第三章 ドキドキ♪ ファッションショー!

「うーん! 久々の渋谷!」

「私も渋谷に買い物に来るのは久しぶりかも」

朱莉の家で借金取りが捕まった一週間後。

俺たちは渋谷に遊びにきていた。

一週間の間様子を見てみたが、借金取りたちは現れる気配を見せなかった。

数日は朱莉の家の周りのダンジョンを潰していたが、最近はそれをやめても借金取りたちは来ない。

今週の月曜日と火曜日は家の周りのダンジョンを三人で潰しまくっていた。

昼間は京子と朱莉が学校のため、俺一人でやっていたが、Eランクは朝のうちに潰し切っており、Fランクダンジョンしかなかったため、そこまで大変でもなかった。

今週の水曜日からは様子見のため、ダンジョン攻略を止めてみたが、借金取りたちが来ることはなかった。

俺たちがダンジョンを攻略しまくったせいで朱莉の家の近くにいたFランクダンジョンに潜っていた探索者が一時的にどっかに行ってしまったようでFランクダンジョンの攻略速度が落ちて、Eランクダンジョンが一日に四つほど生まれてしまったが、三人で協力すれば全部攻略するのはそこまで大変ではなかった。

おかげでかなり稼げたし、大成功と言ってもいいかもしれない。

木曜日には探索者も帰ってきていて、攻略速度も元のレベルに戻っていたし。

もしかすると、探索者の俺たちがバックにいると判断して、取り立てをやめたのかもしれない。

こんなことなら会社がまだ大丈夫なうちに探索者になれていればと思わなくもないが、今更だろう。

そして、土曜日の今日は息抜きも兼ねて朱莉と京子で買い物に来ていた。

俺は二人の荷物持ちとしてついてきた。

本当は奥さんの護衛に残ろうと思っていたのだが、奥さんは警察に事情聴取に呼ばれてしまった。

なんでも、捕まった借金取りたちが留置所内で病死してしまったらしい。

病死なので、有村親子は関係ないのだが、形式的に事情聴取をするそうだ。

何を聞かれても、借金取りたちとは顔も合わせたことがないので答えられないと思うが。

流石に警察に借金取りはやって来ないだろうということで、俺はお役御免となり、京子たちと一緒に買い物に来ることになったのだ。

「サグルさん!」

「サグルっち! こっちこっち!」

「今いくよ」

まあ、息抜きにはちょうどいいかもな。

初めて来る場所だし、俺も楽しもう。

***

「(そんなふうに考えてた時代が、僕にもありました)」

お昼近くになり、俺は京子たちとおしゃれなカフェに来ていた。

今日の午前中は渋谷バルクや渋谷801、渋谷ヒカルへとか色々なところを回った。

渋谷って思ってたよりいろんなところがあるんだな。

朱莉たちは次々とショップに入っていくので、俺はついていくのがやっとだった。

そして、何より辛かったのが、今、バルクでやってるバスケ漫画のショップに行けなかったことだ。

最近復刻で映画をやっていたので、限定ショップが渋谷バルクにできていた。

ゴリ先輩のバルクTシャツとか、先生のタプタプマウスパットとか、主人公のふんふんキーホルダーとか、気になる商品はいっぱいあった。

できれば一時間くらい見ていたかった。

だが、今日は朱莉のための買い物だ。

京子だってなんだかんだとこれまで大変だったからいい息抜きになっているだろう。

俺は断腸の思いでショップに背を向けた。

(あそこは近くに他のアニメショップもあったから、陰の気が強そうなのでめっちゃ居心地良さそうだったなぁ……)

朱莉たちが行く場所は基本キラキラしているのだ。

今いるカフェも相当数のキラキラした女子たちが並んでおり、入るだけでもかなり大変だった。

並ぶのはいいのだが、周りの人たちが発する陽のオーラで焼き尽くされそうだった。

「「わー! 美味しそう!」」

朱莉と京子は運ばれてきたパンケーキを見て、目をキラキラさせている。

パンケーキにはアイスが載っており、彩りとしてベリーが添えられている。

食べるのがもったいなくなるくらいオシャレなパンケーキだ。

ホットケーキとは違うらしい。

周りの客もオシャレな格好で、美味しそうにパンケーキを食べている。

なんというか、全体的にキラキラしている。

(めちゃくちゃ居心地悪い)

アニオタで基本ぼっちの俺としてはこういうカフェはめちゃくちゃ居心地が悪かった。

今にも陽のオーラに焼き殺されてしまいそうだ。

世のリア充男子たちはこんなところに平気で来るのか。

心の底から尊敬する。

ただ一つ言えることは、

(あ。このパンケーキ美味しい)

それだけだ。

さすが、SNSで話題になるだけのことはある。

映えも確かに大切だが、美味しくなければそこまで話題にはならない。

まあ、比重としては8:2というところだろうか。

当然、ビジュアルの方が8だ。

やっぱり映えは必要だ。

SNSにアップロードする奇跡の一枚を撮るために全力を出す。

そのために何十枚も写真を撮るからな。

俺は食べ始めているが、朱莉と京子はまだ熱心に写真を撮り続けているし。

おそらく、SNSにアップロードする用の写真を撮っているのだろう。

二人とも楽しそうだ。

(……二人が楽しんでるみたいだし、いいか)

俺はコーヒーに口をつける。

ほろ苦いコーヒーの味が口の中に広がり、甘さの余韻を洗い流していく。

このお店、コーヒーも美味しいな。

このお店はコーヒーもこだわっているらしく、豆の販売もやっていた。

お店のオリジナルブレンドらしいが、苦すぎず、酸味もほどほどですごく飲みやすい。

パンケーキのお供として、主張しすぎていないのもまたいい。

この豆を買って帰ってもいいかもしれないな。

コーヒーミルは埃かぶってたけど、まだ使えたよな?

俺は美味しいパンケーキとコーヒーに集中することで、その場をやり過ごした。

***

「あぁ! もう水着売ってる!」

この時は気づかなかったが、朱莉のこのセリフが俺の地獄の始まりだった。

午前中に買い忘れたものがあると朱莉が言ったので、俺たちはカフェを出て渋谷バルクに戻ってきていた。

渋谷バルクでエスカレーターに乗っていると、水着の広告が目に飛び込んできた。

エスカレーターっていつも季節物の宣伝とかがデカデカと貼られてるよね。

(そういえば、もう7月か)

7月といえばサマーレジャーのシーズンではある。

水着が売っていてもおかしくはない。

「本当だ! かわいいな〜。前の入らなくなったんだよね」

「キョウちゃんは成長してるもんね〜」

「そ、そうじゃなくて、前に水着買ったのなんて中学生の時だから! そのせいだから!」

「へー。まぁ、そういうことにしておきますかー」

朱莉は京子の体を舐め回すように見ながら意味ありげにそんなことを言う。

そうだな、京子は成長がすごいからな。

朱莉に京子の高校入学時の写真を見せてもらったが、どこがとは言わないが、間違いなく成長なされていた。

中学の時のでは入らなくなるだろうし、去年のでも入ったか怪しいところだ。

「アカリちゃんだっておっきくなってるでしょ?」

「そ、そんなことないよ!」

「うそだー。絶対おっきくなってるって」

どうやら、形勢は逆転したらしい。

確かに、朱莉もここ数年成長し続けている。

俺と初めて会った頃は本当に子供って感じだったのに。

当時は小学生だから当然か。

それにしても、朱莉が京子に押されているのは珍しいな。

大体は朱莉が京子を引っ張っていく感じなのに。

その時、朱莉が俺の方を見て逃げ場を見つけたと言わんばかりにニヤリと笑う。

!!

俺は嫌な予感がしたので全力で気配を消す。

「せっかくだから、見ていかない? サグルっちもいい?」

だが、逃げられなかった。

朱莉は俺の目をまっすぐ見てそんなことを聞いてくる。

くそ! あかりを斥候職にしたのは失敗だった。

最近の連続ダンジョンダイブですでに盗賊のジョブについている朱莉から姿を隠すのは不可能だったか。

いや、すでに捕捉された状態では気配を消しても逃げることはできないか。

待て、大穴探! まだ逃げ道があるじゃないか!

「あぁ。俺はあのベンチで待ってるから、二人で見てきてくれ」

俺は近くにあるベンチを指さしてそういう。

ちょうど近くに誰もいないベンチがあって助かった。

あそこで俺が待っているうちに二人に選んできてもらえばいいだろう。

水着を選ぶなら、女の子だけの方がいいはずだ。

試着とかもするだろうし。

水着売り場とかバリバリ陽のオーラの強そうなところじゃないか。

焼け死んでしまうわ。

「えー。サグルっちの感想も聞かせてよー」

「えーっと」

だが、朱莉は俺を逃すつもりはないようだ。

ニコニコと満面の笑みでそう言ってくる。

俺は助けを求めるように京子の方を見る。

京子だって、女の子同士の方が水着とか選びやすいはずだ。

「あの、サグルさんは私の水着見るの、嫌ですか?」

京子は少し不安そうに上目遣いで俺の方を見ている。

そんな目で見られたら嫌だとはいえない。

「……ついていかせていただきます」

!! ありがとうございます!」

「やったぁ! じゃあ、水着売り場にレッツゴー!」

俺は朱莉に引きずられるようにして水着売り場へと向かった。

***

「燃え尽きたぜ。真っ白にな」

俺は一人、水着売り場の隅っこにあるベンチで休憩をしていた。

あのあと、結構大変だった。

美少女二人による水着ショーは熟成されたボッチの俺には刺激が強すぎた。

鼻の下を伸ばさないようにするので精一杯で、碌な感想も言えなかったと思う。

役得もあったが。

今でも目を閉じれば赤いビキニ姿の朱莉や白のワンピースタイプの水着にパレオを巻いた京子の姿が思い出せる。

まさに、瞼の裏に焼きついているというやつだ。

……二人とも、脱ぐとすごいんですね。

いっぱいいっぱいの俺を見て、朱莉はやっと解放してくれた。

今のゴタゴタが全部終わったら、今年の夏に海に連れていくという条件をつけられたが。

車はレンタカーを借りればいいし、お金には困ってない。

東京の近場に海水浴場があるかは知らないが、その辺は調べればいい。

いっそのこと、沖縄とかに連れていってもいいかもしれないな。

「お待たせー。サグルっち!」

「サグルさん。お待たせしました」

「おかえり、二人とも。それほど待ってないよ」

実際、それほど待っていないが、二人の手にはそれぞれ、紙袋が下げられていた。

それぞれ別のお店の紙袋だ。

多分、俺と別れた頃にはすでに何を買うか決めており、会計だけをしてきたのかもしれない。

俺は立ち上がってその袋を受け取る。

水着の感想を言う仕事は完遂できなかったが、荷物持ちの仕事は完遂させていただこう。

「次はどこに行くんだ?」

「それなんだけど、そろそろお母さんの事情聴取も終わると思うから、帰ろうと思うの」

「あー。もうそんな時間か」

時計を見てみると、すでに四時を回っていた。

渋谷から家まで一時間以上はかかるので、今から帰ると着くのは六時ぐらいになるだろう。

事情聴取は六時までと言っていたので、美香さんより先に俺たちが家に着けるはずだ。

「じゃあ、帰るか。京子もいいか?」

「はい」

「じゃあ、帰ろー!」

俺たちは朱莉の後を追って駅へと移動を始めた。

***

「(はぁ。やっと解放される)」

俺と朱莉は駅に着いて少しだけ席を外した京子を待っていた。

おそらくお手洗いだろう。

京子が恥ずかしそうにしていたので深くは聞かなかったが。

これから結構長い間電車で移動することになるからな。

今日はかなり疲れた。

女の子の買い物に付き合うのは結構大変だ。

「ねぇねぇ。サグルっち!」

「朱莉? どうかしたか?」

京子を待っていると、朱莉が話しかけてきた。

俺が朱莉の方を見ると、朱莉は鞄の中から小さな袋を取り出し、俺に向かって差し出してくる。

「これ、あげる」

「これは?」

「お礼。こんなんじゃ足りないかもしれないけど」

朱莉から受け取った小さな袋には名作バスケ漫画のロゴが印字されていた。

今、渋谷バルクでポップアップショップをやってるあの作品だ。

どうやら、俺のためにわざわざ買ってくれたらしい。

もしかして、渋谷バルクに戻った理由って、これだったのか?

朱莉は俺があの漫画が好きなの知ってたはずだし。

俺が行きたがっていたことがバレてしまっていたのかもしれない。

「開けてもいいか?」

「もちろん!」

「……おぉ!」

中からは携帯ストラップが出てきた。

バスケットボールの小さなおもちゃがついたものだ。

結構おしゃれで、あまりオタクっぽくないから、俺が狙っていた商品の一つだ。

これはめちゃくちゃ嬉しい!

俺は早速スマホにストラップをつけてみる。

うん。かっこいい!

「えへへ。お揃い」

「お揃いだな」