***
「美香さん。問題なさそうで良かったな」
「そうですね。面倒なことにもならなかったみたいですし」
あのあと、美香さんを連れて病院に戻った。
美香さんを探し回っていた刑事さんとお医者さんはすぐに飛んできて、美香さんの無事を喜んでくれた。
近くの公園で見つけたというと、刑事さんは不思議そうな顔をしていた。
その場所は当然探したそうだ。
お医者さんは患者さんが脱走して公園に行ってしまうことは年に一度はあるらしく、「またあそこでしたか」という割とドライな返答だったが。
だが、美香さんと話をしているうちにお医者さんはどんどん目の色が変わっていった。
美香さんがありえないくらいの回復を見せていたからだ。
お医者さんは奇跡だと言い出して、即刻、検査をたくさん行なった。
美香さんもいろいろな検査に快く応じていた。
俺としても反対するつもりはなかった。
美香さんは少しの間とはいえ、竜也たちに攫われていたのだ。
何をされたかわからない。
検査はしておいたほうがいいと思う。
検査の結果、美香さんは肉体的にも精神的にも健康体であるとわかった。
ここ最近の記憶が一部飛んでいるが、辛い記憶を忘却してしまうということは健康な人でもたまにあることらしいので、そこまで問題ではないらしい。
確かに、嫌な客の顔とか仕事が終わると思い出せなかったりするもんな。
すぐに退院しても問題ないそうだが、念の為、一ヶ月ほど入院することになった。
前例がないことなので、この後にリバウンドのようなことが起こるかもしれない。
その場合、病院内にいた方が対処しやすいからだ。
朱莉が一人になってしまうが、事件は解決したようだし、そちらは大丈夫だろうということになった。
病棟も一般病棟に移り、面会もほぼ制限なしになったそうだ。
今も、朱莉は美香さんのところに残っている。
「竜也たちは捕まったみたいですし、これで元通りの生活に戻れそうでよかったです」
「そうだな」
美香さんの検査をしている途中で、刑事さんのところに電話かかかってきて、斉藤さん一人を残して他の刑事さんたちは飛んでいってしまった。
どうやら、竜也が捕まったという連絡が入ったらしい。
雨も降っていないのに本拠地に雷が落ちたらしく、竜也たち含め、主要メンバーは軒並み倒れていたそうだ。
竜也たちの本拠地は全くマークしていなかった場所だったそうだ。最初、ただのチンピラグループだと思い、普通の病院に搬送しようとしていたそうだが、倉庫内から竜也たちの犯罪の証拠がゴロゴロ見つかって、それで竜也だと判断されたらしい。
まさに青天の霹靂だ。
どうしてこんなことになったんだろうなー?
本当に不思議だなー。
それにしてもあの火事消しといてよかった。
危うく証拠物件が燃えてしまうところだったぞ。
なんにせよ、これで竜也も捕まったしこの騒動も終わりだろう。
◇◇◇
【俺が】探索者情報共有掲示板408【ダンジョンだ!】
1:名前:名無しの探索者
ここは『ダンジョンGo!』ユーザーの情報共有掲示板です。
謎パワーによって一般ぴーぽーは見つけられないので、安心して書き込みましょう。
称号の取得方法や効率的なモンスターの倒し方など有益な情報の情報共有をしましょう。
ここで嘘や煽りなどはお控えください。
こう言っても、嘘や煽りをする探索者はたくさん出るので、話半分で聞くように心がけてください。
900:名前:名無しの探索者
なぁ。実は、家の近くにできたFランクダンジョンを攻略したら、身内に不幸があってふさぎ込んでた隣の家の奥さんが元気に外出するようになったんだけど、これって俺のおかげと思っていい?
ダンジョンは負の情念が固まってできるんだよな?
じゃあ、あの奥さんの負の情念が固まってダンジョンになって、そのダンジョンを攻略したからあの奥さんが元気になったんじゃないかと思ってるんだけど。
901:名前:名無しの探索者
>>900
あ、俺もそれ経験ある。
ダンジョンを攻略した直後から近くの引きこもりが家を出るようになったんだよな。
902:名前:生産職先輩
>>900-901
それはどっちとも言えないな。
ダンジョンが発生した時点で負の情念は体の外に出てしまい、元の人間との繋がりはなくなるというのが通説だ。
Fランクダンジョンの負の情念は人間では抱え切れないほど大きいので、そんなものと繋がりがあれば精神が狂ってしまう。
おそらく、Fランクダンジョンが生まれた時に精神とダンジョンが切り離されるんじゃないかとの話だ。
Fランク以下のダンジョンがあれば精神とダンジョンの繋がりがまだ切れていない可能性があるので、ダンジョンを攻略したことで精神が回復するというのはあると思うが。
だから、ダンジョンを攻略しても人間の中にあるマイナスの感情が消えてしまったりはしない。
ダンジョンが発生するほどの負の情念だと、ダンジョンになった分のマイナスの感情がなくなってもモヤモヤは消えないからな。
ただ、やはり、ダンジョンと元となった感情の間に繋がりはあるという説もあって、ダンジョンを攻略してしまえば負の情念もなくなってしまうと言ってる人もいる。
その人は、ダンジョンから離れるとダンジョンにある分の負の情念との繋がりが切れて、マイナスな感情もいっしょにダンジョンのあるところに置いてきてしまえるので、気分が落ち込んでる友人がいたら長期の旅行に連れていくように勧めていたが。
903:名前:名無しの探索者
>>902
なんだ。俺のおかげじゃないのか。
いや、ダンジョンとの繋がりが完全に切れていないなら俺のおかげなのか?
904:名前:生産職先輩
>>903
どっちとも取れるんだから、自分のおかげで回復したと思っておいたらいい。
そのほうが気分がいいし、誰に迷惑をかけるわけでもないからな。
ただ、ニヤニヤした顔で眺めていたりはしないほうがいいぞ?
通報されるから。
905:名前:名無しの探索者
>>903
そういえば、そういうダンジョンのいろいろって誰が調べてるんだ?
906:名前:生産職先輩
>>905
引退した探索者が調べていることが多いな。
今までは旧家の老人の中の変わり者が調べている印象が強かったが、最近では企業がバックについて本格的に調べてたりもする。
ランクアップ現象でボスさえ倒せば攻略になるっていうのも、企業が調べた結果だ。
それまでは『ランクアップ現象に巻き込まれる=死』だったからな。
907:名前:名無しの探索者
>>906
その企業って金竜会ですか?
908:名前:名無しの探索者
>>907
いや、海外のダンジョンアンドダイバーズっていう企業だ。金竜会よりもっと大きい。
その企業は探索者の死者を減らすためってことでランクアップ現象の攻略法を公開して一気に有名になったからな。
909:名前:名無しの探索者
>>908
そうなんっすね。
そんな立派な企業もあるのに日本の金竜会はその情報を使って荒稼ぎしてるってことですね。
全くもって迷惑な企業です。
910:名前:名無しの探索者
>>909
まじでそれ。
Fランクだとダンジョンの攻略ができないとあんまり稼げないのに
911:名前:名無しの探索者
>>909
ほんとやめてほしい。
この前無理やり攻略しようとしたらボコボコにされたし。
912:名前:名無しの探索者
>>910
そうですか?
うちはFランクダンジョンに潜ってるんですけど、ダンジョン内時間で六十時間くらい攻略されないので、ずーっと潜り続けてられる分、ダンジョンを攻略した時以上の成果が出てますよ?
だからうちは金竜会が潜ってるダンジョンに優先的に潜るようにしてます。
ランクアップ現象が始まっても金竜会が対処してくれるからギリギリまで潜ってられますし。
913:名前:名無しの探索者
>>912
ステマ乙
確かに六十時間もあれば百体以上のモンスターを倒せるけど、そんなに何度も戦闘してられないよ。
武器だって壊れるし。
しかも、Fランクダンジョンだと百戦してやっと数千円だろ?
流石にコスパが悪すぎる。
914:名前:名無しの探索者
>>912
金竜会がランクアップ現象の対処に失敗したらどうするんだよwww
心中とかごめんだぞwww
915:名前:名無しの探索者
>>912
実は、武器は金竜会の人がDランクの武器を売ってくれたので、一戦一戦がかなり楽になって、百戦しても苦じゃないんですよね。
一週間くらい使ってますが、まだ壊れてませんし。
かなり高くて借金もしちゃいましたけど、今では買ってよかったと思ってます。
今日、Eランクに進出して、来週くらいには全部返せる予定です。
916:名前:名無しの探索者
>>915
Dランクの武器を売ってもらえるとかまじかよ!
偽物じゃないのか?
917:名前:名無しの探索者
>>916
うちもそれを警戒していたんですけど、アプリに仕舞えばどのランクの武器かって確認できちゃうじゃないですか。
だから、偽物を作るのはほぼ不可能です。
それに、性能が気に食わなかったり一週間以内に壊れてしまうようであればお金はいらないって言って貸してくれたんです。
一週間で壊れることもなかったし、性能もかなり高かったので、購入しました。
なんでも、お抱えの生産職がたくさんいるので、その人たちの給料を稼ぐために割安で放出してるらしいですよ?
アプリで売却するよりも他の探索者に売ったほうが高く売れるらしいので。
918:名前:名無しの探索者
>>917
まじか!
俺も売ってもらおうかな。
どこで買えるんだ?
919:名前:名無しの探索者
>>918
FランクダンジョンやEランクダンジョンのボス部屋前で攻略待ちをしている金竜会の探索者さんに聞けば売ってもらえるそうですよ。
大体はみんな売却用の武器を持っているそうなので。
アプリに仕舞えば嵩張らないですしね。
お金は持っていかなくても、携帯の契約書みたいな紙をその場で書けばいいそうです。
それを使って請求されるそうなので。
生産職難民の探索者さんもよかったら探してみてください。
確か、この掲示板にもいましたよね。
920:名前:名無しの探索者
>>919
情報ありがとう。
でも、僕たちは生産職先輩に武器を作ってもらったのでもう大丈夫です。
921:名前:名無しの探索者
>>920
あれ?
前に断られてなかったっけ?
922:名前:名無しの探索者
>>921
断られましたけど、あのあと、リアルで連絡を取り合って、条件次第で受けてもいいって言われて、その条件を飲んだので作ってもらえることになったんです。
条件については秘密なんですが。
923:名前:名無しの探索者
>>922
えぇ!
いいなぁ!
俺も作ってほしい。
924:名前:生産職先輩
>>923
悪いな。
あまり公にできない理由だから、対象者は信用できそうな人に限ってるんだ。
生産職は探索者よりもどうしても弱いからな。
922はリアル関係の知り合いだったから特別に受けただけだ。
925:名前:名無しの探索者
>>924
へー。リアルの知り合いってなんの知り合い?
親戚とか?
926:名前:生産職先輩
>>925
それは秘密だ。
927:名前:名無しの探索者
>>926
ねー。
928:名前:名無しの探索者
>>926-927
なにそれ!
めっちゃ気になるぅーー!
◇◇◇
「くそが!」
竜也は倉庫から少し離れた暗がりで一人悪態をついていた。
竜也のいるところから見える倉庫にはたくさんの警察官や消防士たちが集まっている。
もうあそこに戻ることはできないだろう。
充たちを倉庫に置いてきてしまったが、充ならなんとかするだろうし、他の奴らは代わりがいくらでもいる。
「絶対に仕返ししてやる。あいつ、確かサグルとか言ったな」
あの探索者は予想以上に強く、不覚を取ってしまった。
あのまま続けていれば竜也は間違いなく負けていただろう。
大技で倒せたと錯覚していたので、やられたふりをして反撃の機会を窺っていたが、あのサグルとかいう探索者は隙を全く見せなかった。
不幸中の幸いで、そのまま気絶したふりをして竜也は逃げおおせることができた。
竜也のスマホまで破壊されたのは少し予想外だったが、あそこで動いていても結果は一緒だっただろう。
奴らがダンジョンに潜ったので、いなくなったことが確認できなかった。
ギリギリまで気絶したふりをしていたため、何一つ持ち出せなかったのは痛い。
予備のスマホとかも倉庫内に隠していたのだが、それすら持ち出す暇がなかった。
「まあいい。このご時世、スマホくらいすぐ手に入る」
トバシのスマホなんていくらでも手に入る。
スマホを手に入れれば部下の一人から招待コードをもらって『ダンジョンGo!』をインストールし、またやり直すことはいくらでもできる。
スマホが壊されたが、すぐにアプリをインストールすればジョブのランクも下がらない。
今度はもっと入念に準備してことに当たればいいだけのことだ。
いや、あいつの弱みを見つけて、あいつから頭を垂れさせるのがいいかもしれない。
「そうだ。それがいい……ん?」
竜也の隣に黒塗りのバンが停まる。
もしかしたら、竜也の部下の誰かが迎えにきたのかもしれない。
気がきくやつがいたものだ。
そいつは昇格させてやってもいいかもしれないな。
竜也のパーティメンバーにしてやってもいいかもしれない。
竜也がそんなことを考えていると、バンから明らかにカタギではない男が降りてきた。
「お前は!!」
「久しぶりやな。竜也。元気しとったか? いや、聞くまでもないか」
バンから降りてきたのはここら一体を島にもつ暴力団の亀甲組に所属するヤスという男だった。
「ちっ。お前かよ。何の用だ」
この男には竜也も何度か会ったことがある。
亀甲組は大きな組織だが、シマの一角を占拠されているのに、報復には来ないヘタレ集団だ。
こんな時に会うのは運がないが、こいつらであればどうとでも対処できる。
睨みつけるだけで帰っていくのだから。
「俺はお前と遊んでいる暇はないんだよ」
「そっちに用がなくてもこっちには用があんねん」
竜也が睨みつけると、ヤスはニヤニヤとした笑いを向けてくる。
いつもであればここで悪態をついて帰るのに。
いつもと違う反応に嫌な予感を覚えるが、竜也はそれを無視した。
それが最後の逃げるチャンスだとも気付かずに。
「『だんじょん・ごー』言うたか? お前それを失ったってほんまか?」
「な、お前! なんでそれを!」
「ほんまやったんか。情報通りやな」
「ちっ!」
どうやら、向こうは確信を持っていなかったようだ。
まんまと引っかかってしまった。
竜也は逃げようとしたが、周りには屈強な男たちが立っており、すでに逃げ場はなかった。
全員で来られれば対処は不可能だが、一人くらいなら対処できそうだ。
だが、それも、相手が探索者ではないという前提があってこそだ。
相手が探索者なら見た目で相手を判断できない。
竜也は逃げる隙を見つけるために会話を続けることにした。
「お前らも探索者なのか?」
「たんさくしゃ? あぁ。今の時代は祓い屋をそう呼んどるんやったか」
「祓い屋?」
「そうや。幽霊を払ったり、土地を浄化したりする人らをうちらは祓い屋って呼んどんねん」
竜也は隙を探すが、周りの奴らはなかなか隙を見せない。
話が少し気になったこともあり、竜也は続きを聞くことにした。
「うちも長い組織やからな。そういう人らとの繋がりもあってな。オタクらがやってたこともちゃんと把握しとったんやで」
「知ってたならいくらでも対処できたんじゃないのか?」
探索者のことを知っていたなら、対処法はいくつも思いつく。
知り合いの探索者がいるならなおのことだ。
あのサグルっていうやつがやったように、この倉庫の周りのダンジョンを全て潰されれば竜也はダンジョンエスケープができなくて、簡単に捕まってしまっていたかもしれない。
「祓い屋になれる資格のある奴は少なくてな。うちらは祓い屋さんと祓い屋の資格を持ってる奴とは敵対せんっていう約束を交わしてるんや。今は『あぷり』っていうもんをばら撒いてるみたいで、ぎょうさん祓い屋さんが生まれるようになったさかい、もう無くしてもうてもいいルールな気もするが、ルールっちゅうもんは一度作るとなくすんも難しいからなぁ」
「!!」
竜也はそこでやっと今が最悪の状況であることに気づいた。
竜也は今は『ダンジョンGo!』のアプリを失っており、探索者ではない。
つまり、こいつらが手を出してはいけない対象から外れてしまったということだ。
「く!」
竜也はなりふり構わず一番守りが薄そうな方に向かって駆け出す。
ヤスの話を聞いた感じだと、こいつらは探索者ではなさそうだ。
つまり、Dランク探索者の竜也にとっては対処できない相手ではないということだ。
だが、その歩みはパシュっという軽い音によって遮られることになる。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
竜也は右足の痛みに転げ回る。
足には小さな穴が空いており、そこからは血が流れていた。
竜也は先ほどのサグルとの戦闘でHPがゼロになってしまっていた。
普段であればHPが受けてくれる銃も今は普通の人と同様に効いてしまう。
「おっと。逃げることないやろ。おかげで怪我することになってもうたやんか」
竜也がヤスの方を見ると、ヤスは銃を構えていた。
サイレンサー付きの拳銃だ。
あれで竜也の足を撃ち抜いたらしい。
「ヤスさん。ほどほどにお願いします」
部下の一人が口を開いた。
「あぁ。祓い屋さんの中身は頑丈やからな。たこー売れるのは知ってる。せやから足を狙ったんやろ? うちかて結構な損失出しとるんや、ちゃんと回収せなあかん」
竜也は何を言っているのか一瞬わからなかった。
だが、すぐにそれが竜也の臓器を売り払うことについて話していると気づいた。
「そっちのお客さんもいらっしゃるので」
「あぁ。せやったな。手足をもいで拷問する予約も入っとるんやった。竜也。お前相当恨み買ってたみたいやな」
それを聞いて、竜也の顔から血の気が失せる。
内臓を抜かれた上に、手足をもがれて拷問されるなんて、冗談じゃない!
竜也は這って逃げようとする。
そんなことで逃げられるはずがないのに。
「グアぁぁぁぁぁぁ!」
「まあ、手足は四本もあるんや、一本くらいえぇやろ」
右足に激痛が走る。
見てみると、右足の傷口の上に、ヤスの右足が乗っていた。
「ヤスさん。ヤスさんが一本持っていってしまうと、残り三本になってしまいます。予約は四件あるので」
「そうか。そうやな。予約が入ってるんやったらしゃあない。運べ」
「「はい」」
「やめ……」
竜也は猿轡をされて、黒塗りのバンに荷物のように積み込まれる。
続いてヤスが乗り込むと、バンは扉を閉めて夜の闇の中に走り去ってしまう。
それ以後、竜也のことを見た者はいなかった。