数分後、目を開いた彼が大きく息を吐いた。

「すごい! 額に強い魔力が生まれていたし、移動もできたでしょ」

「ああ。心臓と下腹部を通したら、明らかに魔力が増えた。ゼニスのこの理論は、大したものだ」

面と向かって褒められると、ちょっと照れる。

「シリウスもすごいよ。初めてでここまで出来た人、他にいないもの」

「ふふん。もっと褒めていいぞ。僕はアルヴァルディの一族だ、魔法文字だけじゃない、何をやったって優秀なんだ」

おや? そういえば彼のファミリーネームは、ユピテルでは見ないタイプの綴りと響きなんだよね。

「アルヴァルディ? 魔法使いの一族なの?」

私の言葉に、シリウスは鼻を鳴らした。

「なんだ、知らないのか。ゼニスは聡明で博識なくせに、妙なところで常識がないな」

褒められてるのかけなされてるのか、よく分からん。

「シリウスにだけは常識がないと言われたくないね」

「ふん、常識だっていずれ身につけてやるさ」

自分に常識がないと理解するようになったのは、けっこうな進歩だと思う。前は僕は絶対正しいマンだったから……。

「アルヴァルディは、ノルドの古い血筋だ。魔法使いを多く輩出している。この魔法学院を作ったのもアルヴァルディ。僕のひいおじいさまにあたる」

「え!?

なんか聞き覚えがあると思ったら、そうか、この学院の創立者だった! 何十年か前の高名な魔法使いだ。

「あれ? ということは、時々話に出てくるシリウスの伯父さんって……」

「学院長だ」

あちゃー。全然気づかなかった。我ながら迂闊うかつだわ。てかシリウスも言ってくれればいいのに。

気まずかったので、少し話題を変えてみる。

「ノルド──北方民族は、魔法使いが多いの? 確か魔法の発祥の地も、北の方だよね」

「ノルドの中でも、特にブリタニカだな。あの北の島国は、ユピテル人より魔法使いが多い。あちらでは稀に魔法文字が刻まれた遺跡が見つかるんだ。今ある魔法文字も、その多くをアルヴァルディに連なる者が発見して解読した」

「おおお……」

魔法の秘密が眠る古代遺跡とか、浪漫の塊ではないか。ぜひ一度訪れたい。

「とはいえ遺跡も発見され尽くして、ここ何十年かは新しいものが見つかっていないようだが。僕のひいおじいさまはそんな状況を見て、新天地を求めてユピテルに来たと聞いている」

「いい話を聞いたわあ。たとえ新しい遺跡が見つからなくても、いつか現地に行ってみたいな。シリウスのご先祖様の土地」

「そ、そうか……?」

なんかシリウスが顔を赤らめているが、また意味不明なことをやってるな。まあいいや。

それにしても、彼は出自からして魔法文字の専門家だったわけか。いつもの早口な研究トークは、聞き手のことを何も考えていない一方的なものだった。そのせいで割と聞き流していたが、こうなるとがぜん興味が出てくる。

「ねえねえ、シリウス。今やってる研究、見せてもらえる? きりがついたと言ってたよね」

「構わんぞ。魔力回路と魔力循環を教えてもらった対価に、僕の研究も披露しよう」

彼の研究室はすぐそばだ。

早速、行ってみることにした。