
竜騎士育成学校の一室。ここは石造りの堅牢な外観に似合うガッシリとした作りになっており、この部屋の主な使われ方を考えればその作りこそ一番良いと言えた。
そこに集まっているのは、竜騎士育成学校の校長を始め、竜騎士本部と呼ばれる竜騎士を管理する組織の重鎮たちだ。
ここではこの間、他国からの斥候とユスベル帝国の竜騎士候補生が戦闘になったことについて話し合われていた。
しかし、その斥候についての話し合いはわずか数十分で済まされてしまい、その後は斥候と戦闘を行った竜騎士候補生と、その飼い主であるストライカー侯爵の話になっていた。
「替え玉とはいえ、あれだけのことが起これば、家の方から誰か派遣すると思ったが……」
円卓を囲む一人が独り言のように呟いた。それに続き、他も口々に話し出す。
「まさか、ストライカー侯爵が何ら行動を起こさないとはな」
「それらを治める能力があり、信頼している──ということだろう。ドラゴンの扱いも、類い稀なるものがあると聞く」
話し合われていたのは、現在竜騎士育成学校に籍を置くロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーについてだ。
彼はストライカー侯爵家の嫡子であるロベールとして入学してきた。初めの内は、顔が知られていなかったのと侯爵家の人間という立場から大きな騒ぎとならなかったが、時が経つにつれ、次第に人となりが違うことが知れ渡っていった。
竜騎士学校でも騎馬騎士学校でも替え玉入学というのは古くから存在していたが、いずれも将来政敵につけ込まれる隙となる。にもかかわらず、ユスベル帝国の上級貴族であるストライカー侯爵家がやったことに対して多くの貴族が驚愕した。
貴族ではなくとも注目されてしまう替え玉入学は、この場にいる全員が失敗すると思っていた。
しかし、無駄金がかかるだけ、と言われていた旧皇都再興を始め、他国の斥候を単騎で押し返す偉業を成すことで皇帝陛下からの印象を良くし、替え玉という存在を除けばストライカー侯爵家の存在感は以前にも増し、その姿には後光が輝いているほどだった。
しかし、それを面白く思わない連中も中にはいる。そんな奴らが、ロベールの準統治領であったマシューからの救援要請に対して初動を遅らせることをした。替え玉の危機に対して、ストライカー侯爵がどのように動くか見るためだった。
ストライカー侯爵側は、初めこそ慌ただしい動きを見せていたが、ロベールが無事であると確認されると、それ以上の動きをすることは無かった。つまり、この騒ぎを治めるだけの能力がある、とストライカー侯爵が信頼を置いているという裏付けでもあった。
「しかし今回は、ストライカー侯爵家の替え玉が優秀であったことに助けられたな。報告を聞いた限りでは、帝国に万が一のことも在り得ただろう」
「確かに。旧皇都復興や皇帝陛下への対応、そして竜騎士本部の未来を考えても今ここでやり玉に挙げるのは尚早と考える」
一人の言葉に対し、確かに、と替え玉の存在を暗に認める声がチラホラと聞こえた。
竜騎士という存在は、ドラゴンという特殊な存在がいることで成り立っている。そのドラゴンは繁殖が難しく、また育てるのも難しい。
ユスベル帝国が竜騎士発祥の地だが、竜騎士の総数は騎馬騎士と比べて遙かに数が劣っている。それに、単体の攻撃力は高くても、平時戦時共にその仕事内容は帝国に対する貢献度が低く見られてしまっている。
竜騎士を円滑に運営するには、地上部隊を包括する騎馬騎士本部の力が必要となり、そのため現在も戦争の花形と言えば騎馬騎士となってしまっている。
いうなれば、立場が弱いのだ。
「扱いに関しては、私の方からストライカー侯爵へ手紙を出しておこう」
「おぉ、それはありがたい」
替え玉の送り元であるストライカー侯爵家への手紙は、竜騎士育成学校の校長が送ることとなった。
他の重鎮たちもそれなりに名のある貴族ではあるが、ストライカー侯爵家と交流がある訳ではない。たとえ交流があったとしても、万が一の時に降りかかる火の粉は最小限に抑えたいから手紙を送りたくはなかった。
「彼の者の能力を鑑みれば、これからの竜騎士本部に必要な人材であると私は考える」
もちろん、マシューで行われている再興事業に関して、全て替え玉一人で行われているとは誰も思っていない。何らかの形で実家からの協力者がマシューに入り、知恵を貸しているのだろう、と思われている。
だが、そうであっても自分たちが彼の者を上手く動かせば、帝国だけではなく竜騎士本部にも多大なる利益をもたらすことになるだろう、と考えたのだ。
ならば、竜騎士本部の表には出せない総意としては、替え玉が行動をし易いようにお膳立てをしてやることだった。