幹部会 教皇様視点
マリーが攫われて二日目の朝。昨日招集した幹部会がこれから始まろうとしている。
この開催の速さは異例じゃ。聖女に対する彼らの忠誠心とでもいうのであろうか。
「静粛に! 静粛に!」
目の前の円形スペースに立った議長の声が、部屋中に響き渡る。
ここは中央棟の横にある別棟の会議室。この部屋はすり鉢状になっており、席が段々に配置されている。教会本部の重要な会議は、すべてこの会議室で行われていた。発言は、すべて手元の白い札を挙げてから。低い席ほど発言権が高くなる。
そしてわしとモーラス司教は、一番狭い、一番下の席にいた。
「教皇様、ご挨拶を」
わしは片手を上げて立ち上がり、一人一人の顔を見回した。
「急な招集にもかかわらず、皆、よく集まってくれた。感謝する」
わしが席に着くと、議長は一歩前に出る。
「本日は教皇様からの緊急招集です。議題は聖女様の救出。それでは現状を説明いたします……」
議長は、マリーが毒を受けて攫われたこと。黒幕が隣国の第一王子の可能性、王城にいる可能性、第二王子の関与の可能性。これらすべての確証がないこと。この情報は聖女の妹からであったこと。賊を追いかけたハートからも情報が届いたことなど、今分かっている情報を次々と述べていく。
「どれも確証がなく可能性ばかりでは動きようがありませんよ」
「王族が絡むなら、慎重になるべきでは?」
「臨時の聖女救出部隊を結成すべきです」
「いやいや第二があるだろう」
「今現地に向かっているハート様を隊長にして、第二を指揮下に入れたらどうでしょう?」
白い札が次々と挙がっていく。
「わしからも一つ……」
わしが白い札を挙げると、皆が自分の札を下ろした。
「聖女警護隊所属のハートに〝神の託宣〟を発行することを提案したい」
会場全体がざわついた。幹部たちはわしの言葉に戸惑っている。
それもそうじゃ。〝神の託宣〟が発行された者には、神と同じ権限が与えられる。所有者に逆らう者は、神の名のもとに断罪されるのだから。
「私に異論はありません」
隣に座るモーラス司教がゆっくりと札を挙げる。その動作は揺るぎない。
「お待ちください! 司教様!」「司教様までそんな!」「所属したばかりの彼にそれは……」
幹部たちは一斉に札を挙げ、会議室は騒然となった。〝神の託宣〟の発行に、賛成派と反対派、慎重派に分かれ、激しい議論が交わされていく。時間が経つにつれ、彼らの顔に疲労の色が浮かんだが、席を立つ者は一人もいない。朝から始まった幹部会は、緊張が途切れることなく夕方まで続いた。
決議の結果は以下の通り。
・教会内は厳戒態勢を敷き、教会所属の者以外は立ち入り禁止。私服職員や使用人も出入り不可。
・第一聖騎士団は教会本部の警備に当たる。
・第二から第五聖騎士団で聖女救出部隊を結成する。
・聖女警護隊所属のハートを聖女救出部隊の隊長に任命し、〝神の託宣〟を発行する。

わしとモーラス司教と議長の三人で、教会の地下金庫に向かっていた。いくつもの厳重な扉をくぐり抜け、冷たい空気が肌に触れるたびに緊張感が高まっていく。この金庫には教会の秘宝や機密文書などが保管されていた。幾何学模様の扉には、縦に三つの魔宝石が付いている。この扉を開けるには、わしら三人の魔力が必要なのじゃ。
「それでは教皇様から……」
「うむ」
わしは一番上の魔宝石に魔力を流し込む。石が
「次は私が……」
モーラス司教が魔宝石に手を当てると黄色く光る。
続いて議長が魔力を流す。魔宝石は黄緑色に光った。
ガシャガシャと扉の模様が縦横に動き出し、最後のパーツが綺麗に嵌まると、分厚い扉が音もなく開く。金庫の中は広い部屋になっており、わしらは一番奥の棚に置かれている平たい箱の前に進んだ。
「教皇様、この場で〝神の託宣〟を発行してください」
「うむ」
二人が見守る中、平たい箱から四角い石板を取り出し教皇印を押しあてる。するとその石板の上に〝神の託宣〟がふわりと現れた。見た目は白い一枚の書状じゃ。
「こんな風に現れるのですね。初めて見ました」
「私もです。どうやって取り出すのですか?」
議長が横から手を出して、摑もうとしても摑めない。
「ふぉ、ふぉ。今はわしにしか
議長が懐からカードを取り出して渡してくれる。そこにはハートの名前が刻んであった。
〝神の託宣〟にカードを当てると、ホワンと白く光ってゆっくりと消えた。
「これで終了じゃ。これを所有者が持てば、先ほどのように反応する」
二人は興味深そうに、わしの手元を覗き込む。
「反応? 光るのですか?」
「そうじゃ、ハートにしか反応せんよ。さ、さ、早くここを出るのじゃ」
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ハートよ、賊がマリーを連れ去った。
おぬしを聖女救出部隊の隊長に任命する。
教会本部の第一を除いた全聖騎士団を指揮下に入れよ。すでにそちらに向かわせた。
同封した〝神の託宣〟を託す。これは所有者の魔力にしか反応しない。
隣国の教会とも連携しハートに情報が回るよう手配してある。
敵に情けはいらん。判断は任せる。最善を尽くして聖女を救え。
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まだ、裏の取れていない情報は伏せることにした。まぁ、あやつなら上手くやるじゃろ。
この手紙と共に〝神の託宣〟を綿毛に付けて、夕焼けに染まる空に飛ばした。