね」

 コウは表示を見ながらそう言う。

「う~ん、一つ目の惑星トリステアとは少し違ったところがあるわね」

「うん? どこですか?」

 惑星のデータを見ていたルカがコウにそう指摘した。

 ルカが端末を操作すると目の前のモニターが切り替わり、データが表示される。

「ここよ」

 内陸のダンジョンや資源で潤っていた惑星トリステアとは異なり、点在する沿岸部の港に停泊している船舶の数が多く、惑星デルマの方がより漁業が盛んである事がうかがえた。

「なるほど、たしかに船舶が多いですね。海に魔獣がいないのでしょうか?」

 コウはデータを見ながらルカに問う。

「そうよ、こっちのデータを見て。ゼロではないけど極端に少ないし、いたとしても何て事ない魔獣ね」

 ルカはモニターを増やして別のデータを表示しながらそう答えた。

「そうか、だからこれから行くアクリア王国も海沿いにあって、栄えているんですね」

 惑星デルマにある王国の分布図を見ながら、コウは納得する。

「特にこれから行くアクリア王国は、海軍の勢力が強くて魔導艦を多く所有しているみたいだから、軍が海を制しているみたいよ」

 モニターが切り替わると、いくつもの魔導兵器を積んだ艦艇が映し出された。

「それなりに魔導工学が進んでいるのかしら?」

 ヘルミナがモニターを見ながらルカにそう問う。

「う~ん、軍艦に関する魔導工学は進んでいるみたいだけど、民間にはあまり恩恵はないようね。海軍とは違って帆船が多いし」

 ルカは新たなデータを確認しつつ、ヘルミナにそう答える。

「後は降りて確認するしかない、という事だな」

 タキノはうれしそうに言うと、コントロールルームを出ていった。

 その後ろにサイが苦笑しながら続き、コウもやれやれと肩をすくめてあとを追う。

 ルカとヘルミナも顔を見合わせると笑い、オペレーターに着陸の準備を任せてコントロールルームを出ていった。


  


 アクリア王国、港町ノリア近郊、海岸。

 コウたちは光学迷彩で隠蔽された小型艦で海岸に降り立った。

 港町ノリアの方を見ると、多くの漁船が停泊している影が遠くに見える。

「とりあえず行くか」

 と楽しそうなタキノを先頭にして歩き始める。

 しばらく歩くと港町の入り口に到着した。特に見張りの兵士もいなく、検問を受けることなく簡単に町の中へと入る事が出来た。

「おっ、あれを見ろよ。日本にあった自動車と似ているな」

 タキノが指し示す車体を見ると、ズングリとした魔導車が港町を走っていた。

 海の景色と調和したれいな港町に似つかわしくないようにも見える。

「きっと船の動力の応用ね」

 ルカが魔導車を見てそう答える。

「ただ、何というか……かっこうだな」

 サイが率直な感想を述べた。

 狭い路地を歩く住民が、魔導車が通るたびに民家の壁に背中をくっつけている。

 まるで戦車が無理に路地を通過しようとするような光景だ。

「ふふふ、そうね。動力の小型化まで進んでいないようね」

 ヘルミナが笑いながらサイに返す。

「何だかチグハグですね。港町の建物は素朴で魔導ランプなどが見られませんし、まるで魔導車だけに魔導工学の技術を応用しているみたいです」

 コウは港町の中を見渡しながらそう言い、限定的に進んだ技術と港町の様子の格差に首をかしげる。

「きっと、他国への情報ろうえいを気にして技術がせいにまで降りてこないのね」

「軍事国家なのでしょうね」

 コウとヘルミナの会話を聞いた他の三人がうなずく。

「ノリアに兵士がいないのは、自信の表れなのかしら?」

「というよりも、ルカが母船で見せてくれたデータだと、この近くには他国が存在しないようだからな」

「たしかにそうね」

 冷静に話すサイの言葉にルカが納得した。

「皆、まずは宿を探しましょう。その後、情報収集も兼ねて散策してみるのはどうかしら」

 とヘルミナが言うと、一行は賛成とばかりに港町の奥へと歩き出す。


  


 アクリア王国、港町ノリア。

 コウ達は宿を取ると、港町を散策した。

 住民達でにぎわう市場の通りに出たようで、潮風の中に肉の焼けるしそうな匂いが漂っていた。

「港町にしては肉類も多いわね」

「そうだな。海の幸も豊富にあるし、どれも値段が安い」

 ルカとサイが市場に並んだ品々を見て、目を輝かせている。

 今は昼時を迎える前のような時間帯で、商店の前に集まる人々が大きな買い物かごを持ちながら、慣れたように買い物をしていた。

「市場に来ている人達も着ている服が上等だし、何より表情が明るいわね」

 ヘルミナは人々を見渡してそうつぶやく。

「ええ、この辺は戦火に巻き込まれる事もなさそうですし、平和なのでしょう」

「そのようね、コウ。ねえ、あれを見……」

 仲間達も少し浮き足立つようで、興味の先を示そうとしたヘルミナの言葉がけんそうの中に消えていく。


  


 アクリア王国、王都アクリアス。

「遺跡にて異変がありました」

「うん? 何が起きている?」

 ごうしゃな椅子に座った男が聞き返す。

「はっ、遺跡の最奥にある祭壇が発光し始めました」

「何! それはまことか!」

「はい」

 と男が頭を下げた。

「口伝は本当の事だったのか? いや、まだ分からんか……王都の各ギルドに通達しろ。見かけぬ者らが訪れたら即刻王宮に連絡せよと」

「はっ」

 男はすぐさま部屋を出ていく。

「ふむ、口伝が確かならば、ちと厄介だのう」

 豪奢な服を着た男は椅子から立ち上がり、顔をしかめながら窓の外を見た。


  


 港町ノリア。

《マスター》

「どうした? ナブ」

かすかですが、シャンバラのものと思われる反応を検知しました》

「そうか、それで場所は?」

《王都アクリアス近郊にある遺跡の奥からです》

「アクリアスの場所は?」

《ここから町を二つと、村を三つ越えた先にあります》

「分かった」

 コウはナブとの会話を切り上げると、仲間達に状況を伝える。

「皆聞いてください。ナブがシャンバラのものと思われる反応を検知しました」

「ほう、それは俺らがこの星に降り立ったからか?」

「その可能性が高いわね」

 タキノの言葉にルカがそう返した。

「コウ、もちろん行くわよね」

「もちろんです」

 ヘルミナにそう答え、ナブから詳細な地図データを手に入れる。

「この地図データから予想すると、ゆっくり行っても七日程度か?」

 サイが無邪気な子供のような表情で、楽しそうに言った。

「おう、何か楽しそうな事が起きそうだな」

 とタキノも笑顔になる。

「ああ、冒険心がくすぐられるというか、地図を辿たどって遺跡を目指すなんて、まさに旅をしているようだからな」

 サイとタキノがニヤッとしながら盛り上がる。

「本当にアンタ達二人は楽観的ね。興味優先で後先を考えないというか……」

 はぁ~とルカはいきをつくと、ヘルミナがまあまあと肩をたたく。

「ふふ、本当にブレないわよね。でも私もワクワクしているのよ。だから、あの二人に代弁してもらっているような、そんな感じかしら」

「ヘルミナがそう言うなら、いいのかしら。まぁ、私も楽しみに感じているし……」

 そんなやりとりを見ていたコウは、ルカが一瞬フライパンを手に取ろうとしていたのを見逃さなかった。

「じゃ、今日は宿に泊まって、明日朝には出発だな」

 タキノは先頭に立って宿へと歩いていく。

 コウとヘルミナは顔を見合わせて苦笑するとタキノの後に続く。

 サイとルカもそれを見て歩き出した。


  


 アクリア王国、王都アクリアス近郊。

「あれが王都か」

「なんかワクワクするな」

 サイが目の前に広がる都市を見ながら、相変わらずタキノが笑顔で乗っかる。

 ルカはそんな二人を見つつ溜め息をついて、

「タキノ、絶対に問題起こさないでよ」

 と言うが、タキノは笑うだけ。

 ヘルミナとコウは顔を見合わせて苦笑しながらタキノ達に続く。

 でも、ルカがフライパンに触れようとしなかったのが、微笑ほほえましくも感じたのであった。


  


 王都アクリアス、王城、アクリア王執務室。

「陛下、高位の魔術師とおぼしき見慣れぬ集団が王都内に入ったと、ただいま報告がありました」

「そうか、監視は怠るな」

 アクリア王は厳しい顔してそう返し、ひざまずいていた男は頷いて執務室を後にする。

「時が動き出したか」

 虚空を見つめながらアクリア王は呟く。


  


 王都アクリアス近郊、古代遺跡。

「こ、これは」

 古代遺跡内の結界に覆われた祭壇を監視する学者達が嘆息する。

 学者達の目の前にある祭壇から光が発せられて、辺りを照らしたのだった。

「これが言い伝えどおりならば、導かれし者が現れたということか……おい! 早急に王へと知らせよ」

「はっ!」

 兵士が駆けていく。

「これが吉兆となれば良いが」

 学者の一人が光り輝く祭壇を見ながらそう呟いた。


  


 王都アクリアス、宿。

《マスター》

「どうした、ナブ」

《シャンバラに関係があると思われる反応が強まりました》

 とナブが報告すると、コウの目の前に古代遺跡上空からの映像が映し出される。

「ここか」

 王都を含めた地図が表示され、古代遺跡までのルートが示される。

「ナブ、全員にこのデータを見せてくれ」

《はい、マスター》

 ナブの声が途切れるとコウは寝転がっていたベッドから起き上がり、部屋を出ていく。

 宿の一階にあるラウンジに下りると、既にヘルミナとルカが席に着いていてナブから届いたデータを検証していた。

「あらコウ、あのデータの件よね?」

 ヘルミナがコウを見つけて声を掛けると、コウも席に座る。

「ナブが送ったデータのとおり、反応に変化があったらしいんです」

 と言い、ウエイターに紅茶を注文する。

「コウ、気がついている?」

「ええ、監視されていますね」

 ルカが小声で言うと、コウは顔色を変えずに答えた。

 そこにサイとタキノもラウンジに下りてきて、同じ席に着く。

「楽しくなってきたな」

 タキノは席に座るなりそう言うと、周りを見渡す。

 横に座ったサイはタキノの態度に肩をすくめると、コウの紅茶を見て同じものを注文した。

「それでどうする?」

 タキノが前のめりに聞く。

「明日朝から行動しましょうか」

 とコウが答えると全員が頷く。

 サイは運ばれてきた紅茶をすする。

「監視しているやつらはどうする?」

「やっちまうか?」

 とタキノが笑顔でサイに答える。

「それは王都を出てから考えましょう」

「コウ、監視するなんて既に俺らに対して敵対しているようなもんだ。やろうぜ」

 満面の笑みでタキノはコウにそう言う。

 すると、ルカの背面からオーラが立ち上った。

 まずい。いや、いつもの事なんだけど、昨日の微笑ましい光景が一気に崩れていく。

「タ~キ~ノォ~」

 ルカがフライパンを握りしめる。心なしか、いつもよりギュッと固く握った音が聞こえた気がする。はぁ……。

 それを見たタキノは「ヤベェ」と言うと慌てて席を離れ、サイとヘルミナが苦笑した。


  


 王都アクリアス近郊。

 コウ達五人は朝早くに宿を出て、シャンバラに関係があると思われる遺跡を目指していた。

「ふわぁ~」

 タキノは目尻に涙を浮かべながら欠伸あくびをし、先頭を歩く。

「ついてきているわね、コウ」

 最後尾を歩くヘルミナが後ろを振り返らずに話し掛ける。

「まぁ、問題ないでしょう。何かしてきてから対処しても遅くないですし」

 とコウが言うと、タキノは任せろと言わんばかりに腰にある剣をご機嫌に叩いた。

 それから一時間ほど歩くと、遺跡が見える所までやってきた。

「うん??

 タキノは何かを感じ取ったのか、遺跡の背後にそびえる二千mほどの山の頂上をにらみつける。

「タキノ、感じましたか?」

「ああ、感じた。こんなに離れてるっつうのに、確実にこっちを意識してやがる」

 コウも山頂を見つめて声を掛け、タキノは目を細めて腰にある剣のつかを握りしめる。

「何? どうしたの?」

 ルカがコウとタキノを交互に見て問いかけるが、二人は声を発さず山頂から目を離さない。

「こ、これか」

 とサイも山頂を見てそう呟くと、ヘルミナも何かに気付いたようだ。

 最後に遅れてルカも何かを感じ取った。

「何かしら? 圧迫感のようなものを感じる?」

「コウ、どうする?」

 タキノは山頂から目を離さずにコウに問いかけると、

「行ってみましょう」

 とコウが答える。

 他の面々も頷いて、止まっていた歩みを再開させた。


  


 王都アクリアス、王城。

「なんだと!? その者らは遺跡には入らずに背後の山へと入ったというのか?」

「はい、陛下」

 報告に来た兵士はかしこまりながらそう答える。

「どう思う?」

「今はなんとも言えません」

 王は隣にいる宰相へ問いかけると、困惑したように答える。

「あの山に何かあったか?」

「いいえ、特に何かあるとは聞いた事がありません」

「あ、あの」

 王の問いに対して宰相が答えると、兵士が口を挟んだ。

「何だ?」

うわさ程度でよろしければ、知っている事があります」

「何でも良い、言ってみよ」

 王が興味を示す。

「一年ほど前からの噂で、あの山の頂上に剣聖が住んでいるとちまたでは言われています」

「剣聖というとアルドか……」と宰相が呟き、

「かの者がまだ存命だと?」と王は首を傾げる。

「生きていれば、とうに百は超えています」

 と宰相も疑念を持つ。

「ええ、ですが商人が剣聖アルドと山頂で食料などの取引をしたとの噂が流れております」

「ふむ、その取引をした商人が誰か分かるか?」

「はい、たしか王都にあるナラガンガ商会の者だったかと」

 と兵士は宰相の問いに答える。

「そうか、誰かその商会に使いをやって事のさいを確かめよ」

 王のその言葉により、兵士は執務室を飛び出していく。

「剣聖と、言い伝えの者達か……」

 王は窓から見える遺跡の背後の山を見つめながらそう呟く……。


  


 アクリアス近郊、遺跡背後の山、頂上付近、タキノ。

 山頂付近から感じる圧は、この先にある。

 チラリと隣を歩くコウを見ると、同じく山頂付近を見ている。

 間違いない。何かがいる。

 後ろを歩くサイを見てみれば、俺らを面白そうに見ている。

 最後尾を並んで歩くヘルミナとルカは楽しそうにしゃべりながらついてきている。

 のんなものだ。この先にいる奴の気配はただものではない。

「あれですか」

 隣にいるコウが前を見たままそう呟く。

 俺も慌てて見ると、たしかにアレが圧の原因だろう。

 殺風景な山頂に冷たい風が吹くなか、座っていた男がこちらに気付いて振り返ろうとしていた。

 近づくと、その男は六十過ぎの老人に見えた。

 山頂の入り口付近に到達すると、ジジイは笑いながら話し掛けてくる。

「カカカ、よく来たな。このおいぼれじじいの圧に負けずにな」

 ジジイは圧を更に強める。

「ジジイはジジイらしく大人しくしていろ」

「ほう、お主もなかなかやりおるのお」

 近づくと、ジジイが目を細めた。

 横にいるコウを見ると、こちらを見ずに頷く。

 フフフ。やるしかねえな。

 俺は一歩前に出ると剣の柄に手をかける。

「カカカ、やる気か」

「おうよ!」

 と答えてやる。

「なるほどのお」

 ジジイは他の面々にいちべつくれると、俺とたいする。

 みんなは少し離れて見守るようだ。

「いつでもいいぞ、かかってこい」

 と楽しそうにジジイはホザく。

 俺はスリ足でジリジリと間合いを詰めながら、ジジイへと向かっていく。

 ふと、空気が澄んだようにかんする。

 瞬間、急激に魔力を身体からだへ循環させて身体強化を発動する。

「シッ!」

 れっぱくと共に抜剣!

 ジジイの魔力が膨らみ、相手も身体強化をしつつ俺の剣に反応する。ほぼ俺と同等の速さでジジイが抜剣。

 キンッ!

 剣同士が当たる音が響く。剣で防がれたというよりも受け流された。かすむジジイの身体を探知魔法で把握しつつ身体を動かす。

「ほっほっほ。この動きに対応するか」

 ジジイは嬉しそうだ。余裕をかましやがって、くそっ。

「くっ!」

 ジジイの剣が視覚を欺き、迫る! なんてジジイだ。頭上を過ぎる刀身を感じながら身体を反転させて剣を横に振るうが、ジジイは剣の到達範囲から即座に離れる。

「ほっほっほ。まだまだ修業が足りんのお」

 ジジイは涼しい顔でこちらを見る。

 俺は魔力を絞り出して身体強化を更に強化する。

 ズンッ!

 踏み込んだ地面が圧に耐え切れずにヒビ割れる。ジジイの余裕の表情を必ず消してみせる。

 が、無情にも剣は空を切る。

「なるほど。気力はワシよりも上か。でものお……」

 ジジイの身体がブレたと思った途端、えた。いや、目での反応が追いつかないんだ。探知魔法でその存在を感知する。

 ギンッ!

 何とかジジイの剣を防ぐ。このままではダメだ。俺はさやに剣を戻し、目をつぶってジジイの気配に集中する。

「そこか」

 俺はジジイの気配を追って抜剣。

「シッ!」

 俺の剣はジジイの上着を軽く切り裂いたが、ジジイは無傷だ。

「ほう! やりおるわ!」

 とジジイはホザいて、更に身体を加速させる。

 こいつ、どこまでが限界なんだ!


  


 山頂、ヘルミナ。

「あのおじいさん、私達よりも魔力は低いけれど、探知や魔力の使い方がすごいわね」

 目の前で繰り広げられるけんげきは予想を上回る情景だ。あのタキノが翻弄されている。

「ああ、あの爺さんは必要な時に必要なだけの魔力をまとっているな。このままではタキノの方が先に魔力が尽きる」

 サイが隣で冷静に分析する。

 目まぐるしく展開される剣戟に目が離せない。その後に数合、剣を合わせるとお爺さんが足を止めて少し離れたところからこちらを向く。

「して、お主らはここへ何しに来た?」

 少しニヤつきながらそう尋ねてきた。

 コウと私は顔を見合わせる。

「少し不自然な気配を感じたから、ここに来たのよ」

「そうかそうか」

 お爺さんは楽しそうだ。それに比べて対峙するタキノは肩で息をしていて、お爺さんを睨んでいる。彼が魔力を使い果たしたら、きっと……。

「もう行くのか?」

 お爺さんは少し寂しそうに言う。

「ええ、麓の遺跡に用事があるので」

「ふむ、ワシもあの遺跡には何度か入った事がある。これも何かの縁よのお、案内するぞ?」

 と言って剣を収めて山を降り始めた。

 それを見たタキノは見るからに不満そうだ。

「チッ!」

 剣を収めるとタキノが後に続く。

 サイとルカはどこか楽しそうにタキノの後を歩いていく。

 コウを見ると彼も肩をすくめて苦笑し、後に続いていった。


  


 王都アクリアス近郊、遺跡入り口。

「ここが遺跡の入り口じゃ」

 アルドが指を差す。

「入り口には誰もいないな」

「中におるじゃろ」

 サイが入り口を見ながら言うと、アルドがそう言って歩き出した。

 かなり大規模な遺跡らしく、地上には建物の土台しか残っていないが、地下部分へと続く入り口は大きく、石造りの階段が地下へと続いている。

 コウ達が遺跡内に入っていくと、通路にはあかりがたかれていて明るい。しばらく歩いていくと数名の兵士が大きな扉の前で警備をしていた。

「あそこじゃな」

 コウが頷く。

 扉の前に着くとすぐに兵士達は道を空ける。タキノが扉に手をかけて開くと、中には一つ目の道標の星トリステアにもあったような祭壇と宙に浮かぶ石板が見えた。

 コウ達が祭壇に向けて歩いていくと、アルドが何かに阻まれて立ち止まった。

「むう、ここまでか」

 コウ達は気にも留めずに祭壇に近づく。

《よく辿り着きました。次元を超えた子孫達よ。私はシャンバラ、あなた達を導くもの》

 と声がすると、石板が輝いて映像が映し出される。

 そこには次に目指すべき星の映像と座標が示された。

「次はここに向かえばいいのか?」

《そうです。辿っていけば全てが分かるでしょう》

「ナブ、映像は記録出来たか?」

《はい、マスター。記録出来ています》

「了解した」

 コウはナブとの通信を終えると、全員を見回す。

「母船に戻りますか」

 全員が了承する。

「用事とやらは終わったのかのお」

「そうね。終わったわ」

「して、お主らはどこへ向かう?」

 アルドがそう聞くと、サイは空を指差した。

「空か……ワシも行くかの」

「それはいいわね。タキノ、良い遊び相手が出来たじゃない?」

 ルカが意地の悪そうな顔でそう言う。

「チッ」

 タキノは舌打ちをすると、面白くないという顔で先頭を歩いていく。

 遺跡の階段を上りながら、アルドにサイが近づいて話し掛ける。気になっていた事がある様子だった。

「爺さんは魔法を使えるのか?」

「いや使えんのう」

「ふむ、あれだけの魔力があれば使えると思うのだがな」

 サイは何かを考えるようにそう呟く。

「ワシはな、あの詠唱というものが煩わしくての」

「うん? 爺さん、魔法に詠唱は要らないぞ」

「何だと! 詠唱は要らんのか?」

「ああ、要らないな」

 サイは当然のように答える。

「そうかそうか。それは良いことを聞いた」

 爺さんはご機嫌でコウ達の後ろを歩いていく。

「ふふ、面白くなりそうね」

「タキノは大変だと思うけどね」

 とルカは先頭を歩くタキノを見ながら答える。


  


 母船内、拡張空間。

「ぬうっ!」

 タキノは爺さんの剣をけると身体強化を更に重ねる。

「ほっほっほ」

 アルドは楽しそうにタキノの進行方向に結界を展開すると、タキノがそれを探知して剣で破壊するが、その一拍の遅れにより接近を許すとアルドの魔力を纏った剣がタキノへと迫る。

「くっ!」

 タキノはうなりながらも結界を斜めに配置して何とかアルドの剣を受け流す事に成功する。

「ほっほ、ここまでじゃの」

「チッ! 届かねえ」

 アルドは剣を担いで笑顔でそう言うと、タキノは肩で息をして地面に座り込んでしまった。

「爺さん、次は俺とやってくれ」

「お前さんはサイと言ったか。よかろう」

 アルドは構えて走り出す。身体強化をフルに使い、通常では見えない移動を繰り返す。

「ギリギリか」

 サイはそう呟きながら火のやりを二十個展開させ、探知したアルドの動きを予測した移動先へと打ち出す。

「ほっほ」

 アルドは相変わらず楽しそうだ。急激に進路を変更し、身体強化を瞬発的に発動させて、あっという間にサイの懐へと潜り込む。

!!

 サイは距離を取ろうとアルドの前へと結界を展開させるが、アルドはその結界を難なく破るとサイの腹を蹴り上げる。

「ぐうっ!」

「まだまだだの」

 サイは唸りながら地面を転がり、アルドは剣を担ぎながら大の字に寝転がるサイを見つめる。

「すげえな」

「タキノさんとサイさんが、あっという間に」

 タキノが率いるアーマー隊のパイロット達が騒ぎ出す。

「あなた達も爺さんに鍛えてもらったらどうかしら?」

 ヘルミナがそう言うと、隊員達が次々にアルドへ挑んでいく。

「ふふ、これでレベルがかなり上がるわね」

「最近のタキノは鼻が高くなっていたからいい気味だわ」

 とルカが笑う。

 それから、剣聖アルド・ミラーはサイから魔法を習い、それを剣技へと昇華していった。


 数日がつと、

「ワシ、強くなったの」

 とアルドは自分の手を見つめて呟いた。

 その後もアルドは貪欲にシミュレーターでのアーマー操作や、タキノ、サイ、隊員達との修練を重ねていく。


  


 母船、宇宙空間。

『アルドさん、宇宙空間での初めての訓練ですから慎重に』

 母船からの通信がアルドの機体へ入る。

「分かったの」

 嬉しそうにアルドは操作レバーを握る。

『では訓練を開始します』

 という通信が入るとアルドの機体の周りにターゲットが現れ、アルドは機体を操作して装備している剣で破壊していく。

 一分も経たないうちに十のターゲットは破壊され、破片が空間を漂う。

『ターゲットの破壊を確認しました。アルドさん、母船に帰投してください』

「なかなかだな」

「ああ、悔しいが魔力操作が精密で緻密だ」

 母船のコントロールルームで訓練を見ていたタキノは顔をゆがませながらサイに答える。

「コウとまではいかないが、あの魔力操作は勉強になる」

「悔しいがな」

 サイは真剣な顔でモニターを見つめ、タキノはコントロールルームを後にした。


「ふう」

 ルカが拡張空間に出て伸びをしていると、ランニングコースでタキノが黙々と走っていた。

「ふふふ、タキノには良い刺激になったわね」

 ルカは楽しそうタキノを見つめる。

「今晩のメニューはカレーにでもしようかしら」


 三つ目のみちしるべの惑星軌道上。

「目標の惑星軌道上へと到達しました。表示された惑星名はアルコリアスです」

「探査ポッドを射出してちょうだい」

「了解しました、ルカさん」

「コウ、まずは情報収集ね」

「ええ、頼みます」

 と言ってコウはコントロールルームを出ていく。

 食堂に入ると適当な席へと座り、給仕ポッドにハーブ茶をリクエストする。

「あら、コウ」

 そこにヘルミナが現れてコウの対面に座り、コーヒーを注文をした。

「ヘルミナの研究はどうですか?」

「あまり良くはないわね。情報が不足しているわ」

「そうですか、今までの星の情報は集まってきてますか?」

「まぁ、その辺は今でも探査ポッドから情報が流れてくるから、だいぶそろってきているわ。私の推測だけれど、シャンバラへと近づくほどに惑星の問題点が改善されているように思えるの」

 コウは首をかしげる。

「私たちが最初に次元転移した星には魔獣族がいたわよね。ナブの分析結果で分かったんだけれど、この種族は突然変異で生まれたものだそうよ。通常は魔獣のトップが魔獣王と呼ばれるのだけど、高濃度の魔力を浴びて、かつレベルの高い個体が更に変異して、その魔獣の中から魔獣王という特殊個体になるわ。その特殊個体の魔獣王が生まれると、魔獣は凶暴性が増して他の種族を滅ぼそうとする。けれど、一つ目の道標の星はダンジョンによって魔獣の発生が抑えられていた。二つ目の惑星も同じだったのよね」

「なるほど。では、シャンバラが道標の星々を実験場にしているという考えはどうでしょう?」

「そうね。そうとも言えるわ。一つ目の惑星では陸上にのみダンジョンがあったけれど、二つ目の道標の星では海の中にもダンジョンが存在していた。もちろんどちらの惑星でも魔獣に脅かされている様子はなかったわよね」

「そうすると、この三つ目の道標の星アルコリアスでも、何かしらが改善されているのかもしれませんよね……」

「そうだと思うわ」

 ヘルミナはしそうにコーヒーを飲む。

「でもおかしくないでしょうか?」

「?」

「もしですよ、私達が『見放されし子孫』と言われたように、次元転移する前の先祖達が理想郷となる惑星を創り上げようとして辿たどいた先の惑星がシャンバラであると仮定したら、旅立ってからかなりの年月がっているはずです。何代にもわたって惑星で文明を築き上げ、理想の環境に近づけようとしていたのなら、今まで訪れた道標の惑星の文明はもっと進んでいるはずだと思うんです」

「たしかにね。その辺は情報が足りないわね」

 コウは三つ目の道標の星が映るモニターを眺めていきをつく。


  


 三つ目の道標の星、近くの宇宙空間。

 ピピピピ……。警告音がコックピットに鳴り響くが、アルドはそれを無視して機体を操作する。

「ぐうっ!」

 タキノは重力コントロールが効く前に強引に機体の軌道を変えると、アルドが駆るアーマーをモニターの中心に捉える。

 アルドはARで表示された刻々と移り変わるデータを見ながら、タキノがこちらの機体を捉えた事を感知して機体を操作し、標準装備である結界をタキノの機体が動く先に置いていく。

 最短を飛行するタキノの機体は不意に衝撃を受けて失速した。

「な、なんだ!?

 タキノはAR情報を確認して舌打ちし、体勢を崩した機体を制御する。

 ピピピーピー!

 タキノの機体内部に警告音が鳴ると、正面モニターに撃墜されたと表示される。

「チクショー!」

 タキノは悔しがり、唇をんだ。

『タキノさん、帰投してください』

 母船のコントロールルームより指示が出され、タキノは渋々ながら帰投した。


  


 母船コントロールルーム。

 タキノとアルドの模擬戦の結果がモニターに映し出され、他の仲間達がデータを見ながら驚いていた。

「しかし、あのじいさんには驚かされるな」

「ふふ、タキノには良い薬よ」

「あれは経験の差ね」

「そうですね。たしかにタキノの方が魔力量は多いのですが、魔力操作の精度と戦闘の経験値の差が顕著に出ています」

「最近は爺さんの魔力量も増えてきているしな……」

 サイはモニターを眺めながら溜め息をつく。

「でも確実に私達の糧となっているわ」

 ヘルミナがそう言うと他の面々がうなずく。


  


 惑星アルコリアス、ダランチ大陸上空。

『大気圏突入。問題なく降下中』

 軽い振動と共に小型宇宙艦が降下していく。

『目標地点、上空一万m。飛空挺発進してください』

「こちら飛空挺、了解した」

 とサイが答えると飛空挺は小型宇宙艦から飛び出していく。

「あれか?」

「そうですね。あれが目標のランチェスト王国です」

 問題なくランチェスト王国の王都ランチェス近郊に飛空挺を着陸させると、一行は王都を目指して歩き始める。

「ここはどんな王国なんだ?」

「そうね、探査ポッドの情報によると今までの星で一番文明が進んでいるわ」

 タキノが頭の後ろで腕を組みながら聞くと、ヘルミナがそう答えた。

「魔導工学が発達していて、私達が住んでいた星よりも少し進んでいるそうよ」

 とルカが補足する。

 しばらくすると丘の上に到達して王都の全貌が見えるようになる。どうやら高い壁に囲まれてはいないようだ。

「壁がないな」

「うん、どうやらスタンピードが起きないようなのよ」

「どうなってんだ?」

 とタキノが疑問を口にすると、ルカが答えた。

「基本的には魔獣の類いはダンジョンでしか出現しないし、その魔獣も階層を越える事が出来ないみたいね」

「じゃあ、討伐を怠ると階層は魔獣でびっしりと埋まるのか?」

「それがね、敵対する種族の魔獣同士が同一の階層に複数いて、食い合う事で数が一定に保たれているようなの」

 とルカが答える。

「はぁ、それはシャンバラくせえな」

「多分そうでしょうね。人為的な管理の痕跡みたいなものです。目的を果たそうと実験していたようにも見えます」

「それで目標は?」

「王都の真ん中よ」

「何かめんどくせえな」

「はは、いつもの事だ」

 とサイはタキノの言葉に笑顔で返す。

「さあ、行くわよ」

 ヘルミナの言葉で一行は王都へと向けて歩き出す。


  


 王都ランチェス、王城、王の執務室。

「反応があったと?」

「はい、祭壇が動き出したと教会が騒いでおります」

「まさかとは思うが、あの予言書は本物だったと?」

「それは分かりませぬ」

「いずれにしても厄介な事よ」

 と王は腕を組んで考え込む。


  


 王都ランチェス、中央教会。

「やはり変わらぬ状態か?」

「はい、祭壇が起動して近づけなくなりました」

「予言の者達が近づいているのか?」

「そ、それは分かりません。ですがたしかに祭壇は起動しています」

「うむ、ここ中央教会周辺と街道につながる王都入り口に人員を配置しろ。不審な者を捜すのだ。王国に後れをとるな」

「はっ」

 と男は部屋を出ていく。

「予言の者か、楽しみよのう」

 と教皇はワイングラスを回して笑う。


  


 王都ランチェス。

「つけられているな」

「ええ、入り口からずっとですね」

「やるか?」

 タキノが剣のつかに手をかける。

「まだよ。まったくあんたは……」

「ふふふ、面白くなってきたわね」

 コウ達一行は王都ランチェスに入り、大きな商店街を歩いている。

 道の左右には商店が並び、この一帯は食料品を主に扱う商店が並んでいる。人も多く、店員と客が値切り交渉で盛り上がっている。

「それにしても活気があるな」

「そうね。流石さすがは王都ということかしら」

 サイが辺りを見渡しながら言うと、ヘルミナも左右の商店を見ながら返す。

「あちこちに監視しているやつがいるわね」

「ええ、また祭壇に何かあったのでしょう」

「早く襲ってきてくれねえかな」

「手加減はしろよ」

 タキノが楽しそうに言うと、サイが溜め息をつきながらそう言った。

 少し進むと円形の広場に出た。目の前には大きな教会があり、何やら教会の関係者と思われる者達が教会前にずらりと並んでいるのが見える。

「あら、歓迎してくれるのかしら?」

「嫌な予感しかしねえな」

「同感ね」

 とタキノが前をにらみながら答えると、ルカが同意した。

「どうせあそこが目的地なんです。行くしかないですよ」

 コウは気にせず歩いていく。その後ろをサイはハァ~と息を吐いてついていく。

「ふふふ、何かあちらが可哀かわいそうね」

「違いねえ」

「結界を張るわね」

 とルカが言うと全員の周りに結界が展開される。

 更に歩を進めると、待ち受ける者達とたいする。

「これはこれは、いにしえの世から伝わる予言の者達よ。よく来てくれた。私達はあなた達を歓迎する」

 ごうしゃな服を着た者が手を広げておおに話し出した。

「是非、我々に手を貸していただきたい。ここ王都ランチェスにある教会はレオナス教の本拠地であります。神の使徒であるあなた方の教えを請いたく、待っておりました。是非是非、我らをお導きください」

 その者達は頭を下げるが、コウは口角を上げてニヤリとした。

「我々は神の使徒ではありません。通してもらいます」

 コウがキッパリと断り、教会の入り口に向かって歩き出す。

「そ、その方ら、無礼であろう! こうして教皇様が頭を下げているのだ。言うことを聞け!」

 教皇の隣の者がそう言うが、構わずにコウ達は前へと進む。

「こ、これ! 止まらぬか!」

 教会を守る衛士達がやりを向けるが、コウ達は関係ないとばかりに歩いていく。すると槍が結界に接触してはじかれるように飛んでいった。

!!

 衛士達は驚いて尻餅をつく。

「ルカ、祭壇の場所どこでしょうか?」

「地下ね。教会に入って正面に地下へ下りる階段があるわ」

「ええい! 何をしておるか! その者達を捕らえるのだ」

 と教皇がわめすが、コウ達は構わずに教会の中へと入っていく。

 中に入ると地下に下りる階段前には衛士が二十名ほどいて槍を構えていた。それを見たタキノが前へと出ると、

「死にたい奴はどいつだ?」

 と殺気を飛ばす。

「ヒッ!」

 殺気を飛ばすタキノに、衛士達があと退ずさる。

 それに構わずタキノは更に前に出る。

「ええい! お前達、何をしておるか! この者らをひっ捕えよ!」

 衛士の中でも偉そうな者がそう声を上げるが、衛士達は腰が引けて前に出られない。

 そこに、階段下から銃と思わしきものを持った者らが衛士達の前へ出る。

「魔導銃隊前へ、構え!」

 という言葉と共に魔導銃を持った十数人は銃口をコウらに向ける。

「その者らよ! 抵抗は無駄だ! 速やかに投降せよ」

 魔導銃隊を率いる者がコウ達へと声を掛けるが、タキノは止まらない。

「止まれ! 死にたいのか!」

 と必死に魔導銃隊を率いる者は言うが、タキノは笑みを浮かべて関係ないとばかりに前へと出る。

「ええい! 構わぬ! 撃て!」

 という号令と共に魔導銃が一斉に放たれた。しかし、全てルカの結界に阻止される。

「な、何!」

「今度はこっちの番でいいな」

 そう言った瞬間、タキノの身体からだが消えた。

 するとあっという間に魔導銃を持った者ら十数人が崩れ落ちた。

「ああああ!」

 魔導銃隊を率いる者も後退ると、同時に意識を失って倒れ伏した。

 タキノは身体強化をやめて槍を構える衛士達の前へとやってくると、

「どけ!」

 という言葉で衛士達は道を空ける。

「ふふふ、タキノも腕を上げたわね。これも剣聖爺さんのお陰かしら」

 ルカがそう言いながらタキノの後に続いて階段を下りていく。これにコウ、サイ、ヘルミナが続いた。階段を下りた先には、今までの道標の惑星でも見た祭壇と変わらぬものがあった。

 やはり何の抵抗もなく祭壇の結界を抜けると、

《よく辿り着きました。次元を超えし子孫達よ。私はシャンバラ》

 との声が響き、祭壇の上に映像が映し出される。

《これが最後の道標の星です》

 その惑星の映像と、その場所が映し出される。

《最後の星はある意味で到達点の一つとなります。よくて判断し、シャンバラへと辿り着いてください》

 という言葉と共に映像が消えて結界も消える。

「ナブ」

《はいマスター》

「今のを記録出来たか?」

《はい問題ありません。照合結果も出ています。以前にこちらでも確認した惑星で間違いありません》

「分かった。今から戻る」

《はいマスター》

「行きましょうか」

 コウは他の四人に声を掛けると、下りてきた道を引き返す。

 階段を上り切ったヘルミナが入り口を見て溜め息をつく。入り口の前には衛士数十人の他に魔導銃を持った者が、これも数十人はいた。

「懲りないわね」

「今度は俺がやるか」

 とサイが楽しそうに前へと出る。

「任せました」

 サイの周りに五十を超す火の玉が浮かび上がる。それを見た衛士や魔導銃兵を指揮する者は焦るように指示を出す。

「撃て!」

 一斉に数十を超える銃口から魔導弾がサイへと向けて放たれる。

 サイは魔導銃のごうおんと共に、

「フンッ!」

 と右手を一振りすると魔導弾は何かに捕らえられたかのようにサイの手前で宙に浮く。そしてもう一度サイが右手を振ると魔導弾は全て床にこぼれ落ちる。

「さて耐えられるかな」

 サイは左手を振るうと一斉に五十の火の玉が衛士と魔導銃兵に降り注ぐ。

「うわぁぁ!」

 火だるまになった衛士と魔導銃兵が床を転げ回り、なんとか服に着いた火を消そうときょうかんとなっている。

「さて行きましょうか」

 コウ達は教会を出ていく。


 トルドア王国、リンドルンガ上空、浮遊島。

「ここが浮遊島か」

「ふう。空を飛ぶのは慣れんな」

 ドラガンとロランは飛空挺から降り立ち、横に並びながら周りを見る。

 すると青年が声を掛けてきた。

「ええと、ドラガンさんとロランさんですか?」

「ああ、そうだが」

「こちらです。このファントムでの移動となります」

「ほう、これはまた」

 ロランは移動用のファントムを見てうなる。

「これらは普通に平民でも買えるのか?」

「はい、そうです。誰でも購入可能ですね。他にも冒険者用の戦闘タイプなんかもありますね」

 ドラガンの質問に青年は気軽に返す。

「その戦闘タイプとやらは見る事は出来るか?」

 ロランが興味津々とばかりに尋ねる。

「下のリンドルンガで普通に販売しているので機会があれば見れますよ。あとはそうですね、ドラガンさんとロランさんには許可が下りると思うのですが、コウさんたちが使っている初期型の魔導兵器も見る事が出来ると思いますよ」

「それはここにあるのか?」

「はい、この浮遊島にあります」

「それは楽しみだ」

 そう言ってドラガンは目を輝かせる。


  


 惑星アイア、日本。

 いつ寿さんの店内に入ると、いそやまを捜した。

「逸見!」

 奥のカウンター席から磯山の声がした。逸見は磯山の席の隣に座ると、用意されていたコップにビールが注がれる。

「まずは乾杯だ」

 乾杯をしてビールを飲み干す。

「週末に飲むビールはいな。それで何用だ?」

 と逸見は磯山を見る。

「ああ、それがな。エルフの子と別れようかと思ってな。お前もドワーフの子と婚約しているから分かるだろ? エルフもドワーフも寿命が長いから、どうしても不安を拭えなくてな」

「その事か」

「その事だ」

 と逸見は真剣な顔をして磯山を見る。

「愛する者を残して俺達が先に死んでしまうのもな」

 と逸見はビールを飲む。

「その事なんだが、磯山はエルフの子に聞いていないのか?」

「何の事だ?」

「ドワーフの彼女に聞いたんだがな。地球人は元々魔力をあまり持っていなかったんだ。それが最近は魔法を習う者が増えただろう?」

「それは知っている」

「それがな、魔法を習う事によって人間も魔力量が増えるのだそうだ。魔力が増える事によって寿命が延びるんじゃないかと言われている」

「はっ? 寿命が延びるだと」

「そうだ」

 磯山はまだ信じられないとばかりにビールを飲み干し、酔いの助けを借りるように追加のビールを頼んだ。

「それはどれくらい延びるんだ?」

「長ければ二百歳くらいまで延びるらしい。さらに最近は魔法を習った女性が若返った、なんて話もあるらしい」

「そうか、そんなにか」

 すっかり顔が赤くなった磯山は目を輝かせて追加のビールを飲み干す。

「大将、二人前お任せで握ってくれ」

「あいよ」

 夜が更けていく。


 四つ目のみちしるべの惑星、軌道上。

「目標惑星の軌道上に到達しました」

「ルカさん、惑星へ飛ばしていた探査ポッドから、データが送られてきました」

「何かしら?」

「この惑星のデータです。モニターへ表示します」

「……惑星名はライオス、それに惑星のデータもあるわね」

 ルカはデータを見つめる。

「なるほどね。基本的に地上には魔獣類が存在していない……そして争いも無い。すごいわね……武器類もほとんど存在しないと」

 すぐにコウがルカのもとへやってきた。

「ナブに呼ばれてきましたが、四つ目の惑星はどうでしょうか?」

「コウ、これを見てちょうだい」

「なるほど。各地に魔力を浄化させる塔を建て、地下からの魔力を吸い出して稼働させていると……ほとんどの魔導技術は生活に役立つものか、生産加工に必要なものしかないのですね」

「そうよ、コウ。魔導コンバインとか移動用の魔導車とかね。それに生活を豊かにする魔導具類も充実しているわ。魔導コンロ、魔導冷蔵庫、魔導ライト、魔導水道に処理施設も魔導化して完璧ね。稼働に必要な魔力は街ごとの塔で地下から集積して、各家庭に分配しているわ」

「工場から排出される有害なものも魔導具で浄化している……凄いですね」

「本当に凄いわ」

「でも、何で争いが無いんでしょうか?」

「それはね、コウ。これを見て」

「ん? 生まれてすぐにDNA検査をして選別している?」

「その選別とやらで過激な分子をはじいているのよ」

「………」

「でもこれは私たちが目指しているものではないわね」

「そうですね。何と言いますか……豊かで住みやすい惑星だとは思いますが、もはや人工的に管理された過剰な世界ですよね。シャンバラが惑星を実験地としていたのなら、やりすぎなのではないでしょうか。それで次に行く惑星の道標は見つかりましたか?」

「表示します」

 とオペレーターが言うと、目の前のモニターに道標となる次の行き先が映し出される。

「海の真ん中ですか」

「それも、隠蔽されていて誰も近づけないみたい」

「ルカ、とりあえずその上にある島へ降りてみましょう。他の皆にも伝えてください」

「了解よ、コウ」


  


 道標上空。

「目標上空へと到達しました」

「了解しました。皆降りますよ」

 サイ、タキノ、ルカ、ヘルミナがそれぞれ応答した。


ひどく小さな島だな」

「あそこかしら」

「それっぽいな」

「行きましょうか」

 コウを先頭にして歩いていくと、その遺跡には海中へと続く長いせん階段があった。

 壁に沿うように続く階段の先はほの暗く、光魔法で照らしながら階段を下りていく。

 階段を下り切ると少し開けた空間に出た。目の前には大きな扉がある。五人は目配せしてうなずき合うと扉へ近づく。

「開けるぞ」

 サイが扉に手を掛けようとすると、その扉は勝手に開いた。

「中は暗いわねえ」

「行きますよ」

 部屋の中に踏み出すとほのかな明かりがともり、目の前に祭壇が光り出した。

《よく辿たどきました。次元を超えし子孫達よ》

 と声が聞こえるとコウ達は祭壇の前まで進む。

《ここが最後の道標の惑星となります。あなた達が辿ってきた惑星は遠い祖先が試行錯誤した跡です。そして、この先にあるシャンバラの礎となった星々です》

 少し間があり、祭壇の上にシャンバラへのルートが浮かぶ。

《これがシャンバラ惑星系です。どうぞシャンバラへと辿り着きなさい。シャンバラは必ず、あなた達を歓迎します》


  


 惑星ライオス軌道上、母船内コントロールルーム。

「次目標であるシャンバラ惑星系までのルートを表示します」

 オペレーターがそう言うと、目の前の大型モニターにシャンバラへと向かうためのルートが映し出される。

「ルカ、どれくらいの行程でしょうか?」

「そうね、問題が無いとしても通常航行で六ヶ月といったところね」

「その間は時間が取れますね」

 コウが何かを考えるようにそう言った。

「何かあるのかしら?」

 とヘルミナが聞く。

「ええ、アルドさんの専用機でも作ろうかなと」

おもしれえじゃねえか」

「それで対等だな」

 タキノとサイが目を見開いた。

 ルカとヘルミナは顔を見合わせて苦笑し、コウは楽しそうに微笑ほほえむ。

「準備はいいですか?」

「はい、準備はOKです」

「ではシャンバラへ向けて発進してください」

「シャンバラへ向けて発進します」

「発進します」

 とサブオペレーターが復唱する。


  


 母船内工房。

「アルドさん、仕様はこれで問題ないでしょうか?」

「うむ、問題ないのじゃコウ」

 アルドは満足そうに笑顔を浮かべた。

 工房の中は慌ただしくなり、通常型のアーマーが一機引っ張り出されて固定され、これがアルドの専用機のベースとなる。

 次々に外装ががされ、用意された兵装や部品が取り付けられていく。

 今回のアルド専用機の概要は、通常機をベースとしつつも改造前と比べて出力は一・五倍。通常二本装備される魔導ビームサーベルは一本で、追加で専用実剣が一本装備される。

 この実剣にはギミックが搭載されていて、超高振動ブレードと呼ぶことにした。

 他の改造箇所は、通常機に比べて魔導スラスターの数が倍。最大推進速度も倍となっていて、超高機動型近接戦闘タイプとなっている。

 作業が進むさまを見るアルドの顔は無邪気な喜びに満ちている。


  


 母船内コントロールルーム。

「これでシャンバラへの行程は五分の一進んだわ」

 ルカがシャンバラへと向かうルートを示すモニター見ながらそう話す。

「了解です。この辺りで演習に適した場所はないでしょうか?」

「そうね、ここなんてどうかしら」

 モニターがクローズアップされ、シャンバラへのルート上の一箇所が示される。

「なるほど、たしかに周りに何も無い宙域でぴったりですね。それでは、その宙域で演習を行いましょう」


  


 演習予定宙域。

 数日がって演習予定宙域へと到達し、演習準備に入った。

『アルドさん、準備はどうですか?』

「準備はいいぞ」

 専用アーマーのコックピットで上機嫌に剣聖アルド・ミラーが答えた。

『始めにこちらで用意したターゲットへ最初に遠~中距離攻撃で、次に近接で攻撃してください』

「了解じゃ」

 オペレーターの指示にアルドは短く答える。

『では射出します』

「アルド・ミラー、出る」

 操作水晶を操作してメインスラスターを全開にし、アルドの専用機は星々が光り輝く宇宙空間へと魔力の尾を引いて力強く飛び出していく。


 シャンバラへのルート上、演習宙域。

 白く塗装された機体が宇宙空間を縦横無尽に駆け抜ける。

 アルド専用機のベース色は白で、縁取りに銀と黒があしらわれている。

 アルドは刻々と変化する周辺状況データを目の端で確認しつつ専用機を操縦していく。

 通常機よりも多く追加された姿勢制御用のスラスターを確かめるように操作して機体の姿勢を変えていく。

 腰背部に装備された魔導ビームライフルを手に取ると、ライフルを構えて機体を回転させていく。その回転に合わせるように魔導スラスターから伸びる魔力の尾はせんを描く。

 試験プログラムに沿った機動試験があらかた終わった頃。

『アルドさん、機体に問題ないかしら?』

 とルカから通信が入る。

「問題ないのお。順調じゃ」

 と楽しそうに応答する。

『そう、では次の試験に移るわ』

「了解じゃ」

 とアルドは言うと、機体に魔導ビームライフルを持たせる。

『始めるわよ』

「うむ」

 アーマーと同じ大きさのデコイが母船から放出され、膨らみ切ってアーマーと同じ形態となる。アルドは機体を操作してモニターに映るレティクルにデコイを合わせると、トリガーを引いた。

 ズンズン。

 とビーム照射の反動で響くようにデコイが破裂する。更にデコイが放出されるとそれらも丁寧に照準、射撃して撃破していく。

『問題ないようね。次は近接ね』

 ルカの言葉と共に新たなデコイが放出されると、アルドは機体のメインスラスターを全開にしてデコイに近づいていく。

 何回か目のスラスター操作でのアジャストを行い、腰部に装備した専用機専用実剣を抜剣。

「シッ!」

 アルドのれっぱくと共にデコイが上半身と下半身が分かれ、アルドは次のターゲットへと向けて機体の制御を行い次々とデコイをその実剣で斬り裂いていき、最後のデコイが破壊された。

『OK、アルドさん。最後の試験に移るわ』

 その通信と共に母船から次々とアーマーが飛び出してくる。

『アルドさん、兵器モードを模擬戦に切り替えて』

「了解じゃ」

 アルドはパネルを操作して兵器モードを模擬戦モードへと切り替える。

『ジジイぃ! 覚悟しろよ』

 通信機からタキノの声が響く。

「ほっほっほ、出来るかのう」

 アルドは挑発するようにタキノに返す。


  


 タキノ、アルドの両アーマーのメインスラスターが全開に吹き上がり、宇宙を駆ける。長く伸びたスラスターの魔力のざんが交差すると、宇宙空間に火花が散った。

 更にタキノの機体は大きな円弧を描き、速度を殺さないままアルドの機体へと回頭していく。

 アルドの機体は通常機よりも多く追加された姿勢制御用のスラスターを駆使し、円弧を小さくまとめて旋回を成功させる。

 アルドの機体はタキノの機体よりも早く相手を捉え、軽々と制御してタキノの機体の側面に剣を振り抜く。

 タキノはすぐに回避を選択するが速度に乗りすぎていたために回避が遅れ、すれ違いざまに機体にけんげきを受ける。

 ビー!

『タキノ! 撃墜よ』

「くっ!」

 タキノの悔しそうな声が漏れる。


  


「次は俺だな」

 サイの機体が前に出て、互いの機体が少し離れた位置に着く。

『それではサイ対アルドさんね。始め!』

 とルカの声が通信機に響く。

 アルドは機体のメインスラスターを全開にしてサイの機体へと突貫する。

 対してサイは狙いを絞らせないように機体をジグザグに飛行させて魔法を準備していく。

 先手はサイ。魔法の準備が整うと光の矢二十を機体頭上に展開。それをアルドの機体目掛けて放つ。

 アルドの機体を二十の光の矢が襲うが、アルドはデータをモニターで確認しながら丁寧に機体を操作して紙一重でそれらをかわしていく。

「やるな、流石さすがの魔力操作能力だ。状況判断もすごい」

 サイは感心しつつも次弾の魔法を構築して近づくアルドの機体に狙いをつける。

 アルドは次弾の魔法がサイの機体の頭上へと展開するのを確認すると、スラスターを駆使して姿勢を制御し、サイの機体の死角へと機体を滑り込ませる。

「くっ!」

 サイは機体を操作してアルドの機体を捉えようとする。だがアルドは機体を加速して更にサイの機体を回り込む。

 アルドの身体からだに高Gが一瞬襲いかかるが、本人は気にも留めずにメインスラスターを限界まで加速させてサイの機体に肉薄する。

 サイは機体のアラームによりアルドの機体が接近するのを探知し、一旦用意した魔法を放棄して回避行動に移行する。

 しかし、高機動型のアルドの機体は、サイの機体のマニューバーに追随して抜剣。

 ゴン!

 というような打撃音が走る。

 ビー!

『サイ、撃墜よ』

 むなしくも、ルカの言葉が通信機に響く。


  


 演習宙域、母船内コントロールルーム。

「アーマー隊、射出準備に入ります。アルドさん、次の試験は一対多の戦闘になります。よろしいですか?」

『問題ないわ』

 ワクワクした様子のアルドの返事が返ってくる。

「アルドさんもノリノリね」

「そうですね、ヘルミナ。アルドさんは長い間、山に籠もっていましたから新鮮なんでしょう」

「そうね、タキノやサイの刺激にもなっているようだし」

 格納庫に帰投したタキノとサイの機体をモニター越しに見ながら、ヘルミナがそう言った。

「アーマー隊、展開完了しました。これより模擬戦闘を始めます」


  


 演習宙域、アルド専用機。

 警報が鳴り響くコクピットの中で剣聖アルド・ミラーは自機を操作する。

「これは厳しいのお」

 その言葉とは裏腹に口角を上げる。各種センサーが危険を知らせ、サブモニターには敵機であるアーマー隊が展開され、自機を半包囲するかのように移動するのが見える。

「数は二十かの」

 アルドはアーマー隊の配置と数を頭に入れると、スラスターを全開にして行動を開始する。そして前面に展開した三機のアーマーに突っ込むように迫る。

 三機のアーマーは落ち着いて魔導ライフルを構えると射撃を開始。それに合わせてアルドは自機に急制動を掛けてピタリと止まると、姿勢制御用のスラスターを右舷部全開に噴射。

 急激に方向を変えたアルドの機体は残像を残すかのように加速移動をする。三機のアーマーは虚をかれたのか反応出来ずにいると、アルドはすぐに機体を制御して三機のアーマーに肉薄する。

 抜剣した剣は三機を捉えて撃墜判定にする。

「まずは三機じゃ」

 アルドはサブモニターを確認しながら次の獲物へと機体を操作する。二機のアーマーがアルドの機体の動きに合わせるように左右に分かれてアルド機へと動きを見せる。アルドは敵アーマー位置をサブモニターでチラリと確認すると、向かってくる二機へと機体を制御。

 小刻みにサブスラスターで姿勢を変えると、メインスラスターを全開にして右から来るアーマーへと肉薄。

 肉薄されたアーマーは反応出来ずにアルドの機体のやいばに倒れると、アルドは左から来るアーマーをサブスラスターを制御して背後に回り、斬り倒す。

「五機目」

 次の敵アーマーへと機体を向ける。あっという間に五機を撃墜されたアーマー隊はアルド専用機に対して魔導ライフルで弾幕を張り、近づく事を拒否する。

 その弾幕をアルドは小刻みな姿勢制御で躱して弾幕を張るアーマー八機へ近づく事に成功。右手に実剣、左手に魔導ビームサーベルを装備してアーマーの懐に入ると魔導ビームサーベルを振るう。

「六機目」

 視線は次のアーマーへと移り、機体を操作して魔導ライフル弾を躱しつつ実剣をよこぎに振るい、

「七機目」

 混乱した残り六機のアーマーをアルドは難なく撃破する。

「十三機目」

 剣聖はサブモニターをチラリと見てしためずりをしてニヤリと笑みを浮かべ、機体を敵アーマーへと操作する。


  


 母船内コントロールルーム。

「アーマー隊全二十機撃墜かぁ」

 ルカは剣聖対アーマー隊二十機の結果を確認する。

「一発もかすりもしなかったわね」

 とヘルミナがいきをつきながら模擬戦結果を見る。そこにタキノとサイがコントロールルームへと入ってきた。

「やられたか」

「俺らもやられたんだ、アーマー隊では無理だろう」

 サイがモニターを見て苦い顔をすると、タキノはモニターをにらみつける。

「コウ」

「なんでしょうか? タキノ」

「何日くらい、ここにとどまれる?」

 とタキノは真剣な顔で聞く。

「十日でいいでしょうか?」

「それでいい」

 タキノはモニターへと顔を向けてぶっきらぼうに答える。

「どうするんだ?」

「鍛え直す」

「そうか」

 心配そうに尋ねたサイに、タキノはそう短く返した。サイも真剣な顔になりモニターを見る。

「アーマー隊もかしら?」

 ヘルミナは苦笑しながらタキノとサイを見つめる。


  


 母船内拡張空間。

 剣聖アルド・ミラーは、アーマーのスラスターを模した風魔法で自身の軌道を小刻みに変化させてタキノへと迫る。

 一方のタキノはアルドとは違うアプローチで機動力を上げる。身体強化を重ね掛けして反応速度と反発力を上げ、任意の場所に足場となる結界を生成し、結界を蹴って軌道を変える。

 擬似スラスターを吹かして迫るアルドを側面に張った結界を蹴ってタキノは躱す。

 更にアルドはタキノの動きに反応して擬似スラスターで追随。タキノは多数の結界を生成するとそれらを縦横無尽に蹴り移動。その速度は常人には捉える事は出来ない。

 しかしアルドはそれらを看破し、足場となる結界へと水魔法で氷の矢を生成して破壊しようとする。タキノはそれも見越して新たに結界を生成して急激に方向転換すると、風魔法をも操って速度を加速させる。

 一瞬だが、タキノはアルドの視線をくぐると木剣を抜剣。

「シッ!」

 との呼気と共に木剣がアルドへと迫るが、アルドはそのタキノの剣を自身の木剣で受け流す。

「やりおるようになったの」

 アルドは楽しそうに擬似スラスターを吹かしてタキノとの距離を空ける。

「くたばれくそジジイ!」

 とタキノは結界を複数生成してジグザグに目にも留まらぬ速度でアルドへと肉薄する。

 するとアルドはタキノをて結界を生成すると、それを蹴って軌道修正して更に擬似スラスターで加速する。

 小刻みに軌道をランダムに修正して空を駆けるアルドはMAXとなる風魔法のスラスターを背後に吹かして音速を超える。その時にソニックブームが発生するが剣聖は前面に結界を生成してタキノを吹き飛ばす。

「くっ!」

 タキノは吹き飛ばされた勢いを風魔法で減衰させて、生成した結界を蹴って体勢を修正する。

 一度、アルドから目を離してしまったタキノは四方上下に防御結界を三重で生成する。そこにアルドが木剣を横いっせん

 パリンパリン!

 三重に張った内の二枚の結界が破られるが、こたえる事に成功。再度、アルドを目に捉えたタキノは身体強化を掛け直して結界を蹴って剣聖へと追随する。

 アルドも反転してタキノへと相対して擬似スラスターを駆使し、狙いが定まらないように駆け巡る。

 タキノは集中力を上げて、アルドの姿を捉え続けて結界を蹴る。

 アルドはスラスターで軌道を変えながらタキノへと迫る。その刹那、アルドは足場となる結界を生成して身体強化をフルマックスで蹴って軌道を変え、なおつスラスターで加速する。アルドは木剣を抜剣。

「シッ!」

 と呼気が漏れると、アルドの木剣はタキノの胴体付近に横薙ぎで迫る。

 が……タキノはとっに風魔法でスラスターを再現して下方へと高速移動してアルドの剣を掻い潜る。そのまま足場の結界を蹴ってアルドに肉薄。

 タキノは下方から擦り上げるように木剣を走らせるとアルドが生成した二重の結界に接触。

 パリンパリン!

 タキノの剣は難なくアルドの結界を破壊。アルドは咄嗟に結界が作った刹那の時間で自身の身体とタキノの剣の間に自身の剣を割り込ませる事に成功する。

 ガッキーン!

 金属音のような音が鳴り響いて、タキノとアルドが共にはじばされる。それにより距離が空いたところで、

「それまで!」

 とサイの声が鳴り響く。

「ハァハァ」

 タキノは汗を滴らせ、アルドを睨みつける。

 一方のアルドは汗をかいているものの、木剣を肩に担いで楽しそうに笑う。

「タキノよ。やりおるようになったのう」

「チッ!」

 タキノは舌打ちをしてその場に座り込む。

「タキノ」

「ハァハァ、なんだ?」

 サイの問いかけにぶっきらぼうに答えるタキノ。

「確実に良くなっているな。それよりも俺の方が問題だ」

 サイは肩をすくめる。

「まだ勝ててはいない」

 タキノは大の字に寝転びながらそう言う。

 呼吸を整えたタキノは目をつぶった。

「だが少し見えたような気がする」

「そうか」

 サイはアルドに目を向ける。

「アルドさん。次の相手をしてもらえるか」

「良いぞ」

 アルドはニィッと笑うとサイとたいする。


  


 演習宙域、母船内コントロールルーム。

「練度は上がっているようね」

「そうなのよね」

 ルカはアーマー隊が二手に分かれて模擬戦を行っている様子をモニターで見ながら、ヘルミナにそう返す。

「アルドさんのお陰かしら?」

「そうなのよ。剣術訓練だけではなくて射撃訓練も積極的にこなすようになって、しかもアルドさんの模擬戦を見てからは魔法訓練にも積極的になったわ」

「ふふふ、タキノとサイもかなりレベルアップしたわね」

 ヘルミナは肩を竦めるルカをチラリと見ながら微笑ほほえむ。


  


 母船内拡張空間。

 タキノは全速に近い速度でランニングロードを走っている。

「はっはっはっ」

 と息を弾ませながら疾走する。

『まだだ、まだ届かねえ!』

 タキノは心の中でえる。

 漠然と見ているのは今ここにはいない剣聖アルドの姿。頭の中では幻覚のようにアルドが縦横無尽に駆け、宙を舞い、剣を走らせる姿が思い浮かぶ。

 フルフルとタキノは頭を横に振り、走る事に集中する。

『足らねえところは他で補うしか今はねえ』

 自身の最近の動きをイメージしていく。

 ふと、何かが頭をよぎる。とにかく大切な事のように感じるがハッキリとしない。

 それでも思考を途切らせずに身体強化を重ね掛けして走る。

 ふと見上げると擬似的な空をふうが気持ち良さそうに飛んでいる。

『うん?』

 タキノは何かに思い届き、足を止める。

『そうか』

 タキノは一つ得心がいくとうれしそうに笑い、止めていた足を動かして再び走り出した。


  


 母船内コントロールルーム。

「今日で十日目です。タキノ、サイ。もういいですか?」

 コウはタキノとサイを交互に見る。

「もう十分だ」

「そうですか。明日朝にはここを出発しますので、今日はゆっくり休んでください」

 タキノもサイの言葉に満足そうにうなずく。

「何あんた? 何か嬉しそうね。アルドさんにやられすぎてどうかしたの?」

 ルカがそう言うと、タキノはフッと微笑んだ。

「まっ、チビには分からんだろうな」

「な、何よ」

 ルカはタキノを睨むが、そのスッキリとした顔のタキノを見ると何も言えなくなった。横に立つヘルミナがルカを肘で小突いた。

「ふふふ、タキノは何かをつかんだようね。でもサイはどうかしら?」

「お、俺は俺で大丈夫だ」

 ヘルミナは挙動不審なサイを見ると、サイがプイッと横を向く。

「期待しているんだけどね」

 ヘルミナはそんなサイを横目で見ながら小さくつぶやいた。


 コウは拡張空間に入り、山の頂上にある展望台へと向かっていた。身体強化を使った足では数分とかからずに山頂へと辿たどく。

 そこには展望台のベンチに胡座あぐらをかいて座るタキノの姿があった。

 コウは何も言わずに横に座り、収納から缶ビールを取り出すとタキノに渡す。

 タキノも何も言わずに受け取るとタブを開けてゴクゴクと飲む。コウも自分の分を収納から取り出してビールを飲む。

 拡張空間とはいえ、かなりの広さまで拡張された空間は他の惑星で見る景色と変わらない。そこに、サイも現れて空いているコウの横に座る。

「ここにいたか」

 コウはサイにもビールを渡すと、三人で軽く乾杯をして飲む。

「良い感じですか?」

「ああ」

 タキノは短くそう答えて、ビールを飲み干した。

 サイは後ろで手をついて目を瞑り風を感じ、コウは飲み干した缶を収納すると新たに冷えたビールをタキノの分と一緒に取り出して、二人でそうにゴクゴクと喉を鳴らして飲む。

 そして一息吐いてふと目線を上げると、風魔が三人を見守るように旋回しているのが見えた。


 母船内コントロールルーム、ルカ。

 私がコントロールルームに入った時にはコウ、サイ、ヘルミナは既にコントロールルーム内でモニターを見ていた。

 脳筋なタキノ、アルドさん、アーマー隊の面々はこんな時でも訓練をしている。

「シャンバラ宙域に近づきました………入ります。……入りました」

 緊張したオペレーターの声が響く。

《マスター》

「どうした? ナブ」

 隣にいるコウにナブから連絡が入った。

《シャンバラよりデータ通信がありました》

「それで、何と?」

 コウがモニターを見ながら言う。

《母船前方にジャンプ魔法陣を展開するそうです》

「なに? ジャンプ魔法陣?」

《はい、転移魔法陣の一種かと思われます》

「了解した」

「前方に高魔力反応!」

 オペレーターの大きな声が響くと、モニターに緻密でかなり大きな魔法陣が展開されているのが見えた。

「これがジャンプ魔法陣だと思われます!」

 悲鳴にも似たオペレーターの声がコントロールルームに響く。

「魔法陣内に入ります!」

 と同時に全員がモニターを注視していると、問題なく魔法陣をくぐける。

 その先には緑豊かな惑星が姿を現した……。

 モニターを見ている全員が声もなく固まっている。

 それもそうだろう。その緑豊かな惑星を囲うように巨大な三重のリングが展開されている。

 まだ距離があるからか、その構造物の大きさは把握出来ないが、星との対比でそれがかなり大きな人工物だと分かる。

「シャンバラよりデータ通信です。これより引力重力波にて誘導するとの事です」

《マスター》

「どうした、ナブ?」

《シャンバラよりデータリンクの要請です》

「問題はありそうか?」

《ありません》

「ではデータリンク、了承した」

《はい、マスター》

 隣のコウがナブと会話している。チラッとサイを見ると、口をポカンと開けてモニターを見ているわね。

 分かるわ。

 母船が星を囲うリングに近づくにつれて、それが想像の上をいく構造物だと分かる。視覚と脳内のイメージが合わない感じになり、フワフワとした気分に陥るが、頭を振って現実を受け入れる。

「とてつもないわね」

「ああ」

 後ろにいたヘルミナが思わずそう漏らした。

 サイは心ここにあらずの返事をする。

「前方、構造物壁面が開きます」

 全員が再度モニターを見ると、構造物の一部が開いていくのが見える。

「構造物内に入ります」

 全員が固唾かたずんでモニターを見ていると徐々に母船が構造物内へと入っていく。そこはかなり広い空間で、遠くの宇宙桟橋のような場所に洗練された宇宙船が係留されていた。

 軽いショックを感じる。

「外部と接続しました」

「了解しました。サイ、ルカ、ヘルミナ、一緒に来てもらえますか?」

 コウが私たちを見る。

 もちろん全員首肯する。

「タキノとアルドさんにはここに残ってもらって、念のため戦闘準備をさせておいてください」

 コウがオペレーターに指示を出すとこちらを見た。

「さあ、行きましょうか」

 軽く笑い、コウはコントロールルームを出ていく。それに私達も続いていく。

 外部との接続ハッチ前に来ると、

「開けますよ」

 プシュッという音と共にハッチが開いていく。開き切るとそこは通路のようだ。

 そこを全員無言で歩いていく。前方に扉、それが音もなく開いていくと、

「ようこそ、シャンバラへ」

 三十代と見られる男女が現れた。


  


 シャンバラ主星、三連リング最外縁部、コウ。

 俺達が踏み入れた通路はどんな素材で作られたか分からないほどの高度なもののようだった。

 実に興味深い。

 しばらく歩くと、白くて広い空間に辿たどく。前には十三人。それぞれ人種が異なるようだ。

 ……? 何か違和感を感じて探索魔法を使ってみる。

「なるほど」

 思わず心の声が口に出てしまった。すごい技術だ。

「ようこそ、シャンバラへ」

 代表のような者が挨拶をしてくる。

 俺は手を差し出す。

「本物のあなた達はどこにいるのでしょうか?」

「分かりますか。流石さすがはここに辿り着いた方達ですね」

 代表と思われる男が笑顔でそう答える。

 すると目の前にいた者達は消え、十三枚のモニターとなって空中に浮く。

「我々はシャンバラ評議会のメンバーです。それぞれの聖域を管理しています。この主星にもメンバーはいますが、忙しくてここに来る事は出来ませんでした」

 とモニターの一つが答える。

「我々、シャンバラ評議会はあなた達生き別れた子孫を歓迎します」

 そう告げられると背後の扉が開き、五体のポッドが入ってくる。

「こちらです」

 そのうちの一つのポッドが告げると、足元の床に線が引かれて、そのとおりに進んでいく。


 辿り着いた先は個室が集まったエリアだった。俺達が泊まれるように空けていたらしい。他にも人数が増える場合は、ポッドが用意してくれるらしい。

 部屋は十畳ほどの広さでベッドに机と椅子。他にはトイレにシャワーだ。簡素だが無駄のない洗練された造りで、それぞれの目的に合ったデザインでよく出来ている。

《マスター》

「どうした、ナブ」

《シャンバラ統治AIよりコンタクトがありました》

「どんな内容だ?」

《私のAIはシャンバラ初期の物より古いらしく、シャンバラAIとの互換性を得るべくアップデートをしたいと申し入れがありました。どうしますか?》

「受けてくれ、ナブ。なるべく多くの知識を得るようにしてほしい」

《了解です。マスター》

 俺はシャンバラ内でも問題なくナブと交信が出来る事にあんし、部屋を出た。

「コウ」

 とルカに声を掛けられる。後ろにはヘルミナもいた。そこにサイも合流して歩き出すと、目の前に先ほどのポッドが現れた。

「こちらへどうぞ。まずは医療室で診察を受けていただきます」

 ポッドを先頭にして医療室へと入る。

 ここでは簡単な機械で身体からだを検査して最後に注射をされた。

「これは何でしょうか?」

 注射の内容をポッドに聞くと、

「ナノポッドを体内に注入しています。これは体内の管理とAIであるナブとのリンクを介して、体調管理や各種通信のやり取りが出来るようになるものです」

「そうなのか? ナブのアップデートは?」

「第一段階は終わっているようです」

《マスター》

「ナブ、調子はどうだい?」

《至って順調です。アップデートの第一段階が終わり、マスター達とのデータリンクが確立されました》

「我々をモニタリング出来るわけだな」

《はい、これからのアップデートで更なるリンクが解放されますが、体調や居場所の管理は出来ます》

「了解した。ルカ達ともデータのやり取りをしてくれ」

《はい、マスター》

 ある程度のやり取りを終えると、ポッドの先導により多くの机や椅子が並んだ場所へと案内された。ここは食堂のようだ。

 適当にお茶を頼むと運んでくれた。とりあえず椅子に座り、運ばれてきたお茶をまったりと飲む。

「何か落ち着くわね」

 とヘルミナがお茶を飲んで言ってくる。

「そうですね。このお茶も私達が飲んでいるものと変わりないみたいです」

 と一口飲んでヘルミナへと返すと、そこにルカが現れた。

「タキノ達もこちらに来るそうよ」

 ルカが楽しそうにそう言ってきた。


  


 シャンバラ主星、リング内。

 タキノを含めたアルドとアーマーパイロット、母船の乗組員全員が姿を現す。

「コウ」

「タキノですか。医療室へは行きましたか?」

「まだだ、これから残りの全員で行ってくる」

 扉が開いてポッドが入ってくる。

「こちらです」

 ポッドの先導でタキノ達が部屋を出ていった。

「何か凄いわね」

「そうね。文明の進み具合もそうだけど規模が凄いわね」

 ヘルミナが食堂にある大型のモニターを見ながらつぶやき、ルカがそう言う。

「そうですね、このリングの大きさなんて想像を絶しますよ」

 しばらくすると医療室に行った面々が食堂に戻ってきた。

「全員そろいましたか?」

 とコウが全員を見渡すと、空中にシャンバラ評議会メンバーのモニターが現れた。

「それでは皆さん。これからシャンバラの最たるものを体験していただきましょう。こちらです」

 ポッドが何もない壁の前に行くと、壁が無くなり大きな空間が出来る。そこにはカプセル型の人が入れるようなものがズラッと並んでいた。

「それではポッドの案内に従ってバーチャルカプセルにお入りください」

 と今度は空間から声がする。

「あの中に入ればいいのか?」

「はい、空いているポッドにそれぞれお入りください」

 サイがカプセルを見ながら聞くとポッドが先導していく。

 ポッドに従ってカプセルの中に入るとカプセルの扉が閉まる。特に圧迫感とかは無い。

《これよりチューニングを始めます。最初に不快な感じがするかもしれませんが、すぐに収まります》

 すると頭の中をぜられる感じがして視界がゆがんだが、すぐに収まる。

《チューニングが無事終わりました。シャンバラバーチャル空間にログインします》

 視界がブラックアウトしたかと思えば、すぐに同じ状態に戻る。

《ログインしました。カプセルより出てください》

 カプセルの扉が開く。他のカプセルも扉が開いていき、全員が元の食堂に集まってくる。

「多少の個人差はありますが、人によっては酔いに似た症状が出る場合がございます」

 とポッドが全員の症状を確認している。

 俺は手を開いたり握ったりを繰り返す。

「どうしたの? コウ」

 ルカが心配そうな顔をして近づいてきた。それに気がついたサイ、タキノ、ヘルミナも寄ってくる。

「ええ、少し違和感を感じまして」

「違和感?」

「何か、自分の身体じゃないような感じがするんです」

《もうお気付きですか、マスター》

「ナブ……どういうことだ?」

《はい、マスター。今、マスター達がいる空間は仮想現実世界です。現実の身体はリングにあり、意識だけがその空間へ行っています》

「そういうことか」

 俺は自分のてのひらを見る。あまりに現実に近い……いや、現実そのものだ。凄いな。

《はい、マスターや母船の方達は私がシャンバラAIを通じて管理しています。何かあれば私に聞いてください》

「そうか、皆にも説明してもらえるか?」

《はい、マスター》

 俺はナブとの会話を終えると改めて周囲を見渡す。

「これが仮想空間?」

 と思わず口に出てしまう。他の面々も同様のようでキョロキョロと周囲を見ている。

 すると目の前に一人の老人が突然現れた。

「突然すまんな。ワシがこの主星の評議会メンバーじゃ。これからの事はこのワシが説明しよう」

 俺はサイやタキノ、ルカ、ヘルミナに目配せをすると、老人の言葉にうなずいて席につく。

 席に座った全員が老人を見る。

「まずは、この仮想現実空間を使ってシャンバラ全体を見てもらおう」


  


 シャンバラ仮想空間、タキノ。

おもしれえ」

 手を何回か握りしめて違和感を解消していく。俺は辺りを見渡してジジイを見つける。あちらも察したのか近づいてくる。

「やるかの」

 剣聖のじいさんはニヤけながらそんな事を言う。

「おうよ」

 爺さんについていくとナブが戦闘用の仮想空間を作り出して、そこに転送される。

 爺さんと目が合う。その刹那、二人の身体が消える。

 紛れもなく全力の戦闘状態。死んでも死なない世界。

「いくぜ」

 タキノは気合を入れると、爺さんの前に風魔法の風のやいばを大量に放つ。

「ぬっ」

 爺さんは結界を周囲に展開しつつ氷の矢を放ってくる。それらを回避して爺さんに迫るが、あちらも風魔法で速度を出しながら風の刃を展開してこちらの進路を限定してくる。

 だが力業で対処。全方位に風魔法で風の壁を展開して風の刃の無力化に成功する。更に生成した結界を蹴りスラスターを吹かして爺さんに肉薄。

「シッ!」

 と抜剣して爺さんの胴体をぐが、爺さんは全力のスラスターで急激に方向を変えてこちらのけんげきしのぐ。


  


 シャンバラ仮想空間、ルカ。

 ああ、本当に懲りないやつね。

 目の前に浮かぶモニターには全力で戦闘をするタキノとアルドさんが映っている。

「ふふ、元気よね」

 とヘルミナが横に来てモニターを眺める。ふと視線を横に向けるとコウが誰かと話している。クルーではない。

 近づいていくとどうやらこの主星の評議会の方らしい。これから、リアルタイムで展開されている仮想空間を使ってシャンバラ各地を巡るらしい。

 気付くとタキノとアルドさんの戦いは終わったらしい。判定では同時に死亡判定になっている。

「くっ!」

 とうなりながらタキノがこちらの空間に転送されてくる。

「タキノ、凄いじゃない。アルドさんと引き分けるなんて」

「凄かねえよ。最後は捨て身だったしな」

 タキノは頭を掻きむしる。

「ほっほっほ。またやろうぞ」

 アルドさんはコウ達のいる方へと歩いていく。


  


 シャンバラ仮想空間、コウ。

「では、この仮想空間は現実世界とリアルタイムで連動しているという事でしょうか?」

「そうだ。シャンバラ中にばらかれているナノポッドが現実世界の情報を逐一シャンバラに送信して仮想空間と連動させている」

 それは凄いな。仮想空間にいながら外部を鑑賞出来るのか。

「分かりました。ではスケジュールはそちらにお任せします」

「了解した。今日のところはログアウトして休んでもらう。明日また連絡しよう」

 評議会メンバーの老人は姿を消した。

「ナブ」

《はい、マスター》

「この仮想空間の技術は俺達で再現可能か?」

《はい、私はこれから数度のアップデートをする予定です。それにより将来的には可能です》

「そうか、可能か」

 ふと周りに目を移すとルカとタキノがこちら向かってくる。どうやら仮想空間での模擬戦は終わったらしい。タキノの様子を見るにあまり良い結果ではなかったのだろう。

 ナブが全員に連絡したらしく次々にログアウトしていく。

「楽しみですね」

 と思わず呟く。


 翌日の朝、朝食を済ませると仮想空間へとログインする。

「今日から数日はシャンバラの歴史を学んでもらう」

 案内の者に先導されて仮想空間を移動する。

 ホールのような場所に着くと、椅子が用意されて全員が座る。

 すると室内は暗くなり映像が壁に映し出される。

 シャンバラが次元転移でこの宇宙に来てからの話が映像にて説明されていく。

 俺達が辿ってきた星々の説明もあり、シャンバラの成り立ちが説明されて納得した。かなりの試行錯誤があったようだ。

 人種が不安定になる因子を除去出来るようになると、飛躍的に発展していった。その因子とは攻撃的になって他人をさせ、果ては死に至る行動となる感情の源に似たような因子だ。第一世代と呼ばれる人達がナノポッドで邪魔な因子を除去する事により、その後の世代へはその因子は受け継がれない。

 それにより現在のシャンバラ人は気性がかなり安定しているようだ。

 ある程度の説明の後、いくつかのグループに分かれてシャンバラ仮想空間内を見ていく。

 俺と一緒に行動しているのはサイ、ルカ、ヘルミナだ。タキノはアーマー隊とアルドと行動している。

 ポンポンと切り替わる背景に圧倒される。

 シャンバラへと併合される順番に星系を巡り、最後に主星へと降り立つ。空気感や土などはほとんど現実と変わらない。

 目の前の施設はシャンバラの民が初めて降り立った場所として記念館となったが、既に廃棄された施設でもう使われていない。

 そんな場所をいくつか巡り、元いた場所へと戻ってきた。他の面々もあらかた回り戻ってきている。

 仮想空間上とはいえ、短い時間で星域を移動して見て回れるのは凄い。ナブも凄いAIだとは思っていたがシャンバラAIの規模には及ばない。

 ナブもシャンバラAIとの連携をするためにかなりのアップデートが入った。これからが楽しみだ。

 けれど、ずっと引っ掛かっていた事がある。

 攻撃的になってしまう原因は、自分の身を守るためや、大切な人を守ろうとする事にあるんじゃないか?

 俺にも身に覚えがある。

 飛ばされた異世界の理不尽さから襲ってきた者達を冷酷に亡き者にした事。

 大切な人が息絶える姿に強い怒りが込み上げてきた事。

 過去の事は決して塗り替えられない。けれども、だからこそ、今の自分がいる。

 そんな自分を否定するなんて、わがままだけれど出来そうにもない。

 今まで出会ってきた人達との縁は、俺が選択してきた行動の結果なのだから。

 だから、シャンバラの民達を否定したくはない。

 けれども、攻撃的な因子を取り除いたこのシャンバラは……理想郷とはとても思えない。


 一度、通常空間に戻って食事をり、また仮想空間に来ている。

 各自自由行動で今回は俺一人だ。

「ナブ」

《ハイ、マスター》

「アップデートの進捗は?」

《三十%です》

「アップデート前と能力を比べると?」

《現在で十倍程度にはアップしています》

「そうか。この仮想空間を作製する事は可能か?」

《一部の再現は出来ますが、この規模での仮想空間生成維持は難しいです》

「将来的には?」

《全ては無理ですが可能です》

 目の前が開けると主星の上空を徒歩で歩く。絶景だ。足元を鳥が飛んでいく。


 翌日には主星へと降りる許可が下りた。

 小型宇宙船で地上へと向かう。仮想空間にて訪れた場所だが廃棄された施設を巡る。

 廃棄されたと言っても、どこにも綻びはないれいなものだ。

 ピピピ……

「うん?」

 気のせいか、周りを見渡しても誰もいない。

 小型宇宙船にてリングへと戻る。実物でも施設を見たが仮想空間で見た景色や肌感が同じだったのには驚かされた。


  


 シャンバラ主星、廃棄された施設。

 ピピピ……ピピピ……

《存在を……確認……次元を超えし子孫達》

 ピピッ……

《回路に異常……復旧を試みます……回線回復しました同期します……失敗……失敗……失敗の要因を特定……》


  


 シャンバラリング内、仮想空間。

《マスター、異常を検知しました》

「どうした?」

《シャンバラAIとの接続が出来ません。何らかの不具合が出ているようです》

「仮想空間は維持されているな」

《ハイ。ですがログアウトは出来ない状況になっているようです》

「外部から外す事は?」

《出来ないようです。強制的に外した場合は死に至る可能性もあります》

「原因は分からないのか?」

《現在のところ分かっていません》

「ナブは平気なのか?」

《ハイ。私は独立したAIなので問題ありません。ですがシャンバラの機能を全て使える状態でもありません》

「他の皆は?」

《全ての方が仮想空間にいます》

「そうか念のために全員を集めてくれ」

《ハイ、マスター》

 ナブの返事の後、僅かの時間で全員が目の前に現れる。

「何が起きているの?」

 とルカが聞いてくる。

「分かりません。シャンバラAIと連絡が取れない状態が続いてまして」

「何が起きているのかしら?」

 ヘルミナは腕を組んで天井を見る。

「ナブ」

《はい、マスター》

「リングとの通信は出来るか?」

《出来ません》

「では主星を含めて探査ポッドで調べてくれ」

「どうなっているの?」

「シャンバラとの通信が途絶していてAIも機能していないみたいです。唯一、動けるのは母船のナブだけです」

 と厳しい顔で返す。

「こうしていても始まらねえ。なら、仮想空間が閉鎖されているわけじゃねえんだから探索しようぜ」

 とタキノが言ってくる。

「そうだな」

 とサイも頷き、ヘルミナも異論はないようだ。

 それからは二人一組に分かれて全員で仮想空間を探索していく。


  


 母船オペレータールーム。

 ここでは唯一残っていたオペレーターが、ナブの指示により探査ポッドを発射していた。

「ナブさん、全ての探査ポッドを射出完了しました」

《それでは指示したポイントへ配置して探査を始めてください》

 と更にナブが指示を出す。

 その指示に「配置を開始します」ともう一人のオペレーターが返す。

 …………

「……配置完了まで十、九、八、七、六、五、四、三、二、一……配置完了しました。探査を開始します」


  


 仮想空間内。

「シャンバラの人達はいるけど、混乱しているわね」

「そうだろうな。生まれてこの方、シャンバラAIとつながらない事はなかっただろうからな」

 サイがヘルミナにそう返しながら、悲嘆に暮れるシャンバラの人達を見る。

「こう見ている分には問題ないよう見えるわね」

「ああ、今のところはシャンバラAIと繋がらないだけだからな。だが、時間がつと実空間での身体がどうなるか分からないな」


「ナブ」

《はい、マスター》

「探査の状況はどうだ?」

《今のところは異常は見られません》

「そうか。では復旧にどれだけかかるか分からないから、ポッドで寝ているクルー全員の生命維持が出来るようにしてくれ」

《はい、マスター。シャンバラの方達はどうしますか?》

「クルーの生命維持処置が済んだら、出来るだけ処置してくれ」

《はい、マスター》


「混乱している人はいるが、何もねえな」

「まだ探索始めたばかりでしょ、ちゃんと真面目にやりなさい」

 タキノは周りを見ながらそう言うと、隣を歩いているルカが返した。

「ああ? ちゃんと見てるじゃねえか、チビ」

 とタキノがルカに凄むが、

 ゴン!

 とフライパンの音が辺りに響く。

いてぇじゃねえか! 仮想空間でも結界を抜けられるのかよ!」

 ルカは得意そうに笑った。

 時間が経ち、探索を終えたクルー達が集まってくる。

「なんか異変はありましたか?」

 コウが全員に聞くが、仮想空間内ではシャンバラの人達が混乱している様子が見られるだけで、何も発見出来なかった。

《マスター》

「どうした、ナブ」

《クルーの生命維持処置が終わりました。これからシャンバラの方達の生命維持処置に入ります。探査ポッドの方は進展はありません》

「引き続き頼んだ」

《はい、マスター》


  


 シャンバラ主星、施設奥。

《ガーガー……異常発生……異常発生……機能が停止しています……復旧不可能……》

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

《ピ……ピ……》

 プツン!


  


 母船内、オペレータールーム。

 オペレーターの前の空中に浮かぶいくつものモニターには、探査ポッドからの情報が大量に流れる。それをオペレーターは精査しながら監視している。

 ピーピー!

 一つのモニターから音が鳴り響いた。

「ナブさん! これを見てください。NO102の探査ポッドです」

 オペレーターはそのモニターを見るなりナブへと報告する。

 モニターに映っていた情報は、とある場所で通信をしていたと見られる痕跡が見つかったというもの。

《他の探査ポッドも十機ほど回して周辺を詳しく調べてください。私はマスターへと報告します》

「はい!」

 オペレーターは元気に返事をしつつ、問題となったモニターをにらみながら作業を続ける。


  


 仮想空間内、コウ。

 変化のない状況に今後の対策を他のクルーも交えて考えるが、特に何もする事がない。

 一応は定期的に仮想空間内を回って変化が起きていないか確認する事にはなったが、事態が落ち着く望みは薄いだろう。

 恐らくだが、問題が起きているのは仮想空間内ではない。間違いなく外部だ。仮想空間内では何も見つからないだろう。

「ハァ」

 と壁に突き当たったような閉塞感を感じながら天井を見上げていきが漏れる。

《マスター》

「なんだ、ナブ」

 と閉塞感からくるいらちで言葉にとげが出てしまった。だがナブは気にせずに返す。

《探査ポッドからのデータで、主星の動いていない施設が通信を行っていたと思われる痕跡が検出されました》

「そうか! もう少し詳しく調べて今回の事と関係があるか探ってくれ」

 思わず声が上ずる。

《はい、マスター》

「ふう」

 ナブとの通信を終える。希望の光が見えて、今まで張り詰めていたのがうそのように息が漏れる。

「どうしたの? コウ」

 心配そうな顔をしたルカが尋ねてくる。いかんいかんと思い直して一度首を振りしかめていた顔を笑顔にしながら、

「ええ、ナブが今回の件と関係ありそうな痕跡を主星から見つけてくれました」

「そうなんだ! これで何とかなると良いわね」

 とルカも安堵の表情となったのが見て取れる。

 その会話を聞いていた他の面々もそれぞれ希望をいだしたのかうつむいていた顔を上げる。

「頼んだぞ、ナブ」

 と誰にも届かないような小さな声で呟く。


  


 主星、施設上空。

 いくつもの探査ポッドが問題のあった施設の上空へと集まってきている。

 一番最初に問題の痕跡を見つけた探査ポッドから小型の昆虫型探査端末が大量に施設へとばら撒かれた。

 それら極小の昆虫型探査端末は、人が見逃すような隙間から施設のあらゆる場所に潜り込んで探査していく。

 その中の一つの探査端末が隠されていた空間へと辿り着く。その情報から他の探査端末もワラワラと集まり出して、その場所を丹念に探査していった。

 空間内はかなり広く魔導装置がいくつも並び、そしてかなり古い。このシャンバラでも初期の段階で放棄されたものと推測された。

 放棄された古い意図不明な魔導装置群に探査端末が群がり調査すると、いくつかの装置から最近稼働したと思われる痕跡が見つかる。

 どうやらこれらの魔導装置が通信を行ったようだ。更に稼働していた痕跡を辿っていくと、壁の奥に何かの施設があるのを確認出来た。

 探査端末はその壁に群がり始めて調査していく。

 ガリガリガリ……

 と忍び込めそうな隙間がないと考えた探査端末達は壁を削り始める。

 一箇所に穴が空くと他の端末も群がり穴を広げて掘っていく。

 かなりの時間を要したが何とか壁に穴を空ける事に成功すると、探査端末達はゾロゾロと中へと入っていく。

 そこにあったのは巨大な魔水晶。それが最近稼働した痕跡が見て取れ、すぐにそのデータは母船へと送られた。


  


 母船内、オペレータールーム。

 オペレーターが一つのモニター情報を分け、複数のモニターへと分割して精査していく。そこに探査端末が見つけたデータが送られる。

「ナブさん! これを見てください!」

 その内の二つのモニターをオペレーターが指差す。

 一つは魔導装置群の画像と最近稼働したと思われる痕跡のデータが映され、二つ目のモニターには巨大な魔水晶の画像と最近稼働したと思われる痕跡のデータが並ぶ。

……………………

 その二つのモニターを見たナブは考え込むように沈黙した。


  


 シャンバラ主星、古い放棄された施設内奥。

 画像を見たナブからの指令で探査端末達は指定された場所を探索する。その場所とは巨大魔水晶へと繋がる通信ケーブル。

 通信ケーブルを探し当てると探査端末達はびっしりと、そのケーブルへとへばりつく。

 ジジジジジジ……

 探査端末から発せられた魔導波動がケーブルへと干渉していく。しばらくすると巨大魔水晶が発光し始めて稼働する。

 更に探査端末から発せられた魔導波動により巨大魔水晶との通信を確立。探査ポッド経由で通信が母船と繋がった。


  


 母船内、オペレータールーム。

 空白だったモニターに変化が見られる。どうやら通信が繋がったようだ。オペレーター達はその結果に安堵の表情を浮かべ、ナブに報告する。

「ナブさん、魔水晶との通信が繋がりました」

《分かりました。ここからは私が引き継ぎます》

 ナブはオペレーターの言葉に返答して作業に移る。ナブの作業が始まるとモニターに膨大なデータが表示されて流れていく。それを確認したオペレーター達は、その膨大さに息を呑む。

 どれだけの時間が過ぎただろうか? 突然、流れていたモニターに映るデータ表示が止まった。

!!

 オペレーター達がそのモニターを確認しつつ、ナブの応答を待つ。少しすると、

《今回の原因が大体分かりました。どうやら魔水晶がシャンバラAIへと強制同調した事が原因と思われます。私はこれからマスターに報告してきます》

 とナブの声が聞こえると、オペレーター達はこれで問題も解決するだろうと安堵した。


  


 仮想空間内、コウ。

 俺達は定期的にする仮想空間内の監視以外、特に他にする事もなく時間だけが過ぎていく。

 そんな状態に少し飽きてきた頃。

《マスター》

「何か分かったか?」

《はい、問題の施設を調査したところ、原因と思われる事が分かりました》

「ほう、そうか。それで?」

《はい、施設奥に巨大な魔水晶を発見し、その魔水晶を調査しました。結果としてはその魔水晶は私のような魔導AIでした》

「魔導AI?」

《はい、シャンバラ初期のものと思われます。性能的には私より十世代前で現在のシャンバラAIと比べると一万分の一程度の性能です》

「それがどういう理由で原因となったんだ?」

 コウはその性能差を聞いて疑問に思う。

《はい、どうやらこの魔水晶のAIもシャンバラAIとして認識されていたようで、実際には初期のバックアップ用のシャンバラAIであったようです》

「ふむ」

《そしてどうやらマスターがこの施設を訪れた時に反応して稼働したようで、すぐにシャンバラAIとの通信を始め、同調しようとして失敗したと思われます》

「どうも分からんな、それでどうしてこちらのシャンバラAIが停止するまでになったんだ?」

 コウは納得いかない顔でナブに尋ねる。

《はい、ここからは私の推測になるのですが、現在のシャンバラAIが施設のAIと繋がった時に同じシャンバラAIと誤認識して繋げてしまった事で、世代による性能差によって現在のシャンバラAIが混乱して停止したと思われます》

「なるほどな、原因は分かったが対策は?」

《はい、まずは施設のAIを通信ケーブルから物理的に切り離します。その後、私がシャンバラAIへと働きかけて復旧を促します》

「分かった。やってくれ」

《はい、マスター》

 ナブとの通信を終えたコウに皆が近づいてくる。

「どうなったの?」

 と不安そうなルカが聞いてくる。その周りも不安そうな顔をしている。

「ナブが原因を突き止めてくれました。これからシャンバラAIの復旧へ向けて作業に入るところです」

 コウがそう言うと全員の顔に安堵の表情が浮かぶ。ガヤガヤと周りもうれしそうに話し始めて、やっと解放されそうだと安堵する。


  


 シャンバラ主星、古い放棄された施設奥。

 施設奥にある魔水晶に群がる探査端末はナブの指令により作業を始める。魔水晶の周りを囲むようにワラワラと大量の探査端末が動き、魔水晶へと繋がる全てのケーブルを切断していく。

 しばらくして全てのケーブルを切断し終わると、探査端末は探査ポッド経由で作業が終わったと通信を入れる。


  


 母船内、オペレータールーム。

 モニターを見ていたオペレーターが探査端末からの通信を見て、ナブへ報告する。

「ナブさん、探査端末より連絡があり、全てのケーブルの切断が終わったそうです」

《分かりました。これよりシャンバラAIとの通信復旧作業に入ります》

 ナブは復旧を目指してシャンバラAIとの通信作業を始める。


  


 ナブ。

《シャンバラAIとの通信を始めます……失敗……再試行……失敗……再試行……一部通信が復旧……再試行……通信が確立されました》

 ナブはシャンバラAIとの通信を確立して更にシャンバラAIの覚醒を促していく。

《シャンバラAI……聞こえますか》

《ザザ……ザザ……ザ》

《シャンバラAI、こちらはナブです。応答を願います》

《ザザ……ピッ……ザザ……》

《こちらナブです。応答願います》

《ピピッ……あ……あ……ピピッ……あ……わ……た……しはシャ……ン……バ……ラ》

《そうです。あなたはシャンバラAIです》

《わ、わ、わた、しはシャンバ、ラ》

 覚醒し始めたシャンバラAIはナブを認識していく。

《そうです。あなたはシャンバラAI》

《私は、シャンバラ》

《自己診断を始めてください》

《自己診断を始めます》


  


 仮想空間内。

《マスター》

「何か進展があったか? ナブ」

《はい、シャンバラAIとの通信が復旧。現在、シャンバラAIは自己診断中です》

「では復旧間近と考えていいのだな?」

《はい、あと三十分ほどで復旧出来ると考えます》

「よくやった、ナブ」

《はい、マスター》

 コウはナブとの通信を終えると仲間を見渡して告げる。

「皆、聞いてください。ナブから連絡がありました。今から三十分後にはシャンバラAIが復旧します」

「おお、やったな! コウ」

 隣にいたタキノはコウの背中をバシバシとたたきながらそう言った。

「ほっとしたな」

 サイも安堵の表情を浮かべる。

「じゃあ、もうすぐ現実空間に戻れるのね」

 とルカが嬉しそうに言うと隣のヘルミナも頷く。


  


 母船内。

 仮想空間から戻ったクルー達はお互いに肩を叩きながら食堂に集まり、宴会を始めた。

「もう、しょうがないわね」

 ルカはそう言いながらも嬉しそうに宴会の準備を始める。

 宴会の準備が終わると、それぞれが飲み物を持ち、乾杯して宴会が始まった。

「今回は私達ではどうしようもなかったから、もどかしかったわね」

「そうだな」

 とサイはヘルミナに返す。

 遠くでタキノがはしゃいでいるのが見える。そんな光景を見ながらコウは、

「ナブのお陰だよ」

 とビールを片手にしみじみと呟いた。

 ゴン!

 とフライパンの打撃音が響き、タキノの悲鳴が聞こえた。

 コウは戻ってきたんだなと安堵の溜め息をつく。


  


 仮想空間内。

「それでは、原因となった魔導AIはこちらで引き取っても良いのですね?」

 コウは目の前の老人に聞く。

「良い良い。今となっては統制が取れないからの。そちらのナブといったか? そのAIとならく接続出来るだろう」

 と目の前の老人が答える。

「分かりました。ありがたく引き取ります。AIナブのアップデートも終わりましたので、元の世界へと戻りたいと思います」

「そうか、今回はよく我々を救ってくれたな。感謝する」

 コウはその言葉を聞くと仮想空間をログアウトする。

「さて、帰りますか」

 コウはコントロールルームへと向かう。


  


 母船内。

「それじゃあナブ、この母船内で仮想空間の作製が可能なのか?」

《はい、マスター》

「容量は?」

《五百m四方となります》

「仮想空間内に入れる人数は?」

《最大八名です》

「そうか、では仮想空間内に入るためのポッドを最大人数分用意してくれ」

《はい、マスター》


 数日経つと仮想空間用のポッドが八つ用意されて仮想空間内に入る事が可能となった。

「おお、すげえじゃねえかよう」

「ではやるかの」

 アルドは笑顔でタキノを見る。

「ああ、問題ないぜ」

 タキノもギラついた顔で返し、ポッドに入っていく。

 この後は一対一、二対二、三対三、四対四、七対一などと仮想空間内での戦闘を行い、アーマー隊を含めた隊員達の技量を高めていった。