年末の里帰り

季節はすっかり冬になっていた。年末と新しい年が近づいてくる。

今年もラスとヨハネさんと一緒に、私の実家へ里帰りすることにした。

ラスはアレクと会えるのをとても楽しみにしている。

ティトはあまり顔に出さないけど、一年ぶりに家に帰るのが嬉しいみたい。

シリウスの研究室の大掃除は、彼一人でやれるとこまでやってもらうことにした。

大きな箱をいくつか用意して、それぞれ『日常的に使うもの』『使う頻度は低いけど必要なもの』『不要なもの』『判断がつかなくて保留にするもの』と書いた紙を貼った。

「あまり深く考えないで、直観的に仕分けしてね」

「分かった。里帰りから帰ってきたら、すぐに成果を見に来てくれ」

さて、どこまで片付くだろうね。


フェリクスのお屋敷を発つ朝、マルクスと彼のお母さんが見送りに来てくれた。

お屋敷を出て、丘を下るところまで付き合ってくれる。

マルクスのお母さんは最近、ずいぶん具合がよくなった。もう少し療養したら、フェリクスの使用人として働く話も出ている。

「皆様、いってらっしゃいませ」

「気をつけて行って来いよ! ティトは実家でのんびりして、眉間のしわが取れるといいな?」

丁寧に挨拶するお母さんに対し、マルクスはいつもどおりだ。

「はぁ? 誰にしわがあるって? あんたの目、節穴なの?」

ティトもいつもどおり。なんでか、マルクスには口が悪くなるんだよねえ。

「ほらほら、そういうとこだぜ。女の子は笑ってた方が可愛いっての!」

「おあいにくさま。私はあんたみたいに、四六時中へらへらできないの」

こんなやり取りも慣れたもので、ラスと私はニコニコして見守っている。ヨハネさんは表情を動かさないが、どことなく微笑ましい感じが滲んでいる。

にぎやかな見送りを経て、故郷への道を歩く。もう何度も通った慣れた道。街道も宿場町も整っているので楽しい旅になった。


故郷の村に着くと、お父さんとお母さん、ティトの家族が出迎えてくれた。

アレクもラスの到着を楽しみにしていたようで、一年ぶりの時間を感じさせないくらいあっという間に打ち解けていた。

早速、外遊びに出かけた彼らを追って、私も外に出る。

そうだ、せっかくだから番犬たちを散歩に連れ出してやろう。

そう思って犬小屋の方に行きかけると、アレクがはっとしたように言った。

「姉ちゃん、フィグを出してやるの?」

「うん、プラムと一緒に運動させてあげようと思って」

黒犬のフィグと白犬のプラムは、我が家の番犬にして私の愛犬だ。プラムの方がおじいちゃんで、私と同い年の九歳である。

犬たちの喜ぶ様子を想像しながら、犬小屋の柵を開けた。私の匂いに気づいたのだろう、フィグが大喜びで飛び出してくる。黒くて大きなフィグに飛びつかれて、顔を舐められた。

「よしよし、フィグ、元気だね。久しぶり!」

撫で回してやったら満足したらしい。柵の外のアレクの方へ走っていった。

さて次はプラムだ。あの子はもうお年寄りだから、飛びついたりはしないだろう。姿が見えないけど、寝てるかな?

私がきょろきょろしていると、アレクが声をかけてきた。

「姉ちゃん……プラムはもういないよ」

いつものうるさいくらい元気な彼に似合わない、どこか困ったような声だった。

「え?」

黒犬フィグの頭を撫でている、アレクを見る。その横にはラスが心配そうな表情で立っている。

「先月死んじゃったんだ。手紙で知らせようと思ったけど、もうすぐ帰ってくるから、顔を見て言おうって父さんが」

え……? ちょっと、頭の整理が追いつかない。

確かにプラムはもうおじいちゃんで、去年の時点で体が弱っていた。あの時ももう長くないかも、とちらっと思った。

でも、そんな。

「そうだったの……。プラムはもう、お年寄りだったものね……」

心がぐちゃぐちゃなのに、私は私の口が勝手に言葉を喋るのを聞いた。

「うん。俺も悲しかった。フィグも寂しがってる」

プラムという名前に反応したのか、フィグもクゥンと小さく鳴いた。

「そっか……。そうだったのかぁ」

「姉ちゃん、大丈夫?」

「ああ、うん、大丈夫。びっくりして、ちょっと悲しくなっちゃっただけ」

嘘だ。すごく悲しくて、今にも大声で泣きそうだった。

でも私がそんなふうに取り乱したら、アレクとラスを心配させてしまう。私は必死に取り繕って、無理やり平気そうな顔を作る。

「──じゃあ、フィグだけ連れて遊びに行こう。二人とも、一年ぶりだもんね。いっぱい遊んで来よう!」

「うん!」

それからのことは、なんだかふわふわしていて記憶が薄い。

ただ、アレクとラスが楽しそうに駆けっこをして、村の他の子供たちにまじって遊んでいるのを見て、心がほんの少しだけ慰められたのを覚えている。

夕方、家に戻る。お父さんの口から改めて、プラムの死を聞いた。

亡骸なきがらは家の裏手、厩舎きゅうしゃの近くに埋めたそうだ。

「お前はプラムを特に可愛がっていただろう。きっとショックを受けると思って、手紙に書かなかった。直接伝えた方がいいと思ってな」

「大丈夫。もちろん悲しいけど、あの子がもうおじいちゃんなのは分かっていたから」

私はまた嘘をついた。

だって、この里帰りが終わればアレクを首都に連れて行く。アレクは実家を離れて不安な思いをするだろう。そんな時に姉である私が泣きじゃくっていたら、安心できないじゃないか。

お父さんとお母さんもそうだ。子供が二人とも、まだ小さいうちに家を出てしまって寂しいはず。せめて私は元気でやっていると、見せてあげなければ。

演技力はまあまあ自信がある。前世だっていよいよ死ぬまで、割と平気な顔をしていたはずだ。

だから、大丈夫。そう思い込む。

皆で揃って晩ごはんを食べる。

私は首都で起こった事柄を話して聞かせた。手紙でも書いていたけど、書ききれなかったことをあれこれと。

マルクスとティトが口喧嘩ばっかりしてることとか、シリウスがやらかした変なこととか。魔法学院の授業のこと。

夏に売り出した冷たい飲み物とかき氷で、お客さんがみんな笑顔になった、とか。

ラスとヨハネさんもそれぞれ話して、アレクはげらげら笑ったりしていた。

そうして寝る時間になり、部屋に戻って寝台に寝転ぶ。

私の枕とお布団はお母さんがよく干してくれていたようで、暖かなお日様の匂いがする。

旅の疲れが出たせいで、まだ九歳のこの体はすぐに眠りに落ちていった。