「……見てないならいいんです(見たって言ったら責任取ってもらおうと思ったのに)」

「……」

なんか、選択肢を間違えたような気もするのだが、気のせいだろうか?

いや、気のせいだよな。

ギャルゲーと違って、人生はセーブ&ロードがないのだ。

イベントスチルだけ回収してやり直すなんてできない。

もしそんなものがあったら、俺はうちわを受け取った時点まで戻ってやり直してる。

「ささ、サグルっちも立って。一緒にマットで休も?」

「えーっと失礼します」

朱莉が自分の隣をポンポンと叩きながら俺を誘ってくれたので、俺は朱莉の隣に少しだけ距離を置いて腰を下ろす。

「あー。それにしても、すごく稼げたね! もう一万円超えちゃった!」

「そうだな。百体以上倒したし、一万円は超えただろうな」

スローターかよってくらいにモンスターを狩りまくったから、すでに百体以上のモンスターを倒している。

下手したら二百体以上になってるかもしれない。

それでも、モンスターを駆逐しきれていないのだから、『殲滅者』の称号って結構レアなものだったんだな。

俺も京子も持ってるから、そこまで貴重なものだと思ってなかった。

よく考えると、俺は初回のIランクダンジョンで取得して、京子はランクアップ現象の時に取得したと言っていた。

どちらも特殊な状況だったので、普通の状況で取れるものじゃないのかもしれない。

この称号があれば、マップ上にモンスターの位置が表示されるようになるから、結構便利な称号だし、朱莉にもとらせてあげたいなと思っていたが、ちょっと無理そうだ。

「もう六時間経ったのかー。明日も同じくらい潜れば同じくらい稼げるってことだよね。土日は休みだから六時間くらい潜って、平日は放課後の三十分くらいしか潜れないだろうから、二、三千円ってところかな? 普通にバイトするより全然稼げるね」

朱莉は自分のアプリのホーム画面に出ているダンジョンに突入してからの時間を見ながらそんなことを言う。

「あれ? 言ってなかったっけ? ダンジョン内とダンジョン外で時間の進みが違うから、外ではまだ三十分ちょいしか経ってないぞ?」

「え?」

「平日の放課後ならともかく、今日はまだまだ潜りますよ? このダンジョンは攻略しちゃうつもりですし。ダンジョンボスが一番美味しいですからね」

「マジ?」

朱莉は驚いたような顔をする。

もしかしたら、伝え忘れていたかもしれない。

ダンジョン内で十時間過ごして、やっと外で一時間経過したことになる。

今六時間くらいだから、外部の時間は三十六分くらい経ったことになるのかな?

朱莉が気合い入ってたから、今日は八時集合で八時半前にはダンジョンに潜り始めたから、今は九時を少し回ったくらいということになる。

「じゃあ、一日で数万円以上稼げるってこと!?

「いつもはここまで大量にモンスターは倒さないので。でも、最高で十万をちょっと超えたことがあります」

「十万!」

そういえば、一度だけ十万円を超えたことがあったっけ?

でも、あのときは移動せずにEランクダンジョンを攻略していたから、今は電車での移動時間がある分、そこまで稼げない。

今日はモンスターを倒しまくってるから、記録を更新できるかもしれないが。

「そういえば、これまでの最高金額は一人頭五百万だったな」

「五百万!!

五百万円行ったときはイレギュラーが発生していたのがいちばんの原因だったから、Cランクダンジョンくらいまで行かないと一日で五百万稼ぐなんてできないだろう。

だが、Dランクダンジョンでも一日必死に潜り続ければ百万はいくかもしれない。

「(これなら借金返済できるかもしれない)」

「ん? 何か言ったか?」

「え? なんでもないよ!」

今、一瞬朱莉が少し暗い顔をしたような気がした。

だが、朱莉の方を振り返ってみると、いつもの明るい笑顔をしている。

俺の気のせいだったか?

「そうは言っても、ここまで稼げるのはサグルさんのおかげですけどね」

「そうなの?」

「はい。サグルさんの忍者のジョブが強いから一撃でモンスターを倒せてますけど、普通のジョブだとEランクダンジョンのモンスターを一体倒すのに十分くらいはかかります」

「ラッキーで手に入れたジョブをそんなに褒められても困るんだが」

実際、忍者のジョブはかなり強い部類に入るみたいだ。

Eランクダンジョンではレベルがほとんど上がらないのがその証拠だ。

「それに、京子の聖女もかなり強ジョブだろ。京子のバフで見習い盗賊の朱莉がEランクモンスターにダメージを与えられてたんだから」

「え? 普通はダメージ与えられないの?」

「ジョブランクがⅨとかになれば話は変わってくるけど、朱莉のジョブランクはまだⅤだろ? 普通はダメージが与えられないはずだ」

本来、見習い職はFランクが適正で、EランクはⅨかⅩの五人パーティでギリギリ挑戦できるくらいのレベルらしい。

しかも、朱莉は攻撃特化のジョブじゃない見習い盗賊だ。

普通ならダメージらしいダメージが与えられないはずだ。

それが、目に見えてわかるくらいのダメージを与えられていたということは、京子のバフがそれだけすごかったということだろう。

聖女のレベルの上がり方はNINJAよりもゆっくりなので、すくなくともNINJAよりは強いジョブなんだと思う。

「(そっか。じゃあ、一人でダンジョンに潜っても大して稼げないのか)」

「え? なんて?」

「なんでもない! そうだ! 私、クッキー焼いてきたんだ! みんなで食べない?」

「お? 食べる食べる。朱莉のクッキーは結構美味しいんだよな」

朱莉は結構な料理上手だ。

特に、お菓子系が美味しい。

俺は少しだけ心に引っ掛かるものを抱えながら、朱莉がくれたクッキーに舌鼓を打った。

***

「アカリちゃん! 今日はお疲れ様」

「お疲れ様! また明日ね!」

「一人でダンジョンに潜るんじゃないぞ!」

「わかってるー!」

今日は三つのEランクダンジョンを踏破して、稼ぎは一人あたま十五万円くらいになった。

つまり、千体以上のモンスターを倒したということになる。

普段の十倍近くだ。

(いつもはまっすぐダンジョンの最奥部に向かうからなー)

ダンジョンのボスモンスターが一番実入りが大きい。

雑魚モンスター百体分の報酬が出るのだから。

だが、今日は一番の目的が朱莉のレベリングだったこともあって雑魚を倒しまくった。

どうやら、ダンジョンからダンジョンへの移動時間も考えると、雑魚を倒しまくったほうが最終的な報酬は多いらしい。

いつもより潜ったダンジョンは少ないのに、最終的な報酬は今日の方が多かった。

今度からはある程度雑魚を倒してからボスを倒したほうがいいかもしれないな。

わざわざマップを見なくても朱莉がモンスターのいる方に案内してくれるから、モンスターと会敵しやすいし。

(レベリングも上手くいったしな)

朱莉の見習い盗賊のジョブランクはⅦにまで上がった。

この調子なら明日には盗賊にクラスチェンジできそうだ。

俺としては金田がすぐに強い探索者を連れてこられると思っていないので、そこまで焦っていないのだが、早くDランクダンジョンに潜れるようになるに越したことはないだろう。

「……」

俺は去っていく朱莉の後ろ姿を見送る。

「サグルさん? どうかしましたか?」

「京子。今日、朱莉の様子がおかしくなかったか?」

「……サグルさんもそう思いましたか?」

今日一日一緒にダンジョンに潜ってみて、いくつかおかしな点があった。

独り言がやけに多かったし、すごく報酬にこだわってた。

おかげで、ダンジョンの深くの方が報酬が多いらしいとわかった。

奥に行っても報酬の安いモンスターもたまにいるから、報酬はランダムだと思っていたが、ダンジョンの一階や二階よりダンジョンの五階の方が報酬の多いモンスターの割合が多い。

まあ、普通に考えればそうか。

だが、そこまで大きく差はなかったので、なかなか気付けない。

それに気づくということは、朱莉はそれだけ報酬にこだわっていたということだ。

朱莉はお金に細かいタイプじゃなかったと思うんだけど。

「実は、今週の初めくらいからすこし変だったんですよね。急に朱莉ちゃんに謝られて」

先週学校に無理やり連れ出したことを今週になって急に謝られたらしい。

男に追われるのはかなり怖かったはずなのに、無理やり誘ってごめんと言われたそうだ。

誘拐事件があった次の日というわけでもなかったので、何かあったのかもしれないとずっと気にしていたようだ。

「……ちょっと朱莉の後をつけてみようと思うんだ。悪いんだけど、先に帰っておいてくれないか?」

「私も一緒に行きたいんですけど、サグルさん一人の方が見つかりにくいですもんね」

「あぁ」

忍者のジョブには気配を消す『隠密』や周りの非生物になりきる『擬態』、周りの生物になりきる『変身』みたいな隠れるのに適したスキルが多い。

これらのスキルは一人用で、一緒にいるメンバーは対象にならないのだ。

レベルを上げていけば『隠密』あたりはパーティメンバーを対象にできそうな感覚があるのだが、今は無理だ。

追跡対象が斥候系のジョブの朱莉である以上、京子がいない方が見つかりにくいだろう。

「わかりました。晩御飯作って待ってますね。その代わり、何があったかはちゃんと報告してください」

「わかった」

俺は京子にそう告げると、『隠密』のスキルを発動して、朱莉の後を追う。

「あんまり遅くなっちゃ嫌ですよ」

「わかってる」

京子は俺の背中に向かってそう声をかけてくる。

俺が振り返ると、京子は満面の笑みで手を振ってくれた。

え?

俺のこと見えてる?

『隠密』スキルはちゃんと発動してるのに。

「……」

今、確認していると朱莉を見失ってしまう。

後でどうだったのか聞いてみよう。