第五章 それ、かっこいい台詞だけど死亡フラグなんだよな

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色欲の大醜兎(D)を倒しました。

経験値を獲得しました。

ジョブ『忍者』がレベルアップしました。

ジョブ『NINJA』がレベルアップしました。

色欲のダンジョン(D)が攻略されました。

報酬:114,578円獲得しました。

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「ふー。終わった」

「サグルさん。お疲れ様です」

「お疲れ、サグルっち!」

Dランクダンジョンを攻略して、俺は大きく息を吐く。

なんとか今日中にダンジョンを攻略することができた。

「まさか、Dランクダンジョンも一回の探索で攻略しちゃうとはね。もう、突入から五十五時間も経ってるよ」

「マップがあるから攻略できそうなのはわかったしな。でも、称号は得られなかったな」

「そうですね。はい。タオルと水筒です」

「ありがとう」

京子からもらったお茶を飲みながら、自分のアプリで突入からの時間を確認してみると、五十五時間十二分となっていた。

モンスターを倒すごとに武器が壊れるので、今回は最短経路を通ったから、最速でこの時間ということだ。

Dランクダンジョンの攻略に外部時間で大体六時間くらいかかるってことだな。

Eランクダンジョンは途中でモンスターを狩ったりせずにボスモンスターを目指せば外部時間で三十分ちょっとで攻略できる。

それを考えると、DランクダンジョンはEランクダンジョンより十倍くらいの時間がかかったことになる。

武器が壊れまくることも加味すると、収入的にいうと、Eランクダンジョンを潜った場合の倍ってところか。

一気に攻略しても称号が得られないみたいだし、次からは途中で何度も脱出しながら攻略した方が良さそうだ。

途中でEランクダンジョンに潜って武器の材料も手に入れないといけないからな。

(いや、普段はそんなに頻繁に攻略する必要もないか)

今日は一日で百万くらいの稼ぎになっている。

百万って言えば、俺の前の会社での給料にすれば三ヶ月分だ。

つまり、三ヶ月に一回のペースで攻略しても今の暮らしは続けられるということだ。

まあ、ここから税金とかが二割くらい飛んでいくから、もう少し頻繁に潜らないといけないとは思うが。

社会保険料とかも払わないといけないから、もっとか。

やばいな。

(今はレベルも上げないといけないから、可能な限り潜るつもりではいるけど)

今は竜也に対抗するために急いでレベルを上げる必要がある。

レベルは上がりにくくなってしまっているがじわじわとは上がっているので、できるだけ多くDランクダンジョンに潜って竜也との戦闘に備えておいた方がいいだろう。

忍者はランクⅡになり、スキルをいくつか覚えたが、これで足りるかはわからない。

こちらは向こうの居場所を知らないが、向こうはこちらの本拠地を知っているのだ。

つまり、いつ向こうから攻めてくるかわからないということだ。

(『分身』とか便利そうなのも多そうだし、大丈夫だと思うけど。NINJAの方のスキルも増えたし)

忍者のランクがⅡになった時、NINJAの方もスキルが増えた。

もしかしたら、NINJAは忍者と一緒に運用するものなのかもしれないな。

明らかに忍者のジョブを持っているから発生したジョブっぽいし。

新しく覚えたスキルも忍者で新しく覚えたスキルの派生スキルに見える。

例えば、『土遁・身代わり分身』だ。

忍者で新しく覚えた『分身』と違い、『身代わり分身』の方は実体がある分身らしい。

実体があると言っても中身は土人形だが。

しかも、忍者の分身はオートで動いてくれるっぽいのに、こっちはマニュアルだ。

『身代わり分身』の方もオートで動いてくれた方が助かるんだけど。

『身代わり分身』は自分がいきなり複数に増えるため、それぞれの体を操作する必要があり、相当大変だ。

最初戦闘で出した時なんて、自分で動かさないといけないとは思わず、分身達は出現したポーズのままずっと固まってたからな。

本体が戦闘している傍らで、動かない分身達は相当滑稽だったと思う。

朱莉には爆笑されてしまったし、相手をしているモンスターも「え?」って顔していたように見えた。

色欲のダンジョンで醜兎とばかり戦ってきたから、なんとなくこいつらの表情がわかるようになってしまったんだよな。

でも、素早いだけの醜兎は一番倒しやすいんだよ。

なんにしても、このスキルもかなり練習が必要だ。

「そういえば、二人ともレベルってどうなってる?」

「私は今の戦闘で久しぶりにレベルが上がりました。でも、聖女のランクはⅧがまだ遠そうです」

「私は盗賊のランクⅥまで来たよ。次の戦闘ではもっと役に立てそう」

どうやら、二人とも順調にレベルは上がってるみたいだ。

京子の方はDランクダンジョンでもレベルの上限が近くなっているらしいけど。

まあ、俺の忍者もランクⅡになってからほとんどレベルが上がっていないんだけど。

NINJAの方もやっとランクⅥになってからはほとんど上がってないし。

でも、まだDランクダンジョンに潜り始めたばかりだし、流石にCランクダンジョンに行くのは怖すぎる。

二日目でEランクダンジョンに突入した俺が言えたことではないかもしれないが。

それにDランクダンジョン攻略でも問題は残っている。

それを解決してからじゃないとCランクダンジョンなんて夢のまた夢だ。

***

「そういえば、サグルさん。武器の在庫はまだ大丈夫ですか?」

「あと十本あるが、そろそろヤバそうだ。素材ももう残ってないし」

『ダンジョンGo!』のアプリを確認してみると、小太刀の在庫は残り十本になっていた。

両手に一本ずつ持っているので、合計であと十二本だ。

もしもの時のことを考えると、これ以上在庫を減らすのは危ないだろう。

「サグルっちも? 私も残り一本だよ」

「朱莉もか」

「私も、ドロップアイテムはさっきアカリちゃんに渡したので最後です」

Dランクダンジョンに入ってしばらくしてから朱莉も戦闘に参加している。

朱莉が初撃を加えて、注意を引いてるうちに俺がとどめを刺すって感じだ。

朱莉の中の男の子の部分が戦闘に参加したいと疼いたらしい。

気持ちはよくわかる。

他の人がやるゲームを横から覗いているより、自分もゲームに参加したほうが絶対楽しいからな。

YouTVでゲーム実況を見ているとそのゲームを買いたくなるみたいな感じだ。

色々と工夫してくれて、今では朱莉が確実に注意を引いてくれるようになった。

そのおかげで比較的SPの消費が少ない『暗殺』の方でモンスターを倒せるから、戦闘は結構楽になった。

『一閃』や通常攻撃よりも武器への負担が少ないらしく、武器が壊れる頻度も下がったし。

だが、そのせいで、朱莉の方の武器も定期的に壊れるようになってしまった。

俺の武器の使い方が悪いわけではなかったということがわかったのは嬉しいが、武器のスペックがダンジョンのスペックに追いついていないということだ。

何の解決にもなっていない。

ペースはだいぶ下がったが、十回の戦闘で俺か朱莉の武器が一本壊れる。

火遁みたいな魔法系の技で倒せば武器は壊れることはないのだが、そうすると今度はMPが持たない。

だいぶMP消費が抑えられるようになったと言っても、MP消費を0にはできないからな。

MPポーションは持っていないので、魔法系の技だけで戦っていくのは無理だ。

MPポーションはDランクのレアドロップらしいので、手に入れたとしてももしもの時のために死蔵することになると思うが。

結局、下級ポーションも京子に使って以来一度も使ってないし。

俺も京子も朱莉もエリクサーはゲームクリアまで取っておいてしまうタイプなのだ。

下級ポーションよりも京子の『回復ヒール』の方が回復量が多くなって下級ポーションはいらない子になってしまったっていうのもあるかもしれないが。

「じゃあ、明日はEランクダンジョンの方に潜らないとダメそうだな」

「はぁ。めんどくさい」

武器は骨系のドロップアイテムなら一つ、牙系のドロップアイテムなら五つ使わないと作ることができない。

手のひらサイズの牙五本でどうやって50センチくらいありそうな小太刀を作るのかわからないが、今それはどうでもいい。

そんなことを言ってしまえば、醜兎の頭はスイカサイズなのに、どうして牙は手のひらサイズなのかとかもツッコまないといけなくなる。

牙は一番出やすいドロップアイテムだが、ドロップ率は5%くらいだ。

つまり、一本の武器を作るのに百匹のEランクモンスターを狩らないといけないということだ。

今まで、ドロップアイテムは売らずにとっておいた。

お金にも困ってなかったし、『ダンジョンGo!』から出さなければ、邪魔にもならない。

その在庫がなくなったということは、一ヶ月分のドロップアイテムを一度の探索で消費し切ってしまったということになる。

今は斥候の朱莉もいるし、ドロップアイテム目当てで片っ端から狩りまくれば一日でもかなりの数集められるとは思うが、せっかくDランクダンジョンに潜れるようになったのにまたEランクダンジョンに潜らないといけなくなるのはかなり辛い。

「やっぱり、生産職さんを探さないとダメですね」

「そうだね。それが正攻法なんだし、それしかないんじゃない?」

もう一つ、俺がセカンドジョブに生産系のジョブをセットするという手もある。

だが、できればNINJAのジョブのレベルも上げたい。

ファーストジョブの忍者の方を外すと一気に強さが落ちてモンスターを倒せなくなるかもしれないので、そっちは却下だ。

提案するだけ提案してみるか?

このタイミングを逃すとセカンドジョブのことを話すタイミングがまた遠くなりそうだし。

二人のことは信頼している。

京子一人だった時はちょっと京子の反応が怖くて切り出せなかったが、朱莉が何とかしてくれるだろう。

「……二人とも、実はさ」

俺は二人にユニーク称号のことを話した。

***

「へー。そんな称号持ってたんですね」

「ユニーク称号か。便利そうでいいなー。私も何か取れないかなー?」

二人の反応は相当軽いものだった。

こうなる予想もあったが、予想していた中で一番軽い反応だったので、少しホッとした。

「……ねぇ。称号のことは黙っていてもオッケーって事にしない? この称号って結構恥ずかしいのもあるし。実は私もサグルっちには言ってない称号あるんだ(『一途』の称号とか、持ってるのバレたら私の気持ちがバレちゃうじゃん)」

「そうですね。それがいいと思います(サグルさんに『性女』のスキルを持ってることがバレたら私死んじゃいます)」

「そうか? ……確かにそれがいいかもしれないな」

スキルはダンジョン外の行動も影響して発生する。

だから、持っているとバレれば恥ずかしい称号もある。

俺の『強面』とかもそうだし。

忍者がランクアップした時に得た称号だ。

強面顔だと得られる称号らしい。

思わず、スマホを投げ捨てそうになってしまった。

俺のコンプレックスを的確に突いてくるんじゃねぇよ!

しかも、結構有用なのがまたムカつく。

これのおかげで相手の意識を一気に引きつけ、場合によっては相手を恐慌状態にする『威圧』のスキルを得た。

後衛の京子が貧弱なうちのパーティではかなり有用なスキルだ。

条件は他にもあるのかもしれないが、多分、称号をつけられるだけの魔力が溜まったから発現したのだと思う。

『一閃』みたいに、スキルにはなっていないがよく使っている行動がレベルアップの時にスキルとして発現することの延長だろう。

こうやって発現する称号はあまり人には知られたくないのが多くなりそうだ。

もし俺にむっつりスケベの称号とかが付いたら二人には知られたくないし。

「決まり! 称号は今後も公開しないってことで。何か使えそうなスキルとかはその内容だけ伝えること」

「異議なしです」

「オッケー。俺も異議はない」

朱莉の決定が採用され、俺たちはとりあえず、称号については秘匿してもいいことに決まった。

「それで、サグルっちのセカンドジョブだけど、私も今のままNINJAでいいんじゃないかと思う。今は竜也ってやつを超えるのが最優先だし。私たちの中で一番強いサグルっちの成長が最優先っしょ」

「私もそう思います」

「二人ともありがとう。そうさせてもらうよ」

二人の賛同も得られたので、心置きなくセカンドジョブにNINJAをセットできる。

「それに、これからEランクダンジョンに潜るんだし、ダンジョン内で誰か他の探索者にも会うでしょ。今までは避けてたけど、避けなければ会えると思うし」

「そうだな」

俺たちは今までできるだけ別の探索者に会うのを避けていた。

俺たちのいないところでモンスターが倒されればそこに探索者がいるということがわかる。

だから、別の探索者と接触しないようにするのは比較的簡単なのだ。

向こうも用がなければ近づいてこないし、近づいてきているようならさっさと逃げてたしな。

Eランクダンジョンに潜っている中で俺たちは討伐速度も移動スピードも速い方だ。

向こうから近づいてきても逃げ切るのは容易だ。

つまり、こっちから会いにいくことも簡単だということだ。

「ダンジョン内に生産職の人はいないかもしれないけど、知り合いの生産職とかいるかもしれないじゃん?」

「生産職の人を紹介してもらえなくても、掲示板とか、生産職探しができそうな場所を教えてもらえればいいんだし」

「そうですね。ケンタに掲示板を聞いておかなかったのが悔やまれます。まあ、聞いても教えてもらえなかったかもしれませんが」

京子の昔のパーティメンバーのケンタというやつから探索者だけが見られる掲示板が存在することを聞いていた。

何度も探してみているが、いまだ発見できていない。

やっぱり、探索者にURLを教えてもらわないと辿り着けないようだ。

俺たちは今まで探索者の知り合いを増やそうとしてなかったが、やっぱりいた方がいい。

この先行く事になるCランクのダンジョンがどうなってるのかとかもできれば知りたいし。

「よし、じゃあ、明日からのEランクダンジョン探索で、ドロップアイテムを探すついでに、探索者パーティも探すってことでいいか?」

「大丈夫です」

「私も大丈夫」

「じゃあ、他に何もなければダンジョンから脱出するか」

「私は大丈夫! キョウちゃんは?」

「私も特に話し合っておきたいことはないかな」

「じゃあ、脱出するぞ」

「はい」

「りょ」

俺たちはDランクダンジョンから脱出した。

***

「んー! 久しぶりの空!」

「体感時間だと三日振りくらいの外だからな。外部時間だと五時間しか経ってないけど」

「五時間も経ってるんだよ? 早くメッセージ返さないと!」

朱莉は焦ってスマホを確認する。

チラリと見えた朱莉のスマホにはかなりの数の通知が来ていた。

そして、それぞれにすごいスピードで返信を返していく。

すごい、指の残像が見えるぞ。

朱莉は必死な表情でメッセージに返信していく。

今時の女子高生は既読をつけたら速攻でメッセージを返さないとハブにされるらしいからな。

女子高生は大変だな。

「京子はいいのか?」

「私はアカリちゃんほど友達が多くないので。メッセージも二件くらいきてましたが、返信済みです」

「……そうか」

「あ、別に私の友達が少ないわけじゃないですよ。アカリちゃんの友達が多いだけです。それに、私もアカリちゃんもバイトしてる事になってるので、メッセージの返信が遅れてもそこまで何も言われませんし。言ってくる子はいますけど」

いや、別に京子の友達が少ないとか考えてないんだが。

友達が常にほぼゼロの俺がそんなこと考えるなんて烏滸おこがましいし。

それより、京子はいつの間に返信したんだ?

やっぱり女子高生は大変だ。

「あれ?」

「どうかしたのか?」

「なんか、着信がいっぱいきてる。斉藤? あ、刑事さんからだ。なんだろ? サグルっちの方にも来てる?」

「え? あ、俺にも着信が来てる」

朱莉に言われてスマホを確認すると、俺のスマホにもかなりの数の着信が来ていた。

俺の方は佐々木さんからだ。

これは掛け直した方がいいのかな?

──ブー。ブー。

「あ。ちょうどかかってきた」

かけ直そうかと考えていると、ちょうどスマホに着信が入った。

佐々木さんからだ。

俺はとりあえず、電話に出てみる。

「もしもし」

『やっと繋がった! 大穴さんですか?』

「……はい」

電話の向こうから佐々木さんの声が聞こえてくる。

かなり焦っている様子だ。

何かあったみたいだ。

『有村朱莉さんと連絡が取れないんですが、一緒にいませんか?』

「今一緒にいます。さっきまで一緒にダ……バイトしていたので」

『本当ですか! よかった。斉藤! 朱莉さん無事だそうだ』

電話の向こうから斉藤さんの喜ぶ声が聞こえてくる。

どうやら、斉藤さんも一緒にいるらしい。

今日は日曜日なのに仕事かな?

警察は大変だ。

「朱莉に代わった方がいいですか?」

『いえ。今斉藤の方から連絡しようとしているので大丈夫です』

「そうですか」

横を見ると、朱莉も電話に出ていた。

相手は斉藤という刑事さんのようだ。

向こうも真剣な感じだ。

「何かあったんですか?」

『……落ち着いて聞いてください。病院にいた有村美香さんが失踪しました』

「「えぇ!」」

俺と朱莉の声がハモった。

俺と朱莉は顔を見合わせる。

どうやら同じタイミングで同じことを聞かされたようだ。

***

佐々木さんの話では、数分前、担当の看護さんが美香さんの病室に検温のために向かうと、忽然といなくなっていたそうだ。

美香さんの部屋から外に出ようと思うと、ナースステーションの前を通る必要があり、外出したとは考えにくい。

窓は全開だったが、美香さんの病室は病院の五階にあり、窓から出たとも考えられないそうだ。

『事件性があるかどうかはわかりません。今のところ目撃者は見つかっていません。防犯カメラの確認を急いでいますが、何分、精神疾患の患者が入院する病院ですので、防犯カメラも最低限しか設置されておらず、捜査は難航しています』

「そうですか」

『当分の間、大穴さんには朱莉さんと一緒にいてもらってもいいでしょうか? こちらからも応援を送りたいのですが、まだ事件かどうかもわかっていませんので』

「わかりました。朱莉のそばにいるようにします」

『お願いします』

俺が通話を切ると、ほぼ同じタイミングで朱莉も通話を切る。

その顔は白を通り越して真っ青になっていた。

「サグルっち。もしかしたら」

「あぁ。多分、竜也の部下の仕業だ」

誰にも見つからずに警察病院に侵入するなんて普通不可能だ。

だが、『ダンジョンGo!』のアプリを使えば可能だ。

帰りだって、戦士の身体能力があれば五階から飛び降りることだってできるだろう。

魔法使いに空を飛ぶスキルとかもあるかもしれないし。

そして、多分奴らのターゲットは俺たちだ。

前に攻めてきた時も見せしめに俺たちを殺すみたいなことを言っていた。

美香さんを誘拐して俺たちを誘き出すつもりなんだろう。

「……一旦家に戻ろう。何かメッセージがあるかもしれない」

「……そうですね」

俺たちは急いで朱莉の家へと向かった。

***

「これは、間違いないな」

「そうですね」

ダンジョンを出てからまっすぐ朱莉の家に帰ると、ローテーブルの上に一枚の写真が置かれていた。

窓を塞いであったブルーシートがなくなっているので、窓から侵入したのだろう。

その写真にはどこかの床に寝かされた美香さんが写っている。

乱暴は受けていないようだ。

少しホッとすると同時に、こんなことをしてきた竜也たちに対する怒りが沸々と膨れ上がってくる。

「……」

そして、その裏には「『ダンジョンGo!』について話がある。地図の場所まで来い」と書かれていた。

文字の下には簡単な地図が描かれている。

この場所は品川区だな。

タイミング的にも竜也たちだろう。

「ごめん。まさか、警察病院に侵入されるとは思ってなかった。留置所にだって侵入できたんだから、警察病院にだって侵入できるって想像できたはずなのに」

「サグルっちは悪くないよ。私だってお母さんが攫われるなんて少しも思ってなかったもん。それに、病室内にはいられないんだし、多分一緒だったよ」

「まだそれほど時間は経ってません。早く助けに行きましょう」

「そうだな」

俺たちがダンジョンを脱出したのが三時ごろで、美香さんがいなくなったのがその数分前。

二時半に看護師さんが確認に行った時には美香さんは無事だったらしい。

新宿のダンジョンから朱莉の家まで俺が二人を担いで全力ダッシュできたので、ダンジョンの脱出から数分で戻ってこられた。

だから、攫われてからまだ三十分ほどしか経っていないはずだ。

美香さんはまだ無事な可能性が高い。

だが、時間が経てば経つほど危険は増していくはずだ。

今は病院で打たれた睡眠薬が効いているおかげで眠っているようだが、起きれば美香さんはパニックになると思う。

そうなれば、竜也たちは何をするかわからない。

少なくとも、病院の医師みたいに優しく対処してくれるとは思えない。

「警察が来る前には動いた方がいいと思うし」

佐々木さんと斉藤さんもこの家に向かっているらしい。

見つかってしまうといろいろめんどくさそうなので、早く移動したほうがいい。

俺たちは朱莉の家を後にして品川区へと向かった。

***

「なんか、不気味ですね」

「そうだな」

俺たちは朱莉の家を後にして、地図にあった場所へと来ていた。

地図の場所は寂れた倉庫だった。

扉は錆びているし、アスファルトの隙間からは雑草が生え放題になっているので、おそらく今は使われていないのだろう。

東京にもこんな場所があるんだな。

「中に入ってみよう」

「うん」

「はい」

扉には鍵がかけられていなかった。

いや、鎖と南京錠で鍵がかけられていた痕跡はあったが、鎖は引きちぎられ、門の片方にぶら下がっている。

引きちぎられた鎖も錆び始めているので、かなり前からこの場所を勝手に使ってるみたいだ。

扉はギギギギと軋みをあげながらゆっくりと開く。

錆び付いているため、かなり重く、忍者のジョブ補正がないと開けられたかどうか微妙なところだ。

中は真っ暗で、入り口から入った光が、倉庫の中を照らす。

そして明るくなった場所に誰かが倒れているのが見えた。

その人影は病衣を着ており、薄汚れた倉庫からはかなり浮いて見えた。

「お母さん!」

倒れていたのは、美香さんだった。

朱莉は急いでその人影に駆け寄る。

俺も急いで美香さんの許に駆け寄った。

美香さんは意識がないようだ。

だが、血色もいいし、その寝息は穏やかだ。

さっと見まわしたが、病衣は埃で汚れてこそいるが、外傷はなさそうだ。

俺はホッと胸を撫で下ろす。

遅れてやってきた京子も安心したような顔をしている。

京子から見ても大丈夫そうなら、多分大丈夫だな。

どうやら間に合ったみたいだ。

「お母さん! お母さん!」

「朱莉。多分、まだ病院で打たれた睡眠薬が効いてるんだと思う。そっとしておいたほうがいい」

「そっか。よかっ……!! サグルっち!」

その直後、とんできた剣が『俺の頭部』に突き刺さった。

***

「サグルっち!」

「サグルさん!」

『サグル』はばたりと力なく倒れる。

京子は『サグル』に駆け寄る。

「!」

倒れたそれからは生気が感じられなかった。

そして、京子も今何が起きたか理解した。

「安心するのがー早すぎたみたいだねー?」

「えー? もう終わりー? 私きた意味ないじゃん?」

「面倒がないのはいい」

「あいつは俺の手で殺したかったんだが、あっけない幕引きだったな」

「……」

「「!!」」

倉庫内の明かりがつく。

京子と朱莉が声のした方を向くと、そこには五人の男女がいた。

そのうち、優男とガタイのいい男、痩せ型の男はこの前襲撃してきた人たちだ。

確か、戦士と拳士と魔法使いだったか。

今はそれに加えて、女性が一人と男性が一人いる。

この五人組が竜也のパーティメンバーかな?

竜也は名前から言って男性のはずなので、中央で偉そうに椅子に座っているのが竜也だろう。

女性の方は構成的に考えて僧侶だろうか?

「あなたが竜也?」

「おやー? 目上の人に対する礼儀がーなっていないみたいだねー? これはー教育が必要みたいだー」

優男がこちらに近づいてこようとする。

「待て、充」

「リュウヤー? どうかしたのかい?」

それを、竜也は制する。

優男は立ち止まり、竜也の方をみる。

「まだ『称号』が返ってきてねぇ。そいつはまだ死んでねぇぞ」

!!

優男は目を大きく見開く。

瞬間──。

「『一閃』!」

!! きゃぁぁぁぁぁぁ!」

***

俺は迷わず女性に『一閃』を叩き込んだ。

僧侶と思しき女性は反応すらできず、一閃をうけて吹き飛んでいく。

そして、壁に叩きつけられて動かなくなった。

まずは一人目。

息はしているようだから死んではいないな。

峰打ちだし、あれで死なれたら困るけど。

俺はバックステップして京子たちのところに戻る。

「サグルさん!」

「サグルっち!? え? どういうこと!?

朱莉は『サグル』と俺を交互に確認する。

「それは『身代わり分身』だよ」

俺がスキルを解除すると、京子のすぐそばにあった『サグル』は土塊になって崩れ落ちる。

奇襲を予想して、倉庫に入った時から俺は『身代わり分身』を使い、本体は『隠密』を使って隠れていた。

相手方は美香さんが無事で安心したところに奇襲をするつもりだったようだが、俺は俺が死んだと安心しているところに奇襲する気満々だった。

竜也にばれたのは予想外だったが。

「いきなり女を狙うとは、なかなかの外道だな」

「……ヒーラーを最初に潰すのは常道だろ?」