
結局、俺とヴィリアは一二騎の
共に飛んでいたフィーノも、一騎落とし、二騎を撤退させていた。
敵という目先の
「テメェ! 自分が何したのか分かっとんのかぁ!!」
「ぐっ……!?」
カムテー村に降り立った瞬間に、すぐに
身長差があり、さらに俺自身の体重が軽いので、胸倉を摑みあげられるとギリギリ地面につま先が
「だんまりか、クソボケェ!!」
首を
怒りでわけが分からなくなっているフィーノを何とか落ち着かせようと、
「ぐはっ!?」
しかし、その腕が俺の顔面に振り下ろされることはなかった。
それまで
身動きが取れず声どころか息もできないのか、フィーノは
「ヴィリア、
「────」
フィーノを摑むのを止めてくれと言ったにもかかわらず、ヴィリアは止めるどころか、さらに握力を強めていった。
「頼むから離してくれ。お前と離れたくはないんだ」
そのまま地面に転がるように座ったフィーノは、
「あぁ、それでいいぞ、ロベールのドラゴン」
ヴィリアに負けず
彼女は
「がぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
顔面を強打されたフィーノは、悲痛な叫びを上げながら手で顔を
「うぐっ──
ぁっ!?」
鞘に収まっているとはいえ、金属の塊で顔面を
「何をしたのか分かっているのか、は、お前の方だフィーノ! 何、理由も聞かずに殴ろうとしてんだ!」
リッツハーグは軍用靴のつま先で、顔面の激痛に
「お前が学生の頃に犯した間違いを、先生は理由を聞かずに殴り飛ばしたことがあったか! カショール大将も、理由を聞かずに怒鳴ったことがあったか! お前は、そんなに偉いのか!」
サンドバッグを蹴り上げるような
寝不足と疲労からか、普段よりも性格がかなり
フィーノが動かなくなったからか、肩で息をしながら蹴るのを止めたリッツハーグがこちらに向き直った。
「あの馬鹿が申し訳ありませんでした。殺してやりたいかもしれませんが、あんなのでも
加減──と言っても良いのか、どれだけ殴れば人が死ぬのか理解しているのか、リッツハーグは動かないフィーノを全く気にすることなく、俺に頭を下げてきた。
「あっ、ありがとうございます……。ですが、フィーノ氏の言い分も分かるので、そこまでする気はありません」
俺にフィーノを殺すような意思はなく、今後も何もする気はないと聞くと、リッツハーグはホッと
「何があったのかお聞きしても?」
フィーノに自ら
ここまでしたリッツハーグの言い分としては、
だがそれ以上に、理由を聞かずに俺を殴ろうとしたフィーノが許せなくて、これほどの
ちょっと過激すぎやしないか?
「物資投下後、敵宿営地に火炎瓶を投げ入れました」
「……火炎瓶とは、油を入れた
「はい。今回の物は、油ではなく
瞬間、ほんの少しだけリッツハーグの顔が
油を入れた火炎壺は、籠城戦の時に
だからこそ、それを使用した後の
「無抵抗な者を焼き殺した、ということか?」
フィーノのときと同じように、口調が変わり始めた。フィーノと幼馴染みというだけあって、似た者同士なのかもしれない。
「皆、戦闘準備をしていた兵士です。あの場に無抵抗な者など一人もおらず、皆が皆、攻めてきた我々──敵を
だからこそ、空の上からこちらへの攻撃手段がない
だが、それがどうした。
スパイに入られている可能性がある状況で、そんな
味方は弱り、数が減っている。チャンスがあれば敵の数を減らさなければいけないだろう。
「──それは、
リッツハーグの声が震えている。険しい顔をしていることには変わりないが、それでもちゃんと話は聞いてくれるようだ。
「出撃直前に。口外するなと騎馬騎士本部の方から、特務として命令されました」
今度こそリッツハーグの顔が怒りに染まった。
その怒りに染まった顔を見ながら、俺は内心ほくそ笑んだ。
□
カムテー村で
ここに呼ばれた理由は、戦果報告と今後の
ここに来る前の
「まずは、前代未聞ともいえる強行作戦を成功してくれて、ありがたく思う」
カショール総大将から深い声で感謝の念を伝えられ、その場にいた
「今作戦について、皇帝陛下からも合理的かつ早急な対応である、とお
よくやったぞロベール、とカショール総大将が俺を褒めると、周囲の
よくある社交辞令の一種だろうけど、皇帝陛下が会ってみたいと言うだけでこれほどザワつくなら、かなりの戦意向上効果があるようだ。
「ありがとうございます。候補生の身なれど、敵に対し
少し優等生ぶりすぎたか、と思わなくもないが、これから話すことを考えれば、このくらいが
「さて、疲れているところ申し訳ないが、今後の方針について話し合っていきたいと思う。未帰還者はまだいるが、その者たちは他の者に探させているので今は置いておいてくれ」
空気が静かに固くなるのを感じた。疲れているとはいえ、周囲に気を配れず落伍者をだしてしまったという思いがあるのだろう。
「物資は途中
「はい。最後方で仲間が投下するのを見ていましたが、それくらいの数を無事に投下できたと思います」
カショール総大将の質問に答えたのは、投下部隊で一番後ろを飛んでいたバース隊長だった。
「分かった。これで、騎馬騎士たちが砦へ着くまでの食料や武器の心配はしなくても良さそうだな」
と、そこで言葉を区切ったカショール総大将は静かに息を吐くと、俺を見た。
「この戦果報告の他に、重大な事実があったことを皆に伝えなければいけない」
フィーノかリッツハーグかは分からないが、あの話が皆にも伝わっていたようで、周囲から俺に対する視線が強くなった。しかし、それで
「物資投下をした後は即時
「はい。その通りです」
「その時のことを、出撃前から説明してもらえないか?」
「分かりました」
カショール総大将に促され、出撃前に行われたことになっている作り話の説明を始めた。
これについては、帰還後すぐにカショール総大将に報告をさせられた。今は、再確認すると共に、他の
作り話の内容は、最終確認として
堂々と分かりやすく
「こういうことだ。私は彼から話を聞き、すぐさま騎馬騎士本部へ連絡し、輜重隊責任者に出頭するように
輜重隊責任者は、あの人の良さそうなおっさんだ。後できちんと違う人間だったと言うつもりだが、今この時だけは犠牲になってもらうしかない。
「残念なことに、輜重隊責任者は行方不明になっているらしい」
「ッ!?」
「捜索を続けているが、輜重隊の保管室からお金も盗み出されていたらしい……」
残念そうに目を伏せるカショール総大将には申しわけないが、俺は驚きと共に変な笑いがこみあげてきてしまった。
あの時会った人の良さそうな輜重隊責任者は、どうやら他国のスパイかそれに
もう、
□
軍議が終わると共に、カショール総大将から呼び止められた。何でも、ユスベル帝国のロベリオン第二皇子が俺と会いたがっているそうだ。
ロベリオン第二皇子は大変珍しい物好きと有名だそうで、今回の騎馬騎士本部のクーデターを収めた人物でもあるらしい。
そういえば、帰って来てからドタバタしすぎて気付かなかったが、
しかし、今回会うのは非公式な話らしく、
皇城横にある、ロベリオン第二皇子の邸宅に着くと、話は通っているらしくすぐに
新しい物、珍しい物が好きだということは聞いていたが、調度品が風変わりなデザインの物であふれていた。
「何か気に入った物はあったかい?」
俺が調度品を
「目に
もちろん、
美術品と呼べるものを見たのは、前世で高校生の時にデートで行った美術館くらいだ。そんな俺の感想に気分を良くしたのか、笑顔で俺の向かいの席に
すると、すぐに執事が部屋に入って来て、
そして、ロベリオン第二皇子と一緒にやって来た青年を
「
「もったいないお言葉です。私も、混乱の
これは本当だ。あのお祭り騒ぎを、国家元首である皇帝陛下ではなく、その息子のロベリオン第二皇子が収めたというのだから気にならないはずはない。どのような手を使ったのか聞いてみたかった。