アイスクリーム試作

今日はわくわく、アイス作りの日!

とりあえず試作してみて、細かい造形や色付けなどは後から調整するつもりである。

材料はシンプルに、ミルクと卵と蜂蜜のみ。

生クリームというものはなかった。お砂糖も東方からの輸入品で黒砂糖が少々あるだけで、数量の確保が見通せなかったため蜂蜜を使うことにした。

あと、バニラエッセンスはもちろんバニラビーンズもない。この辺は入手できるスパイスを後々工夫してみようと思っている。

ついでに言うと、ミルクは牛乳ではなく山羊ミルクだ。

ユピテルでは牛は主に農耕用や儀式用の家畜で、ミルクといえば山羊なのである。次に羊が来るが、一番メジャーな山羊で問題はない。

さて、いよいよアイス作りタイムの始まりだ。

午前中のうちから厨房を借りて、私、ティト、マルクス、アレク、ラスが集まった。他にはフェリクスの料理人が何人かついてくれている。

「新しい氷のお菓子だって? かき氷以外にも商品が増えるのか?」

マルクスが興味津々に言う。

「かき氷より高級路線だから、売り場は調節しないといけないけど。いずれ一般販売も考えてるよ」

「かき氷も最初よりコストダウンしただろ。それも工夫次第でいけるんじゃねえの?」

「さあ、それはやってみないとね」

そんなことを言い合う。

アレクとラスは初めて入った厨房を探検するのに忙しい。その辺の食器や料理の材料をひっくり返されないかと、料理人たちがおろおろと見守っていた。

まず、手鍋に山羊ミルクを注ぐ。

かまどは既に調整済みだったので、すぐに火にかけられた。料理人さんありがとう。

ミルクをかき混ぜながら蜂蜜を溶かした。

次に鍋はティトに任せて、私はボウルと卵を取り出す。ここで魔法の呪文を一つ。

『公正なる死の精霊よ、れに宿る、人の目に映らぬほど微細なる生命たちを、全て死に至らしめ給え』

殺菌消毒の魔法だ。

アイスクリームは何時間か凍らせるとはいえ、生卵を使う。そのまま食べるのはサルモネラ菌とか食中毒が心配だったので、前に作った魔法を使っておいた。

卵を加熱するレシピもあるから、その時は魔法を省略すればいいだろう。

余談だが対象を『生命』にしたから、ウイルスに効くかどうかは疑問が残る。あれは厳密には生命ではないらしいので。そのうち検証してみたい。

卵を割って卵白と卵黄を分ける。まずは卵白を泡立ててメレンゲ作りだ。

泡だて器はもともとはなかったのだが、金物職人に頼んで作ってもらった。

頑張ってガシャガシャと泡立てたのだが、砂糖を入れていないせいできれいなメレンゲにならない。

そうなるかもと予想してたけど、思ったよりも砂糖がないのがつらい。生クリームもないせいで、あんまりコシが出ないぞ。

まあいい、今回は試作だ。

できるだけ混ぜ混ぜしてメレンゲらしきものを作った。さらに卵黄と蜂蜜を溶かしたミルクを入れて、今度はヘラで混ぜる。

出来上がったものを、冷凍庫もどきに入れる。

冷凍庫もどきは、箱の内側を白魔粘土で覆ってドライアイスを詰めたものだ。しっかり密閉されるように作ってもらった。

これで三時間くらい冷やしつつ、途中で何度かかき混ぜればアイスが完成する。……はず。

「意外に簡単ですね。新しいお菓子というから、もっと複雑だと思っていました」

と、ティト。私はうなずいた。

「うん。基本の作り方はこんなとこだよ」

今回は卵白をメレンゲにして使ったが、卵黄だけを使うレシピもある。

アイスの基本レシピは案外数が多くて、アレンジを入れるとバリエーション豊かだ。

「姉ちゃんが料理できるなんて、知らなかった」

厨房の探検を終えて、アレクが言う。

出来るよ? 前世はブラック労働のせいで時間なくてほぼ外食だったけど、たまに自炊もしていたもの。

学生の頃は、アイスを含めてお菓子作りを時々やっていた。ただ、私の手作り品はなぜかあんまり評判が良くなかったが。なんでかな。

「出来上がるのが楽しみです」

ラスがにっこり笑う。私も笑みを返した。

「今から冷やせば、お昼ごはんのデザートに間に合うと思う。楽しみにしてて」

「わーい!」

「はーい!」


そうしてお昼時になり、冷凍庫からアイスのボウルを取り出した。木べらでかき混ぜてみる。

う、うーん?

これは、アイスというかシャーベットだな……。

なめらかさがあまりなくて、シャリシャリしてる。ミルクシャーベットだ。

みんな、おいしいおいしいと食べてくれたけど、思ってたのと違う。

やはり砂糖と生クリームがないのが痛い。アイスクリーム独特の、空気を含んでふんわりとした食感には程遠い。

……これではいかんのだ!

アイスはもっと、ふわっとトロリとして口に含んだら淡雪のごとくほどけるくらいじゃないと!!

この世界に生まれ変わってこの方、ユピテルの食生活に馴染んで不満を感じていなかった。

でも、理想とかけ離れているとはいえ前世のお菓子に似たものを食べて、私の日本人としての魂に火がついた。

深夜のコンビニで疲れた心と身体を癒すには、こんなシャーベットじゃ駄目だ。

ユピテルにコンビニはない、それならば公衆浴場でどうだ!

一日の疲れを癒やす温浴、湯浴み。そして温まった体で一口頬張る、至高のアイスクリーム。

もっと、濃厚クリーム感を!

もっと、とろけるような口溶けを!!

「ゼニス姉さま、『アイス』は冷たくってとってもおいしいですね! 僕、こんなお菓子は初めて食べました」

ラスがにっこり笑っている。その笑顔は本心のもので、心から美味しいと思ってくれているのが伝わってくる。

だが。

「ありがとう、ラス。でもね、アイスのポテンシャルはこんなもんじゃないのよ。試作とはいえこんなものしか作れなくて、私は私に絶望した。でも見ていなさい。私は必ず、ハー○ンダッツもびっくりの理想のアイスクリームを作ってみせるから!」

「は、はい……?」

ラスがドン引きしているのは分かっていたが、私はもはや自分を止められなかった。

光り輝く究極のアイスクリームを幻視しながら、再び厨房へ向かった。


厨房に立って、私は腕組みした。

生クリームは絶対に欲しい。

砂糖は黒砂糖で構わないから使ってみよう。本当は上白糖が良かったけど、存在していない。今からサトウキビやらビートやらを探してきて栽培するわけにはいかないからな。

生クリームの作り方は、よく分からない。

しかしあれは、極めて濃い乳脂肪分だろう。ミルクに含まれる脂肪分を取り出せばいい。バターと同じ原理だ。

バターの作り方であれば分かる。小学校の修学旅行で牧場を訪れた時、一人一本の牛乳入り瓶を渡されて振りまくった。するとそのうちバターが分離してくるのだ。

この時の牛乳は市販されている成分調整牛乳ではなく、牛から搾ったそのままの生乳とのことであった。

好都合だ。ユピテルのミルクは全部生乳だもの。

瓶を振るというのは、つまり遠心分離機にかけて分離させるようなもの。手で振るだけでは労力がかかりすぎる。

ユピテルでは機械なんぞがない分、なんでも人力でやる。

ちなみにバターを作る際は、革袋にミルクを入れて木に吊るし、ひたすら棒でバシバシ叩くのだと聞いた。ばしんばしん叩かれた革袋は揺れまくる。その揺れが脂肪分の分離を促して、バターが出来るという寸法である。

なんか、ボクシングのサンドバッグのようだ。完全に人力での分離作業。瓶を振るのと原理は同じだね。

バター作りはなかなか大変な作業のようで、根気強く叩き続けるのが大事だと奴隷の人が言っていた。だからバターは高級品で、薬品として使うのだと。

生クリームも同じようなやり方で、人力・力技で解決出来るのかもしれない。

でも、遠心分離機はちょっと心当たりがある。

簡単な遠心分離機として、野菜の水切り器が流用できないだろうか。

水切り器は、ザルの中に洗ってカットした野菜を入れ、容器にセットしてハンドルを回すと、中のザルがぐるぐる回って遠心力で水滴が飛ぶという、キッチンの便利グッズだ。

別名をサラダスピナーという。ミニサイズからバケツサイズまであった。

遠心力は回転速度と回転半径が大きいほど強く働くはず。であれば、大きめのを作ればけっこうイケるのでは?

よし、方向性が決まった。

一、砂糖(黒砂糖)の入手。

二、生クリームの入手。

三、二のために遠心分離機を作る。

以上である!

「よっしゃあ! やってやるぜ!!

思わず叫んだら、隣でティトがびくっとしていた。

後で聞いたところによると、私のイカレポンチ病が再発したかと思って気が気じゃなかったんだそうだ。

うん。ごめんなさい。反省はしているけど、アイスに関してはこのまま突っ走る次第である。

さて、そうして行動指針は決まった。

ユピテルでは黒砂糖は希少品。めったにお目にかかれない。東の国境の向こう、アルシャク朝のさらに東の土地から少量が輸入されてくるのみだ。

扱いは調味料ではなく、薬品だった。腎臓や膀胱ぼうこうの痛みを和らげる効能というが、真偽のほどは分からない。

薬品の店は表通りから一本裏に入った場所にあった。

店内ではさまざまな薬草やハーブ類にまじって、黒砂糖が売られていた。

黒砂糖はなかなか高価だったが、自腹を切るわけじゃないから思い切って買うことにする。

手持ちの現金で支払いが無理な額だったため、帳簿に書いてツケてもらった。写しをティベリウスさんかオクタヴィー師匠に提出しよう。

一見さんの九歳の子供がやって来て、高価な黒砂糖を買い占めた上にツケにしても、お店の人はすぐにOKしてくれた。大貴族フェリクスの威光の賜物だね!

なお、こっそり胃痛対策にニガヨモギを買ったのは内緒である。

ユピテルの甘味は基本、砂糖ではなく蜂蜜。「世界中のミツバチはユピテルのために働いている」なんて格言があるくらいだ。デザートだけでなく料理の味付けも、蜂蜜は多く使われている。大量消費だ。

ユピテル料理は魚介類も肉野菜類も凝ったものが多い。

とはいえ、それはあくまで貴族や大商人の宴席用。

一般市民の食卓はごく質素で、貴族だって普段は割と簡単な料理で済ませている。


黒砂糖をゲットした私は、日を改めて金物細工の職人を訪ねた。

前に泡だて器を作ってもらった工房と同じ場所。マルクス考案のシンボルマークの焼印もここで作った。フェリクスの贔屓の取引先だ。

簡易遠心分離機こと、野菜水切り器の説明をして再現してもらう。

最初はなかなか伝わらなくて、図解と身振り手振りを入れて必死に説明した。

私はコミュ障のせいで説明が下手なのだ。でも伝わるように工夫して、分かってもらえるまで繰り返せばいいのである。

「こう、バケツの中に穴のあいた入れ物を入れて、中のものがぐるぐる回るようにしたいんです!」

実際にバケツの中に入ってその場で回ってみたりした。付添いで付いてきてくれたティトの視線が痛かった。

そうして懸命に説明を続けることしばし、職人さんがため息をついた。

「お嬢さんの言いたいことは、何となく分かってきましたよ。ただ、それを作って何に使うんだい?」

「山羊ミルクを回転させて、クリームを取り出したいです。脂肪分、あぶらです」

「ははぁ……?」

職人さんはごつい指で顎をこする。

「脂ねえ? ──おーい、ちょっと来てくれ」

「あいよ、なんだね」

奥から出てきたのは中年の女性。職人さんの奥さんだった。

「フェリクスのお嬢さんが、山羊乳から脂を取り出したいんだと。お前、山羊乳をよく搾るだろう。なんか分からんか?」

「脂ですか。そりゃ、搾ったミルクを放っておけば、勝手に上の方に浮かんできますよ」

「え?」

え?

「ゼニスお嬢様、山羊ミルクの脂が欲しかったんですか?」

ティトが言う。

「え? うん、そうだよ。ミルクから生クリーム、脂を取り出すには遠心分離機が必要だと思って……」

「そんな難しいことしなくても、ほっときゃ浮かんできますさね。それをスプーンですくえばいいんですよ」

な、なんだと……?

「脂が欲しいなんて、あたし聞いていませんよ。職人に作ってほしいものがあるからついてきてと、今日もそれだけ言ってたでしょう」

ティトがジト目で見てくる。

「……私、説明してなかった?」

「ええ、何も」

なんということだ。一人で脳内完結して突っ走っていたらしい。これじゃシリウスに偉そうにお説教できる立場じゃないよ。

おかみさんが付け加えるように言う。

「夏より冬の方がよく浮かんできますよ」

「あ、はい」

冷やせばいいってことかな?

そんな簡単な方法で良かったのか……。

呆然とする私に、職人さんが声をかけてくる。

「お嬢さん、さっき説明してくれたものはどうしますかね?」

「あ~……」

どうしよう。

せっかくバケツの中に入って回ってみせるまでしたんだから、作ってもらおうかな。出来上がったら、野菜の水切りに使ってもらえばいいよ……。しょんぼり。

「作ってください。他の使い道もあるので」

「ほいさ。じゃあ作り上げたら、フェリクスのお屋敷に使いを出しまさあ」

「よろしくお願いします」

もう一度詳しく説明して製作物の擦り合せをし、私とティトはお屋敷に帰った。


私の思い込みで無駄足を踏んでしまった。こんなことなら、最初からティトやお屋敷の料理人たちに相談すればよかったんだ。

へこみながら、お屋敷の山羊小屋からしぼりたてミルクをもらってきた。山羊はどこでも飼われている。

私の実家にも山羊いたよ。それなのになんで、自然に脂肪が分離するのに気づかなかったんだろうねぇ。はあ。

さて、気を取り直そう。私はミルクを持って厨房へ行った。

ミルクは一度沸騰させて殺菌をする。それから粗熱を取って、冷蔵庫もどきに入れた。

冷凍庫もどきと同じ作りで、箱の内側に白魔粘土を張り巡らせている。ただし中身はドライアイスではなく、普通の氷だ。氷をみっちりではなくて、適度に散らす感じで配置してある。凍るほどではない低温を保っているよ。

一日経過した翌日、ミルクの壺を見てみると脂肪分が浮いていた。ただ、思ったより量が少ない。スプーンで何度かすくったらなくなってしまった。

もう少し時間を置いた方がいいのだろうか? よく分からなかったので、再度冷蔵庫もどきに入れておいた。

すくい取った脂肪分は、生クリームというには水っぽい気もする。でも確かにクリーム状だ。早速使ってみよう。

試作品に黒砂糖をたくさん使うのはもったいないので、少量だけ作ることにした。

泡だて器でガシャガシャやると、やっぱり柔らかい。が、それなりにホイップになった。

卵白も砂糖を入れるとちゃんとしたメレンゲになる。黒砂糖なので色が茶色っぽくなってしまうが、これは仕方ない。

この前と同じように卵黄と山羊ミルクを混ぜたアイス液に、それらを合わせようとして。

ふと思う。

卵黄だけ使うレシピや、布です作り方もあったから、それも試してみよう。

他にもミルクを使わず卵白メレンゲと生クリームだけのレシピもあった、あった。思い出してきたぞ。

思い出せる限りやってみよう。ただ今日はクリームの量が少ないので、少しずつ。

そうして小分けに色々と作り、冷凍庫もどきで凍らせた。途中でかき混ぜるのも忘れない。

やがてすっかり凍ったアイスクリームをお皿に盛り付け、午後のおやつに出してみた。

何種類かをちょこんと各自のお皿にのっけたよ。見た目も可愛いアイスプレートである。

「わ、アイスがいっぱいある!」

「どれもおいしそうです」

アレクとラスが大喜びしてる。

「少しずつ材料や作り方を変えたの。どれが好きか教えてね」

「うん!」

やはり生クリームと砂糖のパワーは偉大だ。この前のシャーベットよりよっぽどなめらかに、アイスクリームらしくなっている。

しかし私の求める究極にして至高にはまだまだ届かない。今回はあくまで基本に忠実に作っただけ。アレンジはあえて何もしていない。これからである。

「俺、これが好き」

「僕はこれです」

アレクが指さしたのは、卵白は使わず卵黄だけのアイスだった。一番定番のやつ。

ラスはメレンゲと生クリームだけの、ふんわり軽いやつだ。

「あたしはこの前のシャリシャリしたやつも好きでした」

ティトはそんなことを言った。各人各様だね。

「姉ちゃん、アイスこれしかないの? もっと食べたい」

小分けにして作ったのをさらにみんなで分けたので、各味一口ぶんくらいしかなかった。

アレクはさっさと平らげてしまって、不満そうだ。

「お、ラス、残してるじゃん。ちょうだい」

「だめです! 残してません、今から食べるんです」

ラスが慌ててお皿を引き寄せている。

うんうん、兄弟間の生存競争だねぇ。私も前世は三姉妹だった。美味しいものやかわいいお土産などは、ボヤボヤしているとあっという間に奪われるのだ。そういう時の姉たちは山賊みたいな迫力だったのを覚えている。

とはいえ、一応注意はしておこう。

「こら、アレク! 人のを取っちゃ駄目。また明日も作るから、今日は終わりね」

「ちぇー」

しばらくアイス作りに邁進まいしんするつもりなので、そのうち飽きちゃうかもね。まあ、そうなったら他の人に食べてもらえばいいや。

基本のミルクアイスはもう何種類か作ってみて、その後は果物やスパイスと合わせてみよう。

今度は独りよがりにならないで、料理人さんたちにも意見を聞いてみようっと。


アイスクリーム作りは、フェリクスの料理人たちを巻き込んで進行中だ。

毎日、厨房は大忙し。

山羊ミルクの脂は三日目くらいまで浮かび上がってくるので、都度すくって使っている。

ミルクと生クリームと卵の基本レシピは、思い出せるだけ作ってみた。

濃厚な口溶けは、卵黄のみ・布で丁寧に裏ごしのレシピでかなり再現できた。究極と至高にはまだ届かないけど、けっこう満足。

それらに各種の果物やスパイス、ハーブ類を加えてみる。

私はユピテルの食材に詳しくないので、料理人たちに指導をお願いした。

料理人たちはさすがに精通していて、色々教えてくれた。ユピテルは美食の国だけあって、スパイスやハーブだけでも膨大にある。

そして、隠し味として蜂蜜を入れるのがユピテル料理のコツなんだそうだ。醤油や塩に合わせてみりんや砂糖を使う日本料理に通じるものがある。

今は厨房で、ユピテル流の味付け体験と称して色んなものをつまみ食いしている。役得である。

「ゼニス様、こちらを召し上がってみて下さい」

料理人の一人がクラッカーみたいな小さいパンにチーズを乗せて差し出してくれた。

ぱくっと食べると、ほんのりニンニクの風味がきいていておいしい。クラッカーもパリパリだ。

「おいしい!」

「まだ終わりではありませんよ。次はこのワインを」

ユピテルでは子供の飲酒もさほど制限されていないので、大目に見てもらおう。

きりりと冷えたワインを一口だけ含んだ。

するとワインの風味でニンニクの香りが流されていって、後にはチーズのクリーミーさとほのかな甘味が残った。蜂蜜の甘さだ。

「どうです。こういった味のハーモニーこそが、我々フェリクスの料理人の得意とするところなのです」

「ゼニス様の白魔粘土のおかげで、ワインを冷やすのも簡単になりました。ちょうど良いタイミングで料理と一緒に出せて、助かっております」

「アイスクリームも、斬新で興味深い。どういう味で作りましょうか」

料理人たちは誇らしげだ。

ううむ、こりゃあ古代レベルだからって軽く見てられないな。

味付けに関しては私が下手に手を出すより、料理人たちに教えを請うた方が良さそうだ。

では私は、ディスプレイとデコレーションの案を練ってみよう。

学院長から聞いた北国の話をヒントに、アイスクリームとアイスキャンディーで一枚の絵を描くような、楽しい風景を作りたい。

アイスをいろんな形に作るのは、金型を用意してアイス液を入れて凍らせればいいと思う。

氷像として他のものを作るのもいいな。

頭の中で描いた光景に翼を生やして飛ばすように、イメージを膨らませていった。