本当は竜也を速攻で仕留めたかった。

だが、竜也はなぜか俺の生存に気づいており、隙が見つからなかった。

だから、次に厄介そうなヒーラーっぽい女性を排除させてもらった。

ヒーラーはバフも厄介だし、回復されると面倒だ。

数が少ないこちらとしては、最初に潰しておきたい相手だった。

ヒーラーじゃなかったらごめん。

でも、竜也なんかとつるんでるのが悪いと思います。

「俺はお前に会いたかったぜ?」

「俺は別に会いたくなかったけど」

「そうつれないこと言うなよ。お互い、『最速ダンジョン踏破者』の称号を手に入れた仲だろ?」

「……あーなるほど」

それを聞いて、合点がいった。

どうやら、こいつは俺の前の『最速ダンジョン踏破者』だったらしい。

称号保持者が死亡すれば、繰り上がりで第二位のこいつが『最速ダンジョン踏破者』になるはずだ。

自分に称号が返ってきていないということは俺が死んでいないということだ。

どうりで一度も気を抜かないはずだ。

「やっぱり充は頼りになるな。お前の予想が正解だったみたいだ」

「ははは。死んでないとはー思わなかったけどねー? 身代わりかー。何のジョブかなー?」

「さぁな。どうせ、忍者とかその辺だろう。殺しちまえばなんだっていい」

「それもそうだねー」

竜也は立ち上がり、ナイフを構える。

すると、竜也の気配が一瞬で薄くなった。

視界では捉えられているのに、そこにいると気付けないような感じだ。

盗賊系のジョブかな。

思ったより強そうだ。

これは四人同時は結構きついかな?

「朱莉。京子と一緒に拳士と魔法使いの二人の足どめを頼めるか?」

でも、俺だって一人じゃない。

朱莉と京子がいるのだから、四人のうち二人を任せればいいだけだ。

朱莉と京子が二人を抑えてるうちに、俺が竜也と戦士を倒してしまえば、後の二人は多分どうとでもなる。

「大丈夫。でも、倒しちゃっても問題ないんでしょ?」

「……あぁ。頼む」

!! うん!」

朱莉が自信満々に請け負ってくれる。

朱莉は俺の趣味を知ってるから、有名なセリフを言ってくれたんだろう。

でも、ごめん。それ、死亡フラグなんだ。

俺は一刻も早く竜也たちを倒すことを決心した。

***

「話し合いは終わりか?」

「あぁ。待ってくれてありがとう」

俺が前に出ると、対峙するように竜也が出てくる。

その隣にはミツルと呼ばれていた男が並んだ。

「そっちがージョブを二つ使うんだからーこっちもー二人がかりでいいよねー?」

「あぁ。元からそのつもりだ、よ!」

俺は『一閃』を発動し、一歩で竜也のすぐそばまで踏み込んで小太刀を振るう。

「ちぃ」

竜也は大きくバックステップして俺の攻撃を避ける。

よし!

宙に浮いている状態なら回避もできないはず。

俺は追撃を加えるため、一歩踏み出そうとする。

「おいおいー! 俺のことをー無視するなよー!」

「……やべ!」

俺は背中から切り掛かってきた戦士の攻撃を回避した。

本当は小太刀で受けてそのまま反撃に移りたかったが、彼らの武器はおそらくDランクダンジョン産のものだ。

今小太刀で受ければ、こちらの小太刀が壊れてしまう可能性が高い。

何より不味いのは、そのことが相手にバレてしまうことだ。

それがバレれば向こうが武器破壊を狙ってくるのは目に見えている。

「っらぁ! 『走撃ダッシュアタック』」

!! 『水遁・流水』」

バックステップしたさきに竜也がスキルを使って襲いかかってくる。

足が宙に浮いており、絶対に回避できないタイミングだ。

俺は忍術を使って竜也の攻撃を回避する。

そして、そのままスキルの力を使って反撃をする。

!! 『背跳バックステップ』」

完全に捉えたと思ったのだが、今度は竜也がスキルを使って回避した。

追撃をすればミツルとかいう奴の攻撃を受けそうだ。

俺はミツルの剣の間合いの外まで離れて構え直す。

「ち。厄介なスキルを持ってやがる。ファーストジョブも普通のジョブじゃねぇのか」

「……」

厄介だと思っているのはこっちも一緒だ。

竜也たちは思ったより厄介だった。

コンビネーションが俺たちより断然いいのだ。

おそらく、ダンジョン内で何度も戦闘をしているからだろう。

俺たちの場合、Eランクダンジョンでは俺一人で戦闘が完結し、Dランクダンジョンではまともな戦闘ができていない。

だから、ほとんどコンビネーションと言えるようなものは磨けていない。

本当に相手パーティを分断できてよかった。

最初にヒーラーを落とせた俺、ファインプレーだ。

唯一の救いは忍者のジョブとNINJAのジョブの相乗効果のおかげで竜也たちよりもステータス的にはこちらの方が上まわっていそうってことくらいか。

おかげでなんとか対処ができている。

「でもー。スキルはー無限には使えないよねー?」

相手はあまりスキルを使わずに対処している。

竜也はともかく、ミツルの方はまだスキルを使っていない。

スキルはMPやSPを消費するから、長期戦になればこっちの方が不利になる。

それに、朱莉と京子のことも気になる。

こっちがギリギリなんだから、向こうが余裕あるとは思えない。

さっきチラッと見た感じでは、そこまで苦戦している様子ではなかったが、できるだけ早く終わらせて向こうに参戦しないと。

「よそ見してんじゃねぇよ! ミツル。合わせろ。『疾走ウインドステップ』」

「おっけぇー! 『上段斬り』」

!!

俺が京子たちの方にチラリと目をやると、それが気に食わなかったのか、竜也とミツルが一斉に襲いかかってくる。

ミツルは前からまっすぐに、竜也の方は後ろから回り込んできている。

「『術眼ガンジュツ・見切り』」

俺は眼術を発動すると、右目に炎が宿り、視界が上下左右、三六〇度に広がる。

一番近いのは三百六十度カメラか。

あんなふうに画像が歪んでいるような違和感はないが、全方位完璧に見えるという点では一緒だ。

これ、本当にどうなってんだ?

我がことながら、マジで訳がわからん。

「『忍法・木葉舞』」

俺は竜也とミツルの攻撃を紙一重で避けていく。

「何!」

「避けた!」

「それだけじゃないぞ」

回避をしながら、反撃も加えていく。

防具にあたれば武器が壊れてしまうかもしれないので、防具のない場所を的確にだ。

首などの急所は狙えないし、そこまで深く傷はつけられないが、竜也とミツルは確実に傷を増やしていく。

「ちぃ」

「これはー困ったねー」

竜也とミツルは俺の反撃を嫌って距離を取る。

俺の与えたダメージは見た目は大した傷ではない。

だが、間違いなくHPは削れていた。

そして、HPがゼロになればこんな小さな傷では済まない。

HPのバリアは無くなるし、武器や防具もその効力を失ってしまう。

竜也たちもそのことには気づいているんだろう。

さっきから、俺のHPを削るような攻撃ばかりしてくるし。

(これが探索者同士の戦闘か)

普通の喧嘩とは全然雰囲気が違う。

気をぬけば大怪我を負いそうだ。

俺はまずは目の前の相手を倒すことに専念した。

◇◇◇

「竜也さん! くそ、『踏……インファイ!!

「『影斬シャドウアタック』」

サグル対竜也とミツルの戦闘が始まった頃、京子と朱莉対サトルとキョウヘイの戦闘も始まった。

!! くっ」

サトルの陰から姿を現した朱莉はサトルに攻撃を当てる。

サトルは両手をクロスして朱莉の攻撃を防ごうとする。

「『高強化ハイストレングス』『高加速ハイアクセル』」

「な! ぐぅ」

京子の強化魔法を受けた朱莉の攻撃は防御しても結構なダメージを与えられたようだ。

サトルは苦しそうに声を漏らす。

「そんなに前に出て良いのか? 後ろがガラ空きだぞ? 炎よ。かの者を撃て『火球ファイアーボール』」

キョウヘイは後ろで待機している京子とまだ目を覚まさない美香の方に向かって火球を飛ばす。

「『聖域』」

「何!?

だが、火球は京子の聖域に阻まれてしまう。

MPは少し減ったが、Dランクダンジョンでランクを上げた京子にとって、この程度の消費であれば問題にはならない。

「く。ならば。我は魔の使徒なり。ご……」

「やらせる訳ないでしょ! 『影斬シャドウアタック』」

「ぎゃ」

朱莉の攻撃によって、キョウヘイの魔法は解除される。

魔法使いは強力な魔法を使う時ほど長い詠唱が必要となる。

その分妨害も容易になるということだ。

キョウヘイの魔法を妨害した朱莉は一度京子たちのところまで戻ってくる。

そして、安らかに眠る美香の顔を見てほっと胸を撫で下ろす。

美香はまだ当分起きなさそうだ。

前回の戦闘で心を壊してしまった美香に、今回の戦闘は見せたくない。

早く終わらせて、美香を安全な場所に連れていかないといけないと朱莉は決意を新たにする。

「キョウちゃん。結構MP使ってるみたいだけど大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。アカリちゃん。さっさとこの二人を倒してサグルさんの支援に行かないといけないからね」

京子は朱莉にも支援魔法を送っており、この戦闘で使い切るくらいの勢いでMPを大盤振る舞いしていた。

だが、京子も朱莉もそれが問題だとは思っていなかった。

ダンジョン内と違い、この戦闘が終われば次が出てくることはないのだから。

だが、二人もそこまで余裕があるわけではない。

朱莉にとっては二人とも格上の存在だ。

京子の支援が途切れればすぐに劣勢に立たされてしまう。

京子もそのことがわかっているので、サグルの方には支援魔法を送る余裕がなく、朱莉の支援に徹していた。

「くそ! 悟! 何やってる!」

「お前こそ、さっさとそのうるさい蝿を叩き落とせ!」

キョウヘイはサトルにタンク役をやってもらいたいと思っており、サトルは後方からキョウヘイに支援を送ってほしいと思っていた。

結果、それぞれがバラバラに動き、キョウヘイとサトルのコンビネーションは全く取れていなかった。

普段は剣士であるミツルがタンクとしてキョウヘイの防御に回っており、僧侶のサチコがサトルの支援を行なっていた。

サトルは前に出て攻撃をする役、キョウヘイは後方から攻撃する役だったため、二人の相性はあまり良くなかった。

というより、竜也のパーティでは戦士のミツルと僧侶のサチコが他のメンバーのフォローを行なっており、竜也とミツルとキョウヘイの三人はあまりコンビネーションが取れていなかった。

今はサチコはやられてしまい、ミツルは竜也の方にかかりっきりだ。

そのため、残った二人はバラバラに動いていた。

ミツルもそのことには気づいているが、サグルが思った以上にやる相手だったので、サトルたちの方まで気が回っていなかった。

むしろ、自分たちがサグルの相手をしている間、京子たちの相手をしていてくれればサトルたちが死んでも別に構わないとすら思っていた。

ミツルにとって仲間は竜也で、サトルたちは替えの利く道具のようなものなのだから。

「(早めにけりをつけないといけなさそうね)」

「(そうですね。二人が連携をとってくる前に最低でも一人はなんとかしておかないといけませんね)」

京子と朱莉にとっては、二人の動きがバラバラなのは生命線の一つだった。

サトルとキョウヘイは竜也と一緒に長い間Dランクダンジョンに潜っており、レベル的には二人よりも上なのだ。

連携が取れていない今だからこそなんとか対処できているが、連携が取れてくると対処できなくなる可能性が高い。

いくら今はバラバラでも、この二人は長い間仲間をしてきているのだ。

戦闘が長引けば連携は自然と取れてくるだろう。

「(先に落とすべきはやっぱり拳士の方だよね)」

「(そうだね。あっちの方が攻撃が当てやすそうだ)」

前に出てきている拳士のサトルと違い、魔法使いのキョウヘイは後方から動かない。

どちらの方が狙いやすいかは目に見えている。

「(よし、じゃあ、行ってくる)」

「(行ってらっしゃい。『祝福ブレッシング』)」

朱莉は京子のバフを受けて、一目散にサトルの方へとかけだした。

◇◇◇

「くそ! ちょこまかと!」

「それはこっちのセリフだよ!」

俺と竜也との戦闘は膠着状態になっていた。

ミツルの攻撃圏外からヒットアンドアウェイを繰り返す俺と、ミツルという盾を使いながら、奇襲をしてこようとする竜也。

俺がミツルの方を攻撃しようとすると、竜也が妨害をしてきて、竜也の方を攻撃しようとすると、ミツルが妨害してくる。

与えたダメージはこっちが優っているが、いつひっくり返されてもおかしくないくらいにしか差はない。

竜也たちはさっきからポーションを使って何度も回復してるしな。

ボスキャラが回復をするのは反則だぞ。

竜也たちの防具もかなりいい物なので、防具越しに攻撃するとほとんどダメージが通らないというのもある。

こっちは防御が紙だからダメージは結構くらってしまいそうなのに。

「竜也ー。早くあいつの武器をー壊しちゃってよー」

「わかってるよ!」

それに、俺の武器が貧弱だということもすでにバレてしまっている。

おかげで、ミツルは防具を使って防御をするようになったので、攻撃が与えにくくなった。

防具に攻撃を当てると、そのせいでこっちの武器が壊れちゃいそうだからな。

竜也の攻撃も明らかに俺の武器を狙っているので、結構めんどくさい。

俺に防御をさせる攻撃とか、避けたのに武器を狙って軌道を変えてきたりとか、武器まで気をつけて避けないといけないからな。

まあ、武器はまだ何本かあるから、そこまでピンチではないけど。

武器がなくなると、武器なしのNINJAスタイルで戦わないといけなくなる。

そうなるとダメージを与えるために、MPを大量に使う忍術を多用することになり、MPがかなり減ってしまうだろう。

忍術を使えば竜也たちには簡単に勝てるかもしれないが、MPを消費しすぎるのは良くない。

……あれ? 本当に良くないか?

(あれ? 別にMPを消費しちゃってもいいんじゃないか?)

普段のダンジョン探索であれば、戦闘が連続するので、一度の戦闘でMPを使いすぎると、次の戦闘が苦しくなってしまう。

だが、今回はMPを大量に使っても、別に次の戦闘があるわけじゃない。

竜也のパーティメンバーの対処もしないといけないし、竜也たちに隠し球とかがあるかもしれないから、完全に使い切ったらまずいかもしれないが、半分くらいは使っても問題ないような気がする。

いや、竜也とミツルってやつが主力っぽいし、四分の三くらいまでは使って大丈夫か?

(それならやりたいことはたくさんあるんだよな)

NINJAのランクは結構上がったが、初期に覚えた忍術のコスパが一番いいため、途中から覚えた忍術は全く使っていなかった。

せっかくだし、この機会に使ってみてもいいだろう。

竜也たちはDランクダンジョンでは出会えないほどの相手なので、ここを逃せば当分使う機会がやってこない。

そうと決まれば即実行だ。

俺は両手をつき、上体を地面スレスレまで落とす。

クラウチングスタートの姿勢だ。

この姿勢が一番初速が出やすい。

クラウチングスタートはスターティングブロックがないと、滑りやすくて、むしろ不利になるっていう話もあるが、忍者の『壁走』のスキルで足が地面に接着してるから、滑る心配はない。

「おやおやー? スタイルチェンジかいー?」

「あぁ。そろそろ決着をつけようと思ってな」

「はっ! ここに来てハッタリかよ」

竜也もミツルも口では軽口を叩いているが、警戒は全く解いていない。

むしろ、警戒レベルは一つ上がったように見える。

まあ、警戒したからって対処できるかどうかはわからないけどな。

「行くぞ!」

!!

「! 速い!」

俺はスタートダッシュを決め、一瞬後にはミツルの懐に滑り込んでいた。

「うらぁ!」

「ぐふっ!」

俺は全力で両手に持った小太刀をミツルに叩き込み、そのままの勢いでミツルを竜也がいるあたりまで押し込む。

だが、そこで攻撃に耐えられず、両手に持った小太刀はガラスが割れるような音を残して砕け散り、空気に溶けるように消えていく。

「この!」

ミツルは横薙ぎを繰り出してきたので、俺はそれを避けるようにしてその場にしゃがむ。

「どうやら、ただの捨て身タックルだったみたいだな」

「ピンチになったみたいだけどー。この後どうするつもりなのかなー?」

竜也とミツルは俺を挟むように立ち、それぞれ、短刀と剣を振り下ろしてくる。

まさに、袋の鼠だ。

この攻撃を受ければかなり痛いだろう。

だが、この状況は俺が望んで招いたものだ。

俺は右手を地面につく。

「『風遁・雷神掌雷ライジンショウライ』!」

「「!!」」

次の瞬間、雷が倉庫の屋根を突き破り、竜也とミツルの二人を貫いた。

***

「ガハッ」

「……」

「おっと」

竜也とミツルの二人は俺の方に向かってゆっくりと倒れてきた。

俺が下敷きにならないようにその二人を回避すると、二人は重なり合うように倒れ伏す。

二人のHPは底を尽き、丸焦げだ。

これではもう動けないだろう。

流石は俺のMPの三分の二を吹き飛ばすスキルだけのことはある。

強力な技のくせに、むちゃくちゃ効果範囲が狭くて、一体どこで使うんだこれとか思っていたが、結構使えるもんだな。

まあ、これを使うためにわざわざミツルを竜也の近くまで運んだんだけど。

「……死んでないよな」

少し怖くなって二人の脈を取ると、二人ともちゃんと心臓は動いていた。

まあ、死んでなければ大丈夫だろ。

「あっちも終わったのか」

俺は朱莉と京子の方を見ると、そちらの戦闘も終わっているようだった。

拳士は丸焦げになっており、魔法使いの方は涙目でこっちを見て力なくへたり込んでいる。

あれは完全に戦意喪失しているな。

二人とも相手を丸焦げにするようなスキルは持ってなかったはずだけど、一体何があったんだ?

◇◇◇

「我は……!」

!! 『投擲』!」

「くそ! またか! 悟! 早くそのうるさい蝿を黙らせろ!」

「うっせぇな! 今やってるところだ! 黙って魔法を使っとけ!」

詠唱をしようとしていたキョウスケに向かって朱莉は投げナイフを投げつけ、詠唱の妨害をする。

詠唱を中断するだけなら、投げナイフを当てるだけでできる。

普段からサグルの後ろから投げナイフをモンスターに当てて気を引いていた朱莉にとって、造作もないことだった。

「今度こそ。『踏込インファイト

「『背跳バックステップ

「『鉄……アイアンフィス』くそ。ちょこまかと動きやがって」

朱莉はゼロ距離に踏み込んできたサトルから距離を取る。

朱莉が慎重に動くため、サトルは朱莉に有効打を与えられていない。

キョウスケに至っては、最初の火球以降、攻撃を一発も発していない。

「(アカリちゃん。どう?)」

「(だめ。全然隙がない)」

だが、有効打が与えられていないのは朱莉たちも一緒だった。

キョウスケに投擲は当たっているし、サトルにも何発かいい攻撃は当てられているが、高性能な相手の防具の上からなので、致命傷を与えられていない。

「チッ。そろそろダメージが溜まってきたな」

「おい。ポーションの在庫は大丈夫なのか?」

「は。誰に言ってんだよ。お前と違って今まで無駄遣いしてないからな」

「なっ!! 俺だってまだまだポーションの在庫はあるよ!」

しかも、サトルとキョウスケは定期的にポーションを飲み、傷を回復してしまう。

普段からDランクダンジョンに潜っているのであれば、かなりの量のポーションを持っていると考えられる。

このままでは埒があかない。

そのうち、サグルが助けに来てくれると思うが、さっき倒すと言った手前、何も出来ずにサグルを待つのは恥ずかしい。

「おい! キョウスケ!」

「なんだ! まだ文句あるのか!」

「文句じゃねぇよ! 俺が合わせるから、次は同時に後ろの女を攻撃するぞ!」

「「(来た!)」」

同時攻撃は予想できていたことだ。

二人で同時に攻撃をしてくれば、朱莉一人では対処できない。

かといって、美香がいる以上、簡単に逃げることもできない。

キョウスケの大魔法相手では京子の聖域もいつまで持つかわからないので、かなりピンチだ。

「我は魔の使徒なり」

「『踏込インファイト』!」

「させない! 『走撃ダッシュアタック』!」

朱莉はまずはサトルを止めるためにサトルの方へと走る。

そんな朱莉の様子を見てサトルはニヤリと笑う。

「業火の槍よ」

「そうくると思ってたよ! 『鉄拳アイアンフィスト』!」

!!

「アカリちゃん!」

朱莉のナイフとサトルの拳がぶつかり、朱莉の短刀はあっさりと砕け散る。

元々サトルの狙いは京子ではなく朱莉だった。

二人同時に京子を攻撃すれば、朱莉はまず先にサトルを潰してからキョウスケの対処をすると思っていた。

そのために、サトルは朱莉とキョウスケの間に立つよう立ち位置を調整していたのだから。

「我が敵を穿ち、討滅せよ!」

!!

「逃がすかよ!」

朱莉はサトルに背を向け、キョウスケの方へと走る。

攻撃力の高いキョウスケの魔法さえ対処してしまえば、京子の聖域が破られることはない。

少々朱莉がダメージを受けてもあとで立て直すことは可能だと思ったのだろう。

だが、そんなことはサトルも想定の範囲内だ。

サトルは朱莉にトドメを刺すため、朱莉の後を追う。

それに、今からではキョウスケの魔法を止めることはもう不可能だ。

「『炎槍フレイムランス』!」

「これを待ってた」

「何!?

キョウスケから魔法が放たれた瞬間、朱莉はくるりと振り返る。

そして、驚くサトルの襟元をキュッと掴む。

「『巴投げ』!」

「「なっ!!」」

そして、柔道の巴投げの要領でサトルを投げ飛ばす。

サトルの飛んでいった先にはキョウスケの放った炎槍が迫っていた。

朱莉はサグルの補助として投擲をメインに戦っていた。

すると、なぜか投げ技がスキルとして発現していった。

投擲と投げ技は全然別ジャンルな気がするが、使えるなら使う。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

「悟ぅぅぅぅぅぅぅ!」

こうして、丸焦げのサトルができあがった。

同時に雷が落ちたような大きな音が倉庫内に響いた。

音の方を見てみると、竜也とミツルが倒れていた。

それを見て、キョウスケはヘナヘナとその場に崩れ落ちる。

どうやら、戦闘は終了したらしい。

***

「これで大丈夫だな」

「あの、サチコって人のスマホも壊してきました」

「よし」

戦闘が終わって、俺たちがまずしたことは竜也たちのスマホの破壊だった。

スマホさえあればダンジョンに潜ることができる。

だが、逆に言うと、スマホがなければダンジョンに潜ることはできないのだ。

ここで竜也たちのスマホを壊してしまえば、竜也たちがダンジョンに潜って警察から脱走したりはできないはずだ。

新しくスマホを買っても、『ダンジョンGo!』のアプリを探すのは簡単じゃない。

何かのタイミングで偶然見つけるしかないのだから。

近くに『ダンジョンGo!』のユーザーがいれば招待してもらうことはできるかもしれないが、刑務所内に『ダンジョンGo!』のユーザーはいないだろう。

刑務所内じゃスマホも手に入らないだろうし。

それに、アプリの入ったスマホが壊れてしばらくすると身体能力もかなり落ちてしまうらしい。

ヘルプには、『ダンジョンGo!』のアプリが入ったスマホが壊れてから一週間くらいすると、ジョブ補正が消えてしまうと書かれていた。

なんでも、アプリが体の魔力の経路を開き、利用しやすい形にコントロールしているらしく、アプリの力がなくなってしまうと自然と魔力の経路は閉じてしまうそうだ。

……俺の体改造されちゃってたよ。

アプリを再インストールすれば再び魔力の経路が開かれ、すぐに能力は戻るらしいが、一週間以内に『ダンジョンGo!』のアプリを探し出して再インストールすることが推奨されていた。

出所後に再びアプリをインストールすればまた襲ってくるかもしれないが、その頃には俺たちはもっと強くなっているし、竜也たちは色々なところから恨みを買っているみたいだし、俺たちどころじゃないだろう。

そんなことをしていると、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた。

どうやら、パトカーや消防車が近づいてきているらしい。

多分、行き先はこの倉庫だろう。

原因は俺の使った『風遁・雷神掌雷ライジンショウライ』だ。

あれのせいで倉庫の天井に大穴が空き、その穴の周りから発火してしまった。

気づいた時には結構燃え広がっており、なんとか消火には成功したが、結構遠くからも火の手が上がっている様子が確認できたと思う。

消防車が呼ばれるのは当然だな。

「じゃあ、帰ろうか」

「そうですね」

俺はそう言って『ダンジョンGo!』のアプリを取り出す。

俺たちも竜也にならってダンジョンに突入してから脱出するのだ。

脱出直後であれば警察からも見つからず安全に脱出できる。

美香さんは俺が担いで隠密のスキルを使って脱出すればいいだろう。

隠密のスキルはだいぶ成長していて、密着している対象であれば一緒に気配を消してくれるようになった。

俺が美香さんを担いで、両腕に朱莉と京子がしがみつけばダンジョンに入らなくても隠密の力を使って脱出できると思うが、流石にそんな提案はできない。

「じゃあ、ダンジョンに潜るよ! あれ?」

「ん? どうした?」

「恐怖のダンジョンっていうGランクダンジョンができてる」

!! 朱莉! 早くそれに潜れ!」

「? わかった」

俺たちは急いでGランクダンジョンに潜った。

***

「サグルっち。言われた通り、Gランクダンジョンに潜ったけど、なんなの?」

「私もGランクのダンジョンなんて初めて聞きました。Fランク以下もあったんですね。あ、そういえば、サグルさんが最速ダンジョン踏破者の称号を手に入れたのもFランク以下のダンジョンって話でしたよね。もしかして、称号を取るためにこのダンジョンに潜ったんですか?」

「……いや、そういえば、そのダンジョンに潜った時のことを京子には話してなかったな」

「? はい。Fランクより簡単なダンジョンだったとしか」

俺は初めてダンジョンに潜った時のことを話す。

おそらく、朱莉の父親の負の情念がダンジョンになったものに潜ったこと。ダンジョンを攻略するのは比較的簡単だったこと。そこで称号を色々手に入れたこと。

そして、攻略すると、朱莉の父親は憑き物が落ちたような顔で出てきたことをだ。

朱莉と京子は真剣な表情で俺の話を聞いていた。

「……」

「それで、位置的に考えても、これは美香さんの負の情念が固まったダンジョンだと思うんだ」

「……このダンジョンを攻略すれば、お母さんを救えるかもしれない」

「そういうことだ。まあ、完全攻略しないといけないかもしれないし、完全攻略してもなんの影響もないかもしれないが、やってみる価値は十分あるだろう」

「……」

GランクダンジョンはFランクダンジョンより小さいが、モンスターが何匹かいる。

モンスターは一度倒すとすぐにリポップするので、同時に倒す必要がある。

同時に倒すとなると、一箇所に集めて一網打尽にする必要がある。

ボスも一緒に倒さないといけないので、集める先はボス部屋かな。

「アカリちゃん! やってみようよ!」

「雑魚を集めてくれれば俺が一掃するよ。まあ、雑魚集めが一番大変なんだけど。Gランクダンジョンのモンスターは弱すぎるから、注意を引く攻撃がとどめになっちゃうかもしれないし」

「……」

俺たちが朱莉に話しかけている間、朱莉はずっと俯いていた。

美香さんの精神に影響を与えることはあまり乗り気ではないのかもしれない。

まあ、母親だからな。

ほぼ間違いなく良くなると言っても、悪い方向にいってしまうという可能性もあるわけで、やるのが怖いという気持ちもわからなくはない。

サンプルが俺がやった一回しかないし。

そう思っていると、朱莉は顔をあげ、俺たち二人の方をまっすぐ見る。

「キョウちゃん、サグルっち。このダンジョンの攻略、私一人でやりたい」

朱莉は決意のこもった瞳でそう宣言した。

◇◇◇

「最後の一匹。T字路の右!」

「わかった!」

T字路に差し掛かると右手に黒い毛玉のようなモンスターがいた。

「ッシ!」

「ギェ? ギェギェ!」

朱莉が小石をぶつけるとモンスターの注意は引けたようで、モンスターは朱莉の方に迫ってくる。

「よし。ラストはボス部屋だけだな。次の十字路を左。その次のT字路を右に曲がればボス部屋だ」

「りょ!」

「「「「ギェギェギェギェギェ」」」」

最後のモンスターも含め、四体のモンスターを引き連れて朱莉はボス部屋へと向かう。

「アカリちゃん! あと少しだよ! 頑張って!」

「ありがとう! キョウちゃん!」

「「「「ギェギェギェギェギェ」」」」

朱莉はサグルの案内を受けてボス部屋に向かって走り出す。

モンスターたちを引き離してしまわないようにできるだけゆっくりだ。

朱莉はサグルたちと一緒にダンジョン内を駆け巡っていた。

Gランクダンジョンは数部屋しかないため、全部回るのはそこまで大変じゃなかった。

一番大変だったのはモンスターたちを誘導することだ。

こうやってモンスターを誘導してみて、モンスターは倒さなければリポップしないということがわかった。

だが、Gランクダンジョンではモンスターの索敵範囲がめちゃくちゃ狭い。

攻撃が当たるか当たらないかギリギリの距離を保たないと、モンスターたちは自分の元いた場所に帰っていってしまう。

それに、モンスターがめちゃくちゃ弱いのも問題だった。

最初、誘導しようと朱莉がモンスターに投げナイフをぶつけたのだが、それだけでモンスターは倒せてしまった。

投擲スキルを使っていないにも拘らずだ。

結局、投擲スキルなしでその辺に落ちていた小石をぶつけることでモンスターが死なないレベルのダメージに抑えることに成功した。

「はぁ。はぁ」

「朱莉。大丈夫か?」

「大丈夫!」

サグルが心配そうに声をかけてくるが、朱莉は一言大丈夫とだけ答える。

大したスピードで移動していないので、肉体的には疲れていないが、精神的な疲労によって額から嫌な汗をかいていた。

(サグルっちとキョウちゃんのためにも頑張らないと)

朱莉が一人でやりたいと言うと、京子とサグルは二つ返事でOKしてくれた。

そのあとのめんどくさい作業にも文句の一つも言わず付き合ってくれている。

何度失敗してもだ。

サグルのアプリに表示されている雑魚モンスターとボスモンスターの位置情報がなければ、完全踏破は不可能だった。

ランクアップ現象が始まるまで待てば全部のモンスターが朱莉たちの方へときてくれるので、全てのモンスターを倒すことは可能だったかもしれないが、ランクアップ現象によって美香にどんな影響が出るかわからない。

だから、ランクアップ現象が始まる前にはなんとか全てのモンスターを倒したかった。

(……きっと大丈夫!)

サグルが言っていたことが事実だとしても、サグルが踏破したのはIランクダンジョンで今朱莉たちが潜っているのはGランクダンジョンだ。

同じ結果が出るとは限らない。

ダンジョンとは関係なく父親は気持ちを持ち直した可能性だってある。

でも、昔のような明るいお母さんが戻ってきてくれる可能性が少しでもあるのであれば朱莉は挑戦したかった。

全部のモンスターを一箇所に集めるのは想像以上に大変で、何度も心が折れそうになったが、京子とサグルが応援してくれたおかげで、あと少しのところまでたどり着くことができた。

朱莉は明るい母親の笑顔を思い出しながらボス部屋へと駆け込む。

「グギェギェギェギェギェギェ!」

「「「「ギェギェギェギェギェ」」」」

部屋に入った瞬間、正面からはボスモンスターが迫ってくる。

どうやら、ボスモンスターは雑魚モンスターより索敵範囲が広いようだ。

後ろからは四体のモンスターがちゃんとついてきている。

サグルと京子はこの部屋に入った直後に部屋の隅へと退避してくれた。

これで心置きなく戦える。

「……」

朱莉は気を抜かずに後ろのモンスターを引きつけつつ、ボスへと近づいていく。

ボスモンスターに近づき、五匹のモンスターがスキルの有効射程内に入ってからチラリとサグルの方を見ると、サグルはスマホを確認してOKのサインを送ってくる。

雑魚モンスターは湧いていないようだ。

「『旋風ツムジカゼ』!」

「グギェ……」「「「「ギェギェギェ……」」」

朱莉は五体のモンスターを一刀で切り刻む。

モンスターたちはボフっと軽い音を立てて喪失した。

──────────

恐怖の大醜鬼(G)を倒しました。

恐怖の醜鬼(G)×4を倒しました。

経験値を獲得しました。

恐怖のダンジョン(G)が攻略されました。

報酬:121円獲得しました。

称号『無慈悲』を獲得しました。

──────────

「……終わった」

こうして、朱莉は母親の中にあった恐怖を切り裂いた。

◇◇◇

「お母さん! お母さん!」

「う、うーん」

俺たちは美香さんを連れて美香さんが入院している病院の直ぐそばの公園に来ていた。

ダンジョンを攻略後、俺たちは急いで倉庫街から脱出した。

ダンジョン内で結構な時間を使ってしまったため、俺たちが脱出した直後に警察や消防の人が到着したからだ。

本当に危なかった。

ダンジョンに潜っていた俺たちは大丈夫だとしても、あの場で倒れていた美香さんは見つかってしまうからな。

竜也に攫われたとして処理されるだろうし、竜也の犯罪の証拠の一つになるはずなので、置いてきた方が良かったのかもしれない。

だが、警察に発見されれば美香さんは長い間警察に拘束されてしまうことになっただろう。

精神的に参っている美香さんにはそれでもかなりの負担だ。

朱莉がダンジョンを攻略したから精神は回復しているかもしれないが、確証は持てない。

いろいろと考えた結果、連れてくることにした。

間一髪脱出した俺たちはとりあえず、美香さんが入院していた病院の近くの公園のベンチで美香さんを起こすことにした。

俺たちはバイトが終わってから一度朱莉の家に寄り、何もなかったので病院に向かっていると、途中にあるこの場所で倒れている美香さんを見つけたという筋書きだ。

何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通すつもりでいる。

本当は俺たちの顔を見るとパニックになってしまうかもしれないので、眠ったまま病院に預けるほうがいいのだろう。

だが、朱莉が期待した眼差しをしていたので、起こしてみることになった。

パニックに陥った場合は、美香さんには悪いが『体術・手刀首トン』で眠ってもらうしかないだろう。

魔法に近いNINJUTUの一種なので、後遺症も残らないみたいだし。

大丈夫であることは竜也の仲間の魔法使いで実証済みだ。

五回も首トンしたあと頬を叩いて起こしてしまったことは申し訳ないと思っている。

「う、うーん。朱莉。朝ごはんなら自分で作りなさい。もう子供じゃないんだから。もう少しだけ寝かせて」

!! お母さん!」

とりあえず、パニックにならなかったことに俺はほっと胸を撫で下ろした。

むしろ、あまりに間の抜けたセリフにずっこけそうになってしまった。

俺の前ではしっかりしたお母さんという印象だったが、家族である朱莉の前ではこんな一面も見せるんだな。

美香さんはゆっくりと目を覚ます。

そして、ボーッとした瞳で朱莉のことを見て、そのあと、俺と京子の方にも視線を向ける。

その瞳から、恐怖のようなものは感じられない。

「……あらあら。ごめんなさい。ちょっと寝ちゃってたみたいね。でも、いい夢を見ていたのよ? どんな夢だったかは思い出せないけど、私のために朱莉がすごく頑張ってくれたの」

!! お母さん!」

昔と変わりない様子の美香さんを見て、朱莉は感極まって美香さんに抱きつく。

「お母さん! お゛あ゛ざーん゛!!

「え? 朱莉!? 本当にどうしたの? あら? 私どうして泣いてるのかしら?」

普段は大人ぶっている朱莉が小さい子供のように泣いている。

美香さんは何が起こっているかわからず、オロオロとしている。

その頬にはなぜか涙が伝っていた。

「大丈夫だったみたいだな」

「そうですね。アカリちゃん。よかった。よかったね」

俺と京子は胸を撫で下ろしながら抱き合う二人を眺め続けた。