ニヤリ、と笑うミシュベルの表情から、出て行けば
これで、俺が作ろうとしている派閥の仮の人員が決まった。まぁ、いつも通りのメンツだけどさ。
□
派閥を作ると言っても、これといって
斥候との戦闘以降は、俺の周りで大きな出来事はなく、一時期はウザいほど来ていた軍の人間も全く来なくなると、それはそれで寂しいものがある。
そこで、今ユスベル帝国で一番話題になっているマシューの様子を見ようと、週末にヴィリアを
その騎馬騎士たちに何か進展があったか聞いたのだが、ミナたちに調べさせた時に回収した、斥候が使っていた物以外に目ぼしい物は見つかっておらず、追加の斥候も来ていないそうだ。
このまま問題がなければ近いうちに国境沿いの
相手がただの
しかし、実情を知っている俺やマシューの町長や顔役たちは、町民たちと同じように工場が再稼働できるので騎馬騎士が帰るのは嬉しくはあるが、それ以上に心労が
「ロベール様ぁ。服ができあがりましたよぉ」
マシューに駐屯している騎馬騎士について考えを
彼女の名は、ブロッサム・インベート。インベート準男爵家の長女だ。隣のクラスには双子の弟も通っている。弟の方は、俺やアバスよりも背が高くガタイも良い戦士のような体格であるのに対し、姉のブロッサムは背が低く
ただし、見た目は幼子のような容姿をしているが、並みの男とは比較にならないほど
その理由の一つとして、父親がユスベル帝国だけではなく、他国でも名を上げている
今は準男爵という、名誉士爵以上男爵未満という
アムニットと同じように、父親の爵位が低いために、クラスでは下位のグループに属している。そんな彼女がなぜ俺と話すようになったのかというと、俺の飛行服のボタンが取れた時に付け直してくれたのが始まりだ。
飛行服の
手際の良さに驚いていると、父親が準男爵とはいえ、辺境に領地を構えているため
ブロッサムは縫い物だけではなく、
なので、尊敬の念も込めて最近ではブロッサム先生と呼ぶようになっている。
「あぁ、ありがとう。──
ブロッサム先生から受け取った服は、俺が平民街に出かけるときに着ている物だ。貴族の様に
この服はブロッサム先生の弟がまだ小さい時に着ていた物で、それを多少手直しした物を
実際はもっと払おうと思ったのだが、
とにかくこれで、再び町を
「ロベール様」
名を呼ばれたので振り向くと、アムニットが何やら楽しそうな顔をして立っていた。
「これは、うちの商会で扱っている服なんですけど、よろしければミナさんにと思って」
差し出されたのは
「ん? おぉ、ありがとう。渡しておけば良いのか?」
差し出された服を受け取ろうとすると、アムニットは驚いた顔をして手を引っ込めてしまった。
「もっ、申し訳ありません。ロベール様にそのような
しどろもどろになりながら、アムニットは差し出された服の説明をした。俺としてはメイドのミナに服を渡すくらいどうとでもないが、アムニットの様子からすると雑用をするのは貴族的によろしくないようだ。
「いや、別に構わんぞ。でも、ミナには給料もやっているし、それほど困っているはずはないんだけどな?」
住み込みの場合、新米メイドや簡単な作業しかできない雑用メイドに給料は支払われない。それは、食と住が保証されているからだ。
一通り仕事ができるようになった
その雀の涙程度の給料を
それを考えると、未経験の新米メイドのミナは給料が支払われている分、他の家に
「お金を貯めているそうで、服飾や
「あぁ、なんか知らんけどお金を貯めてたな。給料を受け取る度に、貯金箱に入れてたわ」
初めは皮袋に入れていたのだが、
カモフラージュするために、中身をくり抜いた本の中へ入るような形にしてもらったのだが、この貯金箱が貴族の間で大変な人気となっている。
貯金箱としてではなく小物入れとしても人気なのだという。立場の弱い貴族の
こういった隠し方は昔からあったそうだが、今までは貴重な本物の書籍を
どこで何が
「でもいいのか? 結構、良い物みたいだけど」
「ミナさんには、色々とお世話になっていたので。それに、少し前に新品の服をプレゼントしようとしたら『そのような物は受け取れません。それに、ロベール様の許可も取らずに』と言われたので」
まぁ、ミナらしい断り方だな。それで、今度は中古品でさらに俺へ事前に許可を取ったということか。
「では、ミナさんに渡しに行ってきますね」
「分かった。俺はまだ
「はい、分かりました」
俺から許可を得ると、アムニットは笑顔で足取り軽く教室を出て行った。
□
数日後、アムニットからもらった中古の服にどう対処したものか、と悩んでいたミナが落ち着き始めた頃に再び問題が起こった。
寮にある俺の部屋に、チラホラと手紙が届き始めたのだ。その内容は、皆示し合わせたように、俺の派閥へ入りたい、というものだった。
俺が派閥を作りたいということは、あの時居た三人以外には話しておらず、あの場で他言しないように言っておいた。もしやミナが他言したのか、と思ったのだが、違うと必死に
「ロベール様くらいの人物が何か行動をしようとすると、いくら無関係を
ミシュベルは、派閥に入れて欲しいという手紙について、さも当然と言わんばかりにそう結論づけた。
「でも、派閥を作るといっても何か行動をしているわけじゃないし、今のところいつも通りお茶を飲んでいるだけだぞ?」
「聞いた話によると、ロベール様が好んでお座りになられる室内席、屋外席はすでに
ミナの言う上級席というのは、俺の──ロベールのような上級貴族が好んで座る席の通称だ。その席は
他には
下級席とは、その名のニュアンス通り誰が座っていてもいい席だ。
俺の席として指定されている場所は、別に俺が決めたわけではなく、よく空いていたから座っていただけだ。
屋外に関しては、いい感じの
にもかかわらず、このようなことになってしまうとは、人の想像力とは恐ろしいものである。
「どうしたものかな……。人は欲しいけど、さすがに他人を入れるほど方針なんて決まっていないし……」
グダグダと悩むのは
自分の居場所を作る、という考えが固まる前であれば、全く悩むことなく行動を始めることができただろう。だが、今はその、居場所を作る、というのが足かせになってしまっている。
「あの……
ここにいる皆の世話をしていたミナが、おずおずとした申し訳なさそうな
「なんだ? 良い
「同じように手紙を送ればよいのです。『今はまだ派閥を大きくするつもりはないが、いずれ大きくするときは力を貸してほしい。この話は
こういった話はミシュベルの口から出てきそうなものだが、今回は珍しくミナから出てきた。俺が予想していたミシュベルは、その話を特に気にした様子もなく紅茶を飲みながら耳を
「手紙なぁ……。口が軽い奴がいそうで怖いんだよなぁ……」
その案は俺も一応は考え、そしてやめた。
手紙でのやり取りは、時間がかかるうえ
そこまでは良いのだが、実際に手紙を送り、その手紙を貰った全員が口をつぐんでおくことができるのか、という心配が出てくる。
それが恐ろしくて、やろうにもやれないのだ。
「そこは問題ないと思いますが?」
ミナは、悩む俺を不思議そうに見つめながら言った。
「なんで?」
「ロベール様は
それに──、とミナは言葉を続けた。
「ロベール様ほどの方に声をかけていただいても、相手は腹の中で何を考えているか分かりません。
難しい顔をして言い終えたミナだったが、一呼吸置くと、再び口を開いた。
「──どれだけの地位に居ようとも、人間とは欲深い生き物なのです」
口を一文字に結び、難しい顔をしたままでミナは一息ついた。そしてすぐに、
人の腹の中は分からない、とはミナの経験からの言葉なのだろうか?
ここへ来るまでの身の上話を聞いていれば
しかし、それが何なのか俺には分かるはずもなく、また聞けるような雰囲気ではなかったので、その場は静かに
俺が作る派閥へ参加したい、と言ってきた奴らについては、ミナが提案した手紙を送りキープする方法をとることにした。俺や俺のそば