「あぁ、あれには驚いたよ。トップ争いの政争はたまにあることだが、
聞けば聞くほど、今回の騒動は国の一大事なはずなのに、それを語るロベリオン第二皇子の口調は軽かった。
かなりの人数が
「色々と危ない香りを
「クーデターを画策した、というと、青年幹部のことですか?」
「いや違う。ストライカー
騎馬騎士のヴァンデスに替え玉がバレてしまった、と手紙を送ったのだが、まさかこんな大事にしてまで助けてくれるとは思わなかった。さすがに、ストライカー侯爵といえども、替え玉が
しかし、クーデターを画策したのがストライカー侯爵家だけなら分かるが、そこになぜ学校も入ってくるのだろうか?
「先も言った通り、このクーデターは政争の延長にあると思っていた。もちろん、色々な思惑が
ロベリオン第二皇子がそこまで言うと、隣に座っている男性がバトンを渡されたように話し始めた。
「初めまして。私の名前はルーディー・プランク・ドゥ・マクシーマと申します」
「……初めまして。ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーと申します」
俺の自己紹介を聞いたルーディーは小さく笑みを浮かべ、目を細めた。
「君がロベールだということはよく知っている。しかし、君はどこのロベールだ?」
「ッ!?」
予測していなかったところから飛んできたパンチをモロに受け、一瞬でノックアウトされた気分になった。
投下作戦の帰りは、ここまで寝ずに帰って来た。そんな寝不足になった頭を
バレている、となぜ考えることができなかったのか。
「私は、ストライカー侯爵家の第一子であるロベールと
どうするか……、と冷静に考える。心臓は
髪の色は染めているとでも言えばいいが、顔の方はどうにもならない。ロベールの顔を最後に見た俺でも、似ているところなんて全くなかったと理解しているんだから。
ヴィリアには、ここへ来ていることは伝えていない。そもそも、疲れから寝ている可能性もあるので、名前を呼んでも来てくれる可能性は低いかもしれない……。
──いや、来る。絶対に、だ。だが、ヴィリアが来てくれたとしても、それまで俺が生き残っているかは別問題だ。
静かに、かつ
「いやいや、そう
張り詰めた空気を振り払うように、ロベリオン第二皇子は笑いながら言った。それに続いて、ルーディーも話し始める。
「私は、ストライカー侯爵家のロベールという奴を知っている。そして、その
二人の声色には、今すぐ俺をどうこうしようといった雰囲気は感じられなかった。話の内容から、どちらも俺が偽者だと知っているが、入れ替わったのはストライカー侯爵家の指示だと思い込んでいるようだ。
「いつかは誰かから指摘されると思っていましたが、ロベリオン様からだとは夢にも思っていませんでした」
今すぐどうこうなる訳ではないと分かったが、今は良くてもいつ天候が悪化するか分からない。平静を装いつつ、逃げる算段は常に考え続けたほうが良いだろう。
「正直、君の話を聞いてその姿を見たとき、ストライカー侯爵も思い切ったことをしたな、と思ったんだ。髪の色が珍しいし、ルーディーが言うには見た目も
なぜ侯爵はこんな思い切ったことをしたのか、と聞いてきたが、その侯爵に一度も会ったことがないので、そんなことは知らない。しかし、ここで答えに
「私は、ストライカー侯爵様の息子である、ロベール様に会ったことはありません。ストライカー侯爵様から、『息子に
「しかし、そうであれば、なおさら容姿を近づけるようにするのでは?」
ルーディーは、俺の矛盾した言葉に頭痛をこらえるように、指でこめかみを押さえながら聞いてきた。
「言い渡されたのは、今年の一月すぎです」
「あぁ、それは……」
「なるほど、だからか」
二者二様と言えばいいのか、俺の返答に二人はそれぞれ違う印象を受けたようだ。
「君は、
「はい。本来であれば入学に間に合わせる手はずでしたが、私は貴族ではないのでその知識を身に着けるのと同時に、ドラゴンにも
いちおう、整合性がとれるように話を作っている。ルーディーも、それなら
「では、君の親──いや、ストライカー侯爵は容姿が似ていることよりも、頭の良さで君を選んだということか?」
「それは分かりませんが、侯爵様に私の新しいことに挑戦したい、という意思をくみ取っていただけたのだと思います」
俺の答えに、ロベリオン第二皇子の口の
──新しい物好き同士、話を
「なる──」
「それは、君が準統治領で行っている政策と関係しているのか?」
ロベリオン第二皇子の話にかぶせるように、ルーディーは口を開いた。
話し始めると長くなりそうな内容なので、目的を
「そうですね。自分で言うのもなんなのですが、私は新しい物や考えが大好きです。なので、毎日色々なことに思いをはせ、それが可能かどうか頭の中で研究することが大好きです。しかし、それらを行うには様々な物を必要とします」
「優秀なロベールを演じる代わりに、君は侯爵にパトロンになってもらったということか?」
「そう受け取ってもらって構いません」
俺とルーディーの会話を静かに聞いていたロベリオン第二皇子は、冷めてしまった紅茶を一気に飲み干して再び問うた。
「
自分の価値を下げないため、その仕事ができるのは自分だけの方が良い。それは、技術を持つ人間のほとんどが抱いているであろう考えだ。
そういった考えは、この世界ではとても
「確かに。開示した情報は全部が全部、私が考えたものではありません。ですが、学校で発表した内容は、どれも
準統治領が街づくり系ゲームみたいで面白く、その成果を発表したかったから、とは口が
それに、真似をする人が多くなれば食糧事情も改善され、
「でっ、では、君に知識を
「賢者……かどうかわかりませんが、知識の師事を受けた人はいます」
「それは誰だ? これほどの知識を君に与えられるのであれば、よほど高名な賢者に違いない」
すぐに探す準備を、とルーディーに耳打ちするロベリオン第二皇子に、俺はなるべく申し訳なさそうに見えるように目を
「彼は、自らのことを、賢者ヒポポタマスと名乗っていました」
今のところ、この世界でカバと呼ばれる存在を見たことも聞いたことも無かったが、用心をしてその部分は英語にした。
当たり前の話だが、そんな賢者の名前に心当たりがない二人は、賢者だけではなく学者の名も思い出しながら探し始めた。
「きっ、君の師は、二つ名や有名な言葉を持っていなかったか?」
「二つ名や言葉ですか……?」
カバの二つ名は何だっただろうか……。
「ヒポがよく言っていた言葉ですが、『もし私を探す奴がいるとするならば、私はそいつの前で逆立ちをしてやろう』と
さすがにこれは馬鹿にしすぎたかな、と思わないでもない。カバだけに。
言葉の意味が分からない二人は、俺が言った賢者の言葉から近しい人物を再び探し始めた。
しかし、近い人物も思い浮かばなかったようで、とうとう俺に直接聞いてきた。
「その賢者は、今どこにいるか分かるか? できたらで良いのだが、この国へ呼びたい」
「あ~……、それは無理ですね。もう死んじゃいましたから」
だからこそ私が里に下りてきたわけで、と伝えると、二人はバツの悪そうな顔をした。
「すまない。その歳で知識の泉である賢者から離れるというのだから、それは自らの意思だけではないだろうと気づくべきだった。許してほしい」
「私も少しはしゃぎすぎてしまった。許してほしい」
俺の知識の元である
二人そろって頭を下げたのは良いが、ルーディーはともかく、第二であってもこの国の皇子が出自の分からない賢者の弟子に頭を下げるのは大丈夫なのだろうか?
「いえ、別に気にしていません。人はいずれ死にます。死に対して人ができることは、後悔がないように生きるかどうか、です」
「そう言ってもらえると助かる」
俺が気にした風もなかったからか、包んでいた重い空気がすぐに
「先ほどの話の延長になってしまって申し訳ないが、君は賢者ヒポポタマス様からどのような知識を受け取った?」
「質問が
「そうか。では、これまで学校で発表した知識は、賢者ヒポポタマス様から受け取った知識を袋いっぱいの麦としてどのくらいだ?」
知識量のパーセンテージの話か。これも漠然としすぎているけど、まぁ適当で良いだろう。
「一摑みもないんじゃないでしょうか?」
必要に迫られて、ふとした拍子に思い出すこともあるだろうが、ほとんどはうろ覚えの知識だ。
「あれで一摑みだと!?
二人
しかし、ロベリオン第二皇子は俺の答えに満足したのか、大仰に
「今、私は新しい軍隊を作ろうとしている」
突然始まった機密情報の開示に、どう対応したらいいのか迷った。
「今回、騎馬騎士本部で起きた間者の引き入れは、力を付けつつある
仲が悪いのはトップで、
「そこで私は新しい軍隊──騎馬騎士と
騎馬騎士の輜重隊がいなければ、ドラゴンの運用はできない。騎馬騎士が
それどころか、追い込まれる一方となる籠城戦において、リスクを
「このような作戦を思いつくだけではなく、さらには仲間の竜騎士と共に戦地へ
そんなにも
それと同時に、今──俺の未来のために一番欲しい言葉が出そうだった。
「そんな君を──」
ゆっくりと
呼吸を整え、平常心を心がける。
「──私が組織する第三軍
よし来た! 来たぞ!
「よっ……良いのですか……!?」
望んだ以上の最良な結果に、声も手も震える。腹の奥から、笑いが
その震えを、ロベリオン第二皇子は感動から来る震えと勘違いしたようで、真剣な顔で俺の手を握って来た。
「その知識、我が軍で存分に振るってくれ」
「分かりました。砦を取り戻すために尽力します」
こうして俺は、
しかし、これを成功させた
これは、絶対に失敗できない。