電子書籍特典 巡礼のためのファッションショー


「さぁ、マリー! 今日は巡礼のためのファッションショーよ!」

 カトリーナがフェルネットさんと一緒に元気よく部屋に入ってきた。

「洋服の事ならカトリーナに聞くのが一番かと思ってさ」

 フェルネットさんは両手に大荷物を抱え、気まずそうに笑っている。

「もちろんですわ、フェルネット様。すべて私にお任せくださいませ!」

 カトリーナってば、めちゃくちゃ気合入ってるけど大丈夫なのかな?

 私はフェルネットさんの抱えている荷物を受け取りながら、苦笑いをするしかなかった。


「この服にはこの靴とこの帽子、こっちのワンピースにはこのストールを付けて……」

 カトリーナの指示に従い、フェルネットさんと二人で服を壁に掛けていく。

 どの服も肩のあたりに特徴が……。

「ねぇ、この肩のフワフワって流行ってるの?」

「そう! 今年の流行は、控えめだけど主張されたこのふんわりの肩!」

「控えめで主張……。なんて複雑な」

 私は思わず肩をすくめた。

 まぁ、膨らみすぎていないパフスリーブの服がこれだけ揃えば、言いたいことは分かるけど。

「それに、細身のシルエットが流行ってるからね」

 フェルネットさんが手に持った、腰の辺りが絞られたワンピースをひらひらさせた。

「みなさんお詳しいですね。私はその辺のセンスは一切分からないもので……」


 そもそも現代社会の多様なデザインを知っている私からすれば、どれも同じに見えてしまう。多少のふんわりだとか光沢だとか、レースの使い方がどうだとか、言われなければ気付かないような流行など、間違い探しに等しいのだ。


「マリーはいつも、最先端の服を着ているじゃない。ねー、フェルネット様?」

 フェルネットさんもうんうんと頷いている。

「もしかして、今着ているこの服も?」

「もちろんよ。ちゃんと流行を抑えているわ。特にこの袖の開き具合が……」

 噓でしょ。たまに新しくされていた聖女の服が、勝手に流行を追っていたなんて。マイナーチェンジ過ぎて気付かなかった。季節ごとに布が違う程度の認識だったのに。


「さ、並べ終わったし、端から試着! 試着!」

 服と靴を押し付けられて、奥の小部屋に押し込まれた。

 元々ジャージ派の私は素材と動きやすさ、そしてファスナーのスムーズさが命だったのに。

 ブツブツ言いながら裾がひらひらしているワンピースにヒールを合わせて部屋を出た。


「きゃー、可愛い!」

「似合ってるよー」

 二人は手を取り合ってキャッキャしている。

「このペンダントはどうかしら」「このリボンも似合いそうだよね」

 更に小物まで選び始めて部屋は足の踏み場が無くなった。

 ふと、琥珀糖のような淡いオレンジピンクの宝石に目が留まる。曇りガラスのようなその宝石は、とても甘くておいしそう。こっちの世界には琥珀糖なんてあるのかな?

「ねぇ、カトリーナ。ケーキにも流行とかあるの?」

 私の言葉に二人は同時に振り返る。

「もちろんよ!」「もちろんだよ!」

「へー、知らなかった」

「噓でしょ? 王都女子に人気のカフェにも行ってないの?」

「行ってない、行ってない。研究所と家の往復だし」

 私が首を振るとカトリーナは目を丸くした。


「パステルガーデンっていってね、店内が淡いピンクや水色で可愛いの。出てくるケーキもとーっても可愛いんだから!」

「なにそれ! 行ってみたい!」

「中央公園の近くの店だよね? 僕行ったことあるよ! お花みたいなケーキを食べたんだ!」

「そう、そこ! パイもとっても美味しいのよ!」

 えー! サクサクパイ大好き!

「ほかにどんなパイがあるの?」

「マリーの好きなキルエのパイがあるよ」

 キルエ! マスカットみたいな見た目で、サクランボの味と香りの私の大好きなフルーツ!

「巡礼が終わったら絶対に行く。何が何でもキルエパイタベル」

「あはは。マリーってば、興奮して片言になってるよ!」

「うふふ。ほーんと、マリーはキルエが好きよねー」

 二人がおなかを抱えて笑っている。

 むぅ。だってサクランボが好きなんだもん。


「でも意外。スイーツ好きのマリーなら、絶対にあそこのケーキは抑えていると思ってた」

「マリーには、お爺さんの作るチーズケーキがあるからね」

「そうなの、カトリーナ! おじいさまのチーズケーキは最高なのよ!」

「なにそれ美味しそう」

 私の言葉にフェルネットさんも大きく頷く。

「すっごく美味しいよ。甘さ控えめで濃厚で。チーズケーキが苦手な僕が、大好物になったくらいなんだから」

「え? フェルネットさんってチーズケーキ苦手だったんですか?」

「あ、うん。酸っぱいのがちょっとね……」

 知らなかった。十年以上兄妹のように一緒にいたのに、ちっとも知らなかった。

「あんなに食べていたから大好きなんだと思っていました」

「お爺さんの作るチーズケーキは大好きだよ」

「私も食べたい!」

 カトリーナが次の服を私に押し付けてそう言った。



「今日は楽しかったねー」

 カトリーナが帰った後、フェルネットさんが散らかった部屋の片づけを手伝ってくれている。

「楽しかったですー! 今度はおじいさまのチーズケーキを食べる会を開きましょうよ」

「いいね! 色々な香りのお茶も揃えて、飲み比べも楽しいね」

「それ最高! あー、楽しみだなぁ」

 カトリーナも公務があるし頻繁にはお城を抜け出せない。それでも変わらず友達でいてくれることが奇跡のようだ。カトリーナが裏庭に迷い込んだあの日、勇気を出して声をかけて本当に良かった。これからも、素敵な出会いを大切にしていこう。