あの後の身代金の話し合いはやや難なん航こうした。

 格かつ好こ良よく戦後処理を始めましょう、とか言ってしまったもんだから、俺が主導となり身代金の金額を決めることになった。

 身代金の値段についてよくわかっていなかったので、適当に金貨一万枚を提示したところ、ラジュオール子し爵しやく側から高いと言われてしまった。これは、帝国側も目を丸くしていたので、多分高すぎたのだろう。

 半分の金貨五〇〇〇枚にまけたが、帝国側に反対が出なかったので、そこまで低い金額ではないのだろう。

 しかし、それでも子爵側は高すぎて払えないと言ってきた。ではいくらなら払えるのか、と逆に問とうたところ、金貨二〇〇〇枚ではどうか、と打だ診しんがあった。

 これに対し、帝国側がふざけるな、と罵ののしる混こん沌とんとした状態になってしまった。


「んじゃぁ、払える分だけ返したらいいんじゃないの?」


 ミーシャが、まさかの人質の分ぶん割かつ返へん還かんを提示したのだ。

 誰だれも思いつかなった人質の返還方法に俺は大爆笑してしまい、計算ができないミーシャのためにどこから切り取れば良いのか懇こん切せつ丁てい寧ねいに教えていると、本気でやりかねないと判断したのか、子爵側はこちらの要求金額よりも若じやつ干かん低い金額を提示した。面つらの皮が厚いとはこのことか。

 このままでは埒らちが明かないので、一いつ括かつ払ばらいであれば金貨四四〇〇枚。分割返済であれば金貨五〇〇〇枚とした。

 これ以上やっていては本当に分割返還されかねん、とでも思ったのか、子爵側は大人しく証書を交かわ──さなかった。返還する人の欄らんに子供が入っていないと言ってきたのだ。

「当たり前でしょ。それは、子爵のみの返還金額なので、間違いはありませんよ? ですが、ご安心を。払う意思がある限りこちらは客人としてお子様たちを遇ぐうします。しかし、支払う意思がなくなった場合は、それなりの扱あつかいになることを覚悟してください」

「ふっ、ふざけるな! そんな話、信じられるわけがないだろう!」

 人質を分割返済しようとした奴の話なんて、怪あやしくて信じられるわけないだろう。俺だって普通なら信じない。

「信じていただかなくても結構です。私は、きちんとそちらの要求に沿そうように、身代金の減額をしましたよ? 何なら、子爵だけの値段で、金貨一万枚に戻しましょうか?」

 せっかく引き下げた身代金が再び増額しそうになると、子爵側は一気に沈ちん黙もくした。

「金が惜おしくなったのであれば、こちらも分割払いで良いですよ。もちろん、全すべて支払い終えた後に五体満足でお返しすることを約束します」

 金が惜しく、という言葉で子供たちの顔に不安の色が差す。そしてすぐに、父であるラジュオール子爵を見た。

 そりゃそうだ。自分たちの命が金でやり取りされているうえ、その金額が高く親の足かせになっているのだから。貴族として生まれたのであれば、子供でも理解できる話だ。

 見たところ、長男は俺より少し年下くらいだから、貴族としての立場は理解しているだろう。理解しているからこそ、自分の価値と身代金の金額の天てん秤びんがどちらに動くのか、気が気ではないだろう。

 この世界では、一応養子をとって後を継がせることもできる。しかし、その場合は、名前は残るが血統という貴族的価値は無くなってしまうので、子爵的にはそれは避さけたいところだろう。

 そして、子爵はすぐに返答した。子供四人分の金貨一八〇〇枚の分割払いを。


     □


 空を見上げて、流れる雲を見る。

 季節は完全に冬となり、これからどんどんと寒くなっていくだろう。

 ミーシャは、戦死したララークルを故郷の土──ダルエナの元へ送ると言って、モナークと共に帰っていた。

 ラジュオール子爵の子供たちは、皇都からマシューへ送り出した。山はまだ薄うっすらと雪ゆき化げ粧しようを始めたばかりなので、問題なく行くことが出来るだろう。

 ラジュオール子爵から受け取った身代金は、半分を貰もらい、もう半分は国へ渡した。身代金は全て捕らえた者が貰えるのだが、今回は兵士の死傷者数を減らすという目的があり、帝国軍を囮おとりとして使ったからだ。

 帝国軍が砦とりでまで行かなければ、子爵軍が増援をすることなく、屋敷の警備がもっと厳重になっていたからだ。

 そして、俺が貰った残りの半分は子爵邸襲撃の際に命を落とした兵士の家族へと渡した。

 あまり多くても先方が困るし、国からも少しではあるが支払われるので、嫌いやがられない程度の金額を渡した。その時に最後はどのような状況だったのか、を伝えたのだが、それがとてもありがたがられた。

 国のために戦争の行方を決める作戦に従じゆう事じし、そして成功を収おさめたのだ。親として、家族として誇ほこりに思える子供だったという言葉をよく耳にした。

 たぶん、こういったことは今回で最後になるかもしれないと思う。これから、人が多く死んでいくだろうし、戦死者は数字でしか見なくなっていくだろう。

 人を踏み台にしてでも、自分の願いを叶かなえようと思う気持ちと考えは全まつたく変わることなく、揺ゆるがない。

 ストライカー侯こう爵しやく家けに俺が入いれ替かわっていることがバレた以上、遠回りすることなく俺が安心して暮らせる場所を作らなければいけないのだから。

 今回の作戦が成功したことで、未来に向けて大きく前進する一手となった。

 ロベリオン第二皇子が新設した天駆ける矢ロツコ・ソプラノの幹かん部ぶにもなれたし、さらには年始に行われる皇帝陛下の誕生日に俺の表彰をやってくれるんだそうだ。

 俺の名と存在は、帝国に大きく知れ渡ることとなり、ストライカー侯爵もそう簡単には手を出せなくなるだろう。

 そうそう、後で聞いた話なのだが、騎馬騎士本部のクーデター事件は、ロベリオン第二皇子が言う通り、ストライカー侯爵が一枚嚙かんでいたらしい。

 騎馬騎士本部に所属する貴族が自分たちへ攻撃してきたときは、このクーデターを誘発させてその貴族を政界だけでなく物理的に消す手はずだったらしい。

 それが、関係のない人間に使ってしまったために、酷ひどくご立腹らしい。


「ロベール様、お風か邪ぜを引いてしまいますよ」

 ボケッ、としすぎてしまったからか、ミナが近づいてくるのに気づかなかった。そのミナの顔は、冬の曇どん天てんに似合わないほど爽さわやかで温あたたかい表情をしている。

 その理由は恩賞のせいだろう。子爵邸襲撃時は鬼き神しんの如ごとく働いてくれたミナに、何か恩賞をやろうと思い欲しい物はないかと聞いた。さすがに、奴ど隷れいからの解放は無理だが、武具一式くらいは買っても良いと思った。

 そしたら、ミナはとんでもないことを言ってきたのだ。


──もしお許しいただけるのなら、ロベール様の騎士となり、働きたいと思います──


 もちろん、奴隷なので騎士とは形だ。それでもメイドとしての仕事もしっかりと行ったうえで、騎士としても働きたいとのことらしい。

 その理由を問うと、無茶な作戦を思いつき、そして成功させる能力と、兵士一人一人に敬意をもって接していたので、俺のために死にたいと思ったんだそうだ。

 騎士も形だけなら、今までのままで良いだろうと思ったのだが、騎士を目指していたミナとしては、形だけでも俺から叙じよ任にんの儀式を受けて、死ぬときは騎士として死にたいんだそうだ。

 俺にはよく分からなかったが、こういった区切りというのは戦う者として重要なのだろうと思い、許可をした。

 その代わり、俺がヴァンデスと対たい峙じしたときのようなことは二度とせず、蛮ばん勇ゆうで無む駄だに命を散ちらすことがないように誓ちかわせた。

 そして、すぐに剣を買いに行った。騎士の叙任は、前世と似たようなやり方で、肩を叩たたく代わりに、今までの俗ぞく世せでのしがらみを断ち切る意味を表すために、体の周りの空間を剣で切るんだそうだ。

 トランペットを見る少年のように、ミナが欲しがっていた剣を買い、それで叙任の儀式をした。聖句も無ければ様式もない、映画でしか見たことがない叙任の儀式を思いだしながら。