
俺が、ロベリオン第二皇子が
この一週間で状況は目まぐるしく動いている。
まずは、騎馬騎士本部だ。こちらは上層部の人間が一新され、ほぼ新しい組織として動き始めた。その動きはまだ
次に、俺が所属する
そして、俺の現在の人生で一番の
しかし、ロベリオン第二皇子の時にした説明とは違い、ロベールから直接入れ替わりを命令されたこと、ロベリオン第二皇子の新設組織の幹部として呼ばれたこと、皇帝陛下に会うことになった──これは大げさに言っただけ──という話をすると、彼だけでは処理できない内容になったようで、監視を置いてストライカー侯爵家へ意見のお
監視している侯爵家の人間は、常に俺につかず離れずの距離を
そして、俺が今どこにいるかと言うと……。
「ロベール様、お茶が入りました」
「ありがとう」
インベート
見た目も紅というより黒っぽく、健康志向のお茶な感じがする。
「あまりお口に合いませんでしたか?」
俺がカップの中に入っているお茶を見ていると、味が気に入らないので口が進まないと判断したミナが、本日の
ミナは、あの日から寮内
作戦始動まで時間がなく、四日間というごく短期間の訓練しかできなかったが、ミナは学生時代に
最悪なミスを犯してしまった、と自らを
「いや、初めて飲むお茶だから、味に驚いただけだ」
味が悪いわけではないことを伝えると、ミナは
聞けば、ここへ来る前に行った買い出しで、雑貨屋に寄ったときに買ったお茶だそうだ。そこの店主が言うには、
「アバスも飲むか?」
俺の対面、地図を広げた簡易テーブルの向こう側に座るアバスに声をかけた。
「いや、いい。お茶はトイレを近くさせるし、そもそも俺は
なんだか
「しかし、明日明後日には攻め込むというのに、
外からは、俺の呼びかけに
耳に届く彼らの声は、今から戦争をしに行く、といった悲壮感が感じられず、普段通りの声色だった。
「緊張でガチガチになっているよりもマシだろう。それに、候補生といっても五年生や四年生の上級生だ。実戦にも駆り出されているし、卒業すれば
俺の感想に、アバスは彼らの態度が、さも当然といった感じで答えた。さすが、実家が騎馬騎士の一族で、幼い頃から戦場に立っているだけある言葉だった。
ちなみに、
あの日守られた恩を、今返すと言われた時は
今回の作戦は投下作戦とは違いかなり無茶をするので、情報の横流しをされたくない。
なので、作戦は発動直前まで
そういった意味でも、身内で周りを固めたいのだ。
だが、これも
あの日、騎馬騎士本部で起きたクーデターによって
「ロベール様、大変です!」
膿は流れ出たから安心、と自身に言い聞かせていたら、ドラゴンの羽ばたき音がすると同時に、一人の
「どうした!?」
ただならぬその様子に驚き、立ち上がった。ミナとアバスは手近に置いてあった剣を手に取り、不測の事態にいつでも対応できるようにしていた。
「
「どこで!?」
「ここより、北へ二時間ほど飛んだところです! 蛮族と思われる集団が、山の中へ入っていくのを見ました!」
砦へたどり着く理由となってしまった調査対象の蛮族が、ここへ来て再度現れたようだ。追いかければ見つからず、追わなければ出てくる
天幕へ駈け込んで来た
「戦闘は行われたか?」
駆け込んで来た
「いえ、警邏していた時に見つけただけです」
たくさん集まっている
「こちらには来ていないんだな」
「はい。遠目で単眼鏡を使い確認したので、相手は我々に気付いていませんでした」
良かった。蛮族がどれほど好戦的か分からないが、今ことを
「彼らには用があるんだ。いい機会だから、この際会いに行くか」
蛮族を見つけたという
「フォポールは、ここに残って他の
「分かりました。決して無理をしないでください」
フォポールはフィーノに言われて、インベート準男爵領を拠点として砦の様子を監視していたが、今回の作戦で彼は俺の部隊に組み込まれることとなった。
この数日間でインベート準男爵とも仲が良くなったらしく、何かあった時には
蛮族を見たという
見覚えのある景色が目の前に広がり始めたところで
「左方向に
その声につられてすぐさま見るが、
「何もいないぞ! 本当にいたのか!?」
「はい! あのシルエットを
砦を攻めている敵はドラゴンを使っている。この辺りでワイバーンを駆っているというなら蛮族の可能性が高いが、なかなか
考えていても仕方がないので、
そこは、うっそうと木々が
「俺とアバスで蛮族に会いに行く! 他は距離をあけて空中で待機しておいてくれ!」
ドラゴンで降りたら飛び上がるのが大変そうな場所のため、降りるのは俺だけの方が良かったが、さすがに一人だと他の皆が
他の理由としては、何かやる時はアバスであればこちらの味方をしてくれると思ったからだ。
「危険すぎます! フレサンジュはまだ候補生です! それに、そのような
その土産というのは、これから砦を囲む敵と
蛮族の価値観が分からないのが問題だが、見た目からして高級だと分かる宝石や貴金属類だけではなく、
「作戦を邪魔する場合は、皆殺しにすればいいだけです! 我ら
本気でそんなことを思っているのか、恐ろしいほど
「今回の作戦に参加する
ヒートアップし、手に負えなくなる前に冷や水を浴びせた。
ストライカー侯爵という爵位に加えて、ロベリオン第二皇子から直接幹部になるように
それに、特に彼らを自制させる力があったのが、
「ここには戦闘に来たんじゃない! 危なくなったら、すぐに助けを呼ぶつもりだから頼めるか?」
冷静さを取り戻した皆は俺のお願いに、
山中へはヴィリアに先に降りてもらった。体の大きなヴィリアが降りるために、なるべく開けた場所を選んだつもりだったが、それでも小さかったようで木々の
煩くはあるが、この音のお陰で
それにしても、この森は木々の生い茂り感が
「蛮族がどこから来るか分からない。俺も気を付けるが、ロベールも気を張っていてくれ」
共にドラゴンから地面に降りると、アバスは左手を腰に帯びた剣にそえながら言った。
そんなことを言われても簡単に張れるものではない。現に、ドラゴンの呼吸音以外は音らしい音がなく、耳鳴りがするんじゃないかと思えるほどの
蛮族が来るまでの間、どのように交渉しようか思案していると、隣に立っていたヴィリアが俺を優しく抱き込み
「数人近づいてくるぞ」
「分かった──アバス」
ヴィリアが、蛮族と思われる気配が近づいてきていることを教えてくれたので、アバスを呼んだ。
「どうした?」
「ヴィリアが、何か近づいてきていると言っている」
「そうか」
ヴィリアが言っている、と言っても、アバスは特に気にした風もなかった。たぶん、他の
それどころか、自らのドラゴンに、お前も頑張らないとな、と優しく声をかけながら
近づいてくる、とはいうものの、それがどの方向からか分からない。アバスも周囲に気を配りながら耳を
ヴィリア自身も分からないのか、時々
そんな状態で数分
「鳥の……鳴き声か?」
引っかかるものがあるのか、アバスは首を
「蛮族とやらは
「マジかよ……」
草木の
「今のところ敵意はないように思えるが……。さて、どうなるかな」
頭上に広がる枝や背の高い草を巻き込みながら、ヴィリアは翼を広げて俺に屋根を作った。
元から薄暗い山の中で屋根ができたので、その暗さは倍以上だ。安全のためとはいえ、視野が
「アバス、絶対に動くなよ?」
「どうした? 何かいるのか?」
俺を
「囲まれているらしい」
「そうか」
えらくあっさりとした感想に少々
むしろ、どうやって切り抜けてやろうかという考えが
とても頼もしい友人だ。俺も見習い、そろそろ行動するとしよう。
「俺の名前は、ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカー! ここへは話し合いに来た! 姿を見せてはくれないか!」
アバスが早まるとは思わないが、
同時に、鳥の鳴き声が
鳴き声が止んでから数十秒か、それとも数分なのか分からない時間が流れる。次第に、ヴィリアがイライラし始めた。ヴィリアであれば、俺を守りながら周囲の木々ごと蛮族を
ヴィリアを落ち着けようと体に触れると同時に、目の前の
隣のアバスも、その姿に驚いている。しかし、その驚きも分かる。
偽装服に顔にはドーランの代わりと思われる
「蛮族が、我々に何の用だ?」
蛮族が放った一言に
「皆様と友好を結んでおきたいと思いまして、贈り物を持ってきました」
ヴィリアに取り付けてあった荷物を、アバスと共に
その様子に危機感を覚えたのか、一番初めに声をかけてきた蛮族が大声を張り上げた。
「蛮族と慣れ合うつもりはない!!」
「……これから冬になると、次第に食料が
怒声を無視して、俺は持って来た贈り物の説明を始めた。
山に住んだことがないので塩事情が分からなかったが、この蛮族たちが
あとは、小型ではあるが、酒の入った
現に、彼の後ろに立っている仲間たちは、少しずつこちらに近づいてきている。
「ねぇねぇ! 仲良くなるだけで、これ全部
頭上から能天気な声が
「ねぇってば! それって、仲良くすればくれるの!?」
俺が驚いているのを無視していると思ったのか、その蛮族の女は
「えぇ! 我々と仲良くしていただけるのであれば、これらは全て差し上げます! 我々は、
相手とことを構えている間は、こちらに手を出さないようにしてもらえればそれでいい。
「マジで!? やったぁ──!!」
かなりの高さにある枝から蛮族の女は降りてくると、猿以上の身軽さでこちらへやって来た。
「うっお、すっげぇぇえ! これ、蛮族の貴族とかいう奴らが身に着けてるヤツじゃん! カッケー!
「おい、ミーシャ!
今まで話していた蛮族がお土産を
「ミーシャって、川で水浴びをしていた奴か?」
「えっ!?」
顔に塗られたドーランのせいで顔が見にくいが、このアホ丸出しの喋り方はあの日会ったワイバーンに乗っていた女の子に間違いなかった。
「──あっ!? あんた、あの時、河原で
途中で俺の名前を思い出すことを諦めたミーシャは、誤解のされやすい言葉を吐きながら俺のことを思い出した。
「何であんたが蛮族の鎧を着てんだよ! ってか、あんた蛮族だったのかよ!」
「いや、それはこっちの
と、そこまで口にしてふと気づいた。今ここで見下すつもりはなくても相手を蛮族と
「俺が蛮族のはずがないだろ? もし蛮族だったら、こんなお土産を持ってくるはずないじゃないか」
箱から一番
「そっか! それもそうだな!」
間抜けな顔を
「あぁ、その通りだ」
今の会話で、蛮族探しの時にしたミーシャとの会話の
だから、俺がミーシャたちのことを探して西へ来ても、蛮族と聞いたミーシャはユスベル帝国のことを思い出して東と言ったのだ。
蛮族と
ならば、背中を
「なぁなぁ、この首輪も良いの?」
先ほど俺が持っていた一番豪奢なネックレスを手に持ち、ミーシャが聞いてきた。
「あぁ、良いぞ。これはお土産で、あげるために持ってきたヤツだからな」
「ヤッター!」
俺から許可が下りると、ミーシャは喜びながらネックレスを巻き始めた。だが、
「なぁなぁ、似合う!?」
「う~ん……ちょっと見えないかなぁ~……」