夜の静寂が部屋を包み込む中、私はベッドの上に腰を掛けていた。

 天蓋のレースに織り込まれた金色の糸が、シャンデリアの明かりで煌めいている。家具はすべて金色で統一され、床に豪華な金色の絨毯が敷かれていた。ここは隣国で一番豪華な部屋らしい。

 窓からの風で派手な柄のカーテンが揺れていた。


「ねぇ、スージー。この寝間着は素敵ね。とっても着心地が良い」

 シンプルな白い寝間着はとても軽く、まるで天使の羽のよう。

「ですよね。実は私もお気に入りで、同じものを持っているんですよ」

「ええ? そうなの? だったらおそろお揃いで女子会しない?」

「女子会?」

 スージーがお茶を入れながら目を丸くする。

「そう、女子会。お揃いの寝間着で、女子でしか出来ない話をするの! とっても楽しいから、早く、早く」

 私はスージーからポットを奪い取ると、部屋から追い出した。

 うふふ。やっぱり女子会しないと、ストレスが溜まってお肌に悪い。それに、この国の魔宝石の話も聞きたいし。どうせ来るなら勉強してから来たかったなぁ。


「おまたせしました……」

 ノックと共にきょろきょろと辺りを警戒したスージーが部屋に入って来る。彼女は大きなストールでぐるぐる巻きだ。

「あ、ごめんなさい。ここで着替えて貰えば良かったよね」

「いえ、私も部屋を出る時に気付いたのですが、面倒で。うふふ。帰りの着替えはここに……」

 スージーが肩をすぼめて、袋に入った着替えのメイド服を開けて見せた。

「さぁ、早くここに座って、座って。女子会では身分なんて関係ないの。だからお茶は私が淹れるね」

「え、いや、それは……」

 そう言いながら、彼女はストールを外してベッドに腰を掛けた。


「これ蜂蜜?」

 私はトレーに置かれた丸くて赤いポットの蓋を開ける。中を覗くと艶々の琥珀色の液体で、とても甘い香りがした。

「はい、それはシルバリークから取り寄せたものですよ」

「この国の蜂蜜じゃないの?」

「隣の青いポットには、ヘンゼッタの蜂蜜が入っております。ヘンゼッタの蜂蜜はシルバリークの物と違い、とってもフルーティーなんですよ」

 話を聞きながら、青いポットの蓋を開けて香りを嗅いてみる。

「あ、本当だ! 柑橘っぽい? ハーブの香りのシルバリークの蜂蜜とは違うのね」

 私はお茶と共に、二つの蜂蜜のポットをトレーに乗せてベッドに置いた。

「聖女様のお口に合うものをと、向こうの蜂蜜をご用意したら、香りの違いに気付きました。さっぱりしてお茶に合いますね」

 スージーは自分のお茶に、赤いポットから蜂蜜をひと匙入れてかき混ぜる。すぐにハーブとお茶のいい香りに包まれた。

「私はこっち」

 青いポットの蜂蜜はお茶に入れるとオレンジの強い香りが際立った。オレンジの皮が入ってるみたい。さすが異世界なのか、これが普通なのか。

 二人で熱いお茶を一口飲んでホッとした。


「ねぇ、この国の魔宝石の話を聞かせてくれない?」

 私は枕を抱え、スージーにもいくつか渡す。彼女も私の真似をして、枕を抱きかかえた。


「そうですね……。私が好きなのはエターナルエメラルディア。幸せの宝石って呼ばれています」

「なにそれ素敵」

「伝説ですけどね。聖女様の瞳のような、とても濃い青緑の魔宝石なんですよ」

「へぇ……どんな伝説なの?」

 するとスージーは枕を抱えなおし、私におとぎ話を聞かせてくれた。


 ──昔々、エメラルドグリーンの美しい海に囲まれた王国に、愛し合う若い王子と姫がいました。王子は戦地へ旅立たなければなりません。姫は王子の無事を祈り、海と同じ色の魔宝石を贈ります。彼女はその石を『エターナルエメラルディア』と名付けて永遠の愛を誓いました。

 戦地で王子は何度も危機に陥りましたが、その度に魔宝石が光り輝き守ってくれるのです。姫の愛の力だと王子は確信しました。

 帰国した王子はその魔宝石を指輪に仕立てて姫に贈ります。二人は幸せに暮らし『エターナルエメラルディア』は、持ち主に永遠の幸せと繁栄をもたらすという伝説になりました──。


「えー、素敵なんだけど!」

「まぁ、おとぎ話だから色々と突っ込みどころは多いけど、でも素敵な話ですよね」

 彼女は照れ臭そうに苦笑いをする。

「結構しっかりとしたお話だと思う。伝説なんて無茶苦茶な話が多いじゃない」

「ですよね! 『ナイトメアルビー』の伝説なんて、悪夢がルビーの中に閉じ込められて青くなったとか言うトンデモ話なんですよ!」

「えー、怖い話じゃないの?」

「とんでもない。深い青のルビーを覗くと、中でお化けがグータラしてるって話なんですよ。仕事しろって思いましたもの」

「なにそれ面白い。お化けの引き籠もり?」

「そう、そう。悪夢のお化けたちがお茶したりカードゲームで暇つぶしですよ」

「ははは、どんな伝説よ」

 私たちはお腹を抱えて笑い合った。スージーはそれからも、色々なトンデモ伝説を話してくれる。久しぶりに大笑いして、いつのまにか疲れて二人で寝ちゃってた。


「聖女様、朝ですよー」

 翌朝のスージーは、メイド服にしれっと着替えて私を起こしてくれた。

 なんて要領がいいのかしら。


 なんとなく、スージーとの友情は一生続きそうな予感がする。

 エターナルエメラルディアの伝説のように永遠に。

 そんな素敵な朝だった。