ミーシャの首に巻かれたネックレスは、ギリースーツの中に
しかし、ミーシャは気にした様子もなく、ネックレス以外にも次々とお土産の物色を始めた。
一人一点までとは言っていなかったので、どんどんとお土産を漁るミーシャにあてられてか、仲間の蛮族たちも近づいてきている。ここらで最後の
「皆さん、どうぞ見て行ってください。自身を着飾るためだけではなく、プレゼントとしても最適ですよ。奥様への愛情の現れとして、好きな人への告白のプレゼントとしても使えるものがたくさんあります!」
「アバス! ここはもう大丈夫だ。
「分かった。伝えたら、俺はすぐにここへ戻ってくればいいな?」
「あぁ、頼む」
土産に気を取られているため、彼らが俺へ直接何かする可能性は少ないと判断したアバスは、俺の命令を素直に受けた。
蛮族たちはドラゴンへ乗るアバスに少し視線を向けたが、
□
空で待機している仲間に連絡をしに行ったアバスが戻ってくるのを待ち、俺たちは蛮族の
蛮族の家はテントといった移動し
だというのにもかかわらず、足がムズムズするなと思いそちらを見ると、大きなムカデが足を
そんな問題が多い族長の家で、俺とアバスは歓迎の酒を振る舞ってもらっている。
「ゲフッ……」
もう一杯、など口が
隣に座っているアバスなんて、ひと
「よぉ、ロベール。飲んでるか?」
能天気な声をかけてきたのは、会話のきっかけを作ってくれたミーシャだ。年齢は俺より一つ上の一四歳らしいが、その
今はギリースーツを
「お代わり飲むか?
「おっ、おう……。あまり飲んだことが無い酒だから、今回は様子見でいいや」
「そうか? 蛮族のくせに遠慮がちだな!」
彼らが飲む酒は乳酒のみらしい。さっきミーシャが言った「酒をどんどん飲ませる」というのは。数少ない乳酒をたくさん飲ませるくらい歓迎している、ということだ。
あと、血が入っているのは、大切な家畜を俺らの歓迎のために
「蛮族の客人よ。山羊の血入り乳酒は気に入ってもらえたか?」
ミーシャに続いて部屋に入って来たのは、四〇代後半くらいの男性だ。ただし、ストレスが多いだろう山の中ですごしているので、実際はもう少し若いのかもしれない。
「えぇ。
「それは良かった。昔、蛮族の貴族という奴に飲ませたところ『こんな
「へっ、へぇ~……」
貴族が飲んでいるワインも、いってしまえば腐っているんだけどな。まぁ、人にとって
その貴族は、
助けてもらった恩人に対してその対応。貴族に対して何のフォローもできませんわ。
「申し遅れたが、俺は深き森の監視者であり草原の支配者であるダルエナの子であり、この
長い紹介をしてもらった。ミーシャも深き森の云々と言っていたが、自己紹介の時は毎回言うのだろうか?
「ゴナーシャとは、ダルエナの
「それについては、私としても歓迎すべき事柄です。皆様が話の分かる人間で本当に良かった。改めて自己紹介をさせていただきます。私の名前は、ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカー。ユスベル帝国
胸に手を当てて
「そして、こちらが同じ学び
俺の紹介に、特に何もいうことなくアバスはお辞儀をした。やや話を
「なるほど。私は学校というものをよく知らないが、子供を集めて知恵を与える場所だということは知っている。二人とも
「学校とは、大人になるために必要な知識を教わるところですからね。ただ、世の中の
「大人になるのに、何で誰かから教わらないといけないんだ? 生きるために必要なことは、森が全部教えてくれるだろ?」
ミーシャが心底
「一〇年かかって覚えるのが一年ですめば、残りの九年は別のことに使えるだろ? 人間の寿命は短い。ならば、早く一人前になるに
「う~……。お前の住んでいるところは、息苦しそうだな」
「息苦しいかもしれないけど、その代わり楽しいことがたくさんある。店がたくさんあるし、面白い
息苦しいと感じる人間はいるかもしれないが、俺はそうは思わない。前世に比べたらだいぶゆったりとした空気が流れているからだ。
すると、何が面白かったのか、俺とミーシャの会話を黙って聞いていたラガックが突然笑いだした。
「ハッハッハッ! なるほど。では、お前は知識を与えられたから、その
「その程度の打算で仲良くなるのであれば、適当な土産を部下に持たせて貴方たちに渡し、とっとと帰らせていますよ」
飲んでいたコップに、新たに乳酒を
「こう見えて私は部隊を──兵士を大量に抱える隊長をしています。私がいなくなれば、頭を失った部隊は立ちいかなくなります。そんな私が、今まで交流がなかったここへ訪れ、このように貴方と会話をしている。族長である貴方なら、これがどれほどのことか分かりますよね?」
ラガックは、俺の言葉を
「そうだな。確かに、頭がこのように危険を
「私の願いは、今回の我々の戦争には手を出さないでほしいというだけです。我々と他国の戦争は、ここにいる皆さんには関係のない話です。騒がしくなってしまいますが、出張って来てもらっては困るので」
「それだけか?」
「ここへ来た当初の目的としては、これだけです」
背中を
「場合によっては、持ってきた土産を持って帰ってもらうことになるなぁ……」
「皆様に喜んでもらっているようですが、何かお気に
おかしなことを言ってきた場合は、持ってきたお土産ごと
持ってきた宝石類は、万が一のために持ってきた逃走資金の一部だが、返してもらわなくても俺はそれほど困ることはない。
「フン。お前たちに返すために、他の奴らに渡った物を集めさせるなど造作もない。お前たちはそれで我々が分裂するとでも思っているのか? ならば、お前らは我々を舐めすぎだ。その程度で、我々が
「何を勘違いなさっているのか分かりませんが、お渡しした土産を『返せ』などと言うはずがありません。あれは、皆さまへのご挨拶と共に先ほどのお願いの
こいつは何を要求するのか、と
こういった手合いは、自分の仲間を護ることを第一に考えている。そんな相手に対して、俺のような裏の考えがある口調で言っては、怪しまれて断られるのが関の山だ。
それに、もし散り散りにするのが目的であれば、ここで重要になるのは話についていけずに間抜け面を
「そこで相談なのですが──」
砦の救助作戦とは違う、別の俺が受け持つことになっている作戦を進めるのに、
彼らにも損は無い──特にミーシャが興味を持ってもらえるように話を始めた。
ラガックとの会談の後に、
外とあまり交流がないのか調味料といった物がなく、供されたほとんどの料理が塩味で、残りの少しが骨からとったダシや香草の香りがついている物だった。
外に興味を持ってもらうために、調味料の一つや二つ持って来ればよかった。これは今後の土産リストに付け加えておこうと思う。
□
「よーし。大体集まったな」
「ハッ!
背筋を伸ばし、敬礼しながら元気よく報告してくれたのは、ロベリオン第二皇子が振り分けてくれた
ラジュオール子爵邸襲撃の話をロベリオン第二皇子にすると、
ただし、攻撃目標は相手の領地ではなく、その
それに、死ぬ気などさらさらない。成功させるために、仲間を増やしているのだから。
「ありがとう。──では、集まってもらって早々で申し訳ないが、新しく我が隊に組み込まれることとなった隊員の紹介をさせてもらう」
そう言い、後ろに
「右から、ミーシャ、ララークル、モナークだ。彼らは森の民として
ミーシャたちには、お辞儀や
その態度に、
「隊長。一つ質問をよろしいでしょうか?」
「許可する」
「ありがとうございます。
「ちょっと待て」
話を一時止め、ここに居る全員の耳に届くように大きく息を吸い込んだ。
「──いいか皆! 今後、彼らを蛮族と呼称することを禁止する。彼らは今日から我々の仲間だ。仲間には敬意を払うように! そして、
俺の部隊はすぐに頷いたが、
それを見た
「んじゃ、続きを」
「はっ、はい。率直に聞きますが、彼らがなぜ我々の部隊に編入されるのでしょうか?」
「先も言ったように、彼らは狭い場所での戦闘に慣れている。ここにいる選び抜かれた皆が弱いといっているわけではく、今回の作戦は砦防衛戦の
「では、彼らは
「そうだ。だからといって
そこで、新しく来てくれたミーシャたちだ。彼女たちは山に住む者として、木々が生い茂る狭い山中で戦うことを得意としている。勝手は違うが、屋内でも問題なく戦えると言っていたので、希望者だけ傭兵として来てもらった。すると予想通り、好奇心が強いミーシャが一番初めに手を挙げている。
なぜ
「
突然の俺の問いに、誰もが顔を見合わせた。
現在、ユスベル帝国で特殊戦を担う兵士のボリュームゾーンは、二〇代半ばから三〇代前半だ。体力が落ち始める年齢だが、その代わり技術と経験がある。
実際の戦闘では、若い兵士にある突破力というのはないが、通常の戦闘の他に
今回のように敵将の邸宅を襲撃するのであれば、与えられた任務を
「今後、我々が行う作戦は特殊性、
拳を強く握りしめ、一人一人の目をしっかりと見つめながら聞かせる。
「そのため、若い──今まさにここにいる全員と同じ年齢から、
悔しさを前面に出すために、声を震わせる。
「しかし、これだけは覚えておいてほしい。最後に帝国を
熱く、叫ぶように語った後に、一拍分の呼吸の間を置き全員の反応を見る。
多くが俺の演説に飲まれて顔を
しかし、残る一部は、話が大きくなりすぎて理解が追いついていなかった。
もっと分かりやすく
「我々だけが、この戦争を早期終結させることができる。我々が失敗すれば、死ななくてもよかった者たちが死ぬ。無駄に、だ」
もちろん、俺たちが失敗しても戦争は継続される。勝つか負けるかは分からないが、いつも通りの戦争が始まり、そして終わるだろう。
残る結果は、馬鹿が馬鹿な作戦を始めて無駄に兵士を死なせた、という事実だけだ。
「我々のことは、皇帝陛下も注目されている。そうでなければ、これほどの大役を任せてもらえるわけがない。この作戦が成功した
今度こそ、全員の口から驚きの声が上がった。
やはり、皇帝陛下パワーは凄いな。
「我々の名を、帝国の歴史に
それほど多くない人数にもかかわらず、地響きをさせるような返事をされた。
解散の号を出すと、兵士たちは元気よく
お陰で
「待たせて悪かったな。今回の作戦について君たちの役割分断と、支払われる賃金についてしっかりと話し合おう」
帝国人ではなくとも、これから俺たちは共に行動するのだから、いちいちこんな風に
□
砦の救援のために皇都を出発した部隊、その数二千余名が砦前の草原に到着したという
敵──ラジュオール子爵の兵士は砦の
俺が兵士を焼いたからか、それとも増援が来るということを知ってか分からないが、ラジュオール子爵軍の他にオルター男爵家から借りてきたと思われる兵士も混在していた。
電話などないこの世界では、情報のやり取りは面倒臭く遅い。なので、ある程度予定を立てて動き出さないといけない。
つまり、皇都から来た救援部隊が砦前の平原に到着した瞬間から、俺たちの作戦は始まる。
それまでの俺たちは訓練に
そのため、簡単な骨組みにパラシュートの残りの布を
模擬戦の方法は簡単だ。ラジュオール子爵邸の見取り図を見ながら、突入方法をまとめているだけ。
この子爵邸見取り図は、ラジュオール子爵の屋敷に出入りする商人に聞きながら描いたものだ。所属している商会は隣国のハイヘルネン王国にあるが、たまたまユスベル帝国へ来ているところを
この商人は過去に、ラジュオール子爵の屋敷に行ったことがある、と自慢していたのをマフェスト商会の商人が覚えていたからできた情報収集だ。
この情報がなかったとしても、貴族の屋敷でそこの当主がどこにいるのかはだいたい決まっているそうだが、確証もなしに部隊の人間を送り込むわけにはいかなかった。
突入方法については、第一に四組のバディを組んだ
次に突入部隊だ。俺、ミナ、アバスを含む騎馬騎士を主力とした部隊だ。
こちらは、各ドラゴンに三人ほど分乗し、割り当てられた階層へ突入し、目標の捜索と捕縛をする手はずとなっている。
突入方法がドラゴンに窓や壁を壊させて突入するという荒々しい方法なので、突入に時間がかからないように、また狭い廊下で
最後は回収部隊だ。こちらは、突入部隊を乗せてきた
全員が作戦内容を理解していることを確認して、本日の訓練は終了となった。
「場は整った。では、今夕作戦を開始する」